side 沖田
いやー。今日は二人に圧勝したことで凄く気分がいいですねー。今の私なら太刀川さんにも余裕で勝てちゃうかも。
そんな事を考えながら、私が米屋さんと緑川君の試合を観戦してソファでいつものように寝そべっていると、誰かから呼ばれる声が私に届きました。
「おっ沖田じゃないか」
「はいはい沖田さんですよー………って、嵐山さん。こんなところにいるなんて珍しいですね」
「付き添い、でな」
「付き添い?」
私を呼んだのはA級5位の嵐山隊隊長、嵐山准さんでした。この人は絵に描いたような爽やかさを持つ人物で、とても頼りになるんです。
若干ガンナー寄りのオールラウンダーなため、あまりこう言ったランク戦に顔を出さないのですが………なるほど付き添いでしたか。
「と言うと誰の付き添いなんですか?」
「木虎だよ。ほら」
そう言って嵐山さんはランク戦を行っている隊員達が映る映像に目を向けます。
その視線を辿ってみれば………ああ。確かにいますね木虎ちゃん!まったく気付きませんでした!
どうやら木虎ちゃんはB級の人とやってるみたいですね。どこの隊の人か知りませんが、ご愁傷さまです。
それにしても………
「木虎ちゃんがいるのも珍しいですね。嵐山隊はいつもデスクワークやらマスコミの対応で、とても忙しいイメージがあるんですけど?」
「まあこう言った気分転換をしたい時もあるさ。それに、沖田も人のこと言えるか?」
「あはは………」
嵐山さんに悪気はないんでしょうけど………正直その話は止めて欲しいんですよねぇ………。
何故か知らないのですが、私も嵐山隊と同じでボーダーの顔に少しばかり参加しているんですよね。この隊員服が珍しいのか、根付さんにどうしてもと頼まれてメディア露出したんですが……………その役割がモデルって。
沖田さんより可愛い人なんていっぱいいるのに、その人達を差し置いてモデルとか恐れ多すぎですよまったく!
そんな事もあってあんまり触れて欲しくないんですよねー……
「そ、それよりも!最近、突発的なゲートの発生が多いようですけど、大丈夫なんですか?特に警戒区域外が多いって聞いているんですが」
「大丈夫、とはいかないな。開発部の方も頑張っているが、まだ原因を突き止められていない。そのためにも一層俺達が市民の人達を守らなくちゃいけないからな」
おおー。相変わらず言動がイケメンで爽やかですねー。沖田さん、この人と顔を会わせる度に思い知らされますよ。
そんな風に私達が最近の近況の報告や雑談を繰り返していると、どうやら木虎ちゃんの方があのおバカさん達より先に戦闘を終わらせたようですね。
ブースを出て此方に向かってきてます。
「お待たせしました嵐山さん。それと………こんにちは沖田先輩」
「こんにちは木虎ちゃん。相変わらず沖田さんに他人行儀ですねー」
「ちゃ、ちゃん付けしないで下さい!」
ううむ………木虎ちゃんは真面目なんですけど、いつも私や他の先輩方に対して素っ気ないんです。何故なんでしょうか?以前聞いても軽く無視されちゃいましたし。
「嵐山さん、そろそろ行きましょう。今日はまだ仕事が残っていますし」
「ん?確かにそうだな。悪いな沖田。俺達そろそろ行くよ。陽介と駿に宜しくな」
「わかりました」
二人は私に挨拶を告げるとロビーから出ていきました。多分、残っている仕事を片付けに嵐山隊の作戦室に向かったんでしょう。
……………………暇ですね。おバカさん二人は未だに戦闘してますし。巡回は終わってしまいましたし。もう帰りましょうか?
……………帰りましょう!
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あの二人を置いて帰ってから翌日。今日も今日とて巡回廻りをしています沖田さんです。花の女子高生の筈が仕事三昧とは………沖田さん、もしかして出来る女ってやつですかね!?
『ーーーーーーーーーー!!』
おっとゲート発生のようですね。
「綾辻さーん。発生場所は何処ですか?」
綾辻さんとは嵐山隊のオペレーターで、ボーダーのマドンナ的人です。メチャクチャ美形なんですよねー。
そんな綾辻さんが今日の私の担当なんですが、どうやら結構ヤバイ感じですね。切羽詰まった声が通信から聞こえてきました。
『川の上に発生したようなんだけど………不味いわ。新型、しかも空中を移動する爆撃タイプみたい!民間地域を強襲している!』
「わかりました。すぐ向かいます」
どうやら今回のトリオン兵は警戒区域外に出現してしまったようです。急がないと。
私はいつものようにグラスホッパーを連続で使用することで超スピードで移動していきます。
ただ警戒区域外、しかも川の方となると少し時間が掛かってしまいますね。
トリオン兵の居場所まで近づいていると、再び綾辻さんから連絡が入りました。
『総ちゃん。今、藍ちゃんが新型と交戦しているみたい。援護してあげて』
「了解しました。私もそろそろ着きます」
大分近くなったことで、私からも黙視でトリオン兵を確認できました。あれが新型の爆撃型ですか………。
木虎ちゃんが交戦していると聞きましたが、ちょっと不味いですね。私のサイドエフェクトがびんびん警戒してますよ。
こういう時は経験上、絶対何かあるんですよねー。
『総ちゃん!その新型今すぐ倒せる!?藍ちゃんからの情報によると、その新型がまだ避難の完了してない地域に突っ込んで自爆しようとしてるみたい!』
「うぇ。自爆ですか。初めてですよそんな敵倒すの。まあ、わかりました。沖田さんにお任せあれー」
やっぱりヤバイと思ったんですよねー。さっさとあのデカブツ倒しちゃいましょうか。
私は鈍重な動きで飛翔する新型の前まで高度を上げながら近付いていきます。どうやら弱点である目を閉じているようですが、関係ありませんね。
「我が剣にて敵を穿つ………!」
グラスホッパーを使いトップスピードのまま新型に突っ込み、その勢いを利用して『旋空』の突きを放ちます。弱点である目があるだろう位置に向かって伸びる私の刃は、その新型を貫通させました。
どうやら上手く目を穿ったようで。トリオンを大量に漏出させると、空中で爆発しました。
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side 木虎
クソッ、クソッ!
私がいくら攻撃してもこの新型の自爆を止めることが出来ない。倒すことは出来たのに………このままだと民間人に被害が……!
私が新型を止めようと躍起になり、スコーピオンや銃で攻撃するも、この新型のトリオン兵はまるで私を嘲笑うかのようにどんどん民間地域へと移動していく。
それを見てさらに焦るといった悪循環を私が起こしていると、綾辻先輩から通信が入った。
『藍ちゃん!今そっちに総ちゃんが向かってるから援護お願い!』
「沖田先輩が………?でもこの状況だとどうしようも………」
綾辻先輩の通信を聞いても、私の不安と焦りはまったく晴れなかった。なにせ、この新型は唐突に恐ろしく堅くなったのだ。さっきまではそこまで固くなかったのに、だ。
多分自爆するためにトリオンを硬度に割り振っているのだろう。
今更この状態で来て貰っても対策の仕様がないのだ。
だからこそあり得ない現象に、私は最初ソレが何か認識できなかった。
唐突にトリオン兵の頭部に一瞬だけ生えた、見覚えのあるブレードを見て、不覚にも硬直してしまったのだ。すぐに事態を思い出した私は頭を振ると、今見た光景について考える。
あのブレードは、確か旋空弧月の拡張されたブレードのはずだ。
それがこの新型を貫いていたと言うことは、つまり。
「この硬度のトリオン兵を倒したってこーーーーー」
私が呆然と呟きが洩れてしまう中、最後までその呟きは言うこと叶わずに、視界が真っ白に染まった。
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side
「あちゃー………木虎ちゃんも爆発に巻き込んじゃいましたねー」
ベイルアウトしていく木虎を眺めながら、総司は少し申し訳なさそうに呟いた。
切羽詰まった事態だったとは言え、一言木虎に報告すればよかったと悔いているのだろう。
「ただでさえ嫌われぎみなのに………これは本格的に嫌われちゃいましたかねー……」
『総ちゃんお疲れ様。この後、他の隊員も来るみたいだけど、被害にあった民間人の誘導と保護もお願いするね』
「了解です」
綾辻から入った通信に、落ち込んでいてはいられないと思い直した総司は、地上に降りて民間人の保護に動き出したのだった。