悔いなき選択   作:シタケ
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3 積乱雲


 紅白戦が終わると、体育館ではまさか、という部員の驚きが充満していた。

 まさか、控えのチームが勝つなんて。

 ただ、それだけではなかった。勝敗は、もちろん大事だが、一番選手たちが見るべきなのはその試合内容だった。

 たった1セットだけの短い試合を一言で表すのは、スタメン側の選手たちがつぶやいたこの言葉で間違いないだろう。

 「何が悪いのか分からなかった。」

 負けたということは自分たちが相手より劣っている部分があったということだ。悪いところがあったということだ。だが、選手たちはそれが分からなかった。

 ミスはむしろ普段より少なかった。セッターの及川、スパイカーたちは一度もタッチネットをしなかったし、サーブミスも全体で2、3回程度しかなかった。影山たちのチームの方がもっとサーブミスをしていただろう。
 速攻は少ないながらも決まっていた。時間差攻撃も、囮も、レシーブも、悪くなかった。

 なのに、負けてしまった。

 監督はそんな試合の結果をふまえ、こう考える。

 (スタメンチームに悪いところが少なかったのに負けたということは、この1セットの間控えのチームが完全にスタメンチームを上回っていたということだ。
 こんなことは、前ならなかった。当然だ、スタメンと控えでは実力が違う。
 しかし、今回は起きてしまった。影山というセッターを入れた今回だけ、起きた。

 なら、原因は明らかだ。)


 監督は、影山を見る。


 (もしかしたら、この少年は、"天才"牛島に匹敵するような恐ろしい選手になるのかもしれん。
 ーーいや、もうなっているのか。
 年齢とタッパというハンデさえも覆す、"何か"をこの少年はすでに持っているのだ。
 おそらく、それを人は才能と呼ぶのだろう。)

 強豪北川第一中学校男子バレー部を率いるにふさわしいバレー知識をもった監督はそう悟る。
 それは主将の及川が危惧した牛島と影山の共通点、天才性に確証を与えるものだった。さらに、恐ろしいのは影山はまだ、完全体ではないということだ。これから身長は伸び、経験も積んでいくだろう。逆に言えば、周りに劣るまだ未熟な身体ですでに他を圧倒する選出であるとも言える。
 影山の将来、その惨さを考えた時、年の近い実力者である及川が監督の思考を知ることがなかったのは幸いだった。
 そうではなかったら、おそらくーー彼は"さらに"追い詰められただろうから。




 何はともあれ、紅白戦を経て、影山は大会出場選手のメンバーとして発表の時に名前を呼ばれた。
 影山の名前が呼ばれた時、空気がどよめいたが、その後は何事もなくおおよそ予定調和という形でメンバー発表は終わった。

 各々がそれぞれの思いを胸に聞いたことだろう。



 メンバー発表の後、解散の流れになる。

 影山はまだまだ物足りなく感じていたので、迷わず居残って練習することにした。
 "昔"も最後まで影山は練習していることが多かったものだ。

 そんな体育館の中の影山に対して、校門から何人かのバレー部が出て行く。その中には影山と同級の一年生たちの姿もあった。

 金田一、国見。のちに青城で高校一年生ながらもスタメン出場し、前の時では中学三年生の時影山を監督に降ろすよう訴えた二人は並んで帰っていた。
 
 金田一がまず、その話を始めた。

 「影山、どう思う?」

 彼は目をあちらこちらにさまよわせながら、国見の表情をうかがう。

 「さぁ。」と国見は返したが、そのまま続けた。

 「まぁ、実力からすれば妥当な抜擢なんじゃないの。
 このままいけば、あいつは三年引退後のチームの中心になるだろうし、経験を積ませるって点で、今回のはアリだと思う。
 ただ、"夏の大会"もそのままいくのかは、知らない。」

 国見は前を歩く三年生たちの後ろ姿を見た。

 「……。」

 金田一は、微妙な顔で黙る。

 今回の春季大会で、監督は影山をどう起用するのかは誰にもまだ分からない。
 しかし、及川を温存し影山に経験を積ませるため、序盤でスタメンというのが大方の生徒の予想だった。
 その理由は及川が主将で、三年生だからだ。

 春季大会は県大会までしかない。つまり、次につながる大会ではない。どちらかといえば、三年生の最後の舞台である夏の大会ーー総体に向けて自分たちの実力を試したり、相手をはかったりする場所だ。

 それならば、最後という理由で総体で実際でると"考えられている"及川により高いレベルのチームを当てるはずだ。

 "ただ、"

 国見は思った。

 "実際、監督が夏の大会で及川さんと影山のどちらを使うのかは今日で分からなくなった。"

 国見は人一倍冷静で、観察力のあるタイプの選手だ。彼の見た限り、スパイク、サーブ、ブロックといったところはさすがに体格差のある及川の方が、影山より優れていた。
 だが、逆に言えばそれだけだった。影山のトス回しとその精度、危うげない返球やレシーブ、落下点に入る速さ、つまりセッターというポジションにおいて、影山は及川を完全に上回っていた。

 事実紅白戦では影山のチームが及川のいるスタメンチームに勝ったのだ。

 "もし、自分が監督だったらーー全国に行くために総体で影山を正セッターにすることを考える。"
 
 データが少なく、しかも元のセッターより優れたところのある影山。
 主将であり、長年積み上げてきた信頼のある及川。
 どちらを起用しても、ある一定以上のチームにはなるだろう。
 だが全国を目指すためには、より強いチームにするためには最善はどちらか。
 その思考にたどり着いたがゆえに、国見は心配だった。

 後ろを振り返ると、体育館が見える。
 及川と影山はどちらも残っていたはずだ。

 "三年生という後がない学年で、自分より上手い同ポジションの一年が入ってきた。
 そんな状況の及川さんはどういう心境か。そして、及川さんから見た影山は。"


 二週間後、国見は及川には影山という存在だけでなく、他にもう一人、彼を追い詰める存在がいることを知ることになるが、そのことを国見はまだ知らなかった。

 そして、春季大会を迎えた。
 



>スパイク、ブロック……
原作でスパイクを打ってる場面が全くないんですが、及川さんはスパイクを打つ……はず。打つよね……?

彼についてはとりあえず原作の描写が微妙というか変(トス回しの試合描写は影山>>及川なのに、周りの評価が及川>>影山。設定では影山>>及川。全くスパイクを打たないのに超攻撃型セッター。)なので評価は能力通りにしていきますね。
とりあえずスパイクは中学のネットの高さではうってたという設定です。






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