鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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自分の感情に気付くコツは、自分のプライドというプライドを全て捨てる事だと思う。

 次の日も朝から仕事。昨日配られた、スタッフ用のシャツを着て、撮影の準備で俺は今日もバタバタと走り回っていた。まぁ、昨日で力仕事全般は慣れた。あとはカメラマンの方との会話だが、向こうはジャンプを読んでいるので、すぐに仲良くなった。おそらく大丈夫だろう。

 問題といえば、昨日奏さんが話していた内容だ。なんで他の女の子と話してて鷺沢さんが不機嫌になるか、これを考えなければならない。

 

「………考えても分からなさそうだな」

 

 人の気持ちなんてわかるか。精々、自分からなんでだろうと置き換えることしか出来ない。それは結局、人の気持ちではなく自分の事を考えてるだけだ。考えても無駄な事はしない。

 そんな事を考えながら、力仕事を頑張っていた。………疲れたな流石に。しばらく力仕事をし、終わったらまた次の仕事と息つく暇もなかった。まぁ、たまにはこういう運動も悪くない。

 で、今は一人で救急要員って事で、テントの下で救急箱を持って待機していた。

 

「………」

 

 暇だ……。つーか眠いわ。寝ようかな。昨日は割と仕事はあったけど、今日は撮影がメインだから、俺の仕事はない。軽作業・搬入ではなく雑務なので、プロデューサーに声を掛けられるまでは暇なのだ。ぼんやりと宙を見てると誰かがやって来た。確か、塩見周子さん、だったか?

 

「どーも、鷹宮くん」

「周子さん、でしたよね?」

「正解」

 

 微笑みながらそう言うと、俺の隣にナチュラルに腰を下ろした。

 

「何かご用ですか?体調悪い?」

「いや?しばらく暇だから、遊びに来ただけ」

 

 早く撮影が終わったのか?まぁなんでも良いが。

 

「鷹宮くんはさ、アイドルとか興味ないん?」

「ないですけど。なんでですか?」

「いやだって、私達のことほとんど知らなかったじゃん?それに、隣に座られても普通に話してるし」

 

 今まで文香さんとデートし、奏さんにビッチと暴言を吐き、ありすさんに至っては電話を無視したからな。話す前にアイドルだって普通の子だと分かってしまったからなぁ。

 

「まぁそうですね」

「で、好みの子は誰なの?」

「いや、なんでそうなるんですか」

 

 こいつバカなの?興味ない言うたばかりやろ。

 

「いやいや。アニメオタクの子はどんな子が好みなのかなって思っただけ。他意はないよ」

「………なんでアニオタの事知ってんですか」

「昨日部屋で他の子から聞いたん」

 

 誰だか知らないけど奈緒さんか加蓮さんだろうな……。まぁ隠してないしいいけど。

 

「………まぁ、鷺沢文香さんですね」

「……へぇ?そうなん?」

 

 すごく楽しそうに微笑まれた。

 

「はい。まぁ、別に中身とか知らないんで、あくまで外見の話ですけど」

「ふーん?なら、ここから先グッズとか買うん?」

「買いませんよ。金ねーし」

「お金あったら?」

「………どうすかね。いやでも、金あったらここにいるメンバー全員分のグッズ安いの一つずつは買いますよ」

「? なんで?」

「まぁ、お世話になりましたし」

「なったのは私達の方だと思うけど」

「良いんですよ、その辺は」

 

 ホント、なんか知らんけど欲しくなるんだよなぁ。俺って割とそういうの気にするタイプだから。

 

「ふーん……。ならさ、カメラマンの人に頼めば良いんじゃない?」

「はぁ?」

「案外もらえるかもよ?」

「……いや、でもなんかキモくないですか?ストーカーみたいで」

「いやいや。そんなん気にしなくても大丈夫だと思うよ。男の子なら普通のことだと思うし」

「…………」

 

 ………確かに、文香さんの水着写真欲しいなぁ。

 

「まぁ、頼んでみて損はないかもしれないですね」

「じゃ、行ってきたら?」

「いや、でもせめて撮影終わってからに」

「終わってからじゃ、写真撮れないよ」

「………あ、確かに」

「言ってみたら?」

 

 ちょうど、全体で休憩が入った。周子さんは俺の顔をチラッと見てきた。

 

「……分かりましたよ」

「いってらっしゃーい」

 

 周子さんに手を振られて、俺はカメラマンの方を見た。普通に頼んでは無理だ。戦略を練らないと。

 

「……………」

 

 確か、ジャンプオタクだったな、あの人。いや、でも俺あんまグッズとか持ってないんだよなぁ。漫画かBlu-rayしかない。流石にこれは厳しいか。仕方ない、最悪金を出そう。

 そう決めた俺はプロデューサーにバレないようにカメラマンに接近して、後ろから肩を突いた。

 

「? ああ、鷹宮か」

「あの、お願いがあるんですけど」

「なんだ?北斗の拳読みたいのか?」

「や、そうじゃなくて。一人、写真が欲しい子がいるんですけど」

「良いぞ」

「はっ?」

「い、良いの?」

「ああ。別に構わねえよ。ただし、バレたら怒られるから一人だけな。誰が良い?」

 

 ………ああ、理解した。この野郎、俺の好みを知って俺の上位に立つつもりか。

 

「………誰にも言わないで欲しいんですけど」

「分かってるよ」

 

 ………まぁ良いか。バレてもどうせこの先会うことなんてないし、デメリットはない。今日明日耐えれば良いだけだ。

 

「鷺沢文香さんのです」

 

 その直後、後ろからガシャンという鈍い音が聞こえた。振り返ると、文香さんが手に持っていたグラスを落として、唖然として俺を見ていた。

 

「…………」

「………えっ…………えっ?」

 

 はわわわわ、と言わんばかりに顔を赤くしていく文香さん。多分、俺の顔も赤くなってる。けど、それ以上に俺の目は死んでる。一人で口を押さえて爆笑してるカメラマンさんにイラっとする余裕さえなかった。

 

「………た、たかっ、みや……くん………?」

 

 なんで、なんでここに、文香さんが……。ふと文香さんの右斜め後ろを見ると、周子さん、加蓮さん、唯さんがこっちを見ていた。

 は、謀ったな⁉︎シャア!いや、シャアじゃないけど。とにかく、誤解を解かなければ。

 

「や、あのっ……違っ」

「っ⁉︎」

 

 声を掛けると、ビクッとして後ろに退がる文香さん。え、何その反応。痛く傷付いた。牙突が心の臓を貫いた時の如く、俺の胸に何かが突き刺さった。

 

「……………」

「っ⁉︎ た、鷹宮くん⁉︎鷹宮くーん!」

 

 俺はその場でガラガラっと崩れ落ちた。

 

 ×××

 

 そのまま撮影は進んだが、俺はほぼほぼ上の空だった。仕事に支障は出していないものの、思考停止状態。プログラムを組み込まれたロボットのように淡々と仕事をこなしていた。

 なんなんだろう、あの拒絶反応は。仲良くなれたと思っていたのは俺だけで、実際は嫌われてたのかな……。あーなんかもう死んじゃおっかなーもう。生きてても良いことないし。滅べよこんな世界。

 

「………ボロスでも攻めて来ないかなぁ」

 

 神様なんてなーいさ、神様なんてウーソさ、宝くじ当てたバーカが、見間違ーえたーのさ。

 

「おーい、鷹宮くん」

 

 プロデューサーの声がした。

 

「……はい」

「実は今日、夜に肝試しをしようと思うんだ。そのルートの下見に行って来てくれないかな?」

「了解です」

「これ、ルートの案内図。頼むね」

「はい」

「大丈夫?何かあった?」

「大丈夫です」

「……………」

 

 大丈夫大丈夫。どうせ死ぬんだから、怖いものなんかあるかい。肝試し?上等だよこの野郎。

 俯いてる俺をプロデューサーはしばらく眺めると、手帳を取り出した。で、何かを確認すると、撮影待機中のアイドルの群れに入っていった。

 数秒後、戻って来た。……文香さんを連れて。

 

「鷹宮くん、文香も一緒について行くから」

「………はっ?」

「いやー、文香は撮影の順番一番早いから、間が空いてたんだよ」

「え、いや聞きたいのはそういう事じゃなくて」

「じゃ、よろしく頼むな」

 

 それだけ言うと、プロデューサーさんは撮影に戻ってしまった。

 残された俺と鷺沢さん。顔を赤くして、ただお互いに向き合って目を逸らしていた。

 やがて、鷺沢さんからポツリと呟いた。

 

「…………い、行きましょうか」

「は、はい」

 

 出発した。

 下見は少し離れた場所の神社でやるらしい。歩いて15分ほどの距離に、林の中に神社がある。林の入り口から神社までの道を二人で歩く、というイベントだ。

 それを、今まさにやっているわけだが、全然ドキドキしない。昼間だからというのもあるが、一番でかいのは、一緒にいるのが先ほど大きく拒絶された鷺沢さんだからだ。

 

「…………」

「…………」

 

 お互い無言で歩く。なんで?なんで自分からこの人は俺と行くなんて言い出した?君は俺の事を嫌いだろう。

 

「………た、鷹宮くん」

「っ、は、はいっ」

 

 緊張気味に返事をした。なんだろう、「この際だからはっきり言いますけど、アニメのこととかほんとは私全然興味ありませんから。もううちに来ないでくれます?ついでに死んでくれます?」的なことかなぁ、ドキドキ。

 

「……その………申し訳ありません。先程は」

「?」

「………あの、鷹宮くんが、私の写真を欲してると聞いてしまって……それで、恥ずかしくなってしまって………。だから、決して鷹宮くんが、嫌いというわけではなかったんです……」

「……………」

 

 俯く文香さん。そうか、別に嫌われてるわけではなかったのか。良かった……。ついうっかり身投げするところだった。

 

「そうですか……。良かったです」

「……でも、その………どうして、私の写真を、欲しがったんですか………?」

「…………えっ?」

「………も、申し訳ありません。その、どうしても気になってしまって………」

「……………」

 

 えー、何それー。言えっての?いや、別に文香さんの事が好きとか、そんなんじゃないんだけどさー。ちょっと一緒にいると嬉しくて、笑顔を見るとドキドキして、他の男と話してると殺意が芽生えたりするだけで、別に好きというわけじゃないけど、でも「欲しかったから」とは言えねーよ。

 

「………言わなきゃ、ダメですか?」

「………私、気になりますっ」

 

 そんな古典部部長みたいに言われても………。いや、でも言った方が良いのかなぁ。

 答えるべきか悩みながら、神社の鳥居をくぐった。つーか、ここの神社ボロいなー。こりゃ夜になると怖そうだ。

 

「あ、着きましたね。意外とこの神社、雰囲気あるかも」

「……誤魔化せてませんよ」

 

 だよね。俺はため息をついて口を開いた。

 

「………わかりました。言いますよ」

「………は、はい」

 

 覚悟を決めて、とりあえずあの時の状況を説明しようとした直後だった。雨が降って来た。

 

「えっ?」

「……あ、雨ですね」

「結構強くね?」

「………そうですね」

 

 ポツ、ポツ……という感じだったのが、徐々にザァアアアアって感じに変わっていく。おいおいおい、マジかよ。ここから宿までは少し遠いぞ。

 

「ふ、文香さんっ。とりあえず、屋根の下に行きましょうっ!」

「っ……!は、はい!………えへへ、文香さん」

 

 なんか自分の名前呼びながら嬉しそうにはにかんでたが、気にする余裕はなかった。目の前の神社の下に走って、階段の上に座った。走ったお陰で、あまり濡れなかったが、今から宿に走れば速攻で雑巾になるのは目に見えていた。

 

「………ふぅ、なんだよ。天気予報は晴れだったぞクソッタレ。もう二度と見ねえからな目覚○しテレビ」

「………どうしましょう、このままじゃ戻れません、よね……」

「連絡入れておきますよ。迎えは、少し待った方が良いかもしれませんね」

 

 あー、まぁ良いか。しばらくサボれると思えば。俺は文香さんと隣で座ったまま、ボンヤリする。

 ………ああ、こういう静かな時間も悪くねーな。そんな事を思いながらボンヤリとその辺を見てると、文香さんが何食わぬ顔で聞いてきた。

 

「………それで、何故写真を?」

「…………」

 

 うん、やっぱ逃げられんわ。仕方ない、覚悟を決めよう。俺は深呼吸をすると、ポツリと呟いた。

 

「………その、何。文香さんが一番、クローネの中で…………好き………だからです」

「……………」

 

 言った、言ってしまった………。どんなに遠回しに表現してもこうなってしまった。大丈夫、クローネの中でとかちゃんと言ったし、告白的な意味にはなっていないはずだ。

 ………気になったので、チラッと文香さんの方を様子見してみた。文香さんは、キョトンとした顔で聞いてきた。

 

「…………はい?」

「っ」

 

 不覚にも、少しイラっとした。聞こえていなかったようだ。

 

「………もう言いません」

「……ええっ⁉︎き、聞こえなかったんですけどっ?」

「知りません」

「……そ、そんなぁ………」

 

 この野郎、俺がどんだけ体力使ったと思ってんだ。今の一言を言うだけでスタミナゲージが消滅するレベルまであったんだぞ。

 俺はスマホを取り出して、プロデューサーさんにメールを送った。すると、隣の文香さんが「っくち」と可愛らしいくしゃみをした。

 

「……文香さん、ひょっとしてその下……水着ですか?」

「………そう、ですよ?」

 

 少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらも「えっち」と言わんばかりの目線を向けてくる文香さん。いや、違うから。そんなつもりないから。

 

「あの、良かったら俺の上着着ますか?」

「………えっ?」

「風邪引いたら大変ですし。羽織るだけでも効果あると思いますよ」

「……でも、そしたら鷹宮くんは………」

「いや、平気です。俺は普通に服着てるんで」

 

 ていうか、スタッフ用の上着少し暑いくらいだし。俺は上着を脱ぐと、文香さんの背中から被せた。

 文香さんは体育座りするように坐り直し、膝で赤くなった顔を隠しながらボソッと呟いた。

 

「…………ありがとう、ございます」

「いえ」

 

 そんな大したことしたわけじゃないし。しかし、何かお話しした方が良いかな。暇だもんな、いつ止むか分からない雨の中で待機してんのは。何か話題を探してると、文香さんは俺に身体を預けて来た。ボスッと俺に体重を乗せ、頭を肩の上に置いた。

 

「………すみません、少し……このままで」

「寒いんですか?」

「…………それもありますけど、少し心細くて……」

「………」

「知らない場所で、雨の中二人きりになってしまって……。鷹宮君がいてくれて良かったです………」

「っ」

 

 この女はすぐそういうこと……!俺の心臓のことなんか御構い無しか。

 ………まぁ、良いか。どうせ言っても、キョトンと可愛らしく首をひねるだけだ。この子は人の気持ちには少し疎い。

 しかし、なんだ。クソ……なんでだ。なんか、すごいドキドキする。雨の中二人きり、このシチュエーションだけでもヤバイのに、文香さんがやけに色っぽく見える。なんだこれ。

 

「……………」

 

 俺、文香さんの事好きなのかなぁ………。これが、恋愛ってことなのだろうか。だが待て。確かに最近はよく遊ぶが、俺は文香さんの何を知っている?まだ知り合って2ヶ月くらいなのに、それで好きになるのはおかしな話だ。

 俺が鷺沢文香について知ってることなんて、名前、歳、誕生日、職業、バイト先、大学の学部、読書家、割と影響されやすい、異性との耐性がなくてすぐに顔が赤くなる、好奇心旺盛、天然、おっぱいが大きい、なんか突然怒る、貞操観念皆無、勉強教える時はスパルタ、怒るとサイヤ人より怖いって事くらいだ。………結構知ってんな。つーか、普通の友達同士より詳しいんじゃねぇの?

 ………あれ、そう考えると俺これマジで文香さんの事好きなんじゃねぇの?ヤバイ、なんかまた心臓の高鳴りがとんでもないことに……!

 

「………鷹宮くん?」

「ッヒィィイイイインッ⁉︎」

「っ⁉︎ ど、どうしたんですか?」

「あ、いえ、なんでも……」

 

 き、急に声かけてくんなよ……ビックリした。気持ちを落ち着かせてから、文香さんの方を見ると、文香さんも少し顔を赤くしていた。はっ、それより声を掛けてもらったんだから返事しないと。

 

「………えっと、なんですか?」

「……いえ、その……鷹宮くんは私がアイドルだったことに関して、その……何かないのかと、思いまして……」

「あー」

 

 そりゃ驚いたけどな……。それより、君との関係を隠すことで精一杯だったんだよ………。

 

「まぁ、ビビッタといえばビビりましたけど……でも、腑に落ちてるのも確かですから」

「……そう、ですか?」

「昼間とかは忙しそうでしたし、たまに電話の向こうで『プロデューサー』っていうワードも聞こえましたし」

 

 それに、文香さんすごい美人だし」

 

「ふえっ⁉︎」

「えっ?」

「……び、美人、ですか………?」

「えっ、声に出てた?」

 

 聞くと、文香さんは顔を赤くしてコクッと頷いた。うーわ……マジかよ……死にたい。顔を赤くして俯いてると、文香さんが焦ったように声をかけてきた。

 

「………あのっ、そんな落ち込まないでください。……私、お仕事柄そういう褒め言葉には慣れていますけど………その、鷹宮くんに言われたのが、一番……嬉しかったです………」

「っ」

 

 なん、だと………⁉︎この人、今なんて……⁉︎

 

「あの、もっかい言ってもらえます?」

「……二度は言えません………」

 

 ……だよね。まぁ良いさ。心の録音機に永久保存したし。

 でも、なんだ。今のは……いや、まて。今の発言から文香さんが俺の事を好きだと捉えるのは飛躍のし過ぎだ。そう思いたくても抑えろ。

 ちなみに何かの間違いで告られたら0.2秒でOKする自信がある。

 いやいや、だからそういう妄想は良せ。心を無にしろ。頭の中で鉄華団団長が撃たれたシーンを思い浮かべろ。何の感情もおきなかっただろ。………あ、本当に落ち着いてきた。初めてオルガすげぇって思ったわ。

 そう思った直後、ドッドッドッという心臓の高鳴りを再び何処かから感じた。俺の心臓は落ち着いてるはずなのであり得ない。それに、なんか右肩の方から………。俺の右肩には、文香さんの左胸が少し当たっている。……あれ?この高鳴り、もしかして………。

 隣を見ると、文香さんも恥ずかしそうに顔を赤くしていた。おい、これ、まさか………。

 そう思った直後、神社の鳥居の前に車が止まった。そして、一人の男の人が傘をさして走って来た。

 

「おーい、二人ともー!」

 

 その声で、俺も文香さんも慌てて遠退いた。走って来たのはプロデューサーさんだった。

 

「迎えに来たよ。今日はもう宿に戻る事になったんだけど……何かあったの?」

「「い、いえ何も!」」

 

 二人して声を揃えると、プロデューサーさんは頭上に「?」を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。

 

「ま、とにかく宿に戻ろう。ほら、行くよ」

 

 との事で、バスの中に乗り込んだ。その間、俺も文香さんも一言も話すことはなかった。

 

 


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