カメンライダー   作:ホシボシ

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第三章開始

加速していくアンチへイト

その先には何があるのか



序盤のタイトルチェンジのくだりは、あんまり気にしないで下さい。
この話が掲載された時点で、全ての話のタイトルを変えてましたが、もう戻ってます。


第三章『仮面の価値は』
第17話 友○情×宇△宙□!


 

 

題名変更(タイトル・チェンジ)

 

 

キュルキラが指を鳴らすと、ハーメルンの笛の音が鳴り響く。

変化するタイトル。そしてそれは悪意あるものに。

悪意? 本当にそうだろうか。いずれにせよ、想い溢れる。

 

 

「ハハハハ! いいぞ! もっとだ! もっと荒れろ! もっとヘイトを! 負よ高まれェエ!!」

 

 

ブックメイカーの家の前でアマダムは叫ぶ。

悪意満ちるとき、それは刃となりて神の胸を貫くだろう。それこそが干渉不可能とされる世界へ伸ばした報いの一撃。

そうすれば抉り削られた心の破片は地に落ちる。それは身体から剥がれるから消える。だから、そう、それでいい。

 

 

「これ、意味ある?」

 

「あるに決まってるだろ! もっと負を高めなければ」

 

「んん、小学生かっつーの! 最後の方とか語彙力なくて同じ意味だし」

 

 

そこで口を開くのは、オラクル。

腕を組み、笑う。

 

 

「人ハ、何よりもモロイ! 歴史がそれを証明しておるナリ!!」

 

 

だからこそ、そこを突けばいい。

 

 

「仮のハナシだが! もしも婚約者が強姦され、犯人の子をハランダ場合! どれだけの人間が別れヌだろうナ!?」

 

「んー?」

 

「どれくらいの人間ガ! 孕んだアカゴを中絶させヌだろうナ! 何人のニンゲンが犯人に殺意イダカヌだろうかナ!?!?」

 

「どーゆーいみぃー?」

 

「汚セ、キュルキラ! 物語を汚せばヒト、おのずとヘイトのヤミに呑まれて死ヌナリや!」

 

 

理想も希望も無いという事を証明するためには、ライダーたちが力を取り戻し始めた今が丁度いい。

積み木は、高く積み上げたほうが。パズルは完成間近の時のほうが、崩されたときのショックが大きい。

 

 

「あぁ。そう言う話ね。了解了解、キュルキラちゃんに任せてよ」

 

「フフフ。ならばヨシ! ブックメイカーの望むセカイは、ライダーの価値がゼロの世界。下ラヌ信者達を、下らぬライダーをコロスのはお前の腕ダゾ」

 

「クヒヒハハ……! ええ、ええ、任せて、ドス黒い闇で、全部汚してあげる」

 

「全テ狂ワセヨ! コノ世界、物語! 現代のドグラマグラにしてミセヨウゾ!!」

 

 

青い羽が舞い落ちる。

青い鳥は、虚構の幸せ。

ほら、本当はそこにあるんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼくは、よく分からないけど、幼稚園のときに事故にあって――」

 

 

タケルと弦太朗は目を丸くする。

竜斗が思い出した過去とは、自分の人生を客観視させるものだった。

本当の竜斗は現在、高校生。しかしそれはあくまでもの話しで、彼は幼い時に事故にあい、ずっと昏睡状態にあった。

 

 

「もう、十年以上……」

 

「そんな――ッ」

 

 

不思議な感覚だ。

情報と記憶が混同し、自分が分からなくなる。ましてや真司の息子だった記憶もあった。

しかし竜斗はゆっくりと思い出し、直視していく。自分は――、そうだ、入院していた。

幸いなのか、親はお金持ち。病院も田舎のほうで、人も少ないので病室が埋まることもなかった。

いや、いや、あれはホスピス? 施設? ダメだ、思い出せない。

 

とにかく眠っていた。

そして目覚める可能性は、低いと誰かが言っていた気がする。

医者なのか、親なのか。体はもう治ったのに、脳が目覚めない。

どうして――……? それがずっと続いた。

 

 

「ずっと、夢を見ていたのかもしれない」

 

 

記憶が混じる。

自分はなんだ? 誰だ? 本名は――、思い出せない。

そしてある日、現れたのだ。脳裏にブックメイカーが。

 

 

『今日からキミは、城戸竜斗として生きろ』

 

 

今、思い出せるのはそこまでだった。

その意味をイブは知っている。ブックメイカーは眼に『絶望』している者たちを選んだ。

そうする事で、眼を眼として、より機能させる。

 

 

「ブックメイカーは、眼が無垢であることを望みました。知識あれば闇も増える。闇は文字通り、視界を曇らせますからね」

 

 

イブはそう口にする。

分からない話じゃない。現に眼として選ばれた渡や剣崎は、過去と比べると刺々しい。

それは眼として動く上で様々な闇を目の当たりにするからだろう。ブックメイカーはそれを嫌った。

だからこそ、純粋さの具現とも言える『子』の姿を与えたのだ。

 

 

「ですので……、ええ、分かっているのでしょうねブックメイカーも」

 

 

イブは胸に手を当てる。

 

 

「ブックメイカーを倒すということは、眼を眼でなくすということでもあります。それでは質問ですミライさん。役割を思い出した今、あなたは元の世界に帰りたいですか?」

 

 

イブはスイッチを切り替える。目の色が赤から黒になった。

ミライは目の端に涙を浮べて、首を横に振る。

 

 

「そういう事だね」

 

 

瞳が青く染まった。アダムが悲しげな表情で口にする。

つまり、眼が眼でなくなれば、みな元の世界に帰れる。

しかしミライ達は元の世界に希望を抱いていない。だから、帰りたくない。なにが嬉しくて死のうとしていた世界に帰るのか。

 

それは他も同じ。

だからこそ竜斗が弦太朗とタケルに頭を下げたのは当然のことだった。

だってそうだろう? また昏睡状態に戻るなんて、ゾッとする。

 

 

「お願いです。ブックメイカーに協力してください」

 

「………」

 

 

竜斗の言葉は沈黙を生んだ。

しかしタケルは目を逸らしながらも、竜斗の頭をなでる。

 

 

「おれは、いいよ。別に」

 

「………」

 

 

なぜか竜斗はなにも言わない。

バツが悪い。タケルは助けを求める様に弦太朗を見る。

 

 

「うーん……」

 

 

弦太朗はサラサラの髪を触りながらしばらく黙っていた。

しかしふと立ち上がると、ベンチの後ろにゴロンと寝転んだ。

 

 

「悪い。オレはムリだ」

 

「え……?」

 

「考えたんだ。あんまり得意じゃねぇけどさ」

 

 

フォーゼを手放す道もありなのだろう。

事実、そうすれば失ったものも返ってくる。

 

 

「でも、返ってこねぇモンもあるよな」

 

「……ッ」

 

「ダチがオレの――、仮面ライダーのために頑張ってくれたことも全部ウソになっちまう」

 

「いや、そもそもはじめからウソだったんじゃ……」

 

「オレにとっちゃ本当さ。だから別にそれでいい。オレが本当だと思ってるんならそれでいい」

 

 

ココで弦太朗は首を振った。

なんだか格好いい事を言いたかったが、なにも思い浮かばない。そうだ、そうなのだ、これもまだ仮面。

本当の意見は違うところにある。弦太朗は頭を掻き毟り、ため息をついた。なんだかあと一個、最後のピースが見つからない気分だ。

なぜ曇っているのか。ううむ、あと少しで分かる気がするのだが、なかなかどうして。

 

 

「あぁ、そうだ。ちょっと気になってたことがあるんだけどよ」

 

 

竜斗にずっと聞きたいことがあった。

と言うのも、それは弦太朗が一番初めに竜斗と会ったときのことだ。怪人に襲われている(ように見えた)竜斗たちの前に弦太朗は姿を現した。

入れ替わりで竜斗達は離れて行ったが、その時、唯一竜斗だけが後ろを振り返ってジッと弦太朗たちを見ていたのだ。

それも、襲われて怖い筈なのに、どこか楽しそうな、キラキラした目で。

 

 

「え? え? え?」

 

 

無自覚だった。

竜斗は少し恥ずかしそうに俯く。タケルもそう言えばと手を叩く。

言われてみれば竜斗は次々と現れるダブルやオーズからなかなか視線を外そうとはしなかった。

もちろん恐怖はあっただろう。しかしそれよりももっと強い想い――、興味があったのだ。

 

 

「あ、それは、えっと……! ぼくが仮面ライダーが好きで――」

 

 

竜斗はそこで目を見開く。

そうだ、『竜斗』になる前の自分も、仮面ライダーが好きだった。

覚えている。昏睡状態になる前には、どこにでもいる普通の男の子だった。だから当然、特撮ヒーローにだって嵌る。

 

 

「この世界にもライダーはいたのか……」

 

「う、うん。テレビだけど」

 

 

しかし、竜斗は困ったように首を傾げる。

はて、放送していたのはどんなライダーなんだっけ。

ましてや考えてもみれば目の前に本物のライダーがいるなんて、なんだか不思議な気分である。

 

 

「竜斗は――」

 

 

弦太朗は呟く。

 

 

「竜斗は、ライダーが好きだったのか」

 

「え? う、うん。好き――……、だった」

 

「憧れてたのか?」

 

「それは、えっと、うん、た、多分」

 

 

そこで弦太朗は目を見開いた。

タケルも竜斗も分からなかっただろう。弦太朗のハートが爆発したことなんて。

落雷打たれたように衝撃が走り、直後轟々と炎が燃え上がったことなんて。

 

 

「サンキュー竜斗」

 

「え?」

 

「あるんだ。あったんだ。見つけた。一個、どうしてもやりたい事が」

 

「え?」

 

「どうしても一人、ダチになりてぇヤツがいる」

 

「ブックメイカー?」

 

「あ。まあアイツもだけど、違う。もっと身近なヤツだ」

 

「???」

 

「それは――」

 

 

その時だった。凄まじい違和感を感じて弦太朗とタケルは視線を移動させる。

これは、殺気だろうか。肌を刺す強烈な不快感。

見れば優しそうな女性が歩いてきた。ゆったりとしたドレスに実をつつみ、ペティコート、黒いマリアベールを身につけている。

赤黒いロングの髪を揺らしながら、女性は弦太朗達に――、竜斗に近づいていく。

 

 

「迎えに来ましたよ竜斗さん。さあ、私と共に参りましょう」

 

「お前は……!」

 

 

反射的に竜斗を庇う様に立つ弦太朗。

タケルも同じく前に出ようとしたが、ふと思い出し、引き下がる。

変身はできない。そして、戦う理由は……。

 

 

「これはこれは、ライダーの皆様」

 

「誰だお前!」

 

 

竜斗は眼。ブックメイカーの一部。

故に愚かなライダーたちから守るのは当然の事だった。

 

 

「私は神」

 

「は?」

 

「聖穂ねりホル女神。ネリホルで構いません」

 

 

ネリホルは両手を広げ、優しい笑みを浮かべる。

 

 

「カメンライダーのシステムは素晴らしい」

 

 

唇が裂けた。

 

 

「雑魚が増えれば、それだけ私の力を示すことができる。それは啓示、神託となり人々は私を讃えることでしょう」

 

 

体が裂けた。そして裏返り、姿を見せたのは異形。

"スペース蜘蛛男"。それこそがネリホルの真の姿。

 

 

「アンタ女だろ。蜘蛛男って……」

 

「神に性別はありませんわ。私を讃えなさい、崇めなさい。仮面ライダーフォーゼ」

 

 

とにかく、カメンライダーが始まればネリホルもまた恩恵を受ける。

量産されたライダー達を次々と殺害し、怪人の強さを象徴するのだ。希望が潰えれば、人々は絶望にさえ縋りつく。

 

 

「タケル。竜斗をつれて下がっててくれ」

 

「は、はい!」

 

 

タケルは竜斗の手を引いて距離を取る。

一方で弦太朗はフォーゼドライバーを装着すると、四つのボタンを押していく。

 

 

『3』

 

 

ネリホルは笑いながら足を進める。

 

 

『2』

 

 

構えを取る弦太朗。

 

 

『1』

 

 

その様子を見つめるタケルと竜斗。

 

 

「変身!」

 

 

レバーを引き、フォーゼはスチームを吹き飛ばして走り出した。

 

 

「ウォオオオオ!!」【ロォケェット/オン】

 

 

突き出した拳にロケットモジュールが装備され、フォーゼの足が地面から離れる。

爆発的な加速で繰り出されたパンチ。しかしそれはネリホルに届く前にせき止められる。

 

 

「!」

 

「ホホホ。無駄な事を」

 

 

蜘蛛の巣型のエネルギーシールドが拳を遮断する。

フォーゼは力を込めるが、シールドはビクともせず、そうしているとネリホルの爪がフォーゼを叩き落し、地面へダウンさせる。

 

 

「うがッ!」

 

 

ネリホルの背から長い蜘蛛の足が飛び出してくる。

足の先には鋭利な爪が備わっており、容赦なくフォーゼを突き刺そうと襲い掛かった。

 

 

「あっぶねぇ!」

 

 

地面を転がり、次々と迫る足を紙一重で回避していく。

さらに懐からスイッチを取り出すと、ベルトへ装填していった。

 

 

『Hand』『Gatling』『Scissors』

 

【ハ・ン・ド/オン】

 

 

脚から第3の手が出現し、振るわれた脚を掴んだ。

 

 

「お!」

 

「離れろこの野郎!」【ガトリ・ン・グ/オン】

 

 

さらにもう一方の足からガトリングモジュールが出現、回転する銃口から次々に弾丸が発射され命中していく。

フォーゼの狙い通り、銃弾に怯み後退していくネリホル。しかし直撃ではない、相変わらず蜘蛛の巣型のシールドを張っており、それが銃弾を完全に防御しきっている。

ならばと新たなスイッチを起動させる。腕にハサミが装備され、それで蜘蛛の巣を切裂こうというのだ。

 

 

「なん――ッ! だ!? カテェ!」

 

 

しかし刃で糸を挟んだものの、どれだけ力を込めようとも切断までには至らない。

すると聞こえる笑い声。ネリホルは爪でフォーゼの装甲を抉り、さらに糸を発射して全身を縛り上げる。

 

 

「お前の力では、私には勝てませんわ!!」

 

「うッ! ウガァア!」

 

 

身動きが取れなくなったフォーゼへ容赦なく振るわれる爪と脚の刃。

怯み後退していくフォーゼ。しかしネリホルが発射した糸が体に巻きつき、倒れることを許さない。

それだけでなく、糸を引き寄せることで、さらに拳のラッシュを当てていく。

 

 

「ガハッ! ぐぅあぁあ……!!」

 

 

苦し紛れに突き出した拳など、当然ネリホルには通用しない。

さらに空間に浮かび上がる蜘蛛の巣のシールド。それはフォーゼの拳を防ぐだけでなく、逆に拳を砕いてみせる。

右手に激痛が走る、フォーゼからまた苦痛の声が漏れた。

 

 

「ホホホ!」

 

 

フォーゼを殴りながらネリホルは笑う。

 

 

「弱い、弱いな仮面ライダーフォーゼ!!」

 

 

倒れたフォーゼの腹部に蹴りが入った。

呻きながら転がっていくフォーゼの四肢を、ネリホルの鋭利な蜘蛛の脚が貫いた。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアア!!」

 

「お前のその弱さは、この世界において迷いの数値を表している!」

 

 

概念の世界、終焉の星。

ライダーに必要なのはクロスオブファイアのみ。そしてその『のみ』の中にはあまりにも多くの感情が詰まっている。

 

 

「魂が燃え上がらないのは、お前の戦う理由が弱まっている事が分かる」

 

 

フォーゼの頭を踏みつけ、ネリホルは力説した。

 

 

「いい調子だ。このままだとお前のフォーゼたる意識が薄れていく!」

 

「先生!」

 

 

反射的にタケルは立ち上がり、ガンガンセイバーを――

 

 

「雑魚が!」

 

「!?」

 

 

ネリホルが手をかざすと、タケルと竜斗を囲むように蜘蛛の巣のシールドが張り巡らされた。

試しに斬ってみるが、ビクともしない。ならばとタケルは意識を集中する。

彼はゴーストだ、壁を通り抜けるなど――

 

 

「ッ!? どうして!!」

 

 

結論から言うとダメだった。

タケルが蜘蛛の巣のシールドに体当たりをしてみても、すり抜けるのではなく、なんのことはなく抵抗感を感じて塞き止められる。

これでは普通に壁に体当たりをしているのとかわりない。

 

 

「ハッハー! つまりはそういう事だ、天空寺タケル! もはやお前のクロスオブファイアは消えかかっている証拠!」

 

「え……ッ!?」

 

 

つまりライダーではなくなろうとしている事、ゴーストではなくなろうとしている事。

ドライバーすら具現化できない状態からもっと悪くなっていく。もう幽霊(ゴースト)ですらなくなったらしい。

 

 

「そんな――ッ!」

 

「そうとも! 聞いたぞ、お前を嫌っている神は多いらしいなぁ?」

 

「う――ッ!」

 

 

オラクルの影が過ぎり、タケルは青ざめる。

対して、笑みを深くするネリホル。

 

 

「フフフ。信者つかぬ神など偶像にも程がある。まやかしは具現できない。道理ではないか?」

 

 

ネリホルはツバを吐くように糸の塊を発射した。

それは弾丸となり、フォーゼドライバーに直撃した。火花上がり、煙が出てくる。

 

 

「世界は所詮マジョリティだ。多数からの信仰無き神など、狂信と呼ばれ下に見られる」

 

 

ネリホルはバチバチと音を立てるドライバーを掴み、剥ぎ取る。変身が解除される弦太朗を掴みあげると、頬を殴り、腹を殴った。

 

 

「お前もそうだ、如月弦太朗」

 

「うぐッ! がぁぁ!」

 

「友情だと? 下らないなぁ。そんな儚いモノの為に戦うからこそ、今お前のクロスオブファイアの勢いは弱まっているのに」

 

「なん――ッ、だと……!」

 

「友情などすぐに消える。疎ましさから一瞬で消える。裏切りで跡形もなく消える。続いたとしても、それはやはりいずれ消えてしまうものだ」

 

 

信仰に比べ友情は酷く脆い。

 

 

「神々は利口だからこそ、それが分かっている。だからこそマヌケなお前は好かれない!!」

 

 

ネリホルは弦太朗を蹴り飛ばすと、地面を滑らせる。

 

 

「フフフ。なくなる物のために命は賭けられぬのだ。それをお前自身が分かっている。失い、その価値が軽いと知ったから――」

 

「なに言ってんだお前」

 

「……?」

 

 

弦太朗は血を吐き出し、手で拭うと、ニヤリと笑って立ち上がる。

 

 

「オレの炎が弱いのは、ダチのことで悩んでたからさ」

 

「なに?」

 

「どうしてもダチになりてぇヤツがいるんだ。ソイツが誰かは分かった。だが、なかなかどうして、どうすれば友達になれるのかが分からねぇ」

 

 

それにと、弦太朗は訂正ひとつ。

確かに、消えてしまう友情もあるのかもしれない。

 

 

「だがオレの友情は消えねぇ。オレの心がある限り、友情は不滅だ! 絶対だ!!」

 

「ンホホホ。寒いな。まさに子供向けだ」

 

「言ってろよ。それにほら、生きてればまた新しい友達はできる」

 

 

 

そう言うと弦太朗は血まみれの手を服で拭い、拳を竜斗に向けて突き出した。

 

 

「え……?」

 

 

つまりそれは、『新しい友達』と言う意味。

 

 

「竜斗、お前はどうしたい!?」

 

「ッ」

 

「確かに、もう目覚めないかもな。でも、目覚めるかもしれない!」

 

 

竜斗の呼吸が荒くなる。

意識なき意識。自覚する無。

 

 

「なにも無い毎日に戻りてぇのか? 違うよな。目覚めたいってことは、やりたい事があるからだよな!」

 

 

みな、生きる糧がある。

生きていくために、自分がある。弦太朗はそれを友情に視た。

手で髪をすくい上げ、弦太朗はニヤリと笑う。ワックスやスプレーはないが、そこには見事なリーゼントが出来上がっていた。

 

 

「やっぱオレはコッチじゃねぇと……!」

 

「アホを見るのは気分が悪い」

 

 

ネリホルは糸で弦太朗を縛ると、殴り、蹴り、投げ飛ばす。

地面を転がる弦太朗。それを見て、竜斗はより呼吸を荒げる。

 

これは、なんだ。

 

今は、なんだ。

 

これは、どうして、これが、今、やりたい事、目覚めて、生きて。

 

動いて、それで、それが、今で、だったら――

 

眼として、それは、望んだこと?

 

 

「竜斗! お前はどうしたい! どう生きたい! なにがしたいんだ!!」

 

 

頭を抱える竜斗。

今までのことがフラッシュバックしてきた。

ベッドにすがりついて泣きじゃくる両親。その前に生きてきた、特筆するでもない人生。

わざわざ目覚める意味は? いや、だとしても、このまま眼でいる意味は?

 

 

傷つけると知って、生きていく意味は?

 

 

「ぼくはこれから、どうすれば――ッ」

 

 

そこで血まみれの弦太朗が地面を転がってきた。

息を呑むタケル。どうすればいいのか、どうしてやればいいのか、どうしたいのか、全く分からなかった。だから固まってしまう。

だが弦太朗だけは違った。ニヤリと笑って、竜斗に微笑む。

 

 

「な、なあ竜斗……! お前の知ってるライダーってのは――、辛いからって戦うことを止めるようなヤツだったか?」

 

「………」

 

 

それは反射的だった。

竜斗は首を振り、違うと答える。

 

 

「だよな。だから、憧れてたんだろ……?」

 

「――うん」

 

「どうしたい?」

 

 

もう一度弦太朗は聞いた。

何が悪いとか、正しいとか、分からないけど、少し、今の状態は違うんじゃないかって、それだけは、なんとなく思えた。

だから、竜斗は涙をポロポロ零しながら縋るような視線を送った。

 

 

「このままは……」

 

「?」

 

「嫌――、だとッ、おもぅ」

 

 

あまりにも弱弱しい声。

だが、それを聞いて、弦太朗はニカっと笑った。

 

 

「その言葉、待ってたぜ!!」

 

 

ほら、今だ。今。なにか風が変わった気がする。

それに竜斗とタケルは気づいているだろうか?

弦太朗はしっかり気づいている。だからこそ、彼の体がフォーゼになっていたのだろう。

 

 

『ELECTRIC!』【エ・レ・キ/オン】

 

「!」

 

 

雷光が迸った。

太鼓のようなエネルギーが出現し、それが収束する。

雷撃を振り払うと黄色と金色に染まったフォーゼ、エレキステイツが姿を見せる。

脳裏にお調子者の後輩が過ぎった。フォーゼは思わず笑う。

 

 

「今はそれで十分だ! 竜斗!!」

 

「ヌウウゥ!」

 

 

ゆっくり歩き出すフォーゼ。

固有武器、ビリーザロッドが蜘蛛の巣のシールドを切裂いたのはその時だった。

 

 

「なにッ!?」

 

「!」

 

 

驚くネリホルと、竜斗。

その思いは対照的だった。片や絶望に顔を歪ませ、片や希望を眼に宿す。

風が通った。爽やかな風が。

 

 

「竜斗! お前にとっては小さな一歩だがよ!」

 

 

力強く足を前に踏み出すフォーゼ。

地面を踏みしめ、身体を思い切り前に出す。

 

 

「グッ! ガァア!?」

 

 

ネリホルは蜘蛛の巣の盾を出現させるが、それは電磁棒に切裂かれ、雷光がネリホルの身を裂く。

 

 

「世界にとっては!」

 

 

コンセントにプラグを装填する。

 

 

「俺にとっては!」『LIMIT BREAK』

 

「オッ!!」

 

「偉大で! 大きすぎる一歩だ!」

 

 

フォーゼはロッドをネリホルの肩に押し付け、必殺技を発動した。

 

 

「ライダー100億ボルトブレェエエイクッッ!!」

 

「ゴォォオオオオオオッッ!!」

 

 

切り抜いたところからも激しいスパークが巻き起こる。

黄色い電撃をたっぷりと身に纏い、ネリホルは後退していく。

 

 

「な、な、なんだ……! 私の蜘蛛の巣が――ッ!」

 

『Net』【ンネェット/オン】

 

「!」

 

 

エネルギーネットが飛来し、ネリホルをキャッチする。

戸惑う中、聞こえるのは電子音。そして網目の向こうに見えた炎。

フォーゼの脳裏にミステリアスな少女が過ぎる。

 

 

「ネリホル! アンタ、ダチはいるか!?」『Fire』【ファイアァ/オン】

 

「ダチ!? いるかそんなもの! 偉大なる私には不要な存在です!」

 

「だったらアンタはオレには勝てねぇな!!」『LIMIT BREAK』

 

「戯言を! 世界には私だけが輝いていればいい! 友人など弱いものの作るものだ!」

 

「ならオレは弱いままでいい! ダチはいいぞ! 困ったことが助けてくれる! 今だって、オレの心を取り戻してくれた!」

 

 

火炎放射。ライダー爆熱シュートが発射され、蜘蛛の巣のシールドを焼き焦がす。

怯み、戸惑うネリホル。すると炎の中からフォーゼが拳を構えて突っ込んできた。

 

 

「それは依存だろうが!」

 

「助け合いだ! だから、ダチが困ってたら――」

 

 

フォーゼの燃える拳がネリホルの拳を捉えた。

 

 

「助けるッッ!!」

 

 

悲鳴が聞こえた。頬が爆発し、ネリホルは後方へ吹き飛ぶ。

 

 

「なあ竜斗! お前が本当にブックメイカーの仲間になりてぇなら止めはしねぇ! けどな! ちょっとでも違うって思ったんなら、お前はお前の心に従え!」

 

「ぼくの、心……!」

 

「ああ! それがお前の、ジャイアントステップだ!」

 

 

すると大きな音。

ネリホルが立ち上がり、纏わりついていた黒煙を振り払った。

 

 

「下らない! 利害一致を履き違えているだけだろうに!!」

 

「確かに意見が合わなきゃ喧嘩もする。だけどな、それがまた新しい何かを生み出したりしてくれる!」

 

 

割って、刺す!

 

 

『エヌ』【エス】【マァーグゥネェーット/オン』

 

 

脳裏に気高く笑う男女が過ぎる。

マグネットステイツとなったフォーゼは、さらにガトリングとランチャーのスイッチを入れて両足に装備させる。

 

 

「不完全な自分の背中を押してくれるのが友達だ! アンタにはそれがわからねぇのか!」

 

「不完全な自分……!」

 

 

竜斗は頭を抱えた。

何も無かった。何も無くなった。

目覚めた後、きっと自分には友達がいない。両親とだって大きな時間が空いてしまう。

だから、きっと、辛い。

 

 

「………」

 

 

目が覚めるとも限らない。

覚めても、辛い。

 

 

「大丈夫だ竜斗!」

 

 

不安げな表情を見て察したのか、フォーゼが叫んだ。

 

 

「俺が友達だ! 忘れんな!」

 

「弦太朗先生――ッ」

 

 

次々と銃口から放たれる大量の弾丸、爆炎がネリホルを覆い、悲鳴が聞こえる。

そこでレバーを入れる。マグネットの力がフォーゼの付与され、さらに背中のブースターから大量の炎が噴出していく。

ロケットのように加速したフォーゼはそのまま、怯むネリホルへ突っ込んだ。

 

 

「ライダー超電磁タックルーッッ!!」

 

「ンガアァア!!」

 

 

直撃、そして放物線を描いて飛んでいくネリホル。

 

 

「終わりだ!」【ロォケェット】【ドォ・リ・ル】『LIMIT BREAK!』

 

 

敵が地面を転がっている間にフォーゼはベースステイツに戻り、ロケットとドリルモジュールを装備。

そして空中に飛び上がり、必殺技を繰り出す。

フラつく体を叱咤し立ち上がったネリホルが見たのは、眼前にて高速回転する刃だった。

 

 

「ライダーロケットドリルキィイイイイイイイイイイイイイイイクッッ!!」

 

「ナメるな人間ンンッッ!!」

 

 

ネリホルは腕をクロスさせ、ドリルを受け止める。

激しく火花が舞い散るが、そこで浮かび上がるのは笑み。

 

 

「フ――ッ! フフ!」

 

「ッ!」

 

「多少はクロスオブファイアを取り戻したようだが、まだまだだなフォーゼ!」

 

「チィイ!」

 

「強がっていますね! 貴方の心にはまだ大きな迷いがある!!」

 

「迷い……!?」

 

 

分かってしまった。そうだ、まだ欲望が満たされていない。

友達になりたいヤツがいるのに、まだ、まだ。

それがクロスオブファイアの燃焼を邪魔しているらしい。だからこそフォーゼはネリホルに叩き落され、地面に叩きつけられた。

 

 

「迷いを抱くお前らと! 割り切った私たち!」

 

 

ネリホルは糸でフォーゼを引き上げると、鋭利な足をフォーゼの両肩に突き刺した。

長い脚がフォーゼの肉体を貫通し、苦痛の絶叫が上がる。

 

 

「弱い人間が、勝てるものか!!」

 

 

悲鳴は続く。

肩に入った足が大きく揺れ動いたのだ。するとどうだ、脚は肉を簡単に引き裂く。つまりフォーゼの両腕が引きちぎれ、空中を舞った。

 

 

「グアァアァアアアァア!!」

 

「先生ッッ!!」

 

 

激痛と熱。

フォーゼの変身が解除され、弦太朗は両腕から血を噴射しながら地面に倒れた。

 

 

「ククク! まずは一人」

 

 

ネリホルは弦太朗の髪を掴むと、引き立たせ、そして首を掴んで体を持ち上げる。

近くには川が流れており、それなりに深いことが分かった。唇を吊り上げるネリホル。

まさか、と、思ったときには弦太朗は放られ、水しぶきをあげて川の中に。

 

 

「暗く冷たい水の中で後悔しなさい。フォーゼなどに変身してしまった己の人生を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

 

ネリホルのその言葉は、なぜか水中の中にいた弦太朗にしっかりと届いていた。

川は、思ったよりも深い。弦太朗は自分の体がゆっくりと、そして確実に沈んでいくのを感じていた。

不思議と息苦しくはないが、意識は遠のいていくし、なによりも水面の果てにある光が遠くなっていく。

 

 

(オレは……、オレは――)

 

 

確かに、フォーゼのせいで苦しんだし、傷つけた。

けれども、フォーゼのおかげで出会った絆もあるし、育んだ友情もある。それだけは否定したくなかった。

なにより、フォーゼが与えてくれた成長は、確かに弦太朗の心の中にある。

 

 

(流星……、撫子)

 

 

友情をくれた。恋をくれた。

 

 

(先生。三郎。みんな――)

 

 

夢をくれた。

それは、本当だ。

誰がなんと言おうと、本当だったのだ。

 

 

「―――」

 

 

だから、感謝を。

それらを与えてくれたのは誰か?

そうだ、今までは身近すぎて、ついついおざなりにしてしまったかもしれない。

だから、どうしても友達になりたかった。改めて、そう思ったんだ。

 

 

(なあ――、"フォーゼ")

 

 

弦太朗は、フォーゼと友達になりたかった。

 

カメンライダーの提示で改めて思った。フォーゼは特別じゃない。

ただ、たまたま自分が変身したというだけで、弦太朗『だけ』のものでは決してないのだ。

今だって、たぶん、いろんなフォーゼがいるはずだ。

 

それは別にいい。フォーゼの力が必要ならば使ってくれても構わない。

だけども、少しだけ嫉妬してしまうのは、やはりそういう事なんだ。

それに気づいたのだ。だから、弦太朗はフォーゼと友達になりたかった。

 

できる筈だ。

機械とも友達になれる男なのだから。

でもどうすれば友達に? それが分からない。今も。

 

 

(……!)

 

『仮面ライダーとは! ウラギリモノノ意!』

 

 

ふと、オラクルの言葉が思い浮かぶ。

裏切る。そうか、裏切ることがライダーなのか。

 

なら、今、何を裏切る。

 

一つ、弦太朗には裏切りたい思いがあった。

それはどう考えても死ぬこの状況だ。なぜ裏切る? 死にたくないからだ。

なぜ死にたくないか。

 

 

(決まってる。この世界にはダチがいる)

 

 

さっきできた竜斗。

彼はまだ苦しんでいる。

 

 

(だったら、だったらよ、助けなきゃいけねーッ!!)

 

 

如月弦太朗。

友情を疎かにしては、男が廃るわ!!

苦痛とか、絶望とか、呪いとか。全部裏切ってやる。

どうしてフォーゼに涙のラインが無いか知っているか? 決まっている。ヒーローが泣いていては皆が不安になってしまうからだ。

 

だから、涙はいらない。

友情だけが、そこにあればいい。

 

 

(竜斗――ッ!!)

 

 

浮かぶ想いとは裏腹に体は沈んでいく。

目を見開く。苦しくなっていった。だが弦太朗は諦めない。

さっき言った。助け合えると。だからユウキと賢吾の幻が弦太朗に手を差し伸べてくれたとき、弦太朗は迷わずソレを取った。

それは、戦い続けるという選択なのに。

 

 

(やっと会えたな)

 

 

手を取った。

そうだ、腕があった。水の中にいた筈なのに弦太朗は宇宙にいた。

 

 

友情とは名ばかりの自己主張ごり押し野郎

 

個性的に見えるだけで無個性なヤツ等の集まり。長所を潰しあう最低のチーム

 

卒業キック(激寒) 雰囲気だけのカラッポな連中

 

 

「正直、心にブッ刺さったな。あれは」

 

オラクルの攻撃、もとい口撃は心を抉る。

だからこそ、より揺らいでしまった。でも今になって思う。

そう思われても、自分にとっては全て本物で、価値のあるものだった。

 

だからこそ、流星や撫子はついて来てくれた。

仮面ライダー部のみんなは笑いかけてくれたのではないか。

そして、なにより――

 

 

「ずっと一緒だったな」

 

 

気づけば、弦太朗の前には、仮面ライダーフォーゼが立っていた。

やっと会えた気分だ。弦太朗は深く息を吐き、少し疲れたように笑う。

 

 

「アンタにはずっと助けてもらった。感謝してもしきれねぇ」

 

 

フォーゼはなにも言わず、ただ頷くだけ。

そうだ。当たり前だが違うのだ。如月弦太朗と、仮面ライダーフォーゼは。

 

 

「どうすればアンタに恩返しができるかをずっと考えてた」

 

 

今、一つだけ答えが出た。

 

 

「いつかアンタとオレは別れるんだろうな。でも、それでも、オレはオレだ。これからも一生、ダチと生徒の為に戦うぜ」

 

「………」

 

「そしたら、溶鉱炉に落した事、許してくれるか」

 

 

するとフォーゼは笑ったようなリアクションを取り、弦太朗のすぐ前に立った。

そして、手を出す。

 

 

「如月弦太朗」

 

「!」

 

 

フォーゼが喋った。

それは弦太朗の声だったかもしれないし、フォーゼの声だったかもしれない。

なんだったら喋ったような気がしただけかもしれない。

けれども弦太朗にとっては全てが真実だった。フォーゼが、話しかけてくれた。

 

 

「たとえいつか、別の道を行くとしても――」

 

「………」

 

「オレとお前の友情は、永遠だ」

 

「……ああ!」

 

 

握手を交わす弦太朗とフォーゼ。

一度手を離し、腕を組み交わす。

 

 

「―――」

 

 

弦太朗は笑顔だった。

フォーゼと軽く拳をあわせ、握りこぶし作ったまま上から下へ、そして下から上へ拳を叩いた。

カーン! と強い音がした。それは火打石みたいに。

 

 

さあ、お前のコズミックマインドを見せてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

竜斗を回収しようとしたネリホルは、思わず後ろを振り返る。

川から巨大な水柱が上がったのだ。太いなんてものじゃない。まるで川の水を全て巻きあげるようなほど大きな水の柱だった。

 

 

「お前は……!」

 

 

ネリホルは見つけた。

水の柱の中心に、赤く輝く複眼があるのを。

 

 

「如月弦太朗!!?!?」

 

 

水しぶきが蒼く輝く。

ネリホルは怯み、本能からか凄まじいスピードで後退していく。

一方で竜斗やタケルの前に立ったのは青いフォーゼ。"コズミックステイツ"だった。

 

友情のステイツ。

だが悲しいかな、その複眼の下には涙のラインがあった。

しかしそれでも、フォーゼはうずくまる。力をいっぱいに貯めて、仮面の裏にあるリーゼントに力に集中させる。

ダチは、困らされるぐらいが丁度いい。

 

 

「宇宙ゥウウウウウウウウウウウウウ!!」

 

 

おお見よ!

苦しいなら手を差し伸べ、悲しいなら共に泣き、辛いのならば励ましあい、前に進む。

それこそが友情。弦太朗の傍にはフォーゼがいる。だから安心したまえ。

それこそが、青春銀河!!

 

 

「キタァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

両手両足を思い切り広げ、フォーゼは力を解き放つ。

青く燃える炎は、より強い炎の証。フォーゼは胸を叩き、拳を前に突き出した。

 

 

「仮面ライダーフォーゼ! タイマン張らせてもらうぜ!!」

 

「ウッ! ヌゥウウウウ!!」

 

 

不快感に拳を震わせるネリホル。その体からドス黒い瘴気が溢れる。

 

 

「諦めの悪い男を見ていると、イライラしてくる! 今ココで死になさい!!」

 

 

走るネリホル。

黒い拳を引き、直後思い切りフォーゼの首に向けて爪を突き出した。

 

 

「!?」

 

 

だが抵抗感。青いエネルギーが迸り、爪が、弾かれる!

 

 

「ウゥウゥン!?」

 

「無駄だ! フォーゼ・コズミックステイツには40個のスイッチ、全てのパワーが備わっている! そんな攻撃じゃ、傷一つつかねぇ!!」

 

 

拳がネリホルの胴体を捉えた。

 

 

「って、ダチに教えてもらったぜ!!」

 

「ウウゥウ!」

 

 

青いエネルギーが飛び散る。苦痛に顔を歪ませ、後退していくネリホル。

 

 

「ッ、クロスオブファイアの力が上がっている! お前、何をした!!」

 

「何もしてねぇ! ただ、自分を取り戻しただけだ!!」【ガトリ・ン・グ/オン】

 

 

脚に出現するガトリングモジュール。

さらにフォーゼは胸にあるタッチパネルから、エレキのスイッチを指でタップする。

するとエレキの電子音と共に、ガトリングに電撃が纏わりつく。すると当然放たれる弾丸たちにも電撃が纏わりつき、ネリホルの体を撃っていく。

 

 

「ムゥゥウ!」

 

 

数発を受けた後はシールドでガードを行うネリホル。

しかしやはりと言うのか、弾丸を受けた痕には痺れが残る。

 

 

『Giantfoot』【ジャイアンとフッ・ト/オン】

 

「!?」

 

 

ネリホルの頭上に現れる巨大な足型のエネルギー。

 

 

「チッ!」

 

 

それが降って来た。

足裏に潰されぬように地面を転がるネリホル。そこでフォーゼは胸のパネルをタッチする。

 

 

【スゥタンパア/オン】

 

 

さらに足型エネルギーがネリホルを追う。

だが出現から落下までのスピードは速くはない。回避は容易だった。

 

 

「ッ、なんだコレは!」

 

 

だが気づく。いつのまにかネリホルの周り、その地面にフォーゼの紋章が浮かび上がっている。

ハッとする。先程聞こえた電子音はスタンパー。

つまりジャイアントフットの足裏にスタンプがあり、そして――

 

 

「グアァアアアアアアアアアア!!」

 

 

大爆発が起きた。

地面に張り付いた巨大な紋章たちが次々に破裂し、その衝撃でネリホルは上空へ巻き上げられる。

そして墜落。ネリホルは唸り声をあげて、地面を殴りつけた。

 

 

「ンンンンッ! なぜ! 確かコズミックステイツは同系の力しか融合できない筈なのに!」

 

「決まってんだろ。友情パワーがオレを成長させてくれたんだ!!」

 

「ハッ! あ、ありえない! そんな不確かなものの為に!!」

 

「オレ達は不確かな世界で生きてた筈だろ!!」『【CLAW(ク・ローゥ!)】』『ON(オン!)

 

 

青い光が迸り、フォーゼの手にバリズンソードが宿る。

クロースイッチの力により、ソードから紫色のエネルギーが三本、爪の様に伸びた。

フォーゼはそれを構えて疾走。迫る糸を次々に切り裂き、ネリホルの前に立つ。

 

 

「………」

 

 

ブックメイカーは自室でフォーゼ達の戦いを見ていた。

そしてテーブルを思い切り殴りつける。ネリホルは強い。強いが、今はフォーゼに押されているし、未来は容易に想像がつく。

勝てない。クロスオブファイアが覚醒した状態では。なぜ? 決まっている。それが概念と宿命、ルール!

 

 

『LIMIT BREAK!』

 

「ウッ! これは、ワープドライブか! う、宇宙! 息が――ッ! 体が凍りつき! 体内のエネルギーが膨張して!!」

 

「抜いて、刺す!!」

 

「し、下ネタは嫌いです!」

 

「下ネタじゃねぇ!!」『LIMIT BREAK!』

 

 

蒼き斬撃が、ネリホルの胴体を捉えた。

 

 

「絆の合図だ! ライダー超銀河――ッ!」

 

「ンゴォォ!!」

 

「フィニィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッシュ!!」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

モニタの向こうで爆発するネリホルを見て、ブックメイカーは吼える。

 

 

「オリジナル……! 二次創作じゃ所詮!!」

 

 

そこまでか。そんなに偉いのか。

ましてや、怪人がライダーに勝てる道理など――ッ!

あるんだろう。そこに、ほら、あれが。

 

 

「ウゥウウアアアアア!!」

 

 

目の星が光る。

ブックメイカーは呼吸を荒げ、目を細めた。

 

 

「聞こえてるなアマダム! キュルキラ! なにがなんでも殺せ! 全てを消してくれ! ヤツ等を地の底へ静めろ!」

 

 

活きのいい返事が聞こえ、歪んだ笑みが生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「先生……」

 

 

竜斗は戸惑うように弦太朗を見た。

すると弦太朗は笑顔を浮かべて竜斗の頭をなでた。

 

 

「うし。じゃあ考えるか、これからどうするか」

 

 

そこで気づく。

タケルの姿がない。気づけば消えていた。

 

 

「どこにいったか分かるか?」

 

「う、ううん。いきなり消えちゃった」

 

「……そっか」

 

「探さないの?」

 

「まあな」

 

「ど、どうして? 友達じゃ……?」

 

「気づいたんだ。タケルは友達じゃない。映司先輩とか、翔太郎先輩とか、士もな」

 

「え? え? え?」

 

「タケルは――」

 

 

弦太朗は笑い、その先を言うことはなかった。

 

 

 

 

 




tips

『エネミーデータ』


・ネリホル(スペース蜘蛛男)

はじめまして、この項目を記す役目を与えられました原田と申します。
え? 聖穂ねりホル女神様を知らない?

………。

あああああああああああああああ!!

この無知蒙昧の輩めッッッ!!

全ての生き物はッッ!
聖穂ねりホル女神によって生かされ!
女神のために生きる事が必定――ッッ!!

我々人間などッ!

消し炭に等しい存在なのですゥウウ!!


………



次回はちょっと遅れるかも?
なるべく早くします。

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