Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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第二十二章 正体

セントロールスの静かな旧校舎の廊下にて、突風が発生すると同時に四人の人物がその場に現れた。

 

「今回はなんとか立てたか・・・」

その中の一人、マックスは倒れそうになるのをなんとか踏ん張っていた。

同じくジャック、エレナも廊下に立って現れていた。

そしてマックスは、一人廊下に転がった男を見下ろして言った。

 

「早く行くぞ。何だか急に嫌な予感がしてきた。」

「ちょっと待てよ。何で皆そんなに上手く出てこられるんだ?エレナはわかるけど、俺達は同じレベルのはずだろ。」

ディルが慌てて起き上がりながら言う。

 

「ポートキーの移動に魔力消費は無い。単純にお前のバランス感覚の問題だろう。」

「そうはっきりと言わんでもよ・・・」

 

そして彼らは廊下を走った。

とにかく六階のデイヴィック達を目指して・・・・

 

そしてそのデイヴィック達二人の状況は、決して良い展開とは言えないものだった。

 

六階の一番奥の部屋に向かってゆっくりと歩くデイヴィックとリザラの前方に、突如として彼は現れるのだった。

 

「指令の聞き間違いかな?この廊下を警戒せよとは言ったが、奥へ立ち入ることは禁じたはず。」

黒いスーツ姿の長身の男、テンペストがどっしりとその身を構えて立ちはだかる。

 

「いいや、指令の内容はちゃんと聞いている。ここに来た目的は指令とは関係ない。」

デイヴィックがその場で力強く言った。

 

「ほう。では、どうしたものかな。」

テンペストは手を後ろで組んで立ったまま、ゆっくりと喋る。

 

「俺達が指示に従うには、ちっと確認しなきゃならない事がある。」

デイヴィックは続ける。

「ここに来ればあんたが登場するかもしれないってことは予想していた。ならばそこで質問すればいい。俺達の手間もはぶける。」

 

「では聞こう・・・」

テンペストが静かに言った。

 

「ずばり、俺達の元仲間の現状を教えてもらう。知っているはずだ。」

デイヴィックがそう言った後、テンペストはうなずきながら、またゆっくり話し始める。

 

「ああ、やはりそう来たか。何とも君らが考えそうな事だ。知りたいのは彼、ロドリューク・ライバンの事だろう。もっと言うと、彼と共にいるもう一人の事か・・」

 

「質問に答えてもらおう。」

デイヴィックが言う。

 

「いいだろう。彼には私が特別な任務を与えている。いや、正確には、特別な駒として役目を果たしてもらう任務と言ったところか。」

「特別な駒・・・?」

リザラが言った。

 

「ああそうとも。君達と違って、彼には駒として動かす価値がまだ残っているからな。だから私の仲間の行動をサポートしてもらう任務を与えた。今頃どこかで忠実に動いていることだろうな。そして君達も、もう気づいてもいい頃だと思っていたがな。最初から事を上手く運ぶ為の駒だったのだと。」

 

「最近あんたの考えてることがわからないとは思っていた。まさか、最初から道具だったとはな!」

デイヴィックが言った。

 

「だが君達を選んだのはどうやら間違いだったようだ。君達は、道具になるには感情が豊かすぎた。道具は常に、使用者に忠実であらねばならないものだ。そうだ、まさしくロドリューク・ライバンには道具として相応しい。」

彼は続ける。

 

「彼は純粋だ。最初からあの男は最も役に立つだろうと思っていたよ。あの、ただひたすら地位や力に魅せられた思いこそ、扱いやすい。君達もかつてはああだったはずだろう。道具諸君には彼を見習って欲しいものだ・・・」

 

「ああそうかい・・・言うことはそれだけか・・・」

デイヴィックはテンペストをにらんだ。

 

「欲しかった情報とは違った様子に見えるな。だがこれが事実だ。そして・・・言うことはもうひとつ。」

テンペストの表情が変わった。

「これまで御苦労。仕事は終わりだ。」

 

次の瞬間、彼が右手を前に差し出し、手から光の波動が発せられた。

 

それは鈍く光る緑色で、それが何の呪文か判断したデイヴィックはとっさに杖を振り、瞬間的に全力の魔力を込めた。

 

「プロテゴ・トタラム!」

 

杖先が光り、デイヴィックとリザラの正面に透明な膜が張られて、テンペストと二人の間の空間を完全に仕切った。

 

直後に、緑の波動は魔法の壁にぶち当たって散ったのだった。

 

「瞬時に空間防御をやって見せるか。相変わらずの鋭い神経だ。では今度は力量を見せてみろ。」

テンペストはそう言うと、再び右手を突き出して構えた。

 

リザラも杖を取り、力を入れて構える。

 

そしてまたテンペストは術を発動しだした。

一撃、更に一撃と、次々襲い来る魔法の衝撃で透明な膜が歪む・・・

 

そして護りはすぐに破られた。

 

魔法の膜は割れるように散り、更に容赦なく呪文が連発される。

デイヴィックは素早くかわして攻撃に転じる。

リザラも負けずと拘束系呪文を発動した。

 

だがどちらの攻撃も防ぎ、全て当たらない。

すると右手で魔法をガードしながら、彼は左手で杖を持ち構えた。

 

「ウィス・エレクトリカ」

途端に杖先が瞬き、青い稲妻が空中を走った。

 

呪文を放ち続ける二人は対応に間に合わず、電撃は彼らを一撃でねじ伏せたのだった。

 

叫んで廊下に倒れるデイヴィックとリザラの所へ、テンペストが歩いて来る。

「君達の実力はそんなものか。まだ楽しませてくれると思ったんだがな・・・」

 

彼は右手を上げると、二人の手から杖が離れ、二本ともテンペストの方へ飛んでいった。

 

それをキャッチして、彼は言う。

「これは・・・どちらも強い意思が染み渡った杖だな。頑固なまでに真っ直ぐな意思を持つ所有者であることに違いは無かったが、残念ながら私が期待した意思とはベクトルが違っていたようだ。まったく、私の見込み違いだ。笑い話にもならん・・・」

 

「・・・見込み違いは・・・こっちのほうだ。」

デイヴィックが食らった電撃の痛みに耐えながら立ち上がろうとする。

 

「あんたは俺達を救ってくれた・・・居場所を、仲間を与えてくれたと思っていた。だが、グロリアの道具になるぐらいなら、とことん反対してやる。あんたが与えた俺のチームでな!」

 

「仲間という存在を与えてしまったのが失敗だったようだ。だが私の失敗は私が落とし前をつける。私達の崇高な目的の邪魔は、誰だろうと許さん。」

テンペストは杖を失った二人に迫り、再び攻撃を開始しようとした。

 

その時だった。

突如、廊下の一部が光ったかと思うと、そこから一筋の閃光が高速で迫った。

それはデイヴィックの横をかすめ、テンペストに命中したのだった。

 

彼の身体は後方に吹き飛ばされ、手から三本の杖が落ちて廊下に転がった。

 

デイヴィックとリザラは唖然として後ろを振り向く。

 

間髪入れずして、第二の術がどこからか発動され、床に落ちているデイヴィックとリザラ、そしてテンペストの杖が動きだした。

三本の杖は空中に浮いて加速し、やがて術者の手元へと引き寄せられるのだった。

 

「何者だ!」

遠くの廊下に倒れたテンペストが叫ぶ。

 

「久しぶりだな。俺達だよ。」

そう言いながら、徐々に姿を現すのはマックスだった。

彼に続いてジャック、ディル、最後にエレナも目くらまし術を解いていく。

 

「こんな事になってるとはな・・・」

マックスはデイヴィックとリザラの近くへ歩きだした。

 

「これはこれは・・・ここで君達が登場するとはな。そして見たところ、エレナ・クレインの姿もあるではないか。ずいぶんと興じさせる展開だ。」

起き上がりながらテンペストが言う。

 

一方、デイヴィックとリザラもこの展開には驚いていた。特に、エレナがマックス達と共に立っている事に・・・

 

「エレナ!無事だったのか。」

デイヴィックが彼女を見て言い、続けてこちらへ近づくマックスに視線を移す。

「おい、どういう事なんだ・・・何でこのタイミングで・・・」

 

「詳しい話は後だ。とにかく、今は奴を捕らえるために協力だ。」

そしてマックスは、奪った三本の杖をデイヴィックに差し出した。

 

「この状況だ。言われるまでもない。」

するとデイヴィックが二本の杖を取り、一本をリザラに渡したのだった。

 

リザラは立ち上がって杖を受け取ると、デイヴィックと共にマックス達と並び立った。

そして前方に杖を向ける・・・

 

「なるほど。彼女が言っていたのはこの事か。」

六本の杖と対峙し、テンペストは静かに言った。

 

「何を言ってる。」

マックスが言う。

 

「さっき、お前達が何かしらの動きをみせるかもしれない事を私のパートナーが示唆していた。」

「パートナー?」

「そうだ。私達の崇高な目的の為に、ずっと共に動いてきたパートナーだ。しかしながら、こうも早速出てくるとは。それも、都合よくこの二人と同じタイミングでここに現れてくれるとは手間がはぶける・・・」

 

マックスはこの時、何かに引っ掛かっていた。

 

「お前達が何をしようとも、パートナーはお見通しだ。この作戦は大したものだったが、残念ながら失敗だ。」

 

その言葉を最後に、杖を奪われたテンペストは両手を前に構えて・・・

「キュムロニンバス」

 

マックス達はいつでも防御出来る用意をしていたが、術が飛んでくることはなく、彼らの周囲に灰色のもやが現れ始めた。

それは瞬く間に膨れ上がり、彼らの視界を奪い去った。

 

「まずいぞ!離れろ!」

デイヴィックの一声に反応した皆は、即座に雨雲のようなもやから出ようとした。

マックスも走りだそうと、足を一歩動かした。しかしその瞬間、目の前に激しく光る稲妻が横切ったのだった。

 

「プロテゴ!」

瞬間的に身の危機を感じて、防衛呪文を発動できたのは幸いだった。

稲妻は雷鳴を轟かせてマックス達を襲った。

他の皆も、雷撃を食らわないようガードに徹するしかないようだ。

 

「気象呪い崩しなら知ってるんだが・・・内側に居てはどうにも出来ない!・・・」

雷撃を必死で払い除けながらデイヴィックが言った。

 

「あたしに任せて。」

そうリザラが言った後、周囲を走る雷の隙を見てその場から姿をくらました。

しかしマックス達は雷雲に囲まれて、彼女の様子を知ることは誰も出来ない。そもそも周りを見回す余裕がない。

 

この時、リザラは気象呪いの輪から脱け出して、テンペストの背後に姿現ししていた。

 

「君が来たか。」

誰かがこう来ると予測していたはテンペストは、すぐにもう片方の手を後方へ向け、防衛呪文を発動したのだった。

 

そしてそこに、彼の筋書き通りにリザラが呪文を放った。

 

その金縛り呪文はテンペストのガードで彼女自身に跳ね返り、言葉を発する間もなく固まってその場に横たわるのだった。

 

「ワンダウン。まだまだつまらん・・・」

テンペストは再び前を向く。

 

その時、雷鳴に混じってどこからか誰かの声が響き渡った。

 

「メテオロジンクス・レカント!・・・」

 

直後、荒れ狂う稲妻は消え、やがてマックス達を取り囲む雷雲も薄れていったのだった。

 

一瞬、廊下に静寂が戻る・・・・

 

そこへ、こちらに歩いてくる足音が聞こえてきた。

 

「今日はずいぶんと来客が多いな・・・」

テンペストの目線はマックス達のずっと後ろに向けられていた。

 

「これはこれは。騒々しいと思って来てみれば、お前に出会うとはなぁ・・・オーメット。」

 

マックス達は状況がよくわからない中、声の方を振り向く。

すると後方には、なんと警官服の男が三人歩いて来ているのだった。

 

「あれは・・・昨日のナイトフィスト。」

デイヴィックが彼ら三人を見て言った。

 

すると、テンペストが三人のうち真ん中の男に向かって言った。

「その名で呼ぶな。今はテンペストの名で知られている。」

 

「いいじゃないか本名なんだから。」

するとその男は、テンペストの背後で倒れるリザラに杖を一振りして呪文を解除した。

そして別の男がマックス達に近づき、小声で話しかけた。

「さあ行け、今のうちだ。あの変わり者は我々に任せるんだ。」

 

「助かった。ではそうさせてもらう。」

マックスが言った。

そこにリザラも駆けつけると、彼らは男達の横を通ってその場を後にするのだった。

 

残った三人の男達は、テンペストと向き合う。

 

「それで、お前はまだグロリアにいるみたいだな。」

真ん中の男は言った。

 

「ライマン・・・それにザッカス、マルス。こういう形で再会するとはな。お前達は相変わらず、今も固まって同じ事をしているようだが、一人足りないな。そうだ、マックス・レボットの父親の姿が無いな。」

テンペストは不適な笑みを浮かべた。

 

「ギルマーシスの事ならお前も知っているはずだ。彼をあざ笑うことは許さん。」

そして彼らはテンペストに杖を構えた。

 

 

この時、難を逃れたマックス達は、一旦物置部屋に身を隠した所だった。

 

早速、デイヴィックが口を開く。

「何で助けたんだ?お前達は何がしたいんだ。」

「それが正しい事だと思ったからだ。彼女から話を聞いてな。」

マックスはエレナを指差した。

「彼女はお前達をずっと大事な仲間だと思っている。そしてお前達だって、彼女を心配していたはずだ。」

 

「ああそうさ。でも、エレナは今でも俺達を仲間だと思ってくれるのか・・・」

 

そこで彼女が話しだした。

「もちろんでしょ。デイヴィックもリザラも、やっとできた仲間・・・」

エレナは続ける。

「あたし達、似た者同士でしょ?そしてそれはこの人達だって一緒だった。もうあたし達は敵じゃないわ。」

 

「そうか・・・お前の選択は正しかったな。俺達について来なくて正解だ。」

デイヴィックはそう言って、次にマックスを見た。

「エレナを救ってやって感謝する。そして俺達がずっと、間違った人間に従っていたとわかった。これからは俺達と代わって、エレナと仲良くしてくれ。お前達なら間違った方には進まないだろう・・・」

 

そしてマックスが・・・

「ああ。確かに君達は間違っていた。でももう違う。」

「お前達にも迷惑をかけた俺達に、これからどうしろと言う・・・」

デイヴィックが言う。

 

「まずはここを離れないと。話はそれからだ。」

 

その後マックス達は、エレナの時同様デイヴィックとリザラを地下隠れ家に連れて行ったのだった。

 

ポートキーにした椅子と共に六人が出現すると、部屋にいたレイチェルがびっくりして後ずさった。

 

「レイチェル、まだいたのか。」

マックスが言った。

「まあいいや。ここの安全が早くも確保出来るかもしれないからな。」

 

「ということは、テンペストは・・・?」

レイチェルが言った。

 

「ナイトフィストの大人三人が相手をしている。ここで取り押さえることができたら、ここはもはや安全だ。」

と言いつつ、彼はある事を心配していたが・・・

 

「ここは俺達の活動拠点だ。ここに君達を連れてきたのは、君達がもう敵ではないと確信したからだ。」

マックスはデイヴィックの方を向く。

 

「さて、改めて話をしようか。デイヴィック・シグラル。」

そして会話は始まった。

 

「テンペストは本性をあらわした。これでもう君達が奴についていく事はできない。それに、もう従う気はないだろ?」

「無論だ。それで、何が言いたいんだ。」

デイヴィックが言う。

 

「わかっているんじゃないのか?」

マックスは彼の表情から察した。

 

「大体予想はできるさ。そして俺達はもう君らと戦う理由も無くなった。」

「ならば・・・」

「いや、君達の仲間になることは出来ない。」

デイヴィックはマックスをさえぎった。

 

「エレナと色々話はしたんだろ?だったら俺とリザラの事も少しは知ってるだろ・・・」

「ああ。知った上で頼んでるんだ。」

マックスは強い眼差しで言葉を返す。

 

「意味がわからん。俺達の親が・・・」

「元グロリアだったって言うんだろ?聞いたよ。」

今度はマックスが言葉をさえぎる。

 

「じゃあなんで・・・」

「聞いたのはそれだけじゃないからだ。君達がチームの皆とどう関わり合ってきたのか、どんな人間だったかを彼女は話してくれた。それを聞いたら、君達はとても悪人なんかには思えなくなった。いや、むしろ俺達も同類なんだ!」

 

この時、彼の言葉にこもった強い気持ちを、デイヴィック含め、周りを囲む皆も感じとった。

そして二人の間にエレナが入る。

 

「彼が言ってる事は間違ってない。詳しく話を聞くと、マックス達もあたし達と全く同じだったってわかった。孤独で、周りに馴染めなかったあたし達とね。」

 

デイヴィックは彼女の言葉を聞くと、少し黙ってからマックスの方に向き直った。

 

「こんな真剣なエレナは初めて見た。マックス・レボット・・・お前が彼女の本心を引き出させたのか。まだ出会って間もないというのに・・・・俺にはそんなこと出来なかったのに・・・」

リーダーとしての自覚が、彼自信を追い込む。

 

「それは、彼女が本気で思ったからだ。君達を救ってほしいとな。」

マックスが言った。

 

「エレナが?・・・俺達が置いて行ったのに・・・」

 

うつ向く彼に、エレナが近寄った。

「自分を責めないで。あなたは常に正しいと思うことをやってきた。それだけなんだから。」

 

彼女に続いてマックスも言う。

「俺達も、君達チームと同じく正しいと信じた行動をしている。だから俺は君を、例えグロリアの為に動いていたとしても責めることは出来ない。でもグロリアが正しい連中だとは決して思ってない・・・」

 

マックスは自分と、そしてチームの仲間達の事を思い浮かべながら話を続けた。

 

「でもそれは、単に俺達の家族がグロリアの攻撃の犠牲になったから・・・グロリアを憎んでいるからそう思うだけかもしれない。そして君達がナイトフィストを敵視する理由も同じだろう。立場が反対だったから、お互い敵対するしかない・・・どっちも正しいと信じて動いただけなのに。」

 

「・・・お前の言う通りだな。確かに俺はナイトフィストを憎んだ。父親を死に追いやった原因はナイトフィストだからな。でも、逆の立場の事は全く考えたことはなかったな。俺はただ憎んだだけだった・・・お前達の事も、ナイトフィストの仲間というだけで怒りの対象にした。そうやって自分を強くしようとしていた・・・」

 

「もういいんだ。俺達は君らを悪くは思わない。そしてこんな関係はもう終わらせよう。俺達の仲間になってくれないか?それでナイトフィストを恨むのを止めろとは言わない。ただ、俺達はグロリアが正しいとだけは思えない。それはさっき君達もわかったはずだ。」

 

そして彼に続いて、エレナも頼むのだった。

「あたしからもお願いする。グロリアから手を引いて。過去に縛られてグロリアに入っても、自分を苦しめ続けるだけ。そんな仲間を放ってはおけない。」

 

デイヴィックは二人の言葉を後に、少しのため息をついてゆっくり口を開いた。

「ここまで人から説教されるなんてな・・・俺にこんな説教される価値があるなんて思ってもみなかったぜ。」

 

そして軽く微笑みながら、彼は本心を語る。

「俺も少しは立ち止まって、何が本当に正しいのか考えるべきだなぁ。正に今が丁度良い時だ。これからどうすべきか・・・はっきりとはわからないな。でも、少なくともお前達はもう敵じゃない。いや、仲間だ。」

 

そしてマックスも微笑んだ。

「その言葉、やっと出たな。」

 

それから会話はしばらく続いたのだった・・・・

 

 

そして、間もなく太陽が沈もうとする頃。

 

マックスのチームとデイヴィック達は、更に互の距離が縮まってきた様子で喋っていて・・・

 

「なぁ、どうしたボーッとして?」

ディルがマックスに話しかけた。

 

「ずっと気になってるんだ。あいつが言ってたパートナーという存在がな。」

 

彼は、テンペストが言った言葉を思い返していたのだった。

 

彼は度々パートナーの事を口にしていたが、デイヴィックとリザラはそのような存在がいることを今まで知らなかったようだ。

例えテンペストが動かないとしても、今後はそのパートナーという者に十分注意する必要がありそうだ。

 

「確かに言ってたなぁ。どこで何をやってるのやら・・・テンペストの加勢にも出て来なかったし、完全に謎だな。」

ディルが言った。

 

「そして気になる事はまだあるんだ。俺は、それがとてつもなく嫌な予感がしてならない。」

 

今日、テンペストが喋った言葉から考えつく事がひとつある。

それは自分達にとって最悪な事実かもしれない事なのだ・・・・

 

「何だよ、また嫌な予感か?お前の予感は本当に当たるからなぁ。」

「今はまだはっきり言えない。確証もない事だ。」

そう言い残して、マックスは一人、公園への階段を上って行くのだった。

 

「ん?マックス、帰るのか?」

背後からジャックの声が聞こえた。

 

「ああ。今日はなんだか疲れてな。また明日集まろう。ジェイリーズも一緒にな。」

「ああ。わかった・・・」

ジャックは様子がおかしく思いながらも、地上へ上がっていくマックスをそのまま見送った。

 

マックス自身、今日の行動で得られた成果には大満足していた。

エレナの願い通りにもなったわけで、マックスのチームに仲間が増えるのも喜ばしいことだ。

 

だが同時に、マックスの頭の中で最悪な仮定が出来上がっていた・・・・

 

「ジェイリーズ・・・まさかな・・・」

 

独り言をつぶやいて公園を歩いていると、ベンチに腰かけたレイチェルの姿が目に入った。

 

「すまない。居心地悪かったか・・・」

マックスは彼女に近寄った。

 

「いいや、そんな事はないわ。あの人たち、マックス達に似てる気がするし。」

「ああ、同じさ。そしてやっぱり、似た者は集まるんだと思ったよ。」

 

そして彼女は夕空を見上げたまま、唐突に言う。

「今日のマックスの言葉、何だかすごかったなぁ・・・」

「えっ?すごいって?」

「あたし感動した。あんなこと言えるのってすごいと思う・・・」

レイチェルは、デイヴィックを説得していた時のマックスの言葉を思い出していたようだ。

 

「あの時は必死だったからさ。でも、言った事は全て本音だ。デイヴィックには俺の本音が届くと思ったんだ。」

「あたしも、これからの事とか、過去の事とか・・・考える必要があるのかな・・・なんて思ったりね。」

そしてレイチェルは立ち上がった。

 

「もう帰らないと。明日も来るの?」

「ああ。あれからテンペストが俺達を襲いに来なかったし、ここはもう安全だと思うからな。」

「そう。じゃあ、またね。」

 

彼女が公園を去った後、マックスは少しの間ブランコに座って、考え事をしていた。

 

テンペストは言った・・・・何をしようとも、私のパートナーがお見通しだと。

そして、今回の行動がパートナーとやらに知られていたという事実・・・

 

奴は、俺達がそろそろ動くかもしれないとパートナーが示唆した・・・そう言った。

そして今回の計画が完成したのは、行動するわずか数時間前のことだ。

この事を知る人間は限られている。

なのに奴のパートナーがこれを知っていたという事はつまり・・・

 

俺達の中に裏切り者がいる。

 

更に推測は出来る。

今日、チームの一人が姿を見せていない。しかし、電話で計画の内容を簡単に伝えたのだった。

 

彼女は・・・ジェイリーズはあの時点で計画の事を知っていたということだ・・・・

 

 

翌日。

この日は彼にとって忘れられない日となるだろう。

 

昨日の予定通り、この日も地下隠れ家に集まることにした。

そしてマックスは一足先に到着していたのだった。

 

彼は決意していた。

裏切りの件はここではっきりさせないといけない・・・

 

そして待つこと数分後、最初に現れたのはデイヴィック、リザラ、エレナの三人だった。

 

「揃って早いな。昨日約束した時間にはほど遠いはずだが。」

「すぐに伝えたいことがあってな。」

デイヴィックは何やら慌ただしい感じで言った。

 

「急だな。とにかく聞こう。」

マックスは三人に近寄った。

 

「ついさっき、俺に手紙が届いたんだ。これを見てくれ。」

そう言って、デイヴィックはポケットから折り畳まれた一枚の紙を取り出した。

 

マックスは受け取って、内容を読んだ。

「デイヴィック・シグラルに告げる。ロザーナ・エメリアを助けたければ、リザラ・クリストローナとエレナ・クレインと共に、セントロールスの旧校舎六階廊下に集まれ。私はセントロールスに眠る魔光力源を発見した者だ。言う通りにすれば、魔光力源発見の手柄を渡してもいい。そうすればグロリアでの功績に大きく影響するだろう・・・・」

 

マックスは顔を上げた。

「こいつは・・・」

「間違いなくセントロールスの生徒だ。魔光力源を発見した生徒がセントロールスにいるとだけ聞いてるんだ。」

デイヴィックが言った。

 

「その話はエレナから聞いてる。そして俺達も前から探してる奴だ。」

そしてマックスはエレナを見た。

「とにかく、ロザーナ・エメリアを助け出そう。約束だったからな。」

 

それからしばらくして、ジャック、ディル、レイチェルが到着するのだった。

 

今日もジェイリーズがいないことが気になるが、マックスは早速皆にも手紙を見せて、これから何をするかを素早く決めるのだった。

 

「この通りだ。皆には悪いが、今日も動く事になる。こいつはデイヴィック達の仲間のロザーナ・エメリアと引き替えに何かを企んでいる。危険だが、これは彼女を助けるチャンスでもある。」

 

「皆には重ねて迷惑な話だな。これは俺達の問題なのに。」

デイヴィックがマックス達に言った。

 

「もう仲間だろ。こういう時に遠慮するなよ。」

マックスは皆に向き直って話を続ける。

 

「手紙には三人で来いと書いてあるから、俺達は姿を隠したまま動くしかない。そしてタイミングを見計らってエメリアを連れ出す。」

 

「ロザーナがいるということは、ロドリュークも一緒に来てると考えられるな。もし奴が攻撃してきたら対応は俺達に任せろ。」

デイヴィックが言った。

 

「ちょっと待った。」

ここでジャックが割り込んだ。

「俺には何かの罠のような気もする。昨日の今日でセントロールスに呼び出すなんて・・・それもデイヴィック達だけだぞ。」

 

「もちろん俺も思ったよ。テンペストが絡んでいる可能性をな。でも奴が呼び出したと考えるには大胆すぎる。」

マックスが言った後にジャックが。

「パートナーか。」

 

「やっぱりそこまで思いついてたか。」

マックスが言った。

 

「もっとわかるぞ。お前はロザーナ・エメリアを助ける裏で、パートナーの正体もつかもうとしているな。そして昨日・・・お前の様子がおかしかった。」

 

ジャックは、昨日一人で出て行くマックスの光景を思いながら語る。

「俺には、お前が何か思い悩んでいる様子はすぐにわかる。そしてディルから聞いたよ。パートナーがどうとか言ってたらしいな。それから俺はずっと考えた。そうしたらわかったよ。お前が考えてること・・・」

 

マックス以外の皆は、彼が何を言ってるのかわからないようだった。

 

「そうか、お前もある結論に行き着いたか。本当に察しが良いなお前は。」

「だが考え直そう。俺達は今までずっと一緒に行動してきただろ?」

「俺も信じたくはないさ。でもお前も気づいてるんだろ。昨日の作戦は俺達仲間内しか知り得ない情報だ。そして彼女も知ってるがここにはいなかった。」

「それ以上は止めろ!」

 

ここでディルが前に出てきて。

「おい、二人ともどうした?ジャックも、らしくないぞ今日は。皆にもわかるように言ってくれ。」

 

そしてマックスは彼を向いて言った。

「それはすぐにわかるだろうな。セントロールスで・・・」

 

その後、レイチェルを残して彼らはセントロールスに向かった。

 

デイヴィック、リザラ、エレナの三人は廊下を堂々と歩き、マックス、ジャック、ディルの三人が、目くらまし呪文で姿を消して後ろを歩く。

 

移動しながらも、マックスは考えていた。

 

手紙の文から、書いた人物は自分が地下魔光力源保管室を発見した者・・・つまり探していた黒幕であると明かしている。

そしてなぜその黒幕がデイヴィック達を誘き出す必要があるのか。それも、昨日テンペストから逃れたこのタイミングでだ・・・・

 

それは、奴のパートナーが代わりに始末しようとでも考えたからではないのか?

 

ということはつまり、奴のパートナーと探していた黒幕が同一人物、もしくは協力者であるという結論に達するのだ。

 

更にそのパートナーの正体も予想は出来てしまった・・・

 

テンペストの言葉、そして昨日に続き今日も彼女がいない事を考えると・・・・もう答えはひとつしか考えられない。

 

そうすると、彼女が黒幕だったということにもなってしまうわけか・・・

 

いずれにせよ、全ては今日ここで答えがわかるはず・・・

 

前方のデイヴィック達がいよいよ旧校舎六階の廊下に足を踏み入れた時、後方のマックス達三人も同様に緊張感が増す。

皆、昨日ここであった事を思い出していた。

 

この場所へ来るよう指定したということは、やはり昨日のテンペストの一件と関係してないなどとは思えない。

この先にパートナーとやらが待ち構えているとでもいうのだろうか・・・

そしてロザーナと、彼女を従えているロドリュークの姿はまだない。

 

六人とも警戒心を高めて進み続ける。

 

気づけばデイヴィック達は、例の一番奥の部屋の入口手前までたどり着こうとしていた。

 

「もう突き当たりだ。立入禁止区域にいるのにテンペストは現れない。あのままナイトフィストに捕らえられたのか?」

デイヴィックは一度進むのを止めて言った。

 

リザラとエレナも立ち止まる。

 

「ロザーナもいない。この部屋に入れということ?」

リザラが入口の扉の前に近づく。

 

そしてこの光景を後ろで見ているマックスは、とっさにおかしな事に気づいたのだった。

 

一度、あの突き当たりの部屋に入ったとき、確かに扉は無かったはずだ・・・

 

これは何らかの仕掛けがあるとにらんだマックスは、急いで三人の元へ向かう。

 

そしてリザラが扉に手を触れようとした、その時だった。

 

扉のほうが勝手に動きだし、ゆっくりとこちら側に開く。

 

「俺達を招いてるな・・・」

デイヴィックがリザラの前に出て、恐る恐る中に入って行く。

やがて三人を部屋へ入れた扉は、また勝手に閉まる。

 

その場へ到着したマックスも、確かにしっかりした黒い扉が閉まってるのを目の当たりにした。

 

急いで取っ手をひねり、扉を引き開けて中に踏み込む・・・

 

するとどういうわけだろうか。以前来た時とはまるで別の部屋の光景が広がっていたのだった。

 

部屋の形や天井の高さは全く違い、窓は黒いカーテンで閉めきられて、部屋全体が薄暗い。

 

はっきりとはわからないが、壁のいたる所にあったはずの汚れや傷は無く、細かい模様の壁紙が張られているように見える。

中央にはテーブルやソファが置かれていて、見たところ同じ学校の部屋とはとても思えない雰囲気だった。

 

そして何よりおかしいのは、たった今入ったばかりの三人がどこにもいないことだ・・・

 

それに、後からジャックとディルが入ってくることもない。

「明かに様子がおかしい・・・」

 

マックスは目くらまし呪文を解き、部屋を今一度見渡した。

 

「どういうつもりだ!俺だけ隔離するのが目的か!」

誰もいない暗い部屋に、彼の声が響いた。

 

すると、言葉に答えるように・・・

「いいえ、急きょ用意した展開よ。」

 

その声は確かに部屋の中から聞こえたのだった。

 

マックスは反射的に声のした方を振り向くと、暗がりに誰かが立っているのがわかった。

だがはっきり姿を確認できない・・・

 

「面白いでしょ?ここには空間転移の魔法がかかってるのよ。」

「ジェイリーズ・・・じゃないな・・・」

 

そして彼女はこちらに近づき・・・

 

「・・・何で・・・何でここにいるんだ・・・」

彼女の顔を見て誰だかわかった瞬間、マックスは訳がわからなくなった。

 

「あなた達は最初から正しかったのよ。初めて会ったあの夜、あなた達は皆怖い顔で問い詰めたわね。特にジェイリーズは怖かったわね。」

 

「何を言ってるんだ・・・」

 

「でも今では、すっかり警戒しなくなった。あたしを見張るんじゃなかったの?」

 

この時、マックスの頭はやっと答えを出したのだった。

「そうか・・・君だったんだ。テンペストのパートナー、そして黒幕の正体は・・・」

 

今一度、過去に起きた全ての出来事を思い出してみた。

そうすると、何て単純な事だったのか・・・そう思ってしまう。

 

「黒幕?あなた達が勝手にそう言いだしただけでしょ。」

 

「ああ、そうだな。俺達は最初から君に騙されていた訳だ。だから君達を操った黒幕が別にいると、勝手に決めつけていた・・・・全部君がやっていたのか。あの夜も、自作自演か・・・レイチェル!」

 

マックスは今まで、これほど悲痛な声をあげたことはなかった・・・・

 

 

 

 

 




ウィス・エレクトリカ
ファンタスティックビーストでグリンデルバルドが使用したが、呪文を口にしていなかった為に作中でオリジナル呪文を設定。
由来はラテン語で、電気(vis electrica)

キュムロニンバス
作中オリジナル呪文だが、原作にも天気を操る気象呪いという魔法の存在はある。
由来は英語で積乱雲(cumulonimbus)

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