撮影日の朝。文香は目覚ましによって目を覚ました。昨日、結局ソファーで寝てしまい、身体が痛すぎて夜中に目を覚ますハメになり、すごく眠かった。
だが、それでも集合に遅刻するわけにはいかない。超眠そうに朝食、歯磨き、着替えを済ませ、荷物を持って家を出た。
電車に乗って数分、危うく降り過ごしそうになったものの、何とか到着した。ふらふらした足取りで事務所の前に向かう。
その文香の後ろ姿を奏は見つけた。
「あ、文香。おはよう……文香⁉︎」
クッソ眠そうな表情を見て、思わず狼狽える奏。
「ど、どうしたのよ?すごく眠そうだけど……あの後、ずっとレアアイテムでも探してたの?」
「………あ、おはようございます。奏さん……」
「おはよう(2回目)。どうしたのよ?昨日、ずっと遺跡探索してたの?」
「…………いえ、あのままソファーで寝てしまって……身体痛くて途中で起きてしまって……」
「………それでなかなか眠れなくて今眠いのね……」
呆れたようにため息をつく奏。
「ちょっと、ちゃんと歩きなさいよ」
「………ふぁい」
「……まったく。こんな所、鷹宮くんに見られたら………いや、あの子なら喜びそうね」
なんか酔っ払いみたいになっていたので、いつ文香が倒れても良いように隣を歩いた。
無事に事務所の前まで到着し、まずはプロデューサーに挨拶しに行った。
「おはよう、プロデューサー」
「……おはようございます」
「ああ、二人とも……ふ、文香⁉︎どうしたっ?」
「昨日、ちょっと夜更かししちゃったみたいで……。悪いけど、先にバスに乗ってても良い?」
「あ、ああ。分かった」
許可をもらって、大きい荷物は運転手さんに渡してしまってもらい、自分達はバスの入り口に向かった。
「おはようございます、文香さん。奏さん」
すると、ありすがちょこちょこと歩いてやって来た。
「おはよう、ありす」
「あの、文香さんどうかしたんですか?」
「……ちょっと夜更かししちゃっただけよ。それより、隣に座る?」
「はい」
三人でバスの中に乗り込み、文香が眠れるように一番後ろの席に座った。一番後ろは五人がけだから広いのだ。ありす、文香、奏と並んで座ると、文香が目をこすりながら言った。
「………すみません、奏さん。ちょっと、眠いです……」
「あー、はいはい。どうぞ」
「文香さん!私の方でも良いですよっ」
「……低いので無理です」
「低っ………⁉︎」
ハッキリ言われ、凹むありすだったが、それに気を使う余裕もなく文香は奏の肩に頭を乗せた。
「………低い、私が低い……」
「あ、ありす?気にしないで。文香、眠くてちょっとホンネが出ちゃっただけなのよ」
「ほ、本音⁉︎」
「あっ」
さらにショックを受けるありすを見て、奏は額に手を当てた。
早く出発しないかなーなんて思いながら「小さいってどういう事ですか!」としつこく聞いてくるありすをなだめた。
そうこうしてるうちに、プロデューサーがバスに乗って来て、いよいよ出発の時間。バスの中にもアイドルは全員揃っていて、それぞれお話ししていると、プロデューサーが声を張り上げた。
「みんなー、聞いてくれー!」
「?」
その声に、とりあえずみんな前を見た。
「今日、急遽代理に来てくれた鷹宮くんだ。なんでも言うこと聞くからよろしく頼む」
鷹宮?と奏とありすは首を傾げた。まさか、と思ってプロデューサーの横にいる少年を見た。
「え、ちょっ……プロデューサーさん。つーか、なんでも言うことは流石に……」
文香の画面に寝顔で写ってる少年が、目の前に立っていた。
「」
「」
奏もありすも、口を半開きにして千秋を眺めていた。
×××
バスは出発した。奏はすぐにL○NEして、事情を聞いた。
「……バイトだって」
「な、なるほど……」
ありすも納得したように相槌を打った。
「狭い街ですね」
「あなたどこでそんな言葉知ったの」
「いえ、私だってもう大人のアイドルですから」
「そう……」
朝から割と体力を使ったので、ツッコミを入れるのも面倒臭く、なんと無くぼんやりと千秋の方を見た。
「神谷奈緒さん、ですか?」
「そ、そう!そうだ!いやー、あたしも有名になっ……!あ、いや、べ、別に嬉しくなんかないけどな……‼︎」
早速、神谷奈緒と何か話していた。まぁ、千秋がナンパするとは思えないので、おそらく奈緒の方から声を掛けたんだろう、と奏は予測したが。
奈緒は何か話した後に、千秋の隣に座った。
「誰が好きだった?キャラ」
「イザーク」
「えー、キラの方が良いだろー」
「いやあんな悟り開いた高校生は嫌だ。クルーゼがキラをプロヴィデンスでボコってるとことか爽快だったね。ミーティア壊れてたし」
「そうかー?でもあそこ熱かったよなー」
「それはな。一応、ラストバトルだし」
何を話してるか分からないが、仲良く話してる二人の様子を見ながら、奏はおでこに指を当ててため息をついた。
「よかったわ……。文香が寝ててくれて」
「………何がですか?」
「っ?」
隣からヤケに冷たい声がして振り返ると、文香はバッチリ目を覚ましていた。しかも、バッチリ奈緒と千秋の方を見ていた。ヤバイ、と思った奏は話をそらすことにした。
「あら、文香起きたのね?実は、話があるんだけど」
「………奏さん、なんですかあれ?」
「あれ?………あっ、あー……実は、鷹宮くんバイトで……」
「そんな事はどうでも良いんです」
「ど、どうでも良いの?」
「何をしてるんですかあの人は」
「な、なんかガンダムの話で意気投合したみたいで……」
「武力介入して来ます」
「落ち着いて!お願いだから落ち着いて!」
立ち上がろうとする文香を何とか抑える奏。
「落ち着きなさいってば!別にバスの中でアイドルと話してたって問題ないでしょう?」
「問題しかありません」
「い、いいから落ち着きなさい!ほら、あなた寝起きだし、疲れてるんじゃない?幻覚でも見えてるのかも………!」
なんとか取り繕ってわけのわからない説明をすると、文香は考えるような姿勢を取った。
「……確かに、そういう事かもしれませんね」
「そうよ」
千秋が絡むとバカで良かった、と、ホッと胸をなで下ろす奏。文香はスマホの画面をつけて時間を確認した。ずっと寝ぼけていて、記憶が曖昧だった。
「それより、大事な話があるんだけど……」
千秋から伝えてくれと頼まれたことを伝えようとした時だ。千秋の方からすごい誠実な声が聞こえて来た。
「大好きです」
直後、隣からメキッと何かを軋ませる音が聞こえた。
「文香⁉︎」
文香が握っているスマホの画面にヒビが入っていた。
「ち、ちょっと落ち着きなさい。別に奈緒の事を好きと言ったわけじゃないわよ。前後の話を聞いてない私達にその辺の物事の判断はできないわよ。ね?」
「………どうしましょうか。モーメントゲイルの刑にします?」
「話聞いてる⁉︎ていうかモーメントゲイルできるの⁉︎」
何とか落ち着かせようとしてる間、千秋は奈緒とガンダム談義を続けている。その様子に、奏は思わず舌打ちをした。
「人の気も知らないで……!」
すると、奈緒が後ろの席の加蓮に話を振った。お陰で、段々と話が逸れると共に、千秋からも逸れていった。それを見て、奏はホッとした。文香の様子も心なしか穏やかになって来ている。レストタイム、と言わんばかりに奏は背もたれに寄り掛かった。
「すぃっ……渋谷さんは、何年生ですか?」
「…………」
束の間のレストだった。隣の文香から震えた声が聞こえて来た。
「………節操というものがないのですか………?」
「文香!携帯メキメキいってる!」
「…………これは、後でストライクガスト・零式の刑ですね」
「PP切れるまで⁉︎」
すごい剣幕の文香を見て、奏はとりあえず後で千秋に文句言おうと心に決めた。
×××
文香が着替えを終えて、奏とありすを外で待っていると、仕事している千秋の姿が見えた。が、千秋の嘘のおかげで、弟だと思ってるんだけど。
しかし、弟の方は中間で全教科、少なくとも50点は取れた癖に期末で一桁を連発したアホ兄貴とは比べ物にならないほど真面目だなぁ、と思っていた。
そういえば、兄の方もこの三日間予定があると言ってたが、何してるんだろう、なんて考えてるとプロデューサーから千秋に声がかかった。
「鷹宮くん、テント終わったらパラソルと椅子をセットしてくれ。場所はカメラマンの人に聞けば分かるから」
「うーっす」
間延びした返事を返すと共に、千秋は仕事を進めた。
言われた通り、テントを立て終えて次の仕事に移る千秋を見て、しかし、声も顔も体型も似過ぎじゃない?と思ったりもした。まるで、本人みたいだ、とも。まぁ、本人はバイトしているという、完璧なアリバイがあるのだからあり得ないが。そのアリバイは証拠なんですけどね。
そうこうしてるうちに、奏とありすがやって来た。この後、千秋に水着を披露させられたりしつつ、撮影が始まった。
まずは全員で集まって。その後に個人で何枚かと、サクサクと撮影は進められていく。個人の時、ボンヤリと自分の番になるのを待ってると、千秋がアスタナシアと何か話してるのが見えた。
弟さんは割とチャラい人なのかな、なんて思ってると、後ろから声をかけられた。
「何見てるの?」
「っ!」
ビクッとしながら振り返ると、塩見周子が自分に声をかけていた。
「………あっ、周子さん」
「……ん?バイトの子?」
「……あ、いえ、そういうわけでは……」
「へぇー?文香ちゃんって、意外と男の子とか気になるん?」
「……ち、違いますっ」
「照れなくていいよー」
「………て、照れてません!私には既に………!」
そこまで言いかけたところで、文香は自分の口を押さえた。それと共に、周子どころか近くにいた唯や加蓮もニヤリと微笑み、奏とありすは額に手を当ててため息をついた。
「………バカ」
「………文香さん……」
二人は早速救援しようとしたが、撮影の番になってしまったため、助けることは叶わなかった。
加蓮と唯が周子に加わって、文香と肩を組んで小声で質問した。
「えっ、なになに?文香さん、好きな人いるの?」
「………い、いませんっ」
「いがーい。ね、誰?誰?」
「……ち、違いますったら!違いますっ」
「しっ、小声で。プロデューサーにバレたら怒られるよ?」
「っ………」
加蓮に怒られ、文香は顔を赤くしながらコホンと咳払いし、説明した。
「………別に、好きな人ではないです。ただ、少し前からよく話すお友達ができたってだけで……」
「男女間の友情は成立しないよ?」
「どこまでしたの?デートとかした?」
「いやいや、唯さん。付き合ってもないのにデートはないっしょ」
加蓮が唯の台詞を否定した時だった。文香が黙り込んで顔を赤くしてるのを、周子は見逃さなかった。
「………行ったん?デート」
「「えっ」」
「…………行って、ない…です………」
「「「行ったんだ」」」
即ばれた。
「………えっ、どこ行ったの?」
「いつの事?」
「夏休み?」
「………今月の11日と12日に、その……お祭りと、夏コミに。まぁ、夏コミの方は私が倒れてしまい、すぐに帰ってしまったのですが」
「(夏コミの質問はこの際置いといて)た、倒れた?」
「大丈夫だったの?」
「なんで?」
「………はい。た……その男の子が病院まで運んでくれて、熱中症になる前に休む事は出来たので、大丈夫でした。でも、せっかく私のために用意していただいた、熱中症対策を無駄にしてしまって……少し、申し訳なかったですね……」
「………意外と出来る子じゃん」
「……いえ、それが期末テストほとんど一桁の点数だったんですよ?」
「え?期末テストの点数を把握してる仲なの?」
「………古典なんて、追試になって私が勉強見てあげたんですから」
「………え?勉強見てあげるほどの仲なの?近所のお姉さん?」
「……いえ、近所というほどではありませんよ。歩いて15分ほどでしょうか?」
「「「………お互いの自宅も把握してるの?」」」
すると「鷺沢文香さん」と呼ばれたので、文香は「失礼します」と言って撮影に向かった。
残った三人は顔を見合わせた。
「………付き合ってない、んだよね?」
「……デートも二回、夏コミってのはよく分からないけど」
「…お互いの自宅も把握してる辺り、多分行ってる」
三人は黙り込んだ後、千秋の方を見た。
「…………さっき、『た……その男の子』って言いかけたよね」
「………バスの中、奈緒が鷹宮くんと話してると、背後で携帯握りつぶす音が聞こえた」
「……あたしが声をかける前、文香ちゃんあの子見てた」
三人はニヤリと微笑んだ。まずは加蓮が声を出した。
「………とりあえず、私が最初に彼と話してみるよ」
「何、かまかけるの?」
「いや、まずは人間性の把握。人に好かれる人間かを判断してくる」
「了解。頑張ってね」
「うん」
すると、加蓮の撮影になったので三人は別れた。
×××
撮影が終わり、自由時間。加蓮と千秋が買い出しに行ってる間、文香はパラソルの下でのんびりしていた。
「ふーみか。何してるの?」
そこに、奏が声を掛けた。
「………いえ、ご友人と海に来たのは初めてなものですから、どうしたら良いか、分からなくて……」
「それなら、一緒に遊ばない?砂で砲仙花でも作ってさ」
「……良いですね」
とのことで、ありすも含めて三人で浜辺に出た。サラサラの砂をかき集め、水で湿らせながら形を作っていく。奏がググり、その通りに形を作って行った。
「しかし、撮影に来たのに遊んでて良いんですかね?」
ありすがぽつんと言った。
「プロデューサーが良いって言ったんだから良いのよ。それに、せっかく海に来たんだし、楽しまなきゃ損じゃない。ねぇ、文香?」
「………そうですね。ですが、鷹宮さんやスタッフの皆さんが働いてるのに、私達が遊ぶのは少し気が引けますが……」
「そういえば、鷹宮さんって人、千秋さんにそっくりでしたね」
「…………えっ?」
ありすからのその発言に、奏が眉をひそめた。
「あ、ありす?どういう意味?」
「ああ、そうでした。奏さんは知りませんでしたね。鷹宮さん、千秋さんの双子の弟さんみたいなんです」
な、なんでお前まで信じてんだ⁉︎とアニメ的にツッコミたくなったが、奏は堪えた。
これを機に、話はどんどんとズレていく。
「そういえば、お兄さんの方はどこで仕事してるのでしょうか?」
「………そうですね。私も聞いてないです」
「べ、別に良いんじゃない?言わなかったって事は、聞かれたくないことなのかも……」
「いえ、オタク趣味を隠そうとしない人はあまりそういうの気にしないと思いませんか?」
「……そうですね。隠そうとしてたわけではないかもしれませんが、気になりますね」
「そう?それより、砲仙花ってどんな形してたっけ?」
「そうだ、せっかくの機会ですし電話してみませんか?」
「………そうですね。通話してみましょうか」
「待って。なんでそうなるの?砲仙花は?」
「砲仙花は一旦いいです。ていうか砲仙花ってなんですか?」
ありすがスパッと断ると、文香はスマホを持ってパラソルの下に戻った。その様子を見て、サァーッと顔を青くする奏。
「ま、待ちなさい!向こうにだって予定があるだろうし、急に電話するのは………‼︎」
「奏さん、先程から鷹宮さんのことやけに庇いますね。もしかして、バイト先知ってるんじゃないですか?」
ありすの質問で、奏はドキッと肩を震え上がらせ、文香の奏見る目は細くなった。
「………そうなんですか?」
「え?い、いやっ………」
なんでこうなるの……と、奏は心の中で涙目になった。だが、いくら精神的に号泣した所で、目の前の二人は自分を逃がしてくれない。だからといって、バラすわけにもいかない。
奏は二人から目を逸らして呟いた。
「………わ、私も知らないけどっ……文香に言えないような場所なら、ホストクラブ、とか……?」
「……ほ、ホスト⁉︎」
「だから、あんまり仕事の邪魔するわけには……」
「文香さん!」
「……はい。今すぐにでも電話しましょう」
ああああ!と頭を抑えて悶える奏。文香は千秋に電話を掛けた。
「……………」
「文香さん?どうしました?」
「………出ません」
「………やっぱり、忙しいんじゃ」
『もしもし?』
「……鷹宮千秋くんのお電話ですか?」
『あー……はい。さ……………ふ、ふみふみ?どうしたんですか?』
「ふ、ふみふみ⁉︎」
想定外の呼ばれ方に、思わず狼狽える文香。
「ど、どうしたんですか鷹宮くん⁉︎」
『な、なんだよ。いつも通りですよふみふみ?』
狼狽えた様子の文香を見て、奏もありすも怪訝そうな顔を浮かべた。が、文香が話してる間に通話を切るような話になって来ていた。
『すみませんけど、俺今少し忙しくて。後で掛け直しても良いですか?』
「………後って何分後くらいですか?」
『……5分後くらいです』
「……あ、それくらいなら、はい。分かりました」
文香も、問い詰めるのにあと5分待つくらいなら良いと思っていた。だが、聞き捨てならない声が聞こえて来た。
『鷹宮くん、私気にしないから話しながら歩いても大丈夫だよ?』
その直後、文香の目が攻撃的な視線に変わったのに、奏は見逃さなかった。聞き覚えのある声に、文香は問い詰めようとしたが、電話は切られてしまった。
その様子が気になったありすは聞いてみた。
「どうしたんですか?文香さん?」
「………加蓮さんの声が聞こえました」
「………えっ?」
「……鷹宮くん、弟じゃなくて本人かもしれない、です」
文香は携帯をパーカーのポケットにしまった。その後、当然文香が睨んだのは奏だ。さっきの態度から、奏が何か知ってるのは明白だ。その視線から堪忍したように奏は言った。
「分かってるから、そんな目で見ないでよ……。全部話すから」
「………お願いします」
「鷹宮くんはアルバイトでここに来たんだけどね。………ていうか、鷹宮くん本人に聞いたら?どうせ、後で電話出てくれるんだし。私だって、なんで彼がそんな嘘ついたのか知らないもの」
あなたが怖過ぎたのよ、とは言えないので、全部千秋に丸投げすることに決めた。が、当然二人が仲直りできるようにフォローも忘れない。
「ただ、鷹宮くんはあなたの事も考えてたわ。プロデューサーに文香と鷹宮くんの関係がバレたら、少なからず恋人だと思われるわ。それはお互いのためにならないから隠さなきゃいけないって」
「………なんでですか?」
「え、だってアイドルが恋愛はマズイでしょう?」
「……………」
文香がピンと来てないのにまったく気にせず、奏は説明した。
「とにかく、彼にも理由があったと思いましょう。それと、今回の撮影期間はあまり鷹宮くんと仲良くしない方が良いわよ。プロデューサーに感づかれるから」
「………鷹宮くんに、迷惑が掛かるという事でしょうか……?」
「まぁ、そうね」
「…………わかりました。でも、とりあえず鷹宮くんに全部聞き出します」
「それは好きにしたら?」
何と無くだが、奏はこの二人は話し合えば解決すると確信していた。なんだかんだで落ち着いた性格だし、相性も良いからだ。
「じゃあ、私とありすは遊んでるから。またね」
奏はありすをつれて、海に向かった。
×××
7分後、ありすは浮き輪の上で浮いていて、その浮き輪を奏が押していると、文香が二人の元に合流して来た。
「あら文香。どうだっ……」
聞くまでもなかった。文香の表情は、激おこだった。
その後、文香の気迫に押されたのと、すぐにバレーボール大会が始まってしまったことによって、奏は何があったのか聞くことができなかった。
が、文香の、ピッチングマシーンか?ってレベルのスパイクにより、千秋は気絶。それによって自由時間が終わり、シャワーを浴びながら、奏はようやく落ち着いて話が聞けた。
「………つまり、自分の名前を呼んでもらうつもりが、加蓮以外の全員と受け取られてしまって、それでイラッとしたのね?」
「…………はい」
明らかにやり過ぎた、とかなり凹んでいた。現在、千秋は自室で寝かされている。
「あまり気にしなくていいと思うわよ」
「………でも、やり過ぎたのは確かですし……」
頭をお湯で流しながら、ポツリポツリと呟く文香。これは、どんなにこっちが「気にするな」と言っても無駄だろうなぁ、と思った奏は、ひとつ提案した。
「なら、晩御飯作ってあげたら?」
「……晩御飯、ですか………?」
「今日の夕食は私達がカレーを作るんだけど、鷹宮くんは気絶しちゃってるでしょ?だから、あなたが鷹宮くんの分を作ってあげるのよ」
「………なるほど。でも、上手く作れるでしょうか」
「あなた一応、一人暮らしでしょうが」
「………えぇ。ですが、男性に料理を作るのは初めてでして……」
「なら、尚更彼は喜んでくれると思うわよ」
「………それに、鷹宮くんに合わせる顔がありませんし……」
凹んでる文香面倒臭っ、と思いつつも奏は堪えた。
「じゃあ、私が鷹宮くんにカレーを持って行ってあげるから。文香の手料理なら、鷹宮くんもきっと元気が出ると思うけど?Angel Beats!の運動会並みに」
「…………」
シャワーを浴びながら考えることしばらく、文香は呟いた。
「………じゃあ、やってみます」
「頑張りましょう」
この数時間後、美味い美味いと言いながらカレーを口にぶち込む千秋の姿を、部屋の窓の外から見ていた文香は、嬉しそうに微笑むのだった。
3話分の内容を1話にねじ込むのはキツかった………。
次から二日目になります。