ただ、私しょうもないミスで折角54までレベルを上げてイベントもこなしたアカウントのデータを無くすというカカシ並みの所業をしたため、最初からやり直しています。哀しいね。
この年の春、杏の前に姿を現した筋肉モリモリマッチョマンの変態ことT-800。杏の武器に宿る精霊である彼は勇者たちの同級生となり、杏の隣に据えられた座席と、身体に合った服と、新しい名前を与えられた。杏としてはジョンを閉じ込める部屋が欲しいのだが、ひとまず先送りである。
半年後。
季節は秋へ移り、九月。暑さのピークを越したとはいえまだまだ暑い。
新学期――実際のところ毎日訓練のため学校へ顔を出しているため今一実感はないが――であるこの日、まだ過ごしやすい気温だったが、昼からは30度に迫るとのことだった。
寄宿舎から学校である丸亀城への道を杏、球子、ジョンの三人(二人と一体)が歩く。歩きながら、球子が杏に問いかけた。
「あんず、夏休みはどうだった?」
「どうも何もほとんど一緒にいたよね?」
「夏休み明けはこういう会話することになってるんだゾ。ジョンも覚えとけ~」
「理解した」
ジョンの返事によしと頷いて、訊き直した。
「で、どうなんだあんず? 最悪だった?」
「いや、過去最高の夏休みだったよ」
「ふん?」
「テレビでフィクションの筋肉を見て、それが終わって同居してるリアルの筋肉を見て、それが毎日続いて、もうおかしくなりそうだったよ」
「タマはああいう映画好きだけどなぁ。ジョンは何してた?」
「俺は『笑顔』の練習をした」
ジョンは球子に顔を向け、ニィと口元を歪めた。が、目元が一切笑っていないため、非常に不自然な笑顔だった。事情を知らなければ狂人のそれかと思ってしまう。
「良い心がけだな! でも、練習はタマに見えないところでやってくれタマえ」
※
教室に着くと、既に若葉がいて、黒板の清掃をしていた。
「おはよう、伊予島、土居、ジョン」
「なぁっ!? また先を越された!」
球子が叫び声をあげる。
彼女は度々教室への一番乗りを画策するのだが、いつも若葉に先を越されていた。新学期初日を勝利で飾りたかった球子はいつもより30分はやく起きて来たのだ。杏もそれに付き合う形で今日は早起きだった。
「ぬぐぐ、ジョン、タマが若葉より早く登校するにはどうすればいいか計算しろ!」
「土居球子が乃木若葉より早く登校するには45分以上早く起きるか乃木若葉を
「よし若葉ぁ、覚悟しろ」
「いや早起きしなよ……」
杏が苦笑しながら指摘した。が、その30分のまどろみの心地よさを知る身としては気持ちも分からなくはない。
そこへ、ひなたが入室してきた。
「おはようございます、皆さん」
微笑みながらそう挨拶する彼女はとても同学年とは思えない気品に溢れている。脳内は主に若葉がらみの煩悩にまみれているのだが、それを微塵も表に出さない。
そんなひなたの胸部に球子の視線は移動した。
「大型機11時の方向。ヒュ~、でけぇ……」
「な、なんですか?」
「いつも見せつけやがってぇ!」
素早くひなたの元へ移動した球子はひなたのその身長に比して豊満な胸を思いきり鷲掴みし、揉みしだき始めた。
「ひあっ、た、タマっちさん、揉まないでください!」
「揉んでない! むしろ捥いでやんかんな覚悟しろ!」
「おいやめろ土居!」
若葉が注意するが興奮状態にある球子にその声は届かない。暴走する彼女を杏は慌てて引き剥がそうとする。
「やめなよタマっち先輩――すごい力だ!」
持たざる者の執念は恐ろしいものである。身長は杏の方がずっと大きいが、力は球子の方があった。
「ジョン! ジョーン! タマっち先輩を止めて!」
「了解した」
力持ちの球子だが、さすがに筋肉の精霊であるジョンにかかれば赤子同然、脇の下から抱えるように持ち上げられ、ひなたの元から引き剥がされた。
「はなせー! 悪魔のブツをもいでやるんだ! 貧乳差別だマスコミを呼ぶゥ!」
「タマっち先輩はこれから大きくなるんだから大丈夫だよ。きっと、たぶん……恐らく」
「うわーん!」
喧騒の中、続いて友奈と千景が教室の戸を開けて入ってきた。
「おはよう! 朝から元気だねー!」
負けず劣らず元気に友奈は挨拶する。彼女に隠れるように、千景も小さく「おはよう……」と挨拶した。
「おはよう友奈、郡さん。確かに、今日は特に騒がしいな」
「元気なのは良い事だよ。 ジョン君もおはよう! 相変わらずスゲェ筋肉!」
「当然だ」
答えながら彼はようやく珠子を解放する。
ジョンの服装はブレザーにプリーツスカートという制服の女子たちとは違い、半袖のTシャツに長ズボンというラフな格好であるから、余計にその弾けるような肉体美が目立つ。
以前は革のジャケットにズボンと言う出で立ちだったのだが、季節が夏に移っても着ていたせいで見ている側が暑苦しくなり、衣替えさせたのだ。
教室にクラスの全員が集まってからしばらくすると、始業を知らせるチャイムが鳴り響いた。
勇者たちは通常教育以外に勇者としての教育や訓練を受ける。
訓練の内容は多岐に渡る。
純粋な走り込みから自らの得物の練習、格闘技、などなど。そこへ各人言い渡された資料の読込み――杏の場合はアクション映画の視聴――が加わる。
杏はこの訓練の成績がメンバーの中で一番悪かった。走り込みとなれば毎回ビリで、格闘技の訓練では受け身だけ見る見るうちに上達した。射撃に関してはそこそこの成績を収めていたが、全て平均値にするとビリなことには変わりない。
勉強は出来る方で、知識もある。学年で言えば上級生に当たる球子に色々授業することもあった。だが、バーテックスと戦う時、それが役に立つかと言われれば杏は首を傾げてしまう。
勇者にとって、運動神経の悪さは死に直結するのだ。
(私だけならまだいい……タマっちやみんなの脚を引っ張ったら……)
私のせいで誰かが傷つくことにでもなったら……考えただけで恐ろしい。
「……ず? ……あんず!」
「っ、なに、タマっち先輩?」
気が付くと午前の授業は全て終わり、昼休みとなっていた。どうやらずっと悶々としている内に時間が過ぎてしまったらしい。
「だいじょうぶか?」
「う、うん。大丈夫。ちょっと考え事してて」
「訓練の時からずっとボーッとしてるから心配したゾ。……ちゃんとノートは取ってるのは凄いなぁ」
「伊予島杏は軽いストレス、悩みを抱いている」
ジョンが杏の脳波を分析し言った。
「あんず、悩みごとか?」
「強いて言えば毎日そこの筋肉を拝まなきゃならないことに嫌気がさしてる。勝手に脳波を計って、デリカシーがないんだもん」
「ストレス解消法として飲酒を提案する。ウォッカだ」
「私未成年なんですけど」
「ソビエト連邦では赤ん坊もウォッカを飲むとデータにある」
「私は日本人です! それにソ連は30年近く前に無くなったよ。データ古いんじゃない?」
言いながら杏はノートと教科書を鞄にしまい、立ち上がって少し伸びをした。
「じゃあタマっち先輩、お昼ご飯行こ」
「あんず、なんかお前逞しくなったナ」
「そうかな?」
「伊予島杏の筋力値に著しい変化は見られない」
「そういうことじゃない」
※
寄宿舎の食堂には既にひなた、千景、友奈が居て、カウンターから昼食を受け取っていた。
ここでの食事は全て大社が支給してくれ、昼食はセルフサービス形式であった。本来はご飯やそれにあったおかずも用意されていたのだが、全員があまりにもうどんばかり食べるため、いつの間にか選べるのはトッピングだけになっていた。
今日杏が選んだのはちくわ天で、球子はふっくらお揚げ、そしてジョンは……。
「プロテインを頼む」
ジョンが言うとカウンターのおばちゃんは棚から大きな袋を取り出し、中に入っている粉をドバっとうどんの上に出した。
「いつもそれだけど、美味いのか……?」
こんもりプロテインの載ったうどんを見ながら球子は戦慄する。
「土居球子も食べてみればわかる」
「いや、遠慮させてもらうゼ」
「というか、サイボーグにプロテインって意味――」
「精霊」
「――ああそうでしたね。いつも忘れそうになるけど」
うどんを受け取った三人はいつもの座席へと向かった。特に座席が指定されているわけではないが、三年もここで食べていると自然と定位置は決まってくる。
「あれ、若葉さんは?」
リーダーの姿が見えないことに杏が疑問の声を上げる。
「諏訪との定期連絡が長引いているようですね」
ひなたが微笑みながら答えてくれた。
若葉は勇者たちのリーダーとして、四国以外で確認されていて且つ唯一連絡可能な生存地域である長野県の諏訪にいる勇者、白鳥歌野と定期的に連絡を取り合っている。主な会話内容は近況報告や情報交換、そして、うどんと蕎麦で優れているのはどちらかと言う討論である。特にこの討論は大抵平行線を辿るだけなのだが、いつも白熱しているらしく、度々昼食時間に食い込むことがあった。
「無意味且つ不毛な討論だ」
レンゲでプロテインをすくいながらジョンが身も蓋もない言いぐさで断ずる。
「ジョンさんにはそう思えるかもしれませんね。でも、人間はその無意味且つ不毛なものに価値を見出すものです。分かりますか?」
「情報不足、理解できない」
と、そこへ遅れていた若葉がやって来た。
「麺が伸びるぜ急ぎなぁ」
球子が急かす。それに対し若葉は、
「あ、あぁ……すまない」
と元気なく答える。
「若葉さん元気ありませんね」
杏がひなたにそっと話しかける。
「はい。もしかしたら若葉ちゃん、また言い負かされそうになったのかもしれませんね」
諏訪との討論の際、若葉は5回に1回ほどの割合で歌野に言い負かされそうになる。その度に若葉は沈んだ顔で昼食の席に現れ、ジョンに向かって「いいかジョン」と話しかけるのだ。
「うどんはな、実に機能的な食品なんだ。エネルギーを飽きることなく効率的に摂取することが出来るからな……いかにも勇者的だ」
おかげでジョンの記憶媒体にはうどんの有用性にまつわるデータが蓄積され、うどんについて質問するとテレビショッピング並みにセールスしてくる有様となっている。
しかし、今回はその場合と毛色が違った。
「すまないが皆先に食べていてくれ。 ……ひなた、ちょっといいか?」
「二人でしっぽりか? このスケベ野郎」
「タマっち先輩どう見てもそんな雰囲気じゃないよ」
呼ばれたひなたは若葉のところへ行き、二人は一旦食堂から出て行った。ひなたの席にはうどんだけが湯気を出して置かれている。
「……伸びるわね」
千景が呟いた。
「でも、若葉ちゃんがうどんが伸びるのも構わず呼びだすって相当だよね」
友奈はうどんを啜りながらそう言う。
そう、若葉にとってうどんは魂みたいなものだ。デロンデロンに伸びきったうどんを食べるなぞ、彼女が許すはずがない。
尋常ではないことが起こったのだろう。そしておそらくそれは、吉報ではない。
「諏訪に何かあったのかな?」
球子が声を潜めて誰にでもなく訊く。
「どうだろう。でも……ん?」
そこまで言って、杏の身体を得も言えぬ違和感が貫いた。
それはその場にいた他の面々も同様だったようで、皆一様に顔に緊張を浮かべている。
各人のスマホから警報が鳴り響いたのはそれとほぼ同時だった。
「時間が止まるって、本当なんだ……」
友奈の言う通り、勇者とジョンを除く物や人の動きがピタリと止まっていた。ひなたの席にあるうどんの立てる湯気も消えずに空中で静止している。
うどんが伸びる心配はなくなった。
※
外に出ると、一帯は太く鮮やかな根や蔦に覆われていた。神樹の作りだす『樹海』という空間は人類をバーテックスから守ると同時に勇者たちの戦闘しやすい空間を作る働きもある。樹海化の最中は勇者たち以外の時は止まり、現象を知覚することは出来ない。勇者の勝利に終われば何事もなく日常が続くだけだし、敗北したならば、死すらも知覚することなく消滅する。
「おぉ、若葉ちゃんもう変身してる!」
先ほどひなたと外に出て行った若葉は既に変身を済ませて、鞘から抜いた太刀を携えていた。
「いつも若葉が言ってる、『資金洗浄』の精神だな!」
「『常在戦場』だよタマっち……」
「私たちも若葉ちゃんを見習わないとね、ぐんちゃん!」
「高嶋さんは今のままでいいと思うわ」
その湯な話をしていると、ジョンが目をチカチカさせながら状況を説明した。
「バーテックスの軍団が武装船団を突破して接近中」
神樹の精霊(重要)である彼は、樹海のネットワークに接続して、状況を分析することが出来るのである。
「数はどれほどだ?」
「50だ」
「単純計算で行けば、1人10体だな」
腕を組みながら若葉が言う。だが、杏を一瞥しながら千景は、
「……それはどうかしら。伊予島さんは戦えないんじゃないかしら」
千景の指摘に杏は身体をビクリとさせた。
杏は5人の中で一番力が弱い。そのことを自覚しているからこそ、訪れた実戦に怯えてしまっていた。
「伊予島杏は戦いに恐怖している。勇者へ変身は不可能だ」
「あ、あの……」
「気にするなあんず! なに、タマがあんずの分もぶっ倒せば済む話だ!」
球子は自らの得物を掲げながら杏にそう言う。
そうやって、いつも球子は杏を護ってきてくれた。3年前からずっと変わらぬ、優しい勇者だ。
しかし、それは杏がこの3年間成長しなかったということでもあった。小さな球子に隠れて、甘えて過ごす。そんな自分が杏は嫌だった。
「よーし、じゃあみんなで勇者になーる!」
友奈の掛け声と共に、杏以外が変身し、勇者の姿となった。
「じゃあ杏、ここで待ってろヨ」
橙の勇者装束に身を包んだ球子は杏の肩を叩くと若葉たちに続いてバーテックスへと向かっていった。
そんな球子の後姿を見送りつつ、杏はますます自己嫌悪に陥る。
「やっぱり、私勇者に向いてないよ……」
戦う姿を眺めつつ、ジョンにそう語りかける。だがジョンはにべもなく、
「お前がどう思うかではない。神樹はお前を選んだのだ」
「じゃあ神樹様には見る目が無かったんですね」
戦闘は有利に運んでいた。特に若葉の働きが素晴らしく、一つ太刀を振るえばバーテックスはジャパニーズ・スシへと姿を変えていった。
このまま終われば、杏が変身する必要はなさそうである。
しかし。
「あっ!?」
杏が悲鳴を上げる。
球子に敵が迫っていたのだ。
彼女の武器である旋刃盤はフリスビーに刃が付いたような見た目で、投擲して使う。フリスビーと違うところは、球子の腕とワイヤーでつながれており、投げれば戻って来る点である。しかし、それは即ち遠くへ投げれば投げるほど戻って来るまで時間がかかるということでもある。
バーテックスはその隙を見逃すほどカカシではなかった。
「た、タマっち先輩が……! 助けないと……!」
だが、ジョンはまんじりとも動かない。
「ジョン! タマっち先輩を助けてあげて!」
「ダメだ」
「ダメ!? なんで!?」
「精霊が護るのは主人だ。土居球子は助けることは出来ない。どちらにせよ、精霊の攻撃は
その筋肉は飾りなのか。
杏はそう言いかけた。だが、議論が無意味であることは彼女にもわかっている。
「どうすれば……」
「変身すればいい」
変身できないから困っているのである。
球子は旋刃盤を器用に操りつつバーテックスの攻撃をかわし続けている。しかし、それも長くは持つまい。他のメンバーも離れている上戦闘から手を放せないから手助けは出来ない。
「この状況で、土居球子を救出できるのは伊予島杏だけだ」
「分かってる……!」
バーテックスは恐い。あの巨大な口が自分を食いちぎることを想像すると身体がすくんでしまう。3年前を思い出してしまうのだ。あの時は球子が助けてくれた。
今、球子はあの日の杏と同じなのだ。このままでは、球子はバーテックスの昼食となってしまう。
(私は恐い……でも、タマっち先輩が死んでしまうのは……!)
そう思った瞬間、杏の身体が光に包まれた。そして、一瞬のうちに彼女の身体を白のストックを彷彿とさせる美しい勇者装束が包んだ。
「変身……できた」
「アプリが起動したのだ」
「私にも……あれ、ジョン? どこ?」
変身したはいいが、今度はジョンの姿が見えなくなった。声はすぐ傍から聞こえるのに、あの巨体が見えないのである。
「ここにいる」
「どこ……って、なにその姿!」
ジョンは消え失せたわけではなく、代わらず杏の隣にいた。ただし、身長は30センチほどに縮んで、背中からはファンタジーな羽が4枚生えている、という姿で。 身体は縮んでも筋肉がモリモリなのには変わりないため、シュールなんてものではなかった。
「これが真の姿だ」
「真の姿? いつもの数倍は酷いですね。なんなのその似合わない羽は」
「それより、変身したなら戦うんだ」
「あぁ、そうだった……!」
杏の武器はボウガンである。
勇者たちは変身前から常に武器を持ち歩いている。それを使って、杏たちは実戦へ向けて訓練をしていたのだ。
だが。
「な、なにこれ!?」
杏は自らの右手に握っている武器を見て驚いた。
確かに、変身前までは間違いなくボウガンを持っていたはずだ。それが奇妙なことに、明らかに近代的な、神秘的とは程遠い見た目の機関銃へと姿を変えていたのだ。
「それはM60機関銃。 毎分550発の弾丸を発射できる。伊予島杏の身体に合わせてリサイズされているが、性能は実銃と同等、それに神樹的な力が加わっている」
「な、なんでここんな本格的な武器に……!? 私の武器はボウガンだったんじゃ……」
「ボウガンというのはとりあえずの姿に過ぎない。これは伊予島杏の想像する『強力な武器』のイメージと自身の実力を掛け合わせ、状況に最も適した武器を顕現する力を持つ」
「それで、なんでこの武器?」
「昨日見ていた『ランボー』の影響と推測される」
なるほど、と納得した。確かに昨晩、彼女は『ランボー』を視聴した。単なる筋肉バトルアクションかと思いきや不覚にも泣いてしまったため、より印象に残っていたのだろう。
「それでそういう映画を見るように言われていたんだ……」
3年前の疑問が解けた瞬間であった。
疑問が解けたところで、球子を助けなければならない。
数百メートル先で追い詰められつつある球子。杏は機関銃を抱えるように構え、弾薬ベルトを軽く腕に巻くと銃口を球子に迫るバーテックスへ向けた。
「こういう銃って弾がばらけるって何かで読んだんですけど、タマっち先輩に当たるんじゃ……」
「大丈夫だ。バーテックスに当たる。そういう風になっている」
「ならいいんですけど……!」
杏は腰を軽く落とすと機関銃の引き金を引いた。
銃口から場違いな火薬が吹きだし、鋭い弾丸が空を切る。放たれた弾丸は、バーテックスの白い身体に突き刺さり、蜂の巣にした。銃口を身体ごと動かし、薙ぎ払う形で球子の周りにいるバーテックスを銃撃していく。
「!? あんず!?」
「変身できたあああああああああああああ!」
機関銃を撃ちながら杏はそう返事をする。球子の周りのバーテックスを一掃すると、杏は引き金を引きながら銃口を上に向け、絶叫した。
「うおああああああああああああああ!」
伝説の勇者、イヨジマンドー爆誕である。
つづく
こんなのコマンドーじゃないわただのランボーよ!
どちらかと言えばランボーはわっしーだよね。