すた☆だす   作:雲色の銀

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第22話「火花散る」

 天城あきと俺、冬神やなぎは小学校時代からの腐れ縁だった。

 

 最初は喧しい奴だと思っていた。

 バカで、バリバリのアウトドア派。明るくクラスの中心的存在。

 俺とは本当に正反対だ。

 

 俺は所謂ガリ勉タイプ。読書とボードゲームが趣味で、勉強は学年トップ3には入る。

 けど、運動音痴で病弱。風邪を引いて休むことはよくあった。

 

「やなぎ~、お友達よ~?」

「うっす!」

「いや、友達じゃないから」

 

 風邪がよくなる頃になると、何故かアイツが押し掛けて来た。

 

「もやしはやっぱダメだ、うん」

「大きなお世話だ」

「よし、走るぞ」

 

 俺の貧弱さをからかっては強引に外へ連れ出し、俺に運動をさせた。

 当然俺は嫌がったけど、気付けば不思議と風邪を引くことは少なくなっていった。

 

 

「ってことがあってさ! やなぎんは本当体力ないよな~」

「頭の中まで筋肉のお前に言われたくない」

 

 教室でもよく俺に絡み、漫才のようなやりとりをした。

 正反対だった俺達は、何時の間にかセット扱いされていた。

 

 

 中学に進んでも、俺達の関係は変わらなかった。

 

「2人は親友なん?」

「「いや、腐れ縁」」

 

 違う学校から来たクラスメートから、大抵同じ質問を受ける。

 普段一緒にいるけど、親友になった覚えはない。

 

「帰りに本屋寄ってくぞ」

「まぁ、やなぎんったらえっちぃ本買うのに付き合えって~?」

「違う! 読んでる小説の新刊が出たから買うんだよ!」

 

 親友と呼ぶにはあまりに雑な付き合いだ。

 

「やなぎ~ん、ゲームしようぜ~」

「おまっ、学校に何持ってきてんだよ」

「P○P」

「正直に答えんな!」

 

 そう、「腐れ縁」なら深くは干渉しないだろう。

 俺達の関係を現わすのに相応しい言葉だった。

 

「陵桜行けば親父がPC買ってくれるんだとさ!」

「無理だな」

「フッ、俺の本気を見せる時だ!やなぎ!」

「な、何だよ……」

「勉強教えて!」

「死ね」

 

 この「腐れ縁」がまさか高校まで続くとは思わなかったけどな。

 

 

 

「ふーん、昔から仲良かったんだ」

「そんなんじゃない」

 

 そして現在。

 俺はかがみに、俺とあきの関係について話していた。

 

「けど、本当は親友だって思ってるんじゃないの?」

「まさか」

 

 あんなのと親友扱いされたら困る。

 

「やなぎんは俺がいないとダメだからね~」

「ちょっと待て、いつからそこにいた」

 

 いきなり横に現れたあきに、容赦なく突っ込む。

 音もなく入って来たぞ、コイツ。

 

「説明しよう。あっきーはやなぎん分が不足すると、足音もなく近付くことが出来るのだ」

「迷惑だからやめろ」

「うわーん、やなぎんが冷たいよ~」

「はいはいワロスワロス」

 

 あきは、これまた何時の間にかいたこなたに泣き付く。

 しかし、こなたはそれをスルー。高校生にもなって泣き付くな、鬱陶しい。

 

「茶番はいいとして」

「自分で言うな」

 

 あっさり復活したあきに、今度はかがみが突っ込んだ。

 

「やなぎんは俺とつるむまで、病弱だったからな~」

「悪かったな」

 

 こんな体力バカに付きまとわれたら、健康にもなる。

 

「ま、俺の話はそれくらいにして……今はお2人が気になるなぁ」

「な、何だよ」

 

 あきとこなたは俺とかがみを交互に見る。何が言いたいんだ。

 

「最近仲良くない?」

「よく一緒に本屋に寄るし」

 

 確かに、俺とかがみには読書という共通の趣味があった。

 この前も、かがみからラノベを勧められ、読んでいたところだ。

 

「アレはこなたがあきと帰るっていうから、やなぎと行っただけよ」

「俺も新刊が欲しかったしな」

「本当かな~?」

 

 冷静に反論する俺達に、こなたはまだニヤニヤした視線を送る。

 

「自分達がくっついたからって、余所にまで飛び火させるな」

「羨ましいなら羨ましいって、言ってもいいのだよ。素直になりたまえ」

「殺したい」

 

 仕方なく、素直に自分の気持ちを言うと、あきはずっこけた。

 最近、このバカップルの調子の乗り方がエスカレートしている気がする。

 俺とかがみで説教をかまし、その時は終わった。

 

 

☆★☆

 

 

 桜藤祭が終わり、ホッとするのも束の間。

 

「じゃあ体育祭の出場科目の話し合いをするで」

 

 この学園の体育祭は何故か桜藤祭が終わって、すぐにやるらしい。ふざけた話だ。

 因みに、科目は全員リレーに学年対抗リレー、パン食い競争、障害物競走、二人三脚……等々、走ってばかりだ。

 

「はい」

 

 まず、手を挙げたのはみゆきだった。

 みゆきはおっとりしてるけど、運動神経いいからな。何でも出来るだろ

 

「障害物競走に立候補します」

 

 障害物か……意外なチョイスだな。

 まぁ、ただ走るより遊び心があるけどな。

 

「ほな、障害物は高良でええか?」

「やったことないので楽しみです」

 

 このまま、障害物競走はみゆきに決まるかと思いきや……。

 

「みゆきさんは身体の凹凸激しいから障害物はダメだよ~。いろいろくぐるし」

 

 という、こなたのセクハラめいた一言に、教室内に笑いが溢れた。一部の男子は興奮してみゆきを眺めているし。

 当のみゆきは顔を真っ赤にしていた。可哀想に。

 

 結局、この発言の所為でみゆきは学級対抗リレーの選手になった。

 じゃあ障害物は誰がやるか?

 

「面白そうだし、僕がやろうかな」

 

 もう1人の完璧超人、みちるだ。

 みちるも白い肌と裏腹に体育は得意な方だ。大丈夫だろう。

 

「じゃあ、檜山で決定な」

「ゴメンね、役目を奪っちゃって」

「い、いえ……」

 

 あーあ、まだ顔赤くしちゃってるよ。好きな奴の前であんなこと言われちゃ、余計恥ずかしいよな。

 ま、みゆきの仇はみちるが取ってくれるさ。

 

 その後も着々と話し合いは進んでいった。パン食い競走、男子の対抗リレー等々。

 そして、二人三脚は……。

 

「俺と!」

「私!」

 

 あきとこなたの、ヲタカップルだ。

 確かにコイツ等の息はピッタリである。いい意味でも、悪い意味でも。

 ただ、1つだけ問題があった。

 

「お前等の身長差じゃ、無理じゃね?」

「「!?」」

 

 俺の指摘に固まる2人。いや気付けよ。

 あきは一般的な高校男子の身長だ。しかし、こなたは小学生と言っても過言ではない。

 そんな2人が肩を並べて走れるか?

 

「ふっ……大丈夫だ。俺達の愛の力で!」

「あ、あき君……」

 

 格好付けるあきと、感動するこなた。もう好きにしてくれ。

 こうして、体育祭の話し合いは無事に終わった。

 

 ん、俺? 個人種目なんて面倒なモン出ませんが、何か?

 

 

 

 放課後。

 やなぎ、かがみと合流し、いつも通りの帰り道。

 

「体育祭に向けて、髪切ろうかなー。思い切ってショートとか」

「え!? お姉ちゃん髪切るの!? 折角今まで維持してきたのに」

 

 ふと、かがみが言い出した言葉につかさがショックを受ける。

 いや、そこまでショックなことか?

 

「いや……何気なく言っただけだけど」

「今の意味深な反応、絶対男がらみだ!」

「何でもそっち方面に結び付けるなっ! つかさも余計なこと言うなっ!」

 

 こなたが目を輝かせて食い付くが、まぁ世の中そんなに上手くは進まないってことだ。

 

「でもかがみが髪切ると……うーむ」

 

 ふむ、試しにツインテールがなくなったかがみを想像してみた。

 

 

『あによ』

 

 

 ……ダメだ。特徴がなさすぎる。

 言うなれば鬣のないライオン、耳のないウサギってところだな。

 

「やめておけ、かがみ」

「あかん、あかんて……印象めっちゃ薄っ。元が元だけに」

「ショックデカいわぁ……」

「つまらない顔で悪かったな。だからしないっつの」

 

 俺達に止められ、かがみは呆れ顔で返した。

 とりあえず、かがみの個性を守ることには成功したな。

 

「そういやみゆきさんは対抗リレーなんだぜ」

「へぇ。ま、分かるけど」

 

 あきが自慢そうに語る。みゆきなら安心した勝負運びが出来そうだしな。ウチ等のクラスが有利になるのはいいことだ。

 

「最初は障害物競走になるはずだったんだけどね」

 

 こなたはみゆきの種目変更の経緯を話した。

 アレは……嫌な事件だったな。つーか、元凶お前だよな。

 

「って言ったらリレーになったよ。みゆきさん速いし」

「お前それ中年オヤジのセクハラかよ……最悪だ。可哀想に」

 

 こなたの話を聞いたかがみが同情していた。ですよねー。

 

「で、他のメンバーは?」

 

 やなぎが尋ねる。そういやクラスが違うから、コイツ等とは争うことになるんだよな。

 ま、俺にはどうでもいいことだけど。

 

「みちるが障害物競走、こなたが100m走と、あきと一緒に二人三脚だ。俺とつかさは全員リレーのみ」

 

 と、説明してやると、やなぎとかがみが突然固まる。どうかしたのか?

 

「実は、俺とかがみも二人三脚に出るんだ」

「……ハァ!?」

 

 やなぎの発言に、俺達はかなり驚いていた。

 だって、もやしだぜ?

 全員リレーですら足を引っ張りかねないやなぎが、何でかがみの足を文字通り引っ張るような真似を!?

 

「はやと君、声に出てるよ!」

 

 おっと、いけねぇ。もう遅いけど、俺は慌てて口を押さえる。

 つかさに突っ込まれるなんてな……それぐらい驚いたってことか。

 

「よし、帰って祝杯あげようぜ!」

「お前等なぁ!

 

 あきはもう勝った気でいるし。いや、他のクラスもいるからまだ早いだろ。

 俺達の失礼な態度に、やなぎが遂にキレた。

 

「はいはい。で、何でもやし君が二人三脚に?」

「お前、後で殴るわ」

 

 あきの舐めまくった態度に怒りを覚えつつ、やなぎは奇妙な出来事の経緯を話し始めた。

 

 

☆★☆

 

 

 あきは後で殴るとして、俺が個人種目――それも二人三脚に出るなんて、誰も想像しなかっただろう。

 なら、何故そんなことになってしまったのか。

 俺達のクラスもまた、他のクラス同様に体育祭の出場選手を決めていた。

 

「次は二人三脚だ。誰かやらないか?」

 

 担任の、桜庭ひかる先生の呼び掛けにざわつくクラス。

 二人三脚はコンビネーションが重要。仲のいい2人組がやるべきだと考えていた。

 

 そもそも、俺も進んで個人種目をやる程、身のほど知らずじゃない。

 悔しいが、自身の体力のなさは痛い程理解している。

 しかし、ある男子生徒の一言が俺に地獄行きの切符を寄越した。

 

「そういや、柊と冬神って最近仲良いよな?」

「なっ!?」

 

 無駄な一言の所為で、クラス中の視線が俺とかがみに集中する。

 

「だよなー。お前等適任だよ」

「バカ言うな。かがみは既にパン食い競走に出るって決まっただろ」

 

 何故パン食い競走なのかは、かがみの名誉の為にスルーしておく。

 

「1人何種目でも良いぞ」

 

 しかし、俺の発言を覆したのは桜庭先生だった。

 確実に面倒臭がっているな、あの教師。

 

「だ、だが俺は……」

 

 自分で自分のことをもやしとは言いたくない。

 が、体力がないのも事実。このままではかがみの足を引っ張ってしまう。

 

「かがみも何か言ってくれ!」

 

 俺はかがみに助けを仰ぐ。だが、かがみは何故か顔を赤くしたまま固まっていた。

 そして、最後に放たれた一言が俺の運命を決め付けた。

 

「自信が無いのか? ヘタレ~」

 

 その台詞を聞いた瞬間、俺の中の何かがキレた。

 

「上等だ! やってやるよ!」

「おおおお!」

 

 沸き上がるクラス。我に返り、愕然とするかがみ。

 桜庭先生はやれやれ、といった風に黒板に俺とかがみの名前を書いた。

 以上が、俺とかがみが二人三脚をやる羽目になった敬意である。

 

「お前なぁ……」

「うるさい! 冷静に考えてもバカなことをしたさ!」

 

 その後、かがみに土下座で謝ったさ!

 けど、今更引き返せない。

 ……相手があきだと知って、余計にな。

 

「俺に勝てるかな? もやし君」

「調子に乗るな、脳筋」

 

互いに火花を散らす俺達。

 

「かがみんも大変だね~」

「まったく、男は分からないわ……」

「といいつつ、やなぎんと走ることは万更でもないかがみんであった」

「う、うっさい!」

 

 こなたとのやり取りに、かがみは再び顔を赤くする。理由は俺には分からないけど。

 腐れ縁同士の対決に、俺は後戻りを許されなくなった。

 




どうも、雲色の銀です。

第22話、ご覧頂きありがとうございます。

今回は体育祭の話でした。
やなぎとかがみの話でしたが、どう膨らませようか悩んでいた所、体育祭というイベントをすっかり忘れていました(笑)

次回はやなぎが訓練する話です。

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