すた☆だす   作:雲色の銀

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第8話「いざ、別荘へ」

 現在の時刻、午前7時。

 埼玉駅前にて6人の男女が……。

 

「わりぃ! お待たせ!」

「遅い」

「ってやなぎ! まだ待ち合わせ時間過ぎてねぇじゃん!」

 

 ……訂正。7人の男女が集まった。

 

「あと1分で越えるだろうが」

「ギリギリセーフ!」

 

 早速あきとやなぎが漫才を始めた。朝からよくはしゃげるよな。

 見ろ、つかさなんてウトウトしてて今にも寝そうだ。

 

「朝から元気だねー。私なんて徹夜で眠くて……ふぁぁぁ~」

「アンタの場合はネトゲでしょうが」

 

 こなたに対してはかがみが突っ込む。この光景にも慣れたもんだ。

 と、そこに現れる1台の大型車。

 

「皆、お待たせ」

「おはようございます、皆さん」

 

 中からみちるとみゆきが出て来た。

 この車はみちるン家の物で、先にみゆきを迎えに行ってたんだ。

 

「さ、乗って」

 

 運転手の人が声を掛ける。20代ぐらいの若い男性だな。

 

「あ、こちらは僕の従兄のたけひこさん」

「檜山たけひこ。よろしくなっ」

「お世話になります」

 

 たけひこさんは、アクティブになったみちるのような印象を受けた。顔付きがいいのは檜山一族の特徴なんだろうか。

 

「いやー、俺も付いて来ちゃって悪いね」

 

 そう言って前に出て来たのは海崎さん。いや、アンタも運転手として呼んだだけだから。

 挨拶も済ませ、全員車に乗る。行き先は、みちるの別荘だ。

 たけひこさんの車に乗ったのはみちる、みゆき、やなぎ、こなた。

 海崎さんの方にはつかさ、かがみ、あき、俺が乗った。

 

「ってか、海崎さん車持ってたんですね」

「まーな」

 

 助手席で俺は海崎さんの珍しい運転手姿を見る。

 普段は外をブラブラしてるか、家にいるかだったからな。

 

「くー……」

 

 後ろでは、もう限界だったらしいつかさの寝息が聞こえた。

 

「さて、ここに水性ペンがあります」

「コラッ!」

 

 あきの悪戯はかがみによって防がれた。

 

「けど、本当によく寝るよな」

「誰かさんもな」

 

 ……何だよ? 何で俺の方を見るんだよ?

 そりゃ、今も眠いけどな。

 

「さて、寝るか」

「オイ」

 

 寝ようとしたら、ダブルで突っ込まれた。

 もし翼があったら、寝たまま別荘まで行けるのにな。

 

「仕方ねぇ、なんかするか」

「ここはカラオケでもするか」

 

 車内でカラオケかよ。ってか海崎さん、俺達よりハシャがないでください。

 

「えー、それはちょっと」

「ダメか。じゃあイントロクイズは」

 

 歳考えろ、運転手。

 

「運転に集中してください」

「チッ」

 

 そうこうしている内に、余計に眠気が……。

 

 

 

 ……何だ?車が止まってるな。

 

「……着いたのか?」

「いや、パーキングエリアだ」

 

 隣から海崎さんの声がした。ああ、だから皆いないのか。

 

「コーヒーでも買ってくる」

「お前のはここにある。ちゅーか今外に出るな」

 

 は? どういうことだ?

 とりあえず、海崎さんから缶コーヒーを受け取った。まぁ、買う手間は省けたけど。

 何故か海崎さんは顔を合わせようとせず、肩が震えていた。何なんだ、気色悪い。

 

「おう、はやと。起きてたのか」

 

 疑問符を浮かべながらコーヒーを飲んでると、あき達が戻って来た。

 あと今更だが気付いた。つかさ、起きてたのか。

 

「は、はやと君……」

「つかさ、言うな……ぷっくく」

「ダメ、笑っちゃう……!」

 

 何なんだよ、人の顔を見て……!

 ここまで露骨な態度で気付かない訳がない。俺は車のサイドミラーを覗き込んだ。

 

「……ほう」

 

 そこに映っていたのは、額に大きく「肉」と書かれた俺の情けない顔だった。

 

「はやと君、ごめんね。起きたらもう……」

 

 つかさは何も悪くない。なのに謝るなんて、いい奴だな。

 それに比べて。

 

 俺は睡眠薬を塗ったダーツをあきとかがみに放った。ダーツは腕に刺さり、2人は熟睡状態に陥る。

 ふっふっふ。よく寝ている。

 

「はやと君?」

「止めるなつかさ。あとタオル取ってくれ」

 

 キュポン、と水性ペンのキャップを抜く音が車内に響いた。

 それから車に乗ること数時間。ふぅ、やっと着いたか。

 みちるの別荘は、予想以上にデカく、海が間近で見れた。

 

「絶景かな絶景かな」

 

 車から額に「米」と書いてある呑気な奴が出て来た。

 

「ちょっとはやと! これアンタでしょ!」

 

 もう1人、額に「中」と書いてあるかがみが激怒して降りて来た。

 

「お前の場合髭も追加してやろうと思ったんだがな」

「ふざけるなっ!」

 

 やれやれ、仕返しで何でここまで怒られなきゃいけないんだ?

 

「あっ! 俺にもやられてる!」

 

 今気付いたか、バカめ。

 

「まず顔を拭け」

 

 俺からタオルをぶん取り、額を擦るあきとかがみ。

 

「つかさっ、落ちてる!?」

「うん、大丈夫だよ」

「まったく……」

 

 だが、俺の復讐がこれで終わる訳がない。

 

「そんな口を聞いていいのか?」

 

 俺は2人に見えるように携帯を開いた。

 

「げっ!」

 

 そう、落書きされた2人を撮ったのだ。カメラ機能なんて久々に使ったぞ。

 

「これをこなたに送られたくなければ、今日1日俺の下僕になってもらおうか!」

 

 こんなネタ満載の画像、こなたに送られれば夏休みの終わりまでからかわれるだろう。

 

「き、汚いわよ!」

「何か言ったか?」

「くっ……何も言ってないわよっ!」

「まさかはやとに弱みを握られるとは……」

 

 はーっはっは! 身から出た錆だ、諦めろ!

 アホみたいなやり取りはさておき、みちる達と合流して、改めて別荘の案内をしてもらった。

 

「まず、あっちに露天風呂があります」

「露天風呂!?」

 

 おいおい、これ別荘じゃなくて旅館じゃねぇのか?

 

「夕飯は庭でバーベキューを予定してます」

「マジかっ!」

 

 はっ! かがみの目が一瞬光ったような……。

 食いしん坊、恐るべし。

 

「部屋は奥が女子、手前が男子です。説明は以上ですが、聞きたい事があればどうぞ」

「いや、十分だろ」

 

 それより早く荷を下ろしたい。2泊3日の予定だから軽くないんでな。

 

「じゃ、また後で」

「うん、後でね~」

 

 昼飯は途中で食ったから、このまま着替えて海に行く事になった。

 

「海崎さんとたけひこさんは?」

「俺はいいや。ちょっと寝かせてもらうよ」

 

 ずっと運転してたからな。お疲れ様です。

 

「ちゅーか、女の子の水着見放題だろ? 行くしかないだろっ!」

 

 海崎さん、アンタ疲れを知らないのか? 同じ運転手でもたけひこさんとは雲泥の差だな。

 

 

 

 さっさと水着に着替えて海に行く。

 みちるン家のプライベートビーチだから、人が全くいなかった。

 

「……すげぇな」

「ああ」

 

 広い砂浜が貸切である事実に、俺達は呆然とする。

 俺は人混み嫌いだから良いけどな。

 

「ちゅーか、ナンパも出来ねーじゃん」

「すいません」

 

 海崎さん、帰れ。みちるも謝るなよ。

 しかし、ビーチに男5人がたたずむってのもシュールな光景だな。

 

「やほー、お待たせー」

 

 こなたの声が聞こえた。やっと来たか。

 

「待ってましたー! っと?」

 

 恐らく、この場にいた全員がこなたの姿を見て絶句しただろう。

 

「スク水、だと……?」

 

 スクール水着。しかも6-3と書いてある。

 いつから成長してないんだとか、もうツッコミ所盛り沢山だった。

 

「こなた……」

 

 見ろ。流石のあきも引いてるじゃないか。

 

「……グッジョブ!」

「あっきー、ナイスニーズ!」

 

 もうやだ、コイツ等。

 他は……まともな水着だな。良かった。

 

「何じろじろ見てんのよ」

 

 赤い水着に、いつものツインテールを団子頭にしたかがみが突っ掛かって来た。

 

「誰も見てねぇよ、ラーメ○マン」

「なっ!」

 

 まだあの写真は消していない。逆らわない方が身の為だぜ?

 

「何々? 何の話かな~?」

「さぁな?」

「くっ、覚えてなさいよ……!」

 

 特にこなたには教えられないだろ。ケケケ。

 

「ちゅーか、はやとが見ていたのはモチみゆきちゃんだよな~」

「アンタと一緒にするな」

 

 欲望丸出しな海崎さんと一緒にされたくない。

 みゆきは白いビキニパンツに上着を羽織っていた。確かに他とはスタイルが違うというか……。

 

「みゆきさんの水着姿、是非とも写メに収めたい!」

 

 あき、携帯を海に投げ込まれるぞ。

 それに、みゆきは水着を見せたい相手がいるからな。

 

「みちるさん、変じゃないでしょうか?」

「ううん、可愛いよ。みゆき」

 

 平然としていられるのはお前だけだ、鈍感。

 

「はやと君」

「ん?何だつかさ」

 

 そして、つかさはフリルの着いた水色の水着だった。らしいというか。

 

「泳ぎ方、教えてくれるかな?」

「ああ、いいぞ」

 

 そういや学校じゃ水泳の授業なかったな。

 

「裏切り者ー」

「羨ましいぞー」

 

 な、何だ? あきと海崎さんが何時の間にか結託してるし。

 

「やなぎには、私が教えてあげるわ」

「えー」

「えーじゃない!」

 

 もやしはラーメ……かがみに連れて行かれた。

 

「あっきー、砂風呂やってー」

「いいぜ」

 

 あきとこなたは砂風呂をするみたいだ。

 ……海崎さん1人になったな。

 

 

 

 まずはバタ足からだ。これ位は出来るだろ。

 つかさは足をバタつかせて泳いでいた。

 

「何だ、思ったより泳げるじゃないか」

 

 なんて感心していたのも束の間、泳いでいると思っていたつかさの体は、姿勢をそのままに沈んでいった。

 ちょっと待て! アイツ息継ぎしてたか!?

 

「オイ、つかさ! つかさ!!」

 

 沈んでいくつかさに、俺は慌てて海の中へ飛び込んだ。

 相当海水を飲んだらしく気絶したつかさ浜辺に引き上げ、心臓マッサージを繰り返す。

 

「げほっ、げほっ!」

 

 つかさが口から水を吐いた。良かった、息を取り戻したか。

 

「大丈夫か、つかさ」

「……はやと君?」

 

 気を失ったつかさを浜辺に連れて、寝かせたのだ。

 

「私……!?」

「ん?」

「ひ、ひゃあああ!」

「何……あっ!」

 

 心臓マッサージを続けていたから……その、手が……胸に。

 俺が慌てて手を退けると、つかさは起き上がり俺に背を向ける。

 腕は胸を隠すように交差させている。

 

「わ、悪い!」

「う、ううん! 気にして……気にして……」

 

 流石のつかさも気にしてるよな。

 俺は綺麗に土下座し、メロンのかき氷を奢る事を約束してやっと許して貰えた。

 しかし、息継ぎが出来ないとは。教えるのには骨が折れそうだ。

 

 

 

 日も暮れて、そろそろ別荘に戻る。夕食は確かバーベキューだったな。

 

「その前にお風呂に入りたいわ」

 

 確かにな。という訳で、全員風呂に入ることにした。

 

「へー、豪華だな」

 

 男湯。旅館のそれと比べるとやや小さい気もするが、十分広い。

 

「ひゃっほー! 俺が一番だー!」

「あ、走ると……」

「げふっ!?」

「危ないよって、言おうとしたのに」

 

 バカが石鹸で転んだが無視。つーか先に体を洗え。

 

「あ~、極楽だ~」

「そうですね~」

 

 おっさんみたいな入り方してる人もいるし。たけひこさんも合わせなくていいですよ。

 洗い終わり、俺も湯に浸かる。うん、いい湯だな。

 

「みゆきさんってやっぱり大きいよね~」

 

 リラックスしたいたところに、壁の向こう側からの話し声が聞こえ、思わず吹き出しそうになる。

 あの声はこなたか。人が風呂を楽しんでるのになんつー会話してんだ。

 

「……ここで、俺達がすることは1つ!」

「まさか……」

「覗くぜ!」

 

 うん、あきならやると思った。

 

「俺はパスだ。湯を楽しめ、湯を」

「はやとに同じく」

「覗きはちょっと……」

 

 俺、やなぎ、みちるは当然却下。

 

「ここで行かなきゃ男じゃねぇな」

「面白そうだね」

 

 海崎さん、たけひこさんが参加。

 あれ、たけひこさんってそんなキャラだったか?

 

「レッツゴー!」

 

 そっと近付き、桶を足場にして塀を越えようとする覗き組。

「すご~い! 広いね~!」

 

 

 そうか、向こうにはつかさもいるんだよな。

 気が付くと、近くにあった桶を足場に投げていた。

 桶が命中し、足場のバランスが崩れる

 

「うおっ!?」

 

 海崎さんとたけひこさんは落ちたが、あきはしぶとく塀にしがみ付いている。

 

「諦めて……なるものか!」

 

 遂にあきの頭が塀を越えた。

 

「ぶへっ!?」

 

 その瞬間、向こうから桶が飛んで来て、あきの顔に直撃した。

 いやまぁ、これだけ騒いでりゃ向こうにバレるわ。

 

 

 

 待ちに待った夕食! 俺達は庭でバーベキューを楽しんでいた。

 

「……あの、俺も食いたいんですが」

 

 隅の方で「申し訳」と書かれた札を掛けて、正座をしているあきが言った。

 顔には、散々こなたとかがみに殴られた跡が残っている。

 ってか、海崎さんとたけひこさんは平然と肉食ってるし。

 

「何か言った?」

「聞こえなかったよー」

 

 こなたさん、かがみさん、笑顔が邪悪です。

 

「あの……もう許してあげてもいいと思います」

「あき君も反省しているみたいだし」

 

 つかさとみゆきの慈悲の言葉が掛かる。

 

「……そうね。ま、今回は許してあげる」

「かたじけない!」

 

 折角の旅行につまんねぇ空気はいらないしな。

 あきは「申し訳」プレートを外し、飛んでバーベキューの輪に入った。元気な奴だ。

 

 

 

「枕投げをしよう」

 

 部屋に戻ったあきが何を言うかと思ったら、枕投げ?

 因みに全員、部屋にあった浴衣に着替えている。何故あるし。

 

「はーやと、やらないか?」

「別に良いが、俺に勝てるとでも?」

「……やめようか」

 

 物を投合することにおいて、俺は負けない自信があった。

 睨みを利かせると、喧しかったあきは大人しくなった。ざまぁ。

 

「じゃあ……怖い話でもする?」

「ひっ!」

 

 続いて、こなたが提案する。

 約1人怯えているが、俺は面白そうだと思う。

 

「いいね~、やろうか!」

「夏の風物詩だしな」

 

 次々と参加する中、つかさはかなり嫌そうにしている。

 ホラーとか苦手そうだしな、つかさ。

 

「ひゃっ!?」

 

 突然、部屋の電気が消え、つかさが小さな悲鳴をあげた。

 

「すみません、消した方が良いかと……」

 

 犯人はみゆきか。意外というか、変なところで空気を読むというか。

 いや、それよりつかさのビビり方が面白い。

 

「や、やめようよ~」

「つかさ、諦めろ」

「ではまず私から」

 

 言い出しっぺのこなたが懐中電灯で顔を下から照らし、話し出した。

 色んな意味で盛り上がりながら、1日目の夜は過ぎていった。


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