「……で、どういう事なんですか?」
奈緒の家、そこで文香は千秋に問い詰めた。
「……何で千秋くんが奈緒さん達と一緒にいて、私を奈緒さんの家に誘うんですか?」
「や、だからそれは理由は今は言えないんだけど……」
「……ちゃんと説明して下さらないと、納得できません」
そう言われても、千秋は目を逸らして何も言わなかった。すると、加蓮が二人の間に入った。
「ま、まぁまぁ。文香さん落ち着いて?私達が鷹宮くんを誘っちゃっただけだから。鷹宮くんに何もやましいことはないよ」
「………ですが、私も驚いたんですよ?『神谷さん家でゲームするんだけど、来てくれない?』って言われて。何がどういう状況になったのかまるで分かりませんでしたから」
「ガンダム○Sって聞いたら、そりゃ鷹宮くんもやりたくなるでしょ?普段、知り合いと対戦しないなら尚更」
「……それは、わかりますが……」
「私達もこれからは鷹宮くんを誘う時は、彼女にちゃんと許可もらうからさ。ね?彼女さん」
「………はっ、はいぃ……」
彼女を連呼され、恥ずかしくなった文香は赤面して俯いた。その様子を見て、奈緒と凛と千秋は引き気味につぶやいた。
「すげぇ、言い包めた……。さすが加蓮だ……」
「たまにズルいよね、加蓮って……。プロデューサーにジュース奢らせるの上手いし」
「え、そうなん?キャバ嬢の才能があるな」
その直後、加蓮は微笑みながら言った。
「なんて嘘。ホントはあのクソ男、ここで私達と4Pするために来たんだよ?」
「へあっ⁉︎」
グレイズアイン並みの手の平返しに、千秋の間抜けな声が漏れた。その直後、ゆらりと文香は千秋の方に振り向いた。
「………千秋くん、少しお話があります」
「えっ?いやっ、今のは」
「……言い訳しないで下さい。お説教です」
「ちょっ、待っ……!テメェ北条覚えてろよ⁉︎」
加蓮は言われても「あっかんべー」と舌を出した。文香に廊下まで引き摺られる千秋を見ながら奈緒、加蓮、凛は呟いた。
「自業自得だな」
「助けてあげたのにあれはないわ」
「アイドルにキャバ嬢はないよね」
最もだった。三人はバカップルを放っておいて、ゲームの準備を始めた。
×××
30分後、文香(怒)と千秋(泣)が戻って来た。
「………お待たせしました」
「あ、戻って来た」
「おかえり。もう始めてるよ」
「……その前に加蓮さん、良いですか?」
「え、何?」
あっけらかんとした感じで聞き返した直後、加蓮は自分の背筋が凍りつくのを感じた。身体が動かない、まだ寒くなる季節でもないのに鳥肌が立っていた。それらの元は、文香からだった。
「………二度と、性質の悪い嘘をつかないで下さい。良いですね?」
「…………は、はいっ」
本気で、もう二度と文香を怒らせるのはやめようと心に誓った加蓮だった。ちなみに、残り二人は「いやそもそも信じるなよ」と思った事は言うまでもない。
まぁ、そんな一幕はともかく、ゲーム大会開始。結局、チーム決めなどはされずに、千秋を除く四人でグーパーをして別れた。
その結果、文香凛vs加蓮奈緒となった。
「って、結局こうなるのね……」
凛は隣で浮かれてる奈緒と加蓮を見て呆れた。ちなみに、ソファーの下に千秋と文香が座っている。
「よーっし、まずは勝ったね」
「さっさと終わらせて、またチーム分けするかぁ!」
ノリノリでそう言う二人の下で、文香は凛に言った。
「………なるべく、足を引っ張らないようにしますので」
「ううん。私もヘタクソだから、大丈夫」
その会話を聞きながら、千秋が後ろを振り返って言った。
「つーかお前らさ、誰が文香さんが弱いなんて言ったの?」
「「「へっ?」」」
文香はX1改を選んだ。
「俺と今までずっと一緒にやって来たんだよ?弱いわけないじゃん」
「……………」
沈黙が流れた。千秋がそう言った通り、文香と凛………というより、文香の一人勝ちとなった。白ける場。やがて、加蓮と凛が元気良く手を挙げた。
「「文香さん!私とチームになろう!」」
「………えっ?えっ?」
「おい待て、俺の時と随分反応違くね?マックでお前ら俺の事拒絶してたろ」
「だ、ダメよ二人とも。文香さんが一番強いなら、一番弱い私と組むべきでしょ?」
「あ、渋谷さんも止める側じゃないんだ。ていうか俺の台詞は無視?幻聴扱い?」
軽く泣きそうになってる間にも、文香争奪戦は続いた。だが、その間に文香が「あのっ……」と口を挟んだことにより、一時休戦した。
「………あのっ、私は……千秋くんと、やりたいです……」
その言葉に、千秋は思わず泣きそうになった。やはりこの人は俺の事を忘れてはいない、的な感じで。
だが、他の面子はそうもいかない。千秋と文香が組んだら誰も勝てないからだ。と、思った直後、文香は続きを言った。
「……そっ、そのっ………チーム戦なら、千秋くんに勝てる気がする、ので……」
ああ、そういうこと……と、四人は納得(一人涙目だけど)し、文香チームと千秋チームに別れて勝負を開始した。
×××
そのまま夕方までゲームを続けた。文香と千秋のどちらかがやめると、戦力差が大きくなるのでやめるわけにはいかなかった。
その結果、疲れ切った千秋は、いつの間にか文香の肩に頭を乗せて眠ってしまっていた。
「………あら、眠ってしまいましたね……」
「えー。まだ鷹宮くんのこと一回も落とせてないのにー」
「……仕方ありませんよ。私と千秋くんはずっと連続でしたし」
「でも、鷹宮が寝ちゃったら、あたし達ゲーム出来ないぞ」
「………それなら、私が皆さんにこのゲームについて、色々と教えて差し上げるのはどうでしょうか。そうすれば、次は千秋くんにも勝てるかもしれませんよ?」
「おお、いいね!」
との事で、四人で特訓を始めた。今更だが、文香の教え方は質より量だ。つまり、最初からクライマックスで、延々と戦闘開始。
そのまま、さらに2時間くらいぶっ通しで続け、加蓮、奈緒、凛はソファーの上でグダッと寝転がった。
「もう、無理………」
「疲れた……一生分ゲームやった気がする……」
「しばらくガンダムは見たくない……」
「………もうやらないのですか?」
キョトンと首を捻る文香に、加蓮が言った。
「………さ、流石に休憩しようよ……。文香さんは疲れてないの?」
「………疲れていますけど、もっとやらないと千秋くんには勝てませんから……」
「……よ、よくそこまで頑張れるね………」
「………ま、まぁ、その……上手くなれば、千秋くんは私ともっと楽しんでゲームが出来ると、思いますから……」
途切れ途切れに恥ずかしそうに、文香は呟いた。その様子を見て、加蓮も凛も奈緒も茶化すのを躊躇するほど、胸。ズキュンと貫かれた。とうの千秋は文香の肩から滑り落ちて、膝の上で眠っていた。
その寝顔を見ながら、加蓮はソファーの上で屈んで、千秋の頬を突いた。
「まったく……こんな良い彼女いないよ?大事にしなよー」
「んっ………」
「あっ、やばっ……起きちゃった?」
「……大丈夫ですよ、加蓮さん。千秋くんはそのくらいじゃ起きませんから」
「あ、そ、そうなんだ?あと、突いても良い?」
「………もう突いてるじゃないですか。良いですよ」
「あ、じゃああたしも突く」
「私も」
「えっ、ちょっ」
奈緒と凛も参加し、寝てる千秋の頬を突いた。
「ぷにぷにしてるなー。柔らかい」
「ほんとね……普段のふてぶてしさとは考えられないくらい柔らかいね」
「……可愛いでしょう?私の家に泊まった時は、いつも私先に起きて寝顔を眺めるんです」
「えっ、と、泊まってるの?」
「…………あっ」
口が滑った、みたいに目を逸らす文香。だが、その行為は周りの奴からしたら尚更、「質問して下さい」と言ってるようなもので。三人は目を輝かせて質問した。特に、いつもいじられてる奈緒は一層、目がキラキラしていた。
「何々⁉︎どこまでいったの⁉︎」
「何?泊まるってマジ⁉︎何やったの⁉︎」
「文香さんが大人になった⁉︎」
「ちっ、違いますっ!落ち着いて下さい!別に、えっちなことしたわけではないんです!」
「一緒に寝たのに?」
「ありえなくない?」
「まぁ、二人ともムッツリそうだし」
「う、うるさいです!千秋くんはそうかもしれませんけど、私は違います!」
「彼氏をあっさり切り捨てたよ……」
引き気味に加蓮は呟いた。まぁ、確かに匂いを嗅がれたり噛まれる事をおねだりしたりする人の台詞ではない。その事を加蓮が知っているわけでもないが。
すると、加蓮の隣の凛が聞いた。
「……逆に、寝泊まりしてるのに何もしてないの?」
「………していません。千秋くんは私に手を出して来ていませんから」
「へー意外。普通、アイドルでスタイルも良い文香さんが彼女なら、何回か手を出すと思うんだけどな」
「………す、スタイル、ですか?」
「そうだな。文香さん、胸大きいし」
「……そ、そうでしょうか」
「うん。肌も綺麗だしまつ毛も長くて……」
「あと出るとこ出てる割に締まるところ締まってるよね」
「っ?ち、ちょっと凛さん……!お腹触るのはやめっ」
「そうだよ、凛」
「……加蓮さん、ありがとうございます」
「触るなら彼氏が起きないようにしなきゃ」
「か、加蓮さん⁉︎」
「お、おいっ。鷹宮起きちゃうんじゃないか?」
「大丈夫だよ、本人に触れなければ」
「しょっ……そういえば、千秋きゅんは割と起きやすいでしゅっ……ですよ⁉︎」
「噛み過ぎでしょ。嘘つくの下手だね」
凛にシレッと看破され、文香はお腹や胸を触られ続けた。
「ちょっ、やめっ……んっ……!」
「ふわー、髪もサラサラ……ていうか良い匂いする……」
「ひゃっ……!か、髪はダメで………!」
「綺麗な手ー。ネイルしてあげたい」
と、まぁ千秋を膝枕していて動かないことを良い事に、やりたい放題されてる時だ。髪を掻き上げた奈緒が「あれっ?」と声を漏らした。
「………なんで、こんなとこに噛み痕があるんだ?」
「「…………えっ?」」
「……………えっ?」
三人はその質問に声を漏らした。もちろん、加蓮と凛の二人と文香の反応の意味は違ったが。
それをいち早く嗅ぎ取った加蓮は、文香に聞いた。
「………ねぇ、なんで?」
「い、いやっ、その……」
目を逸らして、文香はタラタラと汗を流し、必死に言い訳を考えた。で、苦し紛れにボソッと呟いた。
「…………きっ」
「「「き?」」」
「……キスショットアセロラオリオンハートアンダーブレードに噛まれて………」
「はい嘘」
「もう少しまともな嘘つきなよ」
「お前、ツマんないウソつくね」
一人だけ人型近界民がいたが、とにかく全員からあっさり看破された。だが、今回ばかりは文香もバラすわけにはいかない。なんとか逃げ道を探した。
そんな中、少し前に千秋に言われた誤魔化し方を思い出した。
『とにかく、アニメネタを連呼して下さい。それで大抵の相手は呆れて諦めるから』
今、まさにそれの使いどきだ。
「………ち、違うの!痛かったの!お腹が痛かったの!」
「いや、アニメネタで誤魔化さなくて良いから」
シレッと凛に防がれた。目の前で安眠してる千秋を叩き起こしてやりたくなったが、可愛い寝顔を台無しにするのは嫌なので我慢した。
しかし、本格的にピンチだ。性癖を晒すような事があれば、変態認定は免れない。しかも、バレる相手がよりにもよってトライアドプリムス。三人とも、参加ユニットは多い。その伝達力は音速だ。
どうしようか悩んでると、加蓮がさっきまでと違い心配そうな表情で聞いた。
「………もしかして、痴漢?」
「…………へっ?」
「いや、言いたくない事なら、何かあったのかなって、思って……」
すると、奈緒と凛も不安そうな表情に変わった。
「そ、そうなのか……?」
「何かあったの?鷹宮くんには相談したの?」
なんかとんでもない方向に話が進んでしまった。逃げ道とはいえ、他の人に心配されてまで隠し通すほどではない。
「………ち、違いますから。そんな事件になるような事ではありません……」
「そ、そっか、良かった……」
「じゃあ、何で首筋噛まれるんだよ」
「……………」
これは観念するしかない、そう思って口を開いた時だ。
「へ、ヘッキシ!」
わざとらしいクシャミが下から聞こえた。その直後、全員が下を見た。千秋が文香のお腹の方に寝返りをうった。
「………千秋くん?」
「……………」
「……千秋くん?」
「……………」
「………俺の拳が真っ赤に燃える」
「お、おはようございます」
「あ、それで起きるんだ」
加蓮の呆れたような台詞を無視して、起き上がった千秋に文香は聞いた。
「…………いつから起きてたんですか?」
「なんで起きてた前提……あ、いや、ついさっき起きたばかりです」
「………本当は?」
「………頬突かれまくってた時です」
「…………なんですぐに起きなかったんですか?」
「………文香さんの膝が柔らかくて……あと、文香さんが焦ってるとこ見るの可愛くて」
「……………」
直後、文香はイラっとしたのか、冷たい目で千秋を見ると、思いっきり顔面を抱き締めた。胸で窒息させるようにギュウッと抱き締め、千秋と凛と加蓮と奈緒は顔を真っ赤にした。
「っ⁉︎」
「……柔らかいのが好きなんでしょう?このまま何分でも抱き締めてあげます」
「んーっ!んーっ!」
「なんですか?もっと強く?」
「んんっ⁉︎」
抵抗するも、割と力の強い文香には無駄だった。段々と呼吸が出来なくなり、抵抗する力も弱まり、千秋の両手足がぐったりし始めた所で、いち早く正気に戻った加蓮が慌てて止めに入った。
「ち、ちょっと!死んじゃうよ鷹宮くん!」
「へっ………?」
文香はハッとして力を緩めた。千秋の頭は文香の胸の上に置かれたまま動かない。
「………お、大きい胸は兵器だね」
「……ああ」
凛と奈緒がボソッと呟いた時だ。正気に戻った文香は顔を真っ赤に染めた。
「………ほ、他の人がいる中で……」
赤くなった顔を両手で覆う文香。胸の上で微動だにしない千秋。しばらく沈黙が五人の間に流れた。
やがて、凛と加蓮は荷物を持って立ち上がった。
「………じゃ、私達は帰ろっか」
「そだね、時間も時間だし」
「おおい!待てお前ら!この中であたしを一人にするなぁ!」
「「お邪魔しましたー」」
「おーい!連れて帰れー!」
結局、帰られた。千秋と文香は一泊した。