すた☆だす   作:雲色の銀

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第28話「期末テストという名のボス」

 学生生活のボス、それがテストだ。

 特に学期末はラスボス並に強敵だ。落としたら後がないからな。

 

 丁度勉強のシーズンに入ると、皆カリカリしだす。

 バレンタインの直後じゃ、浮かれてた奴は特に勉強に身が入らないだろうに。

 

「かがみ様、お願いです! 俺に是非テスト勉強を教えてください!」

 

 で、浮かれまくった一例が現在かがみに土下座をしているのであった。

 現在は昼休み。話の話題が勉強に変わると、あきは急に土下座で頼み始めた。

 

「アンタねぇ……」

「やなぎんも教えて!」

「おまけ扱いする奴に教える気はない」

 

 弁当を頬張りながら、やなぎは冷たく突き放す。

 まぁ、何もしなかった奴が悪いんだしな。

 

「はぅ……」

 

 と、思っていると隣に座っているつかさが冷や汗をかいていた。

 ブルータス、お前もか。

 

 対照的に、こなたは余裕そうにコロネを食っていた。

 

「何だ? こなた、珍しく勉強していたのか?」

「ううん」

 

 あっさり否定しやがった。

 威張って言えることじゃないだろう。その余裕はどこから来るんだ。

 

「私はいつもヤマを張ってるからね」

 

 だから自慢気に言うなっての。たまに俺もやるけど。

 

「そういえば、アンタの従姉妹も陵桜(ここ)受けたんでしょ? どうだったの?」

 

 へぇ、そりゃ初耳だ。こなたの従姉妹……ゆいさんみたいな感じの奴か?

 

「あー、受かったって。今日家に挨拶来るよ」

 

 コロネを食いながら表情を変えずに答えるこなた。

 受かったんならめでたいな。俺達の後輩になるってことか。

 

「実家からここまで遠いから、来月からウチに来るんだよ。もともと妹みたいなものだし、交流あったからあまり変わんないけどね」

「へぇ、そうなんだ」

 

 こなたの家にねぇ……。

 一瞬、変態野郎(あき)の眼が輝いた気がしたが、気の所為にしておこう。

 

「でもアンタと比べると、どっちが妹だか分かんないんじゃない?アンタ小さいし」

 

 ひひひ、と笑いながらからかうかがみ。

 でも、確かに普通ならこなたの方が年下に見えそうだよな。

 

「いやだから妹みたいなものなんだって。色んな意味で」

 

 ……はぁ!? つまりこなたより小さいと!?

 一体どんな家系なんだ……。

 

「でもここすんなり合格って、従姉妹さん頭いいんだねー」

 

 つかさがぽんやりとした様子で話す。確かに陵桜はレベル高い方だし、俺もかなり勉強したからな。

 すんなりってことは真面目な奴なんだな。

 

「受験かー。私達も来年受験なのよねー」

「そうだねー」

「ゲェーッ」

 

 呑気に話す柊姉妹と、嫌そうな表情のあき。

 俺は受験……するのか?

 正直、大学に行くビジョンが見えない。

 

「受験の前に期末どうすっかなー」

 

 ああ、そんな話をしてたっけか?

 

「じゃあ、皆でまた勉強会をやろうよ!」

 

 提案したのは、さっきまで苦笑しながらやりとりを見ていたみちるだった。

 勉強会といや、前回の期末テストでもやって点数稼いだっけな。

 

「みっちー先生の意見に賛成!」

 

 真っ先に賛成したのはバカの代名詞、天城あき。

 お前もう教えて貰う気満々だろ。

 

「私も賛成です。皆さんで分からない所を補えば、高得点を狙えます」

 

 次にみゆきが賛成する。

 ってか、アンタ等完璧超人を補える人間がいてたまるか。

 

「わ、私も~」

「私も賛成! みゆきさんなら教えるの上手そうだし」

 

 つかさとこなたも賛成する。

 ま、俺も拒否る理由もないし、悪いことだとも思わない。

 

「俺もだ。多数決で既に決まりだが、お前等も来るよな?」

 

 念の為、やなぎとかがみにも聞いておく。

 

「誰も行かないなんて行ってないでしょ!」

「俺もだ。あきに教えるのは勘弁だがな」

 

 ここで断るような奴等じゃないってのは知ってるけど。

 

 こうして、いつものメンバーによる対学期末用勉強会が開かれることとなった。

 

 

 

 で、日曜日。肝心の場所だが、みちるの家になった。

 

「さぁ、上がって」

 

 みちるが笑顔で迎え入れる。

 しかし、デカい。二世帯住宅以上の広さに、庭まで付いている。

 父親は仕事で帰らず、みちるはここに母親と2人暮らしも同然で生活しているらしい。

 因みに、今日は買い物に出ていていないらしい。

 

「執事とかメイドさんとかいねぇの?」

 

 あきがまた余計なことを聞き出す。一応、ここは日本だぞ? いる訳ねぇだろ。

 

「大掃除の時は日雇いの家政婦さんが何人かいたけど、いつもはいないよ」

 

 確かに、このデカい家を2人で掃除するのは無理だ。

 つーか、親父は帰って来ないのか。

 

「大晦日に帰ってきて、年越し後も数日家にいたけど、また仕事で飛んで行っちゃったんだ」

 

 苦笑しながら話すみちる。

 職柄、帰ってこれないのは仕方ないんだとさ。

 忙しいんだろうけど、俺はあまりいい印象を持てない。仕事で子供を放る父親には特にな。

 

「お茶を淹れてくるから、皆勉強の準備をしておいて」

「あ、私も手伝います」

 

 みちるとみゆきがキッチンへと消えていく。

 連れてこられた居間は、ウチの3倍近くの広さを持っていた。ソファーや大画面のテレビ等もある。

 そういや、床が暖かい。これが床暖房って奴か……。

 

「はやと君、どうしたの?」

「いや、ちょっと現実って奴にボディーブロー食らった気分になっただけだ……」

 

 金持ちとの差に、改めてショックを受ける俺だった。

 

 みちるとみゆきが紅茶を持ってくると、早速勉強会が始まった。

 

「まずは英語だな」

 

 やなぎが英語の教科書とノートを開く。

 ノートには単語や英文がびっしりと書いてあり、見るのも嫌になるぐらいに埋まっていた。

 

「みっちー、ゲームとかねぇの?」

「え? 一応あるけど、ソフトはあまり持ってないよ?」

 

 一方あきは既に遊ぶ気満々だった。

 いや、勉強しに来た訳だから。みちるも素直に答えなくていいから。

 

「教えて欲しいって言った奴は誰だ?」

「イデデッ! すみませんでした!」

 

 早速やなぎに耳を引っ張られるあき。ざまぁ。

 

「かがみー、ここはどうやるのー?」

「ここはこれがそこに掛かって……」

 

 こなたはかがみに聞きながら真面目にやっていた。

 

「かがみー、この意味はー?」

「これはあれの形容詞だから……」

 

 真面目に……と思ったら、どうやらかがみに答えを聞くだけで、自分は何もしていなかったようだ。

 

「かがみー、ここは」

「少しは自分で考えてやれ!」

 

 遂に拒否られた。ま、当然だな。

 

 

 

 現在、時刻18時。

 昼間からぶっ通しで勉強していたので、流石に全員グロッキー状態になっていた。

 

「1943年ポツダム宣言1945年カイロ宣言くぁwせdrftgyふじこlp……」

 

 あきなんて詰め込みすぎて頭から煙出てるぞ。

 しかもポツダムとカイロ逆だし。

 

「きょ、今日はこの辺にしておこうか」

 

 みちるも疲れたのか、苦笑いしながらノートを閉じた。

 

 勉強会の様子を振り返ると、予想通りやなぎやみゆきは教えるのが殆どで、こなたや俺なんかが教わりながら問題をこなしていった。

 途中つかさが居眠りをしたり、あきが暴走してこなたのチョップで気絶させたりと小さなハプニングはあったが。

 

「アンタ達、これで赤点取ったらタダじゃ済まないからね……」

「「気を付けます……」」

 

 これだけ苦労して教えたんだしな。赤点取ったら腕の一本は持ってかれそうだ。

 

「つかさ、大丈夫か?」

「頭が痛いよぉ……」

 

 さっきから反応のないつかさに声をかける。

 つかさも詰め込んだらしく、頭が働かなそうだ。

 

「ただいま~。あらまぁ、お友達?」

 

 その時、藍色の髪と瞳のふんわりとした雰囲気の女性が現れた。

 もしかして、みちるの……母親か?

 一瞬姉かと思ったが、若すぎる母親の例なら既に知ってるし。

 

「あ、お帰りなさい。母さん」

「か、母さん!?」

 

 予想的中だ。あき達はかなり驚いていたが。

 

「お久しぶりです」

「あらまぁ、みゆきちゃん?大きくなったわね~」

 

 唯一、みゆきは顔見知りだったようで懐かしそうに挨拶をした。

 そういやみちるとみゆきは幼馴染だったっけ?

 

「改めまして、みちるの母の檜山しずくです。よろしくね」

 

 いかにもみちるそっくりの緩い性格をしている。

 おまけにスタイルのいい美人とくれば……。

 

「いやぁ、みちる君とはいつも仲良くして貰ってます! はっはっは!」

 

 あきが黙っていない。

 これ見よがしにみちるの肩を叩き、いかにも仲良さそうにする。

 友人の母親に色目使ってんじゃねーよ。

 

「ハイハイ、引っ込んでようね」

「イダダッ!? スンマセンした、こなたさん!」

 

 恋人に耳を引っ張られ、速効退場した。

 

「うふふ、面白い子達が友達で安心したわ~」

 

 そんなやり取りを、にこやかに見ているしずくさんであった。

 

 

 しずくさんとの挨拶を済ませ、俺達は帰路に付いた。

 みちるの家は俺達の街から6駅分は遠い。

 みゆきだけは逆方面なので、駅で別れた。東京に住んでる奴は大変だな。

 

「今回は学期末だけど、センターの時期には……」

 

 電車の中であきはガタガタと震えていた。

 今日の勉強漬けがかなり効いたみたいだな。

 

「普段から勉強しないからだ」

「私達だって毎回は教えないわよ」

「えーっ!?」

 

 呆れるやなぎとかがみにあきはショックを受ける。

 そりゃ、2人はあきの家庭教師でもないし。

 

「今度は金を取ったらどうだ?」

「いいかもな」

「ちょ!? はやと余計なことを言うな!」

 

 俺の提案に、すっかりその気になったやなぎ。フィギュアを買う金をちょっとは勉強に次ぎ込め。

 

「けど、はやと君も払うことになるんじゃない?」

 

 こなたの言う通り、俺は勉強は出来ない側の人間だ。サボり魔だしな。

 

「俺は……分からなくなったら聞くからいいんだ」

「よくねぇよ」

 

 苦しい言い訳をかがみに突っ込まれた。いいだろ? ケチケチすんな。

 言い合う俺の隣では、疲れ果てたつかさが電車に体を揺られながらすやすや眠っていた。

 何処までも平和な奴だ、まったく。

 

 

 

 テスト当日。あれだけ勉強したんだし、不安は一切なかった。

 

「くっ、ここを乗り切っても春休みの補修と闘うことに……!」

 

 教室では既に赤点取った後の心配をしているバカがいた。

 つーか、赤点取ったらかがみに殺されるぞ。

 

「はやと君は大丈夫なの?」

 

 つかさが眠そうな顔をして尋ねてきた。テスト中に居眠りしそうだが、平気か?

 

「俺は早い内から復習はしてたし、問題ねぇよ」

 

 バレンタインなんて関係ないと分かっていた俺は、浮かれることなくテスト対策を面倒ながらやっておいたのだ。

 ま、留年なんてしたくもねぇし、補修も面倒だからな。

 

「そっかー。頑張ろうね!」

 

 だから、お前は俺より自分の心配をしろっての。

 

「お前等、テスト配るから座れー」

 

 黒井先生がテスト用紙を持ってきた。もう時間か。

 さて、どこまで出来るか……。

 

 

 後日、テスト返しにて。

 

「よ、よかった……」

 

 あきは赤点スレスレだが補習抜きになった。

 って、あれだけやってボーダーラインかよ。

 

「私も~」

 

 つかさも頑張って点を上げたらしい。

 何だかんだ言っても、つかさは平均並だから補習の心配もないけど。

 それでもかがみの普段の点数より下なのは黙っておいてやるか。

 

「こなたはどうだった?」

「おかげさまで」

 

 余裕そうなこなたの用紙を見ると、80点台がズラリと並んでいた。

 コイツ……やれば出来るってタイプか!?

 納得いかない気もするが。

 

「で、はやと君は?」

「俺?」

 

 俺は隠すこともなく、テストを見せる。

 点数はつかさ以上こなた以下。まぁ、可も不可もなくって奴だ。

 因みにみちるとみゆきは、言うまでもなくトップクラス。なんか、ズルいよな。

 

「でもこれで、全員補習はなしだな!」

「お疲れ様~」

 

 春休みが自由になったことを喜ぶあきとつかさ。

 ま、授業はあと数日続くけどな。

 

「帰りにカラオケ寄っていこうぜ!」

 

 もう遊ぶつもりか、とは突っ込まなかった。俺も久々に遊びたいし。

 2年次のボス戦は勝利に終わった。

 後は白い日を抜ければ……進級だ。

 

 

 




どうも、雲色の銀です。

第28話、ご覧頂きありがとうございます。

今回は期末テストの話でした。

本当ならもっと勉強描写を入れるつもりでしたが、予想以上に面白くなかったので、カットしました(笑)。
因みに、今回の点数を順番で表すと

みゆき≧みちる>やなぎ>かがみ≧こなた>>>はやと>つかさ≧平均点>>>あき>赤点

という感じになります。

次回はホワイトデー!リア充は3倍返し大変ですね(笑)


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