すた☆だす   作:雲色の銀

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第12話「二度目の旅行」

 去年の夏の一大イベント。それが、いつものメンバーでみちるの別荘へ行くことだった。

 2泊3日の旅行の中で、泳ぎを教えたり、バーベキューをしたり、近場の洞窟探検なんてこともやった。

 俺にとっては全てが初めての体験で、内心かなりワクワクしていた。

 特に、つかさとの仲をここでかなり縮められたと思っている。

 

 

 

 そして、今年の夏。

 俺達は、再びこの場所に来ていた。

 

「海よ! 私は帰ってきたぁぁぁぁっ!!」

 

 去年と同じく別荘に着いて早々、海水浴を楽しむことになった。

 で、先に着替え終わった男子陣が海を眺める中、テンションの上がったあきは大きく叫んでいた。

 その叫び、以前も何処かで聞いたぞ。

 

「元気な奴だな」

 

 一方、体力のないことに定評のあるやなぎは、やや疲れた表情であきに冷たい視線を送る。

 ま、車での長旅だったからな。やなぎでなくとも疲れる。

 

「ご苦労様です、たけひこさん、海崎さん」

「いやいや」

 

 そして、一番疲れているであろうドライバー2名はビーチチェアの上で休んでいた。

 みちるが労うと、従兄のたけひこさんは手をヒラヒラと振った。

 去年同様、ドライバーを快く引き受けてくれたたけひこさんには頭が上がらない。

 

「ちゅーか、女子高生の水着を拝めるならこれぐらい」

 

 もう1人のドライバー、海崎さんは相変わらず水着のことしか頭になかった。

 まったく、この人は労う気になれない。

 

 

 水着の男達が浜で突っ立っていると、そこへ漸く女子組が到着する。

 

「皆ハシャいでるね~」

 

 一番乗りであるこなたの水着は、去年と変わらずスクール水着。

 以前驚いたからか、今回はそこまで驚きはしなかった。つーか……。

 

「まるで成長していない」

「うっ……」

 

 俺の言葉に、こなたも流石に顔を引きつらせる。

 およそ6年前の水着が違和感なくフィットしていること自体が既におかしい。

 

「いやね、そろそろキツくなったりしてるかなぁ、なんて思ったんだけど……」

 

 こなたも未だにスク水が難なく着こなせることがショックのようだ。

 いや、だったら新しい水着買えよ。

 

「甘いな、はやと」

 

 すると、あきが横槍を入れてくる。何だよ、甘いって。

 

「スク水にも需要はあるんだよ! 可愛い彼女が初々しさを感じさせるスク水姿……いいじゃないか!」

 

 そりゃテメーだけの需要だ。

 女子高生の水着がお目当ての海崎さんですら、こなたのスク水にはコメントしづらそうだし。

 

 結局、この後こなたは水着を買い換えることを決めたようだった。

 あきは残念そうだったが、心底どうでもいい。

 

 

 

 次にやって来たのはかがみ。

 前回は団子にしていた頭をポニーテールにし、水着も赤いワンピースから、紅葉柄の入ったホルターネックの赤いビキニになっていた。

 やはり彼氏の前だからか、張り切っているようにも見える。

 

「やなぎ……似合ってる?」

 

 予想通り、かがみは水着の色と同じくらい顔を赤くしながら、やなぎに尋ねていた。

 特に腹の辺りが気になるらしく、手で隠している。

 

「あぁ……すごく可愛い」

 

 対するやなぎも、顔を真っ赤にして彼女の水着を褒めていた。

 付き合ってもう半年以上は経つってのに、初々しいねぇ。

 

「聞きました? こなたさん」

「勿論だよ、あっきー。かがみんたらデレまくっちゃって」

「初々しい! 実に初々しい!」

 

 その横では、バカ2人が桃色空間を茶化していた。

 自分達のことは棚に上げて、よく言うもんだ。

 

「こぉ~なぁ~たぁ~!」

「あき、ちょっとそこに直れ」

 

 案の定、ツッコミカップルは冷やかしにブチ切れて浜辺の鬼ごっこが始まるのであった。

 

「……浜辺の追いかけっこって、もっとロマンチックなものだと思ったんだけど」

 

 たけひこさんの言う通り、こういうのは恋人同士でやるのがセオリーなんだが……まぁいいや。俺達にとっては日常的な光景だし。

 

 

 

「お待たせしました~」

 

 そして、遅れてつかさとみゆきがやってくる。

 みゆきは前回同様に桃色の髪をサイドポニーに結び、白いビキニパンツの上に上着を羽織っている。

 正直に言えば、モデルでもやっていけそうなスタイルが他の女子との差を大きくつけている。

 

「みゆきちゃん、グッド!」

「ふぇっ!?」

 

 みゆきにいち早く反応したのは、海崎さん。

 去年も見た筈なのに親指を立てて大喜びだ。この人連れてくるんじゃなかった。

 

「みゆきちゃん綺麗だね、みちる」

「うん、とっても可愛い」

 

 たけひこさんはニコニコとみちるに話題を振る。

 が、その意図を把握していないみちるは平然とみゆきの水着の感想を述べた。

 コイツ、ひょっとしてわざとやってんじゃないか?

 

 

 

 最後につかさの水着だが、ホルダーネックの黄色いトップスに緑色のスカートだった。

 他の連中と比べれば、ヒラヒラ付きで悪く言えばまだまだ子供っぽい感じだ。

 

 が、惚れた弱みとも言うべきか、この中ではダントツで良いと思えた。

 

「新しくしたのか」

「うん、この前お姉ちゃんと一緒に買いに行ったんだ。似合ってるかな?」

 

 ニコニコと水着姿を見せてくるつかさ。

 腋、胸、へそ、足。目のやり場に困り、俺は思わず目を泳がせる。

 

「い、良いんじゃねぇか?」

「そう? ありがとう、はやと君」

 

 無難な言葉で褒めてやると、つかさは嬉しそうに微笑んだ。

 あーもう、今から泳ぎ教えるのにペース掴まされてどうすんだ、俺!

 

「行くぞ! ビシバシ鍛えてやる!」

「ふぇっ!?」

 

 顔が熱くなるのを感じながら、俺はつかさの手を掴んで前に教えていた場所へとズカズカ歩き出した。

 

 

「いいか、クロールってのは足だけじゃダメだ。腕で水を掻いて速く進むんだ」

 

 海に浸かり、クロールに必要なことを説明する。

 水の中なら水着を気にしなくていいしな。それでも若干早口になってしまうが。

 

「まずは腕の回し方と息継ぎから練習した方がいいだろ」

 

 俺は手本を見せるべく、立ったまま上半身を水に付けて腕を回した。同時に、顔を横に向けて息継ぎもする。

 だが、その時に思わぬハプニングが俺を襲った。

 

「お~」

 

 俺の動きをつかさが横で見つめる。

 すると、息継ぎをした瞬間に俺の眼前に映るのは、先程まで意識してしまっていたつかさの水着な訳で。

 

「ぶほぉっ!?」

「はやと君!?」

 

 油断した俺の鼻に海水が入り、哀れ立ったまま溺れてしまったのであった。

 我ながら何やってんだか、全く。

 

「ゲホゲホッ! こ、こんな感じだ……」

「違うよね!?」

 

 むせながらも教えようとする俺に、つかさがツッコミを入れる。

 情けなくて涙が出るぜ。溺れた所為でもう出てるけど。

 

 

 序盤から情けない醜態を見せたものの、その後は普通にクロールのやり方を教えることが出来た。

 つかさも最初は息継ぎが難しいようで、立ったまま上半身の動きを覚えていた。

 

 あんな無様な姿を見せたんじゃ、告白なんて出来る訳ないよなぁ。

俺は練習するつかさを見ながら、心の中で呟く。

 

 この旅行で一つ、決めていたことがあった。それは、そろそろつかさに告白することだ。

 三年になってから告白出来るタイミングを狙っていたんだが、決まって誰かに割り込まれる。

 このままではいけない。そこで、この旅行を利用させてもらうことにした。

 ここでなら、つかさと2人きりになれる時間が多いはず。現に今、俺達は浜辺に2人でいる。

 

「はやと君、そろそろ泳いでみるね」

 

 上半身のみの練習を終えたつかさは、いよいよ本番に入るようだ。

 俺が頷くと、つかさは息を深く吸い込み泳ぎ出した。

 バシャバシャと海水を腕で掻きながら、足をバタつかせる。その姿はまるで……。

 

 

「溺れてるみたいだな」

 

 

 腕と足の動きがバラバラな為、つかさは1ミリも進んでいなかった。

 必死に水を掻く姿は、溺れている人そのものだ。

 やがて水飛沫は止み、つかさは浜に打ち上げられていた。息が荒いことから、息継ぎも忘れていたようだ。

 

「休憩か?」

「う……うん……」

 

 先程自分が溺れたので、特にからかうこともなく俺はつかさを浜から引き摺り上げてやった。

 前途多難だな、色んな意味で。

 

 

 

 日が暮れ、今日のところは皆引き上げることとなった。

 

「綺麗~」

 

 夕陽が沈んでいく海をつかさはうっとりと眺める。

 黄昏色の光が瞳を照らし、海風が濡れた紫色の髪を靡かせる。

 綺麗なのはお前の方だ、と思った。

 

「つかさみたいだな。沈んでいくところが」

「は、はやと君~!」

 

 その想いを口に出来ないのが俺だ。

 一瞬口を開きかけ、出て来た言葉がどうしようもない皮肉で。

 雰囲気を台無しにされ、つかさは頬を膨らませる。

 

「冗談だよ」

 

 つかさを宥めるように笑い、俺は他の連中の元へ歩き出した。

 本当、どうしようもない。

 

「進展はありましたかい?」

 

 合流するや否や、あきがニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら訪ねてくる。

 コイツはコイツでこなたとハシャぎまくったんだろうな。

 

 

「いや、ダメだな」

 

 

 泳ぎの意味でも、あきの問い掛け通りの意味でも。

 俺は敢えてどちらとも取れるような言葉ではぐらかした。

 

 

 

 別荘に戻ると、夕食前に一風呂浴びることとなった。

 

「はぁ、いい湯だ」

 

 相変わらずの大浴槽に浸かりながら、泳ぎ疲れた体を癒す。

 この別荘、マジで旅館として売り出せば大儲け出来るぞ。

 

「全く、懲りない奴だ」

「いや、男のロマンだろ!」

 

 ゆっくり肩まで浸かる俺の横では、またもや女湯を覗こうとしていたあきが、やなぎから説教を受けていた。

 今回はかがみがやなぎの恋人になってるからな、許す訳ないだろう。ってか、あきにもこなたがいるはずなんだけどな。

 

「俺は普通にビキニですね」

「いやいや、競泳水着のボディーラインも中々!」

 

 それが分かっているからか、海崎さんとたけひこさんは覗きをせずに好みの水着談義をしていた。

 海崎さん、競泳水着が好みなのか……別に知りたくなかった。

 

「あ」

 

 その時、予期せぬ事件が起こった。

 体を洗い終わったみちるが固形石鹸を踏んで、滑ったのだ。

 鈍い音が浴場に響き、話し声が止む。これがあきだったら気にしないんだが。

 

「みちるっ」

「……お」

 

 声を掛けると、みちるはすぐに起き上った。しかしこの感覚、嫌な予感しかしない。

 

 

「女湯覗かせろぉぉぉぉっ!!」

 

 

 今の拍子に頭を打ったらしく、うつろが出て来てしまった。

 予想通りの展開に、俺達は顔を顰める。

 

「な、何だ!?」

「アチャー……」

 

 この中でうつろのことを知らない海崎さんは目を点にして驚き、たけひこさんは知っているらしく顔を手で覆って呆れていた。

 うつろは脅威のスピードで桶を積み上げ、女湯を覗こうとしていた。出て来て早々、何してんだコイツは。

 

「海崎さん、説明は後! コイツ止めんの手伝え!」

 

 俺達は慌ててうつろを引き留めようとするも、暴れて手に負えない。

 

 その時、俺の頭には入浴中のつかさのイメージが浮かぶ。

 もし止めきれなければ、コイツにつかさのあられもない姿を見られてしまう。

 

 

「させるかぁぁぁっ!」

 

 

 つかさの裸を見られてたまるか。

 俺はその辺にあった石鹸をうつろの頭にブン投げた。

 石鹸はスコーンという音と共にクリーンヒットし、うつろを気絶させた。防がれなくてよかった。

 

「ったく……」

 

 うつろが沈黙したことを確認し、周囲はドッと疲れが湧いたかのように座り込んだ。

 うつろだけは手に余るよ、まったく。

 

 そして、俺は未だに無事な女湯側に目をやる。

 やっぱ、あの天然娘を放っては置けないな。

 

 俺は決意を固めるべく、湯を救って顔に浴びせる。

 らしくないことは分かっている。

 けど、もう決めた。

 

 俺はここで、つかさに好きだと伝える。

 




どうも、雲色の銀です。

第12話、ご覧頂きありがとうございました。

今回は別荘への旅行回、序盤でした。

この旅行で、はやとはいよいよつかさへの想いを固めます。2nd Seasonに入って漸く、はやと個人での活躍ですね。
果たして、はやとはつかさに想いを告げられるのか?その結末は?

では、次回をお楽しみに!

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