「おい!邪龍達は何をしている!?さっさとあの獣達を追っ払え!
――大陸中で繰り広げられている、邪龍達と【獣】達の激戦。それは、この
むしろ、人類を裏切って邪龍側に頭を垂れたが故に。この
だが、その地獄において。誰よりも必死に声を荒げながら、指揮を行っている者がいた。
その者の名は、シンジ。この
「陛下!陛下もお逃げください!」
「今のは非常時に混乱しているからということで見逃してやる。いいか、僕はこの国の王だぞ?この国唯一の『英雄』だぞ!?僕には民を導く義務が――護る義務があるんだ!だから、この国の愚民共を一人残らず避難させるまで、この国を離れることなどあってはならないんだ!」
「……っ!申し訳、ありませんでした。」
「お前こそ、
宰相タンユウにそう告げると、シンジは炎に包まれた街へ歩きだす。
――その日、楽園は地獄と化して燃え尽きた。
だが、そこに住んでいたはずの人々と、楽園の王がどうなったのかは――人の時代が終わった後の歴史にも、記されていない。
「で、なんでこの姿にならないといけないんですかねぇ?」
「こっちの方が安定するからよ?どうせユウキちゃんとやる夫に対して力を調整するのなら、最初からやる夫と一緒になってた方が楽だもの。」
――キングソード城砦。
再び
やる夫とユウキは重ね合わせた手で『星の欠片』をしっかりと握りしめ、空を見上げるように立っていた。
「やる夫、バルスって言ってもいいのよ?」
「洒落にならないからやめるお。ユウキちゃんも言っちゃ駄目だからね?」
「う、うん。」
『はぁ、つまらないわね……それじゃあ、いくわよ?
軽い漫才めいたやり取りを挟むと、ニコル・ボーラスは何時になく真面目な表情で言葉を紡いだ。
――その言葉と共に、『星の欠片』から螺旋のごとき光が放たれ、やる夫とユウキを包み込んでいく。
その奔流と共に体が宙へ浮かんだ二人は、それぞれの手をしっかりと握りしめ、奔流にその身を任せる。
やがて、螺旋の光はキングソードの上空に浮かぶ巨大な卵となり、ピシリという音と共にひび割れ、はじけ飛ぶ。
光の欠片が雨のように降り注いでいく中――『それ』は、姿を現した。
雄々しき翼と尾を携えたその姿は、一見すれば『龍』のようでもあった。
一方で、眩い白の光に包まれたその体は、騎士が纏う『鎧』のようでもあった。
そしてなにより――その手に握られた剣は、白金の光を放ち、キングソードに住まう全ての人々を魅了していた。
《――すごい。こんなに大きくなってるのに、まるで自分の体みたいに違和感がないや。》
《これが、今のやる夫達かお……で、名前は何ていうんだおこの姿?》
《そうねぇ。かつての私は、総ての龍を統べるモノという意味で
《それじゃ、
《まぁ、ユウキちゃんだけに背負わせるつもりもないお。それじゃあウィリアムさん、守りはお願いします。》
「はっ、生きて帰ってこなかったらその頭を射抜いてやるからな、覚悟しておけ。」
《こわっ!?》
《あはは――それじゃあ領主様、みんな。ボク、行ってきます!》
そして、
それはまるで――大空を斬り裂く、流星のようだったと言われている。
「さて――お前達、準備をしろ。あいつらの帰ってくる場所を護る時が来たぞ。」
「「「「「おう」」」」」
やる夫達を見送った後、領主は柄になく真剣な表情で城砦の外に広がる光景を見つめ、兵士達に指示を出す。
兵士達も、武器を構え眼前に迫る――進軍を続ける【獣】達の群れを、見つめていた。
先程キングソード城砦を襲っていた【獣】達は、確かにアルトリアの手によって撤退した。
だが、それはあくまで『アルトリアが制御できる範囲内に居た【獣】達』にしか有効でなく、『魔剣』に連なる存在を滅ぼそうと顕現する【獣】達には関係のないことだった。
「ふっ、俺を囮にすればある程度誘導はできると思うがな?」
「だが、それではユウキが悲しむだろう。」
「えぇ、戻ってきたあの子には笑顔でいてほしいですから。」
「そうそう!まぁ、ここが最後の踏ん張りどころだと思って頑張ろうよ!みんなで、ハッピーエンドを掴み取るためにもさ!」
ウィリアムの言葉にアルトリウスが異を唱え、大和とアストルフォがそれぞれの決意を胸にする。
そして、【獣】達の咆哮が響くと共に――再び、戦闘が始まったのであった。
「――どうやら、彼らも動き出したようですね。」
《あれは、貴様の差し金か。結末は変わらぬというのに、ご苦労なことだ。》
「おや、他人事ですね。あなたの子孫にあたる者も共にあるというのに?」
《【森の王】たる我はあの日、晩鐘の音と共に深淵に沈んだ。今この場に存在するは、【星の巨神】たる存在なり。》
「素直じゃないですね……まったく」
やる夫とユウキが、
もはやクレーターとすら呼べぬ程に大地が砕け散ったその戦場で、流星の輝きを垣間見ていたアルトリアは、その右手で物言わぬ躯となりかけていた【銀星号】の喉を掴む巨神と、まるで親しき友と語らうかのように雑談を重ねていた。
アルトリアが視線を移すと――そこには、全身を『光り輝く焔』に焼かれ息も絶え絶えとなっているジャンヌ・オルタの姿があった。
――ジャンヌ・オルタも、【銀星号】も、己の全能力を、全異能を駆使し死力を振り絞った。
だが、かつてユウキの斬撃すら受け止めたその体はいともたやすく打ち砕かれ、【銀星号】の異能の一つである時間操作は、同様の能力を発動した巨神によって無効化され。
そして、何より。
『逆行運河・創世光年』と称すべき、『
それらを総て注ぎ込まれたその『出力差』によって、人類に対し猛威を振るった彼女達は、人類と同様の立場に追い込まれたのだった。
「……っざけん……じゃ……な……わよ……私は……まだ……」
「……だ……まだ……れは……びたりな……」
「諦めなさい。あなた達の奮戦は、もはや何の意味も持たない。」
《晩鐘は汝らの名を指し示した。》
その言葉と共に、アルトリアの持つ『星槍』が――『星焔』の螺旋がうねりをあげ。
同時に、巨神の胸部からも『星焔』が激しさを増し。
「――
《――
閃光と共に、星を揺るがすほどの衝撃が世界を包み込み。三大魔王たる二柱は、ここに討ち倒されたのだった。
そして、それを見届けた【星獣王】は天に向かって雄叫びをあげると、再び
――――――美しいものを見た。
最早数えることすら叶わないほど遠い過去。今は遠き黄金の記憶。
魂は根元から腐れ堕ち、己が何者であったかさえも掻き消えた。
―――――それでも尚、決して色褪せぬことのない光。
それがもう届く事のない、星の輝きに過ぎないとしても。
淡く砕け散った月光よりも儚い、一滴の夢の雫に等しいとしても。
まだこの胸の中には、あの日に得た歓喜を覚えている。
例え、ニコル・ボーラスの言葉が真実の一面を捉えていたとしても。
あの日見た黄金の輝きが、星の光に塗りつぶされたのだとしても。
――――あの日見た輝きが悪ではないと、“私”が証明してみせる。
ジャンヌ・オルタと【銀星号】の存在が消滅したのを認識しても。
【星獣王】が、こちらへ向かってくるのを認識しても。
すでに、
そして、『それ』は舞い降りた。
『竜』のようでもあり『騎士』のようでもある白き鎧を纏い、己の
忌々しき
だが、もはやそれすらも
「さぁ――与えた機会を示す時が来た、ユウキ。その剣で、私を斬り伏せてみよ。」
《あいにく、やるのはユウキちゃんだけじゃないお。》
《そうだ――『ボク達』で、お前を倒す!》
「よくぞ吠えた!ならば、見せてみろ!『汝ら』の輝きを!」
その言葉が火蓋となり、
まず手始めにと
お返しと言わんばかりに
振るわれた尻尾による薙ぎ払いが
その火球は
その痛みに一瞬怯んだ矢先。気がつけば三つある首の一つに
顎を開き噛み砕こうとする瞬間、
《やる夫!》
《ぶちかます――
――放たれた閃光が、首の一つを消し飛ばす。たまらず腕を振るい、その爪で
響き渡る、二つの悲鳴。続けざまに
余りにも永き時のようでいて、しかして刹那の如きその攻防は
だが、やがて物語も終わりに近づく。
ボロボロになった
すると、螺旋を描くかのように光が刀身に集まり、それは黄金の輝きを放つ。
《
やる夫の声が響く。
《――
ユウキの声が響く。その黄金の刀身は
《おおおおおおおおおおおおっっっっっっっ!!!》
二人の声が響き終わる。剣を振り切ったと共に
すると、まるで役目を終えたかのように剣が砕け散り――
「――あぁ、最後に。オイラにいい夢を見させてくれて、ありがとう。」
その躯に浮かび上がった、少女の姿をした分体は。
かつて、
最後に、笑顔を
この日を持って、ドラグナール大陸から『三大魔王』と呼ばれる脅威は、消滅した。
だが、それは同時に――人の時代が終わりを告げたことを、意味するのだった。
もうちょっとだけ続くんじゃよ。