Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

34 / 39
新章-第十幕 嵐の後に

ほのかな電球の明かりに照らされたテーブル・・・

 

そのテーブルの片側に一人の男がいる。

そして向かい側には一人の少年が椅子に腰かけている。

 

更に三人の子供がその光景を見守るかのようにソファに座って見ていた。

 

「君達に何も連絡無しに、独断の行動をとって不安にさせた事は本当にすまなかった。それも、大胆な行動に出て・・・」

スーツ姿の男は、テーブルを挟んで向かい合う少年に言った。

 

「別に謝ってほしい訳ではないさ。サイレントが無事だということが何よりだ。」

男と向かい合う少年、マックスはそう言った。

「それで、魔法学校の件は?」

続けてマックスが聞く。

 

「ああ、一応の収束はついた。だが何か不穏な予感がする・・・」

その男、サイレントは言った。

 

「不穏・・・?」

マックスが言う。

 

「バスク・オーメットが現れた。そして全校生徒と教師達、あと駆けつけたナイトフィストも全員集めた所で話をしたそうだ。奴は心理戦においても気が抜けない男だ。まだ我々の世界をほとんど知らない子供達に向けて、言葉で一種の心理的な誘導を施したと聞いた。」

アカデミーでの騒動の後、廃公園の地下隠れ家に戻ったサイレントは今、起こった事の全てをマックス達に話しているところだ。

 

「だいたい察したよ。いわゆる洗脳というやつかな。」

隣のソファに腰かけているジャックが言った。

 

「そういうことだろう。奴が今後、学校以外でもそんな動きを始めたら、見えないところでどんどんとグロリアの・・・いや、奴の直接の協力者が生み出されてしまいかねない。実際、我々ナイトフィストの中からも出る恐れも考えた方がいいかもな。もっとも、考えたくはないが。」

 

サイレントはマックスに向き直り、話しを続けた。

「そして今回、我々にとって恐ろしい事実が明らかになった。」

「恐ろしい事実?」

 

そしてサイレントはマックス達全員を見回すと、彼にとって心痛まれる話を始めた。

 

「君達も知っているだろう?私が派遣して、セントロールスの警護をやっていた三人のナイトフィストの人間を。」

「うん。警官に扮した三人の事だな。一度助けてもらったこともある。」

マックスが言った。

 

「そうだ。しかし実は、その中の一人は既に殺されていたことが今となって判明した。そして犯人が顔を変えてすり替わっていたんだよ。その人物がセントロールスの謎の警官殺人事件の犯人であり、その時殺された警官が我々の仲間だった。」

 

マックス達は言葉もなかった。

 

その後マルスの事件に関しての詳しい話を聞いたマックス達は、起こった事実の全てを理解したのだった。

 

「あの警官事件の真相がそうなっていたなんて・・・犯人が常に身近にいたなんて、想像しただけで怖いわ。」

ジェイリーズが言った。

 

「まったくだぜ。俺達、そもそも変身術ってのをよく知らないからその発想は出てこないよ。俺達が見た三人のうち一人が犯人で、殺したマルスって人に化けてたなんてゾッとするよな。」

ディルが言った。

 

ここでサイレントが立ち上がった。

「これから、マルスと仲の良かった仲間達と今後の活動について話し合わないといけないんだが、そこで君達のこれからの活動についても話し合おうと思う。その事に関する報告は、またここに来た時にしよう。次はいつ集まれるかな?」

 

マックスはディル、ジャック、ジェイリーズを順番に見た。

「俺は明日にでも。暇だしなぁ。」

「同じく。」

「あたしもよ。」

皆の答えはすぐに出た。

 

「ということらしいな。」

マックスがサイレントに言う。

 

「決まりだ。では明日、仲間も連れてここに現れる。君達とちゃんと話をしたいとの事でな。」

「なるほど。じゃあ、昼の3時頃でどうかな?」

「大丈夫だ。では、今日はこれで失礼するよ。」

 

それからすぐにサイレントはここを離れたのだった。

 

今、マックスはサイレントから聞かされた話と、公園でレイチェルと二人で見た光景とを照らし合わせて、とある事を考えていた。

 

突然ナイトフィストと思わしき数人の男達が現れた・・・

その中の一人の顔に見覚えがあった。他でもない、警官に扮した三人のナイトフィストのうちの一人だ。

それがマルスになりすましたバスクの部下のヴィクラス・ロンバートだったとすると、色々とつじつまが合うんじゃないのか。

 

なかなか俺を連れてこないレイチェルを不審に思ったバスクが、ヴィクラスに偵察を頼んだ。

そしてマルスになりすましたヴィクラスが堂々とナイトフィストを連れて探し回っていた。あの時、レイチェルと俺が出会う事を男が知っていたこともこれで納得がいく。

 

確かあいつは、俺がナイトフィストを裏切って女をかくまっているみたいな事を言っていた。

ナイトフィストに嘘を言って俺を拘束させるつもりだったのだろうな・・・

 

「おい、マックス?」

「ん?何か言ったか?」

マックスはディルの声にはっとして振り向く。

 

「いや、ぼーっとしてたからさ。何か考えてることがあるのかと思ってさ。」

「ああ、今後俺達には何が出来るかなぁってな。」

マックスは適当にごまかした。だが、それも本当に考えるべき事だとすぐに感じたのだった。

 

「これからどうなるんだろうか・・・」

 

 

 

 

 

時は進み、この日も夜を迎える。

 

水面に反射する月光以外、何の光も当たらない闇夜の海原。

そこにひとつ、どんと構える大きな浮島があった。

 

島の上空にはどす黒い雲が輪を作り、ドーナツ化した雲の切れ間から、いくつもの影が流星のごとく浮島に向かって飛来する。

それらの影は島のてっぺんにたたずむ黒壁の巨大な屋敷を目指して集まっていった・・・・

 

屋敷の門が独りでに開かれる。

何人もの人影が屋敷に入っていく。

廊下の暗がりに無数の足音が鳴り響く。

 

そして彼らが目指す先の大きな扉が開かれた。

 

扉から明かりが徐々に漏れ、廊下を照らす。

しかしあまり明るくはない。

 

足音と共に黒衣の人影がぞろぞろと広間に入ってきた。

 

そこはとても広く、高い天井から数個のシャンデリアがぶら下がり、ライトの薄明かりが大理石の床を照らしている。

 

広間の中央には黒いアンティーク調の長テーブルが三つ繋げて置かれ、既に席に座って待機している黒衣の人間達が複数人いた。

 

やがて広間に集まった者達が全員、長テーブルに沿って並べられた席に着くと、入り口の扉が勝手に閉まり、ゴトンという重い音が広間に反響した。

 

ここで皆、一斉に黒衣のフードを取り払う。

 

「そろったな。では早速近況報告からだ。」

縁が金に塗られたローブを着ている男が口を開いた。

 

「では私からだ。我々の管轄では既に複数の新しい同志が集まり、魔法学校生徒の確保も予定通り、順調ですぞ。」

一人の男が言った。

 

「こっちの方も、新しい同志は順調に獲得しています。」

また別の男が言った。

 

「よし。ならば作戦に変更は無しとみていいようだ。お前達は計画通り、各部隊の拡大と新たな同志の育成の続行を頼む。」

金縁のローブに身を包んだ男がそう言った。

 

「イギリス魔法界とマグル界の各地に駐屯地を増やすのだ。そして次の世代の同志の確保及び、ナイトフィストの拠点を見つけ出す為の偵察部隊の配備を行うのだ。」

別の幹部クラスの男が言う。

 

「うむ。戦力を拡大し、同志の確保とナイトフィストの索敵を同時に図れる。いい案だな。」

男がそう言った直後に・・・

 

「それだけでいいのかね?」

近くの席に座る男が口を開いたのだった。

その重低音の声は紛れもない、バスク・オーメットだ。

ここにいる皆と同じグロリアの正式なローブを羽織っている。

そして彼もまた幹部クラスを表す金縁のローブだ。

 

「では君の考えを聞こうか、オーメット。」

幹部クラスの男が言う。

 

「そうだな。まずは、今夜わざわざこれだけの同志が幹部会議に出席してもらっている意義を問いたい。」

バスクが長テーブルを囲むグロリア達を見渡しながら言った。

彼の隣には、黒のワンピースに身を包むレイチェルの姿もあった。

 

「用件だけをさっさと話せばどうだオーメット。何せ、君が何を考え、どんな個人的活動を行っているのかは、私達幹部の人間にもほとんど聞かされてないのだからな。」

バスクと同じく金縁のローブを来た年配の男が言った。

 

「そう言えば、近頃の彼の活動といい、どうも単独で何らかの情報を握っているとしか思えないですしねぇ。あたし達の作戦に意を唱えるというのなら、是非とも情報を共有していただきたいですわねぇ。」

彼らと同じく金縁ローブを羽織った女が言った。

 

「焦るな友よ。私の部下達にも集まってもらっている。それは我々の努力で明らかにした事実を共有し、これからの計画を練る為にだ。」

バスクは続ける。

「今、ミス・ティーダーウッドが言ったように、確かに私は基本的には単独任務をずっと全うしてきた。特殊で、かつ重要な任務だ。それは、私の指揮する部隊の君達なら既に知っているだろう。」

そう言うと、一部の黒衣の人物達がうなずいた。

その中にはヴィクラス・ロンバートの姿もある。

 

「今夜、これからのグロリア全体の方針を決める。その為に私が今まで掴んだ情報の全てを提供しよう。まずはそれで、おたくらも仕事に集中できることだろう。」

バスクは金縁ローブの幹部達を横目にそう言った。

 

彼は徐々に本題へ入っていく。

「ここ約一ヶ月の間、私の部下をナイトフィストに潜入させていた。」

 

「これは初耳だな。」

幹部服を着た、体格の良いスキンヘッドの男が言った。

 

「言っただろう。私の任務は特殊かつ重要だと。スパイの情報は、外部に漏れないよう詳細は出来るだけ少人数で把握するほうが良いものだ。」

バスクは視線を全体に移し、続ける。

「部下はナイトフィストの有力な人物の近くに紛れ込むことに成功した。故にいくつか貴重な情報を手に入れることが出来たのだ。その中には魔光力源の情報もある。」

 

それを聞いた皆がざわついた。

 

「ようやく皆に話せるだけの確証を得られた故に話す。我々が先代達の夢見たものを実現する時が来たのだ。今こそ、大きく動き出す時だ。」

 

そして彼は作戦会議を進ませるのだった。

これより、グロリアの活動はより恐ろしく、より活発化することになる。

 

 

 

 

 

それから数時間後の翌朝・・・・

 

マックスは自然に目を覚ました。

何らかの夢を見ていた記憶はあるが、ほとんど覚えていない。

しかし目覚めた感覚から、悪い夢を見ていたわけではなさそうだ。

最悪な目覚めではなかったことはいいことだ。だが、今のマックスはどこか落ち着かない感覚がしていた。

 

落ち着かない・・・得体の知れない不安感だ。

 

思えばつい昨日、サイレントから話しを聞いてから、より一層グロリアが恐ろしいものだという印象を受けた。

しかし今感じているこの不安感が、それだけと結び付いているわけではなさそうだ。

 

何か漠然としたもの・・・やはり得体の知れない不安感としか言いようがない・・・

こうなると、じっとはしていられない。

 

「そうだ。」

マックスは誰かに背中を押されるかのようにベッドからすっと立ち上がり、携帯電話を手にとって開いた。

 

「早いうちにあの事を知らせておかないと・・・」

そしてすぐにある人物へのメールを打ち始めた。

手短に、時間がある時に折り返し連絡を頼むといった内容の文章を打つと、それを送って一旦携帯電話を机に置いたのだった。

 

しかし直後、また取り上げることになった。

「もう気づいたのか。早いな。」

電話から着信音が鳴り響き、マックスはすぐに通話ボタンを押す。

 

「レイチェル・・・」

「マックス。どうしたの、朝から?」

電話からはレイチェルの声が返ってきた。

 

「今、時間あるか?」

「今は一人だから大丈夫だけど。」

「よかった。例の公園での件について、伝えないといけない事がある。」

「えっ・・・何かわかったの?」

レイチェルは一気に食い付いた。

 

「つい昨日の事だ。サイレントから、ナイトフィストにグロリアのスパイが紛れていたという話を聞いた。そしてそのスパイが、恐らくあの時公園に現れたナイトフィスト達を率いていた男に違いない。」

「でも待ってよ。スパイだとして、あたし達が一緒にいるってことを知っていた風だったわよね?その説明はつくの?」

 

マックスはすぐさま話し始めた。

「当然、君とオーメットしか知り得ない情報だ。でも、オーメットが部下に俺達を探すよう頼んでいたとしたら?そしてその部下がナイトフィストに紛れたスパイだった。」

 

更に詳しい話を続ける。

「更にその男はセントロールで起きた謎の警官殺人事件の犯人でもある。奴はセントロールを見張っていたナイトフィストの三人と出くわし、一人を殺した。その時から自分が殺した人物に成りすましていたんだよ。それが、俺があの時公園で見たナイトフィストの人物だ。変身術で顔を変えていたから誰も敵だとは気づかなかったわけだ。」

 

彼が話し終えた後、レイチェルは少しの間黙って内容を整理した。

「なるほど・・・話はわかったわ。でも、あたしには一つ引っかかる事が出てくるわ。」

「この考えにどこか矛盾点でもあったのか?」

マックスは今一度、自分の組み立てた推理を高速で見直した。

 

「そうじゃなくて・・・バスクが、部下にあたし達を探させたっていう所。それって、あたしが不穏な動きをしたんだとバスクに悟られたってことになるわよね・・・」

レイチェルは、作戦と違う動きをして公園でマックスと別れた後、バスクの元へ戻った時の彼の言葉を思い返しながらそう言った。

 

「やっぱり、彼には気づかれてるのかな。あたしが作戦に背いてあなたを彼の元に連れていかなかったって・・・」

彼女の声のトーンが下がっていくのをマックスは感じた。

 

「そうだとして、君はこれからどうするつもりなんだ?」

 

「公園での謎は大方察しはついた。だからあたし達の休戦はもう終わり・・・当初の予定だとそう。」

レイチェルがトーンの低いままの声でそう言った。

 

「だったな。予想よりだいぶ早い休戦終了だ・・・」

マックスは言葉を選び、続けた。

「それでいいのか君は。今度会ったときは、敵としてお互い容赦なく攻撃し合う・・・そうしたいのか・・・」

 

少しの間、無言が続いた。

そしてレイチェルが口を開いた。

「・・・それって、まだ謎が解けたっていう確信はないからよね?」

 

「えっ?ああ、確かに。あくまで俺の推理の話だったが・・・」

マックスが少々戸惑いなが答える。

 

「じゃあ、まだ確証がとれなければ100パーセントの事実はわからない。あたしはまだ何も調べてもいないし。だから・・・」

 

「ああそうさ。だからまだ協力関係を終えるのは早い。俺もそう思ったんだよ。」

マックスは急いで彼女の言葉の続きを繋げた。

 

「そうね。まだまだ調べることは出来るはずだから。だから、もう少しこのままの状態で良いわ。」

この時の彼女の声には、わずかな明るさが感じられた。

 

「俺もだ。事実がはっきりするまではな。」

「じゃあ、また何かあったら連絡して。こっちもわかったことがあれば報告する。」

「ああ。じゃあ、また・・・」

「うん・・・」

 

こうして会話は終了した。

 

マックスは携帯電話を閉じた。

「これで良いのだろうか・・・」

 

しかしレイチェルと再び敵対関係に戻らなかったことで、内心ほっとしているのも否定できなかった。

 

マックスは思考を切り替えようと、昼までの間にサイレント達に伝えるべき情報を頭の中で整理することにした。

 

まずはバッグの中から『学校内全システム書記』を取り出して地図のページを開く。

そこには、自分でつけた地下の×印がしっかり残っている。

しかしここに書かれている第一魔光力源保管所という文字は、元々は地下重要物保管所と書かれていて、魔光力源の部屋の見取図も描かれてなかった。

 

マックスは、図書室で謎解きをした時の事を思い出した。

 

「この本と図書室、そして第一魔光力源保管所に関する事は重要な話題だ。」

 

本の最後のページの著者名が書かれるべき所は空白になっている。

透明インクで書かれているのかと思ったがそれも違った。

 

ともあれ、何にせよ自分達はこの本のお陰で今まで魔光力源に迫ることが出来たのは事実。

しかし敵は違った。

 

バスク・オーメットは、既にセントロールスに一つの魔光力源があることを知っていたとレイチェルは言っていた。

いつどこで知ったのか、奴が魔光力源に関してどこまでの知識があるのか・・・それがわからない。

 

たとえ休戦中とはいえ、レイチェルに聞いても素直に打ち明けるとは思えない。いや、そもそもレイチェルですら知らない事なのかもしれない。

 

「バスク・オーメットについても話し合う必要があるな。」

 

いったいいつ誰が、そして何故セントロールスの地下に魔光力源を保管したのかという事と、それを狙っていたバスクに関してが重要な話題になることは言うまでもないことだ。

 

だがそれらとは関係のない部分で気になる事もいくつか思い浮かぶ。

 

そもそも複数の魔法使いが同じセントロールスという学校に存在することもその一つだ。

しかしこれについては自分達でおおよその推測は出来ている。あくまで推測でしかないが。

 

それから個人的に気になる事もある。

それはなんと言っても、突然発揮したあの得体の知れない力だ。

ほぼ無意識で発動したあの魔力。そしてあの感覚・・・

これは恐ろしいほどの謎だ。

 

「これも魔術の達人であるサイレント達に話すべきだろうな。」

 

ざっと記憶の表面に浮かぶいつくかの問題に対して、少しでも答えが出でればいい・・・そう思いながら、マックスは集合の時を待つのだった。

 

それから時は数時間が経った。

 

まだ約束の時間にはなっていない。

しかし、それまで部屋でじっとして待つのは止めた。

 

今、マックスは『学校内全システム書記』を机の上に置いて、そこに杖を向けている。

目を閉じ、じっくり、しっかりと廃公園のイメージを頭の中で思い浮かべる。

そして呪文を口にするのだ。

「ポータス」

 

杖先が淡く光り、同時に本も同じ光り方をしたのだった。

 

この行程も、大人ならばもっと速やかに出来るのだろう。

マックスはそう思いながら本に手を触れた。

 

すると瞬間に、身体が振り回される感覚とともに周囲の部屋の光景が塗り替えられ、数秒後には景色が完成した。

 

マックスは寂れた路地に投げ出され、その地に足を着いて体勢を整えた。

 

目の前にはあの公園の入り口が見えている。

マックスは公園に入ると、とりあえず地下に潜った。

 

階段を降りてみると、当然そこには誰もいなかった。

 

マックスは『学校内全システム書記』を机の上に置くと、次に本棚の前に歩いた。

 

そこにはサイレントからもらった三冊の本が置かれている。

それともう一冊、昔マックスが父親からもらった呪文の本だ。

 

彼はその『魔術ワード集』を手に取った。

父が、これで魔法を勉強しなさいと言って本を渡した時の光景が脳裏によみがえる・・・

 

思えば、今までこの本がどれ程役に立ってきたことか。

自分はこれ一冊でいろんな魔術を覚えてきたのだ。

 

この本もサイレントからもらった物と同じように、魔法学校で使われている教材の類いなのだろう。

そう思いながら他の三冊をちらりと見た。

しかしこの本だけ何かしら違和感を感じたのだった。

 

あとの三冊と比べるとよくわかる。この『魔術ワード集』は教材と呼ぶには出来が安っぽく見える。それにページ数も明らかに少ない。

これは手作り感があふれている。

 

彼は今まで気にもしなかった、著者名があるであろう最後のページを開いて見てみた。

 

すると、今初めて知った。この本には著者名が書かれていない。

 

最初のページを見ても書いてない。著者名が書いてない本はまず無い。ましてや著者名が書いてない教科書なんてあり得ない。すなわち、これは教材ではないわけだ。

 

「著者不明の本が二冊か・・・」

 

『学校内全システム書記』も著者不明だ。こっちは間違いなく学校関係の本なのに著者名が書いてないということになる。

 

しかしこれを今考えてもどうしようもない。

『魔術ワード集』のほうも、これを渡した父に聞いてみることも出来ないのだ。

 

「聞いてみる・・・」

マックスは思い出した。

そう言えば、サイレントは自分達に向けての教材として、彼がくれた三冊の本プラス、この『魔術ワード集』も含まれていたのだった。

 

三冊の本は、紙切れと一緒に寮の個室の窓際に置いてあった。

紙には、魔術に関しては最適な物をマックスが持っているはずだと書かれていた。

自分がこの本を持っていることを知らないはずなのにだ。

 

これはサイレントに直々に聞いてみようと思っていた事だった。

 

今、机の上には鏡がある。両面鏡だ。

 

マックスは思い立った事をすぐに行動に移した。

 

『魔術ワード集』を机に置き、そのすぐ近くにあお向けになった鏡に手を伸ばす。

片手で持つと、自分の顔を映してもう片方の手で鏡面に触れた。

 

すると、少し待った後に鏡面に反応があったのだった。

 

「これは、組織からの連絡かと思えば、マックスじゃないか。」

鏡から声が発せられた。

 

「サイレント・・・」

マックスは、さっきまでとは変化した鏡面に向かって話し始めた。

「一人で少し早く来たんだ。特に家でやることもないから、魔法の勉強でもしようかと思って。」

 

「頑張るじゃないか。さすがリーダーだな。」

サイレントが鏡の中から言った。

「それで、私に個人的に連絡とは、どんな用かな?」

 

「ああ。今ここに来て思い出したことなんだけど・・・」

そう言いながら、マックスは机の上の本を取って鏡に映した。

 

「この本について気になっていた事があるんだ。」

彼は続けた。

「これは俺の父がくれた物だ。それをあなたは俺達の勉強材料の一つとして指定した。何故あなたは俺が既にこの本を持っていることを知っていたんだ?」

 

サイレントは黙って聞いていた。

 

「それに今わかった事だけど、この本には著者名の記載がない。これは教材として世の中に出回っている物ではないらしい。大した事じゃないかもしれないけど、サイレントなら何か知ってるんじゃないかと思って・・・」

 

サイレントは、マックスの話しを聞きながら彼の持つ本を見た。

「ああ知っている。それは確かに一般書物として出回っている物ではない。」

「やっぱり。それで・・・」

マックスは関心を注いだ。

 

「それは昔、教師の立場の人間が作った本で、実際に教材としては使われなかった言わばサンプルのような物だ。」

サイレントはマックスに視線を移して続ける。

「そんな本を君の父親が持っていたのは知らないが、私は陰ながら君らの魔法を使った行動を見ていたときに、君がそれを手にしている所を見たことがあった。だからそのまま勉強材料にと思ったんだよ。」

 

「なるほど。そういうことか。著者名の記述が無いのもうなずける。」

 

マックスは考えた。

同じく世に出回っておらず、学校内だけでしか取り扱われない『学校内全システム書記』が学校側で直々に作られたと仮定すると、これも著者名が無くてもおかしくはない訳か・・・

 

「わざわざこんな話の為に時間を割いてすまない。でもお陰で少しスッキリしたかもしれない。」

マックスは言った。

 

「いいんだよ。それに、まだまだ話したいことはこの後皆で出来る。君達とちゃんと話しをしたがっている仲間を連れて来る。その時はお互い情報交換しようじゃないか。」

 

「ああ。待ってるよ。それまではこっちのチームの仲間を集めて特訓でもしてるさ。」

 

「よし。こちらも準備が整い次第、出来るだけ早く向かうことにする。では、またな。」

 

サイレントの言葉を最後に、鏡は地下とマックスを映していた。

 

「でも結局、『学校内全システム書記』の著者は特定するあて無しか。こっちの謎はいつ解決出来るのやら・・・」

 

マックスは一旦この問題から離れて、ポケットから携帯電話を取り出した。

「皆を呼んで話をするか。」

彼はチーム全員に召集の連絡を送ったのだった。

 

皆、返事はすぐに返ってきた。

それからこの地下隠れ家にチームが揃うのも早かった。

 

全員が家で待ちくたびれていた頃だったのだろう。

皆がここに集まった時、やる気に満ちた表情を浮かべているのが感じられた。

 

「やっぱり予定より早く到着することになったな。」

ジャックが言った。

 

「当たり前だ。家で何もすることは無いからな。」

椅子に腰かけて待っていたマックスが言った。

 

「同じく。それと、マックス。」

「・・・ん?何だ?」

「せっかくサイレントがいるんだ。俺達には色々と話すべきことがあったよな?特に、お前はな。」

 

マックスはジャックが何を言わんとしているのか全て察した。

「お前も考えてることは一緒だな。ああ、確かに話すことがあるな。ちょうどそれについて考えをまとめていた所だ。」

 

「そうだなぁ。サイレント達に色々直接話せる良い機会だ。」

ソファーに腰を下ろすディルが言った。

 

「そうだ。そしてその中の少なくとも一つは、俺の推測が正しければ、サイレント達は何か答えを知っているはずだ。」

マックスが言う。

 

「セントロールスに魔法使いの生徒が集まった理由。そうよね?」

ジェイリーズがすぐに察した。

 

「うん。前に皆で話し合った時の推測は今も変わらない。そうとしか説明がつかないからな。」

「俺達の親族がナイトフィストと協力し、セントロールスへ集めてサイレント達に守らせた。そんな考えだったよな確か。」

マックスに続けてジャックが言った。

 

「全てはこの後、サイレントの答え方次第だ。そして俺の謎の力の事も聞いてみたい。もちろん、彼らとの作戦会議も楽しみだ。面白くなりそうだぞ。」

 

マックスの言葉通り、この後あらゆる話しを聞かされることになるのだ。

 

そして『魔術ワード集』に関する真実も、彼はまだ知らない・・・・

 

 

 

 

 




次話
新章-第十一幕 夏の終わり

マックス達はサイレント、ザッカス、ライマンと対面する。ここであの謎もようやく知ることとなる。

一方、イギリスの各地域でグロリアの活動が活発化し、ナイトフィストの有力な戦闘者達は各地へと駆り出される。
魔法界住人に、再び14年前の恐怖が蘇り始め・・・

そして夏休みは終わり、その時マックスはサイレントから更なる真実を聞かされる・・・


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。