幼馴染みの女の子   作:サンデイクローズ

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正直迷った

ちょっとだけつかさちゃん視点入ります。

評価バーが赤くてびっくりしてます。
ありがとうございます


幼少期編5

その日は朝から雨がひどく降っていて、何か良くないことが起きそうなことを暗示しているようだった。

 

「りょーた本の読みすぎだよ?あたしのお気に入りの服が濡れちゃったぐらいで大げさなんだから」

 

「まぁ確かに学校でも何もなかったしな。早く晴れるといいけど」

 

「確かにねー。こんなに雨降ってるとりょーたと寄り道もできないもん。……でも、りょーたと相合傘できるからいっか」

 

そう言ったと思ったら自分の傘をたたみ、俺に身を寄せてくるつかさ。つかさを濡らすわけにはいかないから、つかさの方に傘を向ける。そのせいで俺が傘で守られるのはつかさが抱き着いている右半身のみになってしまう。

 

「お前、さすがにこの量降ってるときに相合傘はキツイって。風邪ひいちゃうかもしれないだろ?」

 

「そしたら一日中あたしが看病してあげる!」

 

「嬉しいけど、そんな胸を張ってまで言うことじゃないからな?」

 

その後、いつも通り俺の方が折れてつかさの家まで相合傘で帰った。もう一度言うが、小雨じゃなく豪雨と言って良い雨の降り方だった。何が言いたいかというとだ。

 

「っくしょん!」

 

「りょーたのくしゃみってオジサンみたいだよねー。って、風邪ひいちゃった?」

 

「多分、大丈夫だとは思うけどな」

 

「もし熱が出たら早く寝ること!あと、もし辛かったら本当に看病しに行くから、電話してね?」

 

「あぁ分かったよ。それじゃ、また明日な」

 

「うん、またね!」

 

 

つかさを送って家に帰ると、父さんがすでに帰ってきていた。何でも大事な話が有るらしく、濡れた服から着替えてリビングへと行った。途中、頭がズキズキと痛んだけど大事な話ならと無理をしていった。

 

「それで、話って何?早く風呂入りたいんだけど」

 

「あぁ、すまない。涼太は遠回しに言われるのが嫌いだからスパッと言いたいんだけどな」

 

その言い方がすでに遠回しな表現になっていることに気付かず、父さんは口を開く。……こんなに本題に入らないってことは、それだけ俺に聞かせたくない話なのだろう。

 

「まーくん、覚悟は決めったってさっき言ってたのに」

 

「そうだよな、一番つらいのは涼太だもんな。……涼太、父さんの仕事の都合で引っ越すことになった」

 

そう言った父さんの言葉を理解することは中々出来なかった。

 

「涼太には悪いと思うが、転属先が新しく作られた部署でな、落ち着くまではこっちには帰って来られないと思う」

 

「……そっか。どれくらい掛かりそうなの?」

 

「そうだな、大体三年ぐらいはかかると思う。すまない、大人の事情でつかさちゃんと引き離してしまうことになって」

 

「三年ならちょうど中学入学のタイミングだし、そんな気にしないでいいって……」

 

そう口にはしたが、これから先の3年間につかさと一緒に過ごせた時間のことを考えるとなぜか胸が締め付けられるように痛くなった。同時に、目の前に座っていたはずの父さんが横向きに座っていた。……あぁ俺が倒れてんのか。

 

 

 

「りょーくん、熱あるのに無理しちゃ駄目じゃない。おかゆ作ったから、おなか減ったら食べること!あと何かあったら起こすこと!」

 

「あぁ、心配かけてごめん。おやすみ母さん」

 

おやすみ、と言ったものの正直さっきの話の衝撃が大きすぎて体調が悪いのに眠れる気分になれず、ズルズルと思考の海に潜っていってしまう。

このことをつかさに言ったら泣いちゃうだろうなとかその大半はつかさのことで、どんだけつかさが好きなんだって自分で思うほどだった。

 

「つかさに言わないと、だよな。どうすっかなぁ」

 

 

 

翌朝になっても熱は引かず、おばさんの静止を振り切り昨日の約束通りつかさが看病に来てくれた。

 

「ほんとに来なくても良かったんだぞ?……風邪、移すかもしれないし」

 

「だって、りょーたが風邪引いたの絶対あたしのせいだもん。放ってなんておけないでしょ?」

 

そう濡らしたタオルで首元の汗をぬぐってくれるつかさ。ひんやりとしたタオルの感触と優しくぬぐってくれるつかさの手つきに安心したのか、昨日感じなかった眠気に襲われた。

 

「眠いの?……起きるまでそばにいてあげるから、寝て早く元気になって?」

 

つかさのひんやりとして気持ちいい手を額に当てられ、本当に眠気にやられてその後ぐっすり眠ってしまった。

 

 

 

ベッドで安心したように眠っているりょーたは時折苦しそうにあたしの名前を呼んでくれる。彼は辛そうなのに、呼ばれる度に少しうれしく感じてしまう自分がいて、りょーたの傍にいるよって手を少し強く握ってあげるとまた、穏やかな寝息に戻ってくれる。

朝、りょーたの看病に行くと家を飛び出してしまってお母さんには迷惑かけちゃったかなぁ。

 

「でも、来てよかったかもね。りょーた、何か悩んでるみたいだし。ねぇ、あたしってそんなに頼りにならないかな?りょーたのお願いだったら何度も叶えてあげたいのに、キミはあたしに悩みとか言ってくれたこと、無いよね。いっつもあたしの事助けてくれるけど助けてもらってばっかじゃちょっと淋しいよ、りょーた……」

 

 

 

「んっ、よく寝たな」

 

太もも辺りに重みを感じて目が覚めた。太ももに目を向ければ、俺の手を握りしめたまま太ももを枕に気持ちよさそうに眠るつかさの姿があった。夕日に照らされ、まるで絵画のような美しい光景だったが俺が動いたせいで目が覚めた彼女のとろんとした視線が俺に向けられた。

 

「おはよう、つかさ」

 

「ん~おはよ~。えへへりょーた~」

 

寝ぼけているのか、起き抜けに抱き着いてくるつかさ。いつもよりも抱きしめる力が強いのはどういうことなんだろうか。

 

「ねぇ、りょーた何か悩んでることあるでしょ?」

 

抱きしめた状態でそんなことを耳元で言わないでほしい。心臓がビクッってなっちゃうから。

 

「やっぱり。ねぇそれもあたしのこと、かな?」

 

俺のことになると勘が鋭くなるのは何なんだろう。でも、いいタイミングなのかもしれない。きっと今日を逃せばつかさに伝えず引っ越すことになりそうだし。

 

「実は──」

 

 

引っ越すことを伝えてから、つかさは俯いたまま一言も発さなかった。流石にこの重たい空気にも耐えられなくなって、飲み物でも持ってこようかと歩くと、後ろからつかさが寄りかかって来て後ろから抱きしめられた。……俺がやることだと思うんだけどなぁ。

 

「いつ、いっちゃうの?」

 

「わからん。でも案外すぐだったりしてな。ずっと言うのためらってたらしいし」

 

「ほんとに中学生になったら戻ってくる?」

 

「そこは父さんを信じるしかないと思う。……あれだったら俺だけでも戻ってくるよ。この家は売ったりしないらしいから、ここに住めばいいだけだし。中学は泉坂に行くよな?」

 

「うん、絶対泉坂に行くから、待ってるから……!」

 

つかさが泣きそうな気配がして、つかさに向き直る。案の定瞳に涙を溜めたつかさが俺を見つめていた。まいったな、つかさのこんな表情も見れなくなるって思うと俺も泣きそうだ。

 

「あぁ、ほら泣くなって。俺が居なくなるのに泣き虫のままか?」

 

「こんなに泣くのりょーたの前だけだもん。……りょーたも泣いてるくせに」

 

「バッカ、こりゃお前汗だよ、汗」

 

「じゃああたしのも汗だもんっ!……離れたくないよ、りょーた」

 

「そんな表情すんなよ……俺も泣いちゃうだろ」

 

その後はつかさと抱き合って馬鹿みたいにわんわん泣いた。つかさの前で初めて泣いたかもしれない。

 

 

 

「ほんとに行っちゃうんだよね……」

 

「あぁ行っちゃうな」

 

「じゃあ、その日まで出来るだけ一緒にいてもいい?」

 

目を赤く腫らしたつかさのそのお願いを断る理由もなく、その時はオッケーした。してしまった。

 

 

「じゃあ、これからりょーたの家にお泊りするからお母さんに電話しなきゃ!」

 

つかさが部屋を出て行ってから、つかさの言っていたことの意味をようやく理解したが、その時にはすでに手遅れだった。

 

「お泊りって……。ま、まぁ?さすがに一緒に寝るなんてことは」

 

 

「えへへっりょーたと一緒の布団で寝れるなんて幸せだよっ!」

 

「ははは……マジか。いや、確かに嬉しいけどお前、一緒に寝るてお前」

 

「何ブツブツ言ってるの?早く寝よ?」

 

当然、その日は寝付くのにあほみたいに時間がかかった。つーか多分寝れなかった。

 

その日から毎週土曜日につかさちゃんお泊り会というイベント(母さん命名)が開催されるようになってしまった。終盤になれば流石に慣れたのか俺も眠れるようにはなっていた。まぁ、つかさが寝返りうって俺に当たるとそれだけで起きちゃうレベルだけど。

 

 

 

それから、つかさちゃんお泊り会の開催数が二桁に到達しようという時、ついに引っ越す日がやってきた。見送りには西野家総出で来てくれて嬉しく思った。大人は大人同士で別れを惜しんでいるようだった。

こっちは今にも泣きだしそうなお姫様をどうにか笑顔にしようと苦戦してるというのに、救援が来る気配は微塵もない。というか、つかさちゃんのことは任せたわよ!なんて視線で言われる始末だ。

 

「えぇっと、なんだ前も言ったけどこれで一生お別れってわけじゃないし、また戻ってくることは決まってるんだからそんな泣きそうな顔しないでくれよ。……最後に見るお前の顔が泣き顔なんて嫌だからさ」

 

「……りょーたくん、わがままだよ。あたしが泣けるのはりょーたくんの前しかないのに、遠くに行っちゃうんだもん。これから泣けなくなっちゃうから、今だけ、その後は笑顔でお別れするからっ!」

 

 

 

「ううっやっぱり転属の話蹴った方がよかったかなぁ。こんな辛そうなつかさちゃん見るのは忍びないよ……」

 

「大丈夫、あの子たちは強いから。それより、ちゃんと中学校入学に間に合わせないとりょーくんに嫌われちゃうかもしれないわよ?」

 

「分かってる、もうこれ以上辛い思いはさせられないからね」

 

 

 

「落ち着いたか?つかさ」

 

「うん、ずっと待ってるからっ!だから……」

 

「──また、ね」

 

不意打ち気味にキスをさいたつかさの顔が吐息のかかる位置にあるまま、今までにないほど見とれる笑顔を浮かべたつかさに俺の心拍数はどうしようもないくらいに上がってしまう。

 

「早く帰って来ないとキミ以外の人好きになっちゃうかもしれないゾ!」

 

「そりゃあ困るな。……大好きだよ、つかさ」

 

「むぅー!りょーたはズルいよ!そんなこと言われたら、待つことしかできないじゃんか!」

 

「あれ?『りょーたくん』って呼んでくれないのか?」

 

「もうっ、知らない!」

 

少しイジりすぎたようで、拗ねたように後ろを向いてしまう。でも、これでいつもの調子に戻ったと思う。そうだな、あの日やられたことをやり返すとしよう。

つかさのことを後ろから抱きしめる。その時、大人たちの「おぉ~」という声が聞こえた気がしたけど無視だ、無視。

 

「つかさ、ほんとに待っててくれるか?」

 

「うん。ずっと、待ってるから」

 

「ありがとう。……もう、時間みたいだ」

 

つかさを抱きしめていた腕を解くと耳に「あっ、」と残念そうな声が聞こえて滅茶苦茶後ろ髪をひかれたけどここで引き返したら一生お別れが出来なくなると思ったため、無視して父さんたちの待つ車に向かう。

 

「もう、いいの?もうちょっとぐらいなら大丈夫よ?」

 

「ん、これ以上いると行きたくなくなるから。それにお別れは十分したはずだから」

 

「そうかい?……じゃあ行こうか」

 

 

 

引っ越し先につくまで、今までつかさを抱きしめたこと、つかさとのキスは二回ともしょっぱかったことを考えていた。これから長い間つかさの柔らかさを感じられないと考えると、おかしくなりそうだった。

 




つかさの母親の呼び方「ママ」だと思うけど主人公の影響で「お母さん」呼びになってるということで。


次回、悩みどころさんが多すぎる中学生編

(原作に絡めなくても)バレへんか…

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