Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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第十二章 再会~再来

四方位に線の形・・・それに地下の隠し部屋が関係しているということは・・・

 

マックスはそろそろ答えにたどり着けそうな予感がした。

 

「マックス、地図を見てみないか?」

四人が黙って考えを巡らせている最中、ジャックが口を開いた。

「俺も同じことを考えていたんだ。」

マックスはバッグから『学校内全システム書記』を引っ張り出した。

 

「ここの仕掛けを考えた奴は視覚的な謎を仕掛けている。そしてここに謎がある事がこの本に記されている・・・これもまた視覚的なヒントだ。ということは仕掛けた奴と本の著者が同一、もしくは協力者だということは間違いないだろう。ならばこの本にも他に視覚的ヒントがあるかもしれないという訳だ。」

 

彼は地下重要物保管所が書かれた地図のページを開いた。

 

「地図から何か読み取れるか?」

皆にも本の地図のページを見せる。

 

「今までで判明していることは四ヶ所の線とばつ印、そしてそれらの場所に当てはまる方位。それだけよ。それを踏まえても、この地図から何を読み取れっていうの?」

ジェイリーズが言った。

 

「明確なことは何も言えない。でも、きっと見抜くことが重要なんだ。何かを・・・何かに気づくことが・・・・」

 

地図上の光景はいつも見ている時と何ら変わりはない。それは当然だ・・・

 

誰しも、答えを当たり前に見せはしない。本に隠されているとすれば、書き消されている可能性は?

 

マックスは地図上の地下を見た。その時に初めて気づいた。

 

「この地図には壁の奥に部屋があることは書いてあるが、その部屋の見取図は書かれていない。」

「言われてみれば、確かにね。」

 

壁の向こう側に魔光力源があることは示唆しているが、あの円形の二つの広間が書かれていないとはどういうことだろうか・・・

 

ここでマックスはひとつ閃いた。

「壁の横にはある程度スペースがある。ここに書こうと思えば書けるとは思わないか?本当に書いてないのか・・・?」

そして杖を地図の地下の部分に向けて、その呪文を言ったのだった。

 

「スペシアリスレベリオ・・・」

その考えは当たっていた。

何も書かれていなかった壁の隣に、徐々に線が描かれていく・・・・

 

マックスは胸が高鳴った。

「やっぱりそうだったか。この本には一部透明インクが使われていたんだ!」

「透明インク?」

ディルが言った。

 

「俺もそれについて詳しくは知らない。呪文の本に、透明インクで書かれた文字を見えるようにする呪文が載っていたんだ。人に知られずに文字を伝える手段なのだろう。それにしても、どこまで俺達を楽しませてくれる著者なんだ。」

 

見ると、さっきまでは無かった二つの円形の見取図がそこに現れていたのだった。

そして名前も変わっていた。

 

「第一魔光力源保管所だとよ。」

ディルが言った。

 

「少なくとも今二つの事が確定した。やっぱりあのクリスタルが魔光力源と呼ばれる物であり、第一ということは第二魔光力源が存在するかもしれないという事だ。」

 

マックスは新たな発見に自信が戻ってきたが、まだ図書室の謎が残っていることに変わりはない。今、地図の隠された表記を見えるようにしたことで、図書室の手掛かりとどう結びつくのか・・・・

 

「次にする事は・・・ここの四ヶ所の線とばつ印の意味を片付けることか?」

マックスは再び図書室の各部分に刻まれた線とばつ印を見ながら考える。

 

ばつ印は何かの目印だろう。わからないのは線の意味だ。一本は方位を確定させるためのヒントの線だった。だがどこにも繋がってない残りの数本は何を意味している?

 

一つ解ければまた一つ、問題が邪魔をする。

 

「わかっていることを整理してみよう。」

再び考え込むマックスを見たジャックは言った。

「・・・そうだな。今わかっているのは四方位が落書きの四ヶ所に当てはまること。しかし実際の方角とは違う。落書きは四ヶ所とも似ている。しかし線の形が全て違う・・・」

マックスは言いながら頭の中を整理した。

 

「これらのヒントが魔光力源の秘密を解くことに繋がる。そしてヒントは本にも隠されていた。」

ジャックが続きを言った。

 

「四ヶ所が実際の方角と違うのは、たまたまには思えないわよね。」

「それだな。ポイントはその四方位だという気はしている。でもその手掛かりの使い方がわからない。」

 

「もう俺はついて行けないや。」

そう言うディルだったが、彼は最初からついて行けてなかったように思えるのだが・・・

 

「このいくつかの線の形は適当には見えない。見れば見るほど何かを描こうとする途中にしか見えなくなる。何かの絵か・・・」

ずっと壁の傷を見ているマックスに、突然ある考えが浮かんだ。

 

「今度はいきなりどうしたの?」

 

彼は黙ったまま別の方角の落書きの元へ走ったのだった。

 

皆が後を追うと、本を見ながらまた別の場所へ急ぎ、そして四ヶ所全ての線の傷を高速で見て回った。

 

「まさか、この方位は・・・」

彼の元に三人が集まった時には、マックスは再び本の地図のページを開いていた。

 

「おい、何がわかったんだよ。説明してくれ。」

ディルが言った。

 

「この図書室の落書きの意味だよ。」

マックスは自分の考えを確かめながら、地図のページと落書きの線を交互に見る・・・

 

「やっぱりそうだ。やっとわかった!全ては地図だ!」

「もっと具体的に言ってよ!」

一人で興奮するマックスに、ジェイリーズがじれったそうに言う。

 

「線の方位は地図上の方角と対応している。そして線は第一魔光力源保管所を現していることがわかった。とにかく見てもらうのが早い。」

そう言い、マックスは本をジェイリーズに渡した。

横からジャックとディルも覗き見る。

 

「まずは東の壁の線を見に行こう。」

マックスはそう言い、四人はEtcと書かれた壁へ移動した。

 

「ここで地図の地下と見比べるんだ。」

皆は壁の線と地図を交互に見る。すると、早速ジャックが理解したようだ。

 

「なるほど。わかったよ俺も。これを仕掛けた人と、そしてお前もよく思いついたな。」

「ここまで来れたのは、お前のアドバイスがあったからだ。」

 

マックスは説明を続ける。

「この地図上での地下周辺を東西南北の四つに分割するとして、東にあたる部分と、この壁の線の形を見比べてみたらわかる。」

 

ジェイリーズとディルは、地図と目の前の壁の線をよく見ると納得した。

 

「この線は地図だったなんて、誰がわかるんだ。」

「これはあたしだけなら絶対にわからなかったわ。」

 

皆の立つ前の壁から床にかけて、長く伸びる数本の線は、地図上の第一魔光力源保管所の入り口付近の見取図をそっくりに形作っていたのだ。

 

四人は次にWritersの本棚の横、すなわち西の落書きの場所へ向かう。

ここもわりと広範囲に線が描かれているが、数はさっきよりも少ない。

 

ジェイリーズは皆に地図を見せながら言った。

「地下の西にあたる部分を見ると、確かに同じ形になってるわ。面白い仕掛けね。」

彼女はどんどんテンションが上がってきたようだ。

 

ここには、地図上の第一魔光力源保管所の一番奥の部屋の一部が書かれていることがわかった。

 

早速次の場所へ向かう。Scienceの本棚付近で、地図上の南に当てはまるであろう所だ。

 

「ここは地図の南だ。ならばもう予想できる。」

マックスはジェイリーズが開いている地図のページをチラッと見ると、すぐにわかった。

「ここは例の広間の下の方の壁だ。曲線があるのは広間が円形になっているからか。」

 

そして残る北の部分の落書きを確認すると、第一魔光力源保管所の見取図が完成するのだった。

 

「図書室の落書きを集めると、あの部屋の見取図が出来上がるのはわかった。それでどうするんだ・・・?」

ディルが言った。

 

「見ての通り、地図上の見取図にばつ印はない。ここに書かれたばつ印が答えへ導く鍵だろう。印を地図に当てはめてみよう。」

 

マックスはバッグに入っていたペンを取り出して、図書室の線の上に彫られたばつ印の位置と同じように、地図の第一魔光力源保管所に×を書き込んだ。

 

「書いてみるとこうなる。3つの目印のように見えるな。」

「この三ヶ所を実際の部屋で調べてみる価値がありそうだな。」

マックスとジャックの考えは一致し、彼らは図書室の落書きから導きだした3つの×の場所を実際の地下に見に行くことにしたのだった。

 

ディルがマグル避け呪文を解除し、図書室を後にする。

これから地下へ向かうまでの間、また警戒心を高めなければならない。ここで気を抜いて誰かに見つかったらおしまいなのだ。

 

足音に気を付けながらひたすら一階を目指す。

 

やはり校内に人はほとんどいないようだ。誰の声も聞こえない。この上ない静けさだ。

そして静かというとこは、宿敵も近くにはいないということでもある。

 

地下まではスムーズに進み、警官にも出会わずに目的を果たせそうだった。

「よし、ここにまたアレを頼む。」

「OK、マグルシールドな。」

ディルが地下の入口にマグル避け呪文を張り巡らし、再びマグルの邪魔は入らない空間が出来た。

更にマフリアートで音もかき消す。

 

辺りにわずかな安心感が戻った。

 

しかし気は完全に抜けない。

ここに現れるとしたら魔法使いのみというわけだ。つまり、四人の他に人がいれば、正体不明の敵である可能性はほぼ100%だ。

 

それに、この先は敵にとっても最も用のある場所のはず。現れる確率はぐんと上がる。

 

だが、それがわかっているからこそこっちも構えることが出きる。

 

マックスは三人を率いて迷い無い足取りで第一魔光力源保管所を目指す。

「俺とジャックは常に杖を前に構えて歩く。ジェイリーズとディルは後方を注意してくれ。誰かが現れたら、そいつがストレッドを消した奴に間違いないだろう。見つけたら容赦なく捕らえろ。そして知ってる全てを聞き出してやるんだ。」

 

マックスはわずかな緊張感と溢れる好奇心を同時に感じた。

 

答えはもうすぐだ。チームでここまでやったんだ。もはや無理な事など考えられない。

 

好奇心が足を急がせ、地下廊下をどんどん進む。

リーダーの自信が戻ったことが、皆のやる気も沸き上がらせる。

 

そしてその場所を目の前にした。

 

「フィニート・レイヴ・カッシュ」

今回はジェイリーズが壁に手をあてて言った。

 

壁はすぐに言葉に反応した。

「これ、気持ちいいわね。」

彼女は一歩下がり、そこに黒い扉が出来上がると、取っ手に手を触れた。

 

「まず人が居ないか確かめるわ。」

ジェイリーズが扉を引き開け、杖をその先の暗闇に突き出して・・・

 

「ホメナムレベリオ」

彼女の澄んだ声が暗闇に反響する・・・・

 

「行って大丈夫みたい。」

 

これはついてる。敵は今ここには居ない。

マックスは更に心が踊った。

「今のうちだ。好きなだけ調べるぞ!」

思いきり扉の奥に突入し、杖を振り上げた。

 

「ルーモス・マキシマ!」

その杖明かりはいつもより明るく感じた。

皆も杖先に明かりを灯し、それを天井に向かって投げた。

 

四つの光が天井に走り、床から徐々に広間が明るくなる・・・・

 

「もうここに来るのも四回目になるか。まさかここにヒントが隠されているとは・・・」

まだ謎を解いたわけではないが、マックスには解ける自信があった。

 

「さて、まず近い所から見ていこう。」

マックスはジェイリーズから本を受け取り、地図のページを開いた。

 

「まずは東。入口のすぐ左だ。」

彼らは今立っているすぐ横の壁に注目した。

 

「図書室の落書きではこのへんにばつ印があった。調べるぞ。」

まずは壁に手を触れてみた。

最初に思った通り、やはり学校の壁とは造りが違う。明らかに綺麗で新しさを感じる壁だ。

だがそれ以外に気になることはない。

 

「目で見てわからないとなると、ここも魔法仕掛けだな。」

マックスは真実を暴く呪文を試した。

「レベリオ!」

 

少し待ったが、反応は無しだ。

 

「これじゃない・・・スペシアリスレベリオ」

 

また透明インクとやらが使われていないかと考えたが、何も浮き出てはこない。

 

「違う・・・ならば、フィニート・レイヴ・カッシュ・・・・」

 

ある程度自信があったが、それでも呪文を唱えた先に変化は無かったのだった。

 

「何だ・・・何をすればいいのか?」

マックスは必死で考える。そしてバッグから『魔術ワード集』を取り出した。

 

呪文が答えをひも解く鍵なら、この中にその呪文があるはずだ・・・・

 

焦りながらページをめくり、それらしい呪文を探す・・・・

 

「わからないな。真実を暴く呪文でも駄目だった。見えない文字も書かれてない・・・・じゃあどういう仕掛けなんだ。」

 

マックスは再び壁にぶつかったのを感じた。

 

また謎か・・・いったいどこまで謎解きにつき合わされればいいんだ・・・

 

焦りは気分を害し、余計に答えから遠ざかる。

 

そんな時にジャックが一人、そこから歩きだした。

 

「俺達は良い所まで来ているのは間違いない。後は発想次第だ。答えは近い。」

そしてある所で立ち止まり、マックス同様壁に触れたりしている。

 

「ここは地図上の西にあたる部分だが、ここにも同じく目で見て気になる点は無いようだ。」

そう言うとジャックは杖を壁に向け、呪文を試した。

 

「レベリオ・・・」

しかし変化は起こらず・・・そしてそれはジャックの予想通りでもあった。

 

「ここにも仕掛けは無い。ばつ印に何か隠されている訳ではなさそうだね。」

 

そこで、地図を見ながらジェイリーズが別の方角へ移動し、壁に杖を向けて呪文を唱える。

 

「ここも同じ結果ね。」

 

つまり、地図上に当てはめたばつ印の場所には何の仕掛けも無かったということだった。

 

「ここまで来てまた謎だよ。」

ディルは座り込んだ。

 

「また立ち止まったな。何か発見できると思ったが。」

ジャックは腕を組んでうろうろしている。

「これまでの推測は間違ってないはずなのに。でなければここまでたどり着いてない・・・」

「きっと壁のばつ印がヒントよ。考え方が違うのかも・・・」

ジェイリーズがじっと天井を見上げたまま言った。

 

「考え方が違うか・・・・ばつ印の他の捉え方を考えないと・・・」

マックスは誰に言うわけでもなく静かに喋り、新たな発想を絞り出そうとする。

 

ジェイリーズも言った通り、ばつ印が何かのポイントだ。それはわかっている。だが3つの×をどう捉える?

 

考えながら地図と実際の部屋を交互に見る・・・

 

図書室の壁の線は、地図上の四方位に当てはめるとここの見取図が完成した。だから考えは間違っていなかった。じゃあばつ印は何だ・・・何の為に書いた・・・?

 

そう言えば、なぜ四方位中三ヶ所だけなのか?

東にあたる部分には線だけしかなかった。代わりにEtcの文字があったのだった。

 

文字の意味はエトセトラで合っているだろう。だとすると、そこに×が無かった理由にもエトセトラが関わってるということは・・・?

 

マックスはいきなり答えが閃いた気がした。

 

4つの方角に3つの印・・・なぜか一つ無い。そしてそれがエトセトラ・・・つまり他にもばつ印があるという意味だと考えると、残り一つを東の方角に書けば何か見えてくるのか?

 

マックスは再びペンを手にし、地図上の第一魔光力源保管所の東の位置にばつ印を書きこんだ。

 

4つの×が揃った。そして丁度その中央にクリスタルが位置しているではないか。

つまり、対面している×を線で結ぶと中央で交差して、そこに魔光力源が位置していることになる。

 

マックスの想像は加速し始める。

 

やっぱりばつ印が秘密を解く鍵だ。足りない×を書き足した結果、交差点が出きた。そしてそこが魔光力源の位置する場所・・・地図上ではそうなっている。ならば実際でもそうなるはず。エトセトラの最後の意味は、有るものを探すのではなく、無いものを加えろという事だったのか!

 

マックスは地図上の東に位置する、入口のすぐ近くの壁と再び向かい合う。

 

「何だマックス、何か思い付いたな!」

ディルが立ち上がって走ってきた。

ジェイリーズとジャックも彼に集まった。

 

「これが俺の思いついた最後の考えだ。これが違っていたらさすがに参る。」

そして恐る恐る杖を上げて、『魔術ワード集』で目にした、ある呪文を口にしたのだ。

 

「フラグレート・・・」

直後、杖先が燃えるように赤く揺めき、壁にばつ印が刻まれるのだった。

 

フラグレートはばつ印の焼き印を刻む呪文である。

目の前の壁には黒く焦げた×がしっかりと刻まれ、わずかに焼け焦げた臭いが漂った。

 

「頼む。これで何か起こってくれ・・・」

 

そんな彼の祈りに応えるように、石が擦れるゴリゴリという音が広間に響いた。

 

四人は同時に後ろを振り返った。何が起きたのか・・・

 

そして変化点はすぐに目についた。

 

「見ろ、魔光力源の所だ!」

マックスは中央に設置された魔光力源の元へ走った。

見ると、魔光力源の円形の台座部分のタイルが一部開き、その中に何かが入っているのが確認できた。

 

皆駆けつけてしゃがんだ。

 

「やったな。ついに全ての謎を解いたんだ!」

ディルが今日一番のテンションの高まりを見せた。

「でも何でわかったの?さっきやったのは何?」

ジェイリーズがまだ理解できずにいる。それはディルとジャックもそうだった。

 

「一ヶ所だけばつ印が無かっただろ。だからそこに書き足せばどうなるかと思っただけだよ。さぁ、詳しい説明は後だ。まずは見てみようじゃないか。」

 

マックスは台座の開いたスペースに手を入れて、隠された物を取り出そうとした。

 

「ん?これは紙だな。」

薄っぺらい物を引き抜き、しわを伸ばして皆に見せた。

それは確かに古そうな一枚の紙だった。サイズからすると、ノートを切り取った一枚のように思える。

 

「何か書かれてるぞ。これが魔光力源の説明の続きか・・・」

マックスは紙に書かれた文字を素早く読んだ。

 

「対になった魔光力源は、どちらか片方だけではその力を発揮できない。第一魔光力源の起動方法は既に記述済み。第二魔光力源は、長くその時を待つ者によって再び扉が開かれる時に、運命の役割を担う子に託せ・・・」

 

マックスは唖然とした。

 

「まずわかった事、それは魔光力源は二つあり、片方だけ起動しても意味が無いということだけ。そしてわからないことがまた増えた。第二魔光力源についての全てだ。」

 

「書いてある事の意味がわからない。これまでの明確な説明文とは一変して、何と言うか・・・説明としては抽象的過ぎる。」

ジャックの言う通りだ。

これでは秘密に近づく所か、逆に謎を与えられたようなものだった。

 

「静かにその時を待つ者・・・再び扉が開かれる?」

「そして運命の子も登場しないといけないわね。」

ディルとジェイリーズが少し期待外れな感じだった。

 

「これはさすがに今はわからないぞ。いや、こんな説明で第二魔光力源についてわかるのか?」

 

彼らはさっきまでの希望が半減し、代わりに新たな謎を得たのだった。

 

「扉と言えば、奥の部屋にいくつか開かない扉があったな。」

ジャックが言った。

 

「だったな。だがどの扉にもいくつか呪文を試したが開かなかった。もしこの紙に書かれた事が正しければ、長くその時を待つ者とやらに開けてもらわないといけないらしい。これから先が思いやられるな。」

 

マックスは、今日はやる気を使い果たしてもう何も考えたくなくなっていた。

 

「とりあえず今日の所は上出来だ。一旦外に出てこれからどうするか考えよう。」

「そうしよう。疲れたし、休まないか?」

ディルが言った。

 

「これ以上わからないことを考えても切り無いわ。頭も休ませるべきね。」

ジェイリーズの意見には皆同感だった。

 

マックスが紙を本に挟みバッグにしまった後、彼らはその場を立ち去るのだった。

 

何事もなく地下を後にし、一階中央廊下に出てきた四人はこのまま順調に進む・・・

 

人の足音も聞こえない。マックスは、実に静かで普段の学校とは比べ物にならないほど落ち着いた雰囲気を身体中で感じていた。

 

「なんだか開放的でいいな。」

ディルがぼそっと呟く。

 

「まったくだ。これを常に望んでいたよ。」

静寂が好きなジャックが、一番今の校内の状態を好むのは間違いない。

 

そして警官の一人も出てこない静かな状況で、彼らの警戒心が自然と緩んできていることも間違いなかった。

そんな時こそ何かが起こるものだ・・・

 

たった今まで無音だった廊下に、突然足音が聞こえてきた。

 

マックスの全神経が一瞬で鋭くなり、立ち止まる。

足音は前方の曲がり角から聞こえる。なぜ急に近場から聞こえるんだ・・・

 

考えてる場合ではない。とにかく急いで姿を消さねば、ここは一本道の廊下で隠れられると言えば数メートル先の教室しかない。

更には全ての部屋のドアは鍵でロックされている。今からロックを解除してドアを開けたら間違いなく音が丸聞こえだ。マフリアートを周囲に張る時間も無い・・・

 

その足音は駆けるように廊下へ近づくのがわかる。そしてすぐさまその人物は角から姿を現すのだった。

 

四人とも目くらまし術をかける暇もなかった。

マックスはすぐにでも走って警官から逃げる気でいた。しかし前方に立ってこっちを見ているその人物をよく見ると、それは教師でも警官でもないようだ。

 

やがてゆっくり歩いて来るその男は、誰も想像していなかった意外な人物だった。

 

「・・・サイレント?」

マックスはスーツ姿でぶしょうひげの男を見て誰だかわかった。

 

「君達・・・そうか、君達の仕業だったのか。」

そう言い、何やら安心した様子でこちらに近づいて来る男はサイレントであった。

 

「俺達の仕業って、どういう事だ?」

マックスが言った。

 

「私は、ここの生徒が殺された事件を知って調査に来ていたんだが、校内のあらゆる階の至るところに魔法の痕跡が残っているのがわかってな。誰か魔法使いが結界でも張り巡らせたんじゃないかと思って調べ回っていた所だった。だが、今その犯人が君達だとわかった。マグルが多くいる場所であまり派手にやらかすと危険だぞ。」

 

マックスは、そんなサイレントの言葉に違和感を感じた。

 

「ちょっと待ってくれ、確かに俺達は今日ここで魔法を使った。でも、図書室と地下で少しだけだぞ。今地下から戻ってきたところだ。それ以外の場所には行ってすらいない。」

 

マックスの言葉を聞いて、サイレントの表情が変わった。

「本当か?・・・だとすれば、今ここにいるのは危険かもしれない。」

「危険だって?俺達の他にも誰かいるってことなのか、魔法使いが・・・」

この時にマックスは嫌な事を想像した。と同時に朝の悪夢と悪い予感を一気に思い出す。

 

「わりと強い魔力が至るところに残っていたのは確かだ。それが君達の仕業でなければそういうことになる。そしてその何者かには注意したほうがいい。」

「何を知ってるんだ?」

「詳しくは場所を変えてからだ。今はまずここから離れる。とりあえず安全そうな所へ案内してくれるかな?」

 

マックスはここから一番近い、わりと広い物置部屋を思いついた。

 

「俺について来てくれ。」

 

彼らは廊下を少し走り、ひとつの扉を見つけるとその中に入った。

 

ここはレイチェルと初めて出会ったあの物置部屋だ。

 

扉を閉めると、サイレントは早速話し始めた。

「突然だが、以前君達と会った時に連れていった場所へこれから向かうことにした。」

「ナイトフィストの活動拠点・・・」

マックスは初めてサイレントと出会い、姿現しを体験した時の事を思い浮かべた。

 

「そうだ。いずれもう一度連れて行こうと思っていた。今日こうする予定は無かったがせっかく君達と出会したからな。」

 

「すると、また姿現しで?」

ディルが嫌そうに言った。

 

「いいや、今回は別の方法で行ってみよう。姿現しよりずっと楽だ。」

サイレントの言葉に皆はほっとした。

 

「他に空間転移の方法があるのか?」

「あるんだ。ポートキーがな。」

そしてサイレントは、適当に物置部屋に置いてある一本の古いバットを指差して言った。

「これがポートキーだ。」

 

「いやいや、それはここにあったバットだろ。」

ディルは訳がわからないようだった。

それは皆も同じだ。

 

「正確には、今からポートキーとなる物だ。」

サイレントは続ける。

「ポートキーは何でもいい。どんな物でもキーにすることができて、ポートキーとなった物に触れた瞬間、姿現しと同じ現象が起こる。魔法による空間転移だ。」

 

「マジかよ・・・そんなお手軽な方法があったのか。」

ディルが真面目な表情で言う。

 

マックスもポートキーについて知らなかった。

「ポートキーにする、ということはそのバットに魔法をかけるという事かな?」

「そうだ。そしてその呪文が・・・」

サイレントはスーツの裏から杖を取りだして、立て掛けられたバットに向けて言った。

 

「ポータス」

そのまま彼は集中し続けているように見えた。

少し待った後に、サイレントは杖をしまってマックス達の方を向いたのだった。

 

「たった今からこれがポートキーだ。これを使って一度だけ移動して帰ってくることが出来る。多少の手間はかかるが、姿現しが出来ない今の君達にはこれが最適だ。」

 

そして彼はバットと向き合った。

「皆、同時にバットを掴むんだ。遅れれば一人取り残されるぞ。」

 

四人ともバットの近くに揃い立つ。

 

「準備はいいぞ。」

「よし。では、一斉に掴め。」

サイレントがそう言って手を触れた。

 

マックス達もバットをしっかり掴んだ。その瞬間、体が竜巻に飲み込まれるような感覚がして、辺りには光と霧の渦しか見えなかった。

 

マックスは必死で手に力を入れてバットから離れないように頑張った。

しかしそれもつかの間、浮いた足が硬い地面に着いたのがわかった。

見ると、辺り一面を包む光が消え、渦巻く霧も晴れて周囲の環境が確認できた。

 

その手には冷たい床の感触がある。

 

マックスは今、前にも行ったナイトフィストの活動拠点なる部屋の床に横たわっているのだった。

 

すぐに起き上がって他の皆を確認すると、サイレントがたたずむ近くで同じように転がっているのがわかった。

 

「うまく着地するには慣れるしかないな。」

ジャックが起き上がりながら言う。

 

「しかし姿現しよりずいぶん楽なもんだぞ。これは使えるな。」

ディルの言葉には皆、同感だった。

 

「だが簡単にポートキーを作り出せる訳ではないがな。それについては君達自信で学んでもらおう。」

そして彼は本題に入る。

「それじゃあ、早速話すとするか。今、君達の近くに危険が迫っているかもしれない事を。」

 

マックス達は色々と当てはまることを思い浮かべた。

 

「グロリアの人間がこの町に来ていることは以前話したと思うが、それについて新たな情報を得たのだ。奴らはこの町で何やら調査を始めたようだ。」

「調査?」

マックスは言った。

 

「ああ。具体的にはわからないが、この町に何かの狙いがあるのは確実だと考えている。そして時期を同じくしてここの生徒が殺された。これは奇妙だと思わざるを得ない・・・」

 

ここでマックスは、直接自分達が目で見た光景を話しだした。

「俺達は現場を見た。目は開いたまま、恐怖の表情で固まっていた。俺達の考えでは、たぶん死の呪いだ。」

「やっぱりか。魔法使いの仕業のようだな。」

「そしてその殺された生徒も魔法使いだった。」

 

マックスは、これまでに自分達がしてきた事を話そうと思った。

 

「それは初耳だな。」

「正体不明の魔法使いを探れ・・・そう言ったよな。」

「もちろん覚えている。私が君達に与えた課題だからな。まさか、それが殺された生徒というわけか。」

「そうだ。そしてその魔法使いを探るうちに、俺達はセントロールスの信じられないような事実をいくつも知ることになったんだ。その全てに魔法が関わっている。」

 

サイレントはより真剣な眼差しになり、そしてどこか誇らしげな表情をしているように感じた。

 

「どうやら、色々やっていたようだな。」

「ああ、色々な・・・」

 

サイレントは静かに歩きだし、部屋の中心に置かれた長方形の木のテーブルの奥に移動した。

 

「まあ座るんだ。学校で起こった事を詳しく聞かせてくれ。もしかしたら、我々にとって重要な内容かもしれない。」

彼は、テーブルを囲む椅子の一つに腰かけた。

 

「ナイトフィストにとって重要な事?まさか、それは言い過ぎだ。」

マックスの他、三人ともそう思ったに違いないが、サイレントは更に言った。

 

「さっき言った、君達に危険が迫っているかもしれないという意味は、この町にグロリアが居るという事だけじゃない。あのセントロールスにグロリアの危険が迫っているかもしれないという事でもあるんだ。」

 

これを聞いたマックス達四人は同時に顔を見合せ、驚きを隠しきれなかった。

 

「どういう事だ・・・・説明してくれ。」

「もちろん、その為にもここへ連れてきた。では私の方から話しを始めようか・・・」

 

この後、彼らは自分達がどれだけ危険な事をやってきたのか、改めて知ることになる。

 

そして、今この瞬間にも良からぬ事が刻一刻と近づいているなど誰も知らない・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




"サイレント"

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サイレント専用杖

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