鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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前調べは無しと言ったな。あれは嘘だ。
まぁ、正直どっちでも良かったのですが、なんか調べた方が良いかなと思ってそうしました。調べなくても平気そう、という意見の方もありがとうございました。


戦線離脱。

 翌日。本屋の前で鷺沢さんを待っていた。コミケだよ、コミケ。初めてのコミケ。なんかヤバイらしいコミケ。いや、念の為昨日の夜中に調べて正解だった。なんかヤバイ、じゃなくてかなりヤバイ。正直、フリーマーケットくらいに考えてたけど、比にならんわ。調べれば調べるほど笑えなかった。まず、熱中症。暑さでぶっ倒れる人は少なくないらしい。他にも諸々と注意点はあったが、まぁとにかくヤバイ。

 と、いうわけで、俺は早急に集められるものを全て集めた。まず、キンキンに凍らせた水と普通の水、それから帽子、タオル、塩分チャージのラムネみたいなの、冷却シート、うちわ……ないものは全部コンビニまで走った。鷺沢さんにも連絡したが、祭で疲れ果てていたのか、眠ってしまっているようで電話には出なかったので、それを二人分、二つの鞄にわけてねじ込んだ。

 万全とは言えないかもしれないけど、やれる事はやった。これで保てば良いんだが………正直、油断は出来ない。俺は昨日までの「鷺沢さんと夏コミデートワクワク」から「灼熱火炎地獄への挑戦ドキドキ」に変わっていた。

 一方の鷺沢さんは、多分何も考えてないだろう。今頃、欲しい本のこと考えてるんだろうなぁ。なんかナルト以外でも、欲しい本があるらしく、キリトとアスナのイチャイチャとかの本も欲しいらしい。それはどういう種類のイチャイチャなのだろうか。いや、考えない方が良いか。

 とにかく、死なないように頑張ろう、なんて考えてると、鷺沢さんが小走りでやってきた。

 

「……お待たせしました」

「おはようございます」

「……は、はい。おはよう、ございます……」

 

 あ、そういえば昨日、次からはちゃんと褒めろって言われたよな。私服を褒めないと。まぁ、今回は「褒めろ」と言われて褒めるんだし、多少頭の緩い褒め方でもドン引きされたりはしないだろう。

 俺は「ごほん」と咳払いすると、緊張気味に言った。

 

「………か、可愛いですねっ」

「…………はっ?」

 

 言うと、キョトンとした顔で俺を見る鷺沢さん。で、カァッと顔を真っ赤に染めた。

 

「……いっ、いいい、いきなりっ……にゃっ、何を………⁉︎」

「えっ?いや、だって昨日、次からは褒めろって……」

「っ! そ、それは浴衣とか特別な服装の時です!し、私服まで一々褒められてたら、身がもちません、よ……!」

「あ、あー……そ、そういうことですか………」

 

 うおお……なんかすごい恥ずかしい思いをしてしまった……。なんか最近、恥ずかしい思いしかしてないんだけど……。

 

「…………」

「…………」

 

 ………やばい、どうしようこの空気……。やらかした………。何なんだ俺は一体……。何がしたいんだよ………。

 はっ、イカンイカン。そんな事より、まずは荷物を渡さなくては。俺は二人ぶんの鞄の片方を鷺沢さんに渡した。

 

「………これは?」

「夏コミ用の装備です」

「………え、なんでこんなにたくさん」

「なんか、昨日気になって夜中に調べたんですよ。そしたら………ヤバイみたいです」

「………えっ?」

「熱中症でぶっ倒れる人は少なくないみたいです。だから、俺の方で一応、鷺沢さんの分の装備も整えておきました」

「………あ、昨夜来てた不在着信って……」

「はい。一応知らせとこうと思ったんですけど、なんかもう寝てたみたいなんで………」

「……………」

 

 俺が説明すると、鷺沢さんの顔色は段々と悪くなっていった。

 

「………なんか、怖くなってきました」

「どうします?やめときますか?」

「…………」

 

 鷺沢さんは少し考え込んだあと、俺の背中の荷物を見た。で、首を横に振った。

 

「……いえ、私のためにせっかく用意してくれたんですし、行きます」

「そうですか?分かりました」

「……それより、他に何かありませんか?注意しておくこととか……」

「あー……小銭を多めに用意しといた方が良いみたいです。それと、定期にはちゃんとお金を入れておいた方が良いみたいです。向こうの改札出たら、即並ぶくらいの勢いみたいなので」

「………分かりました。じゃあ、コンビニでとりあえずお金崩しに行きましょうか」

 

 とのことで、近くのコンビニに向かった。

 

 ×××

 

 国際展示場駅。そこから、東京ビッグサイトに移動した。ネットで調べた感じだと、11時くらいからは数十分待つ程度で入れるとあったが、割とかなり並んでんだろこれ。40分くらいは待ちそうだ。けど、入場開始の人達とかはもっと並んでるらしいんだよなぁ。

 まぁ、嘆いても仕方ないので、待機列の後ろに並んだ。

 ………なんか、話しかけた方が良いかな。何か会話をしようにも、何を話せば良いか………いや、あるわ。

 さっきまでと違って、俺の持って来たポケ○ントレーナーの帽子を被ってる鷺沢さんに声を掛けた。

 

「鷺沢さん」

「……はい」

「…………この前貸したダンまち、読みましたか?」

 

 聞くと、鷺沢さんと俺の間に沈黙が流れた。そして………。

 

「…見ました!まだ、6巻までですけど……すごく面白かったです!」

「ですよね⁉︎特に⁉︎」

「……私はー、そうですね。一巻のシルバーバックの所ですね」

「あーやっぱりそこ?分かります。ミノタウロスのとこよりも階層主のとこよりもシルバーバックですよね」

「……はい。ミノタウロスも好きですけどね。ほら、【ファイアボルト】を泥臭く連発する辺り、リアリティありませんか?」

「あー分かります。自身の武器全部使って戦ってる感じありますよね」

「……あれはカッコよかったですよねー。普段は割と弱々しい兎みたいな感じなのに、戦闘になると変わりますよね」

「鷺沢さん、ベルくんみたいなのが好きなんですか?」

「……うーん、どうでしょう。そうかもしれません。ほら、吉井さんとかクウェンサーさんとかー……あとはキョンさんも好きですから」

 

 ふむ、つまり力が無くても強敵に立ち向かえるタイプが好きなのか。

 

「………意外ですね。ヒッキーみたいなタイプが好きなんだと思ってました」

「……はい。比企谷さんも好きですよ。ただ、桐ヶ谷さんみたいなタイプはあまり………」

「はい。俺もキリトは好きじゃないです!羨ましいから!」

「……そ、そうですか………」

 

 あ、やべっ。断言し過ぎた。ちょっと引いてるじゃん。

 

「いや、リア充でも好きなキャラはいますよ?阿良々木くんとか。でも、キリトはなんか……羨ましい……。なんであそこまでモテんだよ畜生………」

「……………」

「? なんですか?」

「………いえ、モテたいんですか?と、思いまして」

「いや全然。実際、モテたいとは思いませんよ?ただ、女の子に好かれてみたいとは思った事ありますけど………」

「………いや、それ同じじゃあ……」

「違います、二人も三人もなんで言いません。一人で良いからモテたいんです」

「……………」

「な、なんですか」

「……いえ、なんでもありません。………それで、ダンまちで好きな女性キャラは?」

「ティオナ」

「……やっぱりですか………」

「鷺沢さんは?」

「………アイズさん」

「やっぱりな………。鷺沢さん、なんだかんだメインヒロイン好きそうですし」

「………なんで鷹宮くんはそういう、サブヒロイン?とかサブキャラが好きなんですか」

「仕方ないじゃないですか。そういう方が可愛く見えるんだもん」

「………とあるは?」

「御坂妹かバードウェイ」

「………このすば」

「エリス様」

「………あんハピ」

「チモシー」

「……最後のおかしいです!ていうか、なんでみんな……その、小さい人に偏ってるんですか?」

「小さい?何が?」

「………で、ですから……!その…………む、むね(←ここだけ超小声)…………」

「えっ?なんだって?」

「〜〜〜っ!き、聞こえてるくせに!意地悪です!」

「……謝りますから大きな声出さないでください。周りの視線が……」

「…自業自得です‼︎」

 

 だよね。俺はため息をついてから答えた。

 

「別に、意味はありませんよ。俺の好きになった人がたまたま胸が小さかっただけです」

 

 これは事実だ。だから、俺は決してロリコンじゃない。銀魂はそよちゃん、オーバーロードはアウラ、バカテスは秀吉だからって、決してロリコンではない。

 すると、鷺沢さんは下から覗き込むように俺を見て聞いてきた。

 

「………そういう人が、好きなんですか?」

「どういう人?」

「………………」

「冗談だから睨まないで。……別に貧乳が好きとか、そういうわけじゃないですよ。ほら、艦これだと俺は古鷹が好きですし」

「………確かに。でも、一貫性がなさすぎです」

「それは仕方ないでしょう。好きになっちゃったんだし」

「………恋してる、みたいに言わないで下さい」

 

 ……なんでちょっと怒っとんの。鷺沢さんは不機嫌そうに、俺の用意した鞄の中からお茶を取り出して飲んだ。

 

 ×××

 

 15分ほど経過した。早くも問題が起こった。鷺沢さんの体力だ。さっきから一言も喋らないで、俺に寄っかかっている。

 

「………鷺沢さん?」

「っ……っ………」

 

 5分前くらいからなんか調子悪かったのか、口数が減って来てたからなぁ。その少し前までは元気にダンまちについて語ってたのになぁ。

 

「………だ、大丈夫ですか?」

「……だぃ、じょぶ…れす……」

 

 ………いやダメだろこれ。俺は鞄の中から凍らせた方のペットボトルを出して、鷺沢さんの首の後ろに当てた。普段なら「ひゃう⁉︎も、もう!何するんですかっ?」と可愛らしくぷんぷんと怒るのに、今日は反応がない。俺はそのままペットボトルを押し当てた。熱冷ますにはここが良いんだよね、確か。冷気を感じるとかなんとか。

 左手で押し当てたまま、鞄の中から熱さ○シートを取り出し、鷺沢さんのおデコに貼っつけた。あとは、定期的に水と塩分チャージを口に流し込むしかない。

 

「……鷺沢さん、一歩歩いてください。列進んだんで」

「……っ………」

 

 コクッと頷く鷺沢さん。だが、脚は踏み出せない。俺が持ち上げる形で鷺沢さんを歩かせた。おいおい、これ入場してもダメなんじゃ……。………これは入場は諦めた方が良さそうだな。

 

「………帰りましょう。これ以上はヤバイです」

「…………ぇっ……」

「………同人誌は諦めましょう。ネットや秋葉でも買えますから」

「………はぃ……」

 

 意外と素直に頷いた。あれだけ楽しみにしてたら、もう少し何か言われると思ってたんだけど……。それとも、何か言うだけの体力が残っていないか……。

 まぁ、何にせよここまでだな。まだどこまでも行ってないけど。とりあえず、病院に連れていった方が良さそうだ。

 

 ×××

 

 一応、病院で診てもらうと、熱中症一歩手前だったらしい。あと少しでアウトだったそうだ。

 念には念を入れて、病院で休ませてもらってから、鷺沢さんと帰宅している。念のため、家まで送ることにした。

 しかし、鷺沢さんがここまでなるなんて、やっばり夏コミは危険だ。初心者は冬コミからの方が良いとかも書いてあったし、その方が良かったよなぁ。でも、鷺沢さんすごい楽しみにしてたし、「夏コミは危ないからやめよう」なんて言えなかった。

 

「……………」

 

 鷺沢さんはさっきから一言も話さない。いや、体調悪いんだから当たり前だが、それ以上に気が沈み込んでいた。まぁ、楽しみにしてた夏コミに参加できなかったんだから、気持ちはよく分かる。

 

「………鷺沢さん?」

「…………」

「………ま、まぁ、仕方ありませんよ。夏コミってこういうものみたいですから。鷺沢さんは女性ですし」

「…………」

「秋葉原とか池袋なら夏コミほど混みませんし、そこで買いましょう」

「…………」

 

 ふえぇ……何も喋ってくれないよぅ……。謎のスフィンクスなの?いや、そんな体力が残ってないって事は分かってるんだけどさ。

 鷺沢さんの家のマンションに到着した。裏に回り、自動ドアの前に立った。

 

「鷺沢さん、着きましたよ?」

「……………」

「……あの、このドアどうやって開ければ……」

 

 すると、鷺沢さんはポケットから鍵を取り出した。自動ドアの横の部屋番号を押すところに付いてる白い部分に鍵を当てると、自動ドアが開いた。何それすごい。センサーでもついてんのか?

 自動ドアを通った。そのまま、鷺沢さんの部屋まで移動した。

 

「着きましたよー。鷺沢さん」

「………すいません、ありがとうございます」

 

 鷺沢さんはソファーに寝転がり、俺も

 ……しかし、鷺沢さん落ち込んでたなぁ……。そんなに読みたかったのかなぁ、同人誌。いや、まぁ確かにナルトの世界はシビアだから、平和な時は何してるんだろうとか気になるのは分かるけどね。

 ………何なら明日、俺一人で買いに行くのもありかもしれない。とりあえず、ナルトとSAOの同人誌を片っ端から買って変えれば……。いや、金がいくらあっても足りないのでやめておこう。

 買う商品にしても、前調べが必要みたいだ。どのサークルのどの作品が良いかも調べるべきだな。

 って、そんな事どうでも良いんだよ今は。それより、鷺沢さんの体調だ。

 

「気分はどうですか?」

「………大丈夫です」

「そうですか。……なんか辛かったら言ってくださいね」

「……………」

「……あ、喉乾いてませんか?お茶飲みます?」

「……………」

 

 ………な、なんか言ってよぅ……。気まずいんだけどなんか……。

 返事がなかったが、まぁ飲むかもしれないのでお茶を淹れてると、鷺沢さんが口を開いた。

 

「………すみません、鷹宮くん」

「はい?」

「…………私の、所為で……楽しみにしてた、夏コミを……」

「鷺沢さんの所為じゃないですよ」

 

 俺はカップに氷を入れてから、お茶を冷蔵庫から取り出した。

 

「あの炎天下の中じゃ仕方なかったですよ。俺だって、15分程度だったから平気でしたけど、あの調子じゃ何分保つか分かりませんでしたし」

「………でも、鷹宮くんだって、欲しい本とかあったんじゃ……」

「いえ、明確な目的があったわけじゃありませんから。現地で欲しいと思えるものを見つけられれば良いなぁ、くらいのつもりでしたから」

 

 むしろ、鷺沢さんと出掛けられるのならどこでも良かった。

 

「………だから、鷺沢さんは気にする必要なんかないですよ」

「……………」

「それより、冬にも『冬コミ』って奴があるみたいなんですよ。こっちはキチンと防寒してれば、夏コミに比べて楽みたいですよ?」

 

 鷺沢さんに淹れたお茶を差し出した。

 

「そっちまで、我慢しませんか?」

「……………」

 

 鷺沢さんは、しばらく俺の方を眺めた。すると、頬を染めて俯いた。………やっぱり、まだ体調悪いのか?お茶のお代わりが必要かなと思って、ペットボトルを持って来ようとすると、鷺沢さんが顔を上げた。そして、最初に俺が鷺沢さんを見た時と同じような清楚さを全身から出したような微笑みを見せた。

 

「………はい。ありがとうございます、鷹宮くん」

 

 ………何これ。あー、なんだこの感じ。え、何これ。何だこの気持ち。スゲェ、心臓がバクバクいってる。破裂すんじゃねぇのこれ。クッソ……なんかすごい気恥ずかしいし………!

 

「………じ、じゃあ大丈夫そうなんで俺帰りますね」

 

 逃げるように、俺は玄関に歩き出そうとした。その俺の手を鷺沢さんは掴んだ。え、何。

 

「……あのっ」

「は、はい…」

「………もう少し、一緒にいてくれませんか……?」

「えっ……」

 

 無理……正直、今鷺沢さんと一緒にいるとマジで心臓飛びそう。口から胃が飛び出すレベル。

 考えが顔に出ていたのか、鷺沢さんは追撃した。

 

「………じゃあ、昨日の射的に勝った命令、です……。今日1日、一緒にいて下さい」

「……………」

 

 それはずるいだろう………。けど、それは断れない。

 

「………わかりましたよ」

「………はい。じゃあ、隣に座って下さい」

 

 俺は、鷺沢さんの隣に座った。

 

 




と、いうわけで、コミケ編は冬コミに持ち越します。それまで、ふみふみのあーんな反応やこーんな反応はお待ち下さい。
あと、夏休みはもう少し続きます。すみません。

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