Outsider of Wizard   作:joker BISHOP

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第十章 再起動

急きょ夏休みになってなから二日が過ぎ去った。

 

マックスは、この二日間は特に何をすることもなく家で過ごした。

こんなに体を休めるのは久しぶりだったために、思わず思考が完全に停止してしまうのではないかという感覚が今はある。

 

それでもやはり、あの日までに起こった出来事が脳の表面に浮き出てくるのは避けられなかった。

 

マックスは自分の部屋の机に座り、そこに置かれた一冊の本と向き合っていた。

 

思えば、この『学校内全システム書記』を手に入れたあの日からというもの、想像もしていなかった展開が続いた・・・・

 

セントロールスで今のチームのメンバーと出会い、そしてこの本を入手する作戦を思いついた時点で、既に運命は決まっていたのだろう。何かしらの運命が・・・

 

彼は机の上の杖を取り、磨きながらこれまでに起きた事を思いだしながら考えた。

 

思い返せば、セントロールスに自分以外にも魔法使い達がいるのは今も謎のまま。だが、これを自分が今考えたところで解決できる事ではないのだ・・・

 

更にはチームのメンバーときたら、皆が14年前に起きたナイトフィストとグロリアの戦争の被害者だという共通点がある。

これは、チームの四人がセントロールスで出会ったことが偶然ではないと考えさせる決定的な事実だ。

しかしそう考えたところで、やっぱり何も答えは出せないのだ・・・

 

ナイトフィストとグロリアと言えば、これも例の本を手に入れた直後に知ることになったことだ。

 

それは翌日、見知らぬ魔法使いが自分達の前に姿を現した事から始まった。

その男の名は"サイレント"・・・スーツ姿の男が学校に現れたかと思えばコードネームを名乗るとは、何とも胡散臭い感じだったが、話を聞けば、彼との出会いもまた運命だったと思わされる・・・・

 

その昔、ここイギリスの魔法界にひとつの宗教的団体が存在していた。

その名はグロリア。

栄光の名で呼ばれるその団体がかつて、何を目的としてどんな活動をしていたのかは全くわからないが、ひとつ確実な事をサイレントは教えてくれた。

 

それは、チーム四人の共通する敵だという事だ。

 

今から14年前に、組織力が拡大して魔法使いの軍隊となったグロリアが魔法界の都市で戦争を始め、その際に自分の両親が犠牲になったのだ。

その戦いで両親を奪われたのはジェイリーズも同じで、ジャックは兄弟を、ディルは仲の良かった親戚一家を失った。

 

そんな戦いを仕掛けたグロリアに対抗するのがナイトフィスト。騎士の拳だ。

サイレントは自分達をナイトフィストに誘うために声をかけたのだった。聞けば、これまでにチームで魔法を駆使した遊びをやってきた事を少し知っているようだった。

彼は影ながら見ていたのだ。そしてチームのその行動力を知った上で、組織への勧誘をしたとのことだった・・・・

 

マックスは今のチームの状況を考える・・・

 

それからはもう一人の魔法使いの生徒、ゴルト・ストレッドに関して探りを入れた。そしてジェイリーズの体を張った調査で、更にもう一人、魔女が生徒の中にいることがわかったのだ。

 

レイチェル・アリスタ・・・・一時は敵かと思ったが、今やチームの新たな仲間だ。そして、何やら自分と近いものを感じる珍しい女子だ。

二人で話していると自然と心が落ち着き、悪い気分も忘れさせてくれる。

こんな感情を感じることは今までには無かった。

思えば、ここ一週間で様々な出来事に直面したことにより、チームの皆との仲や絆が急激に深まったことは間違いないことだ。

 

そこへレイチェルが加わり、以前の自分には無かった・・・いや、14年前の惨劇から欠落していた感情が戻ってきているのかもしれない。

これが仲間への友情や愛情といったものか・・・・

 

しかし、せっかく仲間達との関係が向上した矢先、突然のゴルト・ストレッドの死により予定よりも夏休みが早まった為に、学校でレイチェルやチームの三人と会うことが出来なくなってしまったのだ。

彼らとは連絡を取り合い、この夏休みの間に会える機会を作らなければならない。

何せ、学校にはゴルトを殺した、まだ知らない魔法使いがいた事が判明したのだから・・・・

 

マックスは正体不明の殺人犯及び、ゴルトの地下での行動目的や、地下重要物保管所の秘密を暴きたい気持ちが込み上げてくるのを感じていた。

 

まだだ、まだ何も解決していない。むしろ、事は訳がわからない方向に向かっている・・・

 

「マックス、朝食いいわよ!」

 

マックスは下から聞こえたテイルの声で我に返った。

「ああ、行くよ。」

そう言って彼は机から離れた。

 

14年前の被害者と言えば、マックスの育ての親であるテイル・レマスもそうだ。

レボット家の親戚だった彼女がマックスを引き取って、今まで一人で育ててきたのだ。

 

「そう言えば、学校で起きた不可解なスモーク事件、あれはあんたが関わってるんでしょ?」

 

一階に行くと、テイルが図星な事を言った。

 

「お見通しか。確かに、ニュースで言ってるそれは俺達のやった事だ。でも生徒を殺したりなんかするわけない。」

「それはわかってるわよ。ただ、あんまり大勢の前で魔法を使わないように。実際ニュースにもなってるんだから。」

「もうわかったよ。それより、今後の学校生活がどうなるのかが問題だ。魔法使いを殺した犯人は、同じく魔法使いだと思う。まだ俺達が知らない魔法使いが生徒の中に居たってことだ。」

 

二人はテーブルの椅子に腰かけた。

 

二日前に起こったゴルト殺人事件は早速ニュースになり、バースシティー中に知れ渡っている。

更にマックスのスモーク作戦の事も報道されており、ニュースでは、ゴルトの不可解な死と謎のスモーク事件は何かしらの関係があるのではないかという意見も出ているようだ。

しかしながら実際のところは何の関係も無いが、唯一、どちらも魔法が関わっているという共通点はある。

 

マグルの学校で、魔法に関する事件が立て続けに起こり、現在ニュースにもなっている・・・こんな事がこの町で起こったことは間違いなく初めてだろう。

 

最近起こった驚くべき出来事の数から考えても、近いうちに何かとてつもない事がバースシティーで起こるような予感がしてならないマックスだった。

 

「そうだ、彼女できた?」

テイルの突然の言葉で茶を吹き出しそうになった。

 

「今度は急に何だよ。」

「急じゃないでしょ。友達にジェイリーズだっているのに。彼女とはもうそろそろ良い関係になってきたんじゃない?」

「それに違いはないが、関係性が違う。俺にはあくまで行動仲間しかいない。」

「いつもこれだわ。」

「余計なお世話だ・・・」

 

マックスはテイルと話しながら朝食を済ませ、その後は二階の部屋にこもっていた。

 

学校にいる時は授業だの敵だので頭がいっぱいだった。せいぜい今は休みたい・・・

 

マックスはベッドに横たわったまま、頭のエンジンを止めてゆっくりと流れる時間を味わった。

 

どれぐらいぼーっとしていたことか、窓の外からは夕日の光が射し込んでいるのが見える。

 

しばらく思考を完全停止させていると頭のなかがスッキリした気がして、何かしたい思いがつのってきた。

 

マックスは起き上がり、机の上の古びた本を手に取った。

思えば『学校内全システム書記』の中身のほとんどをまだ見ていない。サイレントからの贈り物の本は、ジャック達がそれぞれ一冊ずつ持って帰った。暇潰しにはこれが今一番良い読み物だ。

 

最初の学校の歴史的な内容が書かれたページは軽く読んだが、特に何の役にもたたない。

その次の地図のページは一番見てきた・・・

 

マックスはまだ読んだことのない、この本の言わばメインコンテンツである校内の全システム管理に関する部分を読みたくなってきた。

 

しかしそれを知った所で、こっちは魔法使いだ。システムの操作をせずとも魔法でどうにか出来てしまうのが事実だ。どれだけ役にたつ内容があるか、既にあまり期待はしていない・・・

 

1ページずつ流し読みしていたマックスだったが、ある項目をさらっと読んだ直後、そのあまりにもあり得ない文字に一瞬固まった。

 

「魔光力源の扱い方・・・・だと?」

マックスはページをめくろうとする手を止め、詳しく内容を読む。

 

「医務室隣のコントロール室、校舎裏側第一コントロール室及び本校舎図書室・・・・」

文字はここで終わっている。

 

「不自然な終わり方だ。そして魔光力源て何のことだ・・・」

 

ここでピンときた。

「まさか、地下と関係あるかもしれない。するとあのクリスタルが怪しい・・・いや、それしか考えられない。マグルの学校のシステム関係で魔光力源なんてあるわけないだろ。」

 

マックスは自分の考察を元に、更に考える・・・

 

地図に書かれた地下の重要物保管所、それに、そこに保管されているクリスタルが魔光力源とするならば、その扱い方までも書いたという著者の意図は何だ?

少なくとも今断定出来るのは、この著者は魔光力源について何か知っている。そしてセントロールス初代校長の時代にいた、相当古い魔法使いだということだ。

 

「誰なんだ。」

ますます著者が気になるが、肝心の名前は書いていない。正体を知られるのは都合が悪かったのか・・・

 

ちょっと待て、そもそもなぜマグルの学校の本にこんな事が書かれている。そして書かれた通りの部屋が存在するんだ?

その事が既に奇妙すぎる・・・・しかし事実であることは確認済みだ・・・

 

マックスは地下の隠し部屋に最初に足を踏み入れた時の事を思い出した。

 

フィニート・レイヴ・カッシュ・・・・この呪文すら謎だ。一般的に使われている公式呪文ではないようだが、そんな特殊な呪文でしか開けられない隠し扉を作ってまで封印した魔光力源とは一体何なんだ・・・

 

 

初めてクリスタルを目にした時、それは勝手に光りだした。そしてあのクリスタルから波動のようなものが発せられて床が揺れだしたのだった・・・・

 

マックスは次のページをめくって読んだが、不自然に終わった文字の続きはなく、部屋や廊下の電力の調整についての項目が並んでいるだけだった。

ここでマックスはあることを思い出した。

 

「そう言えば、あの夜、地下までの廊下の電気が全て消えていた。代わりに地下は電気がついていたんだったな・・・」

 

それと同時に、その夜初めてレイチェルと出会った時の事も思い出した。

 

せっかくあれだけ親しくなれる仲間と出会ったのに、早速会える機会が無くなった。連絡先も知らない為に何も話すことも出来ない・・・

 

だからどうした。と、今までなら思っていることだろうが、今の自分は何かが違う。チームの仲間との関係が向上した事に加え、何よりレイチェルと出会って話してからというもの、自分の中に急激な変化が起きたのだ。

それを実感出来ないほど急激に。

 

だが今わかった。

それは、初めて人を好きになれたということである。

 

高校に入学してから早くも2年が経ち、この夏休みが終われば3年になる。

これまでの高校生活で初めて仲間と呼べる人間を持ち、共に遊ぶことで彼らの心は少しずつ変化してきた。

そして最近になり、マックスは更に皆を心から仲間だと実感するようになった。

 

しかし心は変われど、彼らと出会った当時の思いは変わらない。魔法使いの危険な領域に足を踏み入れてから、その思いは増して強くなった。

 

チームを作ったときの思い・・・自分達にしか出来ないことをする。どんな事だろうとチームでなら成し遂げられる・・・・

 

マックスはこれからやる事を思い付き、本を閉じる。

 

「動こう・・・」

 

チームと、何よりレイチェルにとっての危険人物はゴルト・ストレッドのみだと思っていたが、まさかの更に危険性のある人物がいたことが判明した今、部屋で一人じっとしてはいられない。

ゴルトが殺されたタイミングから考えると、ゴルトの行動仲間、もしくは奴に動くよう指示していた黒幕的人物による口封じだと考えられる。

レイチェルの服従は解け、ゴルトは消えた。となると残ったのはその何者かだけ・・・少なくとも今判明しているのは一人だけだ。

 

そうなると、一人で行動を起こすのには今が最高の状況だ。きっとゴルトを消した奴はすぐに学校へ現れる。そこへこっちのチームも乗り込んで一気に方をつけるんだ。

そして自分達にとって危険な存在を、学校から完全に抹消するのだ・・・

 

だが決して甘くはない。敵は死の呪いを使える。

あるのは力だけでなく、口封じの為に人を殺せる精神を持ち合わせる奴ということだ。

ゴルトとは比べのもにならないぐらい危険な人物だと予想できる。そんな奴と対面して、果たして今の自分達がどこまで対応できるのか・・・

 

気を抜けば、確実に死の危険が伴うことは間違いない。チームをここで終わらせてしまうのは断じて許されない・・・・他にない最高のチームなんだ。

 

マックスは今、自分達の前に突然壁が立ちはだかった事を確実に悟った。正体不明の殺人犯が、今後のチームの活動の脅威となることは認めるしかなかった。

 

それでも怖じ気づいて手を引く訳にはいかない。

なんと言っても、自分達は将来ナイトフィストの戦士として生きていく道を選んだのだから。

 

そしてサイレントから与えられた最初のミッションは、学校にいる正体不明の魔法使いの行動を探ることだ。

最初のターゲットのゴルトが口封じされた以上、そうしたもう一人の誰かを突き止めて今度こそ行動目的を聞き出さなければいけなくなったのだ。

これが出来なければ、いつまで経っても一人前のナイトフィストになれないという思いが、マックスの頭の片隅で常に泳いでいた。

 

その思いが自分を焦らせ、突き動かす・・・

 

「・・・やるしかない。」

 

サイレントが、今まで空っぽだった自分にたったひとつの未来の希望を与えてくれた。

これからは、正式にナイトフィストの戦士となるその日までに必要な事は全て試そう。

 

考えると今度は行動したくなるもので、彼は携帯電話を取り出した。

 

「出来れば全員揃いたいが、例え誰も集まれなくても、一人で出来る事をしよう・・・」

 

マックスはチームメンバーに、明日、学校でのチームの活動に参加出来るか一斉に呼びかけたのだった。

 

そしてその答えは、待っていたかのように返ってきた。

「決まったな。」

 

返事は三人ともOKだった。皆もこれを待っていたに違いない。

 

今から体がうずうずしてきたが、今日の所は落ち着いて明日に備えなければ・・・

 

それから夜まで、彼は呪文の本を読みながら部屋で静かに過ごしたのだった。

 

いつしか眠っていたマックスだったが、何処かで誰かが呼ぶ声が聞こえ、突然目を開ける・・・

 

「ここは・・・」

マックスは辺りを見渡す。

 

「夜だ。俺はさっきまで何をしていた・・・」

 

マックスは一人、夜の草原に立っている。

再び前を向いた時、そこには人影が一人、そしてまた一人と現れていた。

 

彼らはこっちへ歩いてくる・・・

「誰だ?」

姿がはっきり見えない。しかし、何だか知らない他人とは思えない不思議な感覚を感じる・・・

 

マックスは顔を必死で確認しようとする、その時・・・

 

「・・・違う・・・・」

彼らの一人が言葉を発した。

 

「・・・違ったんだ・・・」

「全ての考えは・・・」

他の人影も喋りだした。しかしはっきりと聞き取ることが出来ない。

何なんだ・・・誰が何を語りかけている・・・

 

四人いる・・・そのうち二人が女に見える。まさか・・・

 

ここでマックスは飛び起きた。

「まただ。前にも似た夢を見た・・・」

 

悪夢にうなされ目を覚ましたマックスは、部屋のカーテンを開け、部屋に光を入れて気分転換しようとした。

 

もう朝だ。自宅でも悪夢と共に朝を迎えることになるとは・・・・

 

窓を開けて外の空気を入れ、深く息を吸う。だが、気分はまだ晴れない。

 

何かわからない。わからないが、あの夢からは得体の知れない恐怖を感じる・・・

 

マックスは、そのまま窓際で早朝の空を眺めた。

 

せっかく今日、活動を開始するというのに何だか嫌な風を感じる・・・

 

あの時と同じ感じだ・・・レイチェルと出会ったあの夜のただならない感じは当たった。ならば、今回も何かが起こるのか・・・・

 

朝から落ち着かず、すぐに一階へ下りる。

 

「珍しく早く起きてきたわね。」

テイルが一階で動いていた。

 

「ああ。今日は何か落ち着かない。」

「そういうのやめてよ。昔から悪い予感は当たるんだから。」

「やっぱりそうだよな。」

 

マックスはパンを一枚取って椅子に座った。

今日も何かが起こる。だが逃げる気はない。

 

簡単に朝食を済ませるとすぐに部屋へ戻り、携帯電話を手にしていた。

 

「早いとこ動こう。出来ればゴルトを殺した奴より先に学校へ侵入したい。」

マックスはチーム集合の合図を出した。

 

すると、続けて三人から了解の連絡が到着する。

「今日からまた行動開始だ。」

 

たった三日間魔法を使わなかっただけでも、魔力が衰えていないか心配になっていたところだ。今日はとことん張り切る・・・

 

着替えて、バッグには『学校内全システム書記』と呪文の本、そして炭色の魔法の杖を入れて準備は完了だ。

 

マックスは、チームの皆には一旦ある場所に集合するよう連絡をしていた。それはバースシティーの中心部に位置する、バース中央広場という所だ。

彼は今、広場へ向けて自転車を走らせている。

 

急行する最中も心が落ち着かない。

この夏の暑さもだるさも、今朝からほとんど実感することはないほどに。

 

しかし不安感だけではなく、今回の行動に対してのやる気がかなりあるのも確かだった。

あらゆる気分の高まりが自転車を走らせる足にパワーを与える・・・

 

そして広場に着いたのはマックスが一番早かった。

 

とりあえず、広場の中心にある噴水の囲い沿いに並んだ長椅子に座って待つことにした。

 

少し経って、次に現れたのはジャックだった。

 

「やっぱりお前が来たな。こういう時は行動が早い奴だ。」

「こういう時のために日頃じっとしてるんだよ。」

自転車から降りて歩いてくるジャックは、いつもながらの黒ズボンに白シャツで制服のような格好だった。

 

続けてジェイリーズ、ディルが到着して今チームは揃った。

 

「今日の服も相変わらずイケてるな。合格だ。」

ディルの第一声は、ジェイリーズのワンピース姿を見て言った言葉だった。

 

「ありがとう。あなたに人の服装を評価する才能があったとはね。」

ジェイリーズはさらっと言う。

「それは褒めてるのか?」

 

「それより、全員来れてよかった。」

マックスが話を遮る。

「当然さ。この時を待ってたよ。」

ジャックが言った。

 

「リーダーも元気そうで何よりだな。今日も頼りにしてるぜ。」

 

この時、マックスは今朝の悪夢の事と、また不吉な予感がしている事を言うべきか迷ったが、言う気にはならなかった。

 

「伝えた通り、これから学校に行くんだがその前に見てもらいたいものがある。」

マックスは自転車のかごから学校のバッグを引っ張りだし、中から本を一冊取り出す。

 

「あの本じゃないか。」

「ああ。これに有り得ないことが書いてあったんだよ。」

 

マックスは栞を挟んだページを開き、皆に見せるのだった。

 

「魔光力源の扱い方?」

「それだよ。俺は、おそらく地下にあったクリスタルだと考えた。」

「あの光りだしたやつか。なるほどな・・・」

ディルが本を手に取って言った。

 

ジャックが続きを読む。

「医務室隣のコントロール室、校舎裏側第一コントロール室及び本校舎図書室。これで終わりだ。」

「らしいが、明らかに変な説明だと思わないか?」

「もちろん。何か、重要な事が書かれていないような・・・」

ジャックが言った。

 

「そうだ。この説明は不完全としか思えん。」

 

「こんな事が書いてあるなんて、書いた人間は100パーセント魔法使いで確定だろ。」

ディルが言った。

 

「そうなるな。そして誰かがセントロールスの地下に魔光力源なる物を封印した事を著者は知っていたということになる。そしてなぜかこれに記した。あるいは、著者本人が魔光力源を封印したのかも・・・」

 

マックスは更に考えを言う。

「簡単に扱われては困るのだろう。全てを書かずにヒントだけを教えているように思える。」

 

「でも一体誰に向けて、そして何の為に記したんだろうか。実際、誰も読まずにこの本は校長室にずっとしまってあった。俺達が本を手に入れるまで誰も魔光力源に関する記述を見た者はいないんじゃないのかな?」

ジャックが言った。

 

「誰も本が盗まれた事にも気づいてないっぽいしな。」

ディルが言った。

 

「それはわからないな。でもちょっと待て、ゴルトも地下の事は知っていた。そして部屋に行くための呪文まで知っていたんだぞ。どうやって知ったんだ・・・?」

 

マックスは今までに起こった事をまとめて考えを導き出す。

 

「そうか・・・全てはもう一人だ。」

「もう一人?」

ジェイリーズが言った。

 

「ああ。ゴルトを口封じした奴だ。全てはそいつが指示を出していたとしたら、ゴルトすら駒だったという可能性が高い。」

 

マックスは今、何者かがゴルトを動かし、ゴルトがレイチェルを操っていたという考えが浮かんだ。

 

ここでジャックが話し始めた。

 

「そうだとして、その黒幕はどうやって地下の秘密を知ったんだろうか?少なくともこの本からは呪文までは知ることが出来ない。何か他にも、学校の中に地下に関するヒントが隠されているとは思えないかな?」

 

マックスは彼の言葉を元にもう一度魔光力源の扱い方の内容を読み、考えを巡らせた。

 

「コントロール室というと、学校の電力を操作する場所だろう。これに書いてあることが正しいとすると、魔光力源の扱いには学校の電力が影響するということになるな・・・だとすれば、図書室ってのはおかしくないかな?」

 

「それもそうだ。電力のコントロールとは一切関係無い部屋だ。とすると、これが何かのヒントになるかもしれないと考えるんだな?」

ジャックが言った。

 

「ああ、もしかしたら図書室に魔光力源に関する秘密があるのかも・・・いや、ただ考えただけだが・・・」

マックスは、初めて地下の隠し部屋に行った時の記憶をたどった。

 

「そう言えば、地下に行ったあの夜、廊下の電気が消えてたわね。あの時だけよ。」

マックスも気になっていた事をジェイリーズが言ったのだった。

 

「そうだ、それだよ。あの夜、魔光力源は起動したんじゃないのか?本に書かれたコントロール室で電気の調整をしたからいつもと電気の様子が違っていた。そして魔光力源が起動した。そう考えれば全て納得がいく。」

 

「まず医務室隣のコントロール室について調べるか。」

ジャックが本を持ち、ページをパラパラめくった。

 

「これだ。医務室隣のコントロール室からは、本校舎の寮党へと繋がる扉の前の廊下から平行して、一階ホールや地下に繋がる一階中央廊下までの電力を操作できるようだ。」

 

「やっぱりそうだ。あの夜、誰かがこのコントロール室に行って電力をいじったから電気が消えていたんだ。」

 

マックスは、自分の考えが徐々にまとまっていくのがわかった。

 

その時、ジェイリーズが。

「それって、レイチェルじゃないかな?」

 

「レイチェル・・・確かに。あの時まではゴルトに操られていた。おそらく間違いない。」

マックスは言った。

 

そしてジャックがまた本を見ながら言った。

「ならばここも彼女の仕業かな。校舎裏側第一コントロール室。」

「魔光力源の扱い方に書いてあるから、そうなるはずだな。でもだ、校舎裏側のコントロール室と言うと、旧校舎の電力制御室のことだ。だったら今では使われていない。作動しないはずなんだ。」

 

マックスがそう言った直後、ジェイリーズが口を開いた。

 

「それなら解決よ。あたしが旧校舎で襲われたとき、その本を読んでいたんだけど、確か旧校舎の電力調整は第三配電室からもできるみたいよ。」

 

ジャックはすぐに調べる。

「あったぞ、第三配電室。確かにこれを見る限りだとそうらしい。」

「第三配電室の場所は?」

マックスは一つの仮説を思い付いていた。

 

ジャックは地図のページで確認する。

 

「一階中央廊下、物置部屋の近くだ。」

「やっぱりか。」

マックスは確信した。

 

「レイチェルは医務室隣のコントロール室で電力を操作した後、第三配電室に行った。そしてそこでも電力の調整をして地下の魔光力源が起動したんだよ。そして近くの物置部屋へ向かう俺達と出会ったんだ。全てが繋がる。」

 

「なるほどな。ばっちりじゃないか!」

ディルがテンション高めで言った。

 

「問題は、第三配電室で何があったかよね。彼女、廊下に倒れてたじゃない。」

 

少し考えてマックスは言った。

「呪文の効果が切れたのかもしれないな・・・」

彼は『魔術ワード集』の、許されざる呪文の記述を覚えている。

 

「許されざる呪文は全て高度な術だ。ストレッドはマグルの学校の生徒だったんだ。例え許されざる呪文のひとつ、服従の呪文でレイチェルを操ることが出来たとしても、効果を一度に長持ちさせることは困難だろう。彼女の記憶が曖昧だったことからしても、第三配電室から出てきた所で呪文の効果が切れ、廊下に倒れていたと考えるのが自然かもしれない。」

 

マックスの意見には皆が納得出来た。

更に、ディルが珍しく考えを口にするのだった。

「なあ、思うんだけどさ。ストレッドがそこまで出来るのなら、あいつを殺した黒幕的な奴はもっと力があるはずだろ。だったらゴルトにも服従の呪文てやつを使って操っていた。なんてことはないかな?」

 

「ストレッドすら操られていたと言うのか?確かに黒幕は死の呪文も使えるし、力があるのは間違いなさそうだが。」

 

ここでマックスは、ゴルト・ストレッドを捕らえた時の事を思い出した。

 

全く会話にならなかった。ただ同じ事を繰り返し言っていた・・・その時の奴の様子はどうだった・・・?

 

「そうだな・・・その可能性もあるかもしれない。」

マックスは、一人で同じ言葉を口にして、目も合わせなくなったゴルト・ストレッドの姿を鮮明に思い出した。

 

「狂ったようだった。崇高な目的が待っている・・・俺が行動目的を聞いた途端にそれしか言わなくなった。まるで一つの芸を教え込まれた犬のようにな。」

 

「要するに、犬にその芸を仕込んだ飼い主が黒幕。というわけだね。」

ジャックが言った。

 

「ああ。ディルの考えは当たっているかもしれない。情報が漏れないように、核心部に迫ろうとすると同じ言葉しか口にしないよう、魔法で操られていた可能性はあると思う。すると、あいつは俺達に捕まってしまったが為に・・・用済みで・・・」

 

マックスはこれから対決していくことになる敵の恐ろしさを改めて知った。

皆も同じだろう。

 

だが予想できるのは悪いことばかりではない。

地下の秘密について、今までの出来事や本の記述からあらゆる考察が出来た。そして自分達なりに筋の通った結論を出すことが出来たのだ。

 

チームでならどんな事も成し遂げられる・・・マックスの抱き続けた思いはまだまだこらから強くなる。

 

彼らは、今の自分達の敵が如何なる者かをよく考えた所で、チームが次に打つ手を考えるのだった。

 

「黒幕の情報が一切無いのが痛いな。肝心のストレッドはいないし・・・」

「まるで相手はこっちの動きを読んでるみたいね。」

 

黒幕は俺達の存在に早くから気づいていた。だからこそ情報を一切渡さないよう心がけているのだ。

このタイミングでゴルト・ストレッドを殺したのも、そういう意味だ・・・・

 

「くそっ。してやられた。」

 

この件にレイチェルを関わらせてはいけない。何としてでも守らなければいけない。

唯一の救いは、黒幕が直接レイチェルを操っていた訳ではなさそうなことだ。もしかしたら彼女の事は知らないかもしれない・・・

ならば、知られないうちに敵を暴いて全てを喋らせるしかない。地下に関して知っている全てを・・・・

 

「さて、そろそろ学校に乗り込むか。まずは図書室を徹底的に調べよう。」

 

これから彼らは、地下に隠されたあらゆる謎に近づくことになる・・・・

 

 

 

 

 


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