二月。どこぞの無能がやったバレンタインの後片付けをすることに。俺は人間じゃないし、ロックハートに『服従の呪文』かけても罪にならないんじゃないかって思い始めた。罪になるからできないだけで、やっていいならやる。
ハーマイオニー・グレンジャーとペネロピー・クリアウォーターが襲われた。もうしばらくしたら、魔法具の仕掛けが発動するだろう。
バジリスクを移動させる場所は、ギリシャのとある島だ。認識阻害結界が張られた、地図に載っていない島。名付けるとしたら、『形なき島』ってところかな?バジリスクは蛇で魔眼持ちだし、ゴルゴーンになぞらえて。
調教が完了したらホグワーツに戻すつもりだけど。
あ、移動させる前にバジリスクの毒を絞っておかないと。日記への対抗策がなくなる。
ハグリッドがアズカバンへ送られ、ダンブルドアの停職が決まった。一縷の期待を込めて、ハグリッドに、ジェームズが撮った『スニッチをキャッチするハリーの写真』を持たせる。もしシリウスに会うことがあったら渡しといてくれと。
次の夜。こっそりとバジリスクの毒を絞り小瓶に入れる。グリフィンドールの剣が出てきたら、この毒瓶を壊させて毒を吸収させる。うまく行けば、これで日記を壊せるはずだ。瓶は、フォークスに持たせておいた。
ジニー・ウィーズリーが攫われたと連絡があった。
屋敷しもべ妖精達が混乱している間に、こっそりとギリシャの島へ〈姿現し〉する。うまく行ったようで、あたりを見渡すバジリスクがいる。
後ろからそっと近寄り、『服従の呪文』を付与した首輪をつける。ハリーのブレスレットと同じく、つけた者にぴったりの大きさになるので、うっかり外れることはない。おしゃれ……と言うか、アクセサリーとしても使えるよう、前に錠前が付いているデザインだ。……よくよく考えたら、束縛系のアクセサリーじゃないか。
バジリスクに体を伏せさせ、慎重にコンタクトレンズを入れ替える。バジリスクに使用した魔法具だ。
「我ながらよく考えたものです。側で見ても気づかれにくく、かつバジリスクが自ら外すこともない。それに、認識阻害の魔法をかけておけば魔眼を抑えることも可能なのですから」
今度のコンタクトは三重で認識阻害を付けている。石化どころか、麻痺すらしないだろう。
ただし、ホグワーツに対して敵対心を持つ者相手にだけ、認識阻害を二つ解除するようになっている。頑張ってホグワーツの結界に効果を追加して、結界と連動できるようにした。
ここまでの細工をできたのは、ロックハートが色々と注目を集めてくれたおかげだ。いやー、助かった。
ホグワーツに戻って秘密の部屋へ。ちょうど、トム・リドルとハリーが相対した場面だ。リドルはスリザリンの石像に向かっている。
リドルが何かを呟き、スリザリン像の口が広がる。リドルはハリーの方を向き、高笑いした。
「さあ、あいつを殺すがいい、バジリスク!■■■■■■!……おい、バジリスク?■■■■■?どうした、出てこい!……なぜいない!?」
遠くからパシャリ。うん、いい困惑顔。ハリーの方もいい困惑顔だ。
ここでハリー、グリフィンドールの剣を引き抜く。フォークスに差し出された瓶を剣で割り、一歩ずつ、リドルの方へ向かう。
「ま、待て!これは何かの間違いだ!そうだ、明日、明日までジニーを生かしておいてあげよう!だから今日は帰ってくれ!お願いだ!君も、バジリスクがいないと張り合いがないだろう?」
「ごめん、やれることはやれる時にやっておくべきだよね」
「本当に待ってくれ!これだと僕が咬ませ犬みたいじゃないか!いや、咬ませ犬どころの話じゃない。ただ自信満々に出てきて格好つけて大失敗しただけだぞ!?せっかくラスボス感出したんだぞ?あんまりじゃないか!」
「問答無用」
黒い日記に、ハリーが剣を突き立てる。
日記からどす黒いインクが溢れ出て、リドルは二重の意味で悲鳴をあげながら消えて行った。
その日の夜、ダンブルドア校長からの伝言です、とマクゴナガル教授が祝宴を開くと伝えに来た。
「これは、我々屋敷しもべ妖精一同が、全力を尽くして、これまで以上の美味しい料理を、これまで以上の量で作りあげるべきです。全員、得意料理を報告。同じ料理が得意な者同士で組んで、さらに高め合いなさい。どれも得意だと言う者は誰も作っていないものを!手が空いた者は交代でピーブズの見張りです!駆け足!」
翌日には、厨房には全力を出しすぎて、死んだかのように深い眠りにつく屋敷しもべ妖精の群が見えたとさ。
◇◇◇◇
「……お主、バジリスクをどこへ持って行ったんじゃ?」
「もう少ししたら、ホグワーツの守護者として戻すつもりです」
「いや、だから場所じゃよ」
「ギリシャの島です。誰も近寄る心配はありません。魔法具による認識阻害で、バジリスクの目を見ても死にも石化もしません」
「お主の発想は……生徒に被害はないのだろう?」
「もちろんでございますとも。私はできるしもべ妖精ですから」
「バジリスクが暴走する危険は?」
「『服従の呪文』を使った魔法具を着用させております。直接的な主人は私ですが、ダンブルドア校長先生にも命令権はもちろんございます」
校長室で、ダンブルドア校長と今回の事について喋る。バジリスクが学校に戻ることについては許可を得た。ついでに、ホグワーツの結界を弄ったことについては、少し怒られたが「しょうがないのう」と許された。
「ところでじゃが、ギヴァー。君はもうちとフランクに話しても良いと思うのじゃよ。わしは君の秘密を知っておるわけじゃし、ほれ、もっと砕けた話し方をしてみると良い」
「この喋り方以外無理なようです。丁寧語フィルターでも搭載されてるようでして」
「……丁寧語での毒舌は案外心にくるんじゃよ。それを浴びせられる者達のことも考えてやってくれ」
ギヴァーは必ず敬語/丁寧語で喋ります。砕けた話し方をするのはモノローグのみ。どのように喋っても丁寧語に変換されてしまうのです。
バジリスクで一番やばいのは魔眼。なら、眼を認識できないようにしてしまえばいい。ニックと言うフィルターだけで石化まで抑えられるのなら、コンタクトでも平気なはず。
ただし、コンタクトだとニックや鏡と比べて薄すぎる。これだとほとんど即死が軽減されず、せいぜい即死から悶絶死に変わった程度。
なら、コンタクト自体に認識阻害を付けることで、バジリスクの眼に認識阻害をかけてしまえばいい。