Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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第十一章 図書室

バース中央広場からセントロールス高校に向かって走る四台の自転車がある。

 

当たり前のようにその自転車に乗る人物達の姿を誰もが目にすることが出来る。しかし特に目を向けるものは誰もいない。

 

行き交う住人は皆、彼らもまた自分達と同じ住人だとしか思っていないのは当然だ。

見た目は普通の人間と何も変わりはない。ただの学生にしか見えないからだ。

 

まさか普通の町中を普通の自転車に乗って走る彼らが魔法使いだなんて思うものは、ただの一人も居やしない。

更には、彼らがこれから命をかけた行動に出ようとしている人間の姿には到底見えない。

 

このマグル界だからこそ、誰にも気づかれることなくあらゆる行動が起こせるのは非常に好都合だ。だが自分達が追う相手も同じく魔法使いとなると、話は別だ。

 

相手にとってもまた都合が良い。そしてその相手は殺人犯だ。皮肉なことに、ここは殺人犯にとっても動きやすい世界だというわけだ・・・・

 

目的地が近づくに連れて、マックス達四人の緊張感が高まる。そして見慣れた光景が見えてくるはずの場所に到着した時、今のセントロールスの状態を直接その目で確認できたのだった。

 

「ニュースで流れていた映像通りだな。」

マックスはセントロールスの門の手前で自転車から降りた。

他の皆も自転車を停止させる。

 

「門の外には警官が立っている。敷地の中にはもっと居るだろう。」

マックスは言った。

「ここからは姿を消して各自で侵入だ。集合場所は俺達の訓練場だ。」

 

四人は家と家の間に入り、杖を出して人目を気にしながら目くらまし呪文をかけた。いよいよ行動開始だ。

 

ここからは集中だ。絶対に警官に侵入した所を見られてはならない。全て台無しだ。

透明化したマックスは、まず校門の前に立つ二人の警官の間を通り抜けて難なく敷地内に侵入した。

 

魔法使いの前では警察もどんなに無力なものか・・・

 

グラウンド側へ歩いてみると、数人の警官が遠くをうろうろしているのが見えた。

マックスはグラウンドに入り、訓練場がある裏庭へ急ぐ。

 

学校を離れて見てみると、全域に及んで黄色のテープが張り巡らされているのがよくわかった。

テープには立入禁止と書いてあるのだ。

 

こういうのは刑事ドラマでしか見たことがない。ましてやこんな規模の建物での光景は初めてだ。

 

裏庭の草木が生い茂った領域に入ると誰も居なかった。

当然、その奥の広場にも警察は来てないようで、一番早く到着したマックスはひとまず目くらまし術を解除した。

 

それから少しも待たずして、ほぼ四人全員が揃ったのだった。

「何かすごい事になってるな。」

ディルが言った。

 

「もう何が起こっても不思議には思わないことにするよ。」

ジャックは言った。

 

「そうだ。この学校は異常だ。ここで起こった事と、俺達アウトサイダーがいることも。」

マックスは続ける。

「さて、まずはクリアだ。ここからは揃って動いたほうがいいだろう。敵が今敷地内にいる可能性もあるからな。校舎への侵入は寮塔の裏側入口からにする。そして本校舎に移ってからは、まず図書室だ。行こうか。」

 

マックスが先頭に立ち、四人揃って訓練場を出て行く。

出た先の草木に隠れて動くことができ、スムーズに裏庭を移動できた。

 

そして四人がプール施設の横に来た時、その先の裏側入口の前には一人の警官が見張っているのがかわった。

 

彼らは壁に隠れ、マックスが杖先を警官に向けて呪文を発動した。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

直後、警官の帽子が静かに浮き上がった。

マックスは杖を思いきり振った。すると宙に浮かぶ帽子が遠くに吹き飛んだのだった。

 

警官が慌てて走って行く姿を見届けると、マックス達はプール施設の壁から飛び出して一気に裏側入口へ走った。

 

「またこの感覚を思い出すぜ。このハラハラする感じを。」

「今のうちに楽しんでおけ。俺達の本当の相手は警察じゃない。魔法使いだ。それに今度の相手は相当手強いと思って間違いないぞ。」

 

四人は裏側入口から寮塔への侵入に成功した。

そこからは本校舎に移り、一気に六階の図書室に向かう。

 

「中は思ったより静かでよかった。まだ警官とも出会してない。あとは魔法使いを警戒するのみだ。」

階段をひたすら上がりながらマックスは言う。

「ストレッドを消した奴がどういう奴かはわからないが、相手も俺達の顔を知らないという保証はない。校内で教師と警察以外の人間が居たら、まず警戒するんだ。」

 

四人はさらに階段を上る。

 

「俺はもう疲れてきたぜ。階段を使わなくていい魔法とか欲しいな。」

ディルは既に息切れ気味だった。

 

そして六階にたどり着いた時には、四人とも階段で体力を消耗されていたようだった。しかし敵がどこから現れるかわからない。一時も気は抜けない。

 

杖を構えて一直線の廊下を歩き進み、いよいよ図書室が見えてきた。

 

「ここまでは順調だ。これからが本番だぞ。」

図書室の前方の入口まで到着したマックスは、ドアが開かないことを確めると杖を向けた。

 

「アロホモーラ」

ロック解除の音が静かな廊下に鳴り渡った。

静かにドアを押し開け、足音に気をつけながら図書室内に侵入する。

 

「ディル、図書室周辺にマグル避け呪文を頼む。」

「了解だ。」

ディルが入口前に立って杖を持った手を上げた。

 

「あたしは人間感知の担当ね。」

そう言うと、ジェイリーズは杖を図書室内に向けて呪文を唱えた。

「ホメナムレベリオ」

 

少し待ってから・・・

「誰も隠れてないわ。思う存分好きなこと出来るわよ。」

「よし、ありがとう。これでマグルは一切俺達の邪魔は出来ない。何か魔光力源に関わるような記述がないか、徹底的に調べよう。」

 

マックスはますますやる気が湧いてきた。

しかし調べるとは言っても、どう調べればいいか・・・

 

「ここにあるどれかの本に、魔光力源の説明の続きが書いてあるのかもしれない。」

「でもだ、全部の本を一冊ずつ読んでいたらいつ終るか知れたもんじゃないぞ。」

それはディルの言う通りだった。手当たり次第で全ての本の文字を読んで答えを見つけるなんて、先が思いやられる・・・

 

だったらどうしたらいいのか。どこから手をつけていいかわからない。

 

「まず、どの分野の本に隠されていると思う?」

そうマックスは言ったが、すぐに分野から本を探すのも無駄だと思えてきた。

 

「そもそもそんな簡単に見つけられるような隠し方はしないと思うわ・・・」

「だと思うな。ここの本は誰でも見ることが出来る。だから普通に本棚には置いてないんじゃないかな?」

 

ジェイリーズとジャックの考えはうなずける。

 

「人目につかないような所に隠されているのだろう。地下の事を考えると、ここにも何か魔法の仕掛けがあるのかもしれないな。」

 

彼らは本棚だけでなく、図書室全体を見ることにした。

 

何か怪しい物は・・・不自然な場所は無いかと見るが、探しているものが本だという確証は無くどういう物かもわからない故、解決に近づいているのかすらわからない。

あるいは、そもそも図書室に魔光力源の秘密を知るためのヒントがあるというのは考えすぎなのか・・・

 

マックスはわからなくなってきた。

「あの説明文は絶対に途中で切れている。図書室が何だって言うんだ・・・」

 

マックスは考えつかない頭に腹をたてた。

 

「ここにヒントがある気がする。どうしてもそう思うんだ。」

「しかし難しい問題だぞこれは。何せ探している物が本とも限らないだろ。」

ディルが言った。

 

「何かが隠されてるとして、どういうヒントかがわからない・・・」

 

あえてヒントを与えるのならば、何か見つける手掛かりを残しているはずだ・・・

こうなれば、図書室を隅から隅まで見てみるしかない。

 

「観察だ。本当にここにヒントが隠されているならば、そこへたどり着くための方法があるはずだ。この部屋をとことん観察するんだ。」

「はいよ。」

ディルは面倒くさそうに言った。

 

ここから必ず魔光力源に関する何かが出てくるという根拠は無いが、だったら出来ることは尚更調べるだけだ。

 

四人は手分けして、広い図書室の四つ角から至る所を見ていく・・・

ドアから壁に、壁から天井へ目を動かす。

何も気になる所は無い。普通の部屋の壁に天井だ。

 

更に床、テーブルやその裏側まで細部を観察する。

 

マックスとジャックはグラウンド側の窓際を、ジェイリーズとディルは廊下側の壁を見始めた。

ここでマックスが少し気になるものを目にした。

 

「これは・・・ただの落書きか?」

マックスは壁に書かれた文字を発見したが、すぐに関係ないと判断する。

 

地下と同じく、図書室から別の部屋へ行くための隠し扉があるとするならば何か印があるはず。しかし地図には何も書かれていない・・・

 

ヒントを見つける手掛かりは完全に無しというわけだった・・・・

 

「ちょっといいか?」

それはジャックだった。何の進展も無い状況の中で、マックスは声に振り返り期待が高まる。

「何かわかったのか?」

マックスは戸棚の一部を見ているジャックの元に駆けつけた。

 

「ただの落書きかもしれないけど、一応見てもらえるか。」

ジャックは調べていた棚の側面の一部を見せた。

 

「何だ?引っかいたような傷跡だな。」

 

見ると、そこには引っかき傷のようないくつかの曲線やばつ印のようなものがあるのがわかった。

 

「正直、これがヒントなのかどうか検討もつかない・・・」

マックスは徐々に希望を失いかけてきた。

 

「おい、一応こっちもいいか?」

今度は別の方向からディルの声が聞こえた。

 

マックスはとりあえず駆けつける。

「また落書きでもあったのか?」

「それは・・・まあそうなんだけどさ。」

「今、ジャックの方でもあったよ。そして俺も見つけた。」

 

マックスはディルの立つ目の前の壁を見てみた。

 

「まただ。似たような引っかき傷。」

気になるものと言えば壁の傷しか無いというのか・・・これでは何も話が進まない。

 

一目壁を見てすぐに立ち去ろうとした。しかしもう一度後ろを振り向く・・・

 

「同じような傷かぁ・・・偶然同じ傷跡が点在するのはおかしいな。意図的となると、この傷の形に何か意味が・・・」

 

よく見るとわかる何本かの線とばつ印・・・・その落書きと思われる壁の傷は、ジャックが見つけたものとよく似ていた。

 

マックスは再びジャックの元へ戻った。

「何だ、やっぱり気になるのか?」

「ちょっとだけな。ディルも同じような傷を見つけたんだ。」

 

そこへジェイリーズも現れる。

「それだったらあたしも似たようなのを見たわ。」

「またか。それぞれ位置は離れている。それなのに・・・」

マックスはジャックがいる所の傷跡を再度確認して、ジェイリーズが見つけたという落書きも見に行った。

 

「ここだけど・・・何か役に立つの?」

マックスはジェイリーズが指す場所を必死で見た。それは床の目立たない所にあった。

「こんな所にも・・・・明らかに同じパターンだ。待てよ、もしかしたら・・・」

マックスは何かを思いついて走っていくのだった。

 

「ちょっと、話聞いてるの!」

ジェイリーズはただ一直線に走るマックスについて行くしかなかった。

そして彼が立ち止まった所は、ついさっき自分が見つけた壁の落書きの場所だった。

 

今一度見る・・・こんなに誰かの落書きを集中して見たことはない。

 

「ただの落書きだと思ったが、もしかしたらこれらが手掛かりかもしれない。」

 

壁には Eと tと cのアルファベットがそれぞれ間隔を空けて書かれ、それとここにも線が数本うっすら彫られているのがわかる。

もしこれが仮に探しているヒントと関係あるとしたら、E t cとはどういう意味なのか・・・

 

「皆、来てくれないか。」

マックスは三人を呼んだ。

 

「ここにも似たような傷がある。それとここにはE t cの文字も。これがヒントかもしれない。どういう意味だと思うか?」

 

「俺は謎解きは苦手なんだよな。」

ディルはあてになりそうにない。

 

「文字のサイズが関係しているかもしれないな。Eだけ大文字だ。繋げて読むとすると、これは何かの言葉、もしくは単語の略だと思うぞ。」

ジャックの考えは良く理解できた。

「あと、英語だとは限らないかもね。」

ジェイリーズが付け足した。

 

たんなる落書きでE t cと書くとも考えにくい。何か意図があるはずだ。そしてジャックとジェイリーズの考えを元に想像すると、早速ひとつの言葉が閃いたのだった。

 

「二人の意見をどっちも取り入れるなら、エトセトラがあるな。」

何かの説明文で、要点だけを書いて詳細を省略する際にエトセトラという文字で終わらせる方法がしばしば使われる。

 

Et cetera(エトセトラ)はラテン語で、などなど、その他、という意味があり、文章を省略する時にはEtc.と表記する。

 

「エトセトラか・・・」

「これが何を意味するのかわからない。だが、ポイントはラテン語だ。」

「確かに考えたな。呪文の主な語源もラテン語。魔法に関するヒントがラテン語とは、有り得そうだ。」

ジャックが言った。

 

「でも、それが何だって言うの?魔光力源には何も繋がらないわ。」

 

マックスは考えた。

まだ足りない。何か抜けている気がする・・・そもそもエトセトラが何を指すのか・・・・

 

彼は文字の周囲の観察を始めた。

 

近くには戸棚がいくつか並んでいる。そして小さな本棚がそれを挟む。 何も気にならない・・・

 

再び文字を見る・・・・E t c・・・

文字の間隔が気になる。こんなに文字を離して書いたのはわざとなのか?

特にEはtcから離れている気がする。変な書き方だ。

 

じっと見ていると、そのEtcに重なるように、数本の細い線の引っかき傷が下へと伸びているのが気になった。

 

他の三ヶ所の壁にもある線がここにもある。これは重要なポイントかもしれない。そしてEの上を通っている・・・・

 

まだまだ考えは閃かない。マックスはとりあえず線がどこまで続いているかを目で追うことにした。

 

「まだ何もわからないが、皆も三ヶ所の壁にもあった複数の線がどこまで続くのか調べてくれ。これには意味があると思う。」

 

三人も各自で散らばって、壁に彫られた線に集中した。

 

マックスは、途中で途切れそうになる細い線の先を見ていくと、数本の線が大きくカーブしていってるのがわかった。線は小さな戸棚の後ろに続き、床へと伸びていた。

 

ここでひとつ気になる点が見つかった。よく見ると一本の線だけ、他の線からはぐれて別の方向へ向かっているのだ。

 

今度はその一本をずっと見ていくと、壁に掛けられた時計の裏へと続いて終わっていたのだった。

 

マックスは杖を時計に向けて呪文を唱えた。

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

時計が壁から外れて裏側の壁が見えるようになる・・・

 

マックスは時計で隠れていた壁に目をこらすと、心が再び踊りだした。

 

「あったぞ。次の手掛かりだ。」

 

三人は彼の声を聞き、集まった。

 

「何だ、何を見つけた?」

ディルが言う。

「以外と近場に隠れていたぞ。壁を見てみろ。」

 

マックスは時計を棚に置き、掛けられていた場所を指差した。

 

そこには、小さくastの文字が書かれているのだった。

 

「Etcの近くから始まった線がここへ繋がっている。これでひとつの手掛かりが完成したんだよ。」

 

「本当にただの落書きじゃなかったのか。」

ディルが言った。

「でもEtc とastってどういうことかわかる?」

ジェイリーズは壁の文字を見上げながら言った。

 

「マックスの言う通り、Etcとは線で繋がっているから絶対に意味も繋がっているのだろう。」

ジャックが言った。

 

「意味が繋がっている・・・・エトセトラの指すものがastか・・・」

 

これも何かの略なのか・・・しかしastから始まる言葉を探したところで、何が正解かなんて判断は出来ない。またわからなくなってきた・・・

 

「俺はもう何が何だかさっぱりだよ。」

ディルは、やはりあてにならないようだ。

 

エトセトラとどんな繋がりがあると言うんだ・・・

あせれば答えは遠くなる。マックスは一旦考えを止めて観察する。

 

一本の線がastとEtcを結んでいるように見える。

 

細く、所々で途切れそうになる線の引っかき傷をもう一度見てみよう。

 

astに繋がった線は下の方で、床に向かう数本の線と合流してEtcの方に集まっている。

この時点で、床へ向かう線とも関係があると思われる。そしてそれらの線の元がEtcだ・・・

 

「そうか、この線こそがエトセトラの指すものなのかもしれない。」

「線達がその他・・・と言うのか?」

ジャックが言った。

 

「Etcから伸びてるんだ。Etcがエトセトラという意味ならばそういう風に思ったんだが、いまいちスッキリしないな。」

「とりあえず、astの意味を考えない?これがEtcと何より関係がありそうでしょ?」

ジェイリーズが言った。

 

「astから始まる単語はいくつも思いつく。でも答えはわからない。」

「それは、そうね・・・・単純ではないわね。」

 

皆は考え、その場は静かになった。

 

エトセトラ・・・その他が指すのはastから始まる、もしくは含む単語であることはわかった。だがその答えが出ない。

 

いや待て、闇雲に考えても答えを出せるわけないじゃないか。これを解くにもヒントがあるはず・・・

 

マックスは観察を重ねる。

何か見落としていないかと壁の文字の書き方や線を注意深く見る。

そして彼と同じく、壁を黙って眺めているジャックが口を開いたのだった。

 

「Eastじゃないかな?」

 

マックスはそれを聞いてピンときた。

「それだ。それだよ!」

 

「よく見ると、astに繋がった線だけEtcのEから伸びてるんだ。そしてEだけ大文字でtcから離れている。エトセトラが線を指しているという君の考えも含めると、Eと結ばれたast、つまりEastというもうひとつの単語がエトセトラの指すものじゃないかと思った。」

 

皆はジャックの答えに納得した。

 

「俺もEtcの書き方には違和感を感じていたんだ。それに間違いないよ。答えは書いてあったんだ・・・」

 

「なかなか素晴らしい推理だわ。でも、東のその他って?」

ジェイリーズが言った直後、一気に考えが閃いたマックスは答えた。

 

「東の他と言えば、西、南、北だ。そして壁の線のことを考えてみろ。あと三ヶ所に同じような線の傷があるじゃないか。」

 

ここでジェイリーズも閃く。

「エトセトラは、他に三方位が残ってるって意味ね。ならば残りの落書きの場所の近くにも、方位を現す言葉が隠れているかもしれないわね。」

 

ジェイリーズは早速自分が見つけた落書きがある場所へ急いだ。

 

「皆、何かすごいな・・・」

ディルは後について行くことしか出来なかった。

 

問題の場所へ来たジェイリーズは辺りを見渡し、落書きの線の位置関係を考えた。

「たぶん、あっちが東ならばここが西になるはずよ。」

 

駆けつけたマックスとジャックにも、同じ考えがあった。

 

「だな。でも落書きの位置はバラバラだ。四ヶ所ともはっきりと四方位に当てはまらないな。」

マックスが言った。

 

「だったら、他がどの方位になるのか普通に考えても答えは出せないわけだ。ならばここが西でない可能性もあるなぁ。」

それはジャックの言う通りだった。

 

「ああ。太陽の位置から考えると、外側の窓の方が東になる。でも違う方位に東と書いてあるからな。そもそも実際の方位とは違うことは明らかだ。また推理して答えを出せというわけかな。」

マックスは言った。

 

となるとまたここにも、そして後の二ヶ所にも手掛かりが隠されているということだろう。こんな仕掛けを誰が仕込んだ・・・

 

彼らは床の複数の細い線とばつ印の傷跡の周辺の観察を始めた。

 

「ここの線はどこへ繋がっているのか?」

マックスは線一本一本を目で追う。

 

数本はそれぞれ違う方向へ離れていって、何も無い所で消えていた。

 

「文字はどこにもない。今度はどう考えればいいんだ・・・」

 

マックスは線とばつ印のみの手掛かりから何かを思いつかないか考える。

 

「文字のヒントを与えたのは東だけ。後の三つは代わりにばつのようなマークが必ずひとつある。この印がポイントなのは確かだが、それが何を現すのかは自分で考えろということだな。」

 

「各ばつ印の傷の場所には西、南、北のどれかがそれぞれ当てはまると考えるなら、まずそれを片付けないと話は進まないだろうね。」

ジャックが言った。

 

文字で判明出来なければ何をあてにすればいいか・・・あるのは線だけだ。これらの線の傷から方位を決めろということなのか。

 

ここにも線が数本あるが、どれも途切れている。

 

マックスは線の途切れた辺りをよく見てみる。

やはり文字は書かれてない。テーブルの裏や壁、床の隅も再度確認するがヒントになりそうなものは何一つ無かった。

 

「これはどうやって答えろというんだ。」

「俺もまだ閃かないな。」

ジャックも考えが止まっていた。

 

「あたしも、わからないわ。」

皆、また壁にぶつかった。そんな時にアイデアを出したのはディルだった。

 

「なあ、理論的に考えたらあっちが東ならここは西かもしれないんだろ?じゃあまずここが西ということにして他の所を見てみないか?ここにいてもわからないんだ。まあ、俺は全部わからないだろうけど。」

 

マックスは、確かにディルの意見は正しいと思った。

 

「だな。とりあえずここは後回しにするか。いい指示だと思うぞ。」

「まあ、たまにはな。」

ディルが少しやる気を出した所で、四人は一旦ここから離れることにした。

そして次に向かったのはディルが見つけた落書きがある壁だ。

 

「ここにも似た傷跡だ。似ているが、四ヶ所全ての線は違う形をしている。この線の形にも意味があるんだろうな。」

 

マックスは早速傷跡の観察を始めた。

ここにもばつ印の傷があって、それに重なるように細い数本の線が走っている。

線はまっすぐ伸びていたり、途中で曲がっていたりしているのがわかる。

ここの線の形は他の三ヶ所よりも曲がり角がはっきりしているようだった。

 

だが、わかったのはそれだけだ。重要なヒントは無いように思える・・・・

 

「ここにもヒントは無いのか。線はまた途切れたものばかりだ。」

マックスは頭をかいた。

 

「これは思ったより難題だな。東がわかったところで、そうスムーズにはいかないようだ。」

ジャックが言った。

 

どれが手掛かりなんだ?・・・どこかに手掛かりは無いのか・・・まだ見落としているというのか?

 

今一度細かく観察する。

見ることは大事だ。当たり前に見えているものでも注意深く探れ・・・何か重要な点を見逃している気がする・・・・

 

マックスは尚も集中する。

それに習って三人も辺りを観察し始めた。

 

線を一本ずつ、確認出来る限り見ていく。

 

ここも線はバラけている。そして途中で消えている所を調べる。

 

その数々の線のうち一本がひとつの本棚の手前で止まっていることがわかった。

マックスはその本棚を調べだした。

 

「線はここを探れという意味なのか?」

本棚は他にもいくつもあるが、それらと全く同じ形に見える。いたって普通の見た目だ。

 

詰まっている本はどんな内容か・・・

その本棚のジャンルが書かれたプレートを見上げると、Scienceと書かれてあった。

 

普段ここには全く来ないから、どこにどんなジャンルがあるのかすら知らなかったのだ。

 

ここには科学に関する本しかないというわけだ。

「科学からヒントを見つけ出せってか?」

「どうした?そこに何かあるのか?」

ディルが近づいてきた。

 

「いや、全く確証は無い。一本の線がここに来てるから本棚が怪しいと思っただけだ。」

 

「有り得るんじゃないか?さっきだって考えが当たった。」

ディルも本棚を調べる気になったようだ。

 

「ここは科学か。よりによって苦手だぜ。」

やっぱり彼はあてにならないということか・・・

 

「この中のどれかの本にヒントの文字が隠されているならば、見つけるのは骨が折れるな・・・」

 

ここへ二人も来たのだった。

「何やら気になるところが見つかったみたいね。」

ジェイリーズが言った。

 

「一応気になると言えば、この科学の本棚だ。線がここに来てる。理由はそれだけだよ。」

「珍しく自信無い感じね。」

「自信なんてあるわけ無い。まったくこんなややこしい事、一体誰が仕掛けたんだ。」

 

マックスはため息をついてもう一度本棚全体を眺めた。

「一回本棚を調べとくか。」

 

彼はぐるりと本棚を一周した。

ヒントになるような文字は何も書かれていない。本棚には手は加えられてないのか・・・

 

マックスは本棚に杖を向けて、真実を暴く魔法をかけてみた。

「レベリオ・・・」

しかし呪文を言った後、何も変わらなかった。

 

ますますわからなくなってきた。ここも方位を確定できないのか・・・もっと頭が働いてくれれば・・・・

 

マックスはまた自分の頭に腹をたてる。

 

こういう時は考え方を変えなければいけない・・・

「わからない。俺は四ヶ所目を見てみる。何かわかったら教えてくれ。」

そう言ってマックスは一人、最後に残った傷跡の場所に行ったのだった。

 

「ここもまた妙な所に書いたもんだ。」

ここはジャックが見つけた落書きの場所で、それは戸棚の側面に書いてあった。

ここにもばつ印のようなものがあり、その近くに線が数本走っているのがわかる。

 

マックスはまた線の行き先を追う作業を始めた。

戸棚から一旦途切れて、後ろの壁に続きが書かれているようだ。一本はそこですぐに途切れ、他の線を見ていくと、またしても壁沿いに立つ本棚に繋がる線があった。

 

「やっぱり線の先がヒントだ。ここも本棚か?」

その本棚のジャンルを見てみると、Writersと書いてある。

 

「作者・・・有名な著作者ごとに別けられた小説とかか。」

 

科学の次は作者・・・どうしろと言う・・・

 

また本棚自体を調べるも、何も気になる点は無い。

他の線をよく見ても、全て途切れている。

 

「もう全部見てしまったぞ。どうしたものか・・・」

 

マックスは更に謎を解く自信を無くす。

これからどうやって魔光力源の秘密に近づけばいいんだ・・・ここで止まったら何もわからない。

 

そこへ、ジャックが隣に歩いて来るのがわかった。

 

「その様子だと、どうやらお手上げ状態だな。」

「まったくだ。答えまであとわずかな予感はするんだが、これ以上は点でわからん。頭がもやもやするよ。」

「一人で考えるな。俺達はチームだ。チームでならどんなことも成し遂げる・・・だったな。」

 

それはマックスがチーム結成の時に言った言葉だ。

 

「そうだな。大事な事を忘れていた。ここは仲間の知恵をちょうだいすべき所だ。」

「では早速、俺の意見を言ってやろう。まあ、お前も気づいているかもしれないが、本のジャンルが重要な手掛かりだと思う。あえてその本棚に線が引かれているからね。だから、俺は本の中身は重要ではない気がするんだ。」

 

これはマックスとは逆の発想だった。

 

「本ではない・・・ジャンルに意味があると言うのなら、本棚のジャンルから方位を連想させるという考えだな。それは思いつかなかったよ。お前はこういうのに向いてるようだ。」

「直感型人間なのに?」

「だからかもな。」

 

今、マックスの中に新たな考えが加わり再びやる気が上がってきた。

 

「あっちは科学、ここは作者だ。何か思いつくか?」

マックスは言った。

「考えてみるよ。いや、俺は直感に頼った方がいいかな。」

 

マックスも推理した。

科学の中で、方向に関することは何か無かったか・・・

フレミング、コイル・・・しかしこれらから方位は割り出せないだろ・・・

 

では作者はどうだ?

作者から方向に関することは・・・全く連想できない。

 

新たな考え方で考えてもそう簡単ではないようだ。

 

ジャックのような直感の鋭さが欠けている。直感力が有れば・・・

 

マックスは全ての考えを止め、じっと観察を始めた。

 

目で見えているものから何らかの発想を期待しよう。

考えているだけでは見えてこない。EtcやEastの例から察すると、これを仕掛けた人物は視覚的なヒントを変わった形で教えているはずだ。

きっとこの一連の謎を全て解く鍵は、ずばり発想力だ・・・

 

決めつけた考え方を捨て、観察から新たな閃きを導こうとするマックスは、ジャンルのプレートの文字を見た時に、その目が止まった。

 

「まさか・・・そうか。」

マックスは一気に閃いた考えを頭でまとめた。

「そうだ。たぶん間違いない。やっとわかった。」

「その自信、確かだな。どんな考えだ?」

ジャックが言った。

 

「俺は考えすぎていた為に閃かなかったのかもしれない。お前の発想は正しかったようだ。」

「すると、やっぱり本のジャンルが・・・」

「ああ。だが具体的に言えば、ジャンルすら関係ない。」

 

ジャックは訳がわからなくなった。

「どういうことだ?」

「大事なのは頭文字だ。Etcでも頭文字がポイントだっただろ。他も同じだったんだ。」

 

マックスは本棚に取り付けられたジャンルプレートの文字を指差して言った。

「ここはWriters。頭文字は大文字のW。そしてあっちはScience。当然、頭文字は大文字でSだ。そしてEastはE。もうわかっただろ。」

 

ジャックは気がついた。

「これは俺も考えつかなかったよ。つまりここはWest。あっちがSouthと言いたいんだな。」

「となると、残る一ヶ所はヒントが無くても答えは出せる。」

「Northだ。」

 

二人はジェイリーズとディルの元へ戻り、急いでこれまでの彼らの考えを説明したのだった。

 

「よく二人で答えを出したわね。これで四方位の位置は当てはまった。でも、早速次に何をすればいいかわからないわ。」

 

それはジェイリーズの言う通りだった。

四方位を確定させはしたものの、これを魔光力源とどう関連付けられるのか。またしても検討もつかない。

 

「そうだよなぁ。せっかくここまで来たのに、肝心の魔光力源の秘密にはまだ到着してないな。」

ディルは更に訳がわからなくなったようだ。

 

「なぜ四方位を確定させたのか・・・絶対に理由がる。そしてそれが次にするべき事のヒントだろう。」

マックスは言った。

「答えまでは近い気がする。これが魔光力源の秘密への謎解きだとするなら、あの地下の部屋の事が四方位と関係しているはず。」

マックスも、ジャックの意見と同じことを考えていた。

 

四方位・・・そこにばつ印と、異なるいろんな線・・・これには大きな意味があるだろう。

ばつ印と線の位置は実際の方角とは違う・・・これもわざとに違いない。それと地下の魔光力源の部屋が関連していると考えると・・・・

 

マックスは何かが閃きそうなのを感じていた。

 

 

この時には、今朝、彼は悪夢と共に目覚めて不穏な予感がしていた事など完全に忘れていた。

 

図書室の謎が解明される時、果たしてどのような結果が待っているのか・・・・

そして悪い予感は・・・・

 

 

 

 

 




マックス(私服)

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ジェイリーズ(私服)

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ジャック(私服)

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ディル(私服)

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