天城あきと俺、冬神やなぎは小学校時代からの腐れ縁だった。
最初は喧しい奴だと思っていた。
バカで、バリバリのアウトドア派。明るくクラスの中心的存在。
俺とは本当に正反対だ。
俺は所謂ガリ勉タイプ。読書とボードゲームが趣味で、勉強は学年トップ3には入る。
けど、運動音痴で病弱。風邪を引いて休むことはよくあった。
「やなぎ~、お友達よ~?」
「うっす!」
「いや、友達じゃないから」
風邪がよくなる頃になると、何故かアイツが押し掛けて来た。
「もやしはやっぱダメだ、うん」
「大きなお世話だ」
「よし、走るぞ」
俺の貧弱さをからかっては強引に外へ連れ出し、俺に運動をさせた。
当然俺は嫌がったけど、気付けば不思議と風邪を引くことは少なくなっていった。
「ってことがあってさ! やなぎんは本当体力ないよな~」
「頭の中まで筋肉のお前に言われたくない」
教室でもよく俺に絡み、漫才のようなやりとりをした。
正反対だった俺達は、何時の間にかセット扱いされていた。
中学に進んでも、俺達の関係は変わらなかった。
「2人は親友なん?」
「「いや、腐れ縁」」
違う学校から来たクラスメートから、大抵同じ質問を受ける。
普段一緒にいるけど、親友になった覚えはない。
「帰りに本屋寄ってくぞ」
「まぁ、やなぎんったらえっちぃ本買うのに付き合えって~?」
「違う! 読んでる小説の新刊が出たから買うんだよ!」
親友と呼ぶにはあまりに雑な付き合いだ。
「やなぎ~ん、ゲームしようぜ~」
「おまっ、学校に何持ってきてんだよ」
「P○P」
「正直に答えんな!」
そう、「腐れ縁」なら深くは干渉しないだろう。
俺達の関係を現わすのに相応しい言葉だった。
「陵桜行けば親父がPC買ってくれるんだとさ!」
「無理だな」
「フッ、俺の本気を見せる時だ!やなぎ!」
「な、何だよ……」
「勉強教えて!」
「死ね」
この「腐れ縁」がまさか高校まで続くとは思わなかったけどな。
「ふーん、昔から仲良かったんだ」
「そんなんじゃない」
そして現在。
俺はかがみに、俺とあきの関係について話していた。
「けど、本当は親友だって思ってるんじゃないの?」
「まさか」
あんなのと親友扱いされたら困る。
「やなぎんは俺がいないとダメだからね~」
「ちょっと待て、いつからそこにいた」
いきなり横に現れたあきに、容赦なく突っ込む。
音もなく入って来たぞ、コイツ。
「説明しよう。あっきーはやなぎん分が不足すると、足音もなく近付くことが出来るのだ」
「迷惑だからやめろ」
「うわーん、やなぎんが冷たいよ~」
「はいはいワロスワロス」
あきは、これまた何時の間にかいたこなたに泣き付く。
しかし、こなたはそれをスルー。高校生にもなって泣き付くな、鬱陶しい。
「茶番はいいとして」
「自分で言うな」
あっさり復活したあきに、今度はかがみが突っ込んだ。
「やなぎんは俺とつるむまで、病弱だったからな~」
「悪かったな」
こんな体力バカに付きまとわれたら、健康にもなる。
「ま、俺の話はそれくらいにして……今はお2人が気になるなぁ」
「な、何だよ」
あきとこなたは俺とかがみを交互に見る。何が言いたいんだ。
「最近仲良くない?」
「よく一緒に本屋に寄るし」
確かに、俺とかがみには読書という共通の趣味があった。
この前も、かがみからラノベを勧められ、読んでいたところだ。
「アレはこなたがあきと帰るっていうから、やなぎと行っただけよ」
「俺も新刊が欲しかったしな」
「本当かな~?」
冷静に反論する俺達に、こなたはまだニヤニヤした視線を送る。
「自分達がくっついたからって、余所にまで飛び火させるな」
「羨ましいなら羨ましいって、言ってもいいのだよ。素直になりたまえ」
「殺したい」
仕方なく、素直に自分の気持ちを言うと、あきはずっこけた。
最近、このバカップルの調子の乗り方がエスカレートしている気がする。
俺とかがみで説教をかまし、その時は終わった。
☆★☆
桜藤祭が終わり、ホッとするのも束の間。
「じゃあ体育祭の出場科目の話し合いをするで」
この学園の体育祭は何故か桜藤祭が終わって、すぐにやるらしい。ふざけた話だ。
因みに、科目は全員リレーに学年対抗リレー、パン食い競争、障害物競走、二人三脚……等々、走ってばかりだ。
「はい」
まず、手を挙げたのはみゆきだった。
みゆきはおっとりしてるけど、運動神経いいからな。何でも出来るだろ
「障害物競走に立候補します」
障害物か……意外なチョイスだな。
まぁ、ただ走るより遊び心があるけどな。
「ほな、障害物は高良でええか?」
「やったことないので楽しみです」
このまま、障害物競走はみゆきに決まるかと思いきや……。
「みゆきさんは身体の凹凸激しいから障害物はダメだよ~。いろいろくぐるし」
という、こなたのセクハラめいた一言に、教室内に笑いが溢れた。一部の男子は興奮してみゆきを眺めているし。
当のみゆきは顔を真っ赤にしていた。可哀想に。
結局、この発言の所為でみゆきは学級対抗リレーの選手になった。
じゃあ障害物は誰がやるか?
「面白そうだし、僕がやろうかな」
もう1人の完璧超人、みちるだ。
みちるも白い肌と裏腹に体育は得意な方だ。大丈夫だろう。
「じゃあ、檜山で決定な」
「ゴメンね、役目を奪っちゃって」
「い、いえ……」
あーあ、まだ顔赤くしちゃってるよ。好きな奴の前であんなこと言われちゃ、余計恥ずかしいよな。
ま、みゆきの仇はみちるが取ってくれるさ。
その後も着々と話し合いは進んでいった。パン食い競走、男子の対抗リレー等々。
そして、二人三脚は……。
「俺と!」
「私!」
あきとこなたの、ヲタカップルだ。
確かにコイツ等の息はピッタリである。いい意味でも、悪い意味でも。
ただ、1つだけ問題があった。
「お前等の身長差じゃ、無理じゃね?」
「「!?」」
俺の指摘に固まる2人。いや気付けよ。
あきは一般的な高校男子の身長だ。しかし、こなたは小学生と言っても過言ではない。
そんな2人が肩を並べて走れるか?
「ふっ……大丈夫だ。俺達の愛の力で!」
「あ、あき君……」
格好付けるあきと、感動するこなた。もう好きにしてくれ。
こうして、体育祭の話し合いは無事に終わった。
ん、俺? 個人種目なんて面倒なモン出ませんが、何か?
放課後。
やなぎ、かがみと合流し、いつも通りの帰り道。
「体育祭に向けて、髪切ろうかなー。思い切ってショートとか」
「え!? お姉ちゃん髪切るの!? 折角今まで維持してきたのに」
ふと、かがみが言い出した言葉につかさがショックを受ける。
いや、そこまでショックなことか?
「いや……何気なく言っただけだけど」
「今の意味深な反応、絶対男がらみだ!」
「何でもそっち方面に結び付けるなっ! つかさも余計なこと言うなっ!」
こなたが目を輝かせて食い付くが、まぁ世の中そんなに上手くは進まないってことだ。
「でもかがみが髪切ると……うーむ」
ふむ、試しにツインテールがなくなったかがみを想像してみた。
『あによ』
……ダメだ。特徴がなさすぎる。
言うなれば鬣のないライオン、耳のないウサギってところだな。
「やめておけ、かがみ」
「あかん、あかんて……印象めっちゃ薄っ。元が元だけに」
「ショックデカいわぁ……」
「つまらない顔で悪かったな。だからしないっつの」
俺達に止められ、かがみは呆れ顔で返した。
とりあえず、かがみの個性を守ることには成功したな。
「そういやみゆきさんは対抗リレーなんだぜ」
「へぇ。ま、分かるけど」
あきが自慢そうに語る。みゆきなら安心した勝負運びが出来そうだしな。ウチ等のクラスが有利になるのはいいことだ。
「最初は障害物競走になるはずだったんだけどね」
こなたはみゆきの種目変更の経緯を話した。
アレは……嫌な事件だったな。つーか、元凶お前だよな。
「って言ったらリレーになったよ。みゆきさん速いし」
「お前それ中年オヤジのセクハラかよ……最悪だ。可哀想に」
こなたの話を聞いたかがみが同情していた。ですよねー。
「で、他のメンバーは?」
やなぎが尋ねる。そういやクラスが違うから、コイツ等とは争うことになるんだよな。
ま、俺にはどうでもいいことだけど。
「みちるが障害物競走、こなたが100m走と、あきと一緒に二人三脚だ。俺とつかさは全員リレーのみ」
と、説明してやると、やなぎとかがみが突然固まる。どうかしたのか?
「実は、俺とかがみも二人三脚に出るんだ」
「……ハァ!?」
やなぎの発言に、俺達はかなり驚いていた。
だって、もやしだぜ?
全員リレーですら足を引っ張りかねないやなぎが、何でかがみの足を文字通り引っ張るような真似を!?
「はやと君、声に出てるよ!」
おっと、いけねぇ。もう遅いけど、俺は慌てて口を押さえる。
つかさに突っ込まれるなんてな……それぐらい驚いたってことか。
「よし、帰って祝杯あげようぜ!」
「お前等なぁ!
あきはもう勝った気でいるし。いや、他のクラスもいるからまだ早いだろ。
俺達の失礼な態度に、やなぎが遂にキレた。
「はいはい。で、何でもやし君が二人三脚に?」
「お前、後で殴るわ」
あきの舐めまくった態度に怒りを覚えつつ、やなぎは奇妙な出来事の経緯を話し始めた。
☆★☆
あきは後で殴るとして、俺が個人種目――それも二人三脚に出るなんて、誰も想像しなかっただろう。
なら、何故そんなことになってしまったのか。
俺達のクラスもまた、他のクラス同様に体育祭の出場選手を決めていた。
「次は二人三脚だ。誰かやらないか?」
担任の、桜庭ひかる先生の呼び掛けにざわつくクラス。
二人三脚はコンビネーションが重要。仲のいい2人組がやるべきだと考えていた。
そもそも、俺も進んで個人種目をやる程、身のほど知らずじゃない。
悔しいが、自身の体力のなさは痛い程理解している。
しかし、ある男子生徒の一言が俺に地獄行きの切符を寄越した。
「そういや、柊と冬神って最近仲良いよな?」
「なっ!?」
無駄な一言の所為で、クラス中の視線が俺とかがみに集中する。
「だよなー。お前等適任だよ」
「バカ言うな。かがみは既にパン食い競走に出るって決まっただろ」
何故パン食い競走なのかは、かがみの名誉の為にスルーしておく。
「1人何種目でも良いぞ」
しかし、俺の発言を覆したのは桜庭先生だった。
確実に面倒臭がっているな、あの教師。
「だ、だが俺は……」
自分で自分のことをもやしとは言いたくない。
が、体力がないのも事実。このままではかがみの足を引っ張ってしまう。
「かがみも何か言ってくれ!」
俺はかがみに助けを仰ぐ。だが、かがみは何故か顔を赤くしたまま固まっていた。
そして、最後に放たれた一言が俺の運命を決め付けた。
「自信が無いのか? ヘタレ~」
その台詞を聞いた瞬間、俺の中の何かがキレた。
「上等だ! やってやるよ!」
「おおおお!」
沸き上がるクラス。我に返り、愕然とするかがみ。
桜庭先生はやれやれ、といった風に黒板に俺とかがみの名前を書いた。
以上が、俺とかがみが二人三脚をやる羽目になった敬意である。
「お前なぁ……」
「うるさい! 冷静に考えてもバカなことをしたさ!」
その後、かがみに土下座で謝ったさ!
けど、今更引き返せない。
……相手があきだと知って、余計にな。
「俺に勝てるかな? もやし君」
「調子に乗るな、脳筋」
互いに火花を散らす俺達。
「かがみんも大変だね~」
「まったく、男は分からないわ……」
「といいつつ、やなぎんと走ることは万更でもないかがみんであった」
「う、うっさい!」
こなたとのやり取りに、かがみは再び顔を赤くする。理由は俺には分からないけど。
腐れ縁同士の対決に、俺は後戻りを許されなくなった。
どうも、雲色の銀です。
第22話、ご覧頂きありがとうございます。
今回は体育祭の話でした。
やなぎとかがみの話でしたが、どう膨らませようか悩んでいた所、体育祭というイベントをすっかり忘れていました(笑)
次回はやなぎが訓練する話です。