Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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第三章 運命の兆し

周りからは生徒達の声がやむことなく聞こえてくる。頭にはうるさいの一言しか浮かばない……

 

マックスとジャックは今、食堂の入口に立っている。

中は大勢の生徒でうまっていた。

こんな状態の中からディルとジェイリーズの姿を探していた。

 

「まあいいや、とりあえず何か食べるぞ。」

マックスはジャックを連れてプレート置き場へ歩いた。

「で、今夜の行動は予定通りやるのかい?」

ジャックがプレートを取って言う。

 

「ああ、やるよ。その時に例の魔法使いに出会えれば好都合だし。いや、むしろ奴のほうから会いに来ることが考えられる。」

「そうだな。何せあんなものお前に拾わせたんだからな。」

 

二人は適当に皿をプレートに乗せ、パンやシチューやらのコーナーに向かった。

 

「この事はあとの二人に直接会って話したいんだが……今のところ見あたらないんだよな。」

マックスはシチューの大鍋の前にできた生徒の列にならび、食堂全体を見渡す。

 

「まあ時間はまだある。夜中の行動までには一度会うだろうからその時にでも。」

「ああ、だな。」

 

二人は食べ物を取り終えると、やはり奥のテーブルへ歩いていく。

食堂には窓は無いため窓際から外を眺めることはできないが、それでもすみっこを好むのがこの二人である。

 

「夜中の行動というと、本に書いてある地下の部屋も気になるな。」

ジャックが言った。

 

「気になりすぎるよ。地図に嘘を書いてあるはずがない。それに、そこには重要物保管所なんて書かれてるんだぞ。何か変だろ。」

マックスは昨日強奪した『学校内全システム書記』の地図のページを思い浮かべた。

 

「今夜あの魔法使いに出会えるなら、その部屋のことを聞きだせるかもしれない。俺はあの時にあいつがその重要物保管所へ向かっていたとしか思えない。あいつはそこへの行き方を知ってる。何故だかわからないけど、あの時に行ったんだ。」

 

「わからないのは目的もだ。そしてそんな隠し部屋なんてのがある理由も。もっとも、君の仮説通りだとしたらだが。」

ジャックが言った。

 

「そうだな。答えに飛びつくのはまだ早い。全ては今夜だ。今夜、奴の誘いにのってからの話だ。」

マックスはポケットに突っ込んだ、あるものの事を考えながら言った。

 

そして二人が食事を開始した時だった。

 

「あっ、ジェイリーズが来てるぞ。」

 

二人の所に、ジェイリーズが食べ物を乗せたプレートを持って歩いてきているのだった。

 

「ご一緒してもいいかしら?」

「どうぞ。こっちも話したいことがあったんだ。」

彼女はマックスの隣に座った。

 

「何?今夜の事?」

「それもだが、まず先に知らせないといけないことがある。例の魔法使いについてだ。そうだ、ディルを見てないか?」

「彼なら夕食済ませて一人で個室に向かったと思うけど。」

「そうか。じゃああいつには後で伝えるとして、まず君に話そう。」

 

マックスはポケットに手を入れ、何かを掴んでジェイリーズに渡した。

 

「何これ、まさか……」

「ああ、恐らくあの時の魔法使いが書いたものだ。」

 

それは文字が書かれた紙切れだった。

それにはこう書かれてある。

 

「君と、君の仲間たちへ告げる。私は君達の事を知っている者であり、また君達の仲間でもある。時期に君達に直接会い、伝える時に備えよ……これ、いつどこで手に入れたの?」

ジェイリーズが文章を読んで言った。

 

「今日の昼休みが終わった後だ。皆で集まった後、俺はいらない教科書を置きに個室に行ったんだけど、その時にドアの下の隙間からその紙が顔を出してたんだ。書いたのはあの魔法使いに違いない。そして俺のいない間に俺の個室のドア下に忍ばせたんだ。俺の個室まで知っていたんだよあいつは。」

 

「まさかそこまで知ってるとはね……」

ジェイリーズは再び紙切れを見る。

 

「これ、あたしたちの仲間だって書いてあるわよ。」

「ああ、だがまだ信じてはいけない。まずは会って何を企んでいるか暴かないと。」

「少なくとも会いたがってるのは間違いないわね。そこで何か言いたいことがあるみたいだし……」

「俺は今夜の行動で奴に会えるんじゃないかと思ってる。俺達が動けば奴も動くはず。」

 

ここで食事を早々と済ませたジャックが立ち上がった。

 

「それじゃあ、俺は明日に備えてとっとと溜まってた宿題を終わらせるとするよ。マックス、動くときには連絡頼む。」

「わかった。じゃあまたその時に。」

 

そしてジャックは一人でプレートを片付けに行った。

 

「後はディルに知らせるだけか。あいつのことだ、なおさらワクワクするだろうな。」

「本当に、陽気な人よね。」

ジェイリーズは食事しながら言った。

 

「ああ。あいつがいればチームの活気もわいてくる。」

「彼以外、静かなメンバーしかいないからね。」

「そこが重要さ。こうして今もうるさく騒いでいる生徒達と同じになるのだけはごめんだ。」

マックスは生徒のしゃべり声があちこちで響く食堂を見渡す。

 

「相変わらずね。何か皆に恨みでもあるみたいな言い方。」

「別に何の恨みもないさ。ただ、ガキとうるさいのが苦手なだけだ。君こそ、うんざりしてることがあるんじゃなかったか?」

 

ジェイリーズは周りで騒いでいる男子生徒達を見ながら言った。

「ええ、そうね。少なくともここにいるうるさい男子たちとは付き合いたくないわね。」

 

彼女は今はまでに数々の告白をされてきている。だが、ことごとく彼女は断ってきたのだ。

結果、誰とも付き合ってはいない。

 

「モテすぎるとは、ずいぶんと贅沢な悩みをお持ちなことだ。」

マックスは言う。

 

「大変なのよ、その気は無いんだから。それとも、告白されたら何か不満?」

ジェイリーズは、また得意な微笑みでマックスを向いた。

 

「何も無いよ。たまには誰かと遊んでみるのもいいんじゃないか。気分転換にでも。」

マックスは食事を続けながら言った。

 

「その気は無いって言ったでしょ。気分転換と言うならば、むしろこのチームの活動がそうなるわね。」

「変わってるな。」

「あなたには言われたくないわね。」

「確かにな。」

 

やがて二人は夕食を終え、食堂を出ていた。

窓の外はもう暗くなっていた。

 

二人は寮塔へと向かいながら話をした。

 

「なあ、君はなんでセントロールスに入学したんだ?」

マックスが聞く。

「言わなかったっけ?今の親のお陰よ。」

「ああ、そういえば、何かしらの魔法で君を入学させたんだっけ。」

「親がそう言ったわけではないのよ。でも、そうとしか思えない。受験受けてないのに受かるわけないわ。」

「そりゃそうだ。」

 

二人は階段を上り、四階を目指す。

 

「特に行きたい学校なんて無かったし、それに他の魔法使いの生徒と出会って楽しい事もできてるから、ここに来て正解だわ。あなたも引き取ってくれた親戚の薦めで来たって言ったわね。」

 

「そうだ。ただ、家から近いし、寮の評判も気になっていたから俺はここに入学しようとは何となく思ってたかな。まあ俺も希望の進学先なんて無かったよ。」

 

四階の廊下に到着し、寮塔の方面へと歩く……

 

やけに静かだ……そういえばさっきから周りに生徒が一人も見当たらない。もう寮生は皆寮塔へ移動したと言うのか……後からはまだ食堂にいた生徒が来るはずだが。

 

二人はしばらく静かに歩いた。

 

まだ辺りに人の気配が無い。

 

「ジェイリーズ、何かおかしくないか。」

「あなたも思ってたのね。」

 

その時、二人は何かを感じた。

空気がわずかに震動したような、何か変な感覚をかすかに感じた。

 

二人は同時に顔を見合わせる。

「今のは……」

「ええ、何かしらの結界に入った感じだわ。」

 

二人は一旦足を止め、辺りを警戒する……

 

「生徒が誰も来ない……もしやこれは、マグル避け呪文か。」

「あたしたちじゃない。ジャックかディル、もしくは……」

 

マックスは確信していた。

「こんなにも早くお出ましか。いるなら出てきてくれ!」

マックスはズボンのポケットから杖を取りだし、構えた。

 

ジェイリーズもスカートから杖を引き抜く。

 

「ジェイリーズ、感知の魔法を。」

「ええ。」

彼女は杖を廊下の先に突きだし、呪文を唱えた。

 

「ホメナムレベリオ……」

杖先の空気が震動し、徐々に前方へ広がってゆく…………

 

空気はまだ震え続けて…………

 

「誰かいるわ。この先よ!」

二人は杖を構えたまま再び歩きだした。

「目眩まし術をかけてここへ来たな。」

 

二人は更に警戒する。

 

「気配がする。近いわよ。」

「いい加減姿を見せろ。話があるなら早いとこ済ませてもらおうか!」

 

その直後だった。

 

「なかなかやるものだな。足音も消している空間で私の存在を感じるとは。まあ、通常の魔法使いならばこの異変に気づかないほうがおかしいが……」

 

二人の足が再び止まる。その声は確かにそう遠くない廊下の前方から聞こえたのだ。

 

「どこにいる……」

 

そしてすぐにその者は動いた。

マックスはかすかに床に人影が写っているのを見つけた。姿は背景と同化できても影は消せない。

その姿なき影は近くの扉を開け、中へ入っていったようだった。

 

「来いということか。」

マックスは開いた扉のほうにゆっくり歩いた。

ジェイリーズも後に続く。

 

緊張感がより高まる。しかし、同時にマックスはこれまでには感じたことの無い興奮を覚えた。

 

扉を掴み、そっと中を覗きこむ……

 

そこは倉庫のようだった。

物はさほど置かれてない。人、三人分が入るには十分なほどのスペースが中央にあり、それを避けるように物が左右の壁にきっちり寄せ集められている。

あたかも、ここへ連れ込む事を予定していたとでも言わんばかりに。

 

そして電気がついている。ライトに照されて姿なき人影が部屋の角にかすかに見えた。

 

「フィニート」

マックスは杖を影に向けて振る。

 

するとみるみる人の形がそこに現れ、やがて顔が確認できた。

 

「合格だ。」

 

そこには黒スーツ姿の、ぶしょうひげを生やし髪をきっちりとセットした40代ぐらいの男が立っているのだった。

 

「あんたは誰だ。」

マックスは尚も杖を構えたまま言う。

 

「仲間からは"サイレント"と呼ばれている。言っても知らんはず。」

それはそうだった。

 

「これを書いたのはあんただな。」

マックスは紙切れを出した。

 

「そうだ。ずっとこの機会をうかがっていたのだよ。そろそろ声をかけようと思っていた。」

 

サイレントなる男は続ける。

「私が君達を監視してきて、そして今夜会った理由はただ一つ。君達に運命を選んでもらうためだ。」

「何を言ってるんだ?」

マックスはわけがわからなかった。

 

「そもそもなぜ俺達の事を知っている?少なくとも俺の個室がわかったということは、俺の名前も知ってることになる。」

「それは我々のリストに名前がのっているからだよマックス・レボット、それにジェイリーズ・ローアン。」

 

なんとこの男はジェイリーズの名前まで知っていたということがわかった。

 

「リスト?」

「そうだ。14年前の騒動の犠牲者リストにだ。」

 

これには二人とも驚きを隠せなかった。こいつは家族の事情まで知ってるというのか……

 

「二人とも親を亡くしているはずだ。」

「確かにな……」

「それはグロリアの一団のせいだ。」

「グロリア?」

 

マックスはこの男の顔をずっとうかがっている。その表情はずっと真剣で、てきとうな事を言っているようには思えない。

 

「グロリアは、もとはイギリス魔法界の宗教的団体だったものが今や恐ろしく成長した軍隊だ。もちろん政府が公認している組織ではない。」

 

彼は二人の方へ近づく。

 

「14年前に、イギリスの魔法界でグロリアの大規模侵攻があった。その時に多くの人間が彼らの犠牲になっている。君達の家族も彼らの犠牲者だったようだな。」

 

「グロリアの、犠牲者……」

マックスは今、14年前の事実を突然聞かされた衝撃に圧倒された。

それはジェイリーズも同じだろう。

 

「そして私は、そのグロリアと戦っている言わばレジスタンス組織の一員だ。」

 

この男が言っている事は理解はできた。だが、まだ信じるわけには……いや、嘘とも思いがたい……

 

サイレントは再び話し始める。

「今言えることは、君達は人生の岐路に立っているということだ。言おうとしている事はわかるはず。」

「ああ、だいたいな。」

 

マックスは考えた。今まで何もわからなかったあの日の……家族と家を失った日の事実がようやくわかったのだ。

 

周りでは誰かに殺されたとか、あれは大火事だったとか言われていただけで、何一つ情報はなかった・・・

この男が言うことが正しければ、殺されたというのが正解だったのだ。そしてその集団の事をこの男は知っている。そして戦っている……

 

ジェイリーズも同じく、何らかの決断をしようとする眼差しだ。

 

「ここで立ち話もなんだ、一緒に来てもらいたい所がある。」

「俺達をどうする気だ。」

「どうもしない。さっきも言ったように、人生の分かれ道に来ているのだよ君達は。決断をする時だ。」

 

決断せねばならない。そして答えは既に決まりかけている……

 

「そのために詳しく話が出来る所へ行くのだ。あとの二人同様。」

「それはどういう事だ?!」

 

マックスはジャックとディルを思い浮かべる。

 

「既に彼らは私の仲間によってこれから向かう所へ移動したことだろう。今この学校内にはいない。」

 

マックスは頭を整理する。

「ならば、あいつらまで14年前のグロリアの被害者……」

 

確かにジャックは二人の兄を亡くしたという話を聞いてる。だが、ディルの家族のことは聞いたことがない。

まさかあいつの家族まで・・・・そんなことが本当に……

 

情報量が多すぎて混乱してしまう。

 

「わかったよ。とりあえず行こうじゃないか。」

マックスは、まずは興味の分野で踏み込もうと決めた。今までもそうやって色々やってきたのだ。

何かトラブルが起こったらその時だ。楽しんで対応すればいい。

 

「君はどうする?」

マックスはジェイリーズを向いて言った。

 

「行くわよ、もちろん。チームですからね。それに何だかワクワクするわ。」

やはりこの女も伊達にチームの一人ではないようだ。

 

「決まりだな。では、私の腕に掴まれ。」

サイレントはそう言うと、左腕を前に突き出した。

「力を入れていろ。少々きついかもしれん。」

 

言われた通りに二人はその腕に触れた。

 

「行くぞ。」

 

次の瞬間、急に視界がかすみ、猛烈な勢いで吹き飛ばされているかのような感覚に襲われた。

二人とも目を閉じ、必死でそこにある腕にしがみつく。

 

何がどうなっているのかわからない。と思った時だった。

確かに地面に足がついた。マックスはそっと目を開ける……

 

まだ体を振り回されてるかのような感覚が残っているが、確かに地面に立っていた。そしてここは……

 

「始めてにしては大したものだ。よく耐えたな。」

「今のは、姿現しか。」

マックスは今、その名を思い出した。

 

横を見ると、ジェイリーズがきつそうにしていた。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫よ。少し頭がふらふらするだけ。」

 

「始めての姿現しならそれが当たり前だ。それにしても、君の方は相性がよかったようだな。」

サイレントはマックスを向いた。

 

「たまたま体に馴染んだのだろう。」

とは言ったものの、本気でどうなるかと心配したものだ。

そしてマックスは辺りを見渡す。

 

「ここはどこだ?」

 

そこは見慣れない、古っぽい部屋だった。

あまり広くはなく、壁には大小様々な棚でうめつくされ、見たこと無いような数々の物品が置いてある。

そんな部屋を天井の電球一つが、ほのかに光り照らしていた。

 

「ここは私達、ナイトフィストが使っている活動拠点の一つだ。今はそれだけしか言えないな。」

「ナイトフィスト?」

マックスは部屋全体を眺めながら言った。

 

「そうだ。騎士の拳(ナイトフィスト)。それが、グロリアと戦う私達の組織だ。君達同様にグロリアの被害者で復讐を誓っている者や、そんな者達の意思に共感して共に戦うことを誓った者達が集まっている。」

 

その時、前方の木製のドアがきしんで開いた。

 

「マックス、ジェイリーズ!」

 

そこには、サイレント同様スーツ姿の男と共に出てくるあの二人の姿があった。

 

「ジャック、ディルも。話は聞いたぞ。」

「こっちも聞いたぜ。マックス達もあの事件の被害者だったってな。」

ディルが言った。

 

「さて、そろったところで早速本題だ。」

マックス達四人はサイレントと向かい合った。

 

「学校でも言った通り、私達は昔からグロリアと戦ってきた抵抗組織だ。そして私が君達の同行を監視してきた。それは君達の安全の確保、および組織への誘いのために他ならない。」

 

彼は続ける。

 

「君達は、少ない魔法の知識を実に巧みに利用して学校であらゆる事をやっていたようだね。私は君達のその行動力を評価し、正式にナイトフィストに誘うことに決めたのだ。」

 

ここでマックスが割り込んだ。

「それは予想した通りだった。だが一つ聞きたい。俺達の安全の確保とは具体的にどういう事だ?」

 

サイレントは話した。

「仲間を増やそうとしているのは私達だけではない。グロリアも同じこと。14年前の戦いでお互い酷い損害を被った。グロリアも私達同様、組織力の再構築を謀っているのは言うまでもないことだ。」

 

そして彼は少しの間を経て、再び口を開く。

 

「実は、目的ははっきりしていないが近ごろグロリアの構成員と思われる人物がこの町でうろついているという報告があった。」

「なんだって……」

 

まさかこんなイギリスの郊外にあるバースシティーに、あの事件を起こした連中が来ているというのか……

 

「この、イギリスの魔法界からほど遠い町で奴らは密かに何かを企んでいる可能性がある。それが人員集めである可能性も否定はできない。だから万が一グロリア関連の人間が君達の存在に気づき、組織への従属の提案、もしくはそれを拒めば君達が処分される危険性を考えたのだ。」

 

「そうだったのか。」

「次は君達の答えが聞きたい。今まで通りの学校生活を続け、卒業した後は一般社会で生きていくか。組織に入り、将来私達と共にグロリアと戦うか。」

 

マックスら四人は考え、顔を見合わせる。

 

「よく考えろ。ナイトフィストに入れば必ず命の危険が伴う。ここから先は遊びではないからな。」

 

マックスは過去を振り返った。

突然にして最大の損失……当時の微かな記憶と謎だけが残り続け、全ての希望を失っていた。

 

一人、退屈な人生はスタートし、やがてセントロールスでの学校生活が始まる。

ここで思いがけない仲間と出会った。皆、どこか似た者同士だった。

 

そして今、俺達は同じ運命を共にしていたことを知った。

知った上で、何もしないというのか……

知っただけで、何も始まらないというのか……

 

今、マックスは心に決めた。

 

「何を今更怖じ気づく必要があるか。俺達があの、14年前の出来事を経て、ここで出合い、そして組織からの迎えが来た。これは全て運命だ。だったらもうその運命に俺はとことん乗るだけだ。」

 

「本当にそれでいいんだな?」

サイレントが言った。

 

「あんた達もこの結果を聞きたくて連れてきたんだろう。何も文句は無いはずだな。」

「だがあくまで君の意思に従う。」

「これは俺の意思だ。」

そしてマックスは他の三人に向き直った。

 

「これは俺の決断だ。彼の言う通り、ここから先は遊びとは違う。無理して着いてくることはない。自分の意思に従ってくれ。」

 

するとディルが。

 

「まあ、大変そうだよなぁ。でも、退屈な人生を終わるまで続けろってのはもっと大変だろうよ。ってことで、俺も乗らせてもらおう。その運命に。」

 

「ディル。」

「これは俺の意思だぜ。俺だって、親戚一家を失ったんだ。そこには当時一番仲がよかった友達もいた。グロリアは絶対に許さない。」

 

こんなディルは始めてだった。

 

「俺も、嫌でも退屈しなさそうだしな。それに兄弟を失った。これだけでも参加条件は満たしてるだろ。」

 

ジャックは心の底で固く決意し、穏やかにそう言った。

 

「あたしもチームの一人ですから。皆と同じ気持ちよ。それにジャックの言葉を借りるなら、あたしも家族を失ったんだから参加条件は満たしてるわね。」

 

これで彼らの未来は決まった。

たった今、彼らは自分達の過去からの敵と向き合うことが約束されたのだ。

 

「そうか、そうなれば私達は全力でサポートしよう。では、君達にはこれから魔法の知識をもっと学んでもらわなくてはいけない。材料はこっちで用意する。近いうちに届けるつもりだ。」

 

そしてサイレントは腕を伸ばす。

「さて、そろそろ戻ったほうがいいだろう。」

 

マックスとジェイリーズは彼の腕につかまった。

ジャックとディルはもう一人の男の腕に触れる。

するとまたあの感覚が体を覆った。

 

そして数秒後には、マックスの目の前はほこりっぽい物置部屋になっていた。

 

マックスとジェイリーズは呼吸を整える。

 

「最後に一つ言っておくが、私達がやっているのはグロリア討伐であり、決して平和な団体ではないぞ。」

サイレントが言った。

 

「大丈夫だ。俺達は既に平和とかけ離れた事をやってきてるのは知ってるだろう。」

 

マックスは更に聞いた。

「そうだ、昨日の夜中に地下に行ったのはあんただろ。いったい何の用があったんだ?」

「地下だと?何の事だ?」

「違うのか?」

 

マックスのあては外れた。

 

「もう一人の彼も含め、私達は深夜にここへ入ったことはないが。」

「そんな……じゃあ、あれは……」

「何か気になる人物がいるのであれば、調査を頼もう。ナイトフィスト新入りの成果を見せてくれ。」

「ああ、そのつもりだ。」

 

その後すぐにサイレントは去ったのだった。

二人が物置から出ると、生徒達が一斉に廊下を歩いて来てた。

マグル避け呪文が解除されてるようだ。

 

「とりあえずあの二人と会わない?」

「そうだな。」

 

マックスは携帯電話を取り出して開いてみた。

早速メールがきている。ジャックだ。

 

「寮室に向かってるそうだ。行こう。」

マックスは寮塔への廊下を歩きながら考える。

 

今日一日でチームは大きく変化した。今までわからなかった14年前の出来事が判明し、二つの魔法使いの組織の存在を知る。

更にはその片方の組織に入って14年前の親の仇を打つことになるとは夢にも思わない。

 

マックスは何も変わらない日々に光が射し込んだのを心の底から感じ取った。

これから退屈とはもうお別れだ。

 

ここでサイレントのある言葉を思い出した。

 

深夜に彼らが行動したことはない……それはすなわち、昨夜の魔法使いと思われる人物がサイレント達には該当しないことを証明していた…………

 

 




ジャック・メイリール


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ジャック専用杖


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