カメンライダー   作:ホシボシ

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※注意!


今回、かなり激しい暴力描写があります。
一応17歳未満の方は、その部分を飛ばしてもらえると助かります。

うまくできてるかどうかはわかりませんが、『選択肢』を作ったので、グロテスクな描写が苦手な方はその選択肢をクリックだのタップしてもらえば飛ばすことができます。

もしもうまくいかない場合や選択肢が見つけられない場合は

『ポッピーがあっけらかんと答えた』

から

『時間が、景色が元に戻った。
ポッピーと住んでいたアパートの前で――』

の部分まで飛ばしてください。



第6話 いただきます

 

 

本条と永夢の視線がぶつかり合う。

研修医の記憶があるからなのか。永夢には本条が子供には見えなかった。

見た目は確かに小学生である。しかし文字通り、子供の皮を被った何かにしか見えない。

ましてフラッシュバックする光景。本条からはとてつもない――、恐怖を感じる。

 

 

「お、お前が、ポッピーをおかしくしたのか……!」

 

「ふ、ふふ。ふふふ! そうか。そうだな。そうかもしれない」

 

「許さない――ッ!」

 

 

立ち上がった永夢は、ゲーマドライバーを構えると、腰に装着した。

信じられなかった。あのポッピーがあんな……。

そしてなによりも記憶があった。かつて同じ様な状況になった時がある。だから今回もきっと同じ様なものだと永夢は確信していたのだ。

 

 

『マキシマム! マイティ・エーックス!』

 

 

ガシャットを起動させると、背後にタイトル画面が出現。

ロボットに乗ったマイティが表示され、エナジーアイテムが射出されていく。

 

 

「MAX大変身!」

 

 

永夢は構えを取ると、ガシャットをゲーマドライバーへ。

 

 

『マキシマムガシャット!』『ガッチャーン!』『ゥルェベルマーックス!!』

 

 

キャラクター選択のアイコンが永夢を中心にして回転。

中央に来たエグゼイドを手を伸ばしてたたき出すと、永夢の姿がエグゼイドに変わった。

同時に空中に巨大なパーワードアーマー・マキシマムゲーマが出現する。

 

 

『最大級のパーワフルボディー!』

 

< ダリラガーン!!

 

        ダゴズバァーン!! >

 

 

『最大級の――』

 

 

エグゼイドはガシャットを叩き潰すように押す。

するとエグゼイドの装飾がガシャットの中に埋め込まれた。

飛び上がるエグゼイド、同時にパワードアーマーも展開し、エグゼイドを受け入れる場所を作った。

 

 

『マキシマァムパワァー!』

 

『エェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッックス!!!!!!!』デデーン!!

 

 

穴に飛び込み、アーマーと合体。

するとアーマーから手足が伸び、エグゼイドはそのまま地面に着地を決めた。

仮面ライダーエグゼイド。マキシマムゲーマー・レベル99。手にはガシャコンキースラッシャーがあり、すぐにガシャットを装填すると、ガンモードにして照準をポッピーに合わせる。

 

 

「ポッピーは、返してもらう!!」『マキシマムガシャット!』

 

『マキシマムマイティ! クリティカル・フィニッシュ!!』

 

【MAXIMUM MIGHT! CRITICAL・FINISH!!】

 

 

エグゼイドは光弾を発射し、棒立ちだったポッピーを撃ちぬいた。

しかしこれは攻撃ではない。ポッピーには傷一つ付かず、代わりにその複眼が紫から鮮やかな青色に。

 

 

「……リプログラミングか」

 

「ああ、そうだ。ポッピーの悪いプログラムは全て書き換えた!」

 

「ッ、わたし……!」

 

 

ポッピーはハッとした様にエグゼイドに視線を移すと、すぐに両手を広げて走り出した。

 

 

「えむぅ!」

 

「ポッピー!」

 

 

けたたましい音がして、アーマーからエグゼイドが大砲のように飛び出してくる。

良かった。やはり操られていただけなんだ。エグゼイドもまた両手を広げてポッピーを抱きとめようと――

 

 

「バーカ!」

 

 

ポッピーは飛び回し蹴りで、エグゼイドの胴体を蹴り飛ばした。

 

 

「グッ! ぽ、ポッピー!?」

 

 

火花と煙を上げて後退していくエグゼイド。

一方で着地したポッピーの目はどうだ? 見事な紫色ではないか。

 

 

「ど、どうして!?」

 

「こっちの台詞だよ。リプログラミングすれば女なんて簡単に言うこと聞くと思ってたんだよね?」

 

「ち、違うよ! ボクは――ッ!」

 

「あれぇー、どうしたの? 変身してる時は『オレ』でしょ?」

 

「ッ、え? あれ……?」

 

 

笑い声が聞こえる。本条だ。

 

 

「彼女は『素』だよ?」

 

 

本条は顎に手を当てて、うろたえるエグゼイドを見つめていた。

そもそも、前提が違うと言うことに気づいてほしい。

 

 

「イナンナケージは18禁PCゲーム。いわば、エロゲ」

 

「ッ!?」

 

「ハハ。神々はキミと言う世界(さくひん)が、ゲームをモチーフにしていると知ったとき、『ある想い』を抱いた。それは成人向(ああいう)ゲームのバグスターがいるんじゃないかってね」

 

「それはどういう――ッ! さっきから何を言ってるんだ!!」

 

 

火花が上がる。ポッピーはバグヴァイザーから弾丸を発射してエグゼイドを狙った。

エグゼイドは抵抗できない。背後で戸惑うパワードアーマー。それはエグゼイドの心を表していた。どうすればいい? なにがおこっている?

何も分からない。今はかろうじて爆炎の中で本条の声を拾っていくことくらいしかできなかった。

 

 

「イナンナケージの尤もたる特徴は、攻略ヒロインを自分でカスタマイズできる事だ。髪型、服装、声、髪色や目の色まで細かく変えることができる。事前に用意されたキャラクターや豊富なシナリオを合わせれば遊び方は無限大。なによりも専用のヘッドギアを使用すればキャラクターをすぐ傍に感じることができる! 愛を囁き、性を貪る電脳世界はなんとも甘美な空間だろうね。だからこそ、タイトルに偽りはない。愛を司る女神イナンナが用意した檻。現実世界を忘れる電子ドラッグさ!」

 

 

天才ゲーマーにはぜひ、イナンナケージをプレイしてほしかった。

これは本条の親切心だ。荒れ果てた心を、愛で癒してほしい。それは究極的なセラピーではないか。

 

 

「しかし、うーん、ニチアサの規制の中では、キミを愛の檻にいれることは難しい。だからこそ、僕はキミをココに呼んだ」

 

「ウッ! グアァアア!」

 

「イナンナケージのバグスター、『ハナエル』はまず僕がカスタマイズさせてもらったよ。とは言えキミの世界を調べたが、君はどうにも色に薄い。身近にいた女性はゲームキャラクターのポッピーピポパポくらいだ。いけないなぁ、もっと外にでなきゃ」

 

 

まあ、だが、体験版としてはそれくらいがいい。

ポッピーとまったく同じデザインにして、完成させたのだ。

 

 

「普通ならそれだけだが、僕はおまけを加えることができる。そう、記憶も全て同じにしたよ。そして存在も完全に同調させた。つまり、ハナエルはもはやイナンナケージのバグスターではない。ドレミファビートのバグスター、ポッピーピポパポなんだよ!」

 

 

ポッピーにはもともとゲンムの母の記憶があるが、そんな些細なものじゃない。

本条が作ったポッピーはオリジナルと完全に同調している。一部ではない、完全にポッピーなのだ。永夢と一緒にいたポッピーと何もかわりない。

 

 

「ありがとう永夢、わたしの笑顔を取り戻してくれて」

 

「グッッ!!」

 

「オレを攻撃しろーって! ウフフ! あの時はとってもカッコよかったよ!」

 

 

ポッピーは倒れたエグゼイドの頭部を踏みつける。

 

 

「でもわたしも永夢の笑顔を取り戻したから、一緒だね。嬉しいね」

 

 

ポッピーの足裏が発光すると、その光がエグゼイドの脳へ送られていく。

すると記憶がフラッシュバック。ポッピーと、明日那と過した記憶。その中に、永夢が覚えていないものがあった。温かくて、フワフワして――、それでも、儚い記憶が。

 

 

「なん――ッ、だ! これは……!」

 

「宝生永夢。キミは一体なにをしに来た? 何をして来た!?」

 

「ぐッ! ぐぐぅぅぅぅぅうぁあ!!」

 

 

変身が解除され、永夢は頭を抑えて呻きまわる。

分からない。怖い。辛い。知りたくない。考えるのは、そんなことばかり。

 

 

「フフフ! 小さな診療所を開き、理解ある彼女と同棲している? 朝は竜斗くんとお喋りをする日々。そうかな? 本当にそうだったかなぁ? だとすれば――」

 

 

本条はポケットから小さな箱を取り出して見せる。

中を開くと、そこには指輪があった。

 

 

「これはなんだい? エグゼイド」

 

「ゥアァアアァアアァア!!」

 

「そしてこれは?」

 

 

もうひとつ、取り出したのはガシャットだ。

そこにはディケイドが描かれており、タイトルは『バーコードウォーリアーディケイド』とある。

だが地面を転がっている永夢にそれを一つ一つ処理していく暇はなかった。

土石流のように流れ込んでくる情報と記憶は、永夢の脳を容赦なくグチャグチャにしていく。

 

 

「今、この世界において厄介なのは君だった。宝生永夢。僕が今この言葉を放っている段階で、神なる世界の日付は2017年6月。キミの物語は終わっておらず、終わっていない物語は無限の世界を意味している。いかなる可能性も考えられるキミは、僕の能力に対する抗体を持っているというに相応しい」

 

 

要するに、本条にとって永夢は相性の悪い相手らしい。

だからこそ、ビーコンには永夢が選ばれた。

そう、本条こそがディケイドたちの言う、『敵』の正体。

 

 

「ディケイドは自らの破壊の力を持つガシャットをキミに託すことで、破壊の能力をキミに纏わせた」

 

 

それは『(ほんじょう)』に記憶を消させないため。

ディケイドの力は、概念を破壊する事ができる驚異的なものだ。

たとえばカブトのクロックアップの本質は時間操作だったが、ディケイドの力によってその設定は破壊され、クロックアップはアクセルフォームと同じく加速能力に変わった。

 

さらに龍騎のミラーワールドもそうだ。

ミラーワールドは、入った鏡が入り口となり、出口も同じ場所でなければならない設定があった。

しかしそれもまたディケイドの力で破壊され、鏡ならばどこでも出られるとなった。

 

 

「ま、これはたまに龍騎の世界でも忘れられてたっぽいけれど」

 

 

いや、や、まだある。

アンデッドは不死だ。しかしディケイドはアンデッドを『殺す』ことができる。

このように、ディケイドの力は強力だ。設定――、概念を破壊することができる。

だからこそ永夢は絶対にガシャットを手放すなと注意を受けた。

"入ったら洗脳される世界"であったとしても、ディケイドの力を纏っていればその効果を破壊できることができるからだ。

 

 

「さらにディケイドの世界に適応できる能力により、送られてきたキミはあまりにも自然にこの世界に溶け込むことができた」

 

 

世界に異物として、ウイルスとしては認識されなかった。

士がそうだったように、来訪した世界で役割(しょくぎょう)が与えられ、住人として歓迎される。

誰も突如現れた永夢を不思議がらないし、知り合いすらいる始末。

 

 

「だが、甘い。僕には通用しないんだよ」

 

 

それは士としも予想外だったろう。

本条は、ディケイドを凌駕していた。だからこそ永夢の存在にいち早く気づき、アプローチを仕掛けた。

 

 

「キミは本当に甘いな。子供の姿をしていれば、すぐに隙を見せた」

 

 

いや、ライダーと言うのは皆そうだ。子供には弱い。だからこそ本条は今の姿になっている。

あまりも単純だ。怪我をするフリをしたら、永夢はすぐに助けてくれた。

そして治療に夢中になっている間に、本条はガシャットを抜き取ったのだ。

後は本条側がガシャットを破壊すればオールオッケー。

ためしに今、本条は持っていたガシャットのスイッチを押すが、壊れているので起動はしない。

 

 

「キミは、アホだな」

 

 

ニヤリと笑う本条、同じ言葉を過去にも言ったのを永夢は覚えてくれているだろうか。

ガシャットを奪われ、破壊の力を失った永夢は、本条の領域に簡単に飲み込まれて記憶を失った。

正確には、塗り替えられたのだ。本条が与えたシナリオを遂行する駒として。

 

 

「僕はキミに新しい役割と居場所を与えてあげた。キミは『友人』と共に病院で働き――、ゲーム病と戦うドクターライダーとして生まれ変わったのさ。ある日キミは病気のせいで引き篭もりになっていた仮野明日那(ヒロイン)と知り合い、助け、そこから絆を育んだ!」

 

「――ッ!」

 

「そう、攻略の始まりだ!!」

 

 

記憶があった。

 

 

『ご、ごめんなさい。本当にこんな最低な事。ごめんなさい。許して。でも、お願いだから許してください。私は貴方が好きなんです。好きになっちゃったんです。ボロボロの私に優しくしてくれたから。でもね、あなたはきっと皆に優しいんでしょうね。だからせめて、最後に、最後でいいから……!』

 

 

フラッシュバックする。明日那の戸惑う顔。

オロナミン――、いや、そうだ、明日那から告白された。

明日那は料理を作ってくれた。

 

 

『も、もし良かったら――、あの、お弁当とか。私、作りますよ……』

 

 

明日那といろいろなところに行った。

 

 

『これからもっと恥ずかしい事するんだから、これくらい我慢しなさい!』

 

 

明日那とキスをした。明日那と――……。

 

 

「分かるな宝生永夢。それがイナンナケージの世界だ! 愛に溢れる日々はさぞ幸福だったろう?」

 

 

本条は笑みを浮べたまま永夢を見下している。

 

 

「だが勘違いしてはいけない、それはイナンナケージの役割だったからだ。明日那とポッピーはゲームキャラ。それもエロゲの! だからキミにキスをし、愛を囁いた。18禁なんだからそりゃあセックスにも積極的さ! でもな、違うんだよ永夢! それは本当じゃない! 偽りなんだ! にも関わらず、キミはそれに気づかずにただプレイしていただけ。分かるかい? 遊んでいたんだ。生きてなんて無い、全て仮想現実! 僕が用意したマトリョーシカの一室でお楽しみだっただけ!」

 

 

早口で言葉を並べていく本条。興奮したように笑みを浮かべて永夢を指差す。

 

 

「キミはまんまと愛の檻に閉じ込められた。指輪(こんなもの)まで用意して! 滑稽だよ。だってポッピーは与えられた役割をこなしていただけで、キミが想っている愛など欠片もなかった。だがそれがエロゲだろ? 全ては自己満足、愛など存在しない。そこにあるのは究極的な自慰なのさ! データと育む仮想恋愛に浸る自己満足というな!」

 

 

しかしそれはなにも『性』と言うカテゴリだけに言えた話じゃない。

結局、生きると言うことは自慰的なのだ。自分が満足するように動き、自分が気持ちよくなるために動いていく。

 

それは傲慢だ。

永夢もそう。ドクターと言う肩書きにプライドを持っている。夢を持っている。

人を救うのは気持ちいい。でも自慰と言うのは結局的にどこか虚しさを持つものなのだ。

賢者タイム、そんな間抜けな言葉がある。

 

結局いつかその自己満足で得られた快楽はまやかしだという事に気づく。

カラッポの愛を追いかける虚しい一人遊びに疲れてしまう。はしゃいでいる自分の姿を鏡で見てしまえば、神の視点で見てしまえば、落差を知って萎えてしまう。

なに、難しい話じゃない。ライダー、そう、ライダーでも同じことが言えるぞ。

 

 

「結局、フィルターをかけてしか僕たちは生きられない。仮面ライダーになりたいと誰もが口にするのに、なれないのは何故? 決まっている! そういうのじゃなかったからだろ? スーツアクター? 俳優になってオーディション? 夢は、いつか夢じゃなくなる。リアルに飲み込まれて少年時代の自分は殺される!」

 

 

答えを知ることは、残酷な部分を覗くことでもある。

 

 

「人は痛みからすぐ目を逸らす! 見たくないものは、見れないし、見ようともしない! その裏に隠されたものを理解することからいつも逃げる!!」

 

 

耐えられない人もいるはずだ。それは結局、苦しいから。

本条は持っていた指輪の箱を落とすと、容赦なく踏み潰した。

 

 

「永夢、エム、えむ! 僕は優しさからキミを引きずり込んだ。そして教えてあげたんだ。世界が示す可能性! それがキミにいかなる影響を与えるのかを遠まわしに教えてあげた。忘れてるかい? いや、きっとお前は覚えているはずだ。そうだろ? 全てが終わったあの時も、体験版を終わらせてやったときの事も!」

 

 

偽りの時間、イナンナケージをプレイする中で、永夢は明日那を愛した。

ポッピーを幸せにしたいと思った。彼女と永遠を生きたいと思った。

だからこそ、まずは知って欲しかった。教えてあげなければならなかった。仮面ライダーエグゼイド、ドクターライダー宝生永夢にどうしても見て欲しいものがあった。

 

 

「永夢、思い出せ、思い出せなきゃ僕がもう一度見せてあげるよ。あの日、あの時、キミが触れた真理の欠片を! そうすればキミもよりよい選択が取れる! いいか? キミは、選ばなければならないんだ!」

 

 

本条は指を鳴らす。

 

 

「前日談"とあるゲーマー医師のカルテ『√A』"の続きだ。あの時は中途半端で切って悪かったな。今度は最後まで見せてやる。そう、最期までな!!」

 

 

すると周りの景色が一瞬で変わった。永夢は、過去の自分に重なっていく。

あの日、あの時間、過去、イナンナケージの中。永夢は明日那と一緒にいた。

明日那は永夢の肩に顎を乗せて笑みを浮かべている。幸せそうな笑みだった。そりゃあ彼女は、幸せそうに笑いなさいとプログラムされているから当然さ。

そして宝生永夢もまた同じく笑っている。間抜けな笑顔だ。既に自分が取り込まれたとも知らず、仮初の人生を謳歌していた。

 

 

「ねえ、なにか飲む?」

 

「じゃ、じゃあコーヒー」

 

 

永夢が答える。

 

 

「分かった。ちょっと待ってて。淹れてくるね」

 

 

明日那は立ち上がると、キッチンへ向かう。

一方で永夢はポケットから小さなリングケースを取り出すと、ギュッと強く握り締める。

 

 

「あ、あの、明日那さん」

 

「ん?」

 

「ちゅおッ、ちょっといいですか?」

 

 

噛んだ。恥ずかしそうに俯く永夢と、笑い始める明日那。

 

 

「いいけど。あ、ごめん。その前にちょっと会って欲しい人がいるんだ。その後に話聞くよ」

 

 

タイミングが少し悪かった。永夢は困ったように笑う。

しかしまあいいだろう。誰と会っても関係ない。隣に明日那が、ポッピーがいて微笑んでくれていたら何もいらない。

リングケースを渡すのだ。自分の気持ちを伝えるのだ。そうしたら彼女はきっと、太陽のような笑顔を浮かべて頷いてくれるだろう。

緊張感を抑え、永夢は婚約指輪が入ったケースをもう一度強く握り締めた。

 

 

「!?」

 

 

一瞬で、景色が変わった。

先程まで自分の部屋で一緒にくつろいでいた筈なのに、まったりしていた筈なのに。周囲はいつの間にか高級レストランのような場所になっていた。

席に座っていた永夢。向かいにはポッピーピポパポが座っている。

 

 

「え?」

 

 

先程まで、明日那だったはずだ。ポッピーはコスプレだった筈、短時間で明日那が着替えるなんてありえない。

 

 

「そういう設定だからね。でも違う。本当はコスプレじゃない」

 

「ッ???」

 

 

声がした。永夢は周りを見る。すると、自分たちの他にもう一人、少年が座っていた。

 

 

「宝生永夢。これは今、キミの過去だ。とはいえ僕は二回目。追体験と言うものだね」

 

「え? き、キミは――」

 

「本条栞くんだよ。彼が会って欲しかった人」

 

 

ポッピーがあっけらかんと答えた。

 

 

 

 

『A』:目を逸らす(残酷なシーンを飛ばす)

【B】:直視する(※R-17)そのまま下へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして宝生永夢」

 

「は、はじめまして……。え、え? え?」

 

「フフ、混乱しているね。まあ無理もないか。いきなり場所が変わったんだから。ココは見てのとおり、レストランさ。厳粛な雰囲気だが気楽にしてくれていい。こういう場所であるならば、キミが隠したソレも、渡しやすいかもしれない」

 

 

永夢は反射的に指輪を隠す。

しかしどうして本条は指輪の事を知っているのだろうか?

困惑していると、ウエイトレスがワインを二つ持ってきた。赤いワインがポッピーと永夢の前に置かれる。

すると壁の一部が透けて、厨房がむき出しになった。

 

 

「料理を楽しむには、素材を自分の目で見て、そして調理過程を楽しむことだ」

 

 

永夢は言葉を失った。

自分の状況もまだ分かっていないのに、あまりにも現実離れしたものが見えたから。

本当に、それが、なんなのか永夢には全く理解できなかった。いや、本当は理解していたのかもしれないが脳がそれを拒んでいる。

それを認めてしまっては、それを理解しては絶対にいけないと思ったからだ。

 

しかし、どんなに他の物に見ようとしても、それは『そう』にしか見えなかった。

厨房がある。料理を作る場所には"大量の女性"が寝転んでいた。

女性は、皆、裸だ。十人くらいだろうか?

裸体の女の人が転がっていたのである。

 

 

「近くに行こう」

 

 

指を鳴らす本条。

気づけば永夢たちは厨房に入っていた。椅子に座っていた永夢は、寝転んでいる女性と目が合った。

 

虚ろな瞳。僅かにまぶたが開いているため、きっと『起きて』いるんだろう。

ただ言葉もなければ反応もない。女性たちはただ虚ろな目で虚空を見つめ、口からは僅かなうめき声か、涎が流れるだけだった。

 

気づく。

また気づく。女性達は腕が無かった。ましてや脚もなかった。

四肢を切断されていた女性達は、厨房のテーブルに雑に積まれていた。

そしてもう一つ、永夢は思わず目を逸らして青ざめる。転がっている女性は皆『お腹』が膨らんでいた。全員が妊婦だったのだ。

 

 

「シェフ。これは?」

 

「ああ、今日はね、なかなか新鮮なのが入りましたよ」

 

 

シェフが出てきた。

人間ではない。永夢は目を見開く。それはまるで『鮭』、魚のシャケが二本の足で立って喋っているではないか。

鮭は白いコック帽子も被っており、手には血がベットリとついた大きな包丁を握っている。

 

 

「お前――ッ!」

 

 

異形の怪人だ。永夢は立ち上がり、変身しようと試みる。

だがまず、立ち上がる事ができなかった。椅子に手が、足が縛り付けられている。

永夢が力を込めようとも縄が外れる気配はなく、どうしようもできない。

 

一方で隣にいたポッピーは、永夢のゲーマドライバーとマイティアクションエックスのガシャットを持っていた。

彼女はそれらを地面に落とすと、にっこりと微笑む。

 

 

「ピプペポぉ」

 

 

そしてピンク色のハンマーを取り出すと、思い切りゲーマドライバーに打ち付ける。

 

 

「パワー! パワーッ! パワーッッ! パワァアアア!!」

 

 

ハンマーを何度も何度も打ちつけ、ドライバーを、ガシャットを粉々に粉砕していく。

永夢は絶句し、その光景を見ているだけしかできない。きっと察したのだろう。ポッピーが『敵側』である事を。

 

 

「ドライバーとガシャットを失ったお前はなんだ?」

 

 

ふと、本条が笑みを消して真面目な表情で答えた。

 

 

「ライダーなのか、それとも――……」

 

 

そうしている間に、鮭が――、サケアマゾンが動き出す。

妊婦の一人を担ぐと、調理場に転がした。

 

 

「最近はいい薬が出てきて、下処理が楽になったんですよ」

 

 

ホースで水をかけながらタワシで妊婦を擦っていく。

すると瞬く間に全身の毛がはがれるように抜け落ちていく。

特に頭部は凄い。髪の毛が簡単に抜けていき、痕も残らない。

いい『薬』で髪の毛が抜けやすくなっているのだ。さらに仮死状態にすることができ、新鮮なままで調理ができるし、痛覚を遮断するため道徳的にも問題ない。

 

 

「やっぱりね、気持ちよく召し上がっていただきたいですからね」

 

 

ゴシゴシと妊婦をタワシで擦っていくサケアマゾン。下処理が終わると、妊婦を仰向けにして包丁を構えた。

 

 

「やめろォオォオォォォォオオオオオオ!!」

 

 

永夢が叫ぶが、シェフは聞く耳もたない。

包丁を『まだ生きているはず』の妊婦に突き入れる。何の躊躇いもない、当然だろうと言わんばかりのスムーズさだった。

 

 

「どう捌きます?」

 

 

本条が尋ねると、サケアマゾンは少し自慢げに語り始める。

 

 

「まずはね、肛門から顎にかけて刃を入れましょう。でもね、ここが腕の見せ所でね」

 

「ほう」

 

「腕の悪い料理人はね、中身を傷つけるんですよ。それじゃあまだまだだね」

 

 

しかしサケアマゾンは一流だ。

だからこそ妊婦の腹を開いたとき、そこからは傷一つない胎児が姿を見せた。

 

 

「はい、じゃあコレを取り出しましょうかね」

 

 

サケアマゾンは素手で胎児をつかみ取ると、へその緒ごと引きちぎり、妊婦から取り除く。

 

 

「へその緒はね、あとでから揚げにするとパリパリで美味しいんですよ」

 

「なるほど。そちらの赤ん坊は?」

 

「どうしてやりましょうかね。へへ、腕がなりますよコレは。やっぱり赤ん坊はね、一人からだいたい一つしかとれませんから。これだけでも3000円くらいはするんじゃないかな」

 

「なかなかですね」

 

「ええ、ええ、まあね。でもまあだからこそ美味しく食べて欲しいですよね。よし決めた。今回はベタに漬けで行きますか」

 

 

サケアマゾンは持っていた胎児を一旦ボウルに入れておく。

すると現れるコックの格好をした三体のショッカー戦闘員。

イーイー騒ぎながらサケアマゾンの手伝いをしていく。妊婦を運び、サケアマゾンは慣れた手つきで次々と胎児を回収してボウルに入れておく。

 

 

「おお、こりゃプリプリでおいしそうだ。あ! あ、やや! この人双子だ。ラッキーだね」

 

 

あまりにもおぞましい光景に、永夢は耐えられず胃の中にあるものを吐き出した。

しかし誰も気に留めない。本条は唇を吊り上げたまま調理過程を見ているし、ポッピーは愛おしそうに永夢を見つめている。

 

 

「大丈夫。よしよし、辛いね」

 

 

ポッピーが優しく永夢の背をなでる。

しかしどれだけお願いされても手足の拘束を解くことはなかった。

一方で全ての胎児をボウルに入れたサケアマゾン。手を洗うなかで、戦闘員達に指示を出す。

 

 

「はい、じゃあ母体から肝臓と小腸抜いておいて」

 

「肝臓と腸ですか」

 

「そう。やっぱりレバーは今の時期、ニラと一緒に炒めると美味しいですし。腸はやっぱりビールのお供に最高ですから」

 

 

サケアマゾンはボウルに入った胎児を掴むと、まな板の上に乗せて、一気に包丁を振り下ろす。

トン! と音がして、胎児の首が体から分離した。これをテンポよく行い、どんどん首と体に分けていく。

永夢の叫びが包丁の音にかき消されていくなか、お湯を用意するサケアマゾン。

そして、なんの事は無く、胎児達の頭をお湯の中に入れていった。

 

 

「沸騰させすぎないようにね」

 

「ほうほう」

 

「それで、くぐらせたあとは水につけて、また一度お湯につけたあと、冷蔵庫にいれておきます。そしてそのあとは醤油漬けですかね」

 

「よさそうですか?」

 

「もちろん。やっぱり赤ちゃんの頭はプチプチしてますから。酢飯にでも白飯にもかけて食べるのが一番いいですよ。まあ、私の場合は日本酒でキュっとやるのがたまらないんですがね」

 

 

そこでサケアマゾンは唸り声をあげて、内臓を処理している戦闘員に近づいた。

 

 

「こらこらダメじゃない。処理があまいよ」

 

「イー……ッ」

 

 

困ったように頭をかく戦闘員。

サケアマゾンは彼の代わりに小腸をまな板においた。

慣れた手つきで切れ込みを入れて、腸を広げて見せる。

 

 

「ほら、裏側、見てみて。腸なんだからウンコいっぱいこべりついてるでしょ? この黒いの全部取らなきゃ。お客さんに食べさせるんだよ?」

 

「いィ……!」

 

「料理は真心だから、はい、頑張ってね」

 

 

永夢が再び吐き出している。

まともな光景じゃない。頭がおかしくなりそうだった。しかし本条は涼しげな顔で会話を続けている。

 

 

「シェフ。なかなか新米の方には厳しいですね」

 

「いやいや、お客さん第一ですからウチは。あ、でもね本条さん。腸に張り付いた便も乾かすとコーヒーとして使えるんですよ」

 

「へえ! 知らなかった!」

 

「人間はね、本当に捨てるところがないんですよ! とっても素晴らしい――」

 

 

サケアマゾンは満面の笑みで答えた。

 

 

「とっても素晴らしい食材ですよ!!」

 

 

本条は声を出して笑い、永夢を見る。

永夢はひたすらに暴れており、手足に紐が食い込んで血が流れている。そして掠れた声で叫んでいた。

 

 

「絶対に許さないッッ! 何をしてんのか、分かってるのかよォォォオォ!!」

 

「―――」

 

 

本条は、しばし沈黙し、その後大きく息を吸う。

そして、哀れみの目で永夢を見つめた。

 

 

「これのどこが、いけない?」

 

「!?」

 

「ねえ、シェフ」

 

「………」

 

 

サケアマゾンは目線を下に落とした。

 

 

「ええ、ええ。確かにね、ええ、お客さんの言うことは分かるよ。うん、分かる。とっても分かるんだ」

 

 

永夢がどういう感情を持っているのかは、なんとなく分かる。

 

 

「でもねお客さん。ごめんね。美味しいんだよ貴方達は」

 

 

永夢は否定の言葉を叫んでいた。

ふざけるな。ふざけている。許せない。

そんな言葉にサケアマゾンは心を痛める。同時に少しだけ嫉妬や怒りもあった。

 

 

「あなた達だって、やってる事じゃない――!」

 

「!」

 

「なによりね、我々は貴方達を食べないと、死んじゃうんだよ」

 

「―――」

 

 

永夢は、言葉を止めた。

 

 

「はじめはね、頑張ったよ。でもダメなんだ。どうしても食べたいんだ。そりゃ確かに人間を襲うことは禁止されてますよ。でも知ってるんだもん、あの美味しい味を。お客さんだってね、あなた牛や豚が食べられなくなったらどうします?」

 

 

牛さんや豚さん、鳥さんに魚さんが喋りだしました。

食べないようにしましょうと決めました。でも、そんな、耐えられますか?

 

 

「寿司もダメ、からあげもダメ、こっから先、死ぬまで野菜だけって――ッ!」

 

 

耐えられなかった。ましてやサケアマゾン達は野菜が口に合わない。

人間で言えば嫌いな食べ物しか食べられない話だ。ピーマン? にんじん? しいたけ? パクチー? 毎日、毎日毎日そればかり。

はじめは頑張った。人間さんがかわいそうだ。豆腐でハンバーグを作り、おからでからあげを作っていた。

 

でも、ダメだった。

密漁が始まった。止められなかった。だから決める。

無差別に乱獲はしない。だから、決められた量を襲い、こうして料理していただいている。

 

 

「我々には性欲はない」

 

 

アマゾンはたくさん。

サケがカマキリに恋をしますか? 人間だってそう。カニやバラに性欲が湧いたら救急車を呼ばなければならない。

睡眠欲は、『欲』というよりはメカニズムだのシステムだのの類だ。欲しいだとかいらないだとかではなく、取らなければ死んでしまうもの。

もちろん、食欲もそうと言えばそうだ。 だが、それでも――、それでも。

 

 

「我々は、死んでいるようには、生きたくはない!」

 

「――ッ」

 

「いいじゃないか……! 少しくらい食べることを楽しんでも!」

 

 

暴力で人を脅かすわけじゃない。

むしろ共存を望んでいる。ただ少し、ほんの少し、生を教えてほしいから襲ってしまうだけ。

感謝してるし、申し訳ないとも思ってる。

 

 

「それでも! 我々は生きて、みんなでご飯を食べたいんだ!!」

 

「それは、たしかに!」

 

 

本条は手を叩き、さらに景色を変化させる。

もとのテーブル席だ。しかし隣には楽しそうに笑う家族連れがいる。

 

 

「愛する人と共に過ごし! 美味い物を食らいながら楽しいお喋りをする! 人生はやはり、エキサイティングに生きなければ! 死んでいるも同じだ」

 

 

永夢たちの席にいる家族連れは、人間ではなかった。

性欲は無くとも、家族をつくることはできる。

その中で幸せを見出すことだってできるんだ。覚えておいてくれ。

 

 

「ようし! パパ特盛たのんじゃったぞー!」

 

 

パパ、"ウシアマゾン"は、別の『家族』を食っていた。

人間の一家を襲撃したのは殺害のためではなく、ましてや娯楽のためではない。全ては仕入れだ。

『息子』の肉は熟成したあとに薄くスライスし、甘辛いタレを絡めてレアに仕上げた。それをホカホカのご飯の上に乗せ、最後に『父親』のメタボリックな腹を絞る。

ブリュリュと音は汚らしいが、黄色い脂肪が肉の上にかかり、濃厚さとコクをプラスする。

ウシアマゾンはビールを片手に、親子丼をおいしそうに食べ始めた。

 

 

「お前たちも、たくさん食べろよ~!」

 

「はーい!」「うん!」

 

 

お兄ちゃんである"ブタアマゾン"は、『一家』の肉で作ったハンバーグを食べて笑っていた。

つけあわせのニンジンを鉄板の隅にハケているのが、すぐにバレて怒られていた。

 

 

「もう! おにいちゃんたら! 好き嫌いはダメなんだよ!」

 

 

妹である"トリアマゾン"は、『母親』の頭部をまるごとカラっと揚げたカラアゲを食べている。

 

 

「まあ今日くらいはいいじゃないか。なあ、母さん」

 

「ええ、ええ、そうね」

 

 

ウシアマゾンが、妻である"キノコアマゾン"に微笑みかけた。

キノコアマゾンはびっしりとキノコで埋め尽くされていた『娘』を食っていた。

 

キノコアマゾンは良心的だ。本来は『踊り食い』をオススメされていたが、それは人間が可哀想と言うことで、殺してから食うことにした。

娘に胞子を振りかけて痛覚を遮断したあとは、脳天や心臓をナイフで何度も刺して殺した。

血が吹き出る光景はスパイスだ。食欲が刺激される。『娘』を殺したあとは、サケアマゾンが用意した専用のストローを脳天に突き刺し、中身を啜っていく。

 

 

「ああ、おいしい! とっても幸せ! みんなもパパに感謝するのよ! このレストランに連れて来てくれたのはパパが頑張ってお仕事をしているからなんだから」

 

「ありがとうパパ!」

 

「パパ、大好き!」

 

「ハハハ、好きなだけ食べなさい。でもお前たち、絶対に残すんじゃないぞ!」

 

 

ウシアマゾンは教育熱心なのである。

もったいない精神。食材への感謝は忘れない。

 

 

「我々は人間さんを頂いているんだ。ちゃんと食べるときはいただきます。食べたらごちそうさまでした。感謝の気持ちを持っていただくんだぞ!」

 

「「はーい!」」

 

 

優しい子なのだ。ブタアマゾンも、トリアマゾンも。

この間なんて僅かなお小遣いを出し合って、カーネーションをキノコアマゾンにプレゼントしたし、トリアマゾンは恵まれない子供達への募金をしている。

それはきっと優しい両親がいたからだろう。ウシアマゾンもキノコアマゾンも、厳しく言うときもあったが、それはちゃんと愛があるからだ。

笑顔。幸せそうな『笑顔』がそこには溢れていた。

おっと、そろそろ家族の中央に置かれた金網で焼かれている『お祖父ちゃん』が焼きあがった頃だろう。

むき出しになった脳みそが沸騰して、おいしい匂いがしてきた。

 

 

「う――ッ! おェエエェ」

 

 

再び吐き出す永夢。しかし胃の中には何も残っていないのか、苦痛だけが胃をとりまく。

 

 

「フム、なぜ嘔吐しそうになる?」

 

 

本条は首をかしげた。

 

 

「どこに嫌悪する要素が? 見てみるといい、誰もが笑顔だ」

 

 

ウシアマゾンの一家だけじゃない。

アマゾンレストランにやってきたアマゾン達は人間を頂き、笑っている。おいしいから笑う。

当然だ。人間だって同じなんだよ。何も殺さずには生きられない。命を頂き、感謝し、そして味わう。舌鼓をうつのだ。

 

 

「宝生先生。人間を助けていただいて、ありがとうございます」

 

 

サケアマゾンは深く頭を下げた。医者である永夢に、敬意を表したのだ。

 

 

「あなたのおかげで、おいしい人間が食べられる」

 

 

病気の人間は、まずいから。

 

 

「感謝を込めて、最高の料理を」

 

 

サケアマゾンが永夢の前に、このレストランで一番人気のメニューを持ってきた。

クロッシュ(料理にかぶせる金属製の覆い)に隠されたそれは、どんな料理なのかは分からない。

永夢が何かを叫んでいる。なになに? 頼むから開けるな。中を見せるな? いやはや、遠慮なんてしなくていいのに。

 

 

「是非、召し上がってください」

 

 

サケアマゾンがクロッシュを開ける。

同時に、無数の『羽音』が耳障りな不協和音を奏でる。黒が、飛び出してきた。

 

 

「宝生永夢。世界が交わることは、こういう事だ」

 

 

本条は小さく笑うと、テーブルの上にあったワイングラスに手を伸ばす。

いつの間にか小学生ほどの身長が伸びており、高校生くらいの少年に変わっていた。

本条は目を細めてワイングラスを回転させ、中の液体を混ぜていく。その向こうで大量の(はえ)が見えた。

 

 

「6歳男児の刺身です」

 

 

自慢げに料理を語り始めるサケアマゾン。

 

 

「我々が開発した新たなる調理法、腐敗熟成発酵により、肉の旨みを閉じ込めたまま触感や香りを変化させています」

 

 

肉にはビッシリと蠢き、這い回る白や黒が見えた。

 

 

(うじ)や他の虫を纏わせながらお召し上がりください。プチプチやモキュモキュとした触感が合わさり、絶品になります」

 

 

本条は鼻を鳴らし、ワイングラスを口に運ぶ。

 

 

「宝生永夢。キミは仮面ライダーだ、だが、同時にドクターでもある。ドクターライダー、それは人々の命を守る尊い存在だ」

 

 

赤黒い液体を少しだけ舐める。

 

 

「しかし、そう、ライダーなんだ。だからこそ世界は交じり合い、他のライダーの存在を呼び寄せてしまう」

 

 

一つになる世界。一つになってしまう世界。

集まるのはライダーだけじゃない。『敵』もまた同じく。

ライダーに倒されるものたちも交じり合う。だからこそこうして永夢は『バグスター』ではなく、『アマゾン』を前にしているのではないか。

 

 

「永夢、世界は可能性の塊だ。たとえ夢に向かって頑張っているアイドルを拉致して圧搾機にかけて血を絞り出そうが――」

 

 

ワイングラスを永夢に向ける。

ブラッディスター。芳醇な少女の血は人気商品だった。

向こうの席ではカップルのアマゾンがグラスを乾杯させていい雰囲気になっている。当然、楽しそうで、笑顔が溢れていた。

 

 

「キミの前にある、真心と愛情が篭った料理も、その存在が許されることになる」

 

 

蛆だらけの腐敗した子供の肉も、永夢にとってはさぞおぞましく、嫌悪感に包まれたものだろう。

しかしアマゾンにとっては違うのだ。とてもおいしく、高価で、本当に大切な人に食べて欲しい一品。悪気はない。だって本当においしいから。アマゾンにとっては。

 

 

「キミがその料理に圧倒的な嫌悪や吐き気を催しているのは、キミが『人間』と言うカテゴリーに属しているから。小さな世界のちっぽけな常識にしばられているからに他ならない」

 

 

それは、ナンセンスだ。

なぜならば世界が交われば、新たなる常識に触れる。かつて日本人はケーキやコーラをさぞ珍しがっていた事だろう。

しかし今はどうだ? 常識や概念は更新され、今ではどのコンビニに入ってもコーラは売っているし、ケーキだってそこらじゅうにある。

 

 

「海外では、タコを食べるという行為は理解されず、ましてや日本人にはあたりまえの刺身やタマゴかけご飯に嫌悪感を示すものは多い。カニや海老だって、陸地にいたら虫とそう変わらないだろ? そうそう、貝なんて中身はなめくじじゃないか」

 

 

これと何が違うと言うのか。本条は永夢を睨んだ。

アマゾンたちは堪えた。我慢した。人間を食べてはいけない。共存するためには我慢するしかない。

けれども次々と現れるショッカー怪人は、当たり前のように人間を殺していく。グロンギは人間を狩るゲームを娯楽として広め始めた。

天使様(アンノウン)も別に殺してもいいといっている。ミラーモンスターが普通に人を食らいはじめた。

あれ? あれ? あれ? みんな、簡単に、人を殺していく。なんで? なぜ?

そんな時、ショッカー怪人が言ってくれた。

 

 

「人間なんて下等な生物なんだから、神格化する必要はない。殺してもいいんだ!」

 

 

だから、アマゾンは割り切った。

けれどもまだサケアマゾンたちは良心的だ。

人間を頂くということを価値あるものとしてみており、人間に苦痛を与えないために痛覚を遮断したり、即死してから調理する。

 

 

「だがアマゾンの中には踊り食いや、殺すまでの過程をスパイスとして楽しむものもいる、らしい」

 

 

なんて、バックボーン。

 

 

「シェフ、どうやら永夢はこの料理がお嫌いらしい。下げてくれ」

 

「そ、そうですか。おいしいんですけどねぇ」

 

 

残念そうに、シェフのサケアマゾンは肉を下げていった。

糸が切れたように俯く永夢。本条は立ち上がり、永夢の肩を優しく叩く。

 

 

「世界の融合によって、人間の価値やヒエラルキーがピラミッドの頂点ではないと証明されたとき、人は人の価値を失う」

 

 

現に今、アマゾンズの世界に触れた人は、もはや『食材』ではないか。

 

 

「ご覧よ永夢。さっきまで命だったものが、今はもう辺り一面に転がり散らばっている」

 

 

それは不思議なことじゃない。人間などアマゾン達にとっては食材なのだ。

人間だって鮭の腹をさいて筋子を取り出す。肉を捌いて、焼いて、ビールと一緒に頂くじゃないか。

それは、その概念が定着したからだ。

 

 

「アマゾンの存在はライダーだからこそだ」

 

 

エグゼイドだってライダーだ。一緒なんだ。世界の色は。

 

 

「バカらしいと思わないか。宝生永夢。ドクターとして、キミは人間の命を必死に救おうと学んできた」

 

 

だが人間の命は、簡単に消える。

美味しく頂かれてしまうのだ。ある時はハンバーグ、ある時は刺身、ある時はこんがり焼かれて。

 

 

「さっきの虫まみれの肉、元は誰か知ってるかい?」

 

 

本条は永夢の耳元で囁く。

それは、永夢が過去に治療した男の子の名前だった。

 

 

「料理されるために男の子を救ってあげたんだね、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

時間が、景色が元に戻った。

ポッピーと住んでいたアパートの前で、永夢は青ざめ、こみ上げる吐き気を抑えるために手を口に押し当てる。

頭がおかしくなりそうだった。今も脳裏にはあの時の光景が強く焼きついている。

 

人間の尊厳を無視したレストラン。

調理される人々。そして美味しそうに食べるアマゾンたち。

永夢はなにもできず、それを見ているだけしかできなかった。

 

 

「ククク! 思い出したね、宝生永夢」

 

 

高校生くらいに成長していた本条が前にいた。

 

 

「キミは真理に触れた。だからこそ、僕はまた新しいステージを、背景を、設定をキミに与えてあげた大ショッカーの動きを観察しながら診療所を開いてポッピーと暮らし、このアパートに住んでいる。そんな設定をね」

 

 

永夢はそれを聞きながらブルブルと震えている。瞳にはありったけの恐怖が滲んでいた。

 

 

「いいシナリオだったろう? なあ、永夢(アクター)?」

 

 

そこでポッピーが前に出る。

 

 

「ねえ永夢、今日はもう一人、紹介したい人がいるの」

 

 

手で指し示す。

そこに歩いてきたのは、金色の髪をした青年だった。ガムを噛みながら肩を揺らして歩いており、あまり良い印象は受けない。

 

 

「ッす。おれェ、医師神(いしがみ)エムっす。趣味はぁ、ゲームなんすけど、どっちかっていうとゲーセンで見つけたオタクをボコって金取るほうが楽しいっす。うす」

 

 

永夢はゆっくりと顔を上げる。エムと名乗った青年を見たのだ。

が、しかし、顔がよく分からない。黒いモザイクが掛かっているような。

それを理解しているのか、本条が指を鳴らす。するとそのモザイクが消えた。

 

医師神エムの顔は、宝生永夢と同じだった。

髪型、髪色、伸長や服装は違うが、顔は永夢と同じだった。

 

 

「今、たった一つの椅子にはキミが座っている。キミが消えれば、新しい人間が座れる。それは当然の事だろう?」

 

 

王座とは?

王が座るから王座なのか。それとも座ったものが王になれるのか。

 

 

「……ッ?」

 

「キミは席を降りろ、宝生永夢。今日からエグゼイドの椅子には、この医師神エムが座る」

 

 

本条は微笑み、エムの肩を叩く。

 

 

「しゃら! 今日からおれがエグゼイドだ! ノーコンテニューでクリアしてやるぜ!」

 

「は――?」

 

「んん、なんかちょっと違うな。ノーコンテニューってダサくね? ノーダメージでクリアしてやるぜ! あ、ほら、こっちの方がカッコいいわ」

 

 

エムはへたり込んでいる永夢の前まで歩くと、ゲーマドライバーを掴む。

 

 

「ほら、貸せよ!」

 

「な、なにをして――ッ!」

 

「暴れんじゃねぇよ! ウゼェな!」

 

 

エムは蹴りで永夢の顎を打った。

そうやって怯ませた隙に強引にドライバーを剥ぎ取ると、ニヤリと笑う。

 

 

「サンキュー」

 

 

エムはドライバーを奪い、本条の隣へ歩いた。

一方で本条は手を叩き、祝福を。

 

 

「おめでとう。今日からキミがエグゼイドだ。『"宝生"エム』」

 

 

本条はエムの苗字を、宝生と口にする。

 

 

「さあ、ただのドクターである"医師神"永夢さんは、選択をしなければならない」

 

 

呆然とする永夢へ突きつけられる二択。

ただなにも不思議な話じゃない。ノベルゲームでは選択肢が出てくるものは決して珍しい話じゃない。

エンディングへいたる分岐点、どちらのルートを選ぶのかは永夢次第だ。

 

 

「ここで無様にわめき散らし、勝てない相手に勝負を挑むのか――」

 

 

エムが前に出る。

 

 

「それとも。悪夢を現実ではなく夢とし、愛する人と共に幸せな『現実』の中で生きるのか」

 

 

ポッピーが前にでて永夢へ投げキスを送る。

 

 

「さあ、どちらを選択する? 天才ゲーマー」

 

 

戦うか、愛に溺れるか。

 

 

「今度は間違えるなよ?」

 

 

永夢は俯いて歯を食いしばる。

拳を握り締めて、ギュッと目を瞑った。皮肉にも思い浮かぶはポッピーの笑顔ばかりだった。

しかし、それでも、永夢は立ち上がる。

 

 

「ボクは……、ボクがビーコンにならなきゃ、みんなが――」

 

 

そこで爆発が起こった。永夢のすぐ前の地面に着弾していく光弾。

顔を上げると、ポッピーがバグヴァイザーを構えているのが見えた。

 

 

「ねえ、バカなの永夢?」

 

「ポッピー……」

 

「戦うって事はさ、今から本条くんと、エムに挑むって事なんだよ? それは人間として? 違うよね、エグゼイドとしてって事だよね。っていう事は仮面ライダーとして戦うって事なんだよ!?」

 

 

それはつまり、先程の回想を受け入れると言う事だ。

 

 

「確認するけど永夢はドクターなんだよね? 仮面ライダーなんて受け入れたら、それこそ矛盾しちゃうよ。だって他の人間なんて所詮、怪人の強さや恐怖を引き立たせるための死に役でしかないじゃない!」

 

「ッ」

 

「ねえ永夢ぅ、分かってるの? ライダーになるってことは人間の命の尊厳を落とすことになるんだよ! ざけんなよお前! ドクターとして生きろよ! ライダーなんて選ぶなよクソが!」

 

 

それにそれにそれそれに。ポッピーは地団太を踏んで永夢を指差す。

 

 

「お前みたいな雑魚がエムや本条君に勝てるわけないじゃん。ぶっ殺されて、玩具にされるよ。あとはね、もはや"永夢"としても生かせてもらえない。クズみたいな扱いを受け続けることになるんだよ」

 

 

間違っていないと笑い始めるエムや本条。

 

 

「永夢が永夢ですらなくなったら、わたしはもうエムのものになるよ。だってヒーローにはヒロインが必要でしょ? わかってんの? 寝取られだよ! N! T! R! 永夢じゃ満足できなくなるんだよ! もうエムのじゃないと満足できなくなっちゃうんだよ! それでもいいの? それがいいの? アンタ変態なの!?」

 

「そうだ、そのとおりだ! お前が僕に逆らったなら、お前からポッピーを奪う! 分かるな、プライドや地位だけではなく、愛する人間まで奪われるんだぞお前は!!」

 

「ッ!」

 

 

本条の言葉に、永夢の脚が震え始めた。

ダメ押しにと本条が指をならす。するとオーロラが出現し、中からウシアマゾン、キノコアマゾン、ブタアマゾン、トリアマゾン、サケアマゾンが姿を見せる。

 

 

「永夢に痛みを教えてあげろ」

 

「了解しました」

 

 

最初に走ったのはサケアマゾンだ。腕にあるヒレ状のカッターを構えて永夢を狙う。

だがその標的は呆然とへたり込むだけで逃げる素振りを見せない。

いや、逃げないのか。

 

 

「永夢ッッ!!」

 

 

だがそこでオーロラが。

飛び出してきたのは士だった。ディケイド激情態に変身しており、マシンディケイダーを走らせてサケアマゾンを轢き飛ばす。

 

 

「ッ、士くん――ッ!」

 

「間違えるな! お前は誰だ!?」

 

「……!!」

 

 

ディケイドの後ろには、タケルがしがみ付いている。

ついて来たいと言ったのだ。タケルはバイクから降りると、全速力で永夢に駆け寄っていく。

 

 

「大丈夫ですか先生!」

 

「タケルくん……」

 

 

ディケイドは大きく足を広げてバイクから降りると、迫るアマゾンたちに向かってゆっくりと歩いていく。

さらにディケイドの前にオーロラが現れて通過すると、腕輪をつけた少女と少年が一瞬で両隣に現れた。

並び歩く三人。ディケイドは冷たく言い放つ。

 

 

「潰すぞ」

 

「――了解。アマゾン」

 

 

黒い服を着ていた少女が早歩きになる。

名前は『イユ』。彼女は腕輪を操作し、衝撃波を発生させた。

その中で、義眼が光る。

 

 

「!」

 

 

カラスの鳴き声が聞こえた。舞い落ちる黒い羽。

イユの姿が、異形の存在、カラスアマゾンへと変身。彼女はすぐに地面を蹴って走り出し、他のアマゾンたちへ向かっていった。

 

 

「千翼」

 

「分かってるって! 待ってよイユ!」『n・e・o』

 

 

ネオアマゾンズドライバーを装着しているのは、千翼(ちひろ)と言う少年だ。

ドライバーに注射器状のアイテム、アマゾンズインジェクターを装填し、中にある液体を注入する。

ゴクゴクゴクと生々しい音が聞こえるなか、レバーを上げるとドライバーが光り、電子音が発生。

 

 

「アマゾン!!」

 

 

強い衝撃波と熱波が発生し、サケアマゾン達は地面に倒れる。

一方で千翼は装甲を纏った戦士、アマゾンネオへと変身すると、カラスを追いかけるように走りだした。

 

 

肉がぶつかり合う音、肉が軋む音、肉が裂ける音が聞こえる。

舞うように跳躍するカラスが、足でキノコの頭部を蹴りつける。

 

 

「おかあさん!」「ママ!!」

 

 

母のピンチに、ブタとトリは上ずった叫びをあげて走り出す。

だがそこにネオが追いつき、蹴りやブレードを振るって子供達を切りつけていく。

ディケイドもまたライドブッカーの刃をなぞると、突進してくるウシに向かっていった。

 

 

「なんて事だ。微笑ましく、幸せな家庭が引き裂かれようとしている」

 

 

本条は永夢を睨みつけた。

 

 

「笑顔が消えるぞ。永夢。お前のせいだ」

 

「ッッ!」

 

「お前は人間の笑顔さえ守れればいいのか? 彼らは人間を食らうが、罪悪感をもち、ちゃんと人間に感謝しているんだぞ!」

 

 

頭がグチャグチャになる。永夢は思わずうめき声をあげて、苦痛に悶える。

 

 

「ライダーであるばかりに、悲劇は連鎖していく」

 

「そうだよ永夢。だからね、ライダーなんて捨てて。わたしと一緒に暮らそう?」

 

 

ぶつかり合い、殺しあっているディケイドたちを通り抜けて、ポッピーは永夢の前に立つ。

 

 

「やめろ!」

 

 

タケルは反射的に永夢を庇うように立った。

だが一瞬だった。ポッピーは思い切り腕を振るって裏拳を繰り出すと、タケルの頬を打って吹き飛ばす。

 

 

「ぐあぁあ!!」

 

「邪魔。永夢を惑わせないでよ……!」

 

「ぽ、ポッピー。なんてこ――」

 

 

ポッピーは跪くと、永夢の頬を優しくなでた。

 

 

「ねえ、永夢。もう止めようよ。分かったでしょ? これは一端でしかないんだよ?」

 

「――ッ」

 

「本当は分かってるんでしょ? ここの奥にまだ苦しい"本当の答え"があるんでしょ? だからさ、もういいじゃない。知る必要なんてないよ。ここで一緒に暮らそう?」

 

「ポッピー……」

 

「さっきは酷い事してゴメンね。バカみたいな選択肢さえ選ばなければ、わたしは貴方を永遠に愛するよ? 今以上に愛と性に溺れようよ。わたしはエッチなゲームのバグスターなんだから、そういうのは得意だよ」

 

「――ッッ」

 

「ああもう! 早く決めろよ!!」【ガ・チャーン!】

 

 

ポッピーは永夢の肩にバグヴァイザーの銃口を押し当てると、引き金を引いて光弾をゼロ距離で発射する。

 

 

「ガァアァアアァアアア!!」

 

 

永夢の白衣に広がる赤。

ポッピーは永夢の髪を掴むと、自分の顔を強く引き寄せた。

 

 

「わたしを選べよ! あ!? 取られてもいいの? わたしが他の男にキスされてもいいの!? 抱かれてもいいの!? おい、ゴラ! なんとか言えよクソ野郎!!」

 

 

回転する刃を永夢に近づける。

永夢は青ざめ、震える唇で言葉を放った。

 

 

「い、いや――、だ」

 

「わあ! ありがとー! えむぅ! だいすきー!」

 

 

その時だった。永夢の体から桃色の光が飛び出したのは。

その光は、ポッピーを通り抜けると、ニヤニヤと笑っているエムのもとへ。

 

 

「まさか――ッ! あれは!!」

 

 

ディケイドが叫ぶ。

すると、本条が指を鳴らした。

 

 

「その通り! 永夢! いやいや"医師神永夢"くん! キミはもう適合者ではなくなった!!」

 

「え……?」

 

「ゲーマドライバーを使用するにはバグスターウイルスに対する抗体が必要だ。しかしキミにはそれがなくなった。キミはもう、エグゼイドには変身できない!!」

 

 

光がエムの体に入り、溶けていく。

エムは永夢から奪い取ったゲーマドライバーを装着すると、『ガシャット』を取り出す。

 

 

『デュアルガシャット!!』

 

 

それをドライバーに装填し、エムは両腕を旋回させる。

 

 

「自分、マックス大変身いいッスか!?」

 

 

そして、レバーを引いた。

 

 

「オッケー、マックス大変身!」『ガッチャーン!』『マ・ザ・ル! アーップ!』

 

 

エムの背後に現れるのは、『パーフェクトパズル』と、『ノックアウトファイター』のゲーム画面。

それが一つに交わり、一つの画面となる。

 

 

『善と悪の――、交差!』

 

『ボクとキミの――、価値は!』

 

『ここに還る――、今を!』

 

『パーフェクトノックアーッウト!!』

 

 

ゲートがエムを通過し、その姿を変化させる。

永夢も知っている見た目。パラドが変身していた仮面ライダーパラドクスと同じである。

だが、しかし、カラーリングが全く違っている。

 

パーフェクトノックアウトは赤と青であったが、エムが変身したのはピンクと緑である。

そして複眼の色はオレンジ。まさに、エグゼイドと同じカラーリングであった。

 

 

「おれは、仮面ライダーパラゼイド! レベル99!!」

 

「パラ……、ゼイド――?」

 

「ああ、そうさ。矛盾に見える真理(パラドックス)を通過し、おれは本物(エグゼイド)へ至る! おれこそが天才ゲーマー! おれこそがヒーロー! 医師神永夢。お前の役目は終わりなのさ!!」

 

 

次回! 新番組仮面ライダーパラゼイド!

よい子のみんな! おれと握手だ!!

 

 

 

 

 




tips

『エネミーデータ』


・仮面ライダーパラゼイド(医師神エム)

エグゼイドがエグゼイドである事を諦めていたときに生まれたエグゼイドの『代役』。
本物のエグゼイドになるべく。そして宝生永夢を抹殺するため、今、動き出した。
善と悪の交差! ボクとキミの価値は! ここに還る今を!


・ポッピーピポパポ

元はイナンナケージのバグスターのハナエルだったが、本条によって記憶をリンクさせ、完全なポッピーとなっている。
そもそも『本人』とは何か。愛とはなんなのか。それを証明するものはどこにあるのだろうか。
自分の事すら理解できない人間には、なにも語れはしないだろう。


・サケアマゾン

皆さんご存知、老舗料理屋『たちばな』で修行を重ねた後、アマゾンレストランを開業する。
アマゾン界では『鉄人』として有名であり、食材に感謝と言うスパイスを加え、芸術に消化させる様は『人食のアーティスト』と言われたほどである。
アマゾン達に人気の番組、マヨナカナンデスワでは度々料理を教えるゲストで登場しており、認知度も高い。
人間は好意的に思っており、行動も存在も理解は示しているものの、イクラを作る行為だけはどうしても許せないようだ。


・ウシアマゾン
・キノコアマゾン
・ブタアマゾン
・トリアマゾン

幸せな家族。人間が大好き!


・本条栞。

正体不明の存在。詳細は全く分からない。
しかし彼が何者なのかが、今後のライダー達の運命を左右することだけは確かである。


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