Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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第十四章 迎える

静かな部屋で、椅子が揺れる音と、本のページをめくる音だけが聞こえる・・・・

 

「どうした、もう飽きたかい?」

ジャックが言った。

 

「何言ってんだよ。休憩さ。」

ディルは本を棚に置き、部屋のソファに腰かけて退屈そうに体を揺すっていた。

 

「息抜きは重要だろ。また集中出来るようにな。」

「確かに。だがそれはもっと勉強した人間の言う台詞だがな。」

 

本を読みながらジャックが言った。

 

「お前はまだ本を開いて30分も経ってない気がするが、早く疲労する魔法でもかけたのかな?」

 

「わかったよ。本読むのは慣れてないからちょっと疲れただけだ。」

ディルは渋々本を取り、読みかけのページを開いたのだった。

 

そこで、ソファのひとつに座り本を読んでいるジェイリーズが口を開いた。

「ねぇ、何か部活動みたいな感じよね。」

 

「似たようなもんだろうな。敵に殺されないように魔法の知識をつけ、技を研く。他の部活動より超ハードだぜ。」

 

「それをわかってるならもっと集中して読め。」

ジャックがディルに言った。

 

現在ここ、隠れ家には彼ら三人がいる。

皆、サイレントからもらった魔法に関する本を持ち込みここで読んでいた。

 

ディルは早速この状況に飽きてきたようだった。

実際、チームで大人しく本を読むという活動はほとんど無かった故に、確かにこのチームらしくはない光景なのだ。

 

しかし今はこの活動が重要である。敵に近づくほどに死の危険も高まる。既に今回の相手は二人の人間の命を奪っている。恐らく自分の計画の邪魔になったからという理由だ。

それに人を操る事も出来る。一瞬でも油断出来ない相手だ。

 

そんな人間が学生だなんて信じがたいことだ・・・・

 

「なぁ、一回交換してみないか?」

「まぁいいが、魔法史なら集中して読めるのか?」

ジャックがディルに、『魔法全史』を渡した。

 

「当然だ。魔法界を全く知らない俺達には、全員が興味ある内容だろうからな。それに、魔法薬ってのは早速苦手だとわかった。やっぱどの世界でも科学は苦手だ。」

ディルが『魔法薬調合法基礎』を差し出して言った。

 

「それを言うならもらった本は全部興味深いだろ。どれも魔法に関するものばかりだ。」

「正論ね。」

ジャックに続けてジェイリーズが言う。

 

「わかったから、ちゃんと集中する。」

ディルが『魔法全史』を受け取って開こうとした時、天井の扉がガタッと揺れ、それに続けて足音のような音が微かに聞こえた。

 

「ん?さてはマックスか。ちょと見に行って来るぜ。」

そしてディルは本をすぐ置き、地上への階段へと走って行った。

 

「まったく都合の良い奴だ。それにしてもマックスまで来たとなると、結局チームの全員がそろったわけだ。何も言わずとも勝手に集まるようだな、このチームは。」

 

そうジャックが言った直後、上の方から三人の声が聞こえたのだった。

 

「何か様子がおかしいな。」

「マックスだけじゃないみたい・・・・誰を連れてきたのかしら?」

 

そして階段からディルが戻ってきた。

「驚いたぜ。客が一人いるぞ!」

 

彼の後、マックスに連れられて現れたのはレイチェルだった。

彼女は戸惑いながら階段を下りてくる。

 

「あなたは!何でここにいるの?!まさかマックス・・・」

「俺が連れてきたわけじゃないぞ。この上で偶然会ったんだ。」

マックスは言った。

 

「じゃあ君は、マックスが来る前に自分一人でここに来てたと言うのか?」

ジャックが言う。

 

「そうなんです。ここは前から何度も来ているお気に入りの場所だから。」

そう言ってレイチェルは、この見慣れない部屋をキョロキョロ見渡した。

 

「まさかのマックスと同じパターンか・・・となると、この秘密基地の事は知らなかったわけか。」

「秘密基地・・・ですか?」

レイチェルは、ここにいる四人が日頃何をやっている者達なのか、ますます謎に思ったことだろう。

 

「お前がせっかく顔を出してくれたからなぁディル。彼女に話していない事全てを教えてやろうと思った訳だよ。」

マックスが言った。

 

「俺、出てこなかった方が良かった感じか・・・」

「いや、これはむしろ良い機会だ。この先ずっと隠して動くことは出来ないだろう。それに、彼女にも知っておく権利がある。」

彼はジャック、ジェイリーズとも向き合って言った。

 

「彼女も俺達の仲間。もうチームで隠し事は無しだ。」

 

部屋に五人がそろった所で、彼らはレイチェルに14年前の事、ナイトフィストとグロリアの事、そしてそれにチームのメンバーと正体不明の生徒が関わっている事など、知っている全てを話して聞かせるのだった・・・・

 

 

「では、あたしを操っていたゴルト・ストレッドも、あたしと同じ状況だったと言うの?」

レイチェルは四人が明かした事をゆっくり整理する。

 

「それはほぼ断定している。ストレッドが全くグロリアと関わりがなく、単なる犠牲者なのかは今ではわからない。でも、彼を操っていた黒幕がいるのは間違いないんだ。グロリアからの指令を実行させていたのは、その黒幕の生徒だ。」

しかし実のところは、ストレッドがただ巻き込まれただけの生徒だったのではないかという考えが大きくなっていた。

 

「それで、その生徒とあなた達が14年前に起こった戦いの被害者・・・そこにあたしが巻き込まれたということ・・・・」

全てを聞いた所で、実感するにはまだ無理があるのは当然だった。

 

「そういうことなんだ。信じられないような話だが、全て事実なんだ。恐ろしい人間がセントロールスにいて、恐ろしい計画が進んでいたんだよ。」

 

「俺達もはっきりとわからない。だから敵を探しているんだ。」

ジャックが言った。

 

「あたし達もまだわからないことだらけなのよ。ほとんど手探りで行動してきただけだし、今あなたに言った事のほとんどはナイトフィストの人から教えてもらった事よ。」

 

「それに、いまだに大きな謎はある。それは君もずっと思っていたはずの事だ。」

ジェイリーズに続き、ディルが話し始める。

「つい最近までは、セントロールスに俺達四人の魔法使いがいるのは偶然かと思っていたよ。でも四人だけじゃなかった。それにほとんどが14年前の戦争と関係しているとわかったら、もう偶然や奇跡だなんて思えないよな。」

 

「それは確かに、あたしもそう思います。」

 

レイチェルは、ゴルト・ストレッドと出会うまでは自分だけがマグルではないと思っていた。だが、更に四人の魔法使いと出会い、その彼らから今、更にもう一人の正体不明の魔法使いの存在が明かされたのだ。

彼女にも、これが偶然の織り成す結果だとは到底思えなかった。

 

「その事については、サイレントも何も言ってなかったな。まあさすがにそんな事わかるかわけないか。」

マックスが言った。

 

サイレント・・・彼は、俺達が14年前の被害者だからという理由と、俺達がチームを組んで秘密の活動をしていることを知り、チームの行動力を知った上で組織に招いたのだった。

ならばもし、自分達が知り合っていなかったらどうなっていたか・・・・

結局、サイレントは四人とも見つけて声をかけていたのだろうか。

 

ここでひとつ疑問が浮かんだ。

 

「そうだ。何で、サイレントは俺達以外にも魔法使いがにいることに気づかなかったんだろう?」

 

「確かに、昨日の彼の話からすると知らなかったのは間違いないな。」

ジャックは言う。

 

「俺達ばっかり観察していたんだろ。だから気づかなかったんじゃないか?」

「かもね。それに夜は学校にいなかったと言ってたでしょ?ストレッドを操っていた生徒は夜に行動していた。昼間目立った事をしていなかったのならば、ここの生徒数の多さから考えても気づかないのは不思議じゃないわ。」

 

ジェイリーズとディルの言った事は、確かに納得させられるものだった。

しかしマックスは、まだ色々と考えた。

 

「レイチェルも気づかれなかった。大勢の生徒の中から、顔もわからない俺達四人は見つけ出せたのにか・・・・」

 

「そう言われてみるとなぁ・・・・俺達も昼間は四人集まってる時はあんまりなかったし、見つけ出すのは簡単じゃないぜ。」

ディルが言った。

 

「でも、魔法使いなんだ。俺達の名前はわかってるから、魔法を駆使して個人を判明させるのは時間の問題なんじゃないかな。」

 

ジャックの言うこともうなずける・・・

 

「気になるなら、次会ったときに本人に聞いてみればいいわ。その他にも知りたいことがあれば全部。」

 

マックスは一旦疑問から離れ、目の前を見た。

「ともあれ、レイチェルにとってもここは安全な場所だ。この町のナイトフィストと俺達しか知らない。何か危険な事が起こればここに隠れていればいいだろう。」

 

レイチェルはマックスを、そして後ろの三人を順番に見て・・・

「あたしが、ここにいていいんですかね?」

 

「もちろんだ。ここはもう俺達の基地だ。誰が使おうとも俺達が許せば良いって話だ。」

 

「それに君もチームの仲間じゃないか。遠慮は無しでいこうぜ。」

彼に続けてディルもフォローする。

 

「ちなみに俺達はここで魔法の勉強をしてたんだけど、君もどうかな?今後どんな事があるかわからない。知識をつけておくに越したことはないと思うな。」

 

「ジャックの言う通りだ。残念ながら、敵は俺達より上手だと思われる。そんな奴に対応するには、まずは俺達個人の魔法のレベルを上げないと話にならない。公園にはマグルは近寄らないから実践訓練もここで出来る。君も本格的に魔法の勉強に参加しないか?」

 

ジャックとマックスの言葉に、レイチェルは迷わず答えるのだった。

 

「あたしもやるわ。もっと強くなりたいし、もっと魔法を知りたい。」

 

マックスは、彼女の眼差しから本気だと感じた。

「決まったな。それじゃあ、これから君も自由にここを使っていいぞ。たとえ用が無くても、自由に来て良いんだ。」

 

その後、レイチェルはここで四人と共にいた。

マックス達の本を隣で見たり、学校の宿題をしたりしているようだ。

 

ジャック、ジェイリーズも引き続き読書に専念している。

マックスは呪文の本から目を離して、周りの様子を見てみた。

 

見慣れない奇妙な光景だ。

このチームが黙って本を読むなんて光景は考えたこともない。これは、まるで図書室の真面目三人組みたいな光景だ。

 

チームごと、大きく変化したことは言うまでもない。そしてチームの変化と言えば、新たなメンバーが一人加わったことだ・・・

 

彼は次に、テーブルの一角で勉強しているレイチェルに目を向けた。

彼女のこの姿は実に自然に見える。こんな大人しくて純粋な子がこのチームの一員だなんて、面白い組み合わせだ。

 

突然の物音が静寂を破り、マックスは視線を移した。

他の皆も同時に本から目を離す。

 

「悪いな。ちょっと落としちまった。」

「わかってるわよディル。さっきから寝ようとしてたでしょ?」

 

ディルが本を落としたようだった。どうやら彼に長い読書は無理らしい。

 

「俺だって頑張ってるんだ。でも急に眠くなって仕方ないんだよ。」

「わかったから、ちょっと寝てろ。」

ジャックが言った。

 

「じゃあすまんが、俺は休憩させてもらうよ。」

「好きにしろ。俺達はルールが嫌いだろ?これは自由なチームだ。」

 

そしてマックスはディルの読んでいた『魔法全史』を拾い上げた。

「魔法界の歴史か。確か、最初にジャックが読んでいたな。」

「面白い事だらけだぞ。なんの事だかさっぱりわからないが。」

本を持って椅子に戻る彼を見るなり、ジャックが言った。

 

「俺達は魔法界について知らなすぎるから当然だな。」

マックスが腰掛け、本を開く頃にはディルは既に意識が無かったのだった。

 

こんな彼らの状態は更に続いた。

 

こんなに落ち着いた時間の流れを感じるのは珍しい・・・

何事もない時がこれほど心地よく思うのは初めてだ。今だからわかる。それは平和だという証だからだ。

 

チームが今向き合っている事はかなりヤバイ事だ。

こんなことになろうとは思いもしなかった。

マックスは今一度心に言い聞かせる・・・

 

もう遊びは終わったんだ・・・・

 

 

この日は特に計画があったわけではないため、各自の判断でこの場を去って行った。

一番最後まで残っていたのはマックスだった。

 

時間を忘れ、地下にこもり本を読み続けて数時間が経っている。

今の外の様子もわからない。

 

これほど学習に打ち込めたことがあっただろうか・・・

それははっきりとノーだと言える。

今まで、自分には勉強は究極的に似合わないと思い込んでいたが、それは自分の将来にとって何の役にも立たないと感じていたからなのだろう。

 

だが今はどうだ?

この集中力と沸き続ける探究心は何だ?

 

もはや時の流れすらわからない。ひたすら必要な知識を頭が欲しているではないか・・・・

 

彼の本をめくる手が止まったのは、携帯電話がテーブルの上で振動し始めた時だった。

 

「・・・・誰だ?」

とりあえず本を置いて携帯電話の画面を目にした時、やっと頭が本の中身から離れたのだった。

「レイチェル・・・何でだ?」

 

それはレイチェルからのメールの知らせだった。

とにかく内容を確認してみる・・・

 

「なるほど。ジェイリーズも気が利いてるな。」

どうやらジェイリーズがマックスのアドレスを教えたらしく、これは確認のメールだったようだ。

そして文章の最後には、明日もここに来ると書いてあった。

 

「結果、ここがバレたのは良かったな。」

ついでに時間を見ると、今が夕方だと初めて知った。

「もうそんなに経ったか・・・続きは明日だな。」

 

マックスは他の三冊と同じく、『魔法全史』を棚に置いて隠れ家を出たのだった。

 

家に帰り着いた時には、テイル・レマスが夕食の準備をしていた。

 

「お帰り。まさかとは思うけど、学校に忍び込んだりしてないわよね?」

 

相変わらずテイルは的を得た考えをするものだった。

「冗談言わないでくれよ。ジャックの家だよ。」

今日は学校に行ってないが、事実を言うことも出来ない。

しかしこの時、本当にジャックの家に遊びに行きたいと思ったのだ。

 

そう言えばほとんど遊びに行ったことがない。そもそも、他の二人の家は知りもしない。

近くにいる友達の事でさえ、まだわかってない事はある・・・・

 

マックスは、今までどれだけ仲間と向き合ってこなかったかを思い知った。

 

ディルとジェイリーズの家族の事も、つい最近知ったばっかりだった。それも、過去の事はほとんどサイレントから教えられて知ったのだ。

最近まで、似たような境遇だということにすら自分で気づきもしなかった・・・・リーダーなのにか・・・

 

こんなリーダーがこれからどれだけチームの役に立てるか・・・・

彼は自分自身に聞いた。

 

考え事をすれば、不安や恐怖、疑問が頭のあちこちから浮き出て止まない。

この不安定な感情を忘れさせるためにも、ひたすら自分を磨かなくてはならない。

 

あらゆる感情は焦りを生み出し、その焦りがまた彼を突き動かせる・・・

だが、焦るままに動いた結果が必ず正しいとは決して言えないことを、今の彼がわかる余裕はないのだった・・・・

 

そんな感情の渦とシンクロするように、彼の頭は幻を見せるのだった。

 

耳をすますと、遠くで誰かが喋っているのがわかる。

誰かと話しているのか・・・自分に話しかけているのか?

 

「・・・・待ってきた。」

 

声がだんだん聞き取れるようになってきた。

「ずっと待ってきたんだ・・・・」

「誰かいるのか・・・?」

マックスは暗闇の中から聞こえてくる姿なき声に話しかける。

 

「全ては自身の判断しだい・・・」

声は語り続ける。

 

「自身の判断にゆだねろ。そして全てを動かせ・・・」

「聞こえているのか!」

マックスは再び話しかける。

 

「そして覚醒しろ・・・・」

声は徐々に小さくなって聞こえなくなった。

 

「何を言ってるんだ・・・・誰なんだ?」

そして次の瞬間、目の前には草地が広がっていた。

辺りを一周見渡すとすぐに、そこが安心できる場所だとわかった。

 

「ここは・・・公園じゃないか。」

マックスは声の事など忘れ去り、一気に落ち着く感覚に満たされてきた。

いつも座る古ぼけたブランコに目がいくと、真っ先にそこへ向かうが・・・・

 

何の迷いもなく歩く先の草地が、突然音をあげて燃え始めたのだった。

 

反射的に足を止め、一歩後ずさる・・・

 

炎は有り得ない早さで燃え広がり、公園は火の海となっていく。

後ろを向くと、出口も炎で塞がれているのがわかった。

 

マックスは完全に炎に囲まれているのだ。

 

どうすればいい・・・・どうすれば・・・!!

 

「覚醒しろ・・・・」

その言葉が頭によみがえってきて・・・・

 

ふと目を開けると、そこには部屋の天井が見えていた。

 

マックスは急いで起き上がり、周囲を確認する・・・

 

「・・・またか。今度は今までと何か違ったな・・・」

 

そこは確かに自分の部屋だった。

朝日が顔を照らして安心感が溢れたが、まだ心臓の鼓動は激しい。

 

「まったく、勘弁してくれ。」

自分の頭に本気で頼んだ。

 

回数を重ねる毎に感覚がはっきりしてくる。そしてただ事とは思えない意味深な内容ばかりだ・・・・

 

「いったいあの声は誰なんだ・・・」

 

はっきりとは思い出せないが、前にも複数人の声が聞こえる夢を見た。

あの時はよく知っている人物たちの声だとわかるものが多かったが、今回は明らかに知らない誰かが自分に語りかけていたように思える。

 

だが姿は見えないし、こっちの声は届かなかった・・・これには何か意味があるのか?

 

更にはよく知っている場所まで出た。問題はその後の展開だ・・・

 

「この夢にどんな意味があるんだ・・・」

 

今までの経験からすると、悪夢をただの夢だと無視してはいけない。きっとまた何かを示唆しているに違いないが、今回は今までの感覚とは少し違う・・・

 

「単なる不吉な予感ではない。何だかわからない感覚だ・・・そしてすぐにでも魔力を鍛えたい気分だ。」

 

もっと強くなりたい・・・ならなければいけないという思いが朝から早速加速する。

全く良い目覚めではないが、頑張りたい気分が増すのは嬉しいことだ。

 

「今日は実践も兼ねて特訓だな。」

では他の皆を集めた方がいいか・・・・いや、勝手に集まるだろう。

 

マックスはチームのメンバーの気持ちを察し、あえて連絡はしなかった。

恐らく皆来る。それに、今日無理して集まってもらおうとも思わない。

自分だけでも特訓したい気分だからだ。

 

今日も朝から隠れ家に向かう為に、テイルにはまた誰かの家に遊びに行くなんて言わなければいけない。

感覚の鋭い彼女のことなら、同じことを何度も言っていたらそのうち嘘がバレるかもしれない。

うまくごまかして活動し続けるのも課題のひとつとなってくることだろう・・・

 

とりあえず急ぎ過ぎず、今はまだ部屋で大人しくその時を待つことにした。

 

「そうだ、地図を出来るだけインプットするか。」

マックスは、今唯一手元にある『学校内全システム書記』を取った。

 

敵がどれほど校内の構造を把握しているかはわからないが、こっちには全てがわかる手段があるのだ。

この点でははっきり言ってこっちが有利だ。

 

この本のお陰で魔光力源の存在まで知ることが出来た。これ無しでは絶対にここまでたどり着けてはいなかっただろう。

全てはこの『学校内全システム書記』を手にしてから日々は変わったのだ・・・

 

彼は、朝食の時間まではそのまま本を開いて部屋で大人しくしているのだった。

 

 

それから数時間が過ぎ去った時の事だ・・・

 

マックスはというと、あの公園のベンチに座っていた。

 

片手には杖を持っている。

「しばらく休憩するか・・・」

彼の目の前にはジェイリーズとレイチェルが向かい合い、杖を構えて立つ姿があった。

 

「あたしはまだいいわ。この子と特訓中だから。」

ジェイリーズは横目でマックスの方を見て言う。

 

「あたしだって、まだやれます。」

レイチェルも負けずと杖を構えたままだった。

「いいわねぇ。だいぶん根性もついてきたのかしら。」

 

「挑発癖は相変わらずって感じだ・・・」

マックスは独り言を呟き、背伸びをした。

 

そんな時、地下の隠れ家では・・・

 

「そろそろ俺達も特訓に加わるか?」

ディルが、近くで本を黙々と読んでいるジャックに話しかける。

 

「今は待て・・・」

ジャックは魔法薬の本に集中しているようだった。

「本日二度目だよそれ。」

ディルは、今日の読書はもう飽きたらしい。上で実践訓練をしたがっていた。

 

「ジェイリーズとレイチェルは女子同士で盛り上がってるし、マックスは何だか自分の特訓をやり始めたしさ。今は俺の相手はお前だけなんだよ。」

 

「ああ・・・後でな。」

ジャックは本に目を向けたまま言う。

「それもさっき聞いた。」

 

仕方なく、ディルも再び魔法の勉強を始めた。

それから間もなく、ディルがまた口を開いたのだった。

 

「おい、ちょっとこれ見てみろ・・・」

彼は読んでいた『魔法全史』のあるページを開いたまま、ジャックの方を向いて言った。

 

「今度はどうした?」

ジャックは変わらず読書に集中している。

「いいから一回来てみろ。すごい発見かもしれない!」

ディルは立ち上がって興奮気味に言った。

 

ジャックは本から目を離して、ディルの様子を察すると彼も立ち上がった。

「何を見つけたんだ?」

ディルの横へ行き、指し示す記述を見たとき、ジャックもその驚きを隠しきれなかった。

 

「やったじゃないか・・・これは大きな発見だ!」

 

ジャックは急いで階段を駆け上がって地上に出ていった。

 

そこに呪文をぶつけ合う女子二人と、一人離れてベンチに座るマックスがいる。

 

「皆、来てくれ!」

ジャックの声に三人が振り向いた。

「ディルが相当興味深い記述を発見した。」

 

 

この時、セントロールスでも何かが起きようとしているのだった・・・・

 

二日前のセントロールスでの事件から警官の人数が倍増し、校内も動き回っている現在、その警官達から姿を隠すかのようにこそこそ走る二人の人影があった。

それはまるでマックス達のように・・・・

 

「噂通りだ。こんな警備が大げさじゃ、さすがに動き辛いな。誰か知らないが面倒起こしやがって。」

「あたし達は魔法が使える。いくらマグルが出た所で何も変わらない。」

 

そして二人は校内の奥へと入り込んだのだった。

 

 

これから四人に更なる因果が絡みつく・・・・

 

 

 

 


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