Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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ほこり被った大小様々な棚がコンパクトな部屋の壁を囲む。
中央には長テーブル・・・見た目からして、ずいぶん前からここに置かれているのだろう。

そんな部屋のテーブルを囲む一人の男に三人の男子、それに、この場に似合わない花柄ワンピースの女子が一人・・・
四人の子供は運命的に出会い、一人の男は必然的に彼らと接触した。

そして男と再び出会った時、彼らがここへ戻ってくるのもまた必然だった・・・・





第十三章 スパイラル

マックス達は彼の言葉に集中した。

 

「では、まず君達のセントロールスでの行動を監視するに到るまでの事を話そう。」

 

サイレントが話を始めた。

 

「ナイトフィストは、14年前のサウスコールドリバーでの惨劇で家族や友人を失った者達がグロリアに復讐したいと願った時に、出来るだけ早くその願望を叶えるため、そしてナイトフィストの組織復興のためにも彼らの名前をリストアップしていた。そしてリスト中の人間の八割がすぐにナイトフィストに所属した。しかしリストにはほんの数歳の子供の名前もあった。」

 

「俺達というわけだ。」

ディルが言った。

 

「そう。そんな子供までも組織に誘うことは出来ない。だからまずは待つ事にした。そして現在、君達の居場所を突き止めて成長の程を確めることに成功した。この四人が同じ場所で揃って行動していると知った時は運命を感じたよ。やがて君達の行動力と魔法の扱いを評価した現在、ナイトフィストに招いたというわけだ。」

 

彼は一旦話し終えた。

 

「これまでの流れはわかった。それで、気になっているグロリアの危険性の話だが・・・」

マックスが先を急ぐ。

 

「慌てるな、話は繋がっている。前にも言ったな、人を集めているのは我々だけではないと。今まさに、グロリアも新たな時代を担う構成員を獲得しようとしているのだ。そして既に、魔法界の各地で数人の新構成員の姿が確認されている。」

 

四人は嫌な未来を想像した・・・

 

「考えてもみれば、14年前の被害者はナイトフィストだけではない。あの一件から奴らもまた我々に更なる敵意をもった事だろう。要は、あの事件を経て我々がやり続けている事を奴らもやっているという現状を頭に入れてほしかったんだ。そしてナイトフィストを恨む子供達も当然いるはず。丁度君達と同じぐらいの歳の子供が・・・」

 

この時、マックスは一つの最悪な考えが浮かんだのだった。

 

セントロールスには他にも魔法使いがいる・・・レイチェル、ストレッド・・・今は彼いないが、代わりに彼を殺した謎の生徒がいる。少なくともわかっているだけで二人だ。

そして今のサイレントの言葉から考えると、想像できることが一つあるではないか・・・

 

「待ってくれよ・・・つまり言いたいのは、14年前にナイトフィストによって被害を受けた子供が学校にいるかもしれないということ・・・」

 

「察しが良いな。」

サイレントは続ける。

 

「君が言った通り、セントロールスには他にも魔法使いがいるようだ。そしてグロリアの人間がこの町に現れるようになった時期と学校での殺人事件のタイミングを考えるに、今君が予想した事の可能性は極めて高い。」

 

「それじゃあ、俺達が追っていた生徒を殺した奴が・・・」

 

「14年前のもう一人の被害者で、君達とは逆の立場の人間かもしれない。もうグロリアに誘われている可能性も十分考えられる。」

サイレントが言った。

 

グロリアもナイトフィストと似たような状況であれば、それは有り得る話だった。

 

それが正しければ、自分達は知らないうちにグロリアに近づいていたということになる。将来戦うと誓った相手に・・・

 

「なぜ君達が追っていた魔法使いを殺したのかは定かではないが、グロリアに何らかの考えがあることに違いないだろう。」

サイレントは言った。

 

「口封じをしたのも地下を調べさせていたことも、全てはグロリアからの指令だった可能性も考えられる訳か。俺達がサイレントから任務を与えられたように・・・」

 

「口封じ・・・それはどういう事かな?」

サイレントはマックスの言葉に引っ掛かった。

 

「それに関してもだが、次は俺達の話をする番のようだ。」

マックスは今までチームでやってきた事、そして自分なりの考察を話すことにした。

 

「俺達は一週間ぐらい前に、セントロールスの地下に魔法の細工がされていることを知った。」

 

サイレントは知らない情報に興味を示す・・・

 

「その地下の周辺をうろうろしていたのが、殺された魔法使いの生徒、ゴルト・ストレッドだった。名前は簡単に聞き出せたが地下での目的は結局言わなかった。いや、きっと言えなかったんだ。」

 

「どういう意味だ?」

 

「恐らく、彼を殺した奴が服従の呪文で操っていた。目的を明確に言えないような暗示もかけていたのだろうと思う。更に俺の仲間が頑張ってくれたお陰で、ストレッドが一人の魔女の生徒を操って協力させていた事も判明した。」

 

「魔女?まだマグル以外の生徒がいたことにも驚くが、問題は彼らがマグルの学校で許されざる呪文を使い、何かを企んでいたという事だな。」

 

マックスはそれについて、一気に話して聞かせた。

「あの学校は異常だよ。結論から言うと、地下には魔法で隠された部屋がある。奴らはなぜかそれを知っていた。部屋へ行く手段までも。そしてその隠し部屋の中にある物こそが、奴らの狙いだ。」

 

「普通の学校なら信じがたい話だな。それで、君達はどうやってそこまで突き止めた?」

サイレントは冷静さを保ったまま言った。

 

「これまた信じられない話だが、学校に関する全ての事が書かれた本があって、それに気になる事が書いてあったから調べようと思ったのが全ての始まりだよ。」

 

そう言って、彼はバッグからあの本を出した。

 

「これがその本だ。」

彼は『学校内全システム書記』のとあるページを開いて、古びたテーブルの上に置く。

「もちろん、これはマグルの学校にあった本だ。だからこそこの記述は信じられないはずだ。」

 

マックスは地図の地下の部分を指差してサイレントに見せる。

そこに書かれた文字を読んだとき、彼の表情が変わったように見えた。

 

「ああ、確かに信じられん。第一魔光力源という表記、どう考えてもこちら側の世界に関係性が有りそうだな・・・・」

 

「あったんだ。」

マックスは再び話し始める。

 

「実は、この第一魔光力源保管所という表記とその見取図はたったさっき現れたんだ。そこだけ透明インクで書かれてあったから、元々は地図上にそんな部屋は見えなかった。そのかわり、地下に隠し部屋があることを示唆するような表記が書いてあったんだ。」

 

「マグル界の本に魔法の仕掛けが・・・・」

 

「その通り。学校だけじゃない。この本にも魔法の仕掛けがあった。」

そして彼は再び本をめくり、別のページでその手を止めた。

 

「それにこんな事も書いてあった。ここから俺達は魔光力源の名を知って、さっきまで謎解きをやっていたって訳だ。」

 

サイレントはまず、そこに挟まれた古そうな紙切れを手に取った。

 

「ああ、それを見る前に、本の記述を読んでもらいたい。」

マックスが言い、サイレントは開かれたページの中間に書かれた、魔光力源の扱い方の部分を読み始める。

 

続けて紙切れに目を移し、最後にマックス達の方を向いたのだった。

 

「この紙は・・・どこから・・・?」

彼は静かに言った。

 

「地下の第一魔光力源保管所だ。俺達は、その意味不明な説明文から図書室が怪しいとにらんでさっき調べていた。その結果、図書室にはその紙の在処を示すヒントが隠されていることがわかった。そして謎を解き、手に入れた。全部俺達だけでやった結果だ。」

 

マックスは自信を持って言った。

 

「あなたが言うように、ストレッドを操っていた生徒がナイトフィストによる被害者だとしたら、グロリアがそいつに接触し、魔光力源を調べるように指示したという考えが浮かぶ。」

 

「だとしたら、奴らは既に魔光力源について少なからず情報を持っていたということだ。今ここにある情報からは魔光力源がいかなる物で、二つ起動した時に何が起こるのかわからないが、グロリアが欲している物となると放ってはおけないな。君達が動いてくれたお陰で我々にとって貴重な情報を得ることが出来た。君達を招いたのは本当に正解だったな。」

 

マックス達は心の中で純粋に喜ぶのだった。

 

「早速組織の役に立てるとは思わなかった。でも、運が良かったんだ。たまたまセントロールスにいたから。」

 

「だとしても、これは君達の手柄だぞ。この件は仲間に報告しておく。まだグロリアが第二魔光力源の場所と起動法を知らないことを祈って、我々は全力で第二魔光力源の調査を行って奴らより先に確保しなければならない事がわかった。君達も引続き、出来る範囲で調べてほしい。」

 

「言われなくても、もちろんそうするさ。」

マックスは力強く応える。

 

「期待してるぞ。だが忘れてはならないぞ、この件にはグロリアが関わっている可能性を。出来る範囲で挑むんだ。無理は絶対にするなよ。」

彼は真剣な眼差しでマックスに言った。

 

「わかってるよ。俺もチームが大事だ。皆を出来るだけ危険な目には会わせたくない。だから魔法の勉強も忘れてないさ。」

 

「ようし。では、頑張ってる君達にこの隠れ家をプレゼントだ。」

 

四人は顔を見合わせる。

 

「本当に良いのか?俺達に・・・」

マックスは心がウキウキしてきた。

 

「バースシティーにはあらゆる場所に、隠れ家という6の活動拠点がある。その一つを使っても問題はない。それに、君達には活動拠点が必要だろ。好きに使ってくれ。」

 

マックス達は心から喜んだ。

 

「すげーよ。俺達に秘密基地が出来たぜ!」

ディルが一番嬉しそうだ。

 

「では、私はそろそろセントロールスに戻って魔法の痕跡の調査を続ける。今、ゴルト・ストレッド殺しの犯人が学校で何かやらかそうとしている可能性もある。君達は来ない方が良いだろう。」

 

マックスは考えた。

今ここで無茶をするより、ひとまず落ち着いた方が良いかもしれない。皆も今は休みたいはずだ。

 

そして、悪い予感がまだ残っている・・・・

 

「そうだな。俺達は控えておこう。」

 

「それがいい。ここから出る時はポートキーを使うのもいいが、一旦学校へ戻ることになるから危険だ。そこの天井の扉から出るのをおすすめする。ここはセントロールスから近い場所にある地下だ。外に出て辺りを見渡したら位置がつかめるだろう。」

 

「地下かぁ・・・じゃあ、もし地上に出てみたら人が居たってことにはならないか?。」

ディルが言った。

 

「心配無用。この一帯にはマグル避け呪文が張り巡らされている。マグルは近寄れないさ。」

 

 

その後、サイレントが姿くらましで消えてからは、四人はしばらく隠れ家にいるのだった。

 

皆は見慣れない小道具が棚に置いてあるのを眺めたり、椅子に腰かけてくつろいだりしている。

 

「今日であたし達は大きな一歩を踏み出せたようね。」

ジェイリーズは壁越しに置かれた、一人分のソファに座っている。

 

「間違いないな。俺達がやってきた事は正しかったんだ。ナイトフィストとして活躍できたんだ。そして今後の課題も決まった。魔法を勉強しつつ、魔光力源の調査も続けること。」

マックスがそう言った後、壁沿いの棚に並んだ物品を、ディルが珍しげに観察しながら続きを言う。

 

「魔光力源について調べるということは、ストレッドを殺した奴とも向き合っていく。という事だよな。」

 

「そういうことだな。そいつがグロリアの人間から直接指示を受けている可能性が高い。だから魔光力源に関する情報も知っていて当然だ。そして俺達が今一番用のある奴って訳だ。」

マックスが言った。

 

「捕まえて色々と聞きたいことはある。だが、今度の相手はかなり危険な感じがする。まず俺達はひたすら魔法の知識と力をつけるのが先決だろう。」

 

ジャックが三人と向かい合って言った。

 

「ジャックの言う通り、俺達はまだまだ勉強不足だ。正体もわからない敵と相手をする前にしっかり準備する必要がある。たった今からここが俺達の基地となったことだし、サイレントからもらった本をここに持ってきて、ここに来たら誰でもいつでも読めるようにしたら便利だと思わないか?人に見られる心配もないだろう。」

 

マックスがそう言うと、皆納得しているようだった。

 

「それはいいな。じゃあ大事な物は何でもここに持ってくればいいってことだ。」

ディルが言った。

 

「決まりだ。それじゃあ、今日のチームの活動はここまでにするか。次にここに来る時に、各自持ち帰った本を持ってきてもらいたい。」

 

そしてマックスは天井を見上げた。

奥の角の方に階段がかかっており、その先の天井には扉と思われる四角い溝と取っ手が見えた。

 

「そう言えば、ここは学校から近いって言ってたわね。どこに出るのか楽しみね。」

 

「様子を見てみるよ。」

マックスはテーブルから離れて、天井まで斜めに続く簡単な木の階段を掴んだ。

足をかけて一段上ると、木のきしむ音が聞こえた。

 

天井はさほど高くなく、三段上った所で取っ手に手が届いた。

それをつかんで力を入れると、天井の四角く亀裂が入った部分が上に押し上がり、太陽の光が一気に射し込む。

サイレントの言った通り、ここは地下だった。

 

マックスは顔を出して様子をうかがう・・・

 

「確かにマグル避け呪文が効いてるようだ。誰もいない。そしてすごく静かだな・・・」

そして少し視点を変えた時、彼にはここがどこなのかはっきりとわかったのだった。

 

「まさか、ここか!」

 

マックスは一気に階段を上りきり、地面に立って辺りを見渡した。

 

続いてジャック、ディル、ジェイリーズが地面から姿を現した。

 

「なんだここは・・・想像してたのと違う光景だな。」

ディルが言った。そしてマックスが・・・

 

「俺は知ってるぞ。よく知ってる。」

 

彼には見慣れた光景だった。ここは昔から、暇な時に一人でやって来てはブランコに腰かけて、誰もいない静かな空間で気分を落ち着かせていた、あの荒れ果てた廃公園だったのだ。

 

マックスは今やっとわかった。なぜ誰も居ないのか・・・それはこの公園が寂れているからではなかった。マグル避け呪文で護られたナイトフィストのテリトリーだったからだ。

自分は魔法使い故に当たり前にこの公園の出入りが出来ていたのだ。

 

「マックス、本当にこんな所知ってるのか?」

 

「もちろんだ。」

マックスは所々さびたブランコの一つに座った。

つい最近、『学校内全システム書記』入手ミッションを決行する直前にも、ここに座り空を見上げてリラックスしていた。

 

「ここは、まだ皆と出会う前から放課後とか授業をサボった時なんかによく来ていたお気に入りの空間だ。ここでこうして座ってると、なんだか不思議と落ち着くんだ。まさか、ここの地下にナイトフィストが集まる部屋があったなんて驚きだ。」

 

「この場所をよく知った人間がいて助かったな。」

ジャックが言った。

 

「ここから大通りまでは案内する。すぐに着くぞ。」

 

そして四人は公園の穴だらけのフェンス内から出ていくのだった。

 

 

その日の夜・・・・

 

マックスは自分の部屋で考え事をしていた。

 

グロリアになった生徒は、何の意味もなくゴルト・ストレッドを手下にしようと思ったのか・・・?

ならば、もしその生徒と出会っていたなら自分も含め、チームの誰かが服従させられていてもおかしくなかった訳だ・・・・

 

誰が先にその生徒と出会っていたか、それによって今の状況は大きく変わっていた可能性が考えられる。

結果、ゴルト・ストレッドは見限られて口封じされた。もしあの時に、ストレッドを捕らえなければ死なずにすんだかもしれない。もし、彼が何の悪気もなく、ただ操られていただけだとしたら・・・自分達がゴルト・ストレッドを死に追いやったも同じだ・・・・

 

マックスはあらゆる可能性を考えると、あの時の行動のせいで一人の無実の生徒を死なせてしまったのではないかという思いにさいなまれた。

 

確かにストレッドはジェイリーズを傷つけた。だが、それも既に服従させられていたからだとしたら、何もわからないままストレッドは殺されてしまったのではないか・・・・

 

そう考えると、取り返しのつかない事をしたという罪の意識があふれて止まない。

 

あの時、ストレッドを捕らえた時の事と、彼の様子を今一度細かく思い出してみる・・・・

 

確か、全身金縛りの呪文をかけて動きを封じた後に手足を魔法で縛ったのだった。その後、任意で金縛り呪文の効果だけをフィニートして喋れるようにしたのだ。

 

つまり、あの時既に服従の呪文がかけられていたとしたら、その効果は消えてなかったことになる。

 

そしてストレッドの意味深な台詞の繰返し・・・これはやはり服従の呪文で言わされていという訳か。

 

すると、やっぱり彼は黒幕の生徒の操り人形だったというのが正解だろう。

更にその彼がレイチェルを見つけて操った。

 

子供が服従の呪文を使いこなすのは容易ではない。

だから自分は一人だけを操り、その人物にまた別の誰かを服従させて最も効率良く手下を増やそうと考えたのだろう。

そしてしくじれば消される・・・・ならば、やはり今一番危険なのはレイチェルと考えるのが当然だ。

 

不安な感情は消えることはなく、まだ彼に覆い被さる。

 

そして間もなく、自分達の知らない間に事が起こっていたと知る・・・

 

「マックス、下りてきて!」

 

いつもと同じく、テイル・レマスに呼ばれて夕食の時間が始まるのだが、今回の彼女の呼び方は何だか違った。

 

「ん?どうかしたか?」

急いで一階に来たマックスは、早速テレビ画面に目がいった。

 

「これは・・・セントロールスじゃないか。」

 

それはニュース番組だった。

画面には全域に黄色いロープが張られたセントロールスに、警官が敷地内をうろうろしている光景が映っていたが、その警官の数が明らかに多い。

 

そして驚くべきはニュースの内容だ。

 

「本当にそんなことが・・・」

「あたしもびっくりしたわ。こんな事件初めてよ。」

 

それは今日の午後3時頃、セントロールス高校で一人の警官が死亡し、二人が怪我をしたというニュースだった。

 

その時セントロールスには複数の警官がいたが、犯人らしき人物を見た者は一人もいないらしい。

殺された警官は校舎沿いの外に倒れていて、六階の窓ガラスが割れていたことから突き落とされたと考えられているが、直接の死因が落下による衝撃かどうかはまだわからないとのことだった。

 

おかしいのはこの後だ。

 

なんと、その場に居合わせ傷を負った二人の警官が後ほど行方不明になったという。

更にその二人と殺された一人の警官も含め、同じ警察署の人間は誰一人として、三人の顔を知らないということだった。

 

しかしこの事件が起こる前までは、三人とも他の警官達と共に行動していたはずで、知らない警官が居るなどの報告も無かったということだった。

 

この事件は間違いなく、これから警察を悩ませることになるだろう。

 

だがマックスには犯人の心当りがあった。

 

今日の午後3時と言えば、サイレントが学校に現れてから隠れ家に移動した頃だ。

サイレントはあの時、学校の至る所に魔法の痕跡があると言っていた。まず間違いなく、あの時に学校には魔法使いがもう一人いたことになる。

それが誰なのかは想像できる。そしてそいつこそこの事件の犯人だと彼はにらんだ。

 

丁度俺達が学校から消えて、邪魔が入らなくなった時に事を起こしたのだろう。だが目的が謎だ。

あの時学校で何をしていたのか、なぜ警官を殺さなくてはいけなかった?

 

じっと考えているマックスの隣でテイルが口を開いた。

 

「これは、魔法使いが関わってると思わない?」

「おれもそう思っていた所だ。学校には多くの警官がいるんだ。誰にも見つからずにこんな事できるわけながない。」

 

ニュースはまだ続いた。

 

割れた窓ガラス以外にも校内のあちこちに破損したヶ所があったらしい。

この事から犯人と警官は激しく争ったことも考えられるが、銃声や破損する物音を聞いた者はいない。

 

こんな内容がこの後も繰り返された。

 

「魔法使いなら音を消すことも出来るわけだ。」

マックスはほぼ断定した。ゴルト・ストレッドを殺した奴が犯人だと。

 

「この町も物騒になったわね。これじゃあ新学期は延期かもね・・・」

 

夕食の後は、マックスは自分の部屋で事件のことを考えていた。

 

今日の不吉な予感も当たった。今回は三人が犠牲になった。一人は死亡、二人は連れ去られたとでも言うのだろうか・・・・

 

次はどんなことが起こる・・・?また誰かが犠牲に?

 

この時、レイチェルの姿が思い浮かんだ。

彼女は一番狙われる危険がある。敵に直接操られてはいなかったが、一応魔光力源の一件に関わった人物だ。敵は口封じの為には殺しもする相手だ。レイチェルもターゲットになりかねないと考えざるを得ない・・・

 

考えれば考えるほど悪い事しか思いつかなくなる。

マックスはそんな思考を一回リセットして、別の事に意識を向けようとした。

 

でなければたちまち不安な感情に飲み込まれて眠れなくなるだけだ。

 

「そうだ、敵はどうやって魔光力源の存在を知った・・・?」

 

ふと、とある疑問が頭の表面に出てきたのだった。

レイチェルはストレッドに操られて第一魔光力源を起動した可能性が極めて高い。ストレッドはもう一人の魔法使いの生徒に操られて動いていた。

そしてその正体不明の生徒はグロリアから直接指示を受けていると考えられる。ならば、グロリアは第一魔光力源の存在やその場所、起動法を一体どこで知ったのだろうか・・・・?

 

考えてみれば、自分達が本を手にしてその存在にたどり着くより先に、奴らは知っていたということになるのだ。これは大きな疑問だ。

 

「本以外にも情報があるのか・・・・?」

 

そう思うのが自然だった。魔法界のどこかには、魔光力源の事を知る人間や、記された書物が存在するのかもしれない。

だとしたら、第二魔光力源の位置を知っていてもおかしくないかもしれない・・・・

 

だがサイレントは、ナイトフィストがそれを知っているような事は言わなかった。となると、既に今の時点でグロリアの方が一歩先を行っているのではないか・・・そんな考えも浮かんだ。

 

マックスはため息をついてベッドに横になった。

 

「結局良からぬ方向に物事を考えてしまう・・・・今日、チームでやった事を考えると、もっと自信が持てていいはずなのに・・・・」

 

これは、早速次の悲劇を直感が知らせているからか・・・それともたんなる未来への不安からか・・・

今はそれもわからなかった。

 

だが、確かにナイトフィストの為になった。チームで魔光力源の謎に一段と迫ったのは間違いない。

その結果が評価されて自分達の基地まで手に入った。

今日一日だけでチームは大きく進歩した。それだけでもまずは良しとすべきだ。

 

マックスはそう言い聞かせ、今日は頭を休めることにした・・・・

 

 

幸い、今回は悪夢にうなされることはなく朝を迎えることができた。

 

マックスはいつ寝たのか、どれだけ寝ていたのかもわからないが、ただひとつわかるのはとても頭がスッキリしているということだ。

 

すぐにベッドから起き上がり、机の上に置かれた小さな時計を見た。

「8時か。ずいぶん寝たもんだ。」

 

今まで何の夢も見ることなくぐっすり眠っていたようだ。これだけでほっとした。

 

今日の予定は特に用意してなかったが、珍しく体を動かしたい気分になってきたマックスは、朝食の後で家を出ていったのだった。

 

自転車を走らせ、向かう先は大通りから外れ、人の少なくなる狭い道の先だ。

 

そのまま進むと人が完全に消え、徐々に町の騒音もしなくなってくる・・・・

 

そしてマックスは自転車を止め、道の端に立て掛けた。

かごからバッグを取り、手に持つとそこから離れてさびついたフェンスの中に入って行く・・・

 

そこは誰も来ない、例の廃公園だった。

 

しかし彼が公園内に足を踏み入れようとした時、前方を見たままその足は止まった。

 

「レイチェル・・・・?!」

 

マックスは予想外すぎる光景に、一瞬訳がわからなくなった。

 

目線の先には、なんとベンチに座っているレイチェルの姿があったのだ。

そして声を聞いた彼女もマックスの存在に気づき、振り向いた。

 

「えっ・・・マックス?」

 

彼女も彼と同じような表情をした。

 

マックスはとにかくレイチェルの所へ急いで向かった。

「君とここで会うなんて思いもしなかった。」

「あたしこそ・・・もしかして、あなたもここが好きなの?」

レイチェルは相変わらず大人しい感じで喋った。

 

「ああ、そうだ。ここには何度訪れたことか・・・何だかここの雰囲気は俺に合うんだ。」

「あたしも一緒よ。誰にも邪魔されないから、ここで勉強したりするの。」

彼女は本を片手にそう言った。

 

「じゃあ、今俺がここにいたら読書の邪魔になるな。」

「いや、そんなことないから・・・」

レイチェルはやや焦るように言った。

 

「なら良かったよ。隣にいいか?」

「うん。」

 

マックスはバッグをベンチに置き、レイチェルの横に並んで座った。

 

彼女は本を置いたが、何を話そうか戸惑っている様子がわかったマックスは、自分から話し始めようと思った。

 

「そんな感じの服が好きなのか・・・似合うと思うよ。」

それは本音だった。

薄い空色のワンピースを着た彼女は、ジェイリーズとはまた違った雰囲気で、落ち着いたレイチェルのイメージとよく合っている格好だと感じた。

 

「特に、好きなわけではないけど・・・似合ってるかな?」

レイチェルは照れながら言う。

 

「ああ。俺は服には詳しくないが、良い感じだと思うよ。」

 

すると彼女は微笑んでくれた。

 

「ありがとう・・・そんなこと、誰にも言われたことなかったな。」

 

マックスは、彼女の控え目な笑顔がとても心地よいものに感じた。

そしてその笑顔を守りたい。何としても失ってはならないと強く思うのだった。

 

「昨日のセントロールスの事件、君も知ってるな?」

「うん、ニュースで見たわ。」

「ここは学校から近いし、君は今ここにいては危険だ。」

マックスは結論から言った。

 

「それって・・・あたしと学校の事件と、何か関係あるの?」

「はっきり言うと、そういうことだ。俺達は警官を襲った犯人は、ゴルト・ストレッドを殺した人物と同じだと考えている。今も学校で何か企んでいるかもしれない。そんな奴が、君を次の口封じの対象にする危険が高まっているんだ。だから一人でここへ来るのは危なすぎる。」

 

「・・・わかったわ。言う通りにする。」

 

マックスはとりあえず安心した。偶然にも、今日ここでレイチェルの無事な姿を見ることが出来て良かった。

 

そして次に考えることはレイチェルの安全な居場所だ。

既にひとつ、一番良い場所を思いついている。しかしそこを紹介するということは、あの事も説明しなくてはならなくなる・・・・

 

マックスは悩んだ。

この下には自分達チームの為の秘密基地があるが、それを明かすということは、ナイトフィストとグロリアの事も全て知られるかもしれないという事でもあるのだ。

知りすぎたらますます身の危険が高まる。この事には関わらせたくないが・・・・

 

その時、誰かの声に二人とも振り返った。

 

「あれ?マックスに・・・君まで?まさか彼女を組織に誘うつもりか?!」

 

「ディル!このタイミングでか・・・・」

 

なんと、草が被さる地面の一部が開き、中からディルが顔を出していたのだった。

 

「グレイクさん?!・・・・びっくりした。」

 

なんということだ。これで地下の事はバレてしまった。

もう後には引けない。こうなれば、隠さず話せるだけ話すか・・・・

 

「実は、最初から隠していた事があるんだ。」

 

レイチェルは訳がわからない様子だった。

 

「君はもう仲間だ。だからもうチームでの隠し事は無しだ。」

 

そしてマックスは彼女を地下へと招いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




レイチェル(私服)

【挿絵表示】

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