カメンライダー   作:ホシボシ

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前回の話なんですけど、冒頭ちょっとすっぽ抜けてた部分があったので、追加しておきました。
まあそんなに重要なシーンでもないんですがね。


あと、今回の話もゴリゴリ『仮面ライダー4号』のネタバレしてるんで、注意してください。


第21話 all for one

 

 

吟遊詩人・オルフェウスは神の子である。

彼は、エウリディーチェと言う美しく優しい娘と恋に落ち、永遠を誓った。

 

 

『愛しているよエウリディーチェ』

 

『わたしもです、オルフェウス』

 

 

だが、婚約の直後、エウリディーチェは、『蛇』に咬まれて世を去ってしまう。

深い悲しみにくれたオルフェウスはその後、妻を取り戻すため冥府へと向かった。

 

オルフェウスには神の力、『歌』の力があった。

生者を決して通さないカロンも、オルフェウスの歌に心を打たれ、番犬であるケルベロスでさえ心を奪われ、行く手を阻むことは無かった。

そしてついには冥界の王であるハデスの心を歌と情熱で突き動かし、愛する妻との再会と帰還を約束させた。

しかし条件があった。それは冥界を出るまで『後ろに従うエウリディーチェを、決して見てはいけない』というもの。

かつてない不安と尚早の中で、オルフェウスは愛する者の手を握り、ついには光の下に帰ることができた。

オルフェウスは焦りと安堵、なによりも愛情から、背後を振り向いた。

 

が――、片足が、まだ影の中に残っていた。

暗闇に引きずりこまれた妻を、オルフェウスは慌てて追うが、今度はカロンやケルベロスにもその歌は通じず、冥府への道は完全に阻まれてしまった。

 

地上に戻ったオルフェウスは、愛するエウリディーチェの面影ばかりを追い、狂ったように荒野をさ迷った。

人々は、彼が口にする悲しい歌を聴き、死への恐怖を克服して霊魂の不滅を信じるようになったと言う。

オルフェウスは以後、一切の女性と関係を持つことを拒んだ。心には常に愛する妻がいたのだろう。

だが、それが女達の怒りをかう事になり、最終的にオルフェウスは、女たちに八つ裂きにされ、川へ流された。

しかしオルフェウスは、たとえ首だけになったとしても歌うことを止めず、海へと流されてなおエウリディーチェへの想いを歌い続けていたと言う。

 

 

 

………

 

 

 

「概念で構成される世界。今の我々に勝つには、相応の概念をぶつけるしかない」

 

 

三世の耳に、キュルキラ死亡の情報が流れてきた。

同じくして、ディケイドたちにもキュルキラ戦の情報が入る。オーズが元に戻り――、なんて情報が頭をめぐる。

世界の意思か。ディケイドは小さくため息をついた。映司が元に戻ったのは喜ばしいことの筈だが?

 

 

「しかし、無駄な事だ」

 

 

三世も分かっている。

この世界の戦いは普通の戦いじゃない。概念の上に成り立つ戦闘だ。

剣先をディケイドたちに向け、挑発するようにプラプラと揺らす。

 

 

「いくら貴様らライダーが力を取り戻そうが、己を取り戻そうが、最後のピースは埋まらない」

 

「……二世ってヤツか」

 

「そうだ。ライダーを捨てた二世は、我々側だ」

 

 

走り出す両者、剣と剣がぶつかり合う。

ディケイドは赤い斬撃の向こうに、ファイズの姿を視た。

 

 

「ディケイド、お前だって分かっているはずだ。全てのライダーの力が無ければ、我々には勝てない事を!」

 

「……ッ」

 

 

腹を蹴られ、呼吸が止まる。

怯んだ所にクロスの斬撃が飛んできた。一応とライドブッカーを盾にしたつもりだが、たいして効果はないらしい。

ディケイドは地面を転がり、肩を落とす。

 

 

「おい、いつまで休んでんだ。さっさと手伝え」

 

「言われなくとも……!」

 

 

イライラしたようにキバが跳ね上がり、走り出した。

まだまだ余裕そうに見えるが、ザンバットの剣先が地面について引きずられていた。

 

 

「ハァ」

 

 

一方で煽った本人は寝転がり、空を見上げた。

イヤになるほどの快晴だ。憂鬱になるほどの青だ。

 

 

「哀れなもんだな。ライダーってのは」

 

 

三世は何も分かってない。

割り切る? ショッカー側に?

 

 

「アイツは――、俺達はそんなに完璧じゃない」

 

 

じゃなきゃ、とっくにライダーなんて必要なくなってるだろ?

 

 

 

 

 

「よう」

 

「ムゥ?」

 

 

突如、魔法陣が浮かびあがった。

立ち上がるドライブと電王。その間から操真晴人が姿を見せる。

動きを止めるライダーロボと4号。晴人はそれを見て呆れた様に笑った。

あっちでも戦い、こっちでも戦い、分かっていた事とは言え。

 

 

「"続けば"迷うな。俺達はいつも」

 

 

指輪を構える晴人。

無限の輝きが駆け巡り、インフィニティーへと変身を完了させる。

 

 

「約束を果たしに来た。仮面ライダーファイズ、乾巧」

 

「なんの話だ?」

 

「忘れちまったのか。いや、だからこそアンタはそうなったのか」

 

 

腕を突き出すライダーロボ(ファイズ)。腕にある機銃から次々に銃弾が発射された。

しかしインフィニティーの鎧には一切通じない。気づけば、ウィザードは地面を蹴っていた。

魔力による超高速移動、さらに剣の持ち手を変えて、斧に。

 

 

『ターン・オン!』『ハイタッチ!』『シャイニングストライク!』

 

 

気づけば、一瞬でファイズの眼前にウィザードが立っていた。

 

 

「バカ野郎――」『キラ・キラ! キラ・キラ!』

 

 

巨大化した斧を引き、それを思い切り振るう。

反射的に腕を盾にするファイズ。硬い装甲と、斧が競り合いを始めた。

しかしそれもまた一瞬。ウィザードはファイズを切り抜け、背後に立つ。

散りばめられた宝石の残骸が星のように光っては消え、光っては消える。

光芒の中はスローモーションだった。ウィザードはゆっくりとローブを翻し、ファイズと視線を合わせた。

 

 

「いつまでも死んだ者に囚われてたら、一歩も前に進めないぞ」

 

 

過去を思ってため息をつくより、その先の未来を思え。

 

 

「――ッて、教えられただろ?」

 

「なにを言っている?」

 

 

興味がないと言う様子のファイズ。

攻撃も、ライダーロボの固い装甲が防いだようだ。

ああ、いや、違うのか。

 

 

「!」

 

 

狙いは、ただ一点。

 

 

「ムぉ!?」

 

ファイズの左腕、ロボの装甲が吹き飛んだ。

どうやらウィザードは魔力を集中し、一点に狙いを定めたようだ。それが左腕である。

硬い斧の一撃を受け、装甲が弾け飛び、ファイズの腕がむき出しになる。

気づけばまたもやウィザードは瞬間移動。ファイズの腕を取り、引き寄せた。

 

 

「約束しただろ?」『エンゲージ!』

 

「お前ッ、いつの間に!」

 

 

ファイズの左手、薬指に指輪があった。

ウィザードはファイズの腕を掴み、指輪をハンドオーサーへ。

 

 

「本当に絶望しちまったら、俺がアンタの希望になってやる、ってさ」

 

 

一瞬だった。ファイズの体に魔法陣が浮かび上がったかと思うと、ウィザードはそこへ飛び込み、体内に吸収されていった。

異物が体の中だけでなく、心にまで進入していく。かつてない不快感にファイズはうめき声をあげて暴れまわっていた。

 

 

「忌々しい!」

 

 

走り出す4号。

しかしそこに青と黄色の閃光が割り入った。

 

 

「お前の相手は俺だ! 4号!」

 

「ドライブ……ッ!」

 

 

タイプフォーミュラ。高速移動で4号の周りを駆けまわり、翻弄していく。

すぐにスカイグライダーにて攻撃をと思えば、空には敷かれたレールあり。

 

 

『行くぜ行くぜ行くぜーッッ!!』

 

 

デンライナーが空間を切り裂き、その姿を現した。

既に後続にはイスルギ、レッコウ、イカヅチの姿も見え、四車両は瞬く間に連結。

イカヅチを先頭とし、『電光石火』の並びに変わる。

 

 

「くらいやがれェエエ!!」

 

 

電王の叫びにシンクロする様にレーザーだの爆弾だのが次々に飛来してくる。

4号は思わず声をあげて怯み、スカイグライダーはすぐにデンライナーに狙いを定めた。

故に、取り残されたファイズはしばらくその場を転がりまわった後、完全に沈黙する。

 

 

「………」

 

 

アンダーワールド。人それぞれが持つ、精神世界だ。

ウィザードはそこに入ることができる。降り立ったのは当然、乾巧のアンダーワールド。多くの場合、降り立つのは希望、心の支えが生まれた場所だ。

にも関わらず、ウィザードが見た世界はどこか空虚なものだった。

 

ただの土手。どこにでもある河原に、古ぼけたフェンス、破れた網が見える。

他には特に何もない。言い方は悪いが、なんともつまらない世界だった。

 

 

「状況を聞いたとき、少し違和感があった」

 

 

変身を解除するウィザード。

晴人は、土手に一人座り込んでいた男の隣に立つ。

 

 

「他の連中は皆、ブックメイカーが齎した体験版を謳歌してた。家族がいたり、夢をかなえたり、ありえたかもしれない幸福の中で笑っていた」

 

 

誰もが皆、孤独じゃなかった。

家族があり、仲間があり、夢があり、慕われ、充実し。

 

 

「なのにアンタは、一人だ。それにクリーニングって……」

 

「つまらないか? 心外だな」

 

 

風が吹き、『乾巧』は瞼をくすぐる前髪を払う。

鬱陶しいとアンニュイな表情を浮かべ、ため息をついた。終焉の世界でも彼は人を遠ざけていた。

遠吠えを放ち、近づく者たちを誰彼構わず威嚇する一匹狼。

 

 

「いつもと同じだ。でも、俺にはそれが良かったのかもしれない」

 

「誰もいないのに?」

 

「……幸せになるのが怖かった」

 

 

アンダーワールドの巧は、まるで晴人が来ることが分かっていたかのように冷静だった。

草を毟り取ると、適当に放る。巧は晴人を見ず、ただ前に流れる川面をぼんやりと見ているだけ。

 

 

「だから何も生み出せなかった」

 

 

漏れたその言葉。諦めと安堵が混じったような声色だった。

 

 

「もったいないから食わないなんて、それこそもったいないだろ」

 

 

晴人は肩を竦め、挑発するように笑う。

そこで初めて巧は晴人を見た。少しだけ唇を吊り上げて。

 

 

「だろうな。バカなヤツだぜ、俺も」

 

 

巧は視線を川面に戻す。

目を細め、水の奥、もっと奥、さらに深くを視ている。

そこには、もうどれだけ手を伸ばしても届かぬモノ達があった。

 

 

「大切なものはいつか無くなる。分かっていたつもりでも……、割り切れない」

 

「だから二世に?」

 

「かもな。いや、本当はもっと大きな理由があったのかもしれん……!」

 

 

あまり覚えていない。

とは言え、あの時に感じた絶望――、いや、そんな簡単なものじゃない。あの時の感情はもはや言葉を超越していた。

 

それはまさに悟り。そうか、そういう事だったのかと。

この世の全てが分かった気がした。そして求めていたものに何の価値もないと――、いや価値と言う言葉さえ意味のないものだと察してしまったのかもしれない。

それはブックメイカーも言っていたこと。

 

 

「よく分からないな俺には」

 

「俺にもまだ――、いや、永遠に分からないのかもしれない」

 

 

とは言え、そこには『あった』のだ。

だから巧はそう解釈した。それが間違っているとか、納得しているかは別として、そう捉えた。

巧は沈黙する。だから次は晴人から口を開いた。

 

 

「ドライブのヤツが言ってた。4号事件。あれが始まりだろ」

 

「……ああ」

 

 

ショッカーとの戦い。

巧はそこで自分に会った。ショッカー首領、フードの下は自分と同じ顔、同じ声だった。

 

 

「ヤツはファイズに変身した」

 

 

その時、巧はなんとなくだが理解した。

 

 

『時をもう一度リセットする!』

 

『我々はもう一度生きる』

 

『生きて、世界を我が物に――……!』

 

 

きっと進ノ介も理解したのだろう。巧と同じく、なんとなくだが。

 

 

『やっぱり、考え直さないか?』

 

 

巧を止めたのは、きっとこう思ったからだろう。

この会話は、今を言っているのではない。もっと、外のことを言っているのではないか、と。

 

 

『気持ちだけもらっておく。これからの世界を、頼んだぞ』

 

 

巧は、撃った。

そして歴史改変を止めたのだ。巧は消えたかのように思われたが、その先の、真理を視た。

 

 

「あれは紛れもなく、俺だった」

 

『時をもう一度リセットする!』

『我々はもう一度生きる』

『生きて、世界を我が物に――……!』

 

 

巧は、うんざりしたように、ハッキリと口にした。

 

 

「あれは……、俺の世界の話だ」

 

 

思い出す。

歴史改変マシンを破壊した時、巧は向こう側にいった。

 

 

『乾巧! お前の勝ちだ』

 

 

ショッカー首領の声が鮮明になる。

お前は消えたはず。そう口にした時、声が、ショッカー首領のものだった。

いや、それはつまり、乾巧のものだった。

 

 

『同調の時が来た。全てを知るがいい』

 

 

真理(しんり)があった。

ショッカー首領の正体、それは――

 

 

『いいぜ……! お前のやりたかった事を俺がやる。お前の理想は俺が継ぐ!』

 

『おい真理……、真理(まり)ィ! 何だっけかな……! 救世主は何をするんだぁ!? 闇を切り裂き?』

 

『聞こえねーよ!』

 

『ハァ、ハァ……! きッついなぁ、お前の期待に応えんのは』

 

『どけ。俺が歩く道だ』

 

 

世界はやがて崩壊していく。

 

時が進めば、世界は腐敗し、壊れていく。

 

楽園は、いつか、終わる。

 

罪人は、追放される。

 

 

「失楽園。パラダイスロスト」

 

「どういう事だ? ファイズ」

 

「俺だ。別世界――、じゃねぇな、違う時間の俺だった」

 

 

アリーナから出て、首だけの社長が死んだ後、行ける所まで行った巧は、新社長になった。

きっとそれは世界を内側から変えたいだとか、もしくは腐敗した内部を破壊したいとか、いろいろな理由があったのかもしれない。

あの時はきっともっと純粋で、キラキラしてて、たくさん傷ついたけれど、夢もあった。

そして、ついには、黒幕と対峙した。

 

 

『お前が……、お前がスマートブレインのトップだと!?』

 

 

思い出した。

あれは、自分だった。

巧は晴人を横目に見る。

 

 

「スマートブレイン……、あぁ、お前に言っても分からないか。とにかく俺の世界をメチャクチャにしたやつは"俺"だった」

 

「意味が分からないな」

 

「俺もだ。だが、そういう事らしいぜ」

 

 

スマートブレイン最高責任者にして、その正体はアークオルフェノク。

全人類のほとんどがオルフェノクになった世界を牛耳っていた支配者。その正体が、乾巧(じぶん)だった。

同じ顔、声、見た目。兄弟? ドッペルゲンガー? クローン? 偽物?

いろいろな想像はあった。しかしその時はまだ、答えは見えなかった。

 

 

「ワケも分からないまま、俺はヤツと戦い、そして――」

 

 

刺し違えた。

命を落とした巧。その向こうに、真理を視た。

 

 

「一度目じゃなかったってワケさ」

 

 

スマートブレイン社中枢にあったのは、歴史改変モニタ。

 

 

「つまり、『あれ』は、俺の世界の産物だ」

 

 

形が変われば、形態が変わる。

歴史改変マシンなど、ただの仮面にしか過ぎない。

大切なのは、歴史を変え、永遠に『繰り返す』装置の存在だ。

 

 

「異形の花々、疾走する本能、パラダイスロスト、そして――」

 

 

4号。

 

 

「ブックメイカーがその仕組みを教えてくれた。俺達は、何度も何度も繰り返す」

 

 

つまり無限回廊。

悲しみを繰り返す世界装置。彷徨い続ける世界装置。

いつか太陽は奪われ、世界はグレーになるだろう。明日を『どこかにある』と思ってしまうまでに、グルグルと回る世界。

 

感情なんて関係ない。

どれだけ大志があっても、どれだけ信念があっても、苦痛も、悲しみも全ては連れて行かれる。

全て、神の視点から見ればただの歴史の一つでしかない。また繰り返すことになる、ただのループする世界のひとかけらでしかない。

 

 

「今回もそうか」

 

「ああ。結局、腐っちまった」

 

 

過程は別にどうでもいい。

大切なのは、ショッカーとの関わりがあったこと。そちら側につくことを選んだことだ。

 

 

「俺はライダーである事を、ファイズであることを捨てたかった」

 

「………」

 

「俺がファイズである事を認めたら、あいつ等の終わりを、苦しみを認めることになっちまう」

 

 

意味無く死んだヤツらはいないとは思いたいが、どう考えても、なんど考えても――

 

 

「死なない方がいい。苦しまない方がいいに決まってる」

 

 

あいつ等とは、誰の事かは語らなかったが、巧の脳裏にはいろいろな人間が浮かんでいるだろうとは想像に難しくなかった。

それだけ落とした命がある。敵も、味方も、知らない人も。

 

 

「とは言え、バカな事をしたもんだぜ」

 

 

どうすれば悪になれるのか?

どうすれば怪人になれるのか?

真剣に考えた結果、それは人を捨てることだと導き出した。

思考が麻痺していたのか、行動は早かった。顔を隠すマスクを用意し、凶器はナイフを用意する。

 

 

「どこぞの世界で、適当に見つけたガキを拉致して、殺した」

 

 

今でも、命乞いの声は耳に張り付いている。

だがそれでも、巧はファイズを捨てる必要があると思った。超えなければならない痛みがあると思ったのだ。

 

 

「4号と戦う進ノ介の声が聞こえてきたんだ」

 

 

進ノ介は4号に向かって、『お前はライダーを名乗る資格はない』と叫んだ。

ふむ。進ノ介の言う、そして大衆の望む仮面ライダーとはなにか?

それは鎧ではない、中身だ。誰が変身しているのか、どんな人間が変身しているのか、それが人の心に結びつき、仮面ライダーとして確立する。

たとえ仮面ライダーの力を持っていても、その人間が愚劣ならばクロスオブファイアの輝きは濁り、堕ちていくだけ。

 

 

「もう行け。これ以上ココにいたら、闇に喰われるぞ」

 

 

遠方にシルエットを確認した。

それは集合体。無数の死をかき集めた概念の象徴。

アンダーワールドに巣食う究極の絶望。無数のオルフェノクの魂が集まり、一つに固まったるは、"エラスモテリウムオルフェノク"。

それはかつて見た姿よりも遥かに巨大で、神々しささえ感じる。角は巨大な十字架になっており、そこにはファイズと思わしき人間が磔になっている。

同じくオルフェノクが集合して形成された翼からは、青い蝶が排出され、青い粒子を撒き散らしていた。

 

 

「断る。ここから出るぞ、ファイズ」

 

「おい、待てよ」

 

「いやだね。だって、アンタは俺を待ってた」

 

 

ココにいる巧は、自分のやった事を後悔している素振りではないか。

その髪は短い。ああ、覚えているぞこの髪型は。あの時、そうだ、ライダー大戦。

 

 

「クロスオブファイアが俺を共有した」

 

 

ブックメイカーが声をかけたのは、まだ生きている巧だった。

時間の概念は壊れる。過去も未来もない、全てが今だ。

 

 

「だからアンタはココに残っている。アンタこそが光を灯す装置だろ」

 

 

炎が灯っているかは知らないが、ロウソクにはかわりない。

 

 

「……耳に張り付く声なら、他にもある」

 

『俺たち大人が、一番に守るべきは、子供達の未来じゃないのか』

 

 

それが良心を繋ぎ止める要因になった。とは言え――

 

 

「それを否定した俺は、まさに怪人だな」

 

「だったら、やり直せ」

 

「なに……?」

 

「俺達はまだ生きてる」

 

「炎は消えた。俺にはムリだ」

 

「だったら俺の炎を使え」『プリーズ』『プリーズ』

 

 

プリーズリングは魔力を分け与える指輪だ。

しかし今、巧に与えるのは魔力ではなく、魂の炎。

 

 

「おい! 止めろ!」

 

「大人しくしてろ。ファイズ、アンタは言ったぞ!」

 

「なに?」

 

「からっぽなら、戦う事で埋めてやるってな!」

 

「!」

 

「喜びと悲しみを一つずつ」

 

 

へたり込み、沈黙する巧。

一方で咆哮が聞こえた。気づけば、エラスモテリウムが間近に迫っている。

晴人は舌打ちを漏らすと、巧の前に立った。

 

 

「悪に堕ちて、ショッカーになって、何かが変わったか!?」

 

「……ッ」

 

「これから何かが変わるのかよ!」『シャバドゥビタッチヘンシーン』

 

 

巧は黙り込み、そして、自嘲の笑みを浮かべる。

消え入りそうな、弱弱しい姿だった。

 

 

「楽になりたかった。でも……、苦しむだけだった」

 

 

マヌケな姿だ。炎が消えるのは必然だった。

 

 

「安心しろ。何度も言ってるだろ?」『インッフィニティー!』

 

 

だが、炎は灯される。

消えたロウソクに、燃えているロウソクが火を移した。

孤独ではないのだ。闇を抱えた不器用な集団かもしれないが、紡いできた歴史が手を差し伸べてくれる。

巧が、ファイズとして戦ってきたからこそ、生まれた絆だ。

 

 

「俺が、最後の希望だ!」『フィニッシュストライク!』『サイコォオオオオッ!』

 

 

黄金の光が迸った。

仮面ライダーウィザード、インフィニティードラゴン・ゴールド。

黄金の鎧を纏った魔法使いは、翼を広げて飛翔する。巧はそれをぼんやりと、どこか複雑な表情で見ていた。

 

 

………。

 

 

そして、どれだけ経ったか、巧の口から乾いた笑いが漏れた。

とんでもないヤツだ。つくづくそう思う。エラスモテリウムが発生させた闇が世界を覆ったかと思えば、ウィザードが尾を振るう。

すると虹の橋が発生し、闇を切裂いていく。ウィザードはそこを飛行しながら爪で敵を切裂いていった。

 

おっと、黄金の光がドラゴンの口から発射されたぞ。

 

一発、二発、いや、ダメだ。もう数え切れない。

まるでそれは流星群。雨のように降り注ぐ光がエラスモテリウムを貫いていく。

同種とは思えない。巧は疲れきったように肩を落とし、微笑をもったまま立ち上がる。

歩き、歩き、川辺についた。水面を覗き込めば、自分の顔が映っていた。

 

 

「思えば、随分年をとっちまったな、俺も……」

 

 

誰に語るでもなく、巧は呟いた。

あのころの俺達はどうしようもなくガキだった。

だから熱くなれたし、前に進めた。けれども、余計に傷ついた。

 

 

「何か――、変わったか? 変えられたか?」

 

 

縋るように水の中に両手をつける。

すると感触があった。巧がそれを引き上げると、誰かが捨てた携帯電話があった。

思わず笑みが漏れる。折りたたみ式の、所謂『ガラケー』。時代じゃあない、そうだろうとウィザードを見る。

 

進化していくんだな。

今はもう、タッチ式の携帯電話が主流だ。

けれども、川面に視えた赤い文字。

 

 

特撮ファンなら、100%携帯でファイズの真似はしてる

 

 

気づけば、手にあったガラクタがファイズフォンに変わっていた。

 

 

「俺たち仮面ライダーに、フィナーレはない」

 

 

巧が顔を上げると、そこにはウィザードが立っていた。

向こう側には巨大なシルエットが粉々になっていくのが見えた。

 

 

「イヤだって言っても連れて行くぞ」

 

 

ピカピカ眩しい。巧は諦めたように微笑んでみせる。

 

 

「分かってるさ。せめてファーストクラスを用意しろよ」

 

「アツアツのコーヒーでも出してやろうか」

 

「ふざけんな。やっぱりココに残る!」

 

 

ウィザードは笑い、巧の手を取った。

 

 

 

 

 

 

「ンンヌゥッ!」

 

 

魔法陣が出現し、ウィザードと巧が現実世界へ回帰する。

一方でその出口、ライダーロボは頭を押さえフラついていた。

 

 

「ヌゥアアアアアアアアア!!」

 

 

ライダーロボの装甲が崩れていく。

すると中からはウルフオルフェノクが姿を現した。

ライダーロボの装甲の一部が融合しており、まさにサイボーグと言うに相応しい。赤い眼光が光り、オオカミの遠吠えが響く。

 

かつて、愛する人を救えず、焦燥を抱いたまま殺された神がいた。

彼の体には、冥界に赴いた際に付着した灰が残っており。その灰は、冥界の力にて男の死を無効化し、全く別の姿を与えた。

それこそが始まり。『オルフェノク』である。

永遠に求め、彷徨う種族。そしてそれは概念でさえも。

 

 

「永遠に続く輪廻! 割り切ろうとも関係はない!」

 

「確かに――、俺達に終わりはない」

 

 

"髪が短い"乾巧は、既に腰に巻かれていたベルトを見た。

前方にいるのは"髪が長かった"巧。それはまさにファイズの世界の具現。では彼は以後、"オルフェウス"と呼ぼうではないか。

 

 

「だが、決着をつける事はできる」

 

 

異形の花々――、1

 

疾走する本能――、2

 

パラダイスロスト――、3

 

4号――、4

 

そして、今。

 

 

『5――』『5』『5』『Standing by』

 

 

巧はファイズフォンを思い切り上へ掲げた。

 

 

「変身!」『Complete』

 

 

装填する携帯電話。赤いラインが走り、激しい光りを放つ。

誰もが腕で目を覆う中、巧の姿がファイズへ変わっていく。

 

 

「己の信念一つまともに貫けないか!」

 

 

唸り声をあげ、オルフェウスは爪をむき出しにする。

それは自分への怒りでもある。良心が己の中にあり続け、それをウィザードが回収したことで具現させた。

仮面ライダーファイズは手首を振るい、もう一人の自分を睨みつける。

 

 

「それが、俺が人である証明だ」

 

「なに――ッ!」

 

 

黒も白も抱えるのが人間なれば、いくらショッカーになろうともそれは変わっていない。

完全に堕ちたと思っていても、光が灯れば、輝きは宿る。

 

 

「聞こえるかライダー共!!」

 

 

ファイズは叫ぶ。

その声はクロスオブファイアの共鳴を齎し、各ライダーの脳へ届く。

 

 

「戦おうぜ……! やっぱり俺達は、仮面ライダーとしてでしか生きられないみたいだからな!」

 

 

哀れで、愚かで、苦しんで、それでもやはり、ライダーであれた方がいい。

たとえ苦しくても、希望がある。

 

 

「俺みたいに悩んでたらロクな事にならねぇぞ!」

 

 

目の前のオルフェウスが巧である事にはかわりない。

酷い姿だ。装甲に覆われたウルフオルフェノクは殺意を振りまいている。

唸り声をあげ、爪を構え、ファイズを睨んでくる。

 

 

「永遠に続く悲劇をッ! お前は望むのか!」

 

「悲劇、か」

 

 

戦う事は罪だ。

その罪を背負おうとしたが、あまりにも大きく、背負いきれなくなった。

だが幸いにも、一緒に背負ってくれる連中がいる。

だからこそ、また愚かでも、正しいと思える道を歩める。

ファイズはあえて、過去と同じ言葉を言い放った。

 

 

「笑わせるな。ハッピーエンドに変えてやるよ!」

 

「!」

 

「俺は、仮面ライダー! 仮面ライダーファイズだ!!」

 

 

同時に走り出した両者。

片方は拳を突き出し、片方は爪を振るいぶつかり合う。

すぐに絡ませた腕と、腕。もつれ合ったまま地面を転がり、すぐに引き起こす。

 

 

「フッ! ハァア!」

 

「ヴァアア! ヌゥウン!」

 

 

ファイズは拳を思い切り振るう。一方でオルフェウスもそれを弾き、爪を伸ばした。

両者攻撃を受けながらも、それはかすり傷。当然か。巧と巧、同じ人間が戦っているのだ。

しかしクロスオブファイアが齎したのはファイズがファイズであること。

機械音が聞こえたかと思えば、空からオートバジンが飛来、ガトリングガンを乱射してオルフェウスを攻撃する。

 

 

「グゥゥウウ!」

 

 

全身を火花が包み、強烈な不快感に表情を歪ませる。

しかし狼の機動力がある。オルフェウスはすぐに跳躍で空中に舞い上がると、一回転を加えて爪をオートバジンに向けて振るう。

 

 

『ディフェンド!』『プリーズ』

 

 

黄金の魔法陣がオートバジンを守り、爪を遮断する。

 

 

「ウウゥウ! ウィザード!」

 

「悪いが、助太刀させてもらうぜ」

 

「お前ェエ!」

 

「コッチのファイズの方に、俺はつく」

 

 

愚かでも、哀れでも、その行動に共感したからこそ、ライダー達は協力し合えた。

今も、これからも。

 

 

「グゥウ!」

 

 

火花が散る。ファイズが、ファイズフォンを撃ったのだ。

さらに墜落したオルフェウスへ、仕掛ける飛び蹴り。

だがオルフェウスは瞬間的に腕をクロスに構えることで盾とし、ファイズの足裏を装甲で受け止めた。

 

 

「甘いわァア!」

 

 

両手を広げ、ファイズを押し返す。

しかしバク宙で飛んだファイズのもとへすぐにオートバジンが。

 

 

『READY』

 

 

オートバジンからファイズエッジを引き抜き、着地。

そのまま剣を振るい、再度オルフェウスへ距離を詰める。

叩き割るようにして斬りつけるファイズ、とは言え、オルフェウスも的確に腕で防御を行っていく。

 

 

「自分を殺そうとは――、まさにお前に相応しい」

 

 

オルフェウスはふと、ファイズエッジを手で掴み取った。

同じくしてファイズは腰にあった携帯電話へ手を伸ばした。

 

 

『Exceed Charge』

 

 

激しく発光するファイズエッジ。

オルフェウスの手を弾き、そのまま切りつけていく。

一撃目、上から下へ。だが爪で弾かれる。

二撃目、右から左へ。だが蹴りで弾かれる。

三撃目、左下から右上へ。同じく振るわれた爪が重なった。

 

 

「ヤアアアアアア!!」

 

「ハアアアアアア!!」

 

 

いつか、終わると思っていた。

だがいつまでも胡蝶の夢は続いていく。

だがそれでも、歩いて行ける希望があってしまう。

どうやらそのジレンマは、終わりそうに無い。

 

 

「!」

 

 

ファイズエッジが粉々になった。

蹴り飛ばされたファイズは、地面を転がりながら、腕時計に手をかける。

 

 

『Complete』

 

 

今日もどこかで、繰り返しているのだろう。

 

 

『Start Up』

 

 

きっとその、名前も知らない人たちは、答えにたどり着いたのだろうか。

 

 

「―――」

 

 

ただひたすらに、ファイズショット、グランインパクトを打ち込んでいく。

ハンマーのように拳を振るい、全ての体重を乗せて拳を突き出した。倒れたオルフェウスをサッカーボールのように蹴り飛ばし、掴み起こし、拳を撃ち当てる。

 

 

(木場――ッ! 草加――ッッ! 俺は……、正しかったのか!?)

 

 

鱗粉の向こうに、かつての『time』を見た。

 

 

(それとも――ッ!)

 

 

もう、そっちにはいけないんだろう。

分かっているさ。分かっていても、巧の脳裏にはいろいろな事が、いろいろな人物の顔がフラッシュバックしていく。

別に思い出したくは無かった。とは言え、想像以上に心に張り付いていたのか。

 

もう、線がある。そっちにはもうきっと戻れないかもしれない。

だが、まあ――、コッチも、悪くはない。

未練が手を掴む。だからそれを振り払う様に、力強く手首をスナップさせた。

 

 

『READY』

 

 

ポインターを足につけ、ファイズはエンターを押した。

 

 

『Exceed Charge』

 

 

腰を落とし、ゆっくりと息を吐く。

視界の向こうで、ヨロヨロと立ち上がるオルフェウスを見る。

 

 

「ナゼだ……! お前の――ッ、力はッ! 想定を、超え――ッッ」

 

「俺は、お前だ」

 

 

ポインターに光が充満。

同時に飛び上がるファイズ、空中を一回転し、足を突き出す。

赤いポインターが発射され、オルフェウスの前で展開。赤い円錐を出現させて動きを拘束させる。

 

 

「ッヤァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

円錐へ飛び込んだファイズ。

赤い光がドリルのように高速回転をはじめ、ガリガリと削っていくではないか。

 

 

「ンンンンンンォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

大量の蝶が、血のように散った。

 

 

「お前は――ッ、これ以上! 悲しみを繰り返し――ッ、一体どこを目指そうと言うのかァア……!」

 

 

オルフェウスは天に手を掲げた。

青い炎が見え、指が、掌が崩れ去った。終わりを察したのか、狂ったように笑い始める。

 

 

「さあな。けど、少しでもマシなところさ。それを見つけるために、俺は戦い続ける」

 

「ヴゥウウゥウ! ァア゛ア゛ア゛!」

 

 

ファイズがオルフェウスの背後に着地した。

浮かび上がるΦのマーク。オルフェウスの全身を青い炎が包み、直後彼は灰となって崩れていった。

その全ての粒子、灰が、ファイズへ吸い込まれていく。

燃えれば、灰になる。そして灰からは新しい物が生まれる。

ファイズはそれを噛み締め、立ち上がった。

 

 

「!?」

 

 

すると悲鳴が。

視線を向けると、ドライブが吹き飛んでくるのが見えた。

 

 

「大丈夫か、進ノ介!」

 

「あ、アイツッ、前に戦ったよりも――ッ!」

 

 

アイツ、4号ゆっくりと歩いてくる。

 

 

「ずるいよファイズ……!」

 

「ッ?」

 

「ずるいじゃないか。ずるいじゃないか! ずるいじゃないかァア!!」

 

 

地団太を。

 

 

「それは無しだろ。そういう所だよ、ボクが大嫌いだったのは!!」

 

 

声を震わせ、4号は首を振る。

なにか様子がおかしい。声も高くなり、以前の4号とは思えない。

 

 

「ダメだろ、それはダメだろ、嫌いだな。そういうのは嫌いだよ!」

 

「お前は――!!」

 

「結局、アンタは、結局結局ッ、アンタはァア!!」

 

 

4号は仮面に手をかけ、マスクを取った。

認めるか、認められるかではなく、4号もまた仮面ライダーである事にはかわりない。

だからこそ、変身している者が存在している事となる。

 

いや、確かに、4号はサイボーグであり、変身者はいないとも言える。

だが『この』4号は確実に変身者がいたのだ。

マスクの下には、【Ch.3】にてペストマスクの男、つまり乾巧に殺された少年の顔があった。

 

 

 






簡単に説明すると、髪の長い巧が、髪の短い巧に負けて一つになりました(適当)

ファイズのゲーム持ってるんですけど、アクセルフォームの演出がエグイくらいカッコいいんですよね。

ってかそもそも僕は平成一期だとアクセルフォームが一番カッコいいと思ってるんですよね。電子音のテンポ、奇跡の演出と、なによりも注目して欲しいのは『The People with no name』のえげつないほどのカッコよさね。

アクセルフォームの曲ではないのかもしれないけど、これほどまでアクセルの印象がへばりつく曲もなかなか無いですぜ(´・ω・)b

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