鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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出鼻を挫かれた旅行は嫌な思い出になる。

 修学旅行当日、空港集合との事で、風邪を引く事は叶わずに俺は空港に到着した。忘れ物はない。ちゃんとポケットWi-Fiも3○Sも持って来た。あとこの前、誕生日の時は押し入れに隠していた、文香のアイドルのグッズも持って来た。

 ………憂鬱だ。昨日は文香の匂いを嗅ぐに嗅いだとはいえ、憂鬱だ。五日間保つのか、俺は。心なしか頭がボーッとしてるし……。

 はぁ……いや、まぁウジウジしてても仕方ないか。せっかく行くんだ、ポジティブになろう。楽しんで、文香にお土産話を聞かせてやろう。あと、お土産に何か買って行こう。何がいいかな、石垣島プレゼントすれば、二人で住めるかもしれない。いや金ないから無理かな。

 そんな事を考えながら集合場所に到着した。うちのクラスを探し、その最後尾に来た。

 暇だったので、スマホを取り出した。

 

 鷹宮千秋『空港着いた』既読

 

 速攻で既読ついたよ……。やっぱ、文香も寂しいんだろうな。ていうか、ふみふみっていうの気に入ってんの?誰が呼んでんのそれ?

 

 ふみふみ『おはようございます。飛行機は初めてですか?』

 鷹宮千秋『初めて。墜落しないですよね?』既読

 ふみふみ『大丈夫でしょう』

 

 だと良いけどな……。

 

 鷹宮千秋『文香は飛行機とか乗ったことありますか?』既読

 ふみふみ『ありますよ。何度か仕事で』

 鷹宮千秋『ああ、やっぱり』既読

 鷹宮千秋『怖くなかったんですか?』既読

 ふみふみ『なかったですよ?というより、本に夢中で……』

 

 あ、なるほど……。

 

 鷹宮千秋『何読んでたんですか?SAO?ダンまち?エロマンガ先生?冴えない彼女?』既読

 ふみふみ『………なんで全部松岡ハーレムなんですか』

 ふみふみ『当時はラノベを読む前でしたから』

 

 汚れなき頃のふみふみか……。

 

 鷹宮千秋『今もラノベ以外の本とか読むんですか?』既読

 ふみふみ『読みますよ。学部も文学部ですから』

 鷹宮千秋『本書いたりしないんですか?』既読

 ふみふみ『いえいえ。そういうのはハーメルンで満足してますから』

 

 最近、ネットの二次創作にまで手を伸ばし始めた文香は、暇さえあればスマホをいじっている。

 で、最近始めたのはSAOの二次創作で、オリ主「鷹宮文香(ゲームではタカフミ)」というキャラを作って、キリトとイチャイチャしながらゲームクリアを目指している。鷹宮文香って名前はなんか結婚したみたいで嬉しかったけど、キャラは完全に文香本人で、ほぼほぼ文香とキリトの夢小説と化している。彼氏の立場的には複雑だ。

 

 鷹宮千秋『大学かー、俺どうしよっかなー』既読

 ふみふみ『私の大学来ませんか?』

 鷹宮千秋『行きます』既読

 ふみふみ『あの、誘っといてアレですけど、少しは考えませんか?』

 鷹宮千秋『まぁ、実際高校出たら地元の大学に戻るかもしれませんし』既読

 ふみふみ『………実家に帰ってしまうんですか?』

 

 ………あ、そうじゃん。高校出たら、俺下手したら文香さんと離れ離れになってしまうのか。

 

 鷹宮千秋『まず、東京の大学は確定しました』既読

 ふみふみ『そ、そうですか……』

 ふみふみ『まぁ、大学の話は帰って来たら話しましょう』

 

 すると、ちょうど良いタイミングで集合の声が聞こえた。仕方ないので、「集合掛かったんで行きます」とだけ送信してスマホの画面を落とした。

 そのまま教師の話に耳を傾け、右から左に受け流し、動き始めた。なんか荷物の金属を感知する奴とか色々通って、飛行機に乗るまで少し時間が空いた。

 その間、みんなトイレ行ったりしていた。俺もトイレに行った後は暇なので、一人で飛行機が見える窓の前の椅子に座った。

 飛行機がたくさん並んでる所を写メった。

 

『鷹宮千秋が写真を送信しました。』

 鷹宮千秋『飛行機めっちゃある』既読

 ふみふみ『すごいですね』

 ふみふみ『千秋君は、飛行機のパイロットになりたいとか思ったことありますか?』

 鷹宮千秋『ないですけど』既読

 鷹宮千秋『なんで?』既読

 ふみふみ『いえ、男の子は大体、そういうのに憧れると聞きましたから』

 鷹宮千秋『あー俺はガキの頃から剣道やってましたから』既読

 鷹宮千秋『侍になりたいとか思ってました。銀魂読んでましたし』既読

 ふみふみ『その頃からアニメオタクだったのですね』

 鷹宮千秋『いやジャンプコミックくらい読むでしょ』既読

 ふみふみ『私は読んでませんよ』

 鷹宮千秋『それは読書オタクだからでしょ?』既読

 ふみふみ『まぁ、小学生の頃から書は読んでいましたが……』

 ふみふみ『オタクと呼ばれる程ではありません』

 鷹宮千秋『いやいや、バイト中に本読んでる時点でお察しでしょw』既読

 ふみふみ『むっ、違います』

 鷹宮千秋『江戸川乱歩賞受賞作を2〜10作目を答えなさい』既読

 ふみふみ『ハヤカワポケット、猫は知っていた、濡れた心、危険な心、6回目は受賞作無し、枯草の根、大いなる幻影、華やかな死体、孤独なアスファルト、蟻の木の下で』

 鷹宮千秋『へー、6回目受賞作ないんだ』既読

 

 ………あれ、返信が止んだ。………怒ったかな。謝った方が良いかもしれない。

 そう思って何か送ろうとした時、隣に誰か座って来た。

 

「おはよ、鷹宮くん」

「? ああ、三村さん」

 

 三村さんは俺の制服の裾を摘んだ。

 

「捕まえた♪」

「? 何が?」

「昨日、逃げたら怒るって言ったよね?」

「……………」

 

 忘れてた。すごく怒られた。

 

 ×××

 

 飛行機に乗り込んだ。俺は自分の席に座った。

 

「……だから、私の事を気遣ってくれるのは嬉しいけど、自分が風邪引いちゃ意味ないの。分かった?」

「………わかったってば」

 

 その間、ずっと三村さんのお説教を受けていた。どんだけ良い人なんだよ、大して仲良くない俺なんかにそこまで説教するとか。ありがた迷惑だよチクショー。

 っていうか、なんで隣に座ってんの?もしかして、俺の隣?

 

「………え、俺の隣って三村さんなの?」

「うん。私達の班の二人、付き合ってるから。………私が隣だと嫌だった?」

 

 そうだったんだ……。どうでも良い情報を仕入れてしまったぜ……。

 

「嫌じゃないよ別に」

 

 まぁ、誰が隣でも移動すれば良い話だからな。離陸したら、三村さんも仲の良い女子の元に行くだろうし、俺は寝よう。

 

「じゃ、おやすみ」

「ダメ」

「だ、ダメっ?」

「ダメ」

 

 何でだよ……。ていうかダメって……俺の意思は?

 

「せっかく隣になったんだから、少しくらいお話ししようよ」

「いや別にすることないでしょ話なんて」

「昨日、☆13武器出たんだ」

「え、何それkwsk」

 

 何処で落ちたの?ズルくない?

 

「いや、出たと言ってもウェポンズバッヂなんだけどね」

「なんだよ。三村さんって何だっけ?ヒーロー取ってた?」

「うん。お陰様で」

 

 そういやそうか。………そういえば、アイドル達にもヒーロー増えたなぁ。今じゃ、文香以外みんなヒーローじゃねぇの?ちなみに、文香はダブルオーキリトフルセイバーで未だに頑張ってる。

 

「ヒーロー楽しいよねー。双機銃テキトーに撃ってれば殲滅出来るんだもん」

「まぁな。俺はタリスで頑張ってるけど」

「? なんでタリス?」

「カッコ良いじゃん。タリスアクションで瞬間移動できんのすごくね」

「でも、使い難くて……」

「まぁ、ぶっちゃけテキトーにやってても火力出るのがヒーローだからな」

 

 俺がデュアルブレードやってた時、火力を1000以上出すのにどれだけ苦労したか………。ヒーロー始めたら速攻で出たからな。テキトーに斬ってただけで。

 

「でもね、最近少し悩んでて……」

「どしたん?」

「私は良く蘭子ちゃ……友達と一緒にやって普通にXHとかクリアしてるんだけど、私じゃなくて友達が強いからクリアしてるだけなんじゃないかなって……」

「あーそういうね……」

 

 それは分かるわ。俺は基本ソロだから自然とプレイヤースキルとか身に付いたけど、三村さんみたいに友達が始めたから私も、みたいな人にはそういう実感湧かないよな。

 

「なら、ソロで行ってみれば良いじゃん」

「………でも、私がやってると後から『フレンドのいるパーティ』から辿って、『闇に飲まれよ、シフォンケーキ』って言いながら助けに来てくれて……」

「え、何それ日本語?助けに来たんだよね?闇に飲まれよってダーカー側の台詞だろ」

「ああ、蘭子ちゃ……友達の言葉では『お疲れ様です』って意味なんだ」

「そいつ誰だよ……。ヤベェ奴だな……」

 

 おい、口滑らせすぎだろ。二回も間違えねーからな?まぁ、蘭子ちゃん誰だか知らないけども。

 ちなみに、シフォンケーキってのは三村さんのキャラ名だ。

 

「………ま、それなら、たまにはソロでやってみたいって言えば良いんじゃないの」

「……でも、クリアできなかったら恥ずかしいし………」

「なら、俺が一切手出しせずについて行こうか?知らない奴とやってりゃ、その友達も遠慮するだろうし、もし負けそうになったり死んだりしたら、ムーン投げてやるから」

「………鷹宮くんは退屈じゃないの?」

「別に。どうせ通話しながらやるだろうし、仮に暇だったら東京○3のコント見ながらついて行くよ」

 

 実はマイブームだったりする、東京○3。東京喰種や東京レイヴンズより面白いし。いや、アニメじゃないし比べようがないが。

 

「……じゃあ、今度お願いするね」

「ん。じゃ、帰って早速やるか」

「いやそれは無理だよ!」

 

 知ってた。

 ………そういえば、何か忘れてる気がするけど、なんだったかな。

 

 ×××

 

 沖縄に到着した。もう11月なのに、沖縄はまだ少し暑さが残っていた。これ、真夏に来たらどうなってしまうんだろうか。人類は皆、干物になっているに違いない。やはり俺は東京に住みたい。

 まぁ、そんな事はどうでも良い。それよりも、俺は今瀕死な状態になっていた。

 

「………大丈夫?鷹宮くん……」

「…………死ぬ」

 

 酔った。超気持ち悪い。なんか頭痛いし目もボーッとするし死にそう。

 と、いうわけで、三村さんに肩を貸してもらっていた。情けないなんてもんじゃねぇぞこれ………。ほら、他の男子からゴミを見る目で見られてんじゃん……。あ、いやアレは違うわ。暗殺する目だ。夜中はホテルを抜け出して屋上で寝よう。

 

「………三村さん、これからの予定は?」

「え?えーっと……首里城公園。バスで移動して集合写真をクラスごとに撮って、見学して、そこからホテルですけど……大丈夫ですか?」

「…………無理」

「……じゃあ、先生に言って先にホテルに戻ろっか?」

「………そうする」

 

 そんなわけで、俺は一度その辺の椅子に座らせてもらい、三村さんは先生とお話しに行った。

 その間、クラクラしている頭を抑えて空港内を見回した。考えてみれば、ここは沖縄、那覇空港だ。あんま実感ないけど。せっかくだし、この空気を堪能しようと思って、息を大きく吸い込んだ時だった。

 

「………はっ?」

 

 ………なんで、文香が、ここにいんの…………?

 

 


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