鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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ムードやシチュエーションよりも、まずは思い出から。

 ベンチ、俺はそこで鷺沢さんに抱きしめられながら、慰めてもらっていた。オッパイの感触が気にならないほど、俺は号泣していた。

 

「……もう、落ち着きました?」

「………はい。すみません、取り乱して」

 

 超泣いた。我ながら情けない。鷺沢さんもかなり引いてる気がする。でも怖いものは怖いんだよなぁ………。

 

「……ジェットコースターダメなら言ってくだされば良かったのに」

「や、ジェットコースターは平気なんです。ただ、途中までは普通なのに、突然下りになるジェットコースターがダメなんです」

「……………」

 

 さすがにチビる事はなかったが。にしても、やっぱり幻滅されたよなぁ………。恐る恐る、鷺沢さんの顔を見上げると、少し嬉しそうな顔をしていた。

 

「………鷺沢さん?何喜んでるんですか」

「……へっ?あ、いや喜んでるわけじゃないですよ?ただ、その……怖がってる鷹宮くん、少し可愛かったなって」

「……………」

 

 カァッと頬が熱くなった。

 

「……あっ、赤くなった」

「っ! も、もう大丈夫なんで。次、行きましょう」

「……照れなくても良いんですよ?」

「い、いいから行きましょう!」

「…………ふふっ」

 

 畜生畜生畜生!まさか、鷺沢さんにいじられるような日が来るとは……!下調べが甘かったな。

 誤魔化すように俺は先に歩き出すと、鷺沢さんが俺の後ろから手を取り、隣を歩いた。

 

「……今日は1日、こうしててあげましょうか?」

「…………もう勘弁してくれませんか」

 

 割と意地悪だなこの人………。二人で手を繋いで歩き始めた。

 

 ×××

 

 その後、ちょくちょく休みを挟みながら、イッツ・○・スモールワールド、プー○んのハニーハント、ミ○キーの家、空飛ぶ○ンボと、回りに回った。まぁー、興奮した鷺沢さん可愛かったよね。結婚したい。特に、イッツ・○・スモールワールドの人形を見て、超興奮してた。「ここに住む!」とか言ってた。

 で、いよいよ日も落ちて来たのでホーンテ○ドマンション。到着した直後、鷺沢さんは凍り付いた。

 

「………これ、もしかして……」

「はい。ホラーだそうです」

「……………」

 

 あれ、思ったより冷静だな………。

 

「こ、怖くないんですか?」

「………あ、それは大丈夫です。本でよく読んでますし、霊というものはあまり信じてませんから」

「………なんかアテが外れた気分です」

「……私を怖がらせるつもりだったんですか?残念でした」

「まぁ、良いです。行きましょうか」

 

 鷺沢さんと手を繋いで、ホーンテ○ドマンションに向かった。列に並んでぼんやりしてると、俺の手を握る力が強くなった。心なしか、手が汗ばんでて湿っている。

 

「………鷺沢さん?」

「……………」

「……………」

 

 もしかして、この人……。俺は、鷺沢さんと肩をくっつけた。

 

「失礼」

「っ?な、何を……!」

 

 肩と肩がくっ付き、撮影の時にあった神社の時のように鷺沢さんから鼓動が伝わって来た。この人、もしかして………。

 

「緊張してます?」

「……………」

「………怖いんですか?」

「……怖くなんかないですっ」

「……………」

 

 怖いんだ。そう強がるなよ、からかいたくなるだろ。俺は鷺沢さんに「失礼します」と言って手を離すと、鞄から飲み物を取り出して一口飲んだ。

 

「鷺沢さん、飲み物まだありますか?」

「……あっ、はい。まだ大丈夫だと思います」

 

 鷺沢さんは答えながら、一応自分の飲み物を確認した。俺は、その隙に自分のペットボトルに包んであるタオルの中の保冷剤を一つ取って、ポケットにしまった。

 そのまましばらく待機し、いよいよ室内に入った。それに伴い、雰囲気が出て来て、若干寒気すらして来た。……良い頃合いだな。

 俺はそーっと鷺沢さんの反対側に手を伸ばして、保冷剤を首筋にあてた。

 

「ひゃあぁあああっ⁉︎」

 

 ビクビクンッと反応しながら、鷺沢さんは前に倒れ込みながら後ろに振り返った。お陰で、周りの人はすごいこっちを見た。

 ビクビクした涙目で鷺沢さんは俺を見上げた後、俺の手元の保冷剤を見た。うん、すごくやり過ぎた。鷺沢さんはプクーッと頬を膨らませた。

 

「あっ……いやっ、鷺沢さん……。これはっ……!」

「っ………!」

 

 周りの人に悲鳴を聞かれた恥ずかしさから、段々と顔を赤くしていく鷺沢さん。そして、怒った口調で言った。

 

「……鷹宮くんなんてもう知りませんっ!」

 

 立ち上がろうとした直後、鷺沢さんはガクッとその場で後ろに再び尻餅を着いた。

 

「…………?」

「……………」

「………ど、どうしました?」

「…………こ、腰がっ……抜け、ました……」

 

 もはや怒る気すら無くなったのか、鷺沢さんは顔を赤くして俯いた。

 

 ×××

 

 乗り物には乗らず、俺は鷺沢さんをおんぶして列から外れ、出口に向かっていた。鷺沢さんの正体がバレて、帰らなければならなくなってしまった。

 ………なんかすごい気まずい。そして申し訳ない。だって、俺の事超怒ってる人をおんぶしてるんだぜ?しかも、俺の所為で帰宅しなければならなくなってしまった。もはや泣きそうなんだけど。

 …………とりあえず、謝らないと。

 

「………すみませんでした、鷺沢さん」

「嫌です」

「……………」

 

 おぶられてるのにツンツンした様子の鷺沢さんの返事を聞いて、俺は肩を落とした。嗚呼、どうしよう……これから告白しなければならないのに、怒らせてしまった……。変な事するんじゃなかったな……。

 外では、ちょうどパレードが開催されていた。気になったので、俺は足を止めてパレードを見た。鷺沢さんもパレードに目を向けていた。

 

「……………」

 

 スゲーなー。よくあんな風に着ぐるみで踊れるよなー。なんか感心するわ。まぁ、今は感心するよりもどうやって鷺沢さんの機嫌を取るか、の方が大事なんだが。

 しばらく、頭の中でどうするか考えてると、鷺沢さんがボソッと呟いた。

 

「………綺麗、ですね」

「……………」

 

 まぁ、そうだな。クリスマスとかの頭の悪そうなイルミネーションが嫌いな俺でも、今目の前のキラキラテラテラしたパレードは嫌いじゃない。なんでだろうな。音がうるさい分、イルミネーションよりも不快なはずなのに。

 いや、そんなの分かりきった事だ。そもそも、デ○ズニーすらリア充の聖地と言わんばかりで嫌いなのに、ここを選んだ。デートっぽい場所を選んだ、というのもあるが、やはりどこでも良かったんだろうな。何故なら、俺は鷺沢さんと一緒なら、何処でも楽しめる、そんな気がしていたからだ。

 逆説的に言えば、俺は鷺沢さんと一緒でなければ、どんな事でも楽しめないのかもしれない。あ、いやそれはないわ。この前、速水さん達と出掛けたのも、あれはあれで楽しかったし。

 だが、それとは楽しさのベクトルが違う。そして、鷺沢さんと一緒にいる「楽しさ」は鷺沢さん以外とでは生み出されない、そういう事なんだろう。

 遠回しな言い方になってしまったが、現状の俺は、もはや鷺沢さん無しでは、この楽しみは味わえなくなってしまっているのだ。

 なら、告白はその気持ちを言葉にして鷺沢さんに伝えれば良い。や、そんな簡単な話じゃねぇんだけどな。まぁ、その、なんだ。告白で伝えたい事は決まった。

 俺は深呼吸すると、今なら謝れば許してもらえるかも、と思って背中の鷺沢さんに声を掛けた。

 

「………鷺沢さん」

「……なんですか?」

 

 少し怒った感じで聞き返して来た。まぁ、そりゃ怒るのは分かるが怖いので少し抑えてくれませんかね……。

 

「……まだ、怒ってます?」

「当たり前です」

 

 デスヨネー。いや、まぁ正直あそこまでビビられると思ってなかったわけだが。俺はため息をついてから聞いた。

 

「………嫌い、ですか。俺の事」

「…………そんなわけ無いじゃないですか。ただ、怒ってるだけです」

「すみません、でした。まさか、あんな風になるとは思わなくて……」

「……いえ、別に良いです。結果的にホラーのアトラクションを回避できましたから」

「………やっぱ怖いんですか?」

「怖くないです」

 

 …………まぁ良いか。これ以上言ったらマジで嫌われそうだし。てか、今も若干俺の事睨んでいるし。

 

「……とにかく、次からは人前でああいう事するのはやめて下さい」

「………はい。肝に命じます」

「………帰りましょう。人が集まって来る前に」

「………ホントに、すみません」

「……もう、気にしないで下さい。あ、帰りにお土産屋さんだけ寄っても良いですか?」

「あ、どうぞ」

「……鷹宮くんは外で待っていて下さいね」

「? なんでですか?てか、腰は大丈夫なんですか?」

「………大丈夫ですから、お願いします」

 

 まぁ、そこまで言われたら俺も頷くしかない。辺りを見回し、人が少ないのを確認してから言った。

 

「急かすわけではないのですが、早めにお願いします。鷺沢さんの正体はバレてしまいましたし、Twitterとかで情報が出回っててもおかしくないですから」

「………わかっています」

 

 鷺沢さんは俺の背中から降りると、店の中に入った。店の前で壁に寄りかかって待機していると、確かに早く戻って来た。

 

「速水さん達へのお土産ですか?」

「………はい」

 

 あ、俺もお礼に何か買ってった方が良いかな……。や、でも鷺沢さんの正体バレるし、後でデ○ズニーストアで買おう。

 

「………帰りますか」

 

 俺はそう言うと、手を差し出した。鷺沢さんは微笑みながら「はい」と答えると、俺の手を取った。

 

 ×××

 

 駅に到着し、俺は鷺沢さんと帰宅していた。なんだかんだ、楽しかったようで、帰り道は珍しくアニメではなくデ○ズニーの感想を言い合った。

 二人で鷺沢さんの家に向かい、割と早く到着してしまった。

 

「………鷺沢さん」

「? なんですか?」

「本屋に、寄って行きませんか?」

 

 鷺沢さんの家のマンションの本屋。鷺沢さんの頭上に「?」が浮かんでいた。

 

「………良い、ですけど」

「じゃあ、行きましょうか」

 

 本屋に入った。中は随分と変わった。恐らく俺の所為だが、ラノベや漫画が随分と増えたし、ジャンプも売っている。

 辺りを見回しながら、レジに向かった。レジには幸い、誰もいなかった。一度、深呼吸してから、俺は鷺沢さんと向かい合った。

 

「………ふぅ、良し」

 

 鷺沢さんは、未だに何も理解してないのか、困惑していた。よし、落ち着いた。俺はガラにもなく真面目な顔で口を開いた。

 

「………鷺沢さん」

「……あの、すみません。告白はいつしてくださるんですか?」

「………………」

「……………?」

 

 ………怒るな、俺。今怒ったら全部台無しだ。

 

「………あの、鷹宮くん?」

「……………」

「………鷹宮くん?」

「少し黙ってて下さい」

「………は、はいっ」

 

 ……………OK、落ち着いた。さっきの鷺沢さんの発言は全部無かったことにしよう。

 

「………鷺沢さん。俺……なんか、こう……鷺沢さんがいないとなんかダメみたいです。……まぁ、つまり……好きなんで俺と、付き合って下さい」

「っ」

 

 …………なんか緊張が混ざってあんまロマンチックじゃなかったな。でも、言いたい事は言えた。俺は、黙って返事を待った。鷺沢さんは、顔を赤らめたまま俺を見ていた。やがて、俯いた鷺沢さんはポツリと呟いた。

 

「………よろしく、お願いします」

「よっしゃああああああああああ‼︎」

 

 昇竜拳バリのガッツポーズをした。マジか!俺の初彼女鷺沢さんか!マジでかあああああああああああああ‼︎

 

「嘘じゃないですよねっ?『やっぱ嘘ー、何本気にしちゃってんの?』みたいなオチないですよね⁉︎」

「……ないですよ」

「ふおおおおおお!俺もう死んでも良いや」

「そ、それはダメです!」

「表現ですよ」

 

 マジかよ……。俺の人生こんな風に転ぶなんて……。ありがとう、俺ガイル………。まぁ、告白の出鼻は少し挫かれたけど。

 もはや、ちょっと泣きそうなまである俺に、鷺沢さんが聞いて来た。

 

「………あの、でも一つ聞いても良いですか?」

「? なんですか?」

「……なぜ、ここで告白しようと、思ったのですか?」

「?だって、ここは鷺沢さんと俺が出会った場所であり、俺達の関係を繋ぐ大事な場所でもあるでしょう?だからですよ」

「……………」

 

 舞い上がってるからか、少しカッコつけた表現になってしまったが、嘘は言ってない。途中で帰ろうがどうしようが、俺はここで告白するつもりだった。

 すると、鷺沢さんは微笑んで言った。

 

「………そういうこと、でしたか。告白の言葉はアレでしたけど、ちゃんと考えてくれていたのですね……」

「まぁ、一応ね」

「……それでしたら、こちらからもプレゼントがあります」

「?」

「………左手を、出していただけますか?」

 

 鷺沢さんは、さっきデ○ズニーで買った袋から、何かを取り出した。箱を開けると、それを俺の左手薬指にはめた。

 

「………これは……?」

「…………指輪です。先程、おみやげ屋さんで購入しました」

「………ミ○キーの、指輪?」

「…………………」

 

 カァッと顔を赤くしながら、鷺沢さんは俯いた。その鷺沢さんの首から、今朝まではなかったボールチェーンが掛かってるのに、俺は気付いた。

 

「……ま、まぁ、流石に結婚指輪とか、そういうのではありませんが……その、私からの記念品みたいなものでして、決して深い意味はなくて………」

 

 なんか言い訳する鷺沢さんの鎖骨の辺りに手を伸ばした。セクハラで殴られる覚悟はあったが、俺はどうしても気になったので、そのボールチェーンを引いた。モゾモゾと服が膨らみ、上に上がってくる。そして、出て来たのは指輪だった。ミ○ーの指輪。

 見られた直後、顔を赤くする鷺沢さんだったが、抵抗はしなかった。もしかしたら、気付いて欲しかったのかもしれない。どんだけ可愛いんだよこの人。

 けど、一つ気になるんだよなぁ。

 

「………あの、なんで、その……ネックレスにしたんですか……?」

「……そ、それは、その……左手薬指に付けたままだと、周りの人に見られてしまう気がして……」

 

 何より、と鷺沢さんは続けた。

 

「……………左手薬指に付けるのは、鷹宮くんの手から、して欲しくて………」

 

 ……………ああ、もう無理。可愛過ぎる。なんだこの子。乙女か。や、乙女だが。

 そんな風に言われたら、俺も従うしかねーだろうが。

 

「…………すみません、鷺沢さん」

「へっ?」

 

 俺は、鷺沢さんの首の後ろに手を回した。そして、ボールチェーンを外すと、指輪を分離させて、鷺沢さんの左手を取った。

 

「………確かに普段はテレビ出たりおもて歩いたりするんで、こんなの付けられないかもしれませんが、今日だけでもお願いします」

 

 俺はそう言いながら、薬指に指輪を嵌めた。まぁ、俺が買ったわけじゃないんだけどな。

 鷺沢さんは俺を真っ赤な顔で見上げると、ふわっと俺を抱き締めた。

 

「…………今日、泊まっていけませんか?」

「? 夏休みなんで暇ですけど」

「………じゃあ、決まりですね」

 

 鷺沢さんにそう言われて、俺は部屋に上がった。

 

 ×××

 

 夜中までずっと2人でアニメを見たりゲームをしただけで、あんな事やこんな事はしなかった。

 

 


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