すた☆だす   作:雲色の銀

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第15話「ケンカ両成敗」

 何なんだよ畜生! 何で上手くいかないんだよ!

 前は完璧だった所まであやふやになっていく。

 覚えた台詞も、ある1シーンが頭を占める所為で出て来なくなる。

 

「クソッ!」

 

 自分自身にムカつき、壁を蹴る。

 俺が全部悪いってのは分かってるんだ。こなたが怒るのも無理はない。

 

「クソッ……」

 

 このままじゃ、クビになるだろうな。

 そうすれば違う誰かが代わりを務める。勿論こなたとのキスシーンも……。

 

「がぁぁぁぁっ!!」

 

 よく分かんねぇけど、更にムカついたので壁を蹴りまくった。

 そんなの、想像するだけで嫌だ!

 

「うるせぇぞ」

 

 誰かからの呼び掛けに振り向く。

 俺のよく聞き慣れた声だ。

 

「荒れてんな」

「今虫の居所が悪ぃんだ」

 

 腐れ縁だろうと、容赦なく睨み付ける。

 そんな俺を見て、やなぎは溜息を吐いた。

 

 

☆★☆

 

 

 あきとこなたを抜いての練習は、上手く行っていた。特にラストシーンはアイツ等死んでるから、問題はなかった。

 今は主役とみちるが、盛大に殴り合うシーンをやっていた。最後で最高に盛り上がる場面だ。

 

「大丈夫かな?」

 

 呑気に見学中の俺の隣で、つかさが未だに心配そうな顔をしている。

 普段からコミカルな2人がケンカなんて、誰も思いつかねぇしな。

 

「平気だろ。助っ人を呼んどいたし」

「助っ人?」

 

 俺はバカの説得には向かない。

 だから、あきのことをよく知る奴、やなぎに助けを仰いだ。

 こなたの方は……放っておいても平気だろ。外見に反して中身は意外と大人だし。

 

「俺達に出来るのは、アイツ等が帰ってくるまで練習を重ねることだ」

「……うん!」

 

 頭を撫でてやると、つかさは大きく頷く。お人好しの心配も少しは晴れたみたいだな。

 

「じゃ、俺は寝る」

「……ふぇぇっ!?」

 

 つかさの相手も済ませた俺は、机に突っ伏した。

 だって俺、練習関係ねぇし。じゃ、お休み~。

 

「白風! 戻ったなら小道具手伝え!」

「だって、はやと君」

 

 ところが、御呼び出しが掛かってしまった。そんなに俺に仕事をさせたいのか。

 もし翼があったら、逃げられるのになぁ。

 

 

☆★☆

 

 

「で、何の用だ?」

 

 ここでやなぎが現れるなんて、都合がよすぎる。多分はやとの差し金だろう。

 けど今はどうだっていい。分かったところで、俺の苛立ちは収まらない。

 

「別に。珍しくお前が頭抱えてるから、様子見にな」

「そうか。ならさっさと失せろ」

 

 俺達は互いに睨みあう。後から思えば、俺達の長い付き合いの中で初めてのことだったかもしれない。

 

 やなぎは昔から頭脳タイプだ。一対一で殴り合ったら、間違いなく俺が勝つ。

 が、そんなことも分からずに喧嘩を売りに来る奴じゃない。

 

「どうした? 何に悩んでるか言ってみろよ」

「お前にゃ関係ねぇ」

「どうせこなたと揉めたんだろ?」

 

 知ってんじゃねぇかよ。なら最初から聞くな。

 

「バカには単刀直入に言った方がいいか」

「な、何だよ!?」

 

 今だけ、バカ呼ばわりされることに腹が立った。

 呆れた様子のまま、やなぎは間を置いて俺に言い放つ。

 

「お前、こなたのこと好きだろ?」

「……は?」

 

 やなぎの言葉が信じられず、思わず聞き返してしまった。

 好きって、まさか恋愛関係の方か?

 

「まさか、そんな」

「そんなことないってか? じゃあ何で無駄に意識してんだ?」

 

 何でそこまで知ってんだよ!?

 自分の考えもスラスラと読み解かれているようで、驚きと同時に怒りも増して行った。

 

「はぁ……お前はバカだから分かりやすいんだよ」

「んだとコラ!?」

 

 牽制の意味を込めて、俺は思いっきり壁をブン殴る。

 さっきから言いたい放題言いやがって!

 

「お前に俺の何が分かるってんだよ!」

「腐れ縁だからな」

 

 俺の威嚇にも、やなぎは微動だにしていない。

 それどころか、さっきから俺のことを見透かしたような眼で見やがる。

 

「何だよ……腐れ縁だったら何なんだよ!」

「お前も分かってる筈だ」

「黙れっ!!」

 

 さっきのはやとの態度といい、今日はやたらとムカつく。

 俺に何をさせたいんだ? 答えを出せない、臆病な俺を笑いたいのなら、最初からそうすればいいのに。

 

「じゃあ逆に聞くが、お前がこなたを嫌う理由があるか?」

「ねぇよ! アイツは俺の、俺達のダチだろ!」

 

 けど、俺がこなたを嫌いじゃなかったら好きってことにはならねぇ。

 好きだとしても、それはライクの範疇のはずだ。

 しかし、やなぎは俺が答えを出さざるを得ない決定的な言葉を口にする。

 

「なら、俺がこなたに告白する、と言ったら?」

 

 何、だと? やなぎがこなたに告白……?

 

「そんなの、俺は……」

 

 ただの問い掛けのはずなのに、俺は言葉を失った。

 やなぎは確かに髪が長くてヒョロいもやしだが、頭は良いし顔も悪くはない。

 もし、こなたとやなぎが付き合うことになったら、周囲は祝福するだろう。

 

「俺は……」

 

 俺は止めない。祝ってやる。

 

 そう言うはずだった。

 別に俺に止める理由なんてない。俺はこなたの親兄弟でも、ましてや恋人でもないからな。

 

 

 気が付いたら、俺はやなぎをブン殴っていた。

 

 

「はぁっ、はぁっ……んなモン駄目に決まってんだろうが!!」

 

 

 起き上ったやなぎは殴られた頬を擦り、不敵な笑みを浮かべた。

 

「それが答えだ」

 

 そうか……。俺にはずっと無縁なモンだと思っていた。

 

 小さい時から、親父に無理矢理男臭いスポーツをいくつもやらされて。

 その反動か何かで、アニメやマンガ、ゲームにハマり、二次元の美少女達に囲まれて。

 やなぎとつるんだり、女の子を軽くナンパしたりして中学を過ごして。

 まともに誰かに恋愛感情なんて持たなかった。だから、恋に悩む格好悪い自分なんて認めたくなかった。

 

「格好わりぃな、俺」

「知ってる。元からだろ……ってて」

 

 やなぎは随分痛そうにしている。かなり本気で殴ったからな。

 

「だが私は謝らない」

「人の顔面殴っておいて、言うことはそれか」

 

 懐から取り出した扇子で、やなぎに脳天を殴られた。

 案外硬いんだな、それ……いいセンスだ。

 

「オラ、やることやってこいバカ」

「いでっ!? 分かった、分かったからケツ蹴んな!」

 

 本気で殴ったことを根に持ってるのか、俺はやなぎに何度もケツを蹴られながら、俺が出た方向と反対側、こなたが行った方へ走って行った。

 ……持つべきものは腐れ縁の親友、か。

 

「盛大に玉砕して来い!」

「玉砕って失敗してんじゃねぇか!」

 

 やなぎに発破を掛けられながら、俺は自分の気持ちに向き合う為にこなたを探し回った。

 

 

☆★☆

 

 

 劇の練習中、殴られた跡を付けたやなぎがE組に現れた。

 さっき、バカの怒鳴り声と殴った音が聞こえたので、そろそろ来るだろうとは思ってたけどな。

 

「やなぎ!? どうしたの!?」

「大丈夫ですか? 保健室行った方が……」

「平気だ」

 

 心配するみちるとみゆきを制止するやなぎ。

 おー、また派手にやられたな。同じように殴られた跡を付けた俺は、ケラケラ笑いながらやなぎを迎える。

 

「何だ? スパイか?」

「違う。自分達のクラスに自信があるのに、わざわざスパイの必要もないだろ」

「だろうな」

「そこは否定しろよ」

 

 騒ぎの後でも、やなぎのツッコミは冴え渡っている。本気かどうかは知らんが、自分達の売上に自信があるようだな。

 ま、俺は最初から勝負してねぇし。何処のクラスが勝とうが知らんがな。

 

「バカはどうした?」

「焚き付けた」

 

 やなぎの一言だけで、俺は現状を把握した。

 そういや、教室の外を全速力で走る音もしたっけ。

 

「そうか。ご苦労さん」

「全くだ」

 

 俺達は互いに苦笑する。大バカな知り合いを持つと苦労するな。

 傍にいたみちるとみゆきは俺達の会話の内容が何のことか分からず、疑問符をいくつも浮かべていたが。

 

 

☆★☆

 

 

 校内を全力疾走してこなたを探すが、何処にもいない。

 帰ったかと思ったが、鞄が置いてある筈だからそれはない。

 

「チッ、外か!」

 

 即靴を履き換え、俺は校舎裏に向かった。

 

 俺、こなたを見つけたら告白するんだ……。

 

 何て死亡フラグを脳内に浮かべていると、本当にいた。呑気に座りながら、大好物のチョココロネ食ってやがる。

 すぐに駆け寄ろうと思ったが、独り言を呟いてるらしいので様子を見ることにした。

 俺も走り疲れて、息整えたいし。

 

「う~ん、どうやって皆の所に戻ろうか……「アンタ達! 団長様が御戻りよ!」」

 

 どうも、皆の元に戻るのにネタを考えているらしい。

 こなたらしいが俺達のクラスはSOS団じゃねぇんだし、その言い方で戻るのはちょっとなぁ。

 

「うーん、イマイチ受け悪いかなぁ」

「だろうな」

「あ、やっぱり? でもあき君が悪いん……!」

 

 折角なので、自然な形で独り言に混ざってみた。

 すると、少し経ってから俺に気付き、目を点にする。あ、今のビクッてなった顔、可愛いかも。

 

「オイ、チョコ垂れてんぞ」

「へっ!?」

 

 こなたは普段小さい方からコロネを食べる。だから油断してると下からチョコがよく垂れるのだ。

 ペロペロとチョコを舐め取ると、頬を染めながら俺を睨む。へぇ、そんな表情も出来んだ。

 

「で、何か用?」

「いいや、振り切ってきただけだ」

 

 某真っ赤な刑事ライダー風に格好付ける。

 

「ふーん。ま、いいや」

 

 軽くスルーされた、だと……!? 絶望が俺のゴール……って言ってる場合じゃねぇや。

 

「ここでさっさと仲直りして、練習戻ろう?」

 

 いつものコミカルな感じで手を差し出すこなた。ま、俺もシリアスすぎるのは嫌いだしな。

 だが、俺はまだその手を取らない。やらなきゃならないことがあるからだ。

 

「……あき君?」

「単刀直入に言う。こなた、お前は俺のこと好きか?」

「え……?」

 

 俺はこなたをジッと見つめる。

 この質問は予想外だったらしく、こなたは頬を染めた。

 

「好きか嫌いか、(バカ)にはそれで充分だろ?」

「……うん。そだね」

 

 しかし、俺がいつも通りの様子だと分かり、こなたもすぐに元の調子に戻る。

 

「好きだよ」

「よし」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、俺はこなたの手を掴んで俺の元に引っ張り、強引にキスをした。

 

「っ!?」

「……ぷはっ、これで劇に集中できるぜ」

 

 今ここでファーストを済ませておけば、キスシーンに無駄な意識を持たなくて済む。

 これが俺の気持ちの整理の仕方だ。

 

「さ、戻ろ」

「天誅っ!」

「うごふっ!?」

 

 満足気にしていた俺は、顔を真っ赤にしたこなたに腹を殴り飛ばされたのだった。

 その後、俺達は騒動を起こしたってことで、黒井先生からこってり搾られたのであった。ケンカ両成敗って奴だ。

 

 

 

 そして、あっという間に桜藤祭前日。

 

「カット! お疲れさん!」

 

 スランプを抜け出した俺は急ピッチで台詞を覚え、演技をしっかりと出来るようになった。

 リハーサルも完璧にこなし、後は本番を待つだけだ。

 

「あー、やっと仕事から解放されたぜ」

 

 小道具と背景を終えて、堂々と背を伸ばすはやと。

 あれ、知らないのか? クラス委員は当日見回りの仕事があるんだぜ?

 

「みちるさん、頑張りましょう!」

「うん!」

 

 仲良く気合を入れあうお坊ちゃんとお嬢さん。休憩時間もこの2人で回るんだろうな。

 みゆきさんは今度こそ、無敵の要塞(みちる)を攻略することが出来るのだろうか?

 

「あき君、乙!」

「乙! って、そりゃまだ早いんじゃないか?」

 

 同じくリハーサルを終えたこなたが駆け寄ってきた。ファーストキスを終えた後でも、俺達は今まで通り接することが出来ている。

 本番は明日なんだし、乙をするのはまだ早い。俺達の戦いはこれからだ!

 

「明日はドジんないでよ~?」

「任しとけって。あ、そうだ。休憩時間空いてるか?」

「え? うん」

「じゃあ劇が終わり次第、校舎裏に来てくれよ。コレ、強制だからな」

「ちょ!?」

 

 言いたいことだけを伝え、俺は着替えに行く。

 本当の勝負(・・・・・)は明日だから、な。

 




どうも、雲色の銀です。

第15話、ご覧頂きありがとうございます。

今回はあきこなのケンカの収拾と、あきが遂に自覚する話でした!そして空気こと、やなぎんがまさかの活躍!(笑)

ここで漸く、あきとやなぎの腐れ縁設定が活かせた気がします。なんだかんだ言って、あの2人は名コンビだと思ってます。
あきが自分の気持ちに正直になりましたけど、告白は後回しです。先にキスしちゃいましたが。

次回は桜藤祭、前半です。



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