オタクは知らない間に感染している。
学校が始まり、数日が経過した。相変わらず、俺に友達などいなくて、一人でラノベを読みふける日々が続いた。まぁ、それでも夜とかは文香さんの家で遊んだりするんだけどね。
修学旅行の班決めで盛り上がってる中、俺は相変わらず無関係無関心を貫いていた。何でも一緒だし。修学旅行は意図的にサボるのは難しいので、風邪を引くことに決定した。それまでに氷風呂に入り、上半身裸で寝て、冷えピタをおでこに貼る、完璧だな。仕事がなければ、文香さんに看病してもらえる特典付きだ。
そんな事を考えながら、教室の中でボンヤリしてると「鷹宮くん」と声が掛かった。
「?」
「まだ、班決まってない、のかな?」
「あ、そうですけど」
え、誰この女。こんな可愛い子、うちのクラスにいたっけ?文香さんの方が可愛いけど。
「良かったぁ……なら、私と一緒の班にならない?中々、班員見つからなくて」
そう言うその女子生徒の周りには、女子が一人と男子が一人いる。全員名前を知らない。まぁ、俺に選択権ないし、拒否権もないから了承するしかないけど。何より、どの班になっても風邪を引くから問題ない。
「良いですけど……」
「よかったー。じゃ、名前書きに行って来るね」
黒板にその女子生徒は名前を書きに行った。他の二人は俺に話を振って来ることはなかったが、まぁそんなもんだろう。俺の行動なんて、ヒッキー的に言うと、三人の後ろを黙ってついて行けば良い。俺ガイル読んでて良かったわ、
そんな事を思ってると、黒板に名前を書いた女子生徒が戻ってきた。全員の名前を書き終えたか。これで全員の名前を覚えよう。そう思って、黒板を見た。
8班
・三村かな子
・男子生徒
・女子生徒
・鷹宮千秋
おそらく、一番上の名前が今書きに行った人の名前だろうな。三村さんか。一人くらいは班員の名前を覚えておこう。
×××
学校が終わり、俺は自宅に戻った。秋とはいえ、まだまだ暑い。この中、文香さんのマンションまで出掛けるのはしんどいが、向こうではそれ以上の見返りがある。行くしかない。
シャワーを浴びてから着替えて鞄を持って家を出た。途中、スーパーで買い物をしてからマンションに到着し、文香さんの部屋番号を入力した。マンションの管理人に「あいつまたここに来たよ」みたいに思われるのはマズイので、毎回帽子や服装を変えている。顔を覚えられるのは一番まずいから、帽子を被ってない時はマスクも着用している。
自動ドアが開き、マンション内を歩き、エレベーターに乗って上がった。到着し、玄関でもインターホンを押した。
「開いてますよー」
との事で、上がらせてもらった。
「どうも」
「……いらっしゃい」
「あ、これ。晩飯買ってきましたよ。あと、アイスもあるんで、冷凍庫入れておいて下さい」
「……毎度毎度すみません。ありがとうございます」
「いえいえ、俺もここで飯食うのが習慣みたいになってますから」
文香さんは袋を受け取って、台所に入った。俺は家の中に上がると、とりあえずソファーに腰を下ろした。
「………ふぅ」
「……お疲れ様です。暑かったですか?」
「まだまだ夏ですからね」
「……それはお疲れ様です。何飲みますか?サイダー、お茶、カフェオレがありますけど」
「サイダーで」
「……分かりました」
ラインナップが完全に俺のために揃えてあるんだよなぁ。ありがたい。
文香さんが飲み物を入れて、トレーを持ってきた。
「……晩御飯作っちゃいますね」
「手伝いましょうか?」
「………いえ、大丈夫です。毎回毎回、手伝ってもらっては………その、将来……お嫁さんに、なれませんから…………」
「………………」
ああああああ‼︎浄化されるううううううう‼︎可愛すぎんだろこの人おおおおおおお‼︎
「………千秋くん?」
「………死ぬ、可愛過ぎて死ぬ………」
「……か、かわっ………⁉︎」
顔を赤くすんなあああああああ‼︎尚更、可愛いだろうがあああああああ‼︎
「………じゃあ、お願いします」
「………は、はい」
文香さんは晩御飯を作り始めた。その間、俺は暇だったのでスマホをいじっていた。
晩飯が完成し、二人で食べ始めた。作ったのはカレーだった。
「んっ、美味っ」
「……良かったです」
ちゃんと俺の好みを捉えている。ジャガイモとか良い感じの硬さだ。柔らか過ぎるのは好みじゃない。
飯を食ってると、文香さんの視線が俺の口に集中してるのに気付いた。
「………文香さん?」
「っ⁉︎み、見てません!何も見てませんよ⁉︎」
「…………」
なんか、一週間くらい前から文香さんが、食事中の俺をやけに見て来るんだよな。
「……あの、なんか変ですか?」
俺、細かい食事作法とかは知らないが、割と礼儀正しい方だと思ってたんだけどな。
「いっ、いえっ!千秋くんは変ではありませんよ⁉︎むしろ、変なのは私の……性癖でして………」
「はっ?」
「い、いえっ!なんでもありません‼︎それより、どうですか?学校の方は!」
強引に話をそらされたので、仕方なくそっちに乗った。性癖の話は速水さんにでも聞いてみよう。
「いつも通りですよ。一人でスマホいじってます」
「……そういうことではなくてですね、その……イベントとかです。そろそろ、そういうのを決める時期なのではありませんか?」
「ああ、今日は修学旅行の班決めの日でしたね」
「……………」
「あれっ?ど、どうしました?」
なんかショボンと肩を落とし始めた。なんかまずい事言ったかな。
「………い、いえ……修学旅行の間、千秋くんと会えないと思うと……」
「ああ、その心配はないですよ?」
「?」
「だって………」
俺、風邪引きますから、と続けようとしたところで、俺の口は止まった。そんなこと言ったら怒られる。「修学旅行くらいちゃんと行ってください!一生の思い出なんですよ⁉︎」みたいな。最悪、看病に来てくれない可能性もある。ここは、黙っておくべきか。
「………今は携帯とかあるじゃないですか。俺、ポケットWi-Fiありますから、遠距離でゲームも出来ますよ」
「………そ、そうですよね。大丈夫ですよね」
「はい。毎日、部屋抜け出して一人になれる場所探して、ちゃんと電話しますから」
「………はい。分かりました」
まぁ、風邪引くからそんなんしないけど。
晩飯を食べ終わり、食器を流しに出して洗い物を手伝って終わらせると、二人でソファーの上に座った。
そして、俺は鞄から3○Sを取り出した。
「やりますか?」
「……やります!」
最近、文香さんが買ったモンハンXXをやる事になった。俺は太刀、文香さんはもちろん双剣。
「キークエなんですか?」
「……レウスとレイアです」
「りょ。さっさと終わらせて上位行きましょ」
「はいっ」
二人で狩りを始めた。
×××
気が付けば、文香さんの部屋も大分変わったもんだ。俺が初めてこの部屋に来た時は本がバカみたいに多い事を除けば、割と普通の部屋だった。
だが、現在は普通の本の本棚とライトノベルの本棚と漫画の本棚に別れ、テレビの下の棚の上の段にはプレ4が設置されていて、そのプレ4の隣の箱の中には、3○SやVita、そしてそれらのカセットの箱が敷き詰められている。下の段には、文香さんが気に入ったアニメのBlu-rayディスクが並べられ、テレビの前にはフィギュアが何体か並んでいる。
ベッドの上にはポケ○ンとかのぬいぐるみが置かれていて、ベッドの隣の棚の上には、ヴァイス○ュヴァルツのデッキケースがいくつか並んでいて、その上の壁には色んなアニメのポスターが貼られている。そして、リビングから出口に繋がる廊下には、読み終えて付録も剥がした漫画雑誌が紐で結ばれて置かれていた。
「……………」
染まったなぁ、この人。アイドルらしさゼロやん。少し羨ましいが、それ以上に俺の所為なのか?っていう罪悪感が………。や、まぁ俺の部屋よりはマシか。
そんな事を考えながら、軽く伸びをした。文香さんを無事に上位まで上げて、とりあえずそこでやめた。さて、明日も学校だし、そろそろ帰らないといけない。
「じゃ、俺そろそろ」
「……は、はいっ。では、また明日、ですね」
「はい」
そう言って、鞄を持って玄関まで歩いた。靴を履いてると、文香さんが声をかけてきた。
「………あの、千秋くん」
「はい?」
「……ちなみに、修学旅行っていつなんですか?」
「さぁ?多分、11月頃」
「………なら、良かったです」
「何がですか?」
「………私の誕生日は、10月27日なんです」
「………なるほど。覚えときます」
「……はい。ちなみに、千秋くんの誕生日はいつなんですか?」
「5月9日」
「…………むっ、なら祝ってくれなくても良いです」
「なんでですか」
「不公平じゃないですか!」
「知りませんよ……。意地でも祝いますからね」
「………むー」
なんで不機嫌そうなんだよ……。そんな会話はともかく、部屋を出て家に向かった。
エレベーターを降りて、マンションの出口を出た。しばらく家に向かってる時だ。「鷹宮くん?」と俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。まぁ、文香さん以外で俺の事を呼ぶ奴なんてアイドルに限られてるが、今まで聞いたどのアイドルの声でもない。よって、俺と同性の名前を呼んだと捉えるべきだろう。
そう判断した直後、俺の腕を後ろから引っ張られた。
「もうっ、鷹宮くんっ」
「?」
「どうして無視するの?」
声をかけて来たのは、三村さんだった。同じ班の。
「あ、どうも」
「何してるの?こんな時間に」
「あー……ちょっと遊んでて、今帰ってるとこ」
嘘は言ってない。
「ふぅーん、鷹宮くんも遊んだりするんだ」
「………」
それは一体どう言う意味なんですかね……。考えてることが顔に出てたのか、三村さんは慌てて胸前で手を振りながら訂正した。
「い、いえちがうのっ!そう言う意味じゃなくてっ……どんなことして遊んでるのか、想像……出来なくて………‼︎」
ああ、そういう意味か。まぁ、別に特別なことしてるわけじゃないしなぁ。
「モンハンとかかな」
「………ゲーム?」
「うん。まぁ、三村さんには無縁のものでしょう?」
「……そうでもありませんよ。私の事務……学外のお友達の中じゃ、今pso2っていうゲームが流行ってるんです」
「それなら、俺もやってるよ」
「レベルは?いくつくらいなんですか?」
「ブレイバー、ハンター、バウンサーが75で……あとはそこそこかな?」
「す、すごいなぁ……。私は、テクターが一番高くて42だよ……」
「あ、やってるんだ……」
学外のお友達か……は、ははっ、まさかね……?そんなドラゴンボール並みに各地にアイドルが散らばっててたまるかってんだ。俺はドラゴンレーダーかよ。
「周りのみんなはもうSHにいってて……私、少し置いて行かれちゃってるんだ……」
「もしアレなら、レベリング手伝うよ。俺暇だし」
「本当に⁉︎」
「ああ」
「なら、今日帰ったらお願いできるかな?……あ、シップはどこ?」
「5」
「よーっし、じゃあー……今の時間だと10:30からね?」
「了解」
あれ?なんで俺、知り合ったばかりの子とゲームやる約束なんてしてるんだろう………。
三村さんとL○NEを交換して、別れた。そういえば、あの人はこんな時間まで何してたんだろうな。
俺も帰ろうと思って、自宅に歩き出した直後だった。後ろから手首を誰かに掴まれた。なんだよ、またかよ、誰だよ、キン肉バスターかけんぞと思いながら振り返ると、文香さんが未来日記の2ndのような目で立っていた。思わずビクッとしちゃったよ。
「っ⁉︎ふ、文香さん……⁉︎なんで、こんなところに……⁉︎」
無言で俺の3○Sを見せてきた。あ、なるほどね。鞄に入れるの忘れてたのか。俺はありがたく受け取った。
「………千秋くん、誰ですか?あの子は……暗くてよく見えなかったのですが………」
「あ、ああ、クラスメイトですよ。今日知り合いになった……」
「…………その知り合いになったばかりの子とゲームの約束ですか………?」
「や、だって周りに置いて行かれて可哀想だったから……。それにほら、クラスメイトと仲良くしといた方が、イベントの多い秋場とかは良いと思って………」
「……………」
「……………」
「……………」
「?」
手招きされたので、俺は文香さんに近付いた。耳を貸せ、みたいなモーションをされたので、耳を傾けた直後………。
「千秋くんのバカアアアアアアアアアア‼︎」
怒鳴った文香さんは立ち去り、音爆弾を耳元で投げられた俺は、耳がキーンとして、その場からしばらく動けなかった。