翌日、とうとう4日目。明日で沖縄旅行も終わりな分けだが、全然感慨深くない。むしろやっと帰れるーって感じ。1日目は飛行機酔い、2日目は雨の中女の子一人背負って強歩大会、3日目はコンビニで噛んで海で覗いて電話で怒られて、ロクなもんではない。
だから修学旅行なんて嫌だったんだよ………。まぁ、そんな残念旅行も今日は違う。文香と沖縄デートだからだ。無料で二人で出掛けられるとか、唯一修学旅行で良かったと思える思い出だな。
まぁ、別に沖縄に興味があるわけではないんだが。どちらかと言うと、文香とデート出来るって所が素晴らしい。この素晴らしい世界に祝福を!
そんな事を考えながら、少しウキウキしつつホテルの階段を降りていた。撮影があるということは、プロデューサーも沖縄にいる事になる。なら、ホテルでの待ち合わせはマズイだろう。との事で、待ち合わせ場所は近くのコンビニの前だ。
鼻歌を歌いながら階段を降りていると、スマホがヴヴッと震えた。
ふみふみ『申し訳ありません。昨日の撮影が予定より押してしまったため、午後からでもよろしいでしょうか?』
「滅べ世界ィイイイイイイ‼︎」
ホテル内で絶叫し、「了解」と返信して、先生に「うるせぇ」と怒られた。
×××
しかし、文香と出掛けられないのなら、外に出る必要はない。今日の午前中はニートだな。
そう決めて部屋で寝転がった。どうせ、同じ部屋の連中は表に遊びに行ってる。一部屋を独占できるのだ。これはこれで美味しい。
………しかし、朝の8:00に待ち合わせしていたから、午後の何時までか知らないが暇になっちまったな。
…………そういえば、楽器弾けるとこあったっけ。今なら誰もいないだろうし、あそこで暇潰ししよう。
そう決めて、移動した。楽器の場所に到着し、キーボードの前に座った。ピアノもキーボードも似たようなもんだろ。
「………何を弾こうかな」
………とりあえず、テキトーに中学の時に好きだったG○eeeeNの曲でもやるか。まぁ、キ○キくらいしか弾けないけど。
そんなわけで、ピアノを弾く感覚でキーボードを弾き始めた。楽譜は頭の中に入ってる。頭良いからな。
「〜♪」
鼻歌を歌いながらキーボードを弾き、何とか終わった。割と覚えてるもんだなーとか思いながら手をプラプラと振ってると、パチパチと拍手の音が聞こえた。
「?」
「お疲れ様ー、すごかったよ」
………え、なんで多田さんと三村さんいんの?
「本当にすごかった。ていうか、キーボード弾けるんだね」
「いや、頭に入ってる楽譜通り弾いただけだから。一番だけだし。てかなんでいんの?」
修学旅行しろよ、いや俺の言えた台詞ではないが。
「鷹宮くんも誘おうと思って」
「それよりさ!なんか弾いてよ!別の!」
多田さんが興奮した様子で俺の目の前に顔を突き出した。
「えっ、なんで……」
「いやー、実は私も最近は家でギター練習してるんだけどさ、中々上手くいかなくてねぇ。ね、鷹宮くんてギターも弾けんの?」
「無理。あれはクソゲー」
ギター出来る人は絶対頭おかしいよね。どういう教育を受けたら出来るようになるのかな。
「私は弾けるよ?ギター」
へぇー、多田さん楽器出来るんだ。まあ、たまにロックだなんだと言ってるからな。
「へ?李衣菜ちゃん、ギター弾けるようになったんだ?」
「ひ、弾けるようになったんだよ!」
「ああ、弾けないのね」
「ひ、弾けるってば!もう少し練習すれば!」
「弾けないんじゃねぇか……」
何故変な見栄を張るのか………。
「い、いーじゃん!私はロックなの!」
「だからそれなんなの……。岩なの?硬いって言ってんの?いやでも胸はそうでもなかっ」
「文香さんに電話しよっか」
「やめて冗談だからお願い李衣菜様」
何とか謝った。
「で、他に何が弾けるの?」
「他とか言われてもなぁ………」
あとは弾けねえよ。猫踏んじゃったとか?
「楽譜があれば弾けるかもしれないけど……」
「楽譜はないかなぁ………」
「だろうな。諦めてくれ」
大体、そんな人に聞かせられるほど上手くないし。
三村さんがキョトンとした顔で首を傾げた。
「ていうか、なんで鷹宮くんはここにいるの?文香さんとお出掛けじゃなかったの?」
「午前中は撮影長引いたらしくて。だから、ここで時間潰してたんだよ」
「そうだったんだ……。あ、もしかしてさっきの『滅べ世界』って………」
「………聞こえてた?」
「自販機の下の子供銀行のお金拾った長谷川さんの台詞だよね」
「………………」
パクったわけじゃないんです。反射的に出ちゃったんです。
「じゃあ、私達もそれまで一緒にいようか」
「え、なんで」
「だって、鷹宮くん暇でしょ?」
「まぁ、暇だけど」
「なら良いじゃない」
まぁ、良いけど。てか、逆に二人は良いの?って意味なんだが……まぁ、二人が良いなら良いか。
「で、何する?」
「せっかくだし、楽器で遊ぼうよ」
「いや、構わないけど二人はそれで良いの?遊びに行かないのか?」
「んー……なんというか」
「夏なら海水浴とかダイビングとか色々あったけど、今の時期じゃ海にも入れないし………」
「五日間は長過ぎるよね」
…………こいつら、段々と俺の思考回路が移って来てないか?いや、絶対俺の所為ではないが。認めない。
「まぁ、二人が言うなら何でも良いけど」
「おおー!ドラムある。ロックって感じするなー」
電子ドラムだぞそれ。てか君の言う「ロック」の定義が知りたい。
多田さんが楽しそうにドラムの椅子に座った。
「ね、ドラムは出来ないの?」
「出来ないって事はないよ。中学の時に音楽で少しやったし」
「おおー!教えてよ!」
「言っても齧った程度だけどな。なんかよく分からんナントカビートって奴」
なんだっけな……。ていうか真面目に授業受けてなかったから、俺の出来ることが何なのかすら分かってないけど。
「それでも良いからさ」
「あ?えーっと……じゃあ、右手と左手をクロスして膝の上に置いて」
「へ?う、うん」
「で、左手で一回叩く間に右足を二回踏んで、右足で一回踏む間に右手で二回叩く」
「…………はっ?」
これを教わったなー。懐かしい。両手と両足を別のリズムで動かすのが楽しくてマスターしたわ。
まぁ、ドラム本体は叩いた事ないから、これが何なのか分からないけど。
「………え、えっと……左手で………?」
「だから、左手で一回叩いて右足で二回踏んで右手で四回叩くんだよ」
「意味が分からないよ!」
「こういう事?」
別の声が聞こえてそっちを見ると、三村さんが余裕でこなしていた。
「ああ、そういう感じ」
「か、かな子ちゃんってロックだったの⁉︎」
「えっ?う、うん?」
いやいや、ロックとは程遠いだろ。おそらく文香以上の弾力と柔らかさを持つそのボディは色んな意味でロックとは程遠………。
「えいっ」
「痛っ⁉︎」
三村さんをボンヤリ見てると、いつの間にか接近して来ていて俺の頬を抓った。
「今、いやらしい目をしてました」
「えっ?そ、そう?」
「文香さんに言いつけちゃおう」
「ま、待て待て待て!冤罪は勘弁して!」
「冤罪じゃないよー。鷹宮の目、すごかったし」
た、多田さんまで………。というか、なんだ?性欲の抑えが効かなくなってるのか?まぁ、確かに文香とはエロいことできないし、その癖アブノーマルなことしてるから性欲はある意味たまりやすいが……。
ダメだ、もっと理性を持たないと。
「それで、鷹宮くん。これが何なの?」
出来たことが嬉しかったのか、あまり何か言われる事もなく三村さんは聞いて来た。
うん、でもその……ごめんね。
「それが分からないんですよね………」
「……………」
「……………」
二人の目線が急に冷たくなった。うん、ごめんね。こんなのドラムを知ってるとは言わないよね………。
「さ、外に出ようか」
「そうだね」
「……………」
出て行く二人の背中を眺めながら、俺はスマホを取り出した。さて、もうピアノ飽きたし、ゲームやろう。
と、思ったら二人が戻って来て俺の両手を拘束した。胸に腕が当たってる。柔らかい。
「鷹宮くんも」
「行くよ」
「え、な、なんで………?」
「良いから」
「何なのお前ら。俺の事好きなの?」
聞くと、二人はかあっと顔を赤くした。
「っ……は、はぁ⁉︎バカじゃないの⁉︎全然違うから!」
「そ、そうだよ!寝言も大概にしてよ変態!」
「え、何でそこまで言われないといけないの………」
「これはもう文香さんに報告だね」
「うん、むしろ密告する」
「待て待て待て!やめて下さい死んでしまいます」
「「知らない」」
「わかった!サーターアンダギー奢るから!」
「よし、行こうか」
「良いね」
「あ、あれ?あれぇー?」
こ、こいつら………!俺はため息つく他なかった。
×××
午後になり、俺は文香と合流し、沖縄観光を始めた。
…………プロデューサーさんの運転する車の中で、凛、奈緒、加蓮、三村さん、多田さんと一緒に。
助手席に座りながら、どうしてこうなった、と全力で頭を抱えていた。
「いやー、まさか李衣菜とかな子と鷹宮くんが三人揃って同じ修学旅行先にいるとはなぁ」
「………そうですね」
文香が言うには、観光しようとしたらプロデューサーさんが「俺が案内してやる」となり、断ろうとしたがタクシー代とか浮くのに断るのは不自然だ、という事になり、結局みんなで来る事になった。
いや、ホントどうしてこうなった………。これじゃ本当にただの修学旅行だ。
さらに今回は文香達の行きたい場所に行くので、前に行った場所とかぶる可能性大である。
「はぁ………」
「どうした?」
「いや何でもないです………」
まぁ良いか。文香と出掛けられる事には変わりないし。
後ろでは、女子達がなんか色々と話している。
「しかし、鷹宮くん」
「なんですか?」
「随分とやってくれたね」
「?」
「うちの事務所、オタクの集まりになっちゃったよ。基本的にみんなpso2やってる」
「……………」
いや、俺の所為じゃないだろ………。じゃないよね?じゃないと思いたい、うん。
「ま、お陰で俺もオタク趣味は隠さなくて済んでるんだが」
「そういえば、このすば三期やるらしいですよ」
「楽しみだな」
「ゲーム買いました?」
「買った」
「俺今クリスにハマってます」
「俺はアイリス一筋だから」
「え、ロリコン?」
「違うから」
すると、後ろから加蓮が口を挟んだ。
「え、嘘だ。プロデューサー、莉嘉ちゃんを見る目ヤバいじゃん」
「ち、違うから!全然ヤバくなんかないから!」
「あーそれ私も前から思ってたよ。あと、悠貴とかプロデューサーのこと怖がってたし」
凛にもそう言われプロデューサーさんはガビーンって音がしそうなほどにショックを受けていた。
何と声をかけようか分からなかったが、とりあえず慰める事にした。
「………安心してください、プロデューサーさん。俺も禁書は絹旗、のんのんびよりはれんちょん、ZZはプルツー、異能バトルは千冬ちゃんが好きですから」
「だ、だよな!別におかしいことじゃないよな!」
よし、元気が出た。すると、スマホがヴヴっと震えた。
ふみふみ『ロリコンさん、後でお話があります』
バックミラーを見ると、文香がニコニコしていた。目が笑ってないけど。
とりあえず、後で謝ることを決めた。