Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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第十九章 集う、似た者同士

マックス、ジャック、ディル、ジェイリーズの四人に囲まれて、一人の女子生徒は廊下に腰を落としたまま何をする気配もない。

そして四人を見上げるその瞳からは、一滴の涙が流れ落ちた。

 

その理由となる出来事は、マックス達がセントロールスに到着するほんのちょっと前に起こっていたのだった・・・・

 

 

「それにしても、いったいどこにあるんだ・・・本当にこんな所にあるのかよ。」

それはデイヴィックだった。

彼はセントロールスのどこかの廊下を歩いている。そして彼の後ろには四人の仲間が続いた。

 

「今日はまだあいつらも見てないわ。」

リザラが言った。

 

「それに、例のもう一人の仲間も。一度も会ったことないけど、今どこで何をやってるんだろうね?」

グレーの制服を着た、髪をくくっている女子、エレナが言った。

「それは俺達皆が思ってることだ。そいつがここで魔光力源を発見したという事だけは聞いてるが、あくまで作戦は共有させないようだ。まったく、何を考えているのやら・・・・」

彼女の隣を歩く、短髪でがたいのいい男子、ロドリュークが言う。

 

「その生徒がこの学校の生徒だなんて、偶然とは思えないわ。」

リザラは言った。

「それを言うなら、あの四人だってそうよ。魔法使いだってのに、揃いも揃って何でこの学校に・・・」

エレナと同じ制服の茶髪の女子、エメリアが付け足す。

 

そして先頭を歩くデイヴィックが廊下の角を曲がろうとしたときに・・・

「待て・・・」

 

彼は急に足を止めて、今曲がろうとした角の壁に隠れた。

 

「警察が三人いる。」

 

五人は壁に身を隠し、目くらまし呪文で体を透明化してから再び動いた。

 

廊下を曲がった先には、警官三人が横に並んでゆっくり歩いていた。

五人は静かに廊下を歩いて行く・・・

だが、先頭のデイヴィックが次の一歩を踏み出そうとしたその時だった・・・

 

まるで、空気が足をつかんで行かせまいとしているかのようにその一歩が踏み出せない。

そしてその後、前へ進もうとする体全体が何かに跳ね返されたのだった。

 

デイヴィックは廊下にドサリと倒れた。その時にはどうしたことか、目くらまし呪文の効果が完全に消えていたのだ。

 

他の四人も同じく、姿が見えている。

 

瞬時に三人の警官は後ろを振り返って、上着の内側に手を突っ込むと何かを取り出した。

 

「杖だ!あいつらは警察じゃないぞ!」

デイヴィックは確かに、警官が持つ物が魔法の杖に見えた。

警官の格好をした三人の魔法使いは、廊下に転がる五人に杖を向けた。

 

「くそっ!結界を張っていたのか・・・」

デイヴィックは急いで立ち上がり、杖を構える。

四人も彼のサイドに並んだ。

 

次の瞬間、たちまち光弾がデイヴィックらを襲った。

彼らは防ぐのがやっとで、相手の絶え間ない攻撃の隙を見計らうことは出来なかった。

そして突然、三人のうち一人が消えたかと思うと、ほぼ同時に光線が後ろから飛来し、エレナに命中したのだった。

 

彼女は瞬間に固まり、その場に倒れた。

 

「後ろだ!」

デイヴィックはくるりと振り返り、すかさず呪文を飛ばして反撃した。

しかし相手はそれを払い除ける。

前方では、四人が二人の警官服の魔法使いと対戦し続ける。

 

しかし、攻撃しても相手はプロテゴで完全にガードし、術はそのまま跳ね返される。

そしてまた一人倒れるのも時間の問題だった。

 

跳ね返された呪文がロドリュークに当たり、杖が彼の手から吹き飛ぶ。

そこを金縛り呪文が襲い、ロドリュークに命中した。

 

後方で一対一で戦っていたデイヴィックも同じく身動きを封じられ、残ったのはリザラとエメリア二人となった。

 

敵は前方に二人と、後方に一人・・・

今の戦闘力を見せられた後では、この状況をくつがえせるとは到底思えない。

 

ここで、相手の一人が口を開いたのだった。

「さぁ、おとなしくしろ。君達が最近グロリアの手先になったということはわかっている。」

 

次に、隣の警官服の男が話した。

「悪いことは言わん。グロリアにはなるな。」

 

「あんた達、ナイトフィストの者だな。」

リザラが杖を向けたまま言う。

 

「グロリアは平和主義の同盟ではない。彼らのせいで、どれほどの犠牲が出たと思う?」

「それはこっちも同じよ!」

エメリアが言った。

 

「こっちだって、あんたらから被害を受けている!あたし達にはあたし達の正義があるんだよ。こっちから見れば、あんたらだって平和主義とは思えないわね!」

 

「それは一理ある台詞だな。」

警官服の魔法使いは続けた。

「それじゃあ、君達はグロリアの人間から何と言われた?最初に出会ったとき、何と言って誘われた?」

 

「それを聞いてどうする?」

リザラは言った。

 

「ずばり、君達の心境を当てようじゃないか。そして本当の気持ちが知りたい。」

 

リザラとエメリアは黙った。

 

「おそらく、君達は周囲の環境が気に入らないでいるな?周りの者達も気に入らないか?」

「なぜそう思う!」

リザラはむきになって言う。

 

「そして周りになじむことを拒んでいるようだ。だからこそ、そこへグロリアは現れたんだ。」

「関係ないでしょ!あたし達の事は・・・」

エメリアが言った。

 

「それが大有りなんだなぁ。俺達もまた似たような者だからな。」

 

そしてまた二人は黙った。

 

「俺達も周囲の人間となじめなかった。そして、そんな者達はナイトフィストに多くいる。要するに、立場ってのは一緒なわけだ。問題は、どっちの道を選ぶかだな。グロリアのやり方か、俺達か・・・」

 

今度は別の男が・・・

「君達がグロリアの事をどこまで知り、理解しているかはわからんが、これだけは言っておく。彼らの理念は放っておくわけにはいかないほど危険なものだ。忠告を聞いても考え直さないと言うのであれば、私達は止めはしない。彼が言った通り、私達も似た者同士だ。思想ややり方の違いがあるだけだ・・・」

 

リザラとエメリアは、もう杖を上げてはいなかった。

 

「君達はまだ若い。まだいくらでも道を選び直すことはできる。まぁ、よく考えとくことだな。」

そしてその男は仲間の方を向いた。

 

「今日の所はこれでよしておくか。」

「いいのか?彼女達を帰して・・・」

「ああ、この子らはまだ手遅れじゃないだろう。」

 

そう言って、彼は倒れているデイヴィック、ロドリューク、エレナに杖を振って呪文を解いたのだった。

「それに、次に敵として会ったら容赦はしないさ。」

そしてまたリザラ達に向き直った。

 

「答えを出す時間はそう長くもない。奴らはこれからも次々と指令を下すだろう。答えを出すのは君達自身だ。よく考えて未来を決めろ。」

 

その言葉を最後に、彼らはここから姿をくらましたのだった。

 

倒れているデイヴィック達は起き上がって、リザラ達と顔を見合わせる・・・

 

「ねぇ・・・・どうするの?」

最初に口を開いたのはエレナだった。

 

「どうするって言ったって、もうグロリアに入っちまったんだ。今さら・・・戻ることはできないだろうよ。もう・・・・」

デイヴィックが静かに言った。

 

「そうだ。俺達は決めただろ、グロリアについていくと。そして今こそ、周りの奴らとの力の差を見せつけてやるんだ。」

後ろからロドリュークが言った。

 

「でも、さっきの男が言ってたことも気になる・・・」

エレナは言う。

「確かにさっきの人達が言ったことは当たってる。そして、ナイトフィストもあたし達みたいな人が集まってるって・・・・もし、今のあたし達の感情を平和に向けることが出来たら・・・」

 

「エレナ、何を言ってるんだ。グロリアだって彼らの正義の名の元に動いているんだ。あの男だって言ったじゃないか、どちらも似たようなものだと。だが俺達とは思想が違う。奴らに惑わされるなよ。あれがナイトフィストの仲間の増やし方なんだ。そしてグロリアと敵対させるんだ。そんな奴らが平和を語るなんて、偽善者の集まりとしか思えないんだよ!昔からな。」

ロドリュークは力強く言った。

 

「でも・・・・」

「そんなにナイトフィストの言葉に騙されたければ好きにすればいい。奴らに味方するならばグロリアとは敵対することになるが。そして、俺達ともな。」

 

「ちょっと待った。」

ここでデイヴィックが口をはさんだ。

 

「仲間がそうなっても、お前はいいわけか?」

「俺達の仲間ならば、グロリアに何の疑念も持つべきではないからな。お前は何か引っかかるのか?」

ロドリュークはデイヴィックを向く。

 

「まず、これまで行動を共にした仲間を簡単に見捨てる奴は、どんなチームに入っても居場所はない。だから、今のお前は間違ってるぞ。」

デイヴィックは自分の意思を突き通す。

 

「俺は俺のやり方でやっている。そしてそれはグロリアのやり方でもある。文句があるならお前も仲間から外れればいい。正真正銘、グロリアとして迎え入れられるのはどんな人間かな?・・・それはいつも心が曲がらず、最初に抱いた思いを忘れない強い精神と意識を持っている者だけだ。俺は正式にグロリアの構成員として認められたいんだよ。」

ロドリュークも負けずに考えを貫いた。

 

「それがお前の本当の思いなら、勝手にしろ。悪いが、俺はこんなチーム抜けさせてもらう。お前はそんな奴だったかロドリューク。そんなことでチームはうまく成り立たない。」

「リーダーだからと偉そうな口だな!」

 

そしてロドリュークは杖を取り、デイヴィックの背後を狙った。

この展開を全く予想していなかったデイヴィックは、彼の放った光線を食らって廊下に転がった。

 

「何してんの!」

リザラがロドリュークに詰め寄った。

ロドリュークはその杖先を彼女に向ける。

「気に入らないならお前も仲間外れだぞ。」

 

リザラはにらんだ。

「いいわ。あたしもチームを抜ける。」

そして倒れるデイヴィックの元へ歩いた。

 

「さぁ、ロザーナ。お前はどうするか?」

次にロドリュークはエメリアを見た。

 

「あたしは・・・・あたしもデイヴィックについていく。」

「お前もか・・・まったく残念な仲間達だ。だがそうはさせない!」

瞬時に、彼はエメリアに杖を向け、その呪文を唱えたのだった。

 

「インペリオ!」

エメリアは防ぐことができず、見えない呪いの効果は発動したのだった。

「行くぞ・・・」

ロドリュークが静かに言うと、エメリアは何も言わずに彼の元へゆっくり歩きだした。

 

「お前・・・!」

「それじゃあ、せいぜいお前達の判断が報われることを祈ろう。」

この時、デイヴィック達にはこの言葉の本当の意味を理解してはいなかった。

 

ロドリュークはエメリアの腕を掴むと、姿くらましで一瞬にしてどこかへ消え去ったのだった・・・

 

「あいつ、ロザーナに服従の呪文をかけた・・・もはや味方じゃない。」

リザラが廊下を歩きながら言った。

「ああ。彼女を解放してやりたい。こうなったら、俺達だけで行動を起こそう。例のもう一人の仲間が俺達に力を貸してくれればいいが・・・探してみるか。」

隣を歩くデイヴィックが言った。

 

すると、エレナが立ち止まって・・・

 

「・・・ねぇ、これからどうするの?・・・・」

「迷ってるんだろ、グロリアについていくか。」

デイヴィックが足を止めて振り向いた。

 

「あたしは・・・やっぱり・・・」

「決めるのはお前だ。俺達は止めはしない。だが、もしグロリアから離れるとなると、彼らは口封じとしてお前を消そうとするだろう。それは覚悟しないといけないぞ。」

「そうなれば、あたし達とも一緒にいられなくなる。でも、ナイトフィストになるならばあの四人組が助けてくれるかもね。」

デイヴィックに続いてリザラが言った。

 

「ああ。グロリアに反対するならそれが一番安全だ。」

 

エレナは下を向いたまま、黙った。

 

「ついてくるならば嬉しいが、離れるならばあの四人を探すんだ。俺達はこの事をグロリアの人間に報告はしない。俺達はもう行く。考えがまとまったら来るんだ。判断は自由だ・・・」

 

デイヴィックはそう言い残し、リザラと共に再び歩きだした。

 

彼らの姿はどんどん遠ざかっていく・・・・だが、エレナはいまだどうすべきか迷っていた。

 

彼女はそのまま壁沿いの床に座りこんだ。

たった今からどうすればいいか、そしてどうなるのか・・・・そしてたったさっきまで一緒だった仲間は、こうも簡単に崩れてしまった事への悲しさ・・・

 

ある日突如として現れたグロリアの人間は、自分達のつまらない生活を終らせ、つまらない周りの人間からも引き離してくれた・・・そしてそこで完成したチームは本当の気持ちを共有し合える唯一の場だと思っていた・・・・

 

確かにそうだった。チームが出来る以前は、気の合う友達は誰もいなかった。でもグロリアの人間と出会ってからは、やっと自分と同じような仲間が出来て、それまでの日々が嘘のように楽しくなったのに・・・・

 

「やっぱり、あたしはずっとこうなのか・・・・」

 

突如として起こった出来事のせいで、あらゆる感情が激しく入り交じり、やがてまともに考えることも出来なくなった。

 

そのまま、彼らがここへ現れるまでは動くことはなかった・・・・

 

そして今・・・・

 

「お前はあの時の、魔法学校の生徒の一人だな。」

マックスがエレナを見下ろして言う。

 

「そうだね・・・」

エレナは廊下の遠くを見たまま言った。

 

「仲間はどうした?一人で来たわけではないだろう。あいつらは何をしている。」

マックスは迫った。

 

「デイヴィック達はいたよ。今はどこで何してるのかな・・・」

沈んだ気持ちで、エレナは続けた。

「ああ・・・・もう仲間じゃないや。」

 

「何だと?」

マックスは訳がわからなかった。

 

「マックス、様子が明らかに変だ。俺達が知らない間に何かあったんだろうか。」

ジャックは、以前戦った時との彼女の雰囲気が全く違っているのがわかった。

 

そして、エレナがようやくマックスと目を合わせた。

「ねぇ、ナイトフィストに入れば本当に助けてくれるの?」

「何を言うかと思えば・・・」

 

この時ジャックは、話し方が急に変わったことに違和感を感じた。

「マックス、やっぱり何かあったんだ。今戦う気は全く感じられない・・・」

「敵だぞ。どうせ演技だ。」

 

「やっぱり・・・ナイトフィストは偽善者なのね。信じるんじゃなかった!」

エレナは本気の表情をようやく見せた。

 

「偽善者だと・・・なぜ俺達がグロリアのお前を助ける必要がある?敵だろう!」

「もうわからないわ!」

 

彼女は確かに本音で喋っているように思える。だがさっきから、何を言っているのか・・・何があったんだ・・・

 

「仲間割れでもしたと言うのか?」

マックスは話の筋を聞き出す。

 

「仲間割れ・・・そうね。全てはここで警察の格好をしたナイトフィストの三人に出会ってから・・・・」

「警察の格好をしてるだと?」

マックスは言った。同時に、数日前にニュースで聞いた、セントロールスから見知らぬ警官が消えたという事件を思い出した。

 

その時の警官達も三人だった。警察署内の人間は、誰一人として顔を知らない三人だった・・・・

では、もしその三人が警察ではなかったとしたら・・・・

 

消えた三人が、警官に扮するナイトフィストの人間だったとすると、ニュースの内容から考えても納得がいく。

だがその件は後だ。今はこっちをはっきりさせないと・・・

 

一瞬黙ったマックスは、再びエレナを見て話しだす。

「それで、そのナイトフィストの者と何かあったのか?」

「グロリアから手を引けと・・・・」

「それでやめたと?」

マックスは話の筋が読めた。

 

「そうよ・・・」

「そんな、あり得ない。」

「本当なの!」

その時の彼女の表情を見て、ジャックは察していた。

 

「待った。」

ジャックは二人の会話を止めた。

「もし、君が言うことが本当だとしたら、何か・・・それなりに説得されたんじゃないかと思うが?その警官姿のナイトフィストから。」

 

エレナはジャックのほうを向いた。

「あなたは信じてくれるのね。そうよ。」

そして、起こったことをゆっくり話し始めた。

 

「まず、あたし達は戦った。でも全く敵わなかった。そして戦った後で、あたし達が周囲になじめなくて浮いていたってことを言い当てた・・・そんな、心に闇を抱えたあたし達にグロリアが目をつけたということも。」

彼女は続ける。

「次は、自分達ナイトフィストも似たような人の集まりだって・・・あたし達とは似た者同士なんだって言ってた。だからあたしは、今までの考えは間違ってたんじゃないかと思って・・・・」

そう言う彼女の表情と眼差しからは、本気の気持ちが感じ取れた。

 

ジャックはだいたいの事はわかった。

 

「なるほど。少なくとも君はまともだったようだ。」

「本当に信じるの・・・」

エレナは、わずかに希望が見えた気がしたのだった。

 

「とりあえず今は信じよう。俺達も似たようなものだ。」

 

「いや、信じてはいけない。俺達をスパイしろと言われたかもしれない。嘘に騙されるなよ。」

マックスはエレナに杖を向ける。

「本当のことを話せ。もしくは開心術を受けるか?そうすれば思い出したくない過去までも、全て鮮明に思い出させる事になるが・・・・嫌ならば今すぐ本当のことを話すんだ。言わないなら戦え。」

 

「その必要はなさそうだ。」

ジャックが言った。

 

「なぜだ。俺達を襲ったグロリア側の人間だぞ。そんな簡単に信じられるか?」

「わかってる。俺はあの時、彼女と直接戦った。だからこそわかる、今はあの時とは違う。それは目を見ればわかる。」

「だから信じると・・・」

 

「そうだな。」

ディルが答えたのだった。

「俺も、確かに本気で言ってるように見えるよ。」

 

「あなた達、一度襲われた相手に甘いんじゃない?」

ここでジェイリーズが口を挟んだ。

「マックスの言う通り、もっと警戒すべきかもね。でも、あまりこうは言いたくないけど・・・・あたしも、この子が根っからの悪人には見えなくなってきたわ。」

 

「君もか・・・」

マックスが言った。

 

「まあ聞いて。だから、疑いが晴れるまで近くで見ていればどう?レイチェルの時みたいに。」

 

ジェイリーズのその意見は正しいかもしれないと、マックスは思った。

そしてあらためて、床に体育座りするエレナを見下ろす。

 

みじめそうな役を演じているだけかもしれない・・・

だが確かにこれから暴れだそうとする気配は全く感じられない。

代わりに見上げるその顔からは、悲しげで疲れたような表情が見てとれた。

 

「正直、俺はまだわからない。だが俺の仲間が君を信じようとしている・・・俺はそんな仲間を信じることにする。」

 

マックスの言葉で、エレナの心にわずかな光が射し始めた。

 

「だが俺は確実に信じることはまだ出来ない。それは君の今後次第だ。」

「わかってる。」

彼女はひとまず落ち着いた。

 

「名前は?」

「エレナ・クライン。」

「マックス・レボットだ。」

 

そして三人も・・・

「ジャック・メイリール。」

「俺はディル・グレイクだ。」

「ジェイリーズ・ローアンよ。」

 

そして再びマックスが話し始める。

「さぁ、次は君の仲間の事を教えてもらおう。どういうことかわかるな?もうグロリアの仲間でなければ言えるはず。」

 

エレナは少し黙ったが、口を開いた。

「皆を仕切っていたのはデイヴィック・シグラル。そしてリザラ・クリストローナ、ロドリューク・ライバン。三人は同じ魔法学校、W.M.C.の生徒・・・」

 

「ああ、あいつらか。」

 

「あとはロザーナ・エメリア。彼女はあたしと同じ、ウィルクス・ウィッチクラフトアカデミーの生徒よ。」

 

この時、ディルが反応した。

「ロザーナの名は覚えてる。あの時に一対一で戦って負けちまったんだ。」

「彼女はあたしの一番の友達・・・・でも、今無事かわからない。」

「どういうことだ?」

ディルが言った。

 

「連れ去られたのよ、ロドリュークに。」

「連れ去られた?!」

彼はわけがわからなくなった。

 

「さっき仲間割れだと言ったな。ここで三人のナイトフィストに会ってから今までの事を詳しく話してくれ。他の仲間が今どこにいるのかも。だがまずは場所を変える。」

マックスが言った。

 

「マックス、どうするんだ?」

「隠れ家に連れていく。そしてそこで、俺達の行動の手伝いもしてもらおう。疑いが晴れるのはその後だ。」

そしてエレナの方に向き直って話した。

 

「君、ポートキーは知ってるな?」

「うん。もちろんよ。」

「じゃあ話しは早い。今から俺達の活動拠点に連れていく。そこで色々と聞かせてもらう。余計な事はしようと思うな。容赦はしない。」

「・・・わかったわ。」

「よし。」

 

マックスは肩に掛けたバッグを床に起き、それに杖を向けた。

 

「ポートキー作成のいい機会だな。」

そして目を閉じ、集中した・・・

「ポータス・・・」

 

目的地の光景を、脳内に出来るだけ鮮明に展開させる・・・・

これでおそらく、目の前に置かれたバッグは今、ポートキーになったと思われる。

もっとも、外見ではどう判断することも出来ない。

 

「それじゃあ、俺の合図で皆同時に触れるんだ。」

マックスがバッグの前に腰を落とし、三人も囲むように集まる。

エレナもバッグの近くへ動いた。

 

「行くぞ。3・・・2・・・1・・・掴め。」

マックスがそう言って、彼らは同時にバッグに手を伸ばした。

 

そしてバッグに触れるととたんに、周囲は一瞬にして霧に包まれてバッグが光を放った。

 

それはほんの数秒間で消え、霧が晴れた時には、マックスは薄暗い地下隠れ家の床に投げ出されていたのだった。

 

「これもコツがいるな。」

起き上がって小さな電球に明かりをつけると、あとの四人も同じような状態だとわかった。

 

「ここが・・・」

エレナが立ち上がろうとしながら言った。

「俺達の秘密基地といったところだ。」

 

そしてディルが背中を叩きながら起き上がった。

「ポートキー、成功じゃないか。姿現しよりずいぶんいい。」

 

「あなた達、魔法よく知ってるわね。」

エレナが言った。

「これでも頑張ってるのさ。俺達なりに。」

 

そしてマックスがエレナの元に近づく。

「では聞かせてもらおう。警官に扮したナイトフィストに遭遇してから、君達のチームがどうなったのかを・・・」

 

それからエレナはマックスの質問に答えていくことになる。

 

そんな時にも、また新たな出来事が次々と起ころうとしているなど、まだ彼らは知るよしもない。

 

そして学校に現れた、警官に扮するナイトフィストの三人とは・・・・

 

エメリアを連れ去ったロドリュークは何を企んでいるのか・・・・

 

これより、物語は次のステップへと動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エレナ・クライン


【挿絵表示】



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