ぬこだって苦労はする 作:葉虎
毎日書ける人マジ、神だと思うわ。
仕事終わりに、またささやかな酒宴が開かれていた。
面子は楓さんを除いた前回のメンバー。
楓さんはお仕事の都合上、不参加だそうで。
んで、俺はと言えば…
「…楓の気持ちが分かるわぁ。何このもふもふ」
猫状態で瑞樹さんに愛でられていた。
「あ、あの、瑞樹さん。俺も飲みたいんですが」
「もう少し良いじゃない。前は楓に独り占めされてたんだしさ」
「くんくん…全然獣臭くないですよね。っていうかいい匂い……。真夜君香水つけてたりする?」
「つけてませんよ。匂いが移ったんじゃないですか」
つか、匂い嗅がないでよ。ちひろさん。
「あ、瑞樹さん。そろそろ……」
「そうねぇ、名残惜しいけど」
ふぅ、やっと解放か……「私の番ですよ」「はい」
……ブルータスお前もか
「ふふ、モテモテね」
くすくす笑いながら、瞳さんがグラスを傾ける。
「ほらほら、はい、チーズ」
パシャッと携帯で写真を取ると
参加できない事でかなりゴネていたという楓さんに
送信し煽る瑞樹さん
止めてあげて…
「あ、そうだ。真夜君。はい、これ」
「なんですか?……チケット?」
2人におもちゃにされ、ようやく、ゆっくりと飲めると日本酒を飲み始めたところで、思い出したかのように紙切れを渡してくる瑞樹さん。
内容を確認するとそれは、ライブのチケットのようだった。
「そうよ。私、今度そのライブに出るから。よかったら」
へぇ~
「ありがとうございます。是非、行かせてもらいます」
チケットを眺めつつ礼を述べる。
「にしても、良いんですか?ライブなのにこんな所で飲んでて…」
「だからよ。これから本格的に忙しくなる前に、飲んでおくのよ」
終わったらまた、飲みに来るわ♪とウインクをする瑞樹さん。
そこに…
「そのライブなんですが、卯月ちゃんと凛ちゃんも出るんですよ。美嘉ちゃんのバックダンサーとしてなんですけど。」
「……あぁ、あの公園の」
泣いちゃった子達か。
「ていうか、真夜君…二人の前で歌ったそうですね。絶賛してましたよ」
私も聞きたかったです…とちひろさん。
「え、なになに?どういう事?」
それに対して瑞樹さんが興味深げに聞いてくる。
そんな瑞樹さんに公園でのやり取りを話すと…
「へぇ~♪ねぇ、ねぇ。真夜く~ん♪」
「……瞳さん?」
「駄目よ。他にお客さんが居るし」
「なによ…ケチ」
瑞樹さんの言いたい事を察して、瞳さんにお伺いを立てればにべにもなく却下。
ですよねー。
「大体、そのスマホの中に入っているでしょ。SIRONEKOの曲は」
「生で聞きたいんじゃない。それに私の知らない曲なんでしょ?」
「……そうね」
それだけ言って、グラスを傾ける瞳さん。
はぁ、仕方がない。
「瑞樹さん、ごめんなさい。あの曲は特別なんですよ」
「特別って?」
drop……あの曲は。
今はもう居ない…俺の妹…雫の事を歌った歌だから。
「ーーーーっ。ご、ごめんなさい…」
「いや、謝らないでください。6年も前の事ですし」
でも…
「drop……雫の曲を出して、俺の知らないところで流れるっていうのに抵抗があって…」
瞳さんからも、シングルとして出さないかという話は過去に合ったが、それを理由に断ってきた。それ以降は、俺の思いを汲んでくれたのか、話題にはしていない。
もっとも、レコーディングだけはした。まかり間違って、盗作されたら目も当てられないからと。
しんみりとしてしまった空気の中……
「あ、そうそう。今日の本題だけどね。真夜にお願いがあるのよ」
瞳さんが話題を変える様に切り出したのは…
「お願いですか?」
「えぇ、あなた…演技には興味はない?」
思いもよらなかった一言だった。
「~~♪」
「機嫌が戻ったのは良いけど、いい加減に放してあげてくれない?ぐったりしてるわよ?」
「ついキャットなってしまって…ふふ♪」
あの飲み会から二日後、俺は美城プロのミーティングルームの一室に来ていた。
当初、不機嫌だった楓さんだが俺を暫く、いじくり回した後、話を概要を聞くと嘘のように機嫌が直ってしまう。
そう、云わずもがな猫の姿である。
「最初、演技とか言うからビックリしましたよ」
俺と瞳さんと楓さんの三人しかいない事もあって、猫状態だが喋る。
「ふふっ、真夜くんと共演♪」
言いながらムギュッと抱きしめてくる楓さん。この部屋に入ってから暫く、ずっと楓さんの腕の中である。
このやり取りも何回目だ?
「楓、真夜くんじゃなくて、猫状態の時はユキちゃんよ」
ユキ。俺の猫状態の名前である。命名は瞳さん。
まぁ、真夜と呼ぶわけにもいかないしね。
「さて、話を戻すけど。人気小説『ねこの恩返し』の映画化という話が決まってね。2人にはその出演をお願いしたいのよ」
『ねこの恩返し』読んだことはないが、瞳さんから大まかなあらすじを聞くと、トラウマにより失語症の女性と飼い猫の絆の物語だとか。
「主演は高垣楓、そして…」
当然ながら俺は…
「猫の役ですか」
「そうよ。気まぐれな猫を題材にしたドラマや映画は撮影が難しいの。CMや端役ならともかく、原作を読むと猫の登場シーンが多すぎてね。並の猫では難しいの。だけど…」
「まぁ、俺なら普通の猫と比べたら楽でしょうね」
なんなら、台詞まで言える。……言わないけど。
「そして、真夜くんにはもう一つ。この映画の主題歌をお願いしたいの。SIRONEKOとしてね」
猫の状態で出演し、人間状態では主題歌を歌えとな。
どうしよ……って、あれだよな。
こんな嬉しそうな楓さんの姿を見て、断るのもな。
それに瞳さんにも色々迷惑かけてるし…。
メディアに露出しない分、他のアーティストよりも時間はあるしな。
でも……
「瞳さん、一個だけ条件が」
「ふふ♪分かってるわよ。その日はスケジュールの調整はしておくから。心配しないで。私だって毎月楽しみしてるのよ」
パチッとウインクをしながら微笑む瞳さん。言わずもがな分かってたみたいだ。
流石、出来る大人の女性。
「二人して何お話ですか?」
俺と瞳さんのやり取りの意味が分からず、首を傾げる楓さん。
「ふふ、毎月17日その日はね…」
SHIRONEKO……いえ、真夜君のライブがあるのよ♪
悪戯っぽい笑みを浮かべながら瞳さんが告げた。
残業が続きそうで執筆時間とれなくなりそう。
テロ等準備罪よりも労働基準法を見直してほしいわマジで。