その頃、千秋。ロングホームルームで、沖縄の観光ルートを班ごとに決めてる中、椅子に跨って半端なく貧乏揺すりをしていた。班員が一歩引きながらその様子を見てる中、かな子が苦笑いを浮かべて聞いた。
「………あの、鷹宮くん?どうしたの?」
「……………」
「た、鷹宮くんっ?」
「おうっ⁉︎な、何っ?誰?建造時間何分だったっけ⁉︎」
「あ、あの……三村、だけど……」
「み、三村さん……?何、どしたの?」
「いや、鷹宮くんも一緒に修学旅行の行き先決めたくて……何かあったの?」
「いや、何でもない。俺はグランドキャニオン行ければ良いから」
「………グランドキャニオンはアメリカだよ……」
「……………」
心配ですごい貧乏揺すりしてた。
×××
楓に帰る前に、自宅から替えの服を持って来てもらい、軽く色々スーパーで買って来てもらって、文香は再び眠り始めた。しばらく目を閉じてると、ピンポーンと音がした。
「……………」
寝ようと思ってた時に……と少しイラついたが、お留守番はしっかりこなさないと、と思い直し我慢して応対した。
「………は、はい……」
玄関を開けると、神谷奈緒が立っていた。
「よう」
「……な、奈緒さん………?」
「鷹宮くんに言われて、お見舞いに来たぜ」
「………え、でも、学校は……」
「今日は開校記念日なんだよ」
嘘だった。本当はキュアブラックのスケールフィギュアと引き換えにサボらされた。
「とにかく、あたしが看病するから、文香さんは寝ててよ」
「……すみません、お手数をおかけします………」
「いや、良いよ別に」
それにしても、と奈緒は思った。よくアイドルをここまでこき使えるな、と千秋に思わず感心してしまった。
文香は布団の中に戻り、寝転がった。
「体調はどうなんだー?」
「………まだ少し怠いです……」
「お腹は?何か食べる?」
「……楓さんに作っていただいたので大丈夫です………」
「そっか……。じゃあ、何かして欲しいことあったら言ってくれよ?」
「…………はい」
「ところでさ、この部屋の本って読んでも平気なのか?」
「……大丈夫だと、思いますよ」
奈緒は本棚からBLEACHを手に取って読み始めた。
すると、文香の携帯が鳴り響いた。手の届く位置に置いてあったので、文香は自分でスマホをとって耳に当てた。
「…………もしもし」
『文香さんっ?』
「! ち、千秋くんですかっ?」
一瞬、すごい嬉しそうな顔になったが、すぐにハッとなって厳しい口調で聞いた。
「………学校ですよね?なんで電話してくる暇があるんですか?」
『今昼休みなんですよ。それより大丈夫ですか?神谷さんと高垣さんは来ました?』
「……はい。今、月牙天衝の練習してます」
『何してんだよあいつ……それで、その、体調の方は………』
「……大丈夫ですよ」
とりあえず、気を使わせないような返事をする事にした。
「……元気とは言えませんが、大分今朝より……」
『げ、元気じゃないんですか⁉︎』
「……楽に、えっ?」
『や、やっぱり俺帰った方が良いですか?そ、そうですよねっ。帰った方が良いですよね?今から早退を……!』
「………だ、ダメです!あと2時限なんですから、ちゃんと授業受けて下さい」
『大丈夫です!俺、エージェントの才能ある(気がする)のでバレずに帰れます!』
「……そういう問題ではありませんっ!私なら奈緒さんもいますし大丈夫ですから!」
『そ、そうですか……?ほんとのほんとに大丈夫?』
「………大丈夫です」
『死なない?』
「………ただの風邪で死ねますか」
『………わ、分かりました。あ、何か買ってきて欲しいものとかありますか?万引きしてでも買って来ますよ!』
「大丈夫です!」
『分かりました……。あの、神谷さんに代わってもらえます?』
「………は、はい。……奈緒さん、千秋くんからです」
「月牙天……あたし?はーい」
奈緒はスマホを受け取ると、耳に当てた。
「もしもし?なんだ、あたしにまで」
『おい、文香さんに何かあったら』
「あったら?」
『お前を殺す』
「ヒイロかお前は……。分かってるよ、その代わりアレな?」
『約束は果たす』
「はいはい……じゃ、文香さんに代わるよ?」
奈緒は文香にスマホを戻した。
「………では、私はそろそろ寝ますので」
『は、はい。あの、本当に辛かったら言っ』
「大丈夫ですっ」
そう言って電話を切った。ふぅ、と文香は息を吐くとスマホを床に置いて寝転がった。
ふと奈緒の方を見ると、ニヤニヤしながら見てるのに気付いた。
「………なんですか?」
「いやー?」
気になったので聞いてみたが、ふわふわした返事を返して来てから言った。
「さっき、電話来た時に文香さんすごい嬉しそうだったなーと思って」
「っ、そ、そうでした?」
「うん。なんか、すごいホッとしたような感じだった」
「……………」
カアァッと顔を赤くする文香に、奈緒はニヤニヤしながら言った。
「その時の文香さんの顔、すごい可愛かったぞ」
「………や、やめてください……。恥ずかしいです……」
「ごめんごめん。ほら、早く寝ろよ」
「……は、はい………」
文香は目を閉じた。
「『卍』『解』『神殺鎗』」
「………奈緒さん、眠れないので静かにして下さい」
×××
何時間経過しただろうか。文香はまた目を覚ました。目をこしこしと擦りながら、くあっと欠伸をして起き上がると、千秋が本を読んでいた。
「……………」
「あ、起きました?」
「………おはようございます」
「身体の調子はどうですか?」
「んっ………朝よりかなり楽になりました」
「良かったです。一応、体温測りましょう」
「………はい」
体温計を渡すと、文香は脇に体温計を挿した。しばらく、そのまま待機した後、ピピピッと体温計が鳴り響いた。
「………37.3℃です」
「大分下がりましたけど、少し高めですね」
「……はい。千秋くんのお陰です」
「そんな……俺は全然何もしてないですよ」
「………そんなこと、ないです。千秋くんが二人もここに連れて来てくれたから……」
「……そう言ってくれると、嬉しいですけど」
「……はい、ありがとうございます」
お礼を言うと、千秋は照れ臭そうに頬をかいた。
「………じゃあ、文香さん」
「? なんですか?」
「遅くなりましたけど、誕生日おめでとうございます」
「……………えっ?」
文香は反射的にスマホを見た。10月27日、自分の誕生日だった。風邪引いててすっかり忘れていた。
「今日は風邪引いてますから、誕生日会は明日にしますけど、それでも一応、言っておこうと思って」
「………す、すみません。自分の誕生日なのに、すっかり忘れてました。ありがとうございます」
「プレゼントとかは、明日の方が良いですか?」
「……そうですね。パーティーの時にお願いします」
「分かりました。じゃあ、」
そこで言葉を切ると、千秋は文香の唇に自分の唇を押し付けた。
「ーっ!」
文香が目を見開いてる間に、千秋はしばらく唇を押し付けた後、顔を真っ赤にして離れた。
「………今日のプレゼントはっ、こ、これで……」
「……千秋くん、顔真っ赤ですよ?」
「………文香さんだってそうです」
「………バカ。風邪、移っちゃうかもしれないのに」
「……移っちゃったら……その時はその時です」
「……………」
千秋に微笑まれて、文香は気恥ずかしくなって顔を逸らした。
「とりあえず、今日の分はこれで良いですか?」
「……………」
目を逸らす文香に千秋は追撃するように問い詰めると、文香は目だけ千秋に戻すと、顔ごと向けた。
「………足りません。もう一回……」
「………た、足りない?」
「………すみません、少し嬉しくて……気分が高揚してるみたいです。もしかしたら、風邪の所為かもしれませんね」
「……風邪の所為だったら、仕方ないですね」
千秋はもう一度、文香とキスをした。もう一度というかそのまま10回くらいキスをした。
×××
今更、キスをし過ぎてお互いに恥ずかしくなって、千秋は逃げるように風呂に入った。
で、二人で晩飯を食べて、歯磨きをして寝ようとなった時だ。文香は深呼吸をすると、布団を敷き始めた千秋に言った。
「………千秋くん」
「なんですか?」
「……寝る前に、パジャマを取り替えたいのですが」
「あ、すみません。俺、洗面所いますね」
「………いえ、その……汗をたくさんかいたので、身体を拭きたいんです」
「そ、そうですか?」
「………拭いて、いただけませんか?」
「…………はっ?」
貴様今なんと言った?と言わんばかりに千秋は首を傾げた。
「………お願い、します」
「……えっ、いや……えっ?」
「………ま、前もとは言いません。背中だけで、良いですから……」
「いやいや、ちょっ……えっ?あの、自分で何言ってるか分かってますか?」
「…………分かってます。でも、背中は届きませんし……明日、誕生日会を開いていただくのに、ぶり返したらダメじゃないですか……」
「や、でも………」
「……千秋くんっ」
文香は千秋の胸元の服をキュッと掴むと、上目遣いで聞いた。
「………彼女にここまで言わせて、拒むんですか……?」
「……………」
すると、千秋はため息をつくと、緊張気味にため息をついて呟いた。
「………分かりました」
「……ありがとうございます」
文香はそう言うと、早速千秋に背中を向けて上半身の服を脱いだ。千秋はタオルを手に取ると、文香の背後に立った。理性をフルに燃やし「俺は人の背中を拭くためだけに生まれた存在だ」と言い聞かせながら座った。
「………ふ、拭きますよ」
「……………は、はい」
二人とも顔を真っ赤にしていた。とりあえず、文香の脇腹に左手を添えると「ひゃうっ」と文香から声が漏れた。慌てて左手を引っ込めた。
「すっ、すみませんっ」
「………い、いえっ、驚いただけです……。続けて下さい」
「………は、はい」
文香の脇腹に再び手を添えた。ふにふにと柔らかい感触が手に残る。千秋は理性をイノケンティウスで燃やすと、背中をタオルで擦った。擦るたびに「んっ」と文香から色っぽい声が漏れる。
そのまま背中を拭き終えると、千秋は文香の背中から離れた。
「………お、終わりましたよ」
「………も、もう終わりですか?」
「…じ、じゃあ、俺は洗面所にいますから、終わったら呼んで下さいねっ」
千秋は逃げるように洗面所に入った。その背中を見て、文香は呟いた。
「………少しくらい、手を出してくれても良いのに」
楓に持って来てもらった新しいパジャマに着替え、文香は「良いですよ」と千秋に声を掛けた。
「………寝ますか」
「………そうですね」
二人は布団に入った。キスしといて今更な気もするが、風邪移るといけないから、という名目上で二人は別々の布団で、顔を真っ赤にして寝た。