鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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バレンタイン(2)

 バレンタイン当日。事務所ではアイドル達のチョコ交換会が行われていた。

 私もその交換会に参加しなければならない。とりあえず、プロデューサーさんとちひろさん、それと仲の良いアイドルの皆さんと千秋くんがお世話になった皆さんに渡す予定です。

 まずはロビーの自販機の前に向かった。ここで大抵のアイドルはコーヒーなりジュースなりお茶なりを飲んでるので、大半は渡し終えられそうだ。

 まずはカウンター席に座ってる3人組に声を掛けた。

 

「……卯月さん、美穂さん、響子さん」

 

 渡す予定があったのは、私に千秋くんが告白する日のデートのための私服選びでご迷惑をかけた卯月さんだけだけど、他のお二方もせっかく一緒にいるので渡しておきましょう。何だか一人にしかあげないのは感じ悪いですし、多めに作っておきましたから。

 

「っ?あっ、文香さん。ハッピーバレンタインです!」

 

 同性である私から見ても輝いて見える笑顔で、卯月さんがチョコレートをくれた。

 美穂さん、響子さんからもチョコも受け取り、紙袋の中にしまった。

 私からもチョコを渡すと美穂さんが楽しそうな表情で聞いて来た。

 

「文香さんのは手作りですか?」

「……はい。一応……」

「美穂ちゃん、当たり前ですよ。文香さんには彼氏がいるんだから」

「あ、そ、そっか」

 

 響子さんが微笑みながら仰って、私は顔を赤くして俯いた。そういう風に言われると恥ずかしいですね……。

 

「あ、文香さん。彼氏で思い出した」

 

 そう言うと卯月さんが鞄からもう一つチョコを取り出した。

 

「彼女さんにこんなこと頼むのもアレだけどさ、鷹宮くんにこのチョコ渡しておいてくれませんか?」

「……へっ?」

 

 キョトンと小首を捻ってしまった。別にもらえることに驚いたわけではない。卯月さんの手元にあるチョコは手作りではなく、買ったものだった。

 

「……これ、買ったものじゃ……」

「本当は手作りが良いかなって思ったんだけどね。文香さんがいるから、私は手作りじゃない方が良いかなって思って」

 

 そっか……。わざわざ私に気を使って……。

 

「……すみません、私なんかにお気を使わせてしまって……」

「ううん。いつもレベリングお世話になってますし」

 

 ああ、そういえばそうでしたね。まぁ、手作りではないようですし、受け取っておきましょう。いや、多分手作りだったとしても受け取ってしまうかもしれないけど。

 

「……わざわざありがとうございます。それでは、私はこれで」

 

 小さくお辞儀をしてその場を離れた。他にも渡さなければならない人は多い。

 続いて合流したのは修学旅行でご迷惑をかけたトライアドプリムスの皆さんた。

 

「あ、文香ー」

 

 加蓮さんが気付いて小さく手を振って来た。私も小さく会釈をして挨拶し、鞄の中からチョコの包みを三つ取り出した。

 3人も同じようにチョコを用意してくれた。

 

「はい、文香さん」

「ハッピーバレンタイン」

「それと、こっちも鷹宮に渡しておいて」

 

 3人とも、千秋くんにチョコを用意しておいてくれていた。本当に申し訳ないです。

 

「……すみません、みなさん。これは私からです」

「ありがとう」

 

 3人にチョコを配った。そういえば、前に凛さんが彼氏さんと喧嘩した時に相談に乗ってあげましたっけ……。奏さんに、千秋くんの下着を盗んだのを本人にバラすと脅されて。

 私も用意した方が良かったかもしれません。

 

「……すみません、私は水原さんの分をご用意してないのですが…」

「あーいいよいいよ。ナルには私入りチョコ渡してあるから」

「……凛さんが、入ってるのですか?」

「何でもない」

 

 血でも入れたんでしょうか?……あ、今更ですけど私の身体にチョコを塗っても良かっ……いや、良くないですよね。何を考えてるんでしょうか私は。

 

「文香さん?なんか顔赤いぞ?」

「ーっ!な、なんでもありませんよ⁉︎あはっ、あははっ……」

 

 奈緒さんに言われて何とかごまかした。ま、まぁ、その、何というか……私は顔に出やすいみたいですし、そういう妄想は家ですることにしましょう。

 

「……あれだね、凛もだけど彼氏が出来ると女って変態になるんだね」

 

 加蓮さんがボソッと遠い目をして呟いた。

 

 ×××

 

 更に色んな方々の元にチョコを渡して回った。けど、なんででしょうか。同数ならともかく、チョコが増えていくのですが……。なんか私が関わりを知らない人にまでもらってて、千秋くんはどれだけのアイドルと関わって来たんでしょうか。

 まぁ、でも後は李衣菜さん、ありすちゃん、奏さんの3人だけだから、千秋くんがもらえるのは想定できるから、ようやくホッと出来る。

 ……にしても、少し千秋くんにはキツく言うべきかもしれません。もう少し女の子と関わるのは避けて欲しいものです。

 

「あ、おーい!文香さーん!」

 

 李衣菜さんが元気良く手を振ってるのが見えた。鞄の中をゴソゴソと漁りながら駆け寄ってきて、チョコを渡してくれた。

 

「はい。これ、鷹宮と文香さんのチョコ」

「……あ、はい。ありがとうございます」

 

 ……あ、今日初の千秋くんへの手作りチョコだ。というか、今更だけど李衣菜さんは他の方と違って、千秋くんとは……こう、ら、ラブコメ?的な出会い方をしていますよね……。

 偶然、修学旅行先が同じで、ホテルの中で落し物を拾い、お互いに同じ境遇の中で再会して、雨が降ってきて靴を濡らさないためにおんぶまでしてあげている。

 万が一、私と千秋くんが出会っていなかったら、李衣菜さんとお付き合いしていたかもしれない。

 

「………」

「……文香さん?」

 

 でも、そんな事聞いても私に何かできるわけじゃないですよね。仮にそうだとして、私が何か言ったところでそれは煽っていることになるのは人の気持ちに疎い私でもわかります。

 だから、ここは何も言わずに受け取っ……。

 

「いやー、私最近彼氏ができて、ついうっかり作り過ぎちゃったんですよー。だから2〜3個くらいもらってくれませんか?」

「………」

 

 全然何でもなかった。

 自分の深読みがとても恥ずかしくなり、チョコだけ交換してその場を立ち去った。

 

 ×××

 

 残りのありすちゃんと奏さんにもチョコを配り終え、いよいよ帰宅。まぁ、今更千秋くんにチョコを渡すくらいじゃ何も緊張はしない。

 だから、チョコレートの味がちゃんと好みに合ってるかーとかで緊張してるのは気の所為だと信じたい。今日も千秋くんは私の部屋で晩御飯を作ってくれている。

 ……千秋くんのために持ち帰ったチョコレートは本人に渡したくない、なんて思ってしまうのは、いけないことでしょうか。皆さんが私に気を使って手作りではなく、わざわざ別に買って来たものをくれたのに。私という人間はつくづくわがままで独占欲が強いらしい。

 まぁ、千秋くんにはちゃんと差し上げますけど。

 

「……はぁ」

 

 そんな自分に嫌気がさす。やっぱり私のチョコにも涎か何か入れておけば良かったでしょうか。まぁ、ありすちゃんのお陰で好みは知れたんですし、それで満足するべきでしょうけど。

 ……いや、いろいろと考えるのはやめましょう。部屋に帰って千秋くんと温かいご飯を食べて、デザートに大量のチョコを食べれば良いですよね。

 そう考えたところで、ちょうど自分の部屋の前に到着した。……そういえば、千秋くんは皆さんの手作りチョコを望んでましたっけ。まぁ、それは説明すれば許してくれるでしょう。

 

「……ただいまー」

「あ、おかえり。ご飯にする?お風呂にする?それとも……」

「千秋くんで」

「冗談だから遮るのやめろ」

 

 正直、初エッチ以来、全然何もしてないので欲求不満ではあります。男の子の癖にヘタレですからね……。

 

「……では先にご飯をいただきますね」

「了解」

 

 ……ソワソワしながら私の片手の紙袋を何度もチラ見して来てる。そんなにチョコが気になるかな。

 

「……千秋くん、ご飯」

「はっ、はいはいっ。あ、コート預かるよ」

「……ありがとうございます」

 

 私のコートをハンガーに掛けに行ったのを見ながら食卓に座ると、机の上にはとても上品に仕上げられたお寿司が並んでいた。

 

「……千秋くん、出前でもとったんですか?」

「いや俺が作った」

 

 ……どこまでチョコが楽しみだったんでしょうか。普通、お寿司なんて握れますか?少なくとも形だけは完璧に見えますよこれ……。マグロ、サーモン、するめイカ、中トロ、えんがわ、ネギトロ軍艦、馬肉、牛肉……って、馬肉に牛肉⁉︎何処まで本気出してんですか⁉︎馬肉に至っては何処に売ってるんですか⁉︎

 

「………あの、お寿司ってこんな簡単に……」

「なんか見よう見まねで。なんつーか、人間やろうと思えば出来ないことってないんだな」

「………」

 

 確かに千秋くんは本気出せば何でも出来るタイプの人ですが……。いや、ツッコミを入れるのも阿呆らしいし、放っておきましょう。

 晩御飯を食べ始めた。箸でお寿司を摘んで一口いただいた。

 

「………お、おいひい……」

「だろ?いやー、ついうっかり作り過ぎちゃってなぁ!いや、全然バレンタインは関係ないけど!」

 

 なんてわかりやすい……。一周回って可愛く見えてきましたね……。

 

「……千秋くんはそんなにバレンタインでのチョコが楽しみだったのですか?」

「い、いやいやいや、そんなまさかぁ!」

「……私のチョコだけでは満足出来ませんか?」

「へっ?いやいや、文香のチョコと周りのチョコを比べるのはね、俺が文香と他の女の子どっちが好きかを比べるのと同じ事だからね」

「ーっ、そ、そうですか……」

 

 分かりにくいけど……つまりは私のチョコが一番嬉しいって事ですよね……。

 相変わらず、捻くれた褒め方しか出来ないんですから。けど、その一言でチョコを渡す気になってしまう私も単純な子かもしれない。

 

「……皆さんからチョコをいただきましたが」

「まっ、マジで⁉︎いや全然嬉しくないけど!ど、どのくらい?」

「ザッと20以上」

「………えっ、に、20……?多くて7〜8個だと思ってたんだけど……」

「……全部食べましょうね。李衣菜さんとありすちゃん以外の皆さんは、私に気を使って、わざわざ手作りではなく購入して下さったんですから」

「よし、それは全部溶かしてチョコフォンデュにしよう」

「……千秋くん」

「いやいや!20個もチョコ食えないでしょ!虫歯になるし鼻血出るし太る!」

「……まぁ、チョコフォンデュ美味しいですし良いですけど……」

 

 そんな話をしながら、二人で食事を進めた。

 そして、それと共に私は一つの決心を固めて行った。

 

 ×××

 

 食事が終わり、今日はうちに千秋くんは泊まっていくことになった。今はお風呂に入っている。

 私は先に布団に入ることにしていて、ベッドの中で本を読んでいた。

 

「ふぅー……よし、寝るか文香」

「……はい」

「あ、その前に……はい、これ」

 

 千秋くんが何か袋を渡してくれた。中には紙に包まれた箱が入っていてる。

 

「……これは?」

「文香なら絶対チョコをくれると思ったから。俺からもバレンタインって事で」

「……開けても良いですか?」

「……んっ」

 

 中を開けると、ヘアバンドが入っていた。青っぽい紫色のヘアバンド。

 ……本当に、この人のこういう所は狡い。

 

「……千秋くん、バレンタインデーにはお返しの日として、ちゃんとホワイトデーというものがあるのですよ?」

「だから、それは俺からのバレンタインデーだっつの」

「………まったく」

 

 若干、照れてるようで頬を赤く染めた千秋くんは布団をまくった。直後、顔を真っ赤に染めた。下着姿の私が露わになったからだ。

 

「………はっ?」

「……千秋くん、チョコばかりではなく私を食べて下さいませんか?」

「……おまっ、マジか……」

「……良いじゃないですか、バレンタインデーくらい。恋人同士がロマンチックな思い出を作るには良い日だと思いますよ?」

「……ロマンチックっつーかエロチックだろ」

「……うるさいです。それで、どうするんですか?」

「……後悔しても遅いからな」

 

 このあと、滅茶苦茶セッ

 

 


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