Outsider of Wizard 作:joker BISHOP
『学校内全システム書記』を手にしてからというもの、あらゆる物事が一気に起こり、それまでの学校生活とは大きく変わった。
そして急きょ夏休みになってから、更に色々な事が起こったものだ。それに伴い、解決すべき謎も増える一方だ・・・・
マックスは今までに巻き起こった物事を、順番に思い出していた。
思い出せば恐怖がよみがえる出来事もあった。しかし忘れるわけにはいかない。
これまで、自分達の前に訪れた数々の出来事のどれもが何かを意味し、あらゆる謎を解明させるための手がかりとなるのだ。
それに、恐れていては何の解決にもならない。
もう既に敵サイドも動きだしている。そして、今から自分達がやらなければならない事は、グロリアに協力する魔法学校の生徒五人の邪魔をして、奴らの狙いであろう魔光力源の元へたどり着かせない事だ。
今、グロリアの団員達が何をしようとしているのかはわからない。だが少なくとも、セントロールスに眠る第一魔光力源を狙っていることは確実だ。
とりあえず自分達が出来ることは、魔光力源が敵の手に渡らないようにする事だけだ。
後の事はナイトフィストに任せるとしよう・・・・
「マックス、聞いてるか?」
「ん・・・?」
マックスは急にディルの声に気づいて振り向いた。
「やっと気づいたか。さっきから目開けて寝てたのか?」
「いや、ちょっと考えてただけだ。で、どうかしたか?」
「その魔法史の本、読まないなら俺に貸してくれないか?」
ディルが、マックスの手元で開かれた本を指して言った。
「ああ、いいぞ。自分から読みたがるとは、成長したものだな。」
マックスはそれまで読んでいて、いつしか考え事をして途中で放置していた『魔法全史』をディルに渡す。
「なんだかぼーっとした感じだな。」
本を手に取りながら、ディルがマックスの顔を見て言った。
「それをお前に言われるとはな。これまであった出来事を頭で整理してただけさ。」
これより一時間ほど前、彼らは今後のチーム活動についての話をまとめて、それからは各自勉強をしていたのだった。
ジェイリーズから言われた通り、マックスは早速、自分の身に起こった異変について本で調べ続けていた。
だがあの時の、異変が起こった時の事を思い出すうちにどんどん他の考え事までして、本を開いたまま気がどこか遠くへ行っていたようだ。
考えなければならないことは、これからも増え続けるのだろう・・・
その時だった・・・・
マックスはとっさに天井を見る。
他の三人も同時に天井の入り口を見上げた。
突然ここ、地下隠れ家への入り口の扉を誰かがノックしたのだった。
「レイチェルかな?」
「多分な。じゃないとしたら・・・」
そして扉は開かれ、黒い靴が階段を下りてくるのが見えたのだった・・・・
「お邪魔だったかな?」
階段からは聞きなれた声がした。
「サイレントだったのか。」
彼らは少し身構えていたが、肩の力はすぐに抜けた。
「自転車が四台あったから、君達が来ているとすぐにわかった。あれからW.M.C.の生徒を見たか?」
「ああ、つい昨日だ。それも五人も。」
マックスが言った。
「思った通り、仲間を集めてきたか。」
「そういうことだな。そして詳しく言えば、そのうち二人は別の学校の生徒だ。制服が全く違った。」
「グロリアはW.M.C.以外にも現れて仲間を集めているということだ。その生徒達が集まって動きだしているということは、奴らが大きな一手を打とうとしているのかもしれんな。」
そしてサイレントはその場から歩きだして、壁ぎわで止まった。
「そろそろこれが必要になってくるだろう。」
彼はマックス達にある物を見せる。
「鏡みたいだけど・・・」
ジェイリーズが言った。
それは、壁に掛けられた丸い鏡だった。
縁には黒い飾りつけが施されている。
「そうだ。だがもちろん、ただの鏡ではない。そしてこいつを起動させるには下準備をする必要があるんだ。」
するとサイレントはそこから離れて、棚に置かれた小さな布袋をつかんで戻ってきた
「これらを学校に設置するんだ。」
彼は袋に手を入れて、中の物をつかんで取り出した。
それはビー玉ほどの大きさの玉で、ダイヤモンドのようにキラキラしている。
「これは?」
「我々はボーラーと呼んでいる。こいつの役割は、マグル界で言えば監視カメラだ。これに映った光景をあの鏡で見ることができるという仕組みだ。」
「なるほど。ここで学校の様子が見れるというわけか。」
マックスは、このボーラーという物に興味がわいてきた。
「今日こいつらを取りにここへ来たんだが、せっかくだ。ボーラーの扱いはここで君達に任せるとしよう。」
「任せてくれ。学校は俺達がきっちり監視する。」
そしてマックスはボーラーが入った小さな布袋を受け取った。
「頼んだぞ。そいつらを学校のあらゆる場所に設置するんだ。壁に触れればボーラーが勝手に固定されて透明になる。まず見つかることはないだろう。ありったけ使って構わん。」
「でも、この袋のサイズならボーラーの数は少ないんじゃないか?」
マックスはそう言って小袋の中に手を突っ込んでみた。
だがその時、袋のサイズからは想像できないほど大量のボーラーが入っていることがわかった。
「そうか。この袋、空間魔法で中を広げてあるのか。」
「魔法ってのは便利なものでな。」
「つくづく思い知らされるよ。」
ディルが言った。
「絶対に設置する必要がある場所は、言うまでもなく地下だ。あとは君達の判断に任せる。」
そしてサイレントは話題を変える・・・・
「それから、君達が言っていたレイヴ・カッシュなる人物についてだが・・・」
「何かわかったのか?」
マックスが言った。
「魔法界にも資料は少なく、どれも大した記録ではなかったが、一つだけ確認できた事がある。」
マックス達は調査結果に期待を寄せる。
「どうやらレイヴ・カッシュが失踪する直前まで、何らかの魔導装置の開発にひたすら没頭し続けていたらしい。そしてその装置を完成させたようだ。」
ここでマックス達の仮定が真実に近づいた。
「その開発した魔導装置って・・・」
ジェイリーズが言った。
「ああ。恐らく魔光力源のことだろうな。」
サイレントは続ける。
「彼の装置の発明はそこそこの人数の錬金術師達に知れ渡ったようだ。その時に彼の才能が評価され、レイヴ・カッシュの名が徐々に明るみに出てきた。このタイミングで彼は謎の失踪・・・というわけだ。」
この事件、マックス達には真相が予想出来た。
「せっかく発明家として名が知られ始めたんだ。そんな時に姿を消すなんてどう考えてもおかしい。」
「まぁ、そういうことだな。」
サイレントは既に、マックスが何を言いたいのかわかっていた。
「この事件、明らかにグロリアが関わっているな。」
マックスが言った。
「私もすぐにそう思った。グロリアは魔光力源を発明したレイヴ・カッシュの力を欲して、彼を仲間にしようとしたに違いない。彼の失踪事件は19世紀後半に起こった。そしてグロリアが軍隊的組織力を振るい始めたのも19世紀頃と言われている。つまり、当時宗教団体だったグロリアがレイヴ・カッシュの発明によって力を手にした。という仮説ができる。」
「なるほどな。レイヴ・カッシュはグロリアに引き込まれて世間から姿を消したという考えか。」
ジャックが言った。
「で、結局その後レイヴ・カッシュはどうなったんだろうなぁ。」
隣のディルが言った。
「さぁな。何せ資料が無さすぎるから、これ以上明確な事は何もわからない。グロリアによって証拠となるものは消されたのだろう。今となっては当時のレイヴ・カッシュを知る人物もいない・・・」
彼の調査で一つはっきりした。それは、レイヴ・カッシュが魔導装置を発明したという事だけだ。
だが、更にそこからグロリアの陰謀を予想する事が出来た。
恐らくサイレントの予想はほぼ当たっているだろう。
しかし、まだレイヴ・カッシュに関する大きな謎が残っている。
なぜ彼の魔光力源の一つが、マグルの学校の地下に隠されているのか。そしてフィニート・レイヴ・カッシュという謎の呪文はいったい・・・・
そしてその呪文を、どうして黒幕の生徒は知っていた?
そもそも、自分達が『学校内全システム書記』で地下の秘密を知る以前から魔光力源の事を知っていたことになるのだ。なぜなんだ・・・・
まだ根本的な謎は解明できそうにない。
だが、とりあえず今は与えられる任務を真っ当することだ・・・
そしてサイレントが去った後、彼らは早速動いた。
「今日も校内の行動は慎重にだ。また魔法学校の奴らがいてもおかしくない。今回、戦いは最小限に抑えるんだ。」
彼らは今、セントロールスの裏庭にいる。
「目的はボーラーの設置だけ。用が済んだらとっとと立ち去ろう。後は隠れ家の鏡でいくらでも監視できる。例の警官の件もこれでわかるかもしれない。」
マックスが三人に向かって言う。
「今後は隠れ家にいながら、校内での敵の様子も見れるようになるわけだ。」
ジャックが言った。
「任務が無事完了したらな。さぁ、行くか。」
そしてマックス達は校舎へ侵入するのだった。
今回も旧校舎から侵入した彼らは、早速旧校舎内からボーラーを設置することにしたようだ。
「まずは入口に一つ仕掛けるか。」
マックスは肩にかけたバッグから小袋を引っ張り出して、中からボーラーを一個手に取った。
それに向けて杖を一振りして、ボーラーを宙に浮かせた。
マックスは杖でボーラーを操る。
そして入口の天井の角にボーラーを持っていった所で、ボーラーが天井で固定され、やがて透明になった。
「まず一個終了。さぁどんどんやるぞ。」
四人は旧校舎廊下を歩きだした。
「ボーラーは数十個ある。各階の全ての廊下の両端に仕掛けられるだろうな。」
「じゃあ、この辺で一個設置しとくか。」
そう言ってディルが袋からボーラーを一個つまみ、杖で天井へと持ち上げた。
そして四人はまた歩きだした。
まずは順調だと思われたが、ここで早速足音が前から響いてくるのだった。
四人とも立ち止まり、その場で目くらまし呪文を発動する。
じっとしていると、前方から話し声と共に二人の男が現れた。
よく見ると、それはガードマンと警官だった。
「まったく、どうなるんでしょうかね・・・・仲間が一人殺されて、見知らぬ警官三人が連れ去られた。犯人らしき人物を確認した者は一人もいない。市民の不安もつのる一方ですよ。」
警官の男が言った。
「私たちはずいぶん厄介な事件に関わりましたな。」
「まったくです。そうだ、事件の数日前ここの生徒さんが亡くなったのは知ってますね?」
「もちろんですよ。」
ガードマンとの会話は続いた。
「実はその日の夜、この旧校舎の六階の一番奥の部屋の明かりがついていたという話が出てるんですよ。」
マックスは警官の話に驚いた。
まさかこんな所で、それも警官から情報を聞けるとは・・・・
「旧校舎は今では使われないと聞きますがね。」
「そうなんですよ。殺された時刻と、旧校舎に明かりがついていた時刻は重なる・・・そこで犯人と何かしらの出来事があったのでしょうかね・・・」
そして二人はそのまま廊下をまっすぐ歩き、外へと出て行ったのだった。
マックス達はすぐに姿を現す。
「今の話聞いたな?」
「ああ。あれが本当ならあの夜、ゴルト・ストレッドと黒幕の生徒がここにいた可能性が極めて高い。普通の生徒が寮から脱け出して、見回りの教師の目をあざむきながら、わざわざ旧校舎に行く理由はない。」
マックスとジャックが言った。
「あたしがストレッドに襲われたのも旧校舎。奴ら、この旧校舎に集まって作戦会議でもしてたのかしら。」
それは、ジェイリーズがストレッドとレイチェルの後を尾行した矢先に起こった事だった。
あの時、二人は確かにこの旧校舎の寂れた部屋に来ていた。
「わかったぞ。黒幕がここへストレッドを呼んで、定期的に服従の呪文とやらをかけていたんだろうよ。」
ディルが言った。
「ほぼ決まりだな。人がほとんど来ないのを良い理由に、黒幕はストレッドを、そしてストレッドがレイチェルに定期的に服従の呪文の効果を与えていたのだろう。」
「そうなると、ますますこの旧校舎にボーラーを置いておく必要があるな。今後も黒幕の生徒がここに現れる可能性はあるってことだ。」
その後、四人がそれぞれボーラーを取って、各自気になった所へ設置していった。
マックスは廊下を歩きながら、あることを考えていた。
ゴルト・ストレッドが死んでいたのは食堂だった・・・
それは朝、食堂でストレッドが死体となって転がっていた時の事だ。
なぜ食堂なのか・・・これはまるで、あえて人目にさらしているとしか思えない。
食堂で殺して放置したのか。あるいは別の場所で殺した後、わざわざ移動したのか・・・いずれにしても意味がわからない。
いや、まさか・・・ストレッドの死を俺達に見せつけることで、警告したということなのかもしれない。
これ以上関わるなという意味か・・・そういう訳にはいかない。
マックスはまた一つボーラーを取り、旧校舎の部屋の入口に設置する。
「こっちは終わったぞ。」
ディルが別の部屋から出て来た。
「よし。この階はこんなもんだろう。上に行くぞ。」
そして四人は階段を上がった。
だが上の階に到着しようといた時、話し声が聞こえてきたのだった。
マックスが瞬間に立ち止まり、三人もその場で息を潜める・・・
「シャーフ、もういいぞ。ここから先は私に任せて、お前は本校舎に移れ。」
「私一人で離れていいのですか?」
二人いるようだ。恐らく警官だ。
「ここは私の担当だ。それに、本校舎は広い。警備の加勢をしてやるのだ。」
「わかりました。では・・・」
そして、一人の警官がこっちへ向かっている足音が聞こえてきた。
「来るぞ。姿を消せ。」
マックス達は、早速本日二度目の目くらまし呪文をかけた。
足音はすぐそこまで迫り、警官の姿が上から現れた。
そのまま何も気づかずに、透明の四人の前を通過していった。
だが、もう一人の警官は来る気配がない。
マックスはゆっくり階段を上がり、廊下の角から先の様子を見る。
どうやら、一人で先へ進んでいるようだ。
マックスは目くらまし呪文を解除した。
「あと一人いる。気をつけて進もう。そしてここらでマグル避け呪文をかけておこうか。」
「待ってたぜ。俺に任せろ。」
そしてディルがその呪文を唱える。
「レペロ・マグルタム」
「これで後ろからは誰も来ない。マグルはな。」
マックスは、前方を歩く一人の警官が角を曲がって見えなくなってから、再び動いた。
「それにしても、昼間からこんな旧校舎の奥へ、それも一人で見回りとはどうもおかしい。」
マックスはこの警官を怪しんだ。
「もしかしたらジェイリーズの言っていた件、ここで確かめられるかもしれないな。」
四人は警官に気づかれないように後を追った。その最中も、ボーラー設置を繰り返す。
そして前を歩く警官は、いよいよ最上階の六階へ上がったのだった。
扉のない、数々の汚れた教室の方を見ることもなく、ただ一直線に歩く・・・
明らかにこの警官は変だ。それは確信した。
そして廊下の角を曲がった所で、警官は急に立ち止まり、くるりとこっちを振り向いたのだった。
四人とも、一時は気づかれたと思って焦ったが、こっちを見ているはずの警官は全く動じない。
マックス達は恐る恐る警官へと近づいた。
すると、彼は反応した。
「どうぞ、お通りを・・・・」
警官は確かにそう言い、歩いてくるマックス達に道を開けたのだった。
マックスは何も言わずに、警官の横を通った。
「これは驚いたぜ。本当に警察の人間かって話だ。」
ディルが小声で言った。
「まったくだな。しかし魔法使いに操られると、誰だろうがこうなるってことだ。やはりあの警官は魔法使いによって服従させられている。俺達が杖を持っていたから、術者の仲間だとでも思って通したのだろうか。」
マックスは警官を後にして、そのまま進んだ。
「待てよ、ジェイリーズの話だと、警備担当のリーダーは地下に人を入れないようにしてるはずじゃないのか?」
ディルが言った。
「ここも、敵にとって近づかれては困る場所ってことになるな。そもそも、操られている警官が一人とも限らないだろう。」
確かにジャックの言う通りだった。
ついさっき、黒幕達はこの旧校舎を活動拠点としていたであろう可能性がわかったのだ。だとすると、奴らにとってここへ人を近づかせたくはないはずだ。
あの警官は、この廊下を見張っているようだ。ならば、ここから先に黒幕の活動拠点があるのかもしれない・・・
「とにかく、警官の様子がわかるようにボーラーを仕掛けておこう。そしてこの先は更に念入りにだ。」
前方を見ると、この廊下で行き止まりであることがわかる。つまり、ここが六階の一番奥なのだ。
「ジェイリーズ、人間感知の術を。」
「わかったわ。」
ジェイリーズが一歩前へ出て、杖を前方に突き出した。
「ホメナムレベリオ・・・」
空気の振動が廊下の先まで広がり、じわじわと消える。
「この先には誰もいないみたい。」
「今は黒幕は不在というわけだな。行くぞ。」
マックス達は早速最初の部屋に入った。
そこは何の変てつもない、すっからかんの空き部屋だった。
だがマックスは、一応ボーラーを一個仕掛けて部屋を後にした。
更にどんどん部屋をあたる。
だが、特に怪しそうな物も無い。どの部屋も廃墟と化した部屋にしか見えない。
この廊下沿いに部屋は少なく、最後の部屋を訪れる時はすぐにきた。
マックスが杖を構えて、そっと中を覗いた。
見たところ、これまで見てきた旧校舎の部屋の中では一番広く、そして机や椅子がわずかに置かれていることがわかった。
そしてその机と椅子は、他の部屋の物と同様に使い古された物のようだが、乱雑にではなく整えて置かれているように見えた。
マックスは部屋へと足を踏み入れる。
奥には暖炉があることもわかった。それに長テーブルが2つ、それに、壁に沿っていくつかの椅子が並んでいる。
部屋全体の様子は、窓ガラスにヒビが入り、壁には所々穴が空いていたりと、他の部屋と似たような状態だった。
だが、確かにここに頻繁に人が来ていたような雰囲気が感じられる・・・・
マックスは部屋の入口付近の天井に、ボーラーを一個仕掛けて廊下に戻った。
「あの警官は、他の警備の人間がここへ来ないように見張りをさせられているようだ。ということは、今も黒幕はこの部屋を活動拠点に使っているということだ。」
「つまり、ここを監視していれば黒幕の正体がわかる。」
ジャックが言った。
「いよいよだな。まさか俺達がここまでやるとは思ってなかっただろうなぁ。」
「まだ気を抜くなよディル。結果を得るには詰めが大事だ。さっきの警官が俺達の事を報告でもしたら台無しになりかねない。忘却術とやらを試す時がきた・・・」
来た廊下を戻りながらマックスが言った。
忘却術・・・それは人の記憶を自在に操ることのできる魔法だ。
物理攻撃呪文とは裏腹、人の内側に影響し、かつ他者からは術にかけられたということを察知されない。
これは実に静かで、しかしかなり恐ろしい魔法であると言えるだろう。
突っ立っている警官の背後にそっと近寄り、マックスは杖を彼の頭に向ける・・・
集中だ・・・・消したい記憶だけを想像し、相手の脳内から的確に処理する。
『魔術ワード集』には、うまく出来なければ最悪の場合、脳傷害が発生したという例もあると書いてあった・・・・
ここで罪もない、ただ職務を真っ当しようとしていただけの人間の脳をいじるのは気が進まないが、これは重要な事だ。敵をあざむく為なのだ。
マックスは自分に言い聞かせてから一呼吸し、杖先に気を集中した。
「オブリビエイト・・・俺達のことは忘れよ。」
その後は本校舎に移り、各階の廊下が一望できるような位置にボーラーを設置しながら、一階中央廊下を目指した。
つまり、目的地は地下の魔光力源保管室だ。
警官の記憶操作がうまくいったかどうかは誰にもわからない。今はとにかく自分の力を信じるしかない・・・
幸運なことに、一階へと直行する間は、警官にも魔法学校の生徒にも遭遇することなくスムーズに動くことができて、余計な神経を使うことなく済んだ。
そして目的地は目線の先にまで迫った。
「さぁて、いよいよ今日のメインだな。」
マックスが小袋からボーラーを一個掴み出した。
「まずは地下の入口に設置だ。そしてディル、ジェイリーズ・・・」
「わかってるよ。」
そう言いって、ディルが地下への階段前でマグル避け呪文をかけた。
続けてジェイリーズが人間感知の術を、地下へ向けて発動する。
「異常なしね。」
「ようし。どんどん進もう。」
マックス達は地下へ下り、その先の突き当たりの壁へ急いだ。
そして、またあの場所へ足を踏み入れる時が来た。
「フィニート・レイヴ・カッシュ・・・・やっぱり意味がわからん。」
マックスが壁に手を当てて呪文を口にすると、いつも同様、そこに真っ黒な扉が現れるのだった。
「ホメナムレベリオ」
ジェイリーズはここでもこの呪文を試す・・・
「誰も来てないわ。」
「そうか。まだ奴らはこの場所を知らないのか・・・本当にここの黒幕の生徒とは一切関わってなさそうだな。意味がわからん。」
ここにも一つボーラーを仕掛け、四人は杖先で明かりを灯しながら扉をくぐった。
「相変わらず不思議な部屋だ。」
ディルが円形の部屋へ到着して言った。
「ここにひとつ。そして奥の6つの扉がある部屋にひとつ設置だ。それで今日のミッションは終わり。」
マックスはその場で、ドーム状の天井にボーラーを浮かばせ、もうひとつをジャックが奥の部屋に設置した。
今日の任務はなかなかスムーズに終わったのだった。
いつもこんな気持ちよく行動出来れば良いのだが・・・
そんなことを思いながら、彼らは地下を後にする。
だが、今回もこのまま何事もなく終わる事はなかったのだ・・・・
「おい、あそこに誰か座ってるぞ。」
それは一階の廊下を戻っている時だった。
遠くで、廊下の壁に背をもたれるようにして床に座りこんでいる少女を発見したのだ。
うつ向いていて顔ははっきり見えない。だが、その服装から何者か当てることは出来た。
「間違いない。あれは魔法学校の制服だ・・・・」
マックスは杖を構えたまま、恐る恐る近づく。
そんな彼に気づいたのか、彼女はこっちを振り向いた。
「お前、やっぱりあいつらの仲間・・・!」
彼女は昨日戦った五人のうちの一人。つまりグロリアの手先になった生徒であった。
だが、彼女はその場で座りこんだまま、攻撃を仕掛けてはこない。
そればかりか、わずかに泣いているように見えたのだった・・・・