カメンライダー   作:ホシボシ

25 / 34
第22話 one for all

 

「――ッ」

 

 

固まるファイズ。

悪に堕ちるために思いついた、人を殺そうと。

その為に適当に選んだ少年。なにか理由があったワケじゃない。

誰でも良かった。別世界に降り立ったとき、適当に見つけ、適当に襲い掛かった。

 

 

『助けて』

 

 

構わずナイフを入れたのは覚えている。客観的な視点だが、自分がやったことだ。

ペストマスクで顔を隠そうともファイズの力でもなく、ウルフオルフェノクの力でもなく、ただただ乾巧としてナイフを入れた。

まだ生きている少年の体に沈んでいく刃。赤黒い血が飛び散り、かつてない程の痛みが少年に。なによりも巧の心に突き刺さった。

 

 

『痛い』

 

 

しかしそれを無視しなければならないと思った。

ループ機構・オルフェウス。世界の心臓である巧が死ねば、また世界は形を変えて繰り返す。

ファイズの世界もまた龍騎同じく永遠に巡る悲劇の連鎖。それを終わらせるために巧は仮面(ファイズ)を、良心(ライダー)を捨てなければならないと思った。

 

 

『苦しい』

 

 

だから歪んだ表情のまま、ただひたすらにナイフを少年に突き刺した。

もはや取り繕った言葉はいらない。それはただの殺人だ。

ライダーの力を使って少年を気絶させ、椅子の上に拘束し、あとはただひたすらに純粋なる殺害行為を与える。

 

 

『命だけは』

 

 

もはや血まみれで、刺しているのが何かも忘れたとき、巧の心は完全に閉ざされた。

そして入れ替わるようにして狼の幻影が理性の鍵を破壊する。

そうだ、怪人だ。俺は化け物だ。異形のモンスター。だからこそ何をしてもいい。そんな考えがよぎったとき、黄金の大鷲が心に刻まれた。

ショッカー。湧き上がる思い。そうだ、俺は――、『二世』となる。その思いを獲得することも、新たなオルフェウスを生み出す事とも知らず。

 

 

『罪を受け入れろ、ファイズ』

 

 

そして、ライダー大戦を終えた巧の前に、ブックメイカーが現れた。

ひとつになれ、巧を共有させる。後はもうあまり覚えていない。気づけば巧は一つになっていた。

髪の短い巧は、自分の中で、何が起こったのか、自分が何をしたのかを客観的に視た。

そして現在、ペストマスクを被った自分が殺した少年が目の前にいる。

 

 

「いつもそうだ、いつもそうだ! いつもそうだ!!」

 

 

上空ではデンライナーがスカイグライダーと戦っている。

巨大な鷲は翼を広げ、イカヅチが放つレーザーに突っ込んでいった。

クチバシがレーザーを抉り削る。危険と感じたか、レッコウから無数の刃が発射された。

しかしスカイグライダーは体を回転させることでドリルのように。高速回転する装甲で、次々に刃を打ち弾いていった。

 

 

「クォおお……!」

 

 

電王はハンドルを思い切り曲げ、デンライナーを旋回させる。

そこへぴったりと追従していくスカイグライダー。迫る爆弾やミサイルを物ともせず、口からは弾丸を、羽からはミサイルを放って攻撃を仕掛けていく。

おっと、前からイスルギから分離した亀型戦闘機、『レドーム』が。

レドームは二本のレーザーを発射。スカイグライダーは目を光らせ、同じくレーザーを発射し、ぶつけ合う。

 

 

「!?」

 

 

爆煙が晴れたとき、電王の視界からスカイグライダーが消えた。

 

 

「あ? ど、どこに行きやがった!」

 

 

それは、まさに、獲物を狙う猛禽類。

爆煙に紛れて高度を上げていたスカイグライダーは、爪を光らせて急降下していく。

咆哮が聞こえたかと思えば、衝撃はあまりにも強く、電王の視界がグチャグチャになる。

 

デンライナーを掴んだスカイグライダーは、さらに爪の周りにエネルギーを纏わせて握力を強化していく。

バキバキと何かが壊れる音。さらにスカイグライダーはクチバシで啄ばみ、イカヅチの竜の頭部を引きちぎる。

さらにレーザーでレッコウを、機銃でイスルギを射撃。

丁度その時、握り締めていた部分がグシャグシャになっていく。

 

 

「ぐッ! ぐぁああああああああああああ!!」

 

 

限界を迎えたコックピット。

電王の悲鳴と共に車体は爆発。さらに他の車両にも連鎖爆発が巻き起こり、デンライナーは粉々に砕け散った。

 

 

「良太郎!」「電王!」

 

 

前のめりになるドライブとウィザード。

その中で、ファイズはまだ4号とにらみ合っていた。うるさい程の爆音も今のファイズには届いていない。世界は無音で、視界は灰色。

いつか視た。悪へ堕ちる前の世界と同じ。

 

 

「ぼくを覚えているか……! ファイズゥ! ウウゥン!」

 

 

興奮したように声を震わせる少年。年齢は中学生ほどだろうか?

ファイズは困惑したように沈黙し、つい目を逸らしてしまう。

 

 

「そ、そうだ、やっぱりそうなんだ、ぼくなんて所詮、も、モブキャラで――ッッ!」

 

 

血走った目から、一筋の涙が零れた。

興奮しているからなのか、それとも怒りからか、どんな感情が齎した雫なのかは分からない。

しかしそれは確かにファイズの心を抉り、痛みを齎す。

なんと言えばいいのか。つくづくそう思う。なにより、ファイズは少年のことをまったく知らなかった。

 

 

「アァァ! お前にとっては名も無い花のひとつだったろうな! ぼくはッッ!!」

 

 

たしかに、少年は所謂『モブ』だ。

巧にとっては関係の無い、世界にとってはなんの価値も無い存在。

彼は殺された後、ブックメイカーに遺体を回収され、アマダムに蘇生された。

 

 

「そして……! 改造されたんだ!!」

 

 

少年はマスクをかぶり、4号へとなる。

そして走り出し、拳を思い切りファイズへ打ち付けた。

避けなかったのか、避けられなかったのか、それは分からない。とは言えファイズは地面に倒れ、沈黙する。

 

 

「巧! 大丈夫か!」

 

 

何が起こっているのか分からないドライブ。

とりあえずファイズへ駆け寄り、一方で無数のシフトカーが4号へ突進をしかけ、怯ませる。

 

 

「クソ! なんだよコレ!!」

 

 

4号は虫を振り払うように手を振るうが、素早いシフトカーはなかなか捉えられない。

その間にドライブはファイズへ詳細を求める。4号の様子は、他の怪人とは明らかに色が違っている。

 

 

「……昔、殺した」

 

「え!?」

 

 

巧自身まだハッキリと詳細は掴めていない。

しかし確実に分かることは、巧は加害者であり、4号は被害者であると言うことだ。

おそらくは復讐か。その為に振るわれた拳なのだから、とりあえず、一撃だけは受けておかなければならないと思った。そういう事だ。

 

 

「――ッ」

 

 

要するに、以前戦った4号とは全く違う。

今の4号は、人間だった。

 

 

「待て! 待ってくれ! 話を聞いてくれ!」

 

 

戦いに巻き込まれたのであれば、話しあいも可能ではないか。

ドライブはシフトカーを解散させると、タイプスピードへ戻り、4号へ詰め寄っていく。

 

 

「キミの事情は分かった。なんて言ったらいいのか……!」

 

「ッ!」

 

「でも頼む! 落ち着いてくれ! キミはショッカーに利用されている可能性が――」

 

「黙れェエ!!」

 

 

拳が飛んできた。攻撃をするワケにもいくまい。ドライブはとりあえず防御と回避に徹することに。

 

 

「今更ッ! 何を話すって言うんだよォオ!!」

 

「グッ! それは――」

 

 

確かに、と、ファイズが一番思う。

理不尽に殺され、その上で『ちょっと待て』と、『おいおい落ち着けよ』などと言われたらどんな気持ちになるだろうか?

想像は難しくない。

 

 

「―――」

 

 

ドライブもまた同じで、何を言えばいいのか、本気で分からなくなっていた。

落ち着いてくれとは口にするが、その先の言葉が詰まる。冷静になれ、やめろ、戦うな。

もちろんそういう類の言葉を投げかけたほうがいいのは分かっているが、それは少々虫が良すぎるではないかと思う。

 

苦痛を与えられ、恐怖を植え付け、その上で殺された。

どんなバックボーンあろうとも、巧は悪だ。力を与えられて復讐してやろうなんてあまりにも分かりやすい。

あの時の巧はちょっとおかしくなっちまってお前を殺したけど、やっぱりなんだかんだ良いヤツに戻ったから、巧を攻撃するのは止めなさい。

などと言える訳がない。言葉が喉でせき止められる。正義の破綻がそこにあった。

 

 

「ライダー!」

 

「!」

 

 

まずい、と思ったときには4号の足がドライブの胸に届いている。

 

 

「キックッッ!!」

 

 

視界が反転する。

スローモーションになる世界。息を吐くことも吸うこともできない。

眼下にファイズを捉えたまま、ドライブは後ろへ引っ張られるように離れていき、硬い地面に打ちつけられた。

 

 

「―――」

 

 

デジャブ。

いつか、考えことがある。

かつての誤射で進ノ介は、友にとても深い傷を負わせてしまった。

リハビリの末、彼の傷はほぼ完治したが、もしも世界の形がほんの少し歪だったらと。

弾丸が彼の心臓を直接射抜き――、もしくは傷が治らず、友が憎悪を自分に向けてきたのなら?

或いは家族や恋人が自分を憎悪したら? その時、進ノ介(じぶん)はどうするのだろう? どうするつもりなのだろう?

もっと言えば、友が憎悪を抱いていたのなら――

 

 

「ッ」

 

 

ドライブは拳を握り締める。だが、それだけだった。

とはいえ時間は進む。ウィザードは空を飛んでいた。大破したデンライナーから電王を救出するためだ。

4号の中には歴史改変マシンの一部があり、その効果は前回戦ったときに教えられている。

かつて4号と戦ったライダーたちと同系列の力。つまりこの場で言うなら、4号に攻撃が届くのはウィザードを除く三人だけ。

 

 

「!」

 

 

ともあれ、心配はいらなかったようだ。

爆煙が吹き飛んだかと思うと、水色に発光する巨大な翼が姿を見せた。

 

 

「ふぅ、あっぶねェ」

 

 

電王、超クライマックスフォーム。

 

 

『我が力に感謝するのだな、お供――』

 

 

うるせぇと、ジークの言葉を遮断する。

とは言え今もほら、体内ではゴチャゴチャうるせぇヤツら。電王は――、正確にはモモタロスはうんざりしたように首を振る。

まあ、とは言え、よくは知らないが、現実の人間も案外こんな感じなんだろう。ああだ、こうだ、ああしろ、これしろ、それは違う、それは間違ってる。バカ、アホ、クズ、なんかいろいろ大変みたいだ。

でも、そんなの、いちいち耳を傾けてたらキリがない。具合を悪くするだけではないか。

 

 

「今更だぜ。なぁ?」

 

 

聞こえてきたのか、それともクロスオブファイアの共鳴で情報が入ってきたのか。電王はファイズたちの事情を把握していた。

 

 

「ココにきてタラレバかますとか冗談じゃねぇぞ。どう考えても今は、俺達がクライマックスな時だろうが」

 

『あー、先輩。今なんかちょっとシリアスな雰囲気だから、バカは黙ってほうが……』

 

『そやで、オレらはシリアスっちゅうか、尻assちゅうか……』

 

「るせぇ! 俺が喋ってんだ! 邪魔すんな!!」

 

『ねえモモタロス! 今思い出したんだけど、さっきモモタロスのプリン食べちゃった! でもべつにいいよね? 答えは――』

 

「ああああああああああ!! クソ! 後で折檻だからなハナタレ小僧!!」

 

 

まあ、とは言え、モモタロスたちとて苦しみ分からぬワケではない。

が、しかし、考え方とでも言えばいいか。苦しむよりはバカを言うほうが楽だ。

だから、たぶん、他の連中もバカなほうが良いと思ってる。

 

 

「ライダーなんだろ、俺達は」

 

 

別に自覚があるワケじゃないが、そういう事らしいので。

ふと思い出す。と言うよりも心のなかに常にあるので、別に思い出すほどのことじゃないが。

いつかこう言った。たぶんそれは、俺にとっての仮面ライダーだとモモタロスは思う。

 

 

「弱いものを守るのが、俺たちだろ」

 

 

人間は弱いから、時に間違える。

だから、それを守る。ファイズはウィザードやみんなに守られた。

だったら次は誰を守る? その意思は、汚ければ抱けないのか?

 

 

「ウジウジ悩んでも何にも変わんねぇ事くらい分かってんだろ? なぁ」

 

 

少なくとも確実に一年以上は戦っていた。

その間に何回悩んだ。何回苦しんだ。その果てに、答えだせぬ時はあったか?

似たようなことはあっても、それは答えが分からないことにたどり着いたんだろう?

おそらくこの会話も何度も繰り返したものなのだろうけど、それでも何度も言う価値のある言葉だとは思いたい。

 

 

「お前もそう思うだろ、良太郎」

 

 

心の中で、良太郎は頷いた。

 

 

『悩む時間があれば、その間に一人でも助けられるように、ぼくらは戦うよ』

 

 

たとえ汚れた手でも、崖から落ちそうになっているヤツに手を伸ばす。

拒まれても、落ちたヤツは拾い上げる。助けた後に殴られても、汚れた手で血を拭う。

 

 

「それが、俺たちなんじゃねぇのか?」

 

 

電王の背後から破壊されたはずのデンライナーたちが走行してくる。

クロスオブファイアが再生を促した。線路は螺旋を描き、電王を包み込む。

 

 

「いいか? よく聞けよ。戦いってのはなぁ。やっぱノリの良い方が勝つんだよ!!」

 

 

線路が束ねられ、巨大な一本に。

そして同じくしてデンライナーたちも融合を果たした。

現れたのは『キングライナー』。電王はいつのまにか車内に移っており、デンバードのアクセルを吹かす。

 

 

「俺達のクライマックスは! どこまでも続くぜぇえ!!」

 

 

キングライナーの口が開いたかと思えば、レーザーだのエネルギー弾など、数え切れないほどの光が発射された。

高鳴りをあげて飛び込んでいくスカイグライダーだが、虹色の光は一切の抵抗を許さない。翼が崩れ、クチバシが崩壊し、目が光に潰される。

悲鳴が聞こえた。スカイグライダーは爆煙に塗れ、粉々に四散した。

 

 

「………」

 

 

世界がスローになる。重加速。

ドライブはその中で、ゆっくりと体を起こした。

 

 

「………」

 

 

目の前ではファイズが殴られているのが見えた。

ライダーパンチ。おそらくあの後にライダーキック。それを受ければファイズはどうなるのだろう?

巧はそれを望んでいるのか? 分からない。

 

分からないので、ドライブはため息をついた。

電王の言葉がフラッシュバックする。するとそれに心が反応したのか、もっと前、過去が見えてきた。

たぶんきっとそれは特別なことじゃなかったのかもしれない。或いはブックメイカーがそう仕向けたのか。

だがとにかくソレはソレだ。ドライブの世界、突如ゼビウスが飛来したかと思ったら全てが崩れた。

 

 

『霧子! 霧子ッッ!!』

 

 

今にして思えば、彼女は全てを理解していたのか。それとも未来を察したのか。

ファイズ同じくして、彼らは死の間際に世界のルールを把握することがある。

とにかく霧子は、悲しむではなく、微笑んだ。

 

 

『大丈夫。殺されることは――、慣れて、ます、から』

 

 

慣れて欲しくはなかったが。

 

 

『英志は、かわいそうだけど……』

 

 

血まみれの息子を見て、初めて霧子は涙を流した。

 

 

『ごめんなさい。でも、助けてくれるんでしょう?』

 

 

彼女が泣き叫ぶことも、悲痛な表情を浮べることも無かったのは、全ては信頼があっての事。

進ノ介が助けてれる。なんとかしてくれると信じてる。

いや、期待してしまう。だって彼はヒーローだから。

 

 

『負けないで……』

 

 

血まみれの手が優しく頬に触れる。

霧子は視た。進ノ介の未来。これから味わう地獄を。

 

 

『忘れないで。あなたは――』

 

 

その時、時間が今に戻る。

世界はよりスローに。それはまるで各々の心のようだ。

迷えば、足は、世界は止まる。しかしそれでも、皆、時間が進むように歩こうとしている。

 

 

「年下に先越されちゃ、情けないよな。ベルトさん」

 

『キミのほうが、後輩のようだがね』

 

「だったら尚更だ。いつまでも先輩におんぶにだっこじゃ、ますます格好がつかない」

 

 

霧子の言葉が、脳を熱くしていく。

 

 

『あなたは、刑事として戦って』

 

 

ドライブは立ち上がると、この戦いの場を見る。

 

 

(分かってるさ。霧子!)

 

 

ギアが上がってきた。全てを振り切るのだ。

 

 

「脳細胞がトップギアだぜ。ベルトさん!」

 

『OK! たとえ世界が止まったとしても! 動けるのはキミ1人!!』

 

 

足を止めてはいけない。

全ての人のために、刑事として、ライダーとして戦うのだ!

 

 

「英志、見ててくれ。パパはな、お巡りさんなんだ」

 

 

一台のシフトカーが空間を切り裂き、ドライブのもとへ駆けつける。

それを掴み取ると、ドライブは4号を睨んだ。

大丈夫だ。分かっている。だから振り返りはしない。前に進むのだ。ドライブはシフトカーを展開すると、シフトブレスへ。

 

 

「さあ、ひとっ走り付き合えよ!」『ドォッ! ラーッイブ! ターッイプ! SPECIAL!!』

 

 

4号は突如抵抗感を感じ、我に返った。

そこには肩を掴み、ファイズの前に立つドライブが。

カラーリングが変化しており、それは家族の絆が生み出した力、タイプスペシャル。

 

 

「止めるんだ。俺は、キミの行動を見逃すことはできない!」

 

「!」

 

「刑事として、復讐は認めるわけにはいかないんだ!」

 

「黙れェ! ぼ、ぼぼぼくは――ッ!」

 

「いやッ! 黙らない! 復讐はいけない事だ! これ以上、血は流すのは無意味だ!!」

 

 

 

4号はまだ戻れる。

声色や、一瞬見えた表情でそう思った。他の怪人のように割り切りがないのだ。

だからこそ絶対に踏み留まらせる。たとえどんな背景があろうとも、どんなに超人的な力が溢れようとも、人が人を傷つける事を刑事が認めたら、それこそ世界の終わりだ。

 

 

「復讐は何も生みださない!」

 

 

陳腐な台詞に聞こえるかもしれない。

進ノ介だって父の事があった故に、気持ちは分からなくもない。

だがそれでも、踏みとどまる大切さも知っている。

 

 

「キミは今ッ、生きてる! お父さんやお母さんもいるだろ! だったら、そこへ帰るんだ!!」

 

 

ましてや、やはり刑事(デカ)が正論言えなくなったら、それこそ終わりなのだ。

 

 

「うるさい! うるさいうるさいうるさぁああい!!」

 

 

振るわれた拳。

しかしドライブはそれを回避すると、ゼンリンシューターとドア銃を両手に構え、銃弾を4号の足元に連射していく。

そして怯んだところで、一気に懐へ入り、組み合った。それを見てファイズもまた立ち上がる。

飛行してきたオートバジンが何かを投げた。トランクのようだ。ファイズはそれを拾い上げると、ついていたボタンに触れる。

 

 

「悪かった」

 

「!」

 

「許してくれとは――、言えない」『5』『5』『5』『Standing by』

 

 

ただそれでも、その道だけは行ってはいけない。

これ以上、血に塗れる道だけは歩ませてはいけない。

エゴながら、そう思う。

 

 

「攻撃を止めてくれ。ライダーを捨ててくれ」

 

「いやだ……! イヤダァアア!!」

 

 

4号はドライブを殴り飛ばすと、ファイズへ向かって走る。

イヤか。そうか。だったら――

 

 

「止める」

 

 

ファイズはファイズフォンを、トランク――、ファイズブラスターへセットした。

 

 

『Awakening』

 

 

凄まじい赤が迸る。全ての闇が吹き飛ばされていくようだ。

外装が剥がれるように粒子化、そしてファイズのカラーリングが鮮やかな紅へ。

ファイズ・ブラスターフォーム。陽炎のように纏う赤に、4号は怯んで足を止める。

 

 

「――夢はあるか?」

 

 

唐突に、そんな事を聞いてみる。

 

 

「あ、アンタを――ッ! 殺すことだ!!」

 

 

気づけば、4号の声も、肩も、脚もブルブルと震えていた。

 

 

「そうか。だったら、もっと違う夢を持て。もっとマシな夢だ」

 

「うるさいよ……! お、お前のせいだろうが!!」

 

「悪かった。だが、戦うって事はロクな事じゃない。それは、俺に預けろ」

 

「え、え、偉そうにぃ!」

 

「あ、あー……、許せ。こんな言い方しかできないんだ」

 

 

4号は焦燥に叫び、走る。

振るわれた足。しかしそれはファイズを捉えることはない。

 

 

『Faiz Blaster・Take Off』

 

 

背中にある飛行ユニットを起動させ、ファイズは上空へ舞い上がる。

さらにコマンドを入力。5214を押すと、ユニットが変形してキャノン砲が両肩に装備される。

ブラッディキャノン、赤い弾丸が次々に4号へ飛来し、地面に直撃していく。

 

 

「け、け、けけけ結局またお前は――」

 

「ああ、そうだ。俺は、傷つけることしかできない」

 

「………」

 

 

離れ、様子を見るウィザード。

4号の背後に立つドライブ。

地面に降り立つ電王。それぞれ、無言で立つ。

 

 

「だから、せめてお前は、もっとマシな夢を持ってくれ」

 

「……!!」

 

「それが俺の、夢だ」

 

 

首を振る4号。はじめはゆっくりだったが、徐々に早くなっていき――

 

 

「イヤだあぁあぁあああああああ!!」

 

 

突然だった。

どす黒い光が4号から溢れると、それが次々にスカイサイクロンとなり、飛翔していく。

さらにクロスオブファイアを媒介にしたのか、破壊したはずのスカイグライダーまでもが具現する。とは言え、それは小型化しており、4号と合体。

背中からは翼が生え、胸部には鷲の頭部が装備され、強化体へ変わる。

 

 

「うあぁあぁああぁあああぁ!!」

 

 

だが4号の精神状態はあやふやだ。

様々な思いがフラッシュバックしているのだろう。攻撃と言うよりは、撤退を選んだようだ。

翼を広げ、ファイズたちから逃げる。それを助けるようにして無数のスカイサイクロンが機銃をファイズたちに向けてきた。

すぐに魔法陣や鎖を出現させるウィザード。だが歴史改変マシンの影響は今も継続しているのか、機銃はいとも簡単に魔法陣を破壊し、鎖を引きちぎる。

 

 

「クッ! ダメか!」

 

「任せろ!」

 

 

ファイズが前に出た。それに並び立つドライブと電王。

 

 

「あれは――ッ、俺達が破壊する!」

 

「ああ!」「おお!」

 

「ッ、頼んだぞ!」

 

 

後ろへ下がるウィザード。

一方でドライブはイグニッションキーを捻り、シフトブレスに手をかける。

 

 

『ヒッサーツ! FULL Throttle!!』『SPECIAL!!』

 

 

空からネクストライドロンが姿を現し、そのまま空中を疾走していく。

同時に飛び上がるドライブ。通常のスピードロップは円形のみだが、ネクストトライドロンは空中を縦横無尽に光速で駆け回り、球体をつくるようにスカイサイクロンの群れを囲んでいく。

さらに軌跡が実際にエネルギーとして留まり、スピードを上げるごとにエネルギーフィールドが形成されていった。

 

 

『Charge And Up』

 

 

一方、翼を広げて飛び立った電王。

レールを移動して、各仮面が、それぞれ足や手に装備されていく。

 

 

「俺の必殺技! クライマックスバージョン!!」

 

 

虹色の輝く剣先を飛ばし、迫る戦闘機を次々に撃墜していく。

まるでそれは光の鞭だ。だが敵の数は多い。次々に銃弾が迫るが――

 

 

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

胸部アーマー、ガンフォームの口が開いたかと思うと、竜の咆哮が。

それは衝撃波となり機銃の弾丸を粉々に粉砕する。さらに続けて口から大量のミサイルが発射。

驚異的な追尾能力で、飛行する敵へピッタリと追従していき、爆発を巻き起こしていく。

 

 

「!」

 

 

真横を見ると、サメの頭部ペイントが眼前にあった。

 

 

『オラァアア!!』

 

 

叫んだのはモモタロスではなく、体は勝手に動いていた。

腕に装備されていたキンタロスの面が動き、頭部にある刃をスカイサイクロンへ直撃させる。

すると爆発。拳が戦闘機を打ち砕いたのだ。

 

 

『ありがとうキンタロス』

 

『任せとき!』

 

「ハッ! クマのくせに猪みてぇな事しやがって!」

 

 

声が笑っている。

それを見ていたウィザードは思わず笑ってしまった。

ああ、ああ、なんて楽しそうに戦うやつらだ。

 

 

「カメ! 手羽野郎!」

 

『分かってるって先輩!』『お供その2! 行くぞ!!』

 

 

翼を広げて飛行。

さらに足に装備していたロッドフォームの面が展開。角の向きがかわり、足裏から伸びる形になる。

 

 

「ォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

超ボイスターズキックに、ロッドフォームの面をプラスした――、名づけて超超超ボイスターズキック。

迫るスカイサイクロンを次々に粉々にしていき、その数を一気に減少させる。

 

 

「うあああああああああああああ!!」

 

 

世界が、壊れていく。

4号は叫び、退避を止めた。

結局、そうなる。こうなる。いつも、いつも、いつも。いつもいつもいつもッッ!!

反転し、翼を広げ、足を突き出した。そもそも辺りはネクストライドロンが発生させたフィールドなので、逃げようが無い。

だから、倒す。

一方で向かってくる、ファイズ。

 

 

『1』『0』『3』『Blaster Mode』

 

 

ファイズブラスターを展開させ、バズーカに。

ポンプアクションを行うと、弾が装填され、引き金をひくと光弾を発射。

スカイサイクロンが放つ弾丸を貫いて、先にある飛行機本体を爆散させていく。

そこでファイズは見た。迫る足裏を。

 

 

「らイだぁアア! きィぃイいック!!」

 

 

声が上ずって、掠れていた。

すまない、すまない、すまない。先程からファイズの心の中では謝罪の言葉がループしている。

苦しかっただろう。怖かっただろう。もはやどんな言葉すら軽く感じてしまう。だから、ファイズは言葉を捨てた。

恨むなら恨み続けてくれ。その罪は、永遠に背負い続けよう。

だからどうか、今は――、悪夢から目覚めてくれるだけでいい。

 

 

『Exceed Charge』

 

 

ファイズはボタンを押した後、ファイズブラスターを投げた。

フォトンブラッドが足に集中していき、ファイズは4号へ飛び込んでいく。

 

 

「ヤアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

足裏同士がぶつかり合うと、赤いエネルギーが円形に広がっていく。

まるそれは赤いサイクロン。拡散したエネルギーは周囲にいたスカイサイクロンを次々に破壊していき、ついでに電王も撃墜した。

 

 

「アラーッッッ」

 

 

落ちていく電王。

一方で光りを纏い、ドリルのように蹴りを繰り出すドライブ。それが少しずつ、4号へ近づいていく。

 

 

「――に」

 

 

4号は理解した。自らの敗北。

まして、ファイズとの競り合いにも勝てない。

足が限界だった。ガクガクと震え、感覚が無くなっていく。

 

 

「どうして、人殺しのくせに――ッ」

 

 

仮面が砕けた。

見えた表情は泣いていた。

 

 

「――名前は?」

 

「輝夫。灰島(はいじま)輝夫(てるお)……」

 

「輝夫、悪かったな」

 

 

輝夫少年は首を振る。

そこで、ファイズが通り抜けた。

4号の鎧が粉々に砕け、輝夫は空中へ放り出された。

 

 

「―――」

 

 

キックを中断したドライブは、輝夫をキャッチしてネクストライドロンの上に着地する。

一方で大きく息を吐くファイズ。地面を見ると、電王が立ち上がっているのが見えた。

 

 

「ったく、あの野郎」

 

 

電王は文句を垂れながら頭をかく。

そこで放り投げられたファイズブラスターが電王の脳天に直撃した。

 

 

「ぁひん」

 

 

その場に倒れる電王。

なんのこっちゃである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

輝夫が目を覚ましたのはすぐだった。

体を起こすと、変身を解除した巧達が目に映る。

 

 

「―――」

 

 

巧は、まだ目を逸らしてしまう。

すると良太郎が巧の肩に触れる。

 

 

「謝らないと」

 

「ああ」

 

「やっぱりね、謝る時はね――」

 

 

良太郎の言葉に巧はしばらくポカンとしていた。

体の中にいたモモタロスも、当時のことを思い出して肩を竦めた。キャラじゃない。モモタロスにしても巧にしても。

とはいえ良太郎の思いと、自分の中にある本心が突き動かしたのか、巧は輝夫に深く頭を下げて謝罪の言葉を述べる。

 

 

「ごめんなさい」

 

「―――」

 

 

それは、どんな表情だったのだろう。

輝夫は眉を顰め、目を見開き、唇を噛んだ。

光と闇が入り混じった表情だ。目の端にはまた涙が滲む。

 

 

「ゥ」

 

「?」

 

「ゥアァァアアア!!」

 

「あッ!」

 

 

それは一瞬だった。

頭を抱え、叫ぶ輝夫。すると灰色のオーロラが出現し、彼の姿が消失した。

 

 

「―――」

 

 

後を追う事はできない。

巧は複雑そうに目を閉じた。

今はただ信じるしかない。少しでも想いが心に届いてくれたことを。

 

 

「ぉーい!」

 

「!」

 

 

すると気の抜けた声が聞こえる。

四人が振り返ると、そこには腕をふって近づいてくる響鬼が。

 

 

「やっと合流できた。ハァ、なかなか見つからなくてさ」

 

 

変身を解除するとヒビキ。敬礼に似たポーズでシュッと口にする。

 

 

「よし、じゃあ他のみんなとも合流しよう」

 

「ゴーストが近くにいるはずだ」

 

 

頷く一同。

それぞれバイクを出現させ、乗り込んでいく。

 

 

「おととと」

 

 

ふら付く進ノ介。流石に連続で戦っているから疲労が溜まる。

それに気づいたのか、響鬼がにっこりと微笑んだ。

 

 

「おーおー、大変だったなぁ。俺が運転するから休んでな」

 

「え?」

 

 

確かに見たところ、ヒビキは元気そうだ。

進ノ介は頷き、トライドロンの助手席に乗り込んだ。

 

 

「よし、じゃあいくか」

 

 

マシンウィンガーに乗った晴人が先陣を切った。

マシンデンバードに乗ったM良太郎が後に続き、トライドロン、オートバジンが後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一分後、電信柱にトライドロンがめり込んでいた。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

『oh――、unbelievable……』

 

 

ベルトさんが呟く。

 

 

「え? なにしてんの――?」

 

 

晴人も、思わず口にした。

一方でハンドルを両手で握っていたヒビキさんは何度か頷いていらっしゃる。

 

 

「まあ……、ちょっと擦っちゃったな」

 

「どこがッ!? がっつりめり込んでるんですけど!?」

 

 

助手席から飛び降りた進ノ介は、目が飛び出さんとの勢いで煙あげるトライドロンを見ている。

一方で頭をかきながら笑うヒビキ。

 

 

「忘れてた、運転苦手だったんだ」

 

「早く言ってくださいよ!!」

 

「悪い悪い、AT車ならいけるかなって」

 

 

大きく息を吐く進ノ介。

さすがはトライドロン、めり込んだと思えば、車体には傷はなく、破壊されたのは電信柱のほうだった。

 

 

「ふぅ、良かった……」

 

「器物損壊だけどな」

 

「モモタロスーッ!」

 

 

たしかに。

とは言え、そこはほれ、魔法使いがいらっしゃる。

晴人は電信柱を魔法で素早く直してみせた。

え? 隠蔽? こら、変な事いうと魔法で消しちゃうぞ☆

 

 

「ヒビキさん」

 

「や、待って。次は本当に大丈夫だから」

 

「――信じていいんですか?」

 

「大丈夫大丈夫。鍛えてますから」

 

 

と言うことで、一同、再び出発。

二分後、トライドロンのタイヤが溝にハマって動かなくなっていたのは言うまでもない。

 

 

「ヒビキさんんんんん!!」

 

「――素直にゴメン」

 

 

良い大人は反省が早い。

ヒビキは何も言わず、以後は助手席で窓の外をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ハハ」

 

「?」

 

「ハハハハハハハハ!!」

 

 

ディケイドが声をあげて笑い出した。

それはべつに、ヒビキの失態ではない。時間はもっと前だ。

もっと、もっと、キバが三世と戦っているとき、ふとディケイドは笑い出した。

 

狂ったか? 誰もがそう思う。

しかしディケイドは冷静だった。

ただ確かに、精神状態は少しばかりおかしくなったかもしれない。

なんだかとても可笑しくなったのだ。急に。

 

なんとなく、頭に入ってきた。

巧がファイズになったこと。変身したことじゃあない、ファイズになったこと。

つまりは仮面ライダーとして戦う事を決めたときだった。

 

 

「グゥウ! 二世ッ! なぜだ!!」

 

 

戸惑う三世。とは言え、振るった刃はキバに届いている。

火花あげて後退していくキバと、苛立ちに立ち止まる三世。

一方でディケイドはまだ笑う。おかしなものだ。なんだかとても滑稽に思えた。

 

 

「やっぱりなぁ、呪いだぜ。ハハハ、手放してもコレだ」

 

「ッ」

 

「お前もおかしいだろ、なあ、おい、ブックメイカー」

 

 

ディケイドは虚空に向けて笑う。

その虚空の果てでブックメイカーは鼻を鳴らす。

どうやらこの二人、抱えているものは酷く似ているらしい。

 

 

「―――」

 

 

別に、良かったじゃないか。巧が二世のままでも。

そんな風に思ってしまうのだ、門矢士と言う男は。

 

 

「………」

 

 

昔を思い出す。昔は昔だ。ノスタルジックでもいいだろう。

戦闘はキバに全部丸投げしよう。剣崎のヤツは使えない。すっかりグロッキーだ。

だがまあ当然か、ヤツはライダーじゃない。ライダーもどきに落ち着いている。もどきはやっぱりもどきなので、弱い。

偽物じゃあ真には届かない。一年くらい戦ってもらえればきっとまた戻るかもしれないが。

 

 

「………」

 

 

ああ、ああ、ああ。

はじまりは、ブックメイカーに――、オラクルに負けたことだった。

 

 

『Episode DECADE?』

 

『ああ、僕らの力を一つにする。そうする事で、向こうの世界に対抗する』

 

『できるのか?』

 

 

その言葉を投げられたフィリップは、そのまま渡を見る。

 

 

『できるのかい?』

 

『できるでしょうね。確かに、そうすれば僕達の力も上がるかと思います』

 

『?』

 

『完結した――、と、思われる物語にはそれだけ力がありますから』

 

『1の主人公が2の途中で出てきたら、きっとみんな1の主人公を応援するだろう?』

 

『意味が分からん』

 

『我々の世界を一つに束ねます』

 

『ディケイド、簡単なことさ。単行本で殴るより、漫画雑誌で殴ったほうが痛いだろ?』

 

『なるほど、だいたい分かった』

 

 

ウソではない。

だいたい分かったので、細かくは理解していなかった。それだけだ。

 

 

『今からキミにはデンライナーを使って、クウガからゴーストの物語を観測、記録してもらう。僕らは客観的に、僕らを知る必要があるからね』

 

『それをフィリップに埋め込めば、ヤツらの干渉に耐えうる基盤ができます』

 

 

ディケイドが世界を巡り、1話と思われる時間から最終話までを時間に起こった事を記録する。

フィリップ達にしてみればその時間は約24時間前後。つまりはじめから終わりまでは約17日前後。

 

 

『その間に敵に逃げられることは? 向こうの世界は特殊だろ? マーキングできるのか?』

 

『エグゼイドをビーコンとして向かわせます。彼の物語はまだ終わってない。観測者も、終わっていない物語を弄ることは難しいでしょうから』

 

『まあとはいえ、エグゼイドが向こうに飲み込まれる可能性は十分にあるから、なるべく早くしてくれよディケイド』

 

『俺はどのくらいかかる?』

 

『一つの世界につき、約一年です。17年後にお会いしましょう』

 

『かーッ! ジジイだな俺も』

 

『心配はいらないよディケイド。時間を戻るんだから肉体は衰えない。まあ精神の方は少し達観するかもしれないけれど』

 

『杞憂でしょう。もとより成長が期待できない精神状態です』

 

『おい紅、どういう意味だ』

 

『……あとひとつ。絶対に気をつけて欲しいことがあります』

 

『おい、無視をするなよ!』

 

『絶対に干渉はしないでください』

 

『!』

 

 

渡の警告。

 

 

『ディケイド。あなたは一切の干渉を許されません。貴方は真の意味での観測者となり、記録だけをしてください。でなければ、全ては失敗に終わります』

 

『期待しているよディケイド。これはキミにしかできない事だ。他世界で役割を与えられるキミは、まさに記録係に相応しい』

 

『……分かってる』

 

『では、ごきげんよう、ディケイド』

 

 

力があるのに、絶対的な観測しかできないのは、心にくる。

 

 

『………』

 

 

士は沈黙していた。

目の前で、グロンギに襲われる人間がいる。助けを求めている。

しかし沈黙しなければならない。ショッカーグリードが些細な事で生まれたように、時間はほんの小さな歪で、その形を大きく変えてしまう。

 

フィリップが言ったように他世界に降り立った瞬間、存在が確立する士でなければできないことだった。

はじめは確か、警官の一人だったかもしれない。そして多くの被害者見てきた。ディケイドの力があれば、助けられた命は山ほどある。

 

 

「………」

 

 

士は見ていた。ジッと、足元に転がる子供の死体を、ただジッと。

小さな女の子は助けを求める様に手を伸ばしているが、指は無く、腹からは腸がはみ出ており、目には涙の痕があった。

 

 

「………」

 

 

士は見ていた。

口移しで毒を流し込まれた五代がもがき苦しんでいる。

全身が痙攣しており、真っ青になって泡を吹いている。

助かるはずだ。助かる。そうだ、未来は決まっている。

でも――、本当に? もしかしたら意図しないところで未来が変わってしまう可能性は大いにあった。

 

 

「………」

 

 

それでも士は、動いてはいけなかった。

時間が進んでも同じだ。次々に炎に包まれる人たちを、ビルの屋上からただ見ている。

ジッと、助けを求める人たち。その中を歩いていくダグバ。その背中をジッと、ジッと見ているだけだった。

 

 

「ヒィアアアアァアァアアア!!」

 

 

炎に包まれた人たち。

肉が焼ける臭いが鼻を刺す。

大火傷を負いながらも、かろうじて細い息を漏らす子供。

抱きしめあいながら肉の塊になっている死体。

ただ、見ているだけだった。

 

 

「………」

 

 

雪の中、全てが終わった。

木々の隙間からカメラを伸ばす。

士は血まみれの二人をレンズに写していた。

その後、世界は終わりに向かっていった。

 

 

『ごくろうさまディケイド』

 

 

一年ぶりにフィリップの声が聞こえてきた。

 

 

『次はアギトをよろしく』

 

『……ああ、分かった』

 

『――大丈夫かい?』

 

『ああ』

 

『なら良かった。これくらいで壊れるようなら、勝利はないからね』

 

 

それは未曾有の地獄だった。士は連日連夜、終わりを夢見ながら眠った。

別に、絶望したワケじゃない。やっている事が辛くなったワケじゃない。それはもとより覚悟していたことだ。

けれど、数えきれないほどの死を視た。耐え難い喪失感、そこには覆い切れない痛みがあった。

凄まじい苦痛の果て。士は世界を巡った。多くの死を踏み越え、多くの痛みを踏み越え、その先に今がある。

どうだ、視ろ、戦いはまだ続いているではないか。

 

 

「ロクなモンじゃねぇな……」

 

 

思い出す。

"あの時"だって、はじめに名乗り出てきたのは映司の方だった。

 

 

『士くん、おれの体、使ってよ』

 

 

映司の目はまっすぐだった。

自分の体内に大量のメダルを埋め込むことで、暴走状態をいつでも使用できるようにしておく。

捨て身の覚悟。悪意ある言い方をすれば、バカな自殺志願者だ。

 

だが忘れてはいけない。

それはかつて彼が歩みたくないと思っていた道だ。

グリードになる事など、望むものがいるものか。仕方なくだ。そうするしかないと思ったからだ。

それをまた、選ばせてしまうのか。

 

 

『いいのか?』

 

『良くは――、ないけど、仕方ないでしょ』

 

 

ほらみろ。

しかし、たしかに放置はできない。

だが言ってみればそれだけの理由で命を賭けなければならない。そんな性格だ。

つくづく生き辛い。善人ほど早く死ぬ。そう言われている理由が分かった気がする。

それとも、善人のフリをしたいのか、もしかしたら。

まあ、いい。いずれにしても了承したじゃないか。その選択を選ばせてしまったじゃないか。

カメンライダーを止めるために、仮面ライダーを犠牲にさせる選択を。

 

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

笑いが溢れた。

理由は巧がファイズになったから、なれてしまったから、戻ってしまえるからだ。

酔生夢死。陽炎みたいな世界はイヤだった。誰もがみんな、生まれた理由を探してる。

今日も、明日も、明後日も、みんなが鍵を持っている。そしてどこにあるか分からない扉を探し続ける。苦しみながら。

 

 

「そんな人生を――ッ! ハハハハ!!」

 

 

どうしてか、たまらなく可笑しい。

いや、笑っていないとやっていられないのか。

なんだか、こうなる事が分かっていたと思える自分が滑稽だった。

どうせこうなるんだろう? なんて思いを抱いたら、どんどん真実が見えてくる気がした。

 

 

「あーあ」

 

 

笑いがピタリと止まる。

胸がビリビリする。痛い。前立腺に凄まじい違和感。

脇が痛い。鎖骨の筋がビンビン痺れてる。肩が痛い。片耳が聞こえにくくなった。胃の中に刺されるような痛みあり。果てしない倦怠感。

ああ、ストレスが原因の症状がどんどん出てきている気がする。ディケイドは一度、大きく息を吸って、吐いた。

ああ、ああ、ああ。なんだかバカらしくなってきた。

やはり、そもそも、ディケイドとブックメイカーが目指した場所は――

 

 

「――か?」

 

「!」

 

「俺の呪いが見えるか? 三世」

 

 

変身を解除し、歩き出した士。

三世はキバを突き飛ばすと、鼻を鳴らして走ってくる。

閃光が迸った。三世が狙ったのは――、首。あっと言うまに士の首が体から離れ、宙を舞っていく。

 

 

「ッ! ディケイド!」

 

 

思わず声を荒げる剣崎。

しかしすぐに言葉が止まった。士の体が弾け、直後三世の真横に『無傷』の士が現れる。

 

 

「お前――ッ!」

 

 

誰よりも早く理解したのは三世だ。

剣を振るい、士の手足を切断する。

が――、しかし、はじける士。一瞬だった。その後、三世の背後に無傷の士が現れたのは。

 

 

「――?」

 

 

どういう事だ、と、キバと剣崎は思っただろう。

そして一方で、答えを知っている三世。ご丁寧に詳細を叫んでくれた。

 

 

「概念化をしているのか! 貴様!」

 

「中途半端に、な」

 

 

事実、次に切られたとき、血のかわりにカードが飛び散った。

地面にヒラヒラと落ちるそれは、ディケイドが攻撃の際に使用するのと同じものだった。

アタックライド、フォームライド、ファイナルアタックライド。クウガからエグゼイドまで、それは多種多様で、いろいろな種類がある。

 

渡はその瞬間、何となくだが把握した。

概念化。つまり、Episode DECADEの具現化状態。

なぜディケイドが常に激情態だったか、それは取り込んだデータを全て使用できる形態であったからだ。

クウガからゴースト、そしてエグゼイドの世界を巡ったディケイドはその力を、詳細を把握し、Episode DECADEを創作した。

それは世界の記録、それはディケイドライバーの力により、カードとして精製されていく。

いわば、"巨大なデータベース"。全てのライダーの力を取り込んだ、ライダーの概念体。

 

Episode DECADEは世界の記録だ。

ライダーが記憶や力を失っても、それがあれば過去の自分を、力を得た時のお話を閲覧して力を取り戻せる。

なによりも事実が確立される。クウガは最終回にアルティメットフォームになったから、アルティメットフォームになれる。当然の話だ。

ならば、その記録を全て『独り占め』にできれば――?

 

 

「いつまでグダグダやってんだ。なあ? 紅、剣崎」

 

「ッ」

 

「どうせ俺達が勝つ。あいつは怪人。俺等はライダー。はは、単純だぜ。なあお前もそう思うだろ三世。簡単だ、ガキが喜ぶストーリーはライダーが勝たなくちゃ――、ハハハ!」

 

「バカが! それを超えるのがこの世界だ!!」

 

「本当に――、そう思うか?」

 

 

蹴られた。士はカードを吐き出しながら後退していく。

 

 

「……俺達の地獄が見えるか、三世」

 

「なに――ッ?」

 

 

やっぱり、永遠についてまわるんだ。

だから、やっぱり、思っていた。ブックメイカーと同じ。或いはそれは対処法だ。

ブックメイカーよりも早く、同じ場所にたどり着ければ、それで良いと。

 

 

「英雄は――、1人でいい」

 

 

なぜ、ずっと激情態に変身していたのか。

その理由は簡単だ。今、口にした。英雄は一人で良い。

 

 

「ライダーは、俺だけで良い」

 

 

痛みに顔を歪ませながらも、士はハッキリと口にした。

渡と、剣崎の表情が固まる。一方で鼻を鳴らす三世、よく分からない。

いつもそうだ、ライダーと言うのは。理解できない理由で立ち上がり、立ち向かい、あげくには勝利を収めてくる。

愛とか、希望とか、そういう類を掲げてくる。

 

 

「そんな立派な理由じゃない。汚い同情だ」

 

 

また斬られた。カードが飛び散る。

溜め込んでいた力が失われていく。士はそれを失わないために手を伸ばした。

 

お前には分からない。

俺が視てきたもの。抱いた思い。死にゆく者達を見ながら、何も感じないワケがない。

とは言え、それは永遠に続く中の、ほんの些細な出来事のひとつでしかない。凄惨に死んでいった者は有象無象の石ころみたいなものなのだ。

 

 

「ずっと思っていた。ライダーの力を手放してくれたら――」

 

 

笑う。今さらか。ましてやブックメイカーと被ってる。

良くないな。とは言え、そうだ、壊すつもりだった。

全てのライダーがいなくなれば、ディケイドが残る。ディケイドの物語に終わりはない。だからそれでよかった。永遠に続く物語があれば、『次』が生まれることもない。

とは言え、いつの間にか新しい炎が生まれようとしている。いや、もう生まれたのか。

 

 

「なかなか上手くいかないな」

 

 

だが、やはり、なんど考えても今心の中にある想いは同じで。

それを口にしたいと思った。歴史を知れば知るほどに、つくづくそう思う。

 

 

「ディケイドは全てのライダーになれる」

 

「ッ?」

 

「それは言い方を変えれば、ディケイドだけでいい事になる」

 

 

そうだ、他のライダーなんて要らない。

あんな思いは、あんな痛みは、壊れてしまえば良い。

 

 

「全ての痛みは、俺が背負う――ッ」『カメンライド』

 

 

激情態となり、走り出す。

皮肉にもそこで、巧の声が聞こえてきた。それは全てのライダーの脳に届く。

 

 

『聞こえるかライダー共!!』

 

 

聞こえているとも。ディケイドは一度、地面に倒れた。

 

 

『戦おうぜ……!』

 

 

やめろ。つくづくそう思う。

続けば、もっと苦しいぞ。もっと痛くなるぞ。

現に、立ち上がったディケイドはまた倒された。ああ、くそ、痛いな。

 

 

『やっぱり俺達は、仮面ライダーとしてでしか生きられないみたいだからな!』

 

 

分かっているさ。

分かっていたさ。三度目、地面に打ちつけられたディケイドは苦痛の声を漏らす。

それでも、地面を掴んで、立ち上がった。

 

 

『俺みたいに悩んでたらロクな事にならねぇぞ!』

 

 

だから、俺が壊してやるつもりだった。

四度目、ディケイドは倒れ、脳が揺れる。

 

 

「お前は概念にはなれない! 壊す者が、秩序を司れるものか!!」

 

 

五度目、ディケイドの鎧が砕かれ、士が地面を転がった。

だがそれでも目は死んでいない。立ち上がり、ライドブッカーを掴んで走り出す。

 

 

「お前達は俺には勝てん! お前たちは知った! お前たちの信じていたパッション、ラブ、ピース! 全てまやかしだとな!」

 

 

六度目、それを見て、渡と剣崎もいろいろなことを思い出していた。

 

 

「人こそが本当の悪だ! 悪を賛美するお前らこそ間違っていたのだ!」

 

 

七度目、カードではなく血が溢れてきた。

概念にはなれなかった。ディケイドだけじゃダメだった。

 

 

「――始は悪じゃない」

 

「は?」

 

 

士が倒れた。八度目だ。

ふと、剣崎が呟いた。続きはない。

 

 

「人で……、ありたかったのか」

 

 

渡がふと呟く。司が倒れたのは九度目だった。

 

 

「しぶといだけの雑魚共め! もう飽きた! 決着をつける! ショッカー最終奥義!」

 

 

剣を交差させ、天へ掲げる。すると赤黒いエネルギーが刃に纏わりつき、三世はそのまま地面を蹴った。

そのまま空中で両手に持っていた剣を真横へ広げる。それが翼状のエネルギーとなり、気づけば空中には闇の大鷲が。

 

 

死紅(しこう)! 翔翼覇(しょうよくは)!!」

 

 

巨大な大鷲は、士たちにめがけ突進していく。

士はかろうじてディケイドに変身するが――

 

 

「グアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

10度目だった。ディケイドの鎧は粉々になり、士は血を撒き散らしながら地面を転がる。

だが地面に着地した三世は首を傾げていた。完全消滅させるつもりで放った攻撃だ、確かに変身は解除されたが、何かおかしい。

すると気づいた。ディケイドの周りに、金色のコウモリが飛びまわっている。

 

どうやらあれがバリアになっていたらしい。鼻を鳴らす三世。

熱を感じた。分かるとも、これはクロスオブファイアが放つ熱だ。

とは言え、これがパッションになるのならば……。

 

 

「フム」

 

 

三世はあえて剣を地面に刺し、腕を組んで立ち止まった。

一方で呼吸を荒げる士。顔を上げれば渡と目が合う。

 

 

「お前――ッ、どういうつもりだ」

 

「別に。ただ、貴方の言い分は理解しました」

 

 

渡は目を閉じ、ため息を。

彼もまた視た故に知っている。多くの苦しみや苦痛。もちろんブックメイカーの齎す救済が理想的なものであることも。

とは言え、それでライダーたちが納得して救われることはないと言うことも。全部、全部知っている。

 

しかし、今、ふと大切なことを思い出した。

自分も、かつては、その愚かなライダーの一人であった事。

遠い昔に感じる。今の自分なら、たとえばバイオリンに塗るニスのために不審者じみた行動は絶対にとらない。

たとえばボタン毟りとってきたり、合コンの空気を最悪にしたり、自分の名前を数字にしたTシャツ着ている男と知り合ったら不愉快だと蹴り殺したくなるかもしれない。

あとは、たとえば――、未来から息子なんてバカな事は信じないだろう。

とは言え、あの時の自分は……。

 

 

「………」

 

 

バカな自分を思い出し、渡は少しだけ唇を吊り上げる。

とは言え、一瞬で無表情に戻り、叫ぶ。

 

 

「ブレイド!!」

 

「!」

 

「いつまで寝ているんですか!」

 

 

立て、と。

しかし剣崎が力を込めても、うまく立ち上がることができない。

再び腹に不快感。咳き込むと、赤い血が出てきた。

 

 

「僕は、自分の意思で眼になった! 覚悟を持ち、その選択を取ったんです!」

 

 

すると、剣崎はムッとした表情に変わる。

俺だってそうだ。サングラスの奥の眼光が光る。

 

 

「僕はもう、人には期待しない! ですが、だからと言ってキバを捨てるワケでもない!」

 

 

眼として、秩序を守る。

世界の歪みを矯正する。

 

 

「そこに導きを見出すものがいれば勝手にすれば良い。弱い神など、今の僕を縛る鎖にもならない!!」

 

 

人の意思が悪意として立ちはだかるなら、縛る鎖なら、打ち砕くだけだ。

 

 

「僕は仮面ライダー! そして、"キ"ングオブ"バ"ンパイア!」

 

 

王は後悔はすれど、悩まない。渡の目が光る。

白いマフラーを靡かせ、大蜘蛛首領・三世を指さした。

 

 

「汚れなき白こそ、世界があるべき姿! 貴方はそれを汚す染みでしかありません」

 

「ほう、ならばどうする」

 

「始末します。僕は、世界の秩序を守る!」

 

 

渡はもう一度、剣崎を睨んだ。

 

 

「人を捨てなさい。その上で、自分でありなさい」

 

「………」

 

 

変われば、繋がりは消えるか?

 

 

「過去と同じ未来を歩むことほど愚かな事はない。僕は運命を蹴破り、前に進みます」

 

 

剣崎は拳に力を入れる。

確かに、まだ未練があったのかもしれない、だから傷ついた。

しかし、思えば、覚悟は本物だった。戦い続けて傷ついた事もあったが、あの選択を後悔した日は無かった。

そう信じたい。だからこそ――

 

 

「ッ」

 

 

剣崎は血を吐きだした。それは、『緑』色だった。

サングラスを捨て、立ち上がる。

 

 

「忘れていた。悪かったな渡」

 

「構いません。片目が潰れていても、前は見えます」

 

「だが両目の方がよく見える。だろ?」

 

「……ええ。確かに」

 

 

剣崎が一歩足を踏み出した。

その瞬間、三世の背後、空間が割れ、大量のトランプが噴出されていく。

 

 

「貴様――……」

 

「俺はもう、人に夢はみない」

 

 

人に夢を見るくらいなら、夢を見せたほうがいい。

歩く。遠くのビルが崩れ去った。全てはトランプに変わる。

 

 

「我々は人間ではありません。少しの血は流れど、ファンガイアであり、アンデッドであり――、何よりも」

 

 

上位存在、『眼』である。

人類を超越したステージに立つことの責任を、今一度噛み締める。

 

 

「人は愚かな生き物です」

 

「ああ、その通りだ。だからこそ導かなければ」

 

 

その様子をブックメイカーも見ていた。

目を細め、舌打ちを零す。

捉え方の違いだ。捨てるか、管理するか。

 

 

「どうしようもない生き物のために、よくもまあ」

 

 

嘲笑が三世から漏れた。

とは言え、渡は鼻を鳴らす。

 

 

「確かに、この世アレルギーはまだ治りそうも無い」

 

 

故に――

 

 

「変える」「正す」

 

 

渡と剣崎の意見は違うが、同じ方向を向いていた。

正義の形は、過去とは違うかもしれない。しかし向いている方向は今も同じだと、信じたい。

 

 

「全ての人間が、己の愚かさに気づけるように、世界を守る」

 

 

渡はそう口にした。

一方でトランプはまだその数を増す。

紙ふぶきのように、ヒラヒラと一同に降りかかっていく。

 

 

「俺は俺のために前へ進み続ける。しかし途中には幾千の障害が俺の邪魔をするだろう。その為には、それを切裂く刃が必要だ」

 

 

剣崎は一枚のカードを掴み取った。

 

 

「だから、(コイツ)は一緒に連れて行く」

 

 

絵柄はスペードのエース。

するとその絵柄が『ラウズカード』へと変化する。

燃え上がる炎、"ブレイバックル"が手に宿った。剣崎はそこへカードを装填し腰へかざす。

すると、ベルトが自動で巻かれていった。

 

 

「ブックメイカー! お前の野望は、俺が潰す」

 

 

さらに剣崎は、目の前に飛んできたカードを掴む。

 

 

「俺は――、ジョーカー」

 

 

カードを翻す。笑う道化師が描かれていた。

それはゲームをかき乱す、究極のイレギュラー。

同じくして三世は拳を振るった。と言うのも、周囲から次々と異形の兵隊が現れたからだ。

ダークローチ。終焉に導く破滅の権化。

 

 

「フッ、いいのか、お前がライダーを捨てたのは"ソレ"も原因の一つだろう?」

 

「………」

 

「世界の壁を超え、カリス無き今、お前の存在は世界を崩壊へと導く毒素だ」

 

 

そうかもしれない。

現に、世界は崩壊を始めている。

 

 

「仮面ライダーとは、可能性!」

 

 

だがどうしたことだろう。

剣崎がそう叫ぶと、ピタリとそれが止まったのだ。

 

 

「使い方を誤れば崩壊の道を歩む。しかしその諸刃の刃は、確かに運命を切り開く(つるぎ)となろう!」

 

 

まさにそれは――

 

 

切り札(ジョーカー)!!』

 

 

大量の怪人を前にすれば、攻撃も受ける。

 

 

「ハッ、お前ら、とんだババを引いちまったみたいだな」

 

 

たまたま攻撃がドライバーにヒットすれば、変身が解除されるのは当然だった。

 

 

「覚えとけ、最後に笑うのは、俺たち仮面ライダーだ」

 

 

だが問題はない。

地面にへばりつく相棒を尻目に、男はロストドライバーを取り出した。

 

 

「変身!」『ジョーカー!』

 

 

メモリを起動させると、空に浮かび上がる巨大な二枚のトランプ。

 

 

「ジョーカーは二枚!」

 

 

旋回する道化師。

崩落したビルの破片となったトランプ達を吸い込んでいき、出現したダークローチたちを吸い込んでいく。

そしてその時、渡は、剣崎は、士へ手を伸ばした。

 

 

「立て、ディケイド」「立ってくださいディケイド」

 

「ハッ! 珍しい。いいのか? 俺はお前らにとっては邪魔な存在だろう」

 

「確かに。ですが――」

 

「?」

 

「ライダーとしては、貴方は必要かもしれない」

 

 

眼としてはあまり認めたくないが、世界を壊すものも、たまには必要な時があると。

 

 

「……あっそ」

 

 

士は二人の手を取ると、立ち上がり、並び立つ。

 

 

「ハァ」

 

 

アンニュイな表情で士はディケイドライバーを構える。

なんだかんだと努力したが、結局ライダーを背負うことはできなかったか。

 

 

「お前ら、クセが強すぎるんだよ。背負いきれるか」

 

「重いですからね。僕らが背負ってきたものは」

 

 

一方で拍手を行うのは三世だ。

また地面に刺していた剣を引き抜き、剣先を士達へ向ける。

 

 

「いいだろう。それがお前達のサムシングか! やはり我々の敵はライダーでなければ滾らない!!」

 

 

ジョーカー問題はあっさりと片付いた。

なるほど、確かにジョーカーは二枚。当然だ。

 

 

「……ライダーパンチ!」『ジョーカー! マキシマムドライブ』

 

 

今頃黒色のライダーが相手を殴り飛ばしているのだろう。

 

 

「ライダーキック――ッ!」

 

 

蹴り飛ばしているのだろう。

それは結構。故に、剣崎は右腕を左斜めに伸ばした。

掌を自分に向け、親指と人さし指は伸ばしておく。

 

 

「キバット」『ああ、任せろ! 渡ッ!』

 

 

口にはしなかったが、ライダーを捨てなかった理由の一つに、友がある。

渡は親友を掴み取ると、牙を手の甲へ。

 

 

『ガブーッ!』

 

 

そして士は一枚のカードを引き抜くと、絵柄を三世へ見せる。

 

 

「フフフフ!」

 

 

その光景は見事であるが、酷く滑稽だ。

三世の口から思わず笑みがこぼれる。

 

 

「悲しい生き物だな。自分を裏切り、夢を裏切り、苦痛を裏切り、次はどこにいく?」

 

 

答えたのは剣崎だった。

絶望を希望に――

 

 

「どこに? 決まっているだろ。ココだ」

 

 

悲しみは喜びに。

 

 

「それが俺たち――」

 

 

その勇気が、悲しき運命を――

 

 

「仮面ライダーだ!」

 

 

裏返す。

 

 

「変身ッ!」『ターン・アップ』

 

「変身!」『カメンライド』『ディケイド!』

 

「変身」『キバっていくぜーッッ!!』

 

 

正面、右から仮面ライダーブレイド。

左には仮面ライダーキバ。

そして中央には、激情態ではない。仮面ライダーディケイドが立っていた。

複眼を光らせる三人のライダー。そしてそこへ対峙する男はマントを翻して立ちはだかる。

 

 

「フッ! 来るが良いライダー! そして心に刻みつけろッ! お前達を殺すのは、このショッカー首領三世! 大蜘蛛大首領だ!!」

 

 

そこでディケイドは小さく首を振る。

 

 

「気をつけろよ。分かってると思うけど、あいつアホみたいに強いから、油断してるとこの流れでも普通に負けるぞ」

 

「勝てるさ」

 

「あ?」

 

 

ブレイドは、ブレイラウザーを構えた。

 

 

「俺達に、ライダーの資格があるのならな!」

 

 

地面を蹴り、走り出したブレイド。両手を広げ、無言でキバも続く。

はいはい、そうですか。ディケイドはもう何度目かも分からぬため息をつくと、ライドブッカーを構えて走りだした。

 

 

 





今回、一部レンストのフレーバーテキストを引用しました。


クライマックスファイターズのキャラクター紹介って、一期の連中はマスクドライダーで、二期の連中は仮面ライダーなんですよね。
そういう演出――、とってもすこ( ^ω^ )

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。