うちの学校はスポーツ校だ。サッカー部、野球部、バスケ部、バレー部、ソフト部、どの部活も過去に二回はインターハイやら甲子園やらに出ている。
従って、俺みたいにオタクみたいな奴に友達は出来ない。みんながみんな、イケイケリアリアなリア充だ。あ、別に俺はリア充爆発しろ、なんて言わないよ?ただ、思うだけで。
まぁ、友達が出来ない事に不満はない。ラノベにのめり込んだ俺が悪いから。ただ、一つだけ悩みがあるとすれば、せっかくラノベや漫画やアニメが趣味になったのに、語り合う仲間がいない。やっぱり好きなものは誰か共通の仲間と話をしたいものだ。
しかし、これは仕方ないと思う。ラノベにハマったのは高校からで、高校選びは中学の時にするものだ。初めから詰んでいる。その手の仲間は大学で見つければ良いさ。それまでは精々、自分の興味出たラノベを読んでよう。
そんな事を考えながら、ぼーっと授業を聞いていた。現在は現代文の授業。正直に言って、この科目は勉強する意味が分からない。だって答えなんて全部、文に載ってるじゃない。勉強しなくても80点は硬い。
そんなわけで、俺はライトノベルを読みふける。今はソードアート・オンラインの二巻。出会ったその日に添い寝とか、キリトさんホントリア充な、死ねば良いのに。まぁ、一巻でゲームクリアしちゃってるから死なないけど。
「ふわぁ………」
やべっ、欠伸出た。結構眠たいんだな俺。もういいや、寝ちゃおう。
机の上に伏せて、目を閉じた直後だった。
ピリリリリリリリリッと大音量が流れた。俺のスマホからだ。
「……………」
スマホを見下ろすと、知らない番号からの電話。………ああ、鷺沢さんの本屋からかな………。にしても、こんな時間に電話してくんなよ……昼間の2時過ぎだぞ………。
「鷹宮、携帯を出せ」
ほら、先生に没収された。すでに目立ってるけど、これ以上目立つのはごめんなので、素直に渡した。さて、放課後は生徒指導のお時間だ。とにかく謝ろう。
×××
放課後になり「電源を切るのを忘れてしまいました。以後、気をつけます。すみません」とテンプレとも言える謝罪文を述べてスマホを返してもらった。
学校を出て、とりあえず本屋さんに連絡を取る事にした。履歴から電話番号を探し、発信……しようと思ったけど、手が止まった。なんで携帯の電話番号なんだ………?普通、店の電話から掛けるだろ。これ、もしかしてアレなんじゃないの?なんか、こう、ヤバイ奴。留守電も入ってないみたいだし。
………一応、後で本屋に行ってみるか。違ったらすごく恥ずかしいけど、連絡をくれてたんだとしたら失礼だもんな。
もし、本が届いてたら、これはもうピョンピョンだわ。六巻はどうなってんだろうなぁ。ヒッキーとゆきのんの関係は修復されるのだろうか。いや、別に喧嘩してたわけじゃないけど。あと表紙、誰だろ。この作品の絵師、ガハマさんが大好きだからなぁ。一回でいいから、材木座を表紙にして欲しいぜ。
胸を躍らせながら本屋に到着した。………改めて見るとボロい本屋だなー。よく見ると、三階より上はマンションになってるし。まぁ、俺はジブリ作品の家みたく、年季の入った建物は嫌いじゃないけどね。住むのはゴメンだけど。
店の中に入り、真っ直ぐとレジに向かった。鷺沢さんは相変わらずサボって本を読んでいる。
「………あの、どうも」
「っ……⁉︎……あ、お、一昨日の」
驚き過ぎでしょ。どんだけ読書に没頭してんの?
っと、そんなことより用を済ませないと。
「もしかして、なんですけど……電話くれました?」
「……あっ、は、はい。……ご注文の本が、届きましたので」
「やっぱり。すみません、授業中だったもので」
「……あっ、そ、そうですよね!あの時間は、普通授業中ですよね!……す、すみません」
「いえ、全然。俺も、そういうの全然言わなかった、ですし」
「…………」
うおお、かなり気にしてんな。そんなショボンとしなくても良いから。俺あんま気にしてないし。ていうか、いいから早く本をくれ。
「あ、あの……本を」
「……あ、ああ。そ、そうですね!すみません…!」
「や、そんな謝らなくても……。なんか、すみません」
「……い、いえ!別にそんな…………!」
慌てて俺ガイルの本を取り出す鷺沢さん。
ちょっと落ち着けよ。慌ててる姿可愛いだろうが。もしかして、注文とか初めてだったのか?それなら、少し申し訳ないが。いやでも、俺は客なんだし向こうは働いてるわけだし、申し訳ないとか思わなくて良いのか?
もういいや、早急に読むことは諦めよう。店員さんのペースに任せることにした。
と、言ってもここから先は向こうは慣れたものだろう。本をバーコードで読み取り、袋に入れて金払ってもらうだけだから。
会計を済ませ、さっさと帰ろうとすると「あの……」と鷺沢さんが声をかけて来た。
「はい?」
「……その、本。面白い、んですか?」
「えっ?」
鷺沢さんが指差す先には、俺の手元の俺ガイルがあった。
「ええ、まぁ面白いですけど」
「………」
な、なんだ?「そんなもんで楽しめるなんて、流石キモヲタね。クスクス」的な事か?何それ死にたい。
「……どんな、内容なんですか……?」
「えー……友達のいない目と性根の腐った男子生徒が人格矯正のために人助けの部活に入れられる話、ですかね」
まぁ、正確には人助けじゃないらしいが。鷺沢さんは顎に手を当てて少し考え込んだ後、「ふむ……」と息を漏らしてから続けて質問して来た。
「……何巻まで、出てるんですか…?」
「えー……11、かな?多分。あと6.5、7.5、10.5巻があったと思いますよ」
「………0.5?」
「あー……まぁ、番外編みたいなもんです」
「………なるほど」
また考え込む鷺沢さん。考え事をしてる表情も、それはもう美しい。もしかしたら、商品として使えるかどうか考えてるのかもしれないな。けどね、売り上げを伸ばしたいなら、レジの後ろに座ってる時くらい本読むのやめようね。
………そして、俺はどうすれば良いんだろう。もう帰っても良いかなぁ。でも、少し話をした後なのに、黙って立ち去るのは何となく悪い気もする。
とりあえず、しばらくその場で待機してると、鷺沢さんがハッとした感じで俺に気付いた。
「………ハッ、も、申し訳ありませんっ。私ったら、つい考え込んでしまって……」
「あ、いえ。もう大丈夫なんですか?」
「……は、はい。またのご利用をお待ちしています」
「はぁ。どうも」
顔を赤くして頭を下げる鷺沢さんに、軽く会釈して店を出た。
基本的には良い店だったな。オーラが頭良さそうな本屋だし、うちの学校の連中なんか絶対来ない。まぁ、俺も基本的にはラノベしか読まないから、古本屋で売り切れの時以外は来なさそうだけど。
………それに、その、何?店員さん美人だったし。また来るか。
_________この時、俺は知らなかった。一昨日から本が届くまでの三日間の俺のこの行動が、鷺沢さんの人生を大きく変えてしまうことになるなんて。