鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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ふみふみの修学旅行(1・2日目)

 羽田空港。そこに文香はやって来た。今日は千秋が修学旅行のため、文香も付いて行って、向こうでサプライズしてやろう、と思った次第だ。その為、大学はサボった。

 プロデューサーに何とか北上のフィギュアで、トライアドプリムスの撮影に同行させてもらい、楽しみ過ぎて鼻歌を歌ってる文香であった。

 集合場所に到着するなり、プロデューサーの姿が見えたため、文香は挨拶した。

 

「………スラマッパギ」

「スラマッマラム」

「……私で最後ですか?」

「ああ、行こうか」

「………はい、お待たせして申し訳有りません」

「いいって」

 

 千秋の写真を見てニヤニヤしていた、とは言えなかった。

 出発までの間、文香はトイレに行ってからスマホをいじっていた。千秋からL○NEが来たので、返事を返していた。

 大学の話をしてると、突然写真が送られてきた。飛行機の写真だった。

 

 鷹宮千秋『飛行機めっちゃある』既読

 ふみふみ『すごいですね』

 ふみふみ『千秋君は、飛行機のパイロットになりたいとか思ったことありますか?』

 鷹宮千秋『ないですけど』既読

 鷹宮千秋『なんで?』既読

 ふみふみ『いえ、男の子は大体、そういうのに憧れると聞きましたから』

 

 まぁ、千秋くんのことだから絶対ないだろうなぁ、とは思っていたが。でも、もしパイロットになりたいと思っていたのなら、それはそれで可愛いので妄想が捗るので良かった。

 

 鷹宮千秋『あー俺はガキの頃から剣道やってましたから』既読

 鷹宮千秋『侍になりたいとか思ってました。銀魂読んでましたし』既読

 

 パイロットより酷かった。

 

 ふみふみ『その頃からアニメオタクだったのですね』

 鷹宮千秋『いやジャンプコミックくらい読むでしょ』既読

 ふみふみ『私は読んでませんよ』

 鷹宮千秋『それは読書オタクだからでしょ?』既読

 

 そう言われ、少しムッとした。図星だったからだ。

 

 ふみふみ『まぁ、小学生の頃から書は読んでいましたが……』

 ふみふみ『オタクと呼ばれる程ではありません』

 鷹宮千秋『いやいや、バイト中に本読んでる時点でお察しでしょw』既読

 ふみふみ『むっ、違います』

 鷹宮千秋『江戸川乱歩賞受賞作を2〜10作目を答えなさい』既読

 ふみふみ『ハヤカワポケット、猫は知っていた、濡れた心、危険な心、6回目は受賞作無し、枯草の根、大いなる幻影、華やかな死体、孤独なアスファルト、蟻の木の下で』

 鷹宮千秋『へー、6回目受賞作ないんだ』既読

 

「………………」

 

 意地悪くカマをかけられて少しイラっとしたが、まぁそのくらい良いかなって思って返事をしようとしたが、少し離れた場所から「文香さん!」と声が掛かったので、そっちに向かった。

 

「ね、これ可愛くない?」

 

 奈緒がストラップを差し出した。

 

「………確かに、可愛いですね」

「これさ、鷹宮のお土産にしたら?」

「えっ」

 

 いや、お土産も何も沖縄にいるんだけどね……とは口が裂けても言えなかった。

 

「……いえ、千秋くんには別に………」

「いやー買って行ってやれよ。五日間も一緒にいられないんだから」

「……………」

 

 どうしよう、と文香は思ったが、まぁ買って行っても良いと思って買って行くことにした。

 

 ×××

 

 那覇空港に到着し、文香はまず辺りを見回した。修学旅行生の集団を探した。学生服だらけなので、すぐに目につく……と、思ったら本当にいた。

 あの中から千秋の姿を探さなければならない。だが、ジッと見てたらストーカーに思われるかもしれないので、お土産屋さんから観察する事にした。

 

「………いない」

 

 おかしい。群れの中にいない。探してる間に、修学旅行生達はバスに乗り込んでしまったので、文香は慌ててタクシーで跡を追った。

 千秋のしおりを(勝手に)コピーしておいたので「前の車を追ってください」なんてドラマみたいな台詞を言う必要はなかった。

 しばらく移動し、首里城に到着した。

 

「………ここが首里城ですか……」

 

 タクシーの運転手にお金を払い、学生服連中の後を追った。すると、一番後ろで歩いてる奴の姿を見つけた。女子生徒に肩を借りて体調悪そうに歩いてる奴。

 

「…………千秋くんだ」

 

 なんで女子生徒、それも三村かな子の肩借りてんの?ゴオッと嫉妬の炎のイノケンティウスだったが、もしかしたら体調を崩したのかと考え直した。

 だとしたら少し心配だが、しおりによるとここで記念写真を撮る。それだけ撮ってあとはバスで休むつもりかもしれない。だとしたら、千秋と話せるかもしれないし、少し楽しみになってきた。

 若干、ウキウキしながら待ってると千秋のクラスの写真撮影になった。

 

「アークスダンスのポーズとりましょう!」

「は?え、どうした急に。てか、二人じゃキツくね」

「せーのっ!」

「ゆゆ式OP⁉︎」

 

 二人揃って「pso2!」のポーズを決めた。完全に元気にしか見えなかった。

 またしても嫉妬の炎が火拳のエースだった。むしろ「いてつくはどう」かもしれない。それが千秋まで伝わったのか、ビクッとしてこっちを見た。

 だが、クラスメートとの思い出を作れと言ったのを思い出した。例えアイドルが相手でも、クラスメートなのは変わらない。

 耐えよう、そう思った時、電話が掛かってきた。

 

「……はい、もしも」

『文香さん⁉︎どこにいるの⁉︎』

 

 加蓮からだった。そういえば、一切許可をもらわずにここに来てしまった。冷や汗を流しながら答えた。

 

「………えっと、首里城公園です……」

『何でそんなところにいるの⁉︎修学旅行か!早くこっち戻って来なさい‼︎』

「……ごっ、ごめんなさい………」

『まったく……!今、私達空港だから。すぐ戻って来なさいよね‼︎』

 

 そこで電話は切れた。

 文香は仕方なく首里城から出てタクシーを拾った。

 

 ×××

 

 ホテル。トライアドプリムス+文香の部屋。さっき、千秋と話してから三人の態度は一変した。

 文香がここに来た理由を完全に察した三人に質問攻めにあっていた。

 

「で、どこまでヤッたの?」

 

 突然、アイドルとは思えない質問が加蓮から飛んできた。

 

「………ど、どこまで、とは………?」

「だからー、ゴールインしたの?最後まで」

「ご、ゴールインって………!」

 

 顔を赤らめて俯く文香。

 

「……そんな、まだ、ですが………」

「へぇー、意外」

「意外でもなくない?鷹宮くんって、そういうの固そうだし」

 

 凛が言うと「あー確かに」と加蓮は呟いた。

 

「でも、キスくらいはしたんでしょ?」

「……それは、しましたけど………」

「どんなキス?ディープなの?」

「………あの、言いませんよ?私は」

「えーなんでよー」

「………そ、それは……だって、千秋くんと、二人だけで……共有したい、ですし………」

 

 顔を赤らめてポツリポツリと言うと、三人はその姿の文香を見て顔を赤らめた。

 

「……かわいい、文香さん」

「ふえっ⁉︎」

「ね、天使かな?って思った」

「成就してるのに恋する乙女だったな」

「な、なんですか!三人で私をからかって!」

 

 もうっ、と文香は頬を膨らませた。

 それを見て、凛は微笑みながら声をかけた。

 

「ごめんね、文香。それよりさ、明日はどうするの?」

「………明日、ですか?」

「せっかく、鷹宮くんを追っかけてここに来たんだし、一緒に観光してきたら?」

「そうだよ。それなら、鷹宮も喜んでくれると思うけどな」

 

 凛と奈緒にそう言われ、文香は首を横に振った。

 

「………いえ、明日は千秋くん、班行動ですので無理です。明後日もクラス行動の後に班行動、明々後日から自由行動ですので、その時にご一緒させてもらおうと思っています」

「なんでそんな細かく把握してるの……?」

 

 引き気味に加蓮に言われて、文香は自分の鞄を漁った。で、修学旅行のしおりを取り出した。

 

「………千秋くんからしおりをスティールしてプリントアウトしたものです」

「…………さ、お風呂行こっか」

「うん、そうだね」

「ここ、温泉もあるんだよなー。楽しみだ」

「え、あ、あの……皆さん?」

 

 三人は風呂に入りに行った。

 

 ×××

 

 翌日、文香は下働きを頑張っていた。夏休みの撮影で千秋はこんな大変な事をしていたのか、と身に染みて感じながら仕事を何とかこなした。

 で、今は昼食休憩。四人でソーキそばを食べていた。

 

「んー、美味しいねこれ。初めて食べたわソーキそば」

「………そうですね。ここに来る前に調べた感じだと、ラーメンっぽいと伺っていたのですが、ラーメンとは違う美味しさですね」

「……え、調べたの?自分の修学旅行じゃないのに?」

「………は、はい」

 

 どんだけ楽しみにしてたのこの子……と、三人が思ったのは言うまでもない。

 

「……そういえば、奈緒さんは高校二年生でしたよね……?修学旅行は、もう終わったのですか?」

「や、まだ。来週」

「……何処へ行かれるんですか?」

「あたしは京都奈良」

「ね、奈緒も今から楽しみにしてて、メッチャ調べてるんだよ。じ○らんとか雑誌すごい買っててさー」

「い、良いだろ別に」

「………雪ノ下さんみたいですね」

「………誰?」

「凛は知らないと思うぞ。今度、原作貸してやる」

 

 そんな話をしながらソーキそばを啜った。

 すると、凛がボソッとつぶやいた。

 

「そういえば、ソーキそばの『ソーキ』って何だろうね」

「あー確かに。日本の食べ物なのにカタカナ使ってるし」

「ちょっと、ググってみるか」

「………ソーキとは梳の訛りで、豚の肋骨が櫛に似た形状であるため、あばら肉もソーキと呼び習わすようになった、そうですよ?」

「へぇ〜、文香さん流石に詳しいな」

「………はい。一通り沖縄の事は調べましたから。千秋くんはどうせ調べないと分かっていましたので」

「あいつは本当にダメだな……」

「じゃあ、めんそーれってどういう意味なの?」

「………それは『いらっしゃい』という意味です。このくらいは、本を読んでいれば自然と覚えられますから」

「そういえば、文香って文学少女だったね………」

 

 決してオタクアイドルではない事を凛は思い出していた。

 加蓮がそばを啜ってから呟いた。

 

「でも、それなら文香さんと修学旅行とか行ったら楽しそうだなー。そういえば、文香さんが高校生のときはどうだったの?修学旅行」

「………私の高校は、アメリカへ行ったのですが……」

「海外⁉︎すごい!」

「どうだった⁉︎アンジェリーナ=クドウ=シールズとかいた⁉︎」

「奈緒、静かに」

 

 そう聞かれたが、文香は申し訳なさそうに俯いて呟いた。

 

「………いえ、その……現地で買った本を一生懸命和訳しながら楽しんでいたら、いつの間にか一週間経ってて……」

 

 その台詞に、全員気まずそうに目を逸らした。千秋も千秋だが、文香も文香だな、と、思った。

 

 ×××

 

 撮影が終わり、トライアドプリムスと文香はホテルに戻って来た。

 伸びをしながらホテルの部屋に向かう途中、修学旅行生達が食堂に向かうのが見えた。

 

「で、結局……なんだっけ?鷹宮?は帰って来たの?」

「帰って来てないんじゃね。部屋にいなかったし」

「あーあ、外雨降ってんのに。あいつ死ぬんじゃね?」

「それワンチャンあるわ」

 

 それを聞いて、加蓮も凛も奈緒もうわあ……と引いた。千秋、学校でどんな扱い受けてんの?みたいな感じで。

 とりあえず、そんな小言は文香は聞きたくないだろうと思い、奈緒が文香に声をかけようとした。だが、隣に文香の姿はない。

 

「……あれ?文香さんは?」

「へっ?あ、いない」

「どこ行ったのかな」

 

 そう三人が辺りを見回した時、「どういうことですか?」と文香の声が聞こえた。前の学生に話しかけていた。

 

「………ちあ……鷹宮くん、どこにいるんですか?」

「へっ?だ、誰………?」

 

 三人ともブフォッと吹き出した。しっかり前髪おろしてサングラスをしてるあたり、冷静なんだろうけど、それにしてもいきなり突撃するか?みたいな感じで。

 が、その文香はしっかりと怒っていて、オーラで沖縄が凍てつきそうなオーラを出していた。

 

「………え、何この人」

「ヤバくね?」

 

 よって、アイドルと気付かれる事なく逃げてしまった。それを好機と捉えた三人は、文香に声をかけた。

 

「ち、ちょっと文香!落ち着いて!ね?」

「………なぜ、逃げてしまったんでしょうか?」

「そんな劣等生の妹の優等生みたいなオーラ出してたらそうなるって!」

 

 凛と奈緒が落ち着かせてると、別の学生っぽい女子が階段から下りて来るのが見えた。

 

「………あの、すみません……」

「だから落ち着いてって………!」

 

 加蓮が止めようとした時、その女子は振り向いた。完全に見覚えのある顔だ。

 

「………あれ?かな子、さん?」

「へっ?ふ、文香さん……?」

「あれ、かな子?」

「えっ、ええっ⁉︎凛ちゃんに、奈緒ちゃんに、加蓮ちゃん⁉︎」

「………月火ちゃんはいませんよ?」

「いや、全然言ってないです……」

 

 文香はさっきより柔らかい感じでかな子に聞いた。

 

「………あの、それで……鷹宮くんは……?」

「鷹宮って、鷹宮千秋くんの事ですか………?」

「………はい」

「………なんで文香さんが鷹宮くんを知ってるのですか……?」

「そんなの恋び……」

「ち、ちょっとした知り合いなんだ!あたし達と鷹宮は!」

 

 うっかりバラそうとした文香の口を押さえて、奈緒は誤魔化すように言った。

 

「そ、そうなんですか……?」

「それより、今あいつ何処にいるか教えてくれる?」

 

 加蓮が横から口を挟み、かな子は少し俯きながら言った。

 

「それが……私達と帰ってる最中に逸れてしまって……。それで、今歩いてこちらに向かっているみたいなんですが……」

 

 かな子はホテルの入り口をチラッと見た。雨が降っていて、とても歩いて帰って来れるようには見えなかった。

 すぐにスマホを取り出し、L○NEを連呼する文香を放っておいて、凛が聞いた。

 

「どこにいるの?」

「分からないけど……多分、遠く」

 

 不安そうに俯くとかな子の頭に奈緒は手を置いた。

 

「大丈夫だって。あいつ、馬鹿だけど馬鹿じゃないから、割とすぐに帰って来るって」

「う、うん………」

「それより、修学旅行中なんだろ?早く食堂行かないと怒られるぞ」

「そ、そうだね。じゃ、また後で」

 

 かな子は小さく手を振ると、トボトボと肩を落として食堂に向かって歩き出した。

 どうしよっか、みたいな感じで奈緒、凛、加蓮が顔を見合わせると、文香の大声が響いた。

 

「千秋くん⁉︎どこで何してるんですか⁉︎」

 

 即座に三人とも耳を塞いだ。

 

「キーンと来た」

「今、耳にキーンときたよ」

 

 そう呟く凛と加蓮を無視して、文香はしばらく問い詰めた。だが、「大丈夫なんで」を最後に電話を切られてしまい、シュンッと肩を落とした。

 その文香の肩に加蓮は手を置いた。

 

「ま、まぁ、とりあえず部屋に戻ろうよ。本人が平気って言ってるなら、私達に出来る事はないよ」

「……………はい」

 

 四人は部屋に戻った。

 加蓮や凛や奈緒がトランプとかウノとかモンハンで盛り上がってる中、文香は何度か電話をかけてみたが、全然出なかった。

 その度に気落ちしていったが、ヴヴッとスマホが震えた。

 

「! 千秋くんから……!」

「お、返信来たの?」

 

 凛と加蓮はswi○ch、奈緒は3○Sを置いて文香の持ってるスマホを見た。

 

 鷹宮千秋『雨音で聞こえないので文面で失礼します』

 

「………社会人?」

 

 加蓮が呟いたが、次のメッセージが届いたため、誰も反応しなかった。

 

 鷹宮千秋『ご心配なく、今帰宅中です』

 

「………普通、彼女とのL○NEでご心配なくとか使う?」

「使わない……」

 

 加蓮と凛がそう呟く中、文香は返事を返した。

 

 ふみふみ『あとどれくらいで着きますか?』既読

 鷹宮千秋『1時間以内に頑張ります』

 ふみふみ『いえ、頑張らなくて良いので、とにかく気を付けて下さい』既読

 

 そう返すと、加蓮と凛と奈緒は天使を見る目で文香を見た。

 すると、返信が来た。

 

 鷹宮千秋『あなたのために帰って来ます』

 

 文香的には少しホッとしたが、他三人はお腹を抱えて大爆笑を始めた。流石にフォロー出来なかった。

 

 ×××

 

 少し元気になったため、文香も一緒になってゲームを始めた。四人でカマキリをフルボッコにしていた。

 

「あ、あのさ……文香さん、上手過ぎない?」

「………そんなことありません。千秋くんといつもやってますから」

「ていうか、鷹宮くんがおかしいよね」

「私、今何もしてないんだけど」

 

 そんな話をしてる時だ。文香の耳がぴくっと動いた。そして、立ち上がった。

 

「どうしたの?」

「………今、千秋くんが食堂から私の名前を呼ぶ声が聞こえた……」

「え?聞こえ………え?食堂から?」

「正確な現在位置まで?」

「………少し行ってきます!」

 

 文香は部屋を飛び出した。

 数分後、修羅場った。

 

 


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