すた☆だす   作:雲色の銀

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第13話「練習しましょう」

 昼休み。我がクラスでは、演劇の練習の真っ最中だった。

「ふぁぁぁ……」

「大きな欠伸だね~」

 隣に座るこなたからツッコミを受ける。

 周囲を見ると、眠そうな奴が他にも何人かいる。劇の練習が始まってから、役者は朝早く登校する羽目になったからだ。

 俺、天城あきも役者の1人だ。朝が早くなって、起きるのに辛い日々が始まった。

 だからといって、徹夜でネトゲやギャルゲに勤しむ生活をやめる気はないがな!

「いやぁ、眠くてな」

「はやと君みたく屋上で寝てくれば?」

 先日、見事にクラス委員に当選したはやと君は、今はやることがなくなったので絶賛昼寝中だ。

「あれ? はやと君は~?」

 相方のつかさは、小道具等の内職をしているというのに……。

 漸く相方がいなくなったことに気付いたつかさは、はやとを探しに行ってしまった。

「フッ、俺のようなイケメン男優がいなくなったら、皆困るだろ?」

 前髪を掻き上げ、格好良く決める。真のイケメンは、主役じゃなくサブで輝くモンなのさ。

「キャー!!」

 フッ、黄色い声援が聞こえるぜ。このクラスの女子もやっと俺の魅力に気付いたようだな。

「みちる君、今のもう1回やって!」

「え? う、うん……俺の演技に、酔いしれな」

「キャー! 格好良いー!」

 黄色い声援は我らが王子、みちるのものでした。うん、分かってたよ。

 お金持ちでイケメンの完璧超人、みちるは演技も上手く、すぐにクラス内でファンを作っていた。何気にファンの中にみゆきさんが入ってるし。

「……黙ってればあき君だって」

「ん?」

 今、こなたが何か呟いたような気がしたが、声援に掻き消されて聞こえなかった。

「私も眠くてさ~」

 そう言って、こなたは大きく欠伸をした。実はこなたも役者の1人で、俺との共演シーンが多い。

 何だ、人のこと言えねーじゃん!

「てっきり俺の格好良さに見惚れてたのかと」

「吐きそうだからトイレ行っていい?」

「酷っ!?」

 口を押えるジェスチャーをしながら、ぷくくと笑うこなた。

 こんな軽いやり取りが出来る女子も、コイツだけだぜ。

☆★☆

 見事に教室を抜け出せた俺は、空を見上げながら大の字に寝転んでいた。

 あー、こんなにゆったりした感じは久々だ。

 去年までは文化祭なんて関わらず、こうやって屋上で空を眺めていたってのに。

 つかさと会ってから俺の日常変わったなぁ、とつくづく思う。

「ま、悪い気はしてないが」

 確かに、日常の変化で楽しくもなった。けど、仕事をサボるのとはまた話が別だ。

 つー訳で、お休みー。

「はやと君!」

「どわぁっ!?」

 これから寝ようとした時に屋上のドアが勢い良く開き、聞き慣れた声で呼ばれて飛び起きる。

「やっぱりいたよ~!」

「チッ、もう気付いたか」

 つかさは頬を膨らませてこっちに来た。

 細々とした作業に夢中になって気付かないと思ってたが、まさかこんなに早いとは。

「戻って小道具作らなきゃダメだよ~!」

「自分不器用ですから」

「不器用な人はあんなにダーツ上手くないよ~!」

 つかさの説得を軽く流すが、通じない。

 大体、何でクラス委員が小道具手伝わなきゃいけないんだか。

「いいかつかさ、ダーツが上手い人はこうやって屋上で昼寝をしないといけないんだ」

「どうして?」

「それは……太陽光をエネルギーにしているからだ!」

 俺はつかさを説得する為、バッと腕を太陽に突き出す。

 勿論、嘘だ。

「そ、そうだったの!?」

「ああ。ダーツだけじゃねぇ! 野球選手や、パン工場の女の投球コントロールにも、太陽エネルギーは使われているんだ!」

 物を投げるには太陽エネルギーが必要だ。と、つかさは本気で信じていた。

 当然のごとく嘘です。

「知らなかったよ~」

 適当な嘘にここまで騙される奴もそういないな。

 さて、トドメだ。

「ほら、よく言うだろ……寝る子は育つって」

「!」

 まるで、名探偵が謎を全て解いたかのような表情を浮かべるつかさ。

 念の為に言っておくが、ここまでの話全てが出鱈目だ。

「だから寝かせ」

「あれ? でも私、そんなに育ってないよ?」

 ……しまったぁ!? 大きな矛盾点が目の前にいた!?

 そうですね、つかささんもよく寝てらっしゃるもんね。しかも、色々自覚してるし。

「はやと君……?」

 視線が痛い。

 さっきまで、適当な嘘を純粋な心で信じていたはずの、少女の刺すような視線が痛い。

「すみませんでした。白風はやと、全力を持って内職に就かせて頂きます」

 こうして、俺は近年稀に見る綺麗な土下座で謝り、教室へ連行されていったのだった。

☆★☆

 練習開始から2週間。

 はやとが浮かない顔で小道具を作っていることを含め、劇の準備は順調に進んでいた。

 ……役者以外は。

「ん~っ!」

 俺は自室の椅子に座ったまま背を伸ばした。

 ここ数日、台本と睨めっこだ。そろそろネトゲが恋しくなるぜ。

「長い台詞は何とかなるんだが……」

 役者の仕事は台詞を覚えるだけじゃない。

 シーンに合った動作や、表情を作らなければならない。

「死に顔かぁ……」

 俺の役は怪物に食われて死ぬ。悲劇的なシーンだ。

 しかし、問題はそこだけじゃない。

「ある女を好いてて、素直になれず捻くれた態度を取るって……」

 ツンデレ萌えの、俺自身がツンデレをやるとはなぁ。しかも相手が……。

「こなた……どう考えてもミスマッチだな」

 アイツの性格と役のキャラが合ってねぇし。

 挙げ句俺を子供扱いかよ!

「……ま、何とかなるか」

 役に文句を言っても仕方ない。

 散々言ったが、演技力には自信がある。

 この映画も個人的に何度も見てるし、余裕余裕!

 念の為、もう一度重要シーンを台本で確認する。

「えーと……人間の集落で一悶着、敵のアジトに呼ばれる、戦闘、アジトに侵入したが見つかり化け物と戦う、キス、食われる……キスゥ!?」

 うぉい!? 原作にはなかった展開があったぞ!?

 誰だ、キスシーン入れた奴!?

「つ、つまり俺とこなたが……?」

 俺達がぶちゅっと行くシーンを想像すると、鳥肌が立った。

 ハッハッハ、またご冗談を……。

「オイ、どういうことだコラ?」

 翌日、俺は脚本担当を問い詰めた。

「確かに俺は女の子好きだよ? そりゃあもう、風呂に入ってる女子がいたら覗きたいぐらい」

「そりゃあただの変態だ」

 クラス委員兼小道具係から突っ込まれたが、無視した。

「だが、キスシーンを勝手にブチ込むたぁいい度胸してんじゃねぇか! 原作レイプも大概にしろや!」

 ガクガク、と脚本係の首根っ子を掴んで揺らす。

 吐きそうな顔をしているが気にしない。

「おはよ~。あれ? あき君、どしたの?」

 そこへ、シーンのもう1人の該当者であるこなたが現れる。

 こなただって、キスシーンのことを知ったら怒るだろ。

「こなた! これ見てみろ! コイツ勝手にキスシーンを」

「ああ、それ? 私が入れてもらうよう頼んだんだけど」

 ……はい?

 こなたが入れたって、このキスシーンを?

「おまっ、何でだよ!」

「だって、その方が盛り上がるかなって」

 いや、そりゃまぁ……。

 確かに、シーン全体で見れば盛り上がるし、悲劇度も上がる。この程度の改変で困るような奴はいないのだ。

「何であき君はキスシーンを必死に止めたがってるのかな?」

「そ、それは……」

 あれ、何でこんな必死になってんだ?

 いつもなら、女の子とキス出来るなんて役得、逃す訳ないのに。

 必死な俺をこなたはニヤニヤと見つめる。

「そ、そういうこなたこそ! 俺とキスなんていいのか?」

「うん」

「だよな! 女の子の大事なファースト……!?」

 断ると思いきや、こなたは寧ろ躊躇なく頷く。

 ちょ、あっさり許可しちゃったよこの娘!?

「……や、やっぱなし!」

 しかし、すぐに顔を赤くして腕をブンブンと横に振る。

 そ、そうだよな。今更照れたか!

「ま、まぁフリだけでいいよな!」

「そだね! フリだけで!」

 とりあえず、キスはフリだけということで俺達は同意した。

 あはははは……はぁ。

 この時、まだ誰も気付かなかった。

 こんな些細なことが切っ掛けで、あんな騒動が起きるなんて。




どうも、雲色の銀です。

第13話、御覧頂きありがとうございます。

今回はあきを中心に文化祭の練習光景と、加速するこなたとの距離でした。
一方、主人公は内職をしていました(笑)。

はやと「赤い靴出来たぞー」
つかさ「すごーい!」

こんなやりとりが行われていたとか。

次回はちょっとしたケンカが起きます。

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