すた☆だす   作:雲色の銀

9 / 76
第9話「ひと夏の冒険」

 深夜、私はふと目を覚ました。

 ついさっきまで怖い話で盛り上がっていた部屋は、すっかり静かになっている。

 

「トイレ……」

 

 皆を起こさないようそっと扉を開け、寝呆け眼でトイレに向かった。

 

「ふわぁぁ……」

 

 用を済ませ、欠伸をかく。早く部屋に戻って寝よう……。

 

 

 

「ぅ……ん~」

 

 あれ? 珍しく、また1人で起きれた。さっきトイレに行ってからどれぐらい時間が経ったんだろう?

 部屋はまだ静かで、皆寝てるみたい。

 

 寝たまま目を開けると

 

「ぐー……」

 

 はやと君がいました。

 

「――っ!!?」

 

 悲鳴を必死に抑える私。な、何ではやと君が!?

 すごい至近距離で寝ていて、お互い少し浴衣がはだけている。

 顔を真っ赤にしながら起き上がる。周りを見ると、やなぎ君達もいた。

 そっか、私が部屋を間違えたんだ。トイレに行って戻ってきた時に、寝惚けて部屋を間違えちゃったみたい。

 はやと君を起こさないように、そっと歩いて女子の部屋に戻った。

 はぅ、まだ心臓がドキドキしてるよ~!

 ……でも、はやと君の寝顔、少し可愛かったな。

 結局、私は部屋に戻っても眠れなかった。

 

 

☆★☆

 

 

 みちるの別荘、2日目は朝から豪勢だった。

 高そうなカップに入った紅茶やコーヒー。皿の上には種類豊富なパンの山。ジャム瓶も数多く置いてある。

 

「みちる、これ朝飯だよな?」

「ごめんね、今卵切らしてるみたいで……」

 

 目玉焼きなんざ、今はどうでもいいんだよ!

 

「あっ、それともご飯の方が良かった?」

「……もういい」

 

 みちるの噛み合わない会話に疲れ、俺は椅子に座った。

 隣には、うつらうつらと眠そうにしているつかさがいた。

 

「おはよ、つかさ」

「おはようはや……!」

 

 つかさはいつも通り……かと思いきや、顔を真っ赤にしてそっぽを向かれてしまった。俺、何かやったか?

 今朝は結局、つかさは一言も口を利いてくれなかった。

 

 

 

「海だー!」

 

 知ってる。ってか昨日来ただろ。

 あきはテンション高く海原に向かって吠える。

 

「こなた! 今日は俺が砂風呂をやるぜ!」

「分かったー」

 

 そして、こなたを砂風呂に誘った。そのテンションの高さは何処から来るんだ。

 

「やなぎ、お前今日は泳がないのか?」

「……ああ」

 

 何処か疲れた様子のやなぎ。昨日一体何が……?

 

「やなぎー! 今日で泳げるようにするわよ!」

「っ!!」

 

 手を振るかがみに対し、すっかり怯えているやなぎ。どんだけ運動嫌いなんだ、お前は。

 チッ、仕方ねぇな……。

 

「女の子の誘いを断るのか? ヘタレ君」

「……今、何て言った?」

「アルティメット・ヘタレ」

「んだとコラァ!」

 

 やなぎは何故かヘタレと言われるとキレるんだよな。

 

「違うなら行けよ」

「上等だ! 今日で50m泳げるようになってやる!」

 

 俺の挑発にまんまと乗り、かがみの元へズンズン歩いて行くやなぎであった。

 

「つかさ」

 

 さて、俺はつかさに泳ぎを教えなきゃな。

 つかさを見つけて、声を掛ける。

 

「は、はやと君……」

「どうするんだ? 今日も泳ぎの練習するのか?」

「う、うん! そうだね……」

 

 下を向いてばかりで目を合わせないつかさ。今朝の態度と合わせ、いい加減苛立って来たな。

 

「俺、何かしたか?」

「ううん! そうじゃないの!」

「なら、訳を話してくれ」

「……うん」

 

 少し怒っているのを感じたか、恐る恐るつかさは話した。

 今日の朝の出来事を。

 

「……それで、恥ずかしくて顔を合わせられなかったの」

 

 何じゃそりゃ。つかさが部屋を間違えて、朝まで俺の隣で寝てたって?

 話が終わると俺は呆然とし、つかさは顔を真っ赤にした。いや、俺の顔も多分赤い。

 

「だから、はやと君は全然悪くないの! 私が勝手に間違えて……その……」

 

 慌てるつかさに対し、軽く深呼吸する俺。

 

「ごめん、だろ?」

「あ、うん……ごめんね」

 

 上目遣いで謝るつかさに、俺は不意打ちでデコピンをする。

 

「痛っ!?」

「これでチャラだ。さ、泳ぐぞ」

「……うん!」

 

 何事もなかったかのように振る舞う俺に、つかさは漸くいつもの笑顔を見せた。

 本当に、世話の掛かる奴だ。

 

 

 

「洞窟?」

 

 昼飯時にみちるが出した提案に声を揃える俺達。

 因みに、昼飯は女子が作った弁当。但し、メインはサンドイッチ。

 うん、美味い。

 

「うん、あっちに大きな洞窟があるんだ。あそこに入ったことないから、皆で探険しよう!」

 

 確かに、浜から離れた岩部に洞窟らしきものが見える。

 洞窟探険か……ま、一種の娯楽としてありだな。

 

「賛成!」

 

 ほぼ全員が賛成した。洞窟にビビッて、賛成しかねた奴が誰かはお察しください。

 飯を食い終え、ジャンケンで懐中電灯を取りに行く人間を決めることにした。

 

「ジャン、ケン」

「ポン!」

 

 あきとやなぎが取りに行ってる間に、再びつかさに話し掛ける。

 

「心配すんなよ」

「ふぇ?」

 

 端から見ても、つかさが怯えてることくらい分かった。

 

「俺がいる」

「はやと君……」

「それにかがみやその他もいるだろ」

「……うん」

 

 元気付けようとしたはずが、つかさは低いテンションで小さく頷いた。

 あれ、何で意気消沈したんだ? 俺はそんな頼りないのか?

 あきとやなぎが戻って来て、俺達はみちるの言う洞窟に向かった。

 因みに、海崎さんとたけひこさんは浜辺でゆっくりしてる。

 

「ここだよ」

 

 浜からかなり離れた所に、本当に洞窟があった。

 中はかなり暗いな……。

 1人1本ずつ懐中電灯を持ち、俺達は出発した。

 さて、ここで個々の反応を見て見ようか。

 

「暗いな……」

 

 やなぎ、至って普通。

 

「案外何か出たりなー」

 

 あき、呑気。

 

「あはは……」

 

 みちる、少しビビッてる。

 

「や、やめなさいよ! そういうこと言うの!」

 

 かがみ、警戒心強め。

 

「ですが、何かあるという可能性は必ずしも無いとは……」

 

 みゆき、オロオロ。

 

「財宝があったりねー」

 

 こなた、余裕。

 

「はぅ……」

 

 つかさ、赤信号。つーか、必死に手繋いでるんだが。

 

「そう怖がるなよ。ただの洞窟だ」

「で、でも……」

「……そんなに俺が頼りないか?」

「ううん! そういう訳じゃ……」

 

 必死に否定しようと首を振るつかさ。

 その様子が可笑しくて、つい笑ってしまう。

 

「……ふふふっ」

 

 釣られたようでつかさも笑った。

 これで暫くは安し……あ。

 

「……どうしたの? はやと君」

「悪い、俺やっぱ頼りないわ」

 

 気付いた時には、皆とはぐれていた。

 

 

☆★☆

 

 

 今の状況を説明しよう。

 まず、最後尾にいたはやととつかさがいなくなる。

 次に、焦ったかがみと追ってやなぎがいなくなる。

 終いにゃ、みちるとみゆきさんまでいなくなった。

 

「そして、誰もいなくなった……」

「説明乙」

 

 ま、実際は俺とこなたがいるんだけどな。

 しかし、洞窟探険にはハプニングが付き物だぜ!

 

「だから俺は松明にしようと言ったんだ!」

「ナイフに布巻き付けて燃やすも有りだね」

「ラ○ボーか」

「松明は消耗品だし」

「ドラ○エ、しかも1か。でも8だと勝手に付いてるぞ」

「……やっぱあき君最高だよ」

「お前もな、こなた」

 

 ネタが通じ合い、お互いにサムズアップする。こういうやり取りは他の一般人達とは出来ないからな。

 だが、そんな呑気な空気も遂には壊れてしまう。

 

「痛っ!」

 

 こなたがそんな声をあげて、姿を消した……と思ったらしゃがんでただけだった。

 

「大丈夫か?」

 

 どうやら、岩で足を切ったらしい。綺麗な足からは赤黒い血が流れている。

 

「……何とかね」

 

 立とうてしても、痛みでまたしゃがんでしまう。傷、結構深いんじゃないか?

 

「やれやれ」

 

 俺は着ていた上着の裾を破くと、こなたの足に巻き付けた。

 しま○らで買った奴だし、惜しくはない。

 

「止血はこれでよし」

 

 とはいえ、この辺の水は海水だから洗えないしな。

 

「ほい」

 

 次に、こなたに俺の懐中電灯を渡すと、背を向けて屈んだ。

 

「え?」

「負ぶってやるよ」

「い、いいよ……」

 

 状況が掴めてないようだったが、こなたは遠慮がちに答えた。

 

「怪我した女放ってのんびり歩くほど、俺は無神経じゃねぇよ」

「……うん」

 

 強く言うと、観念したこなたは俺の背中に身を委ねる。

 

「しっかり前照らしてくれよな」

「……うん」

 

 急に潮らしくなったな。止血しときゃなんとかなりそうだったので、俺とこなたは先に進んだ。

 

「……重くない?」

「んーや。背中の感触が足りないくらいで」

 

 ボケてみると、懐中電灯で殴られた。いてぇ。

 

「……ありがとね」

「お、おう……」

 

 素直に礼を言われると、照れくさいな。

 

 

☆★☆

 

 

 参ったな……皆とはぐれてしまった。

 洞窟の中だから、携帯も繋がらない。

 

「つかさー!? 何処ー!?」

 

 すぐ傍には、パニックを起こしながら妹を探す姉が。

 

「かがみ、つかさにははやとが付いてる。心配な」

「あるっ!」

 

 はやと、同情するぞ。お前はかがみにまったく信用されてないらしい。

 

「つか……っ!?」

 

 突然、つかさを大声で呼んでいたかがみが止まり、涙目でこっちに近付いて来た。

 

「やなぎ! 今っ、今!」

「何があった?」

「せ、背中に……」

 

 背中? かがみの後ろには何もいない。

 その時、俺の頬に水滴が落ちて来た。

 

「かがみ」

「何よ……」

「ただの水滴だ」

「……へ?」

 

 悪寒の正体が分かると、かがみは呆気に取られ、途端に顔を赤くした。

 因みに、今の状況はかがみが俺に抱き付いてる。

 

「ご……ごめん!」

 

 いや待て、何故俺が謝ってんだ? 何もしてないだろ!

 

「……い、行きましょ! 外で待ってればつかさ達もきっと来るわ!」

「だ、だな!」

 

 それから、俺達は何も喋らず出口を目指した。

 

 

☆★☆

 

 

 まさか俺の所為で皆とはぐれることになるなんてな……。

 つかさなんて、俺の手を握って離さないし。

 

「絶対に離さないでねはやと君!」

 

 はいはい……。

 呆れ顔で暫く歩いていると、別れ道に遭遇した。

 

「つかさ。こりゃどっちに進むべきだ?」

「えっと……どっちだろう?」

「だよなー」

 

 右と左、どっちの道も同じように見える。他の連中はどっちに進んだのやら。

 すると、右の方から誰かが歩いて来る音がした。

 身を縮こませるつかさ。

 しまった! 懐中電灯とつかさの手を握ってるから、ダーツ投げれねぇ!

 音は段々と大きくなり……。

 

「あ、はやと!」

「つかささんも無事でしたか」

 

 足音の主はみちるとみゆきだった。

 何でも、別れ道であき達とはぐれて真っ直ぐ歩いたら行き止まりだったんだそうだ。

 

「ってことは、こっちか」

「だね」

 

 改めて、4人で左の道を進んだ。

 みちる達と合流しても、つかさは何故か手を離さなかった。

 ……怖がりすぎだろ。

 やがて、外の明かりが見えて来た。行き止まりじゃなくてよかったぜ。

 

「出口か……」

 

 早くこんなジメジメした所からおさらばしたい。

 外に出ると、まずは太陽の光が眩しかった。

 次に気付いたことは、出口は小さな足場を除き、一面海だった。どうやらここで行き詰まりらしい。

 

「つかさ! 大丈夫!?」

 

 先に出口に着いていたかがみが駆け寄って来た。他の面子もいるな。

 

「で、何であきはこなたを負ぶってるんだ?」

「ほっとけ」

「ほっといてよ」

「……?」

 

 口を合わせて言い放つ2人。一体何が……?

 

「いい加減つかさから離れなさいよっ!」

「うおっ!? 耳元で怒鳴るな!」

 

 鼓膜が破けるかと思ったぞ。大体、誰がここまでつかさの面倒を見たと思ってやがる。

 

「いつまでつかさの手を握って」

「ラーメン」

「ぐっ……!!」

 

 この一言でかがみは大人しくなる。まだあの画像消してないんだよなー。

 

「ほら、さっさと帰るぞ」

「あっ、待ちなさいよっ!」

 

 全員揃ったことだし、ここに用はない。

 俺達は洞窟の中を戻っていった。とんだ探検になったな。

 

 

☆★☆

 

 

 その夜、女子の部屋で話をすることになった。今度は怖い話じゃないみたいで安心した。

 因みに男子はもう寝ちゃったみたい。

 

「ふっふっふ、ここはやっぱり恋話でしょ~」

「こ、恋話……」

 

 こなちゃんの提案に、私たちは唾を呑む。

 ……ちょっと、気になるかも。

 

「まずかがみから! 最近何かあった?」

「なっ! ?べっ、別にやなぎとなんて何もないわよ!」

「ほぅ~、「やなぎ君と」何かあったんだ~♪」

 

 こなちゃんの指摘に、お姉ちゃんは顔を真っ赤にしていた。やなぎ君のことが好きなのかな?

 

「み、みゆき! 今日どうだったの!? みちると2人きりだったんでしょ!?」

「えぇ……ですが、あまり進展しませんでした……」

 

 話を振ったお姉ちゃんと対照的に、暗くなるゆきちゃん。

 ゆきちゃんは、昔からみちる君が好きなんだよね。

 

「つかささんは何かありましたか?」

「わっ、私~!?」

 

 ゆきちゃんは、次に私にバトンを渡す。恋話なんて、話すことないよ~。

 その時、ふと思い浮かんだはやと君の顔。

 彼の笑顔、照れた顔、怒った顔、悲しそうな顔、間近で見た寝顔。これが、「好き」って感情なのかな……?

 そして、私は見逃さなかった。こなちゃんがいつもと違う顔をして、少し頬を染めていたのを。小さく、「あき君」と呟いたのを。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。