鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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スキル:フラグメーカー

 金曜日の夕方。今日は文香さんが用事があるとかで、俺は久し振りに一人だった。俺、一人の時とか何してたっけな……。全然分からん。とりあえず、暇だからテレビでも見るか。というわけで、テレビをつけた。M○テやってた。音楽か、アニソンとかは流れねーし興味ねーな。

 そう思って、テレビを回そうとした時だ。

 

『続いては、CAERULAの皆さんです』

 

 ピタッと俺の手が止まった。おい、そいつら確か文香さんのいるユニットだよな?撮影が終わった次の日から文香さんに関することは全部調べ上げた俺に隙はない。

 予想通り、テレビには塩見さん、速水さん、橘さん、二宮さん(名前だけ知ってる)、そして文香たんが映っていた。

 

「………タモさん(タモイさん)、文香さんに手を出したら虐殺するからな」

 

 幸い、席は遠い。誰か一人でも指一本触れてみろ。全員泣かす。

 すると、タモさんが質問し始めた。

 

『ところで、塩見さん。最近、なんかアイドルの間にゲームが流行ってると聞きましたが?』

 

 俺の背中に冷たい汗が流れた。

 

『そうですね。最近はゲームが流行っています。オンラインゲームですね』

『へぇ……ちなみに、なんてゲームなんですか?』

『pso2って言われてるゲームなんですけどね。みんなで時間合わせて、指定の場所に集まって、狩に行ったりしてるんです』

 

 おいいいい‼︎なんで言うの⁉︎なんで言うの⁉︎何考えてんの⁉︎

 

『……ちなみに、どんなゲームなんですか?』

『アクションゲーム、ですね。モンスターを倒してレベルを上げていく感じです』

『そうですか。……ちなみに、この中でそのゲームやってる人はどれくらいいるんですか?』

 

 すると、全員無言で手を挙げた。その反応に、タモさんは若干引き、俺は額に手を当てた。あいつら……間違いなくファン減るぞこれ……。つーか二宮さんもやってんのかよ……お前は俺と関係ねぇだろ。

 

『な、なるほど……。ゲームを始めたきっかけ、みたいなものはあるんですか?』

 

 おい、待て。それはパンドラの箱だ。頼むから正直に答えるなよお前ら。

 

『んーなんでだっけ?』

『なんか、誰かがやってたからみんな連鎖的にやってたよね』

 

 塩見さんに話を振られても、速水さんはベストとも取れる返しをした。うん、それ最高。

 

『そうでしたっけ?文香さんからじゃ……』

『いやっ!何と無くだよね!多分、荒木さんとかが流行らせたんだよね!』

 

 橘さんが素で何か言い出したので、慌てて塩見さんが隣から黙らせた。よくやった、塩見さん。今度ラーメン奢るわ。

 そのまま、タモさんとしばらく話していたが、文香さんは何か口を開くことはなかった。うん、話振られても文香さん会話とか苦手だし。最初、会った時とかかなり苦労したからなぁ。

 すると、音楽のスタンバイに入ったので、俺はスマホで撮影を始めた。さて、これで明日、文香さんをからかうか。

 

 ×××

 

 翌日。M○テの直後だったからか、文香さんは仕事が休みのようで。文香さんの部屋に入った。

 

「お邪魔しまーす」

「………あ、いらっしゃい。千秋くん」

「どうもどうも」

「………どうぞ、上がって下さい」

「昨日はお疲れ様でした。M○テ出演」

 

 文香さんは無言で何も無い場所でずっこけた。

 そして、四つん這いになったまま、真っ赤になった顔で俺を睨んだ。

 

「………みっ、見てたんです、か……?」

「はい。スマホのビデオで撮っておきました」

「っ!けっ、消してください!」

「消しても良いですけど、もうパソコンに保存してあるんで」

「っ!……ぅうう〜……昨日に限って、ステップ一回失敗しちゃってるのに〜………恥ずかしい……」

「そんな、恥ずかしがらなくても良いですよ。なんていうか、こう……と、とても可愛かったですし………」

「っ……!も、もうっ!そういうこと言わないで下さい‼︎………か、かわいい……えへへっ」

 

 そういう風にはにかむのやめて下さい。ときめいてしまいます。

 

「ちなみに、この動画。昨日から毎晩見てから寝る事にしました」

「っ⁉︎な、なんでそういうことするんですか⁉︎」

「いや、良い感じにこれが眠れるんですよ。文香さんがノリノリで踊ってるの見ると、こう……安心感に包まれるというか……」

「………なんでそれで安心するんですかっ?と、とにかくダメです!せめてスマホの方は消してくださいっ」

「………分かりましたよ」

 

 仕方ないので、削除した。まあ、パソコンには残ってるし、良いか。

 文香さんはため息をつきながら小声で呟いた。

 

「………まったく、昨日のライブで少し疲れてるのに……」

 

 それに、俺は思わず反応してしまった。

 

「………疲れてるんですか?」

「………は、はい。少し」

「なら、今日は家にいましょうか」

「………何か予定があったのですか?」

「や、良いですよ別に。気にしないで下さい」

「………むっ」

 

 言いながら文香さんは立ち上がった。で、不機嫌そうに腰に手を当てて、俺の顔の前にグイッと顔を近づけて来た。

 

「………なんですか?ちゃんと何か考えてくれてたんでしょう?」

「や、本当大したことじゃないんで」

「‥…言ってください。じゃないと今日は泊まらせてあげません」

「あ、いや本当大したことじゃないんですけど……。今日はたまには表に出てゲーセンでも行こうかと思ったんですけど……」

「………ゲーセン?」

「あまり行ったことないですよね?だから、たまにはどうかなって思ったんですけど、よくよく考えたら、テレビ出た直後に表歩くのはマズイですからね」

「………………」

 

 すると、文香さんはまたムッとした顔になった。

 

「……もう、どうしてそんな事言うのを渋ったんですか」

「や、だって疲れてるなら無理して欲しくないですから」

「………私は、千秋くんと遊ぶのなら多少無理しても大丈夫です。疲れと感じることもありません」

「や、でも周りにバレたら……。家出るところだって、周りの人に見られたらマズイんですし」

「…………それは、そうですけど……」

「……………」

 

 方法は一つか。

 

「来週にしましょう、ゲーセンは。ほら、現地で待ち合わせなら家に入る所も出る所も見られないでしょ」

「………そうですね。分かりました。千秋くんとゲームセンター、楽しみです♪」

 

 文香さんは楽しそうにそう言った。ようやく落ち着いて、とりあえず部屋の中に上がった。

 さて、今日は何をしようか。とりあえずゲームかな?と思ったら文香さんは「あ、そうだ」と手を叩いてポケットから何かを取り出した。

 

「……見てください、これ」

「?」

 

 文香さんが取り出したのは、オモチャの手錠だった。えっ、なんで手錠?

 

「………アニメ銀魂第166話『一つより二つ、一人より二人』って知ってますか?」

「ああ、銀ちゃんとトシが手錠で繋がる奴?」

「………はい。それを、少し試してみたくなりまして……」

「はっ?」

「………ダメ、ですか……?」

「や、別に良いですけど……。でも、あれやるなら二つないと……」

「………さ、さすがに二つはアレかな、と、思いまして」

 

 一つでもアレだけどな……。まぁ、たまにはそういうのも面白いかもしれない。さすがに、副長みたいに鍵なくすなんて事も無いだろうし。

 俺は右手を差し出した。右手を差し出せば、文香さんが使う手は左手だ。向こうは不便もしないだろう。

 

「どうぞ」

「……で、ではっ」

 

 文香さんは俺の右手と自分の左手を手錠に掛けると、なんか知らんがすごい満足そうな顔をした。

 

「………ふふっ、じゃあ何かしましょうか」

「嬉しそうですね」

「……そうですか?でも、他にもアニメとか見てやってみたい事とかあるので、それが出来るのは確かに嬉しいかもしれないです」

「例えば?」

「うーん……アレです、具象化しりとりとか」

「いやそれは無理でしょ……」

 

 まぁ、良いけど。このまま何すりゃ良いのかな。とりあえずゲームとか?

 

「何します?これから」

「……そうですね。とりあえず、ゲームとか?」

「たまには、ゲームといっても他のゲームやります?将棋とかポーカーとか」

「………ああ、良いですね。私も、ノーゲームノーライフを見てから、そういうボードゲームやカードゲームもやってみたいと思っていたんです」

「一応、持って来たんですけど」

 

 ゲーセン行かなかった時のためにな。2nd計画(この言葉カッコいい)は大事。

 そういうわけで、将棋をやることにした。ノーゲームノーライフで将棋ってやってたっけ?まぁ良いか。食卓に座ってボードを広げ、駒を並べた。

 

「文香さん、ルール分かりますか?」

「……大丈夫ですよ」

「やるなら罰ゲームつけません?」

「………そうですね。では、なんでも小さな願い事を一つ聞く、というのはどうでしょ?」

「了解です。じゃ、先手どうぞ」

「………盟約に誓って」

「盟約に誓って」

「「アッシェンテ!」」

 

 と、いうわけで、将棋を始めた。

 

 〜30分後〜

 

 完封で負けた。マジかよ、文香さん将棋強い。

 

「…………嘘」

「……ふふ、やりました」

 

 マジでか………。この人、思ったより頭良いのか?いや、本を読んでりゃそれだけ知識が入って来るのは当然だが。や、でもそれを将棋に応用できるとか怖過ぎるんだけど。

 

「もっかいです」

「はい?」

「もっかい!」

「………良いですけど、その前にお願い聞いてください」

「アッハイ」

 

 そうだ、忘れてた。文香さんは顎に人差し指を当てた後、良い笑顔で言った。

 

「……では、今日一日、私の事をお姉ちゃんと呼んで下さい」

「…………はっ?」

「………私、姉弟に憧れてたんです」

「……………」

 

 意外とマニアックなことを………!だが、約束は約束だ。果たすしかない。

 落ち着け、俺。二人しかいない状況下で相手の名前を呼ぶことなんて少ないだろ。会話の相手なんて一人しかいないんだから。回避の方法なんてある。

 

「………とにかく、もう一回です」

「……ちゃんとおねだりしないと嫌です」

「さっき良いって言ったじゃないですか‼︎」

「……言ってません」

「言った!」

「………じゃあ変更です。おねだりするまで再戦は無しです」

「っ……!お、お願いします………」

「……誰に頼んでるんですか?」

「二人しかいないでしょう⁉︎」

「……私、バカなので分かりません。あ、もしかしたら幽霊でも見えてるんですか?」

「幽霊⁉︎いるの⁉︎」

「………いや、そっちで怯えられると、それはそれで困るんですけど……。冗談ですよ。でも、ちゃんとお願して下さい」

 

 ………よかった、幽霊はいないんだな。しかし、ここまで分かりやすく調子に乗られるとは……いや、負けた俺が悪いんだけどな。

 とにかく、お願いしてこっちも仕返ししてやりたい。恥ずかしいが、背に腹はかえられぬ。

 

「………も、もう一回お願いします……お姉、ちゃん………」

「ーっ!可愛いです千秋くん!普段、ゲームで負けたりして煽って来るから尚更!」

 

 う、うぜぇ………!調子に乗った文香さんは、俺の頭を撫で始めた。

 

「…では、優しいお姉ちゃんがもう一度、相手してあげましょう」

「……………」

 

 我慢だ。次のターンまでに仕返ししてやれば良い。

 再戦した。

 

 〜2時間後〜

 

 0勝5敗。

 

「もっかい!もう一回頼みますお姉ちゃん‼︎」

「……はいはい。何回でもお相手しますよー」

 

 絶対におかしい‼︎なんで勝てないの⁉︎どう考えてもおかしい‼︎

 

「……その前に、罰ゲームですよね。……と、言ってもこれ以上にお願いすることなんて……」

 

 課せられた罰ゲームリスト

 ・お姉ちゃんと呼ぶ

 ・首筋にキスマークをつける

 ・文香さんのスカートを履く

 ・文香さんのストールを巻く

 

「……あ、じゃあヘアバンドつけていただきましょうか」

「……………」

 

 課せられた罰ゲームリスト

 ・お姉ちゃんと呼ぶ

 ・首筋にキスマークをつける

 ・文香さんのスカートを履く

 ・文香さんのストールを巻く

 ・文香さんのヘアバンドをつける(←New!)

 

 畜生………せめてスカートは外したい………!

 

「……弟、というよりも妹みたいですね?」

「…………るせー」

「んっ?何か言いました?」

「………なんでもないです」

「……さ、では再戦しましょうか」

 

 畜生……!楽しそうな顔してんなぁ。そんなに俺を辱めて楽しいか?

 

「……次は、どうしましょうか。メイクでも……あっ、私メイクできないんでした……。じゃあ……」

 

 もう勝った気でいるし………。何とかして勝たないと……。しかし、将棋か……。ルールは覚えてても試す相手が過去にいなかったのが盲点だ。今度、速水さんあたりに特訓させてもらおう。

 駒を並べ終えた所で、文香さんは「あっ」と声を漏らした。

 

「……その前に、お手洗いに行っても良いですか?」

「………どーぞ」

「……千秋ちゃん、不貞腐れないで下さい。後で言うこと一つ聞いてあげますから」

「そんな残念賞いるか‼︎てか誰が千秋ちゃんですか⁉︎」

「……ふふ、冗談です」

 

 微笑みながら、文香さんは自分のポケットを弄った。

 

「どうしました?」

「………いえ、手錠の鍵が……」

 

 ああ、そういや手錠してたな。すっかり忘れてた。流石に異性だし、いや同性でも嫌だけどトイレに一緒に行くわけにはいかないよな。

 俺はお茶を一口飲んで、次の将棋の手を考えていた。が、いつまで経っても文香さんが動き出さないことに気付いた。ふと文香さんを見ると、さっきまでの楽しそうな表情と違って、顔色が酷く悪い。……おい、まさか………!

 

「………文香さん?」

「………どうしましょう」

「…………」

「………鍵、無くしちゃった………」

 

 思うべき事は色々とあると思うが、とりあえず真っ先に思い浮かんだのは「因果応報とはこの事か」という率直な感想だけだった。

 

 


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