Outsider of Wizard 作:joker BISHOP
真夏よりも、少し涼しくなってきたようだ。
屋上に吹き付ける風を浴びながらそう感じる。
今年の夏ももう終わろうとしている。実に時というものは早い・・・
つい半年ぐらい前・・・まだつまらない毎日を何とか消化しようとしていた頃はそう思ったことはなかった。
この感覚も、心境の変化というやつか・・・
マックスは今、セントロールスの屋上にいた。
手すりに手を置き、そこからグラウンドを見下ろす・・・
数人の生徒達がボール遊びをしている。
そこから声も聞こえてくる。
こんな当たり前の光景をまた目にしている。心のどこかで、もう見ることはないんじゃないかと思っていたが。
何せ自分は、自分達はアウトサイダーだ。今ここにこうしている事は本来おかしい事だから。
しかし半年前の、何もかもが始まる前に毎日見ていた光景を、今また目の前にしている・・・
「またあの頃に戻った気分だ・・・」
そんな事を思いながら、マックスはふと独り言をつぶやいた。
そんな時だ。
「こんな所で、一人で何してる?」
その聞き覚えのある声はマックスの背後から聞こえた。
「デイヴィック・・・何でここに・・・」
マックスは後ろを振り向いて、ぼそっと言った。
そこには、こっちへ歩いてくるデイヴィックの姿があった。
私服の彼は、ラフな感じに見える。
「魔法学校には行ってないのかって?今は夏休み期間だからな。」
デイヴィックはマックスの隣に近づいた。
「それにな、俺達はもう17歳だろ。就職活動とかで、新年から受けなきゃいけない授業も激烈に少なくなるんだ。まぁ、俺はもとからまともに授業受けてないから関係無いようなもんだな。」
「ん?17歳だから就職活動って・・・どういう意味なんだ?」
マックスが言った。
「ああ、そうだった。マグル界では成人は18からだそうだな。魔法界では17からなんだ。」
「なるほど、そうなのか。魔法使いなのに今初めて知った。」
「無理もないさ。」
そしてマックスの顔を見ながら、彼は続ける。
「それにしても何だ?浮かない顔だな。学校の事件が片付いたって聞いたから見に来てみたら、屋上に一人で突っ立って。まだあの事引きずってるのか?」
「あの事・・・?」
マックスが言った。
「レイチェル・アリスタだよ。」
「ああ、その事なら心配いらない。もう落ち込んだりしないさ。」
マックスは少々強気で言った。
「それなら良かった。なら他に何か引っ掛かる事でも・・・」
デイヴィックは言った。
「いや・・・特に何もないけど・・・」
マックスはとりあえず新たな問題事でもあるのかと考えてみたが、思い当たるものはこれといって出てこなかった。
だが、デイヴィックから浮かない顔だと言われた通り、確かに何かもやもやした気分である事に違いはなかった・・・
「そうか。まぁ、あんまり何でも考え込みすぎるなよ。」
デイヴィックがマックスの心を察してそう言った。
「所で、そっちは今どんな活動をやってるんだ?」
「いや・・・ああ、まぁ一応指示はあったけど。」
マックスは校庭の方を見たまま言う。
「今はここで大人しく生活しつつ、地下の魔光力源の監視をしろ。それがサイレントからの指示だ。要は、大した活動はしてない。」
「まぁ俺達のほうもまだ大した任務は無くてな。出来るときには魔力を鍛えてる所だ。でもそのうち俺のチームだけでは手に負えないような事もあると思うんだ。その時は・・・」
「ああ、もちろんだ。俺も二つのチームでより強力なチームプレイが出来る事を望んでいる。」
マックスが言葉を繋げるように言った。
「ああ。俺もだ。」
そう言って彼は嬉しそうだった。
程なくして学校のチャイム音が鳴り響き、彼はこの場を後にした。
マックスもすぐに校内へと戻るのだった。
また授業か・・・
そう思いながら廊下を歩く速度は実に遅い。
その足取りにやる気の無さが反映されているのは言うまでもないことだ。
やがて廊下にあふれていた生徒達がほとんどいなくなり、再びチャイムが鳴った。
マックスもその時には教室の机に着いていた。
今から物理の授業が始まる・・・物理なんか魔法を使えばどうとでもなる。全く興味が沸かない。
興味が沸かないのはこの授業に限った話ではない。全ての授業がそうだ。
しかもナイトフィストに足を踏み入れた今、更に授業を受ける意味が無くなったわけだ。
本当ならば全ての授業をスルーして魔法の勉強や術の訓練に時間を使いたい所だ。
だが学校で問題児になっては面倒な事にしかならない。
こんな事でテイルに迷惑はかけたくないし、サイレントの指令は、あくまで表向きは穏便な学校生活を送る事だ。
要は、目立つなという事。
学校生活が再開してからは、正直少しほっとした。
かつてのような学校の日常風景を再び見て、平穏な空気に気持ちが落ち着いた。
だが二週間ほど過ぎた今、どうだ・・・?
ナイトフィストの活動から切り離され、ただ他の生徒達同様の学校生活を送る毎日だ。
何も変わらない現状。全てが無意味に思える学校生活。音沙汰の無いグロリア関連の情報・・・
黒板の前に立つ教師の話を全く耳に入れず、マックスはただ窓の外をずっと眺めていた。
彼の心は更に落ち着かなくなっていく・・・
この時間はこうして過ごし、授業終わりのチャイムが鳴ってから彼はすぐに立ち上がった。
生徒達と同様、人混みに紛れながら教室から出て、廊下を歩く・・・
この騒がしい空気の中にいると、自分がどれ程場違いなのかとつくづく思い知らされる。
マックスはゆらゆらと歩き、自分の寮へと向かった。
その頃、彼の向かっている寮室は今日の授業を終えた生徒達が複数いた。
そんな中、隅っこのテーブルにてあの三人が集まっているようだった。
「何だか懐かしいよな、この感じ。」
ディルが言った。
「このテーブルに集まって、こうやって話して。昔チームで遊んでた頃みたいだろ。」
「やっぱり皆そう思ってるんだな。」
次にジャックが言った。
「あの頃とはあたし達の状況が変わりすぎたからね。またこうして制服着てるだけでも、何か変な気分。」
ジェイリーズが言った。
「まぁ、こうして穏やかな学校生活を送れ・・・それが今の指令だというなら、今はこの生活を味わおうじゃないか。」
そしてディルは立ち上がった。
「よし、腹が減ってきた。皆どうだ?」
「俺はまだいいよ。」
「あたしも・・・」
二人はそう言った。
「まったく寂しいぜ。あいつはまだ来ないし。じゃあ俺一人行ってくるかぁ。」
ディルがそう言って動こうとした時。
「わかったわよ。あたしも付き合う。」
ジェイリーズがしぶしぶ立つのだった。
「そうこないとなぁ!そうなるとジャック、お前もどうよ?皆で食ったが旨いだろ。」
ディルはジャックに視線を向ける。
「二人で行ってこいよ。俺はあいつを待ってるんだ。」
本当はついて行っても良いかと思ったが、内心を無視し、どういうわけかジャックは反抗した。
「これから呼べばいいじゃないか。まぁ、とりあえず俺達は先に行っとくぞ。腹が待ちきれないからなぁ。」
そう言ってディルは早速歩きだしたのだった。
ジェイリーズは一瞬、一人残ったジャックに何か言いたそうな顔をした後、去っていくディルに着いて行った。
「さぁて、今晩のメニューは・・・」
そう言いながらディルは寮室を出たが、すぐに立ち止まった。
「おう、マックス。丁度いい。」
そこに正面から歩いて来たのはマックスだった。
「ディル、ジェイリーズも。まさか、飯か?」
「話が早いな。お前もどうだ?」
そう言われたが、マックスはまだ何も食べる気は無い。
「俺はいい。」
「二人ともつれないな。」
ディルが言った。
「そうだ、ジャックはどこにいるかわかるか?」
「寮室さ。お前を待つって言って一人でいるぞ。何かお前に直接用でもあるんじゃないか?」
「俺に?」
マックスには心当たりがなかった。
「じゃあまた後でな。」
そしてディル達はまた歩きだした。
マックスはとりあえず寮室へと向かう。
そして扉を開いて少し見渡すと、すぐにその場所はわかった。
マックスは行き交う生徒をかわしながらひとつのテーブルに歩いた。
「俺を待ってたそうじゃないか。何かあるのか?」
マックスは、テーブル隣の椅子に腰かけている男に言った。
「ああ、お前か。気づかなかったよ。」
彼、ジャックはマックスの方へ振り向いて言った。
「用か・・・いや、特に何もないんだけど・・・ただ適当に言っただけなんだ。」
「どういうことだ?」
「気にしなくていい。意味は無いさ。」
ジャックはそう言った。
「そうか、まぁいいや。それより・・・」
マックスは向かい合うようにソファに腰かけて、改めて話を始めた。
「この現状、どう思う?」
それはあまりに唐突な言葉だったが、ジャックには彼が何を考えているのか大体わかったのだった。
「正直、意味を感じていないな。いつまでこれが続くのか、その先に彼らが何を考えているのか・・・不安かな。」
ジャックは静かに言った。
「そうか、お前もか。俺も、サイレント達が俺達をどうしようとしているのか、わからなくなったな。俺達はまだろくに戦えないから静かにしていろ。そうとも受け取れる指示だ。」
マックスが真剣な目つきで言った。
「まぁ、それももちろんあるだろうけど。ただ、俺達の身を心配してああ言ったってのが一番の理由だろうよ。それに、下手に俺達に騒動を起こされても厄介だろうしな。」
ジャックが言った。
確かにサイレントの話しでは、最近魔法界の各地でグロリアの活動が目立っているらしい。
こんな時に俺達が足を引っ張るような事は避けたいと思うのは普通だ。
「それはそうかもしれないけど。でも・・・このままじゃあ俺達は今までと何にも変わらない。やっぱり俺達は俺達で出来る事を考えてすべきだ。ナイトフィストとしての、俺達自身の将来の為にだ。」
マックスは今日のデイヴィックの話を思い返しながら言った。
「俺も、同感だな。」
ジャックは言った。
「それじゃ、どうかな?本を読むだけじゃつまらないなら、また隠れて魔術の特訓でもするのは?」
マックスが言う。
「ああ。それもいいな。」
「そうこないとな。」
その後、彼らは寮室を飛び出すのだった。
時を同じくして、魔法界ではピリピリしたムードが漂っている・・・
「では残りのニール、オーシング、ブレント支部、各支部の現状報告を。」
ひとつの扉の奥から声が聞こえてくる・・・
「ニール支部より報告。こっちは敵の目撃記録に更新は無し。」
「オーシングのほうは引き続き攻撃チームが追跡調査中。」
何やら複数人が会話をしているようだ。
「わかった。近辺で活動している者はいないか調べる。見つかり次第そっちの応援に回す。」
「了解。」
「よし、では次だ。」
するとまた違う声が答える。
「ブレントでは新たな情報があります。」
「何だ?」
「四日後に、グロリアの一団が召集をかけると。どうやらこちらブレントの管轄区域だという話です。」
その時だった。
一人の男が扉の前に現れ、扉を勢いよく引き開けた。
「その情報は嘘だ。」
皆、突然現れて言った彼の言葉に反応し振り向く。
その部屋には一人の男がいて、壁に貼り付けられた三枚の巨大な鏡と向かい合っていた。そして鏡の中にはそれぞれ一人ずつ違う男の姿と背景が映っている状況だった。
「急に何だ?」
鏡の前に立つ男が言う。
「その情報は誰から?」
現れた男は鏡に向かってそう言い、そのまま部屋の中へ足早に入っていく。
「つい最近こちらに派遣されて来たバロンズという男だ。サイレント、君がもともと所属していたニール支部の人間だ。彼の事は知っていると思うが。」
「ニールの事ならよく知っている。その男はナイトフィストではない。バロンズなんて男はいないからな。」
彼、サイレントは鏡の中の男に向かって言った。
「何だと?・・・じゃあ・・・」
「マルスの件は聞いただろう?」
「マルス、まさか・・・」
鏡の中の男は言葉をつまらせた。
「そうだ。ヴィクラス・ロンバートさ。私は奴がブレント支部方面に現れたという情報を聞いた。奴が顔を変えてバロンズと名乗って偽の情報を伝えたのだ。」
「なぜそんな事・・・」
三枚の鏡の前に立つ男が言った。
「スパイは敵だけではない。マルスの件が判明した後、私の信頼する仲間がロンバートをずっと追っていた。その結果、今奴が動きだした事がわかった。少なくとも奴が話した事は嘘だ。我々を指定した場所に誘き出して何を企んでいるかは知らんが、奴は次なる手を打つつもりなのだろう。おそらくバスク・オーメットの指示だ。」
サイレントは言った。
「そうか。それは有難い情報だ。皆、聞いたな。」
男は三枚の鏡に向けて言った。
「了解した。そういうことなら、彼の送り込んだスパイと連携して四日後に備えよう。」
「何かロンバートの動きに変化があれば報告を頼む。それから他の支部のほうも、何か気になる事があれば調査し、どんな些細な事でも報告するんだ。もちろん魔光力源に関する事もな。以上だ。」
男がそう言うと、いずれの鏡もこちら側を映すただの鏡となった。
「サイレント。いい情報を提供してくれて有難い。君と仲間がニールからこのロンドン支部に来てからというもの、実に助かっている。良いグループだ。」
「それは自負しているつもりだ。では、また情報が入り次第。」
そしてサイレントは作戦会議室を後にしたのだった。
彼が通路を歩いている最中、突然にポケットから鈴のような音が鳴り出した。
サイレントは立ち止まって、スーツの内側に手を突っ込んで手鏡を取り出す。
小さな鏡面に手をかざすと音は止まり、そこには一人の人物の顔が浮かび上がっていた。
「リビングストン。どうした?」
サイレントが手鏡に向かって話しかけた。
「ウェンド。曖昧だが、新たに思い出した事があるんだ。」
鏡の中から小さな声が聞こえた。
それは、とある病室でサイレントが会っていた男の声だ。
「そうか。どんなことだ?」
サイレントは目つきが変わった。
「地下の広間・・・そこにあったのは、おそらく君の言う魔光力源とかいう物だ。それに、俺の他にも男達が五人・・・彼らは、仲間達か・・・」
「その男達の顔や名前は?」
サイレントが言った。
「いや・・・悪いが、まだそこまではわからんな。」
「そうか。しかしよく思い出してくれたな。この調子で少しずつ思い出すんだ。焦らなくていいさ。また何か思い出したら頼む。」
そして彼は手鏡をしまったのだった。
彼はその場で考えた。
「地下の魔光力源というと、セントロールスの事だろう。そこに彼と五人の仲間が訪れたことがあるというのか・・・どうやって中に?」
サイレントは立ち止まったまま腕を組んだ。
「五人の仲間。彼も合わせて六人だ。そういえばあの部屋の奥に開かない扉があったな・・・確か、六枚だ・・・」
「サイレント・・・」
突然のその声でサイレントは我に帰った。
「ああ、ザッカスか。」
「どうした?考え事か?」
そこにはザッカスが立っていた。
「ああ。たった今リビングストンからの連絡があった。少し記憶が戻ったようだ。」
「本当か。で、彼は何を?」
「リビングストンはどうやらセントロールスの地下に行った事があるらしい。それに、彼の仲間も一緒にな。どうやって入ったのか、何をしていたのかは全くわからない。」
サイレントは今一度考えながら言った。
「そうか。まぁ、そのうち思い出してくれる事を願おう。」
ザッカスは言った。
「そうだ。サイレント・・・」
「何だ?」
彼は、ザッカスのテンションが変わったのを感じた。
「話は変わるが、これも大事な事だと思ってなぁ・・・」
ザッカスは落ち着いた声で話を続けた。
「そろそろ、マックスにちゃんと話すべきだろう。あの日の事。それに、君とギルマーシスについての事も。」
サイレントは一旦落ち着き、口を開いた。
「唐突だな。今、なぜそれを・・・」
「ずっと思っていたさ。君自身だって、そうじゃないのか・・・?」
また少し間が空き、彼は言った。
「話はわかった。考えておく。」
「なぜそんなに拒むんだ?君が何をちゅうちょしているのか、俺にはわからんな。」
「今は関係ないからだ。余計な情報は彼への負荷になるだろうからな。」
そう言ってサイレントはその場を歩きだした。
「あの子の為にもだ。親しかった君の口から父親の話を聞きたいことだろうよ。」
ザッカスは去っていくサイレントの背中にそう言った・・・・
その頃・・・
二人の少年は草木をかき分け、ある場所に到着しようとしていた。
「あの二人には今メールを送った。後は返事次第だな。」
ジャックが背の高い草村を歩きながら言う。
「まぁ俺達だけでもやるさ。」
マックスも同じく草村の奥へと進む。
そして彼らが最後の草木をかき分けた先、これまでの林の地帯とは一変した空き地が現れた。
マックスからその訓練場の地面に足を踏み入れる。
元々草村だったこの場所の草木を、彼が焼き払って作った空間な故、ここの地面に雑草がわずかに生えてきているのがわかった。
空き地の中央に立つと、マックスは早速ズボンのポケットから炭色の杖を取り出した。
そして空中に弧を描くように杖を振る。
「マフリアート・・・レペロ・マグルタム」
空き地全体の空気が振動する。
「これで存分にやれる。さあ、公園で行った特訓の続きといこうか。」
マックスはジャックと距離を取って立った。
ジャックも向かい合って立ち、黒いグリップが付いた荒削りの木の杖を握った。
「無言呪文の練習だな。」
彼は言った。
「そうだ。今後の俺達に求められる必須の課題だ。」
二人は杖を構えた。
「ルールはシンプル。使用するのは武装解除とガードの呪文だけ。先に三回杖を取り上げた方が勝ちだ。」
マックスが言った。
「面白いな。早速実践か。」
「ああ。いくぞ!」
一呼吸分の間の後、二人はほぼ同時に杖を振り始めた。
双方の杖先が瞬き、二人とも体全体を使って術の射線上から身を避け、また相手の杖を狙う。
パシン、パシンと絶え間なく呪文発動の音が交互に鳴り続ける。
両者とも身のこなしで術をかわしたり、杖でガードしたりを繰り返し、攻防のスピードはどんどん早くなる。
そして少しずつ息が切れてきた。だが決着はつかない。
そして15分程経った頃だろうか、ジャックが声をあげた。
「待て!メールだ。」
マックスは振ろうとする杖をすぐさま下ろした。
「ディル達か?」
「ああ。ジェイリーズからだ。」
ジャックは携帯電話を開いた。
そしてジェイリーズからのメールの内容を確認するなり、少し残念そうに携帯電話をしまったのだった。
「・・・訓練は中止だ。」
「何だって?」
マックスは訳がわからなかった。
「学校の敷地内ではなるべく魔法を使わない方が良いだろうから、訓練は公園内だけにしようって・・・ジェイリーズが。」
「それは・・・正しいかもしれないが。でも、こうやって消音やマグル避け呪文もかけてる。気にしすぎるんじゃないか?」
マックスはサイレントの指示に背く行為だとわかっているが、それでも魔法の実践を止めたくはない気持ちが込み上げる。
「俺も、気持ちは一緒だ。でもサイレントの指令もある。ここはジェイリーズの言う通り、今は我慢すべきなんだろう・・・」
「その今は既に二週間は続いてるんだ。それなのに、ただひたすら学校で授業を受け、学校で寝泊まりしろ。それがいつまで続くのか・・・」
マックスの感情は徐々にがっかりから苛立ちに変わっていく。
「それは俺だって・・・」
「わかってるよ。そうするのが懸命だ。今日はとりあえず止めよう・・・」
マックスは杖を握りしめてその場を動き出した。
「ああ。」
ジャックも後についていく・・・
その日はそのまま何をすることもなく、寮で大人しくして夜を迎えるのだった・・・・
翌朝、マックスは自分の個室にてパッと目が覚めた。
なぜだかいつもより目が冴えている。
時計を見ると、いつもより一時間は早い。
そして起きてすぐから何だか落ち着かない気分だ。
それは決して悪夢を見た日の感覚とは違う。
言うなれば、体がじっとしていられない感覚だった。
マックスはスッとベッドから起き上がって制服に着替えると、すぐに机の上の杖に手を伸ばした。
何も考えてはいない。ただ、反射的に手が杖を触った。
手に取るが、今の自分達にはこれを持っていても使うことはない。それが現状なのはわかっている。
マックスは杖を握る拳に力を込め、一振りすると、目の前の小棚が思いきり粉砕したのだった・・・
この日もいつもと変わらず長い授業が始まった。
しかし今が何時間目かもわからない。
なぜならマックスは今、旧校舎にいるからだ。
ボロボロの壁や床、教室の光景を目にしながら、彼はここで起こった出来事を思い出す。
ジェイリーズがレイチェルを追跡した後、ここで被害にあった。
レイチェルが服従の呪文でゴルト・ストレッドを操って攻撃させたんだったな。
あの事件を聞いたときはびっくりしたもんだ。初めて人の身を心配したかもしれない。
何せ、自分の身の事もろくに考えたことなかったのだから・・・
マックスは今は使われない荒れ果てた教室の角を曲がり、一直線の廊下に出る。
ボーラーをいくつか設置したこともあった。この辺りにも確か置いたかな。
まぁ、既にレイチェルによって処分されているが・・・
更に廊下を進んだ先の階段を登り、鮮烈な記憶が詰まった旧校舎六階へと足を踏み入れた。
旧校舎六階の廊下・・・ここでは色んな事があったなぁ・・・
デイヴィック達と共にバスク・オーメットと戦ったのもここだ。
それに、ずっと追っていた黒幕が判明したのも・・・
マックスは歩き続け、六階廊下の突き当たりが徐々に迫る。
そして最後の部屋の入り口が目線の先に見えてきた。
マックスは立ち止まった。
「扉はない・・・」
他の教室同様、入り口のドア枠だけがあり、中の様子が見てとれた。
つまりそれは、今では空間転移の魔法は作動していない事を意味している。
「今日も学校に姿を見せなかった・・・当然か・・・」
マックスはしばらくして、来た廊下を戻っていった・・・
今、静かな旧校舎に放課後のチャイム音が聞こえてきた・・・・