鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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どんな時でも冷静さは失わず、自分を客観的に見る術を身につけよう。

 部屋の掃除のサボりがバレ、文香にドミネーター型エアガンで脅されながら掃除を終えた翌日、俺は文香と一緒に駅前に来ていた。まぁ、目的は一つしかないよね。

 

「お待たせ、鷹宮くん、文香さん」

「ああ、三村さん。別に待ってないよ。ベルファストと無双してたし、なんなら夢想してたまであるから」

 

 いやー、育てる事に熱中しててストーリー全然やってなかったんだなー。ボスクラスの相手を台所の汚れより歯ごたえ無くぶっ潰していく銀髪メイドさんマジ可愛い。

 

「………千秋くん?何を夢想していたのですか?」

「いえ、なんでもないです」

 

 後ろから氷のオーラを醸し出して文香が言ったので慌てて黙った。相変わらず、ラスボス街道一直線な文香だなぁ。どのゲームでもラスボスはれるんじゃないかこの人。

 

「ていうか、文香だってキリトでいつも妄想してるんだから別に怒らなくても………」

「…………」

 

 え、なんでそこで急に頬を染めるの?恋してるの?キリト殺そう。

 

「あっ、キリトさんってアレですよね?文香さんがよく、奈緒ちゃんや比奈さんと一緒に鷹宮くんとのB……」

「わ、わーわーわー!早くケーキ食べに行きましょう!二人とも!」

 

 B………?なんだろ。俺とあのムカつくリア充が一緒にしてBから始まるもの………。

 

「………BBQか?」

「考えなくて良いですから!早く行きましょう千秋くん!」

 

 との事で、ケーキバイキングに向かった。まぁ、年末にこんな所に来るのはどうなんだろう、とか考える事は色々とあるが、俺が奢ると言った以上は仕方ない。

 近くのケーキバイキングに到着し、入店した。お支払いは後らしいので、さっさと席に座って二人に言った。

 

「じゃ、好きなもん取って来いよ。俺待ってるから」

「うん」

「………よろしければ、千秋くんのものを取ってきますが」

「良いよ別に」

「………そうですか?では……」

 

 二人がケーキバイキングに向かい、俺は一人でスマホを取り出した。暇なので、種火周回する事にした。ほんとはベルファストと出撃したい所だが、燃料がないんです。許して下さい。

 両儀式で暴れてると、「あれっ?」と聞き覚えのある声が聞こえた。ふと見上げると、多田さんと見知らぬ女性が立っていた。

 

「鷹宮じゃん、何してんの?」

「FGO」

「………ケーキ食べなよ」

「いや、他二人がケーキ取りに行ってるから席を死守してるんだよ。いわば、これは防衛任務だ。これ以上にないほどの重要な仕事だぞ?」

「いや大袈裟だし……」

 

 すると、隣の女の子が多田さんの肩を叩いた。

 

「この人は?」

「ん?前に話した修学旅行先でおんぶしてくれた人」

「ああ、この人が例の彼女がいなかったら彼氏にしても良かっ」

「ちょっとそれは人前で言うことじゃないから黙ってお願いみくちゃん!」

「むぎゃっ⁉︎」

 

 口を塞がれるナントカさん。イチャイチャしてないで紹介するか立ち去ってくれねーかな。

 すると、多田さんが俺達の隣、つまり三村さんの席に座り、もう片方は俺の隣に座った。

 

「ね、せっかくだから一緒に食べても良い?」

「返事する前に座っちゃってるね。別に良いけど」

「やったね。みくちゃん、ここにしようよ」

「へ?でも、鷹宮チャンも誰かと一緒に来てるんじゃあ……」

「大丈夫だよ、鷹宮の知り合いなんてどうせ……」

 

 そう多田さんが言った直後、文香と三村さんが戻って来た。それを見るなり唖然とするみくちゃんとやら。

 

「……お待たせしました、千秋くん……あら?」

「あれ、李衣菜ちゃんとみくちゃん?」

「……………」

「ね?私達の知り合いでしょ?」

 

 ていうか、鷹宮チャンってなんだよ。なんでいきなり馴れ馴れしくなってんの?別に良いけど。

 久々にJKみたいな奴と会ったな、そう思ってると、轟ッと嫌な風が吹いた。文香が、お得意の笑ってない目を俺に向けていた。

 

「………ふふふ、千秋くんったら。少し目を離した隙にこれですか?」

「いや、違うんですよ……。別に俺から声かけたわけじゃ……」

「そ、そうそう、文香さん。今回は私から声かけちゃったの。ごめんね?」

 

 多田さんがすかさずフォローしてくれた。こういう所は良い人だなこの人。

 

「? どういう事にゃ?」

 

 えっ、今「にゃ?」って言った?いや、それより言うわけにはいかない。何とか誤魔化さないと。

 

「ああ、あー……」

 

 困った顔で多田さんが俺に目を向けてきたので、俺は三村さんに向けてサインを送った。左肩、左肘、左手首を順番に触った後、帽子のツバを触るフリをし、最後に左耳たぶに触れた。

 直後、三村さんは微笑みながらフォローに入った。みくちゃんの隣に座り、耳元で何か囁いた。

 

「………文香さんは、鷹宮くんの事が好きなんだよ」

「にゃっ⁉︎ホントに⁉︎」

 

 おい、にゃってなんだよだから。スゲェ気になるんだよ。そして痛いんだよ。ちなみに、今のサインは「誤魔化せ」のサインな。あながち嘘でもないし、何とかなるな。

 

「へぇー……ふーん……?」

 

 ニヤリとみくちゃんは文香を見上げた。うん、まぁ付き合ってるんだけどな実際。まぁ、嘘は言ってないし良いか。

 戻って来た女子二人は、文香は俺の隣に座り、三村さんは多田さんの隣に座った。………普通にアイドルに囲まれたな。慣れてる自分が怖いわ。

 で、今度は俺達がケーキを取りに行く番である。

 

「じゃ、行こうか」

 

 多田さんに声を掛けられ、俺とみくちゃんは立ち上がった。で、この人いい加減名前なんなのよ。

 ケーキを選んでると、みくちゃんが俺の隣に立った。

 

「ね、鷹宮チャン」

「なんですか。ていうか、名前教えてもらえませんかね」

「……私の名前知らないにゃ?」

「あとその猫語やめろ。メチャクチャ可愛い軽巡洋艦思い出す」

 

 うちの艦隊の中で三人目の嫁艦だからな。

 

「………可愛いなら良くない?」

「良くない。普通に話せ」

 

 自分の中の世界を周りに押し付けるのは好きじゃない。それで痛い目見てるし。主に中学二年生の時に。

 

「むー……私は前川みくです。よろしく」

「一応聞くけど、アイドルなんでしょ?」

「………ホントに私のこと知らないの?」

「知らんがな」

 

 悪かったな、知らなくて。

 

「それで、鷹宮チャン」

「何?」

「今、好きな人とかいる?」

 

 あー……そうか。こいつには文香との関係伏せてるし、そりゃそういうの気になるよな。

 

「いねーよ」

 

 この返事がベストだろう。

 

「ふーん?じゃあ好みのタイプは?」

「なんでお前に話さなきゃいけねーんだよ」

「まぁまぁ、良いでしょ別に」

「……………」

 

 むぅ、まずいな。こういう、THE・JKタイプは俺の一番苦手なタイプだ。まず間違いなく面倒臭いからな。そして絶対に逃がしてくれない。

 すると、多田さんが俺と前川さんの間に入って耳打ちした。

 

「みくちゃん、ダメだよ」

「?李衣菜ちゃん?なんでにゃ?」

「………あんまり距離近いと、文香さんが」

「………あっ」

 

 察した前川さんはふと文香の方を見た。幸い、三村さんと仲良くお話ししていたので問題無かった。

 

「ご、ごめん……」

「いや俺に謝られても」

「あれっ?」

 

 前川さんが何かに気付いたような声を上げた。

 

「………待って?鷹宮チャン、彼女いるんだよね?」

「あん?」

「………あっ」

 

 多田さんが「やっべ」みたいな声を上げた。何かある、と一発で察した俺は多田さんの肩を掴んだ。

 

「………ちょっと話があるんだけど……いいよな?」

「…………はい」

「前川さん、悪いけど先に席に戻ってて」

「え?あ、うん。はい」

 

 写輪眼を開眼する勢いでお願いすると従ってくれた。

 多田さんを店の隅に連行し、壁に追い込んだ。

 

「おい、どういう事だ?もしかして、言ったのか?俺と文香の関係」

「正解☆」

 

 直後、多田さんの後ろの壁に手をついた。正解☆じゃねぇよ、可愛いなちくしょう。

 

「っ⁉︎たっ、鷹宮っ?」

「どういう事だ。かいつまんで話せ」

「いやっ、その……それよりこの状況は………?」

「いいから話せ。返答によっては」

「………よ、よっては?」

「iTunesカード奢らせる」

「……ち、ちっさいなー……。鷹宮に期待した私がバカだった……」

 

 何を期待したのか知らないけど、とりあえず話を聞こう。

 

「別に、話したってわけじゃないよ……。ただ、その……文香さんと付き合ってることを隠しつつ、修学旅行で鷹宮と会えたことを話したってだけで………。まぁ、その……鷹宮に彼女がいるってことを言っただけ」

「なんで言ったんだよ」

 

 いや、そこからアイドルを連想する可能性なんてかなり低いが、それでも可能性はゼロではないし、俺がボッチであることもアイドルと知り合いであることも知ってるプロデューサーさんの耳に入れば「もしかしてうちのアイドルか?」となる可能性も無くは無い。

 すると、多田さんは顔を赤く染めて上目遣いで俺に言った。

 

「…………言わなきゃ、ダメ?」

「いや別に言わなくても良いけど。興味ないし。ただ、他の人にはあまり言って欲しくないってだけ」

「…………興味ない?」

「ねぇよ。思い出話しの流れでつい言っちゃったって事もあるだろうし」

「………………」

 

 ………あれ、なんで怒ってんの?どちらかというと怒るのは俺の方だと思うんだけど………。少し困惑してる時だ。

 

「…………千秋くん?」

 

 後ろから驚くほどの冷たい声が聞こえた。慌てて振り返ると、文香が俺の事を超睨んでいた。

 

「………みくさんに突然『叶わぬ恋だけど頑張ってにゃ!』と言われて来てみれば………。付き添いとはいえ、彼女と遊びに来ている中、他の女の子に壁ドンとは良い度胸してますね………?」

「は?か、壁ドン………?」

 

 改まって自分の状況を確認してみた。ホントだ、壁ドンしてたわ俺。あ、いやでも多田さんなら何とかしてくれるかも。何だかんだ速水、三村に続くフォロワーだし………。

 

「突然、鷹宮に壁ドンされて『そうさ!浮気だよ!悪いか。ははは』とか言われましたー」

 

 いや言ってねえよ⁉︎俺って多田さんには一体、どんな風に見えてるわけ⁉︎

 

「いやっ、そんな誠みたいな事は言ってな……!」

 

 言いかけた俺の肩に文香の手が伸びる。メキメキと音がするレベルで握られ、俺は店の外に引きずられた。

 このあと、店の裏の路地裏でメチャクチャ噛まされた。

 

 


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