9月最後の日、土曜日だったので俺はスタバに来ていた。しばらくコーヒーを飲んでると、待ち合わせの相手が来た。
「こんにちは、鷹宮くん」
「あ、どうも」
速水さんは俺のお向かいに座った。飲み物を机の上に置くと、ため息をつきながら言った。
「もう、今朝急だったから焦ったわよ」
「悪い。あんま友達と待ち合わせとかした事なかったから」
考えてみりゃ、社会人みたいなもんだからな。ちゃんと予定があってもおかしくない。
「今度からは予め言ってね」
「はい」
「それで、何の用なの?」
「文香さんの誕生日、何あげたら良いか分からなくて」
「………あと4週間弱あるじゃない」
「こういうのは予め考えておいた方が良いでしょ」
「私の予定は予め聞いておかなかった癖に………」
………確かに。
「でも、ほら……。俺って誰かに誕生日プレゼントあげた事ないから、不安なんだよね。何あげれば良いのか分からないし。ましてや女性に対してだから尚更」
「……それは分かるけど……。まぁ良いわ」
速水さんは飲み物を一口飲むと、聞いてきた。
「ちなみに、どんなものを考えてたの?」
「えっ」
「何かしら考えてたんでしょう?」
………それ、聞いちゃうの?
「まぁ、考えてなくは、ないが……」
「参考までに聞かせてくれる?何をあげようとしてたの?」
「………言わなきゃダメ?」
「当たり前じゃない。文香はあなたが選んだものなら、大抵のものは喜ぶと……」
「ゼータプラスのMG」
「…………一緒に考えましょうか」
悪かったな、センスなくて………。ある意味では喜んでくれそうなんだがな………。
すると、速水さんはため息をついてから呟いた。
「そういうことなら、一緒に探しに行ってみる?」
「今から?」
「ええ。テキトーにAE○Nとか見るだけで、結構色々と見つかるものよ?」
「マジかー」
「別に買う必要はないんだから。どんなものが売ってるかを考えるだけでも良いものよ」
………なるほど。前調べってやつか。確かにそう言うのも大切だな。
「じゃあ、行こうかな。……あ、文香さんには内緒で。やましい意味じゃなくて」
「分かってるわよ。サプライズって奴でしょ?」
「いや、誕生日は盛大に祝うって約束しちゃったから」
「………じゃあなんで内緒なのよ」
「何買うかは流石に教えたくないでしょー」
「ああ、そう言う……まぁ、理解はしたわ」
「じゃ、行くか」
飲み物をお互いに飲み干すと、俺と速水さんは店を出た。
×××
AE○Nに到着した。速水さんが軽く伸びをしながら聞いてきた。
「さて、まずはどの辺りを……」
「ゲーセン行かない?」
「あなたここに何しに来たのよ」
「え?だってゲーセンならキリトのフィギュアとか……」
「………文香なら喜びそうだから困るのよねそれ……」
それな。本当にアイドルがそんなんで良いのか。
「でも却下よ。誕生日くらい、その手の商品から離れなさい」
「だよなぁ………」
「というか、あなたはどうなの?」
「はっ?」
「アニメのキャラとはいえ、男の子のフィギュアを文香にプレゼントしても良いの?」
「流石にアニメキャラに嫉妬はないでしょ。ま、最もキリトに次元が一つ増えたら話は別だけどね。文香さんと知り合う前に、この世に一片のDNAも残さず消す」
「怖いわよ、発想が」
いやいや、アニメキャラに盗られたなんて事があればマジで自殺を考えるまであるから。
「で、一応聞くけど、他に思い付いたプレゼントはないの?」
「ない事もないんだけどなぁ……。デザインとかはわからないから、やっぱり実用性のあるものが良いかなと思って」
「あら、少しはまともな事を」
「だから、pso2のプリペイドカードとか考えたんだけど」
「……なんでそっちに逸れるのかしら」
「やっぱダメ?」
「ダメよ。二次元から離れなさい」
やっぱダメか……となると、実用性………。
「新しいプレ4のコントローラ」
「却下」
「メモリーカードとか?」
「却下」
「………あっ、ポケットWi-Fiとかは?」
「却下。てかあんたそれ契約とかしなきゃいけないからバレるわよ」
速水さんはさっきより深いため息をつくと、俺を睨んだ。
「あんた、本当にダメダメなのね。文香が可哀想よ」
「今言った奴の何がダメなんだよ」
「全部よ。もう電化製品も却下」
「えぇ……じゃあ後は………」
「実用性、と言う点は悪くないわ。ただ、あなたの場合は実用的過ぎるのよ」
「………そう?実用的なのダメ?」
「そうね……例えば、文香ならブックカバーとかなら喜ぶんじゃないかしら?」
「……なるほど、ブックカバー。探せばダンまちとかSAOのブックカバーとかあるかもしれないな」
「ブックカバーはやめておきましょう」
「なんでだよ⁉︎」
「分かりなさいよ‼︎」
むう……我儘な奴め………。
速水さんが仕方なさそうにため息をついて、人差し指を立てた。てか、溜め息つきすぎだろ。すみませんね、面倒かけて。
「じゃあヒント」
「え、いつの間にクイズ形式に」
「いいから聞きなさい。ヒント、文香の身につけてるものを思い浮かべなさい」
「身につけてるもの……?」
ふむ……文香さんといえば………。
「ストールとか、ヘアバンド?」
「それで良いのよ」
「えっ、だって持ってるものあげても仕方ないでしょ」
「日によって女の子は身につけてるものを変えたりするのよ」
「………そういうもんか?」
「ええ。じゃあ決まりね。とりあえず、ストールから見ましょうか」
「ストールってどこに売ってんの?ストール屋?」
「ストール屋って初めて聞いたわね……」
AE○Nの中を移動し、色んな店を間を歩いて行った。しかし、色んな店があるんだなー。ほとんど服屋だが、店によって売ってる服は違う。こういうところは競争とか激しそうだなー。
そんな事を思いながら、速水さんの後ろをついて行ってると、速水さんがクルッと不満げな顔して振り返った。
「………ちょっと鷹宮くん?」
「何?」
「なんで後ろを歩くの?一緒にいるのに」
「なんでと言われてもなぁ……。後ろにいた方が前にいる人の移動する方向転換に対応しやすいし………」
「なんかRPGみたいな感じでこっち気まずいのよ。普通隣でしょう?文香と出掛けてる時とかどうしてるのよ?」
「いや、関係バレるとマズイから、文香さんとは出掛けてない」
「………………」
あれ、なんかすごい虫を見る目で見られた。
「………確かにアイドルとお付き合いしてるから、そうなるのも分かるけど。でも、せっかく付き合ったんだから、もう少し楽しんでも良いと思うけど……」
「いや、それはマズイでしょう。アイドルと付き合ってる以上、一回のミスも許されないから。付き合ってるだけで文香さんがアイドル事務所クビになってもおかしくないんだから」
「…………まぁ、そうだけど」
「………それでも、確かに家デートだけじゃアレなんで、ゲーセン行ったりもしました。その時も後ろからついて行ってましたから」
「……文香に何か言われなかったの?」
「特には」
「…………文香、可哀想に。言えなかったのね、きっと」
「……なんでそうなるの………」
「とにかく、デートする時くらいは隣にいた方が良いんじゃない?ていうか、デ○ズニーの時は隣にいる所か手まで繋いでたじゃない」
「おい待て。お前なんでそれ知っ」
「とにかく、これからデートの時は隣にいる事。良い?」
「お前らまさかあのデートつけてたの?つけてたんじゃないだろうな?」
「さ、ストールの売ってそうな店を探すわよ」
「おい、聞けよおい!俺の告白の台詞とか聞いてないよな⁉︎聞いてないんだよな⁉︎」
あとで絶対問い詰めてやる!是が非でも‼︎
×××
ストールの売ってる店などを回った。要は、文香さんの場合は大人しめなストールが似合うという事らしい。
「………なるほど。大体、把握した」
「そう?なら良かったわ」
「文香さんに似合いそうなストールを選べば良いんだよね」
「ええ。まぁ、ぶっちゃけ文香ならあなたが選んだものはなんでも着そうだけど。それなら、あなたが文香に着て欲しいストールを買ってあげたら良いと思うわよ」
「………なるほど」
そうやって女性へのプレゼントを選ぶのか。かなり参考になった。流石、速水さんだなぁ。
「それで、プレゼントする柄は決まったの?」
「……んー、まぁ候補三つまで絞り込みました」
「あら、早いのね。他の店にも売ってるのだから、もう少し慎重に……」
「そのうちの一つを誕生日、一つをクリスマスにすれば良いので、切り捨てるのは一つで良いと………」
「待ちなさい。え、あんた今なんつった?」
「ん?や、だから三つある候補のうちの二つを選抜すんの。誕生日とクリスマスで」
「馬鹿なこと言わないでくれる?お願いだから」
「えっ……ちょっ、何が?」
「同じ物を二回連続で渡す人はいないでしょう?」
「や、だってストールとかって、いくつか持ってて、それを使い分けるんでしょ?」
「それとこれとは話が別よ。あなだって……例えば、ガンプラを誕生日とクリスマスで連続でもらって嬉しい?」
「え?嬉しいけど?ガンプラだし」
「例えが悪かったわね……。なんかもう面倒臭くなって来た。クリスマスはクリスマスで、文香が身に付けてる中であげたら喜びそうなものを選びなさい。良いわね?」
「………えーじゃあもう少しストール選び考えよう」
「そうしなさい。まだ誕生日まで4週間弱あるんだから」
その通りかもしれない。まぁ、こういう店に男一人で入るのは気まずいから、多分ネットショッピングで済ませるけど。
にしても、俺一人じゃストールなんて答えには行き着かなかったな。速水さんには感謝せねばなるまい。いや、今日だけじゃないな。冷静に考えてみりゃ、この人がいなかったら俺と文香さんは付き合えてなかったかもしんないしなぁ。
………そう考えると、なんか隣の人がすごい女神様に見えてきた。
「……あー、速水さん」
「何?」
「えっと……その、なんだ。たまにはなんか奢るよ」
「えっ、何急に。変なものでも食べた?」
「………や、なんか今まで世話になってたから、たまにはなんか奢ろうと思ったけど、やめとくわ」
「冗談よ。冗談だから。何か奢って?」
「はいはい……。あんま高いのは無しよ」
「分かってるわよ。とりあえず、フードコートに行きましょう?小腹が空いたわ」
「りょ」
で、フードコート。ラーメンだのマックだのケンタだのなんか良く分からんステーキ屋だのが並ぶ店通りを、俺と速水さんは見て歩いた。
「うーん……何が良いかしら?」
「や、俺は奢る側なんで。そちらの好きにして下さい」
「そうよね……。じゃ、とりあえず銀○こで」
「了か……とりあえず?」
「足りなかったら他にも頼むわね」
「……………」
確かに「高くないもの」とは言ったが、一つとは言ってない。まぁ良いか。正直、文香さんと付き合って一年間は速水さんの助けなしでいられるは思えないし、これからもお世話になるかもしれないんだから、これくらいの出費は………。
「とりあえず、たこ焼きとドーナツとポテトとチキンで良いわ」
「……………」
……余りにも容赦がなさすぎて泣きそう。つーか、アイドルがそんなに食って良いのかよ。
で、全部買い揃えて、机の上に並べた。俺も自分の分のラーメンを頼み、自分の前に置いた。
「………あら?あなた、ラーメンも食べるの?」
「え?うん」
「私はあなたと一緒にこれらを摘めれば良いと思ってたんだけど」
「…………先に言えよ。つーか、フードコートの使い方間違ってんだろそれ」
「……ま、買って来ちゃったものは仕方ないわ。食べましょう?」
そんなわけで、食事を始めた。ラーメンをゾボボッと啜りながら、速水さんに声をかけた。
「そういえば、速水さんは彼氏とかいないん?」
「いないわよ。いい人がいなくて」
「ふーん……プロデューサーは?」
「プロデューサーと恋仲になんてなったら大変よ。大問題じゃ済まされないわ」
「だよなー。いや、俺も今までたくさん協力してもらったし、返せれば良いかなって思ったんだけど」
「誕プレでフィギュアだのガンプラだのコントローラだのを思い浮かべる人に助けてもらうことなんてないわよ」
「………だよね」
その辺は誕生日プレゼントじゃタブーなのか。俺は嬉しいけどなぁ。
「ま、私は彼氏作るなら大学に行ってから、かな」
「ふーん……大学はどこ行くの?やっぱ文香さんと同じ場所?」
「うーん……それも一応、考えてはいるわよ。けど、特には決めてないかしら。千秋くんは?」
「俺は進学しようかすら迷ってる」
「あら、どうして?」
「勉強が嫌いだから。だけど、仮に将来、文香さんと結婚するとしたら、大学くらい出た方が良いだろ」
「………気が早過ぎない?」
「可能性の話だよ。無いとは言い切れないじゃん」
「まぁ、そうだけれど………」
ポテトを齧りながら、速水さんは呆れたように呟いた。どうでもいいけど、女の人がポテト齧ってると、なんかすごいエロいな……。
そんな事を考えてると、速水さんが「あっ」と声を漏らした。
「それなら今度、学園祭一緒に行かない?」
「はぁ?速水さんの高校の?」
「違うわよ。文香の大学の学祭。………文香から聞いてないの?文香、演劇に出るみたいよ?」
「………kwsk」
おい、何それ聞いてないんだけど。