鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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プロローグ
本の似合う女性は大体美人。


 学校からの帰り道。俺はいつものように、本を読みながら帰宅していた。本、といっても別に文学的な本ではなく、ライトノベルとかだ。俺はそういう本の方が読みやすくて好きだし。まぁ、ライトノベルにハマったのは高校に入ってからだから、あまりたくさん読んでるわけじゃないんだけどね。

 ラノベとかを読みながら歩いてると、他人から見たらオタクのように見られてしまうかもしれないが、そもそも他人と話す機会なんて無いので問題ない。人は関わらなければどんな悪人でも無害なものだ。

 ちなみに、今読んでるのは「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」の5巻。もうすぐ読み終わるので、古本屋に向かっていた。ちなみに、一番好きなキャラは材木座義輝。こいつ、面白過ぎるだろ。

 読み終わり、本を鞄の中にしまった。最後の方のページのヒッキーとゆきのんがすれ違うページは少しドキッとしました。ちょうど、古本屋に着いたので、早速続きの六巻を探し始めた。

 行き慣れたラノベコーナーに真っ直ぐ向かい、真っ青な背表紙を探した。えっと……「や」行……「や」行………。

 

「あ、あれ………?」

 

 お、おかしいな………「やはり」の頭文字が見えない。見間違いか?探し直そう。やはり俺の……やはり俺の………。ああ、あったあった。えーっと、一巻、二巻、三巻、四巻、五巻、七巻ドラマCD付き………。

 

「あれ?」

 

 おかしいな。六の文字が見えないぞ。見間違いか?もっかい探すか………。一巻、二巻、三巻、四巻、五巻、七巻ドラマCD付き………。

 いや、無いわけ無いやろ。だって、え?ドラマCD付属版があるのに六巻がないわけないでしょ。探し方に問題があるのか?

 一巻、二巻、三巻、四巻、五巻、いま何時でぇ?へぇ、六時でさぁ。七巻ドラマCD付き、八巻、九巻、十巻………。

 時そばの数え方をしても、六巻は無かった。ていうか、時そばはダメだろ。飛ばしてんじゃん。

 

「…………マジ、かよ」

 

 え、どうしよう。古本屋は他の本屋と違って必ず入荷するわけじゃない。誰かが売るまで俺は待てるのか?無理だな。

 と、なると新品で買うしかないわけだが………ま、たまには新品もいいか。中古と比べてかなり高くなるけど、背に腹はかえられぬ。

 俺は古本屋を出て、本屋に向かった。どうせ新品で買うなら、保存状態とかを気にしたい。よって、駅の中の本屋はアウト。そうなると、うちの近くの本屋しかなくなるわけだが、あまりあそこ入ったことないんだよなぁ。まぁ良いか。

 若干、早歩き気味になりながらも本屋に向かい、店の扉を開けた。未だに自動ドアじゃない辺り、年季を感じる。

 

「……………」

 

 店に入っても「いらっしゃいませ」の声もない。まぁ、本屋なんてそんなもんかもしれないが、少し気になった。ていうか、客一人もいないし。店の中を見回って、ラノベコーナーを探す。だが、何処を探し回っても文学書みたいな本しか見当たらなかった。……おい、ここいつの時代の本屋だよ。ラノベどころか雑誌も見当たらねえぞ。

 ………一応、店員に聞いてみるか。つーか、店員いるのか?や、流石にレジにはいるか。

 もはや、迷路と言っても過言ではない本棚を抜け、レジの前に移動すると、女性がレジの前に座って本を読んでいた。

 かなり美人な女性。なんというか、「美人」を絵に描いたようなお嬢様のような女性だった。………けど、お前なんで本読んでんの?仕事しろよ。

 

「………あの」

 

 声を掛けると、その女性はこっちをハッと見た。慌てて本に栞を挟んでその辺に置くと、こっちに向き直りながら挨拶した。

 

「あっ、い、いらっしゃいませ」

「あ、す、すいません」

 

 なんで謝ってんの俺。

 

「え、えと……何か?」

「あ、いや……ライトノベルってありますか?」

「…………らいとのべる?」

 

 おい、マジかよこの人。今、発音が完全にお婆ちゃん発音だったぞ。若く見えるのに40過ぎてんのか?………いや、それはないな。いいとこ、17とか18くらいだろう。

 

「あーいや……なんていうかー」

 

 参ったな。実の所、俺も「ライトノベルって何?」と質問されて答えられる気がしない。

 考えるのも説明するのも面倒だったし、何より続きをさっさと読みたいので、鞄からさっきの五巻を取り出した。

 

「あ、あの、このシリーズありますか?」

「………あ、も、申し訳ありません。……当店でのお取り扱いはしていません」

 

 即答かよ。せめて探すフリとかしろよ。

 

「………は、はぁ。分かりました」

 

 しかし、そうなると面倒だぞ。駅の本屋は嫌だし、それ以外はショッピングモールとかになるけど、あの辺はクラスメイトが多いから行きたくないんだよなぁ。………ふむ、どうしようか。いっそ、ネットショッピングでも……。

 考えてると、女性の方が声を掛けてくれた。

 

「………あの、よろしければ、お取り寄せも出来ます、ですけど」

「取り寄せ?」

「……はい。……その場合は数日かかってしまいますが……」

「……………」

 

 どうしようか。まぁ、取り寄せてもらえるということは、少なくとも保存状態は良いはずだし、他の本屋で買うよりはマシだ。頼んでみるか。

 

「あ、じゃあお願いします」

 

 毎回思うんだけど、この「あ、」から始めちゃうのって何なんなの?冠詞なの?

 女性の方は紙とペンを取り出すと、俺の顔を見た。

 

「……それでは、商品名を教えていただけますか?」

「あ、はい」

 

 また、言っちゃったよ。

 

「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」

「………は、はぁ。……そう、なんですか」

「え?はい。それの六巻です」

「…………あ、言葉足らずで申し訳ありません。……その、巻数だけでなく、本のタイトルも教えていただけませんか?」

「や、ですから『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』」

「……?……?」

 

 アレ、なんか通じてない。もしかして、日本人じゃないのかな……。

 

「…………あ、あの、ですから本のタイトルを……」

 

 …………ああ、もしかして「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」をタイトルとして認識出来てないのか?そりゃそうか、長文タイトルなんてラノベくらいだもんね(多分)。

 

「す、すみません。そういうタイトルなんです」

「………へ?」

「『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』というタイトルなんです。紛らわしくてすみません……」

「…………あ、ああ。そういう事、でしたか。すみません、聞いたことない本だったので………!」

「い、いえ。それの六巻です」

 

 すごく恥ずかしかったのか、顔を赤くして縮こまりながらタイトルをメモし始めた。

 

「……………あ、あの、お客様のお電話番号は」

「あー、080-××××-○○○○です」

「……080、と……。それと、お名前を教えていただいてもよろしいですか?」

「鷹宮千秋です」

「………あの、苗字だけで大丈夫ですので……」

「あっ、す、すみません!」

「……い、いえ、こちらこそ説明が足りなくてすみません………」

 

 タカミヤ、とカタカナでメモる店員さん。なんか今、痛烈に恥ずかしい思いをしてしまった………。

 メモを終えて、店員さんはメモを注文票に書き写すと、その控えを破って俺に渡した。

 

「………では、届いたらお電話を差し上げますので、その日以降にまたお越し下さい」

「分かりました」

「では、お待ちしていますね」

 

 ニコリと微笑まれ、俺は思わずドキッとしてしまった。元々、美人なだけあって、この店員さんの笑顔は綺麗だ。

 

「じゃ、その……失礼します」

 

 俺は何故か礼儀正しく挨拶をして、レジから離れた。うん、良い店を知ったな。まさか、あんな綺麗な人が店員さんだったなんて。いや、バイトの可能性もあるけど、もう少し早く来ておけば良かった。

 そんな事を思いながら店を出て、受け取った控えを見下ろした。伝票には「担当者:鷺沢文香」と書かれていた。

 …………そっか、鷺沢さんって言うのか。まぁ、名前なんて覚えたところで、進展することは無いだろうけど。さて、電話が来るまでの間は「ソードアート・オンライン」でも読んでるか。

 そう決めて、俺は鞄からラノベを取り出した。

 

 


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