Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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新章-第十一幕 夏の終わり

今、廃公園の敷地内で閃光が瞬いている。

呪文と呪文が飛び交う音が続く。それは高速で繰り返されているようだ。

 

マックスは杖を握りしめて、前方のジャックが絶え間なく飛ばしてくる閃光に意識を集中し、杖先で防いでいく。

ジャックのほうも負けずと術を連発し続ける。

どちらも、呪文を一言も口にしない。

 

そしてしばらくお互いの攻防が続いた後、マックスが片方の手で合図を出した。

「よし、もういいだろう。」

 

ジャックは杖を下ろし、マックスの元へと近づいた。

「どうだったかな?」

「良い感じだ。まずは無言呪文の感覚には慣れたようだな。」

 

すると二人の元へディルとジェイリーズもやって来た。

「二人とも、凄かったぞ。」

「魔法学校の生徒顔負けの速さじゃない?」

二人がそう言うと、ジャックが振り向いた。

「でもあくまで今のは同じ呪文の連射だ。まだ実際の戦闘では活かしきれないだろうよ。」

 

「俺達は無言呪文に慣れる必要がある。だからまずは呪文を連続で行使する感覚をつかむ所からだ。今やってみた所、確かに十分なスピードだったと思うぞ。」

マックスが言った。

「でも、今やっただけでも術の連射ってまあまあ疲れるんだな。こいつは良いトレーニングになるよ。」

ジャックが言った。

 

「よし、次はディルとジェイリーズもやってみるか。」

そう言ってマックスがその場を退いた。

 

「やろうじゃないか。ジェイリーズ、お手合わせ願うぞ。」

「じゃあ、まずあたしが先制攻撃ね。しっかりガードしてよ。」

するとジェイリーズが早速杖を構える。

「ちょっと待った!まだ準備が・・・ずいぶんとやる気だな。」

 

その時だった。

 

「確かにな・・・」

突然、公園入り口の方から声がしたのだった。

「ここもずいぶんと物騒な公園になったものだな。」

微笑しながらそう言い、敷地内に入ってきたのはサイレントだった。

直後、彼に続けてあと二人の男も姿現しで出現する。

 

「そうか。もうそんな時間になってたのか。」

マックスが彼らを振り向いて言った。

 

「ずっと特訓を続けていたんだな。本当にやる気がある若者だ。」

サイレントがそう言った後、隣の男が口を開いた。

 

「君らと話す機会を楽しみにしていた。」

「同じくだ。」

続けてもう一人の男が言う。

 

彼らはマックス達の方へ近づき、再び話した。

 

「改めて、ザッカスだ。君達の事はサイレントから聞いているぞ。今後ともよろしく頼む。」

「私はライマンだ。ようやく君達と直接話ができてうれしい。」

二人は並んで挨拶をした。

 

マックスは二人の顔を覚えている。

 

確かに、セントロールスでバスクと戦った時に助けてくれた彼らだ。

しかしマルスの姿はもう無い。いや、既にあの時からマルスはマルスではなかったのだ。

恐ろしい事だ。あの戦いの時バスクとマルスに化けたヴィクラス・ロンバートは芝居をしていた訳だから・・・

 

そんなことを思いながらマックスは喋りだした。

「こちらこそ、改めてマックスです。それと、仲間のジャック、ディル、ジェイリーズです。」

彼は後ろの皆を指差しながら言った。

 

「さあ、立ち話もなんだ。地下でじっくり話をしよう。」

サイレントが言った。

 

そして彼らは地下へと場所を移した。

 

地下室の床に足を踏み入れると、皆が机の周囲に集まり、椅子に腰掛ける。

 

「では、早速我々の話し合いで決まった事から順に話していこうか。」

ライマンが最初に口を開いた。

「君達の在学するセントロールス高校での殺人事件の真相は聞いてるかな?」

 

「はい、サイレントから。」

マックスが言った。

 

「何とも恐ろしい事実だ。そして私達にとって本当に残念な事だった。当然、こんな真実にマグルの警察がたどり着けるはずがない。そこでだ・・・」

ライマンは隣の席に座るザッカスに目線を移す。

 

それからザッカスが続きを話しだした。

「事件の真相がはっきりした今、もはやセントロールスを警察に封鎖させている意味はない。そこで俺達はセントロールスの休校を強制終了させるという決断に至った。」

 

「強制終了?つまり学校を再開させるって、そんなことが・・・」

「俺達の魔法をなめてもらっちゃ困るよ。」

ザッカスがディルの言葉を遮った。

 

「ナイトフィストにはいくつかの役割分担があってな。その中に掃除屋と呼ばれるグループがある。」

「掃除屋?」

マックスが言った。

 

「文字通りの集団だ。主にマグル界で魔法関係の騒動が起こってしまった時にその後片付けをして、更にマグルの記憶を操作して彼らの頭からも魔法の痕跡を消す。それが役割だ。」

 

「すごいや。何かスパイ映画みたいだ。」

ディルが言った。

 

「それと、セントロールスの休校を終わらせるもうひとつの理由がある。」

次にサイレントが話し始めた。

「セントロールスには、君達が発見した魔光力源がある。グロリアがいつ潜り込むかわかったものじゃない。だから学校を再開して、校内を人で溢れさせたほうが奴らの妨げになると考えた。奴らも変にマグル界で暴れて、厄介事はなるべく抱えたくないだろうからなぁ。」

 

「なるほど。」

ジャックがマックスの近くの席で言った。

 

「そうすると、君達に新たな任務も命じられる。」

サイレントは言った。

 

「新たな任務?」

マックスは好奇心が高まるのを感じた。

 

「ああ。それは、セントロールスでの大人しい生活をしてもらうことだ。地下の魔光力源に関しても、ナイトフィストの監視をつける。任せておけ。」

サイレントがそう言った直後、マックス達は唖然とした。

 

「えっ?どういう意味なんだ?」

マックスは困惑しながら言う。

 

「ロンドンのナイトフィスト情報管理所襲撃といい、昨日のバスク・オーメットの作戦・・・そして今日、グロリアがイギリスの各地で多数目撃されたという報告がいくつもある。奴ら、今までより明らかに本気で行動を起こし始めているのがわかる。」

 

彼は続けた。

「君達は今現在、ナイトフィストの誰よりもセントロールスの魔光力源に近づいた者達だ。そしてあのオーメットがどういう意図か、マックス、君に目をつけている。今、君達はかなり危険な状況下にいるんだ。」

 

ここでマックスが口を開いた。

「それ以上は言わなくても、それはわかっているけど・・・」

「俺もな。」

ジャックが続けて言う。

 

「察してくれたか。」

「ああ。でもその指令には引っ掛かるよ。」

ジャックは続けた。

「一般の生活を続けるか、ナイトフィストになり敵と戦うか・・・俺達に最初に出会った時、あなたが言った事だ。そして俺達は戦う事を選んだんだ。」

「更に、ナイトフィストに入れば必ず命の危険が伴う。ここから先は遊びではない・・・あなたは念を押してそう言ったはずだ。それを聞いて尚、俺達はナイトフィストの道を選んだ。」

言葉を繋げるように、マックスが言った。

 

「それに、サイレントは俺達の意思を尊重するとまで言った。ならばナイトフィストとして戦うってのが俺達の意思さ。今更考えは変わらねぇ。」

続いてディルが言った。

 

「危険は今になって始まった事じゃないわ。ねぇ、サイレント。あたし達を仲間に誘うために見ていたんでしょ?そして成長させるために魔法界の勉強もさせたんでしょう?」

ジェイリーズがサイレントを一直線に見つめて言った。

 

「もちろんだとも。もちろん君達が言っている事は正しいとも。だが事態は変わった。今はグロリアの事は大人の私達に任せて身の安全を第一に優先してほしい。それが今の任務だ。」

 

すると彼の横からザッカスが口を挟んだ。

「やはりちょっと強引すぎるんじゃないかサイレント。彼らの気持ちは本物だし、意思は固い。身を護りたいのは俺も同じだ。だが彼らはもはやただの子供ではない。14年前とは違う。もうナイトフィストの一員だ。同士の意思も尊重すべきだろう。」

 

サイレントは口を閉じて、マックス達をじっと見ながら考えた。

そして一息ついてから落ち着いて話を続けた。

 

「・・・そうだな。わかった。では地下の魔光力源の監視は任せるとしよう。だがくれぐれも周りには注意しろ。好奇心で危険に身をさらすことだけは絶対に駄目だ。」

 

「わかった。地下の監視以外はなるべく大人しくしてる。ありがとう。」

マックスが言った。

 

「いや、私こそ少々強引だった・・・」

 

ひとまず彼らの話が落ち着くと、次にマックスの方から話を切り出した。

「そうだ。今日はあなた達としっかり話せるせっかくの機会だから、今俺達が気になっている事についても話がしたいと思っていたんだけど・・・」

 

「うん。聞こうじゃないか。」

ザッカスが関心を寄せてくれた。

 

「これは、もしかしたらあなた達に言っても答えられない事なのかもしれないけど・・・でも、俺達の中では一つの推論が出来ている事です。それは、セントロールスにこんなにも魔法使いが入学している事。それも、俺達は皆共通する過去を持っているという事実付きで・・・」

 

それを聞いて、ザッカスら三人は静かに顔を見合わせた。

 

マックスは更に続ける。

「まずは俺達の推論を言います。それは、ずばりナイトフィストの意図的な計画。俺達を同じ場所に集め、グロリアから遠ざけた・・・」

 

三人は黙ってマックスの話を聞いている。

 

「そうすれば、俺達を次世代のナイトフィスト候補者を確保する事も容易だ。これが俺達の推理した結果です。次はあなた達の言葉を聞きたい・・・」

 

彼の言葉の後、口を開いたのはザッカスだった。

 

「ああ。もう、ちゃんと話すべき時だ。何も隠す意味もないだろう。」

彼はサイレントとライマンに向けて言ったのだった。

 

「そうだな。いつか伝えようと思っていたさ。今が丁度いい時だな。」

サイレントがそう言うと、ライマンもうなずいた。

 

サイレントは改めてマックスに向き直り、彼らの欲する答えを告げるのだった。

 

「君達の思考は優秀だな。今、君が言った推論は概ね正解だ。」

「やっぱり・・・そうだったんだ。じゃあ、セントロールスに俺達を入学させるためのカラクリは?」

マックスの好奇心は猛スピードで加速する。

 

「それについても、だいたいの検討はついてるんじゃないか?」

サイレントが言ったことはもっともだった。

 

「ナイトフィストの人間が、俺達の側にずっとついているわけではなかった。となると、俺達を誘導出来うる人間は限られる。それは身内しかいない。つまり・・・今現在の俺達の保護者だ。」

マックスは以前、自分達で立てた推論を言った。

 

「見事だ。もはや説明の必要もないほどな。」

サイレントは言った。

「14年前の惨劇の後、我々は生き残った子供達の保護及び可能な限りのナイトフィスト人員確保を行うために、彼らの親族を探した。その時に我々の計画を話して、私達が影ながら見守っていく事を約束した。」

 

「私達は魔法界だけでなく、マグルの町にも避難させようと考えた。魔法界から遠く離れたこのバースシティーは避難場所の一つというわけだ。そしてナイトフィスト隠れ家を造ってこの町を監視することにしたんだ。」

ライマンが続けた。

 

「でも君達四人が、そろって同じセントロールスという学校へ集まったのは偶然だ。そして何より驚くべきは、そこに魔光力源なる物があった事だ。これはまさに運命の導きとしか思えない。」

ザッカスが言った。

 

「運命って?」

マックスが言った。

 

ザッカスは、改めてマックスの顔をしっかりと見つめて口を開いたのだった。

 

「それは・・・君の父親は魔光力源の調査をしていたからなぁ・・・」

ザッカスが言った瞬間、マックスは訳がわからなくなった。

 

「魔光力源の・・・調査?」

混乱する様子のマックスに、ライマンがゆっくりと喋った。

 

「マックス、君には色々と話さなければならない事がある。彼の息子に、直接伝える時がようやく来たか・・・」

そして彼は、昔の記憶を呼び起こしながら話した。

 

「ギルマーシス・レボットは、私とザッカス、そして今は亡きマルスとグループを組んで活動していた。君の父親は優秀なナイトフィストの一人だったんだ。」

 

「俺の父親が、ナイトフィストだった・・・」

マックスが驚くと共に、チームの皆も驚きの表情を浮かべた。

 

彼らの会話はまだまだ続く・・・・

 

 

 

 

場所は変わり、バースシティーから遠く離れた魔法界にて・・・・

 

魔法界の都市、ウィンターベール地方の海原に浮かぶ島・・・

その頂上にそびえる黒い館、グロリア砦の中に男はいた。

 

窓から斜光が注ぎ込み、暗い部屋が斜めに明るく照らされる。

 

彼はその光に包まれながら、何やら語り始めた。

 

「14年前の記憶が甦るようだ。あの時もここで、こうしてもうすぐ沈みゆく太陽を眺めていたかな・・・」

 

その男、バスク・オーメットはゆっくりまぶたを閉じた。

 

「あの日、あの時の声が聞こえてきそうだ・・・君の父親の声だ。」

 

少し離れた所には、バラ飾りが付いた漆黒のワンピース姿の少女がいた。

 

「あの日の彼の目は輝いていた。我らがグロリアの大きな夢が、これから実現に向かう瞬間だったのだからなぁ・・・」

 

彼の話を少女は黙って聞いている。

 

「そして今、新たな声が私に語りかけてくるようだ・・・戦いを終わらせろと。その為に、戦えとなぁ・・・」

 

「もちろん。あたしも、父さんの思いと一緒だったわ。」

少女、レイチェルはそう言った。

 

バスクは目を開けて、後ろを振り向く。

「私もだ。だから早く、私達の崇高な計画を絶対に成し遂げなければな。彼が常に見守っている。」

 

レイチェルは黙ってうなずくと、静かに部屋から姿を消したのだった。

 

太陽は傾き、夕日がよりいっそう彼を明るく照らした。

 

彼は何かを思いつめながら窓際にたたずむ。

「彼は実に純粋なグロリアの崇拝者だった。だから彼の願いは、グロリアの願いだ・・・しかし今、謝らなければならない。今の私は、君が願っていたものと全く同じ結末へは向かおうとしていない・・・」

 

するとバスクはポケットに手を突っ込み、銀に光る指輪を取り出した。

 

指輪を口元に近づけて、彼は喋る。

「マスターオーメットより各駐屯地のマスター達へ告ぐ。明日より全駐屯部隊の一斉行動を開始する。マスター諸君はイギリス各地のナイトフィスト調査隊全滅の指揮を任せる。」

 

そして指輪を再びポケットにしまった。

 

「最後の一手は我々が打つ。その為に反乱分子は全て消さねば。私が計画を成し遂げるのだ・・・」

自分に言い聞かせるようにつぶやいた後、彼は姿を消したのだった・・・・

 

 

 

再び、バースシティーの地下隠れ家にて・・・・

 

マックスは、ナイトフィストが行った子供の保護計画の概要に加えて、自分が全く知らなかった父親に関する事実を聞かされた。

 

父はナイトフィストで、ザッカス達とグループを組み、ある調査をしていた事。

 

それはグロリアがしきりに探していた物・・・大いなる力・・・

それが今となってはわかる。今まさに自分達が直面している問題、魔光力源だという事。

 

マックスは父親のしていた事と、今の自分を比べて考えた。

 

父親のグループが調査していた魔光力源の一つを、自分達が実際に発見してしまった。

そして親と同じくナイトフィストの道に足を踏み入れたのだ。

 

ライマン達から話を聞いた今、確かに全ては運命の導きのように感じられる。

 

「そうだマックス、自分の事も話しておくべきだろ。」

隣に座るジャックが言った。

 

「ああ。そうだったな。」

予想もしなかった情報量を詰め込んだせいで、マックスは危うく聞こうとしていた事を忘れそうになっていた。

 

「最後に、これは最近俺の身に起きた事なんだけど・・・」

彼は、あの時の感覚と光景を思いだしながら話をする。

 

「突然、ものすごい力が沸き上がるような感覚がして、と思ったら意識がどんどん遠くなって・・・で、気がついたら無意識に敵を攻撃していた。後で皆に聞いてみたら、その時俺の体が赤いオーラを放っていたらしい。」

 

それを聞いていたサイレント達三人は、信じられないというような表情で互いに顔を見合わせた。

 

「まさか・・・ネクストレベル・・・」

ザッカスが小声でそう言った。

 

「えっ、何ですって?」

「君、その時はどんな状況だったんだ?」

今度はライマンが質問をした。

 

「その時は、デイヴィック達がまだバスク・オーメットの手下だった頃で、彼らとの戦いでこっちが負けそうになっていた時に起こった。あの時は今までにないピンチを感じた。恐怖も。そして何より自分が仲間を守れない悔しさや苛立ちを強く感じた。それはよく覚えているよ。」

 

「絶体絶命の状況に、いろんな感情が沸き上がる・・・特に、内側への強い感情か。サイレント・・・」

ライマンはサイレントを向いた。

 

「ああ。この若さで信じられんが、これはネクストレベルの覚醒の始まりとしか思えないな。」

サイレントはそう言った。

 

「ネクストレベル?」

当然、マックスには何の事だかさっぱりわからなかった。

 

「魔法使いの発揮できる魔力の更なる覚醒の事だ。」

サイレントは説明を始めた。

「太古の魔法使い達は、現代に生きる我々よりも高度な術や強い魔力を持っていた。だが時代が進むに連れて彼ら魔法使いの祖先のような力を発揮できる者がどんどん減っていったんだ。だが現代でも、魔力が次の次元へ覚醒して彼らに近しい力を発揮できるようになる者も稀に現れる。そんな魔法使いをネクストレベルという。」

 

「そんな事が・・・それじゃあ・・・」

「君もその一人というわけだ。」

ザッカスが言った。

 

「ネクストレベルへの覚醒条件は個人で異なるが、君の場合は絶体絶命の状況が作り出した強い感情の高まりがトリガーだったようだな。もっとも、正確にはまだネクストレベルではない。意識を持って力を発動させ、意のままにコントロールできるようになってからが完全なネクストレベルだ。今後、完全に覚醒するかどうかは君次第だな。」

 

話を聞いたマックスは、これからのナイトフィストとしての自分の在り方を想像した。

 

「もし俺が本当にネクストレベルになれたら、将来ナイトフィストの騎士として、グロリアとの戦いで大いに活躍出来るというわけだ。」

 

「騎士か・・・」

サイレントは何か思い詰めたように静かに言った。

「かつて、そんな事を言って力に飲み込まれ、悲劇的な最後をむかえた奴がいた。強大な力が手に入るという事が必ず有益な事とは言えん。これだけは忘れないでほしい。君が同じような事にはなってほしくないからな・・・」

 

「ああ。わかったよ。」

とは言ったものの、彼がどんな過去の記憶を思い浮かべながら喋ったのか・・・

それはマックスには検討もつかないが。

 

「さて、そろそろ御開とするかな。今日は興味深い話が聞け良かったよ。」

「ああ、君達と話せて良かった。また時間がある時には、こうやって話し合おう。」

ライマンとザッカスが言った。

 

「俺達のほうこそ、色々な事がわかってよかった。今日あなた達と話せて良かったですよ。」

マックスは言った。

 

「それにしても、君達は大したチームだな。さすが、ギルマーシスの息子のチームだ。」

ザッカスが笑顔で言う。

「それは、否定できませんね。」

ユーモアをもって、しかし本心でもある言葉をマックスは言ったのだった。

 

そして彼ら三人の去り際に、サイレントがマックスに話しかけた。

「マックス、何か困った事があったらすぐに連絡してくれ。私達はいつでも味方だ。いいな。」

 

マックスはうなずき、サイレントもまたうなずく。

それから彼らは部屋を出て行ったのだった。

 

マックス達もすぐに解散して、各自公園を後にしたのだった。

 

 

日は落ち、町はだんだん暗くなっていった・・・

 

マックスは今、テイルと夕食を食べている最中だ。

 

二人はふと、テレビのニュースに反応した。

 

「ようやく事件解決したみたいね。」

「ああ・・・そうみたいだな。」

 

それは、セントロールスでの殺人事件が無事解決したというニュースだった。

 

聞けば、生徒を殺した犯人は後日、警官に変装してセントロールスの警備に紛れ込んで、証拠を隠滅しようとした所を警察官二人に見つかり、激しく争った後に誤って転落し死亡した。

しかし争いで負傷した二人の警官も、実は警察官ではなく変装して紛れ込んでいた窃盗グループだったのだ。

だから警官の格好をした三人の顔を、警察署の人間は誰も知らなかった。

 

という内容だった。

 

このシナリオを、ナイトフィストの掃除屋が考えてこじつけたという事だろう。

 

それにしても、驚くべき仕事力だ。

魔法を駆使して一日で事件の捜査に関わった人達を操り、この騒動を片付けたのだから・・・

 

 

「そうだ、ひとつ聞いていいかな?」

マックスは何気なく、とある話を持ちかける。

 

「ん?何?」

テイルはテレビの画面を見たまま言った。

 

「14年前、テイルの元に俺を運んだ男がいたって言ってたよね?」

「うん。急にそれがどうしたっての?」

「その人はナイトフィストという組織の人間で、俺の身の安全のためにこのバースシティーへ連れてきた。本当は、そこまで知ってたんじゃないかな?」

 

突然のマックスの言葉の後、食事をするテイルの動きが止まった。

 

彼は更に続ける。

「そして俺がセントロールスに入学することも、既に予定されていた。ということで間違いないかな?」

 

「あの人達に会ったんだね・・・」

テイルは目線をマックスに移した。

 

「・・・まあな。そして教えてくれた。」

マックスはすぐに、ナイトフィストの人間の事だと理解した。

 

「あんたの言う通りよ。全ては子供達の安全を考えた計画。14年前に、あんたをあたしの所へ運んだ人は、このバースシティーであんたを見守ると言った。あたしは、親戚でたった一人生きていたあんただけは失わないように、彼らの計画に賛成したのよ。」

 

ここでマックスはひとつ気になった。

自分を運んでくれた人は、この町で見守ると言っていた・・・

 

となれば、誰が自分をテイルの元へ運んだのかはかなり絞れる。

ずばり、今日話した三人の中の誰かだ。

 

「そうだ、俺を運んでくれた人って?」

大体の検討をつけながら彼は言った。

 

「本名はわからないけど、ただ自分は''サイレント''だと。」

「サイレント。わかった。」

それはマックスにとって、しっくりきた答えだった・・・

 

その後やることが何もなくなったマックスは、自分の部屋のベッドに仰向けになって、今日一日の情報を整理しているところだった・・・

 

ようやく判明した事実・・・

それは長い間、ずっと気がかりだった事。

全てはサイレント達ナイトフィストの計らいだったのだ。

 

14年前から、ナイトフィストがサウスコールドリバーの惨劇を生き延びた子供達を保護する計画が始まっていた。

 

彼らは親族に説明し、手を取り合う事で俺達を魔法界から遠ざけ、マグル界の指定した町に集めさせた。

 

そして可能であれば将来のナイトフィストの一員として迎え入れる。

それまでが彼らの計画だった。

 

正直、この推測はしていた。

本当に自分達の推理通りだとは・・・今はその事に一番驚いているかもしれない・・・

 

ともあれ、ずっと気になっていたこの謎がはっきりしたのは収穫だった。

だが本当に収穫になったのは、俺個人に関する事の方だ。

 

父親もナイトフィストで、ザッカス達と共にグループを組んで活動していた。それも魔光力源に関する調査だ。

 

更にはサイレントの教材を読んでもわからなかった、得体の知れない自分の力の正体が判明したのだ。

 

ネクストレベル・・・更なる魔力への覚醒。

これについては今後どう向き合っていくか、しっかり考えないといけない。

 

今日という日でこれまで気がかりだった事実をひとつ、またひとつと知った。

この調子で魔光力源に関しても、その全てを解き明かしたい。

そんな意欲も沸いてくるものだった。

 

しかし、今日サイレントから与えられた指令は、決して無茶が出来るような内容ではなかった。

勝手な行動をし過ぎてサイレント達を厄介事に巻き込むのは良くない。今は出来る事だけをしよう。

また何か気になるような事に直面した時には、この調子で解決させよう。

 

気になる事と言うと、今まで見てきた夢の内容だ。

はっきりとは覚えていないが、どれも意味深だった。

色んな会話が聞こえたり、何者かが語りかけてきたり・・・

これに関しては誰に答えを求めることも出来ない。

 

だが少なくとも一番新しい夢はよく覚えている。

14年前、まさに悲劇が起こったあの瞬間の内容だ。

 

これがどこまで実際の記憶なのか、はたまた全くの想像なのかは知る余地はない。

だが忘れてはいけない内容だという気がする・・・

 

それともうひとつ、気がかりな事はある。

これから、レイチェルとどう向き合っていけばいいのか・・・

 

今のマックスにとって、それが一番の気がかりなのかもしれなかった・・・・

 

 

 

 

翌日。

 

場所はロンドン時計塔裏隠れ家にて・・・

 

ただ今もう一つのチームの会議も行われていた。

 

「俺達もあいつらと連携を取って行動がしたい。だからもっと話し合わないといけない。」

その少年、デイヴィック・シグラルはザッカスとライマンを前にして言った。

 

「君達、変わったな。本当に良かった。」

ライマンがそう言った。

 

「それはあなた達と、マックスが後押ししてくれたお陰だ。だからナイトフィストの為の活動をすることがそのお返しだと思ってる。」

デイヴィックが言った。

「だからこそ、あいつらの力にもなりたいんだよ。」

 

「君の改心には本当に感心するな。君達の事は、マックスのチームと同様に私達がしっかりサポートさせてもらうぞ。」

ライマンがデイヴィックと彼の仲間達に向けて言った。

 

ここでザッカスが話に割って入った。

「すまんが、ちょっとサイレントに連絡を入れていいか?」

「ああ、そう言えば少し遅れぎみだな。」

ライマンが言う。

 

「少し外す。話を続けてもらってて構わんぞ。」

そう言って、ザッカスは少し離れた所で手鏡を手にしたのだった。

 

鏡を覗くと、彼はすぐに話しだした。

「おお、サイレント。そっちの用事は片付きそうか?」

彼の手鏡にはサイレントの顔が映し出されている。

「間もなく切り上げるつもりだ。すぐに向かう。」

サイレントは手短にそう言って、鏡面から消えたのだった。

 

その時鏡の向こう側では、サイレントは自分の手鏡をスーツの裏にしまい、前に向き直っていた。

 

ここは壁、床、天井の全てが白い部屋で、両サイドには壁に面してベッドが数台置かれている。

それらを見る限り、ここは病室のようだ。

 

サイレントは一直線に、窓際のベッドの所へと進む。

そのベッドの上には一人の男が横になっていた。

 

「悪いが、今日は時間がなくてな。また来る。」

サイレントはベッドの上の男に言った。

 

「すまんなウェンド。記憶がもう少し戻れば力になれるかもしれんのになぁ。」

その男は言った。

 

「全てはグロリアのせいだ。今は治療に専念しろ。この調子で治療がうまくいけば、何か重要な記憶も出てくるかもしれんさ。」

「だといいがな。」

その男は元気なさそうに言った。

 

「そう気落ちするな。現に俺の本当の名前を思い出すことが出来ている。徐々に回復しているのは事実だ。じゃあ、またな。」

そう言うと、サイレントは部屋を離れたのだった・・・

 

 

 

その頃バースシティーでは、久々にセントロールスの敷地内に生徒達が押し寄せていた。

 

今日より、セントロールスの新学期が始まる・・・

 

 

 

 

 


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