Outsider of Wizard 作:joker BISHOP
1995年6月11日……
新たなナイトフィスト本部、サウスコールドリバー支部が設立されるにあたり、この都市全体で仲間集めが始まり、全員の警戒体制が強化された。
若いナイトフィスト構成員達は、栄光の名をかかげる宿敵グロリアに関するあらゆる情報収集のための調査に明け暮れていた。
そんなナイトフィスト達の中、グロリアの組織員の行動を主に調査する、とあるグループがあった。
それはイギリスの魔法使いが住む都市、サウスコールドリバーにナイトフィスト本部が設立されると同時に作られた調査グループで、メンバーには各地のナイトフィストの有力な人間が選ばれ、割り当てられていた。
これは、そのグループがサウスコールドリバー支部設立以降、調査してきた中で最も興味深い件を本部に報告してからの話だ…………
「大いなる力を手にする可能性だと?」
「さぁわからん。何せあのグループが言い出しただけだ。他の人間は誰一人として聞いたことない情報だからな。」
ここはナイトフィスト、サウスコールドリバー支部の中。
構成員達は何やら同じ話題の会話をしている。
「だが彼らの噂は知ってる。ナイトフィスト全体の中でもかなりのやり手ばっかりだそうだぞ。」
「グループの評判は俺も知ってる。だからと言ってあいつらの言うことを全部信用していいことにはならない。いったいどこであんな情報を掴んだ?聞いたことない。」
何人かが話している所へ、一人の男が歩いてきていた。
「あれは、グループの一人だ。」
会話していた一人の若いナイトフィストは歩いてくる男に話しかける。
「あの、あなたは例の調査グループのメンバーだな。」
男はうなずいた。
「そうだが、どうかしたか?」
「なあ教えてくれ。あの情報はどこで得た?本当だと言えるのか?」
若いナイトフィストが言った。
「疑っているのか。だったらはっきり言っておくが、それは本当だと信じている。」
「根拠は?」
「俺が目をつけて、ずっと調べ続けてきたことだからだ。ここがまだ出来る前からな。」
男はキッパリと言った。
「だから、これからは時間との勝負だ。早い者勝ちだよ。」
そして彼はまた歩きだし、奥へと去っていくのだった。
「だったら俺達はどうしろって言うんだよ。偵察しかしたことのない俺達新入りは……」
その後、奥の部屋へ歩いた男は仲間達と会っていたようだ。
「ザッカス、続報は?」
「今のところ、まだだ。」
彼は一人の男に話しかける。
「ところでギルマーシス、皆の反応はどうなんだよ。」
ザッカスという男は言った。
「彼らはの信頼はまだ得られんようだな。」
その男、ギルマーシスが答える。
「仕方ないな。彼らはここに集められた若者だ。まだナイトフィストになってから一年も経たん。我々の戦いの規模をまだ知らんのだからな。」
「それもそうだ。まったく、ここの防衛魔法も大したものではなさそうだし。若者の雑な寄せ集めと言い、ここの設立計画者は何を考えてるんだか……」
そこへ部屋の片隅から別の男が二人の方に近づいてきた。
「ちょっと二人ともいいか。今、気になる報告があった。」
彼は言った。
「何だマルス。」
「最近、隣のウエストコールドリバー支部所属の一人が行方不明になっているとの事だ。」
「隣の支部の者が。それで、何でここに報告があった?」
ギルマーシスは聞いた。
「その人物がここの設立計画の発案者だからだ。」
「本当かそれは。名前は何だ?」
「それが、誰も名前を知らないらしい。ただ、ここを設立する計画を出した人間だということしか知らされてない。」
ギルマーシスはこの件を放ってはおけないと思った。
「何かおかしな話だな……」
それから時は過ぎ、夜も遅い時間になった。
今ギルマーシスは自宅に居るようだった。
「今日も平和でよかったわ。」
一人の女性が部屋から出てきた。
「そうだな。だが俺達がこの戦いから身を引く訳にはいかない。それが償いでもあるからな……」
彼はソファに座り、コーヒーを一口飲んだ。
女性も彼の隣に座った。
「わかってるわよ。でも、あの子は絶対に守らないと。あたし達の唯一の希望なんだから。」
彼女は深く思いつめた表情で言った。
「もちろんだ。そしてあいつは強くなる。俺に似ているからな。」
彼は続ける。
「それまでは俺が密かに抗えるだけ抗う。奴ら、グロリアに……」
それから日々は過ぎ去り…………
「また一つ位置を把握しました。間も無く動いてもよろしいかと。」
一人の黒衣の男は薄暗い教会のような建物の中で、同じく黒衣の人物と話していた。
「よくやったな。そろそろその時だ。我らが先人達の長年の願望……それが叶う第一歩となるだろう。」
彼らの他にも、複数の黒衣の人影が広い教会の至る所に立っている。
「任せてください。先人の願いは現在のグロリアである私達全員の理想。必ず叶えましょう。」
「無論だ。ではその時には腕利きの者達を参加させよう。」
黒服のフードを被った男は言った。
「腕利きと言うと、あの狩り師も……」
「もちろん。グロリア随一の剣士にも活躍してもらおうではないか。」
一方、ナイトフィスト、サウスコールドリバー支部では……
「ギルマーシス、やはり私達の予想は当たっていたようだ。」
「今更言うことかな?」
ザッカスとギルマーシスが、彼らグループの部屋にいた。
「メンバーからの新たな報告が入ったんだ。この都市付近にグロリアの駐屯施設を発見したとな。一時的な滞在場所のようだがかなり協力な防衛魔法が広域に張ってあるらしいとの事だ。」
ザッカスが言った。
「すると、その施設にいる奴らは短期間で絶対に目的を完了させる気なのだろう。そしてその目的は……」
「ああ。恐らく君が考えた通りだとしたら、大いなる力の根源を占領することだ。」
「その根源の一つがこのサウスコールドリバーのどこかにあるということになるな。そしてそれを占領するにはここが邪魔になるはずだ。」
ギルマーシスは一つの推論を出す。
「ここを攻撃しに来るのは時間の問題だ。その前に手を打たないと。」
「だが待て、肝心のここの管理者の行方がわからないままだぞ。」
このアジト設立計画及び、管理者でもある人物は突如行方不明となり、いまだに見つかっていないらしい。
「連絡もつかないのか。グロリアに殺されたのか?しかしタイミングがおかしい。まるでここに基地が設立されることを奴らが知ってたみたいだ。そしてその管理者が誰かも……」
この瞬間、二人は顔を見合わせる。
「全て奴らが知ってたとしたら……」
「ナイトフィストに裏切りが居るかもしれない。」
1995年11月11日…………
どこかに複数人の黒衣の人物達が集まっている。
「ついに動く時が来た。サウスコールドリバー支部設立と同じ日に陥落する事になるとは、皮肉な運命だな。」
一人の男が言った。
「しかしこれも含めての設立計画だ。彼らは考えもしなかっただろう。初めから壊すために設立されたなど。」
彼は整列する黒衣の人物達を向く。
「今日、我々グロリアは偉大な一歩を踏み出す。我々の栄光の理想が叶う日も近い。あの狩り師も既にこの都市に来ている。」
ここへフードを被った男が歩いてきた。
「準備は整ったようだな。」
「はい。いつでも出動出来ますよ。」
男は答えた。
「では紹介しよう。彼が狩り師だ。」
フードの男がそう言い、後ろを向いた。
そこには黒いトレンチコート姿で、首に白いスカーフを巻いて、頭には鉄の仮面を被った者が立っているのだった。
黒衣の人物達が彼の方を見た。
その仮面の人物は黒い鞘を手にしている。
「剣士でもある君の力を、存分に見せてもらおう。」
その後、彼らはその場から姿をくらますのだった……
それから一時間も経たないうちに、悲劇は開始された。
結果ははっきりしたものだった。最初から負けるように仕組まれた計画通りに事は運び、計画通りにサウスコールドリバー支部は壊滅したのだった。
手抜きの防衛魔法は簡単に破られ、グロリアの構成員相手に戦闘経験の少ない若者のナイトフィストは、圧倒的な実力の差を見せつけられて倒れる。
これも全て、ナイトフィストを裏切った計画者の意図であった事に、ギルマーシスの調査グループが気づいた時は既に遅かったのだった。
しかし何のためにこんな手の込んだ計画をしたのか、それがこの都市のナイトフィストをまとめて消す目的とは別の、もう一つの真意があることに気づくのは早かった。
ギルマーシス一行は既に、次にグロリアが打つ手を予測していた。
彼らは今、箒で空を飛んでいる。
「奴らを追う。君の考えが正しければ、きっとそこに奴らが探している物があるはずだ。」
ザッカスが隣のギルマーシスに言う。
「間違いないだろう。急ぐぞ!」
そうギルマーシスが言った時だった。
「いや、君は来ては駄目だ。」
ザッカスが言った。
「どうしてだ?俺も協力する!」
「君は自宅に戻って、家族と遠くへ逃げろ!」
ザッカスは続ける。
「奴らの狙う物がこの都市にあるということは、奴らの大きな目的はこのサウスコールドリバー自体を占領することだ。一般市民にもどれだけ被害が及ぶことか・・・・そして君には家族がいる。」
ギルマーシスは彼の言いたいことを理解した。
「俺だけ戦いを投げ出して家族と逃げろと……」
「君が得た唯一の希望だ。絶対に失ってはいけない!後の事は俺達に任せろ。君の分まで俺がきっちり償うよ。」
「本当に、それで……」
彼は思い悩み、そして家族の姿を思い浮かべると答えは出た。
「すまない。本当に君にはすまないと思う!」
「気にするな。幸せを守り抜け。」
ザッカスが言った。
「そうさせてもらうよ。」
その言葉を最後に、彼はグループのメンバーとは永遠に会えないこととなった……
この日の夜、その時は訪れる。
グロリアはこの都市のとある地区を占領し始め、そこへ救援要請を受けた隣のウエストコールドリバー支部のナイトフィストが次々に到着して戦うこととなった。
町は火に油を注いだような状態と化し、市民の家々は戦いに巻き込まれて崩壊していく……
戦いが激化するにつれ町の至るところで炎が上がり、夜空を赤く染めた。
「まさかここへ奴らが来るとは!急ぐぞ!」
ギルマーシスは部屋の窓から外の光景を見た。
もはや昨日までの町はそこには無く、術と術がぶつかり合う音と家が崩壊する音、それに人々の悲鳴が混ざって聞こえる戦場だった。
「すぐそこまで誰か来てるわ!」
「くそっ!ジーン、あいつを頼む。俺は様子を見てくる。」
彼は杖を握り、部屋を出ていこうとする。
「待って!」
「君が守ってくれ。やっぱり俺は、ここから逃げることは許されない。ザッカスも戦ってるんだ!」
その時だった。
二人の立つ後ろの壁が大きな音と共に崩れ落ちた。
ジーンは壁の残骸に押し倒されたのだった。
「おい!大丈夫か!」
「平気よ。それより、あの子を……」
彼女は体に大きな切り傷を負い、やがて出血し始めた。
「じっとしてろ、今治してやる!」
ギルマーシスが彼女に杖を向けて呪文を唱えようとした。しかし……
「うあぁぁぁぁぁぁ!!」
更なる爆発で壁は完全に崩壊し、彼は爆風で、残骸と共に家の外へ吹き飛ばされていた。
地面に叩きつけられ、体の骨の数ヵ所が砕ける感覚を感じた。
痛みをこらえながら必死で家を見上げる……
そこには、壁に巨大な穴が空き、燃えながら天井ががらがらと崩れ落ちる変わり果てた家が見えた。
そして視線を横に移すと、地面に転がりびくともしないジーンの姿も見えた。
「そんな……」
後ろからは数人の杖を構えた人影が近づいている。
もう終わりなのか……希望は壊されるのか…………
彼が目を閉じ、最後の時を悟ったその時だった。
突然目の前に剣が飛来し、横たわるギルマーシスの上を高速で通過して、彼を狙う魔法使い達の一人の体を貫いたのだった。
「この剣は……」
直後に一人の人物が目の前に立っていた。
「……カーネル。」
ギルマーシスはそこに立つ人物に話しかけようとしたが、血を吐き出して言葉がつまる。
どうやら内臓も損傷していたらしい。
そこに立つ者はギルマーシスに近寄る。
見ると、その人物は銀に輝く仮面をつけているのだった。
そこでギルマーシスは、最後の言葉を仮面の人物に語った。
「償いにはちょうどいい。だがせめて、子どもを……マックスを守ってくれ…………」
そして彼の目は閉じたのだった。
仮面の人物は静かに立ち上がり、数人の魔法使い達と向き合った。
彼らが杖を一斉に構えたその時、仮面の魔法使いは瞬間に消え、そして一人の魔法使いの背後に現れて手を振りかざす。
同時に魔法使いは吹き飛ばされ、彼らが狙った時には仮面の魔法使いの姿は無かった。
次に現れたのは燃える部屋の中だった。
彼はあたりを見回し、子供部屋らしき部屋に入る。
そこで彼は見つけた。小さな机と椅子の間に挟まれて動けない子どもを見つけたのだ。
彼は走り寄った。だがそれを狙うかのごとく複数の呪文が彼を襲った。
瞬時に振り返り、片手を大きく振りかざす。
術は弾かれて壁に当たり、更に家は崩れた。
壁はなくなり外が丸見えになった先に、杖をこっちに向けた魔法使い達の姿があった。
仮面の魔法使いは子どもの前に立ちはだかり、片手には黒い剣を構えて攻撃を防ぐのだった…………
それから14年後……
2009年、マックスがセントロールス高校に入学した。