Outsider of Wizard 作:joker BISHOP
変な緊張を感じる・・・・
いつも歩いている廊下。
それはいつもどうり薄暗くて、長くて・・・
まるで、このまま何処かへ誘われて二度と光のあたる世界へ戻って来れないような・・・そんな勝手な想像を、小さい頃はしょっちゅうしていた。
だが今は、そんなことはみじんも思わない。
とまでは言い切れないけれども・・・
でも、この廊下も、そもそもこの巨大で少し不気味な館自体とも、もう10年以上の付き合いになる。
さすがに自宅として馴染んでいるのは言うまでもない。
だから今感じる緊張感や、腹の底から沸き上がるような大きな不安感は、それとは全く関係の無いことだ。
いつもの廊下を歩く足取りが実に重い・・・
いつもなら、この廊下の先の広間までがもっと遠くに感じるのに・・・
歩く足の速度が遅くなろうとも、今は昨日までより廊下が短く感じる・・・
これら全ての感覚の理由は、この先の広間にバスク・オーメットが待っているからだ・・・・
レイチェルは気の進まない両足をゆっくり動かし、あらゆる事を考えながら''彼''の所へと向かっているのだった。
バスクの事はよく知っている。
彼は用心深く、感覚は鋭い。そんなバスクが異変に全く気づかないとは思い難い・・・
彼女はマックスを連れて帰ってこなかった事に関し、バスクにどう言えば不自然に思われないか、言葉を考える。
考えている時も一歩ずつ目的地へ近づく。
そしてすぐにその場所へ到着してしまった。
下手にちゅうちょしていては違和感を感じられる。
そう思いながら一枚の重厚な扉の取っ手を掴み、力強く押し開けるのだった。
この扉も、いつもより重く感じる。
開いた扉の先に見えた光景は、長方形の広間・・・右側に並んだ窓ガラスから斜めに入り込む光。反対側の壁に、ずらりと並ぶ大小様々な絵画の数々。
まさにいつも通りの光景だ。
そして光に照らされながら、窓の近くにたたずむ一人の男の姿があった。
彼は音に気づき、開かれた扉の方を振り向いた。
「ようやく戻ったか。」
レイチェルは堂々と広間に足を踏み入れ、バスクのもとへ歩いた。
バスクはレイチェル一人が歩いてくる様子を見る。
「しかし、マックス・レボットがいないのはどういうわけだ・・・?」
「マックスは来なかったわ。彼の仲間達が現れて、攻撃を仕掛けてきた。そこであたしを倒すつもりだったみたいね。」
レイチェルは歩きながら言った。
「君の話に乗らなかった・・・というわけか・・・」
バスクが外を向いてゆっくり言う。
レイチェルはバスクの隣までたどり着くと、また口を開いた。
「彼は、あたし達と完全に敵対したということね。」
「結論、奴は君の脅しを無視して、代わりに仲間をよこして暗殺させようとした・・・そういうことか。予想外の判断をしたものだなぁ・・・」
バスクは続けて言う。
「だが、まぁいいだろう。W.M.C.に気を取られている間に、本筋のアカデミーがグロリアにより攻め落とされることだろう。私達に刃を向けるとどうなるか、それはもうじき奴等にもわかることになる。そうなれば、もっと素直に話を聞いてくれるようになるかもしれんな。」
そしてバスクはその場から動き出した。
「ともあれ、今回の件で奴は予想外に冷酷な決断をすることがわかった。出会った時は手加減無用だ。もっとも、君の話が真実ならば・・・という前提になるがな。」
彼はレイチェルをしっかりと見て言った。
「まさか、今になってあたしへの信頼が揺らいでいると言うの?今まであたしはグロリアとして、役割を全うしてきたのはよく知っているはずよ。」
レイチェルは平然を保って言った。
「ああ、もちろんだとも。だからこそ信じたいのだよ。グロリアを裏切るような事はしないと。もしグロリアの敵になってしまえば、君自身もどうなるか十分わかっているだろう。そうならないことを祈っている。君を失いたくはない・・・」
そしてバスクとの会話は終わった。
時を同じくして、魔法界では・・・・
殺風景な平原にそびえ立つ、数々の細長い塔。
その反対側には、湖がずっと広がっている・・・
ここはウィルクス・ウィッチクラフトアカデミー。
イギリスの名門二大魔法学校のひとつである。
白い城壁で、大小でこぼこな長さの塔がいくつも伸びる外観が特徴の城の一角にて、開かれた窓の中での事・・・
その教室には、多人数の生徒が椅子に座り、机で本を開いて黒板を向いている光景があった。
いずれの生徒もグレーの制服を身に付けている。
そして生徒達が見る黒板の前で、教師が何やら話をしているのだった。
今は授業の真っ最中というわけだ。
皆、教師の話を聞きながら、小さな羽ペンでノートをとったりしながら授業を受けている。
しかしそんな中で一人、後方の窓際の席にいる男子が前を全く見ず、ずっと窓の向こう側をぼーっとして眺めている姿が目立っていた。
彼の姿勢は、当然教師の目につくものだ。
「ビス!授業を聞かないと、次の試験も点数取れなくなるぞ!」
教師が男子生徒に言った。
すると彼は、そのままの視線で・・・
「ねぇ、先生・・・あれは何ですか?新しい授業なんですか・・・?」
「ん?何を言ってるんだね?」
教師は訳がわからないまま、やれやれといった表情でその生徒のもとへ歩き寄った。
彼の目線の先、それは空だ。
教師が近づき、同じ方向を見る。近場の生徒達も振り向いた・・・
「あれは・・・」
遠くの空を見た教師は一瞬言葉を失い、そしてすぐに判断する。
「授業は一時中断だ。皆はこのまま待機していなさい。私は他の教師達に知らせに行く。」
そう言い残して足早にその場を離れていく。
生徒達も同じ光景を見るなりざわつき始める。
そんな彼らの見上げる空には、数多くの黒点がこちらへ近づく光景があった。
よく見れば、それらの黒点が全て、箒に股がった人物達であることがわかる。
そして付近の空模様がみるみる変化し、アカデミー上空を薄黒い雲が取り囲んだ。
それは、これからここが戦場となることを意味していた。
アカデミーの方向へ降下し、ローブをなびかせて接近するのはグロリアの大部隊。
今、この事態に気づいたアカデミーの教師達が校舎から駆けて出てきていた。
立ち止まると彼らは横一列に並び、杖を上空に構えてグロリアが迫ってくる方向へ一斉に呪文を放つのだった。
十数本の杖先から青い光が次々と飛んでいき、空へ上がると一つにまとまって、上空に半透明の膜が出来ていく。
徐々に魔法のバリアは広がっていく・・・だが、時は少し遅かった。
高速でアカデミーの敷地周辺まで近づくグロリア達は、全員が一斉にバリア目掛けて杖を構え、そしていくつもの稲妻を杖先から放ったのだった。
彼らが放った赤い稲妻がバリアに激突して、空で激しく瞬く。
雷鳴は校内の至るところまで響き、生徒達が悲鳴を上げた。
そして稲妻は拡大していくバリアをえぐり、巨大な膜は完全に壊れたのだった。
そのまま赤い稲妻の残雷が塔の一部を貫き、壁の破片が敷地内に飛散する。
校内の生徒達は本格的に混乱した。
外の教師達も動揺を隠しきれない。
その時だ。
迫り来るグロリアの編隊の横からいくつもの光線が飛来するのが見えた。
突如飛来した閃光はグロリアの何人かに直撃し、箒の操縦が狂って部隊からはぐれる。
見ると、グロリアとは別の飛行編隊がやって来ているのがわかった。
彼らはグロリアのもとへ真っ直ぐ向かいながら、絶え間なく呪文を乱射し始めた。
ナイトフィストがやって来たのだ。
アカデミーへ向かっていたグロリア達は一人ずつ方向転換して、半数がナイトフィストの方へ矛先を向けた。
だが残りの半数は空から姿を消し、間も無く城の敷地内のいたるところに次々と現れたのだった。
彼らは教師達を囲うように出現すると同時に攻撃を始め、八方からの容赦ない攻めに教師達は慌てて対応する・・・・
時を同じくして、もう一方の魔法学校ワールド・マジック・センチュリーズ付近の上空でも戦いが繰り広げられている。
ザッカス率いるナイトフィスト攻撃隊は、何とかグロリアを空で足止めさせることに必死になっている最中だった。
ザッカスはなるべく目立つ攻撃を仕掛けて、自分にターゲットを向かせようと動く。
そして学校の方角から敵を少しずつ遠ざけることを狙っている。
敵の数は多い。周りの仲間の動きからどんどんとこちら側の態勢が劣勢になってきているのを感じていた。
敵は並の魔法使いじゃない。戦いのプロ集団だ。このまま互いに引けをとらない状況でキープすることも難しい・・・
率先して攻撃するザッカスはこの後の展開について考えつつ、空を舞いながら黒い箒の集団に杖を構える。
だがこの戦いがどうなるかと思われたその時、戦況が突然変わった。
グロリア達が顔を見合わせ、互いにうなずくと途端に攻撃をピタリと止めて、全員が箒の向きを変えて辺りを渦巻く暗雲の中へと突き進んで行くのだった。
一人ずつ雲の中に姿が消え行く彼らの背に、ナイトフィスト達は動きを止めて一斉に術を放った。
いくつもの光線が巨大な黒雲の中で煌めいた。
しかし雲の中に散らばったグロリアの姿は完全に視界から消え、また反撃してくる様子もない。
ザッカスが片腕を上げて、攻撃停止の合図を出す。
皆、静かになった空で待機した。
「何かおかしい・・・」
ザッカスは四方を見渡して警戒する。
敵の気配が消えた暗い空で、息をのんで出方をうかがうナイトフィスト達・・・
やがて黒雲がスーっと消えて空が明るくなった時に、彼は察しがついたのだった。
「あの雲は集団規模の空間転移術だったか・・・まずい!アカデミーが危ないかもしれない!」
ザッカスはポケットに手を突っ込んでコンパスを取り出した。
「ウィルクス・ウィッチクラフトアカデミーの方角。」
そう言うと、丸いコンパス上の針が勝手に動き、とある方向で固定した。
「おそらくこっちは時間稼ぎのおとりだ。真の狙いはアカデミーを占拠し、学校の人間を人質にすることだろう。急ぐぞ!」
そして彼らは再び箒を飛ばし、アカデミーへと急行する・・・・
一方で、地上のW.M.C.に忍び込むことに成功したデイヴィック達の状況も動いた。
光が全くない地下の一角で杖先の光だけを頼りに歩き回っていた彼ら四人は、目的の場所まで近づいていた。
「いよいよこの先だ。まさか禁書の棚に触れる事があるなんて思ってなかったな。」
デイヴィックの声が暗闇に反響する。
「俺は本にすら興味がなかったからなぁ。」
「今でも勉強は大嫌いでしょ?」
リザラが小声で言ったが、それでも反響してよく聞こえた。
「不良だから仕方ねぇだろ。でも正直言って、俺は今わくわくしてる。何か興味深い文献がないかなんて、少し前の俺なら考えることはなかっただろうなぁ。」
デイヴィックが言った。
そしてその場所は目の前に迫った。
「ここだ。今まで何人の好奇心旺盛な成績優秀者がここへ近づいて、管理人に見つかって罰を食らったことか・・・」
デイヴィックが牢屋のような鉄格子の扉の前で立ち止まった。
「そんな勉強熱心な生徒達が今のあたし達の状況を知るならなんて言うだろうね。」
ロザーナが言った。
「とは言え、そう簡単には通してくれないだろうな。」
彼は試しに簡単な呪文を扉に放ってみた。
「アロホモーラ」
だが何かが起きたような気配は感じられない。
「効かないか。」
デイヴィックは杖を下げて、他の三人の杖明かりに照らされながらそっと鉄格子の扉に手を触れてみた。
するとなんと、扉は鉄の擦れる音を上げながら開けることができたのだった。
「何?ロックすらされてなかったというの?」
後ろでエレナが言った。
「魔法が効いた感覚はなかったからなぁ。まさか、先客が来ているのか・・・」
デイヴィックは杖を構えてそっと中へ踏み込んだ。
鉄格子の扉の奥は広く、高い本棚が縦横いろんな角度で立っていた。
デイヴィックを先頭に、女子三人も忍び足で前へ進む。
周囲に神経を集中させ、暗闇に響く自分達の足音がより一層はっきり聞こえた。
そしてふとした時、デイヴィックは微かな足音が遠くの方から聞こえた気がした。
彼は片手で待ての合図を出して立ち止まった。
後ろのリザラ達も足を止める。
するとすぐに、明らかに自分達以外にも人がいることがわかった。
確かに足音が一定リズムで広間の遠くから聞こえてくるのだ。
音の聞こえ方から相手は一人と考えて間違いなさそうだ。
デイヴィックは自分の足音に注意し、しかし素早い動きで足音のする方向へ近づいた。
合図を出して、三人も後に続き、四人はどんどん相手との距離を詰めていく。
相手が一人ならば、戦いになってもこちらの勝算が高いと考えたからだ。
分厚い本棚に体を隠しながら、本棚から本棚へと素早く身を移して足音の主の元へ近づく。
四人はあらゆる方向に杖を向け、四人分の杖明かりが広間の至るところを照らす。
そして一瞬、明かりが何者かの姿をとらえたように見えたのだった。
デイヴィックはその方向へ杖を向けて、本棚の裏から飛び出して一気に距離を詰めた。
そして次の本棚の角を曲がろうとしたその時、角から突然眩しい光が現れたのだった。
デイヴィックは眩惑で目がくらみながらも、そこに立つ人影をとらえた。
相手も同様の様子で立っている。
そこにリザラ、エレナ、ロザーナも追いついた時に、相手の顔を視認できた。
「あれっ?あなたは・・・マルスさんじゃないか。」
デイヴィックが言った。
「何だ、君達だったか。グロリアに跡をつけられてたかとでも思ったよ。」
そこに立つ男は言った。
デイヴィック達は相手が誰かわかった途端にほっとした。
そこに立つ男の顔は、デイヴィック達をグロリアから引き離した恩人、ナイトフィストのマルスだった。
「でも、何で一人でここに?」
リザラがデイヴィックの横に出てきて言った。
「以前から仲間と話していたんだ。この禁書の棚のどこかに、私達の役に立つような情報が眠っていないかとね。人がいない今こそ行動するチャンスだと思ったのだよ。それより、君達こそ子供だけでここへ来るとは驚きだ。」
マルスが言った。
「大体同じような狙いさ。まぁ、ザッカスとライマンさんの提案なんだけど。」
デイヴィックが答えた。
「なるほど。考えることは皆同じだな。でも残念な知らせだ。今のところ、ここにはグロリアや魔光力源関連の記述は見つけられていない。でも君達が来てくれて助かったよ。ここからは五人で協力して一気に片付けようではないか。」
「もちろんだ。俺達全員で手分けして調べよう。」
デイヴィックは更にやる気がわいてきた。
これより、マルスを含め五人になって書物調査を行うことになったのだった。
そしてアカデミーの現状は・・・・
姿くらましで瞬間移動を繰り返しながら激しく呪文をぶつけるグロリアと、それに対抗するアカデミーの全教師達の戦いが敷地内で始まっていた。
それにともない、上空のナイトフィストの攻撃に対応していたグロリア達も地上に姿を移し、アカデミー敷地内のグロリア兵の数がどんどん増し、次第に教師達が追い込まれる。
ライマン率いるナイトフィスト達も、急いで教師達に加勢しに向かった。
戦いは、空から完全に地上へと移行した。
敵の攻撃を食らって、既に数名の教師が戦闘不能となっている。
圧倒される教師達と大勢のグロリア部隊との間に無数の閃光が行き交う中、そこにライマンと仲間のナイトフィストが姿を現して盾となったのだった。
教師達の前に立ちはだかり何人かで防衛呪文の膜を張り、残りの仲間がグロリアに攻撃呪文を連発する。
「今のうちに皆の安全を!」
一人のナイトフィストが背後の教師達に向けて叫んだ。
彼らは戦いから抜けて、負傷して倒れている教師に回復呪文をかけて起き上がらせると、皆で城の方へ離れていった。
この光景を、校舎の中から生徒達が不安そうに見守っている。
ここでグロリアが攻撃を止め、ライマン達も透明のバリアを消した。
一旦、その場が静かになる。
ここに、ナイトフィストとグロリアの二組織が向かい合った。
ライマンを中心にして整列するナイトフィストの目先には、深く被ったフードの奥で、グロリアのエンブレムが付いた金のチェーンが首元で光り、足元まで垂れたローブをなびかせる男女がずらりと並んでいる。
風でひるがえったローブの下は、男は全身黒のスーツで、女は黒いゴシックワンピース姿をしている。
ここで、ライマンが一歩前へ出て口を開いた。
「お前達の目的は・・・要求は何だ!」
すると、彼の力強い声に一人のグロリアが答えた。
「ここを占拠することだ。我々の計画の大きな一歩を踏み出すためにな。」
次に、もっと若い人物が話しだした。
「もちろんお前達は抗うだろ。そうなると戦いは避けられないなぁ。学校の人間も含め、どれだけの犠牲が出るだろうか。」
更に、一人の女が話を継いだ。
「でも、もしあなた達が素直に身を引いてくれると言うなら・・・学校の人達の安全を約束してもいいかもね。」
「既に武力行使しているではないか。そんなお前達の言葉は信用に足りんな。」
ライマンは言い切った。
「あら、残念ね。せっかく慈悲を考えてやったというのに。」
グロリアの女が言った。
「無駄だ。我々に抗いたいだけの騎士の拳は偽物だ。彼らこそ武力行使するのだからな。」
別の男が言った。
「その原因はお前達だ。それに少なくとも、私は自分を騎士だとは思っていないさ。」
ライマンが答える。
「ただ、お前達とは全力で戦う。一歩も引く気はない。」
その時、その場にいる者全員が空を見上げた。
黒い箒に乗ったグロリアの集団が高速で頭上を通過し、アカデミー校舎へと直行するのだった。
彼らは城壁まで近づくと其々散らばり、城の至るところに呪文を放ちだした。
「増援だと・・・」
「計画通り、W.M.C.の方から仲間が到着したようだ。お話しはこれまでだ。我々もここを占拠する為に、最初から全力でお前達と戦うつもりだ。」
中心に立つグロリアの男が言った。
「さては、あっちはブラフだったか・・・いいだろう。全力を尽くす。」
ライマンは魔力を身体中にみなぎらせる。
そしてその言葉を最後に、激しい戦闘が始まった。
城のあちこちから爆破音が鳴り響き、箒に乗ったグロリア達によって城壁のいろんな所に穴が開けられる。
彼らはそこから校内に侵入していく。
地上のグロリア達は姿くらましであらゆる場所に移動して、ライマン達を四方から一斉攻撃した。
同時に前後から飛んでくる閃光を防ぎきれずに、早速数名のナイトフィストがその場で倒れて固まる。
また、ライマンと腕利きの仲間は閃光を跳ね返して敵に命中させることに成功した。
しかしやはり数で押され、更には相手はほぼ全員がプロの戦闘集団で、こっちの人員には戦闘経験が浅い者達も含まれているという力差もある。
校内の人間の保護に向かうことが出来ない状態は変わらない。
いつまでこのまま耐えきれるかもわからない。
そして外で大勢の魔法使い達が戦っている時、校内は大騒ぎになっていた。
大廊下は走る生徒達であふれ、教師が先導している。
「皆、慌てず急げ!地下の一番奥の広間に行きなさい!」
生徒達がぞろぞろと移動する光景が広がる最中、突然大きな音とともに横の壁が突然崩れた。
教師はとっさに反応して、生徒達の頭上に降りかかる壁の破片に向けて杖を振った。
「ロコモーター!」
大きな破片は空中で固まり、そのまま壁に空いた穴の外に振り飛ばしたのだった。
床には小さな壁の残骸が散り、空いた穴から吹き付ける風でほこりが舞う。
そして一人のグロリアが廊下に姿を現したのだった。
悲鳴を上げて逃げる生徒達に、男は杖を向けて立つ。
教師はすかさず男に向けて杖を振る。
「そうはいかん。」
グロリアの男は生徒達を向ける杖を後ろに振りかざして、教師の放った閃光を打ち払った。
教師は続けて二発三発と攻撃を仕掛けて敵の気を引かせる。
男は呪文を弾きながら教師の方を向いた。
「いいだろう。遊んでやるさ。」
そう言ってフードをとると、スキンヘッドの男の顔が露になった。
「お前達か。あのグロリアというのは。」
教師が杖を構えたまま言う。
「まだまだ知名度は今一だな。残念だ。」
男は続ける。
「お前は我々の何を知っている?」
「誰もが知ってるあの14年前の事件・・・あれを起こしたテロリストだ。」
教師が言った。
スキンヘッドの男は、やれやれといった表情をした。
「テロリストか。それはむしろ外で我々に抗っているナイトフィストこそ相応しい呼び方だな。」
「彼らはグロリアから私達を護ってくれている存在だ。」
教師が言い返す。
「我々は遥か昔からこの魔法界に革命を起こそうとしてきた。魔法界に住む全ての魔法使いの為のだ。そしてそれを奴らがことごとく邪魔してきたのだ。奴らには理念は無い。ただ我々の思想を受け入れることが出来ない故に、我々を憎み、壊滅させたいだけなのだ!」
男と教師は睨みあった・・・
様々な教室から生徒達が飛び出し、教師達が行き先を指示している。
そんな状況の中、グロリアの人間が次々と現れて、生徒達はさらに混乱する。
そんな光景が校内の至るところで展開されていた。
廊下で滑ったり、ぶつかったりして転ぶ生徒も続出する。
それはとある広間でも起こっており、そこに現れたグロリアの攻撃を食い止めて生徒達をその場から離れさせている一人の教師がいた。
彼は、グロリアに絶え間無い呪文攻撃を繰り返しながら、横目で生徒達の状況もちらちら確認する。
前方に仁王立ちするグロリアは攻撃の全てをガードして、すきを狙って眩い光線を飛ばした。
教師が放った呪文と光線が衝突して、空中で爆発が起こる。
一瞬、目が眩んだ隙に敵は視界から姿を消していた。
同時に一人の女子生徒の叫び声が背後から聞こえる。
教師は慌てて振り向くと、そこには女子を捕まえて杖を突き付けるグロリアの姿があった。
「ここは降参した方が利口ですよ、先生。」
そのグロリアは喋りながらフードを取った。
フードの中から、前髪で片目が隠れた長髪の男の素顔が現れた。
教師は反撃することは出来ず、その場に立ったまま杖を構える手を下ろすのだった。
そしてその頃、ここから逃げ出した生徒の群れは他の生徒達同様、教師に指示された場所を目指して一目散に走り続けている。
しかし順調にはいかず、彼らの進行を邪魔するように、廊下の前方に煙をまとった一人の人間が現れる。
先頭を走っていた生徒が急に足を止めて、後方の生徒達がドミノ方式でぶつかった。
行く手を阻んだ一人のグロリアは杖を持つ腕を生徒達に向けた。
顔はフードで見えないが、ひらめく長いローブからタイトな黒いスカートが見えることで女であることがわかる。
先頭の生徒達は杖を手に取り、皆でグロリアの女に構える。
女はこっちに歩きながら口を開いた。
「グロリアに牙を向けないほうが身のためよ。ただ大人しくしてればいいだけ。あんたらと戦うのが目的じゃないから。」
女は杖を向けたまま、更に生徒達に近寄った。
「でも、一人でも反抗したら・・・死ぬわよ。」
先頭に立っている生徒達は顔を見合わせると、静かに杖を下ろすのだった・・・・
アカデミーの戦況がグロリアにより掌握されているその頃、W.M.C.の禁書の棚では・・・
「これは五人いても大変な作業だな。」
デイヴィックが本を取り出しながら言った。
「こっちの棚は一通り調べたけど、魔光力源には関連無さそうね。」
隣の棚の前でエレナが言った。
「もうそっち終わったのか。」
彼らは禁書の棚で調べものをしている最中だったが、マルスの姿は近くには無く、一人で離れた箇所に移動していて・・・
「私です。今日、彼らがここを訪れるのは想定外でしたが、むしろ好都合でした。調査の手間が省けます。」
彼は手鏡に向けて小声で話していた。
「ならば結構だ。好奇心旺盛な子供達には大いに役立ってもらうといい。だがくれぐれもお前の単独行動を彼らに、そしてザッカスとライマンに怪しまれてはいかん。まだ勘づかれるには早いからな。」
鏡から聞こえてきたのは他ならない、バスク・オーメットの声だった。
「十分承知していますマスター。では後程・・・」
そしてマルスは鏡をしまった。
「さて、そろそろアカデミーに終結の時かな・・・」
彼は不適な笑みを浮かべて、デイヴィック達のもとへ戻っていくのだった。
次章予告
ウィルクス・ウィッチクラフトアカデミーはグロリアにより占拠され、その場にいる全ての者達は一ヶ所に集められて、行動を封じられてしまった状況下でシナリオが展開していく。
そしていよいよ、ある人物からセントロールスで起こった謎の警官殺人事件の真相が語られる。