「ねぇねぇ、龍樹君の好きな食べ物ってなぁに?」
「龍樹君!グラウンドでサッカーしよ!」
「龍樹君...あの...一緒に読書しない?」
声の主は男子と女子。大勢が龍樹を取り囲んでいた。
(何故こうなった...)
時は数時間前に遡り、家に至る。
普段通りに早朝に起き、朝ご飯を食べて、鍛錬をするのが日課だった。また普段通りの1日が始まる予定だったが、其れは変わった。
「龍樹、急な話だがな、今日からお前学校に通え」
「いや唐突過ぎんだろ...そう言うのは事前に言うだろ普通...」
刃の言葉に頭を痛くなった龍樹。刃の唐突な発言には度々頭を痛くすることが数あるのだ。
「まぁ...サプライズだ...サプライズ」
「いや、サプライズって...早朝朝起きて「おはよう、よし、学校今日から行きなさい」「はい!行ってきます!」なんてならねぇからな」
「知らせて無かったのは悪かったさ、でもな学校行かないと就職する時とか難しくなるからな、其れに、修行ばかりじゃなくちゃんと勉強もしないと駄目だ」
「……わかった、学校いくよ、けど教科書とかノートとかないぞ?」
「ああ、其れなら鉄心が用意しといてくれたんだわ」
「あー本当...今度はお礼言っとかなきゃな」
「そうだな、ほら取り敢えず飯食うぞ」
「うーい」
ーーーーー学校
「なあなあ、聞いたか大和、このクラスに編入生が来るんだとよ」
「ああ、聞いたよガクト、クラスの話題もその話で持ちきりだしな」
会話をしているのは風間ファミリーのガクトと大和、そしてその場にいる風間とモロが話に加わっていた。
「編入生かぁ...一体どんな子なんだろうね」
「俺様は可愛い女の子がいいぜ」
「ガクトは本当にそればっかりだね」
「あたぼうよ!そのまま俺様はその子にアタックし続けるぜ!」
「止めとけ、すぐ玉砕するだろうよ」
「そうだね」
「誰も俺様の味方はいないのかよ!!」
大和言葉にモロ、風間は肯定の態度を取られたことにガクトは嘆いていたそうな。たわいも無い話をしていた4人組、教室のドアが開き担任が入ってくる。
学校に着いた龍樹は職員室に挨拶をし、教室の扉の前で立っていた。
「はーい!みんな静かに!今回から皆さんに新しいお友達ができます。」
先生の言葉に教室が騒めき出した。、「男の子かな?女の子かな?」、「どんな子なんだろう」、という言葉が飛び交う。騒がしくなり、担任が手をパン!パン!と叩き静かにさせる。
「静かにね!はい、それじゃあ、入ってきて」
ガラガラと扉が横へスライドする。ドアが開き教壇の上に立つ龍樹。風間ファミリーの面々は龍樹に驚いていた。
「俺の名前は神道龍樹、今日からこのクラスの一員になる、仲良くしてくれるとありがたい、よろしく」
教室を見回しながら笑顔で挨拶を交わす龍樹。その目線の中には風間ファミリーの面々が眼に映った。
「じゃあ龍樹君、あなたの席は後ろの席の...風間君の隣の席に座ってね」
「わかりました」
そのまま教壇を降り、指定された席へと向かう龍樹、その姿を見るクラスの一同。殆どが龍樹に好奇の視線を向けていた。
「よっ、キャップ、同じクラスとはな」
「編入生ってお前だったのか、ビックリしたぜ」
「俺も驚いたよ、大和もガクトにモロもいるし、安心したよ、まあ取り敢えずよろしく」
「おう、何でも聞いてくれ」
龍樹の自己紹介が終わり、その後に授業が始まった。1時間目の授業は体育だった。だがこの時間が問題だった。龍樹は修行をしている身であり、身体能力が日々向上している。まだ殆どの者は龍樹の実力を知らない。龍樹は意気揚々と授業に取り組んだ。ほぼ全員が龍樹の身体能力に感嘆の声を上げた。其れは瞬く間に学校全体に広まっていったのだ。
ーーーーーそして今に至る
龍樹を取り囲む人だかり。その中には同じクラスの子だけではなく、他のクラスや上級生までも龍樹の姿を見に来ていた。そして今も尚随時話しかけられている。
(一遍に話し掛けられてもわかんねぇよ、俺は聖徳太子じゃねぇんだよ!)
流石に鬱陶しくなってきた龍樹は風間達に助けの視線を求めるが、眼を合わせようとはしなかった。
(お前ら薄情者!...あー...誰か助けて...)
龍樹の心は上の空へと消えていくしかなかった。
「龍樹君!って...あれ?」
「あれ〜龍樹君は?」
「あれ?いないよ?」
またもやクラスの面々龍樹と話をしようとするが、授業が終わったと同時に龍樹は
「なんとかなったな」
何とか見られず教室抜け出した龍樹。そのまま上の階へと階段を登っていく。
「何処かゆっくり寛げる場所ないかな」
廊下を歩いて行き、辺りを見回す龍樹、するとある標識が眼に映った。
ーーーー図書室
「図書室...此処ならゆっくり出来そうだ」
扉に手を掛けゆっくりと開け、入っていく。中を見回すが誰も...いや、1人だけいた。
(ん?誰かいる?)
1番奥の席にその子はいた。
紫髪の女の子、女の子は本から目を離し、龍樹の方をチラリと見たが、直ぐに視線を戻し本に視線を戻す。
「………」
「あー...悪いな、急に入って来て...驚ろかしちまったか?」
「...えっ...いや...大丈夫...」
話し掛けられると思っていなかったのか、女の子は少し驚きながらも返事を返してきた。
「そっか、俺は神道龍樹だ」
「しってるよ、学校で凄い噂になってるから...」
「あ〜〜...やっぱり?...加減しとくんだったな...」
女の子の言葉に頭をかかえる龍樹。小学生はスポーツを習ってたとしても龍樹の様に身体能力がずば抜けているわけではない、そんな周の子達からすれば新鮮で好奇の対象でしかない。
「今度から自重しよ...所でお前の名前は?」
「え?」
「名前だよ、名前、お前の名前を教えて欲しいんだ」
「う...うん、
「椎名京..か、いい名前だな」
「えっ...あ...その...ありがとう...」
龍樹の言葉に顔を伏せてしまう京、彼女からしたら初めて言われた言葉だった。言われたこともない言葉にどう言えばいいかわからず顔を紅くさせる。
「京はよく此処に来るのか?」
「えっ?...う、うん...休み時間とかは此処にいる」
「そっか、なら明日もくるわ」
「え?」
「此処静かだしゆっくり出来るし、それに京も居るから退屈しなさそうだしな」
「………」
「そろそろ6時間目が始まるな、じゃあ俺は教室に戻るわ、じゃあな京、また」
「う、うん、また...」
龍樹は京に軽く挨拶をし図書室を出た、京は出て行く龍樹を呆然と見つめていた。
「なんか疲れたなぁ〜」
学校が終わり帰路へと向かう龍樹。帰り支度の途中、クラス子達から一緒に帰ろうなど、言われたがやんわりと断り1人で帰っている。
帰路途中、龍樹は今日の出来事を振り返る。
編入初日にみんなからワアワア言われ、収まらない集団達の相手をしていた自分。そしてある子と図書室で出会った。
椎名京と言う女の子。
何故か京の事で頭が一杯だった。それは別に恋愛感情だからじゃないし、一目惚れした訳でもない。では何故か?
(京のあの目...見ているととても悲しかった)
そう、小雪の時と同じ様に哀しい目がそこにはあったからだ。
(明日、また図書室に行ってみるか...)
龍樹は頭の中でそう思いながら帰路の道を歩いて行った。そして、それから毎回のように図書室へと脚を運んだ、徐々に京の言葉に声色が明るくなってきていた。
休日の日
「なあ、なんかここら辺の草なんか大きくねぇか?」
声に出したのはキャップだった。この日はファミリー面々と遊ぶ約束をしており空き地にまで来ていたのだ。
「確かに言われてみればな」
「うん、そうだね、他の木草と比べると大きいね」
辺りを見回す風間ファミリー。
するとそこに3、4メートル程の花?らしきものが目に映った。
「デカイな...この花...」
「確かにな、この花誰か知ってるか?」
キャップが周りに問うが、ファミリー達は首を横に振る。すると此処で百代が声を上げた。
「じじいに聞いてみるか?」
「鉄心さんに?」
「ああ、じじぃだったら何でも知ってるだろ」
「年配の方だしな、所でどうやって呼ぶんだ?」
「こうするのさ」
百代は少しだけ覇気強めた、そして大きく息を吸い込んだ。
「天辺ハゲのエロじじい!!」
「お怒りMAXのお爺ちゃん登場じゃ♪」
百代が叫び終わると同時にどっからともなく鉄心が現れ凄い和かに言い放った。
「モモよ、世の中には言っていいことと、悪い事の区別をつけなければならん」
「別にいいだろ?だって本当の事だし、知ってるぞ?じじいまたエロ本買ったんだろ?」
「なっ!?何処でその情報を?」
百代の言葉に驚き眼の色を変える鉄心。
「釈迦堂さんが言ってた」
「おのれ釈迦堂め!!」
エロ本が買ったことがバレてしまった鉄心、尚且つ自分の孫にもバレている。今の鉄心には武神としての威厳はなく単なるエロ爺さんだ。
「あの〜鉄心さん、其れよりもこの花何かわかりますか?」
このままでは埒があかないので龍樹が鉄心に声をかけた。
「む?...ホォ...これは
話によるとこの花の名は竜舌蘭。とても大きく育ち長い年月をかけて花を咲かすそうだ。運が良いのかもう咲く手前まで来ているらしい。 滅多に見られる事のない花を見てみたかった。その日から龍樹達はその花が咲くまで皆んなで世話をし続けた。
そんなある日ーーーーー
「ん?」
突然何か頬に冷たい物が触れた、いや落ちてきたのだ。空を見ると雲行きが怪しくなり始めていた。
「そう言えば台風が来るって言ってたな...雨も降ってきたし風も出てる、そろそろ戻るか」
龍樹はそのまま急ぎ足で帰路へと向かった。
「おいおい...大丈夫かコレ」
「ワン」
窓から外の風景を見る龍樹。外は暴風で木々は激しく揺れ、暴風により強まった雨は容赦なく地面を叩きつける音が家の中まで聞こえてくる。
「予想以上だなこれは...竜舌蘭は無事だろうな」
頭の中を横切ったのは竜舌蘭。みんなで咲くのを見ると約束した、思い出になるであろう花が台風でボロボロになるのではないかと心配になっていた。
「……守んねぇとな...約束したからな」
「ハク、悪いがちょっと出かけてくるな...家の留守番頼むぞ」
「………」コクリ
「頼むな」
そのまま龍樹は玄関を飛び出して行った、その背中をハクはじっと見つめていた。
「見えた!」
全速力で駆け抜け、目線の先には竜舌蘭と一人の人影が見えた。その人影は竜舌蘭が倒れないよう支えてる様子だった。
「ん?み...京!?お前どうしてこんなとこに居るんだよ!?」
暴風の中、大雨の中、竜舌蘭を支えていたのは京だった。
「あ...龍樹」
「危ないだろ!こんな所にいたら!今は台風が来てんだぞ!?」
「危ないのは龍樹も同じでしょ?」
「それはそうだが...なんで」
「放課後...何時も龍樹達...この大きな花の世話してたでしょ?...とても大切なんだと思って...もしこの台風でボロボロになっちゃったら悲しむと思って」
「...京...お前...」
京はこの竜舌蘭とは何の関係もなかった筈なのに、それでも龍樹達の為に竜舌蘭を守ろうとした。
「そうか...ありがとな、京」
「……うん」
「よし、なら京、手伝ってくれるか?」
「うん!任せて!」
意気込み作業に取り掛かろうとしようとしたら...
「おーい!龍樹ー!」
背後を振り返ってみると百代、風間、ガクト、大和、モロ、ワン子の風間ファミリー全員が集まっていた。
「お前ら...やっぱりきたのか」
「当たり前だろ!この日をどれだけ待ち侘びたものか、こんな台風で竜舌蘭をボロボロにする訳にはいかねぇからな」
キャップの言葉にみんな頷いた。
「そうか、じゃあ皆んな!やるぞ!」
『おおー!』
龍樹の掛け声と共に作業に取り掛かった。
台風から無事竜舌蘭を守りきり、そして漸く竜舌蘭の花が咲いた。
「咲いたな...」
「だけど...なんかショボいな...」
「キャップ、それ言っちゃだめだ」
「まあ、無事に咲いたしよしとしようよ」
「そうだな」
「ところでお前ら親にこの事言ったのか?」
龍樹の言葉に全員顔を引きつかせていた。みんな何も言わず出てきたらしい。
「(俺も親父に何も言ってなかったな、こりゃ怒られる)」
だが、後悔はしていなかった。みんなで約束したものを守れたのだから、それだけで歓喜と達成感で満ち溢れていた。
すると鉄心、ルー、釈迦堂、刃、ハク、そして、ガクトの母親の麗子がやってきた。五人と1匹の表情を見ると怒っているようだ。
「全くのぉ...お主ら勝手な行動して怪我でもしたらどうするんじゃ!!」
『ッ!!』
鉄心の喝が風間ファミリーの身体を震わせた。だがそれはそれ程心配心配していたからだ。子供が台風の中に飛び込んで怪我をしないのは危険で何かあっては遅い。
「竜舌蘭が開花を見たいのはわかるけド、心配をかけてはいけないヨ」
「全くこの馬鹿息子!!アンタどれだけ心配したと思ってるんだい!!」
「いでぇ!!」
ガクトとは勢いよく麗子さんに引っ叩かれた。
「ったくよー...大人に心配かけんじゃねーよお前ら、少しは大人を頼れ」
釈迦堂は頭を掻きながら龍樹達にそう言った。釈迦堂も彼らの事を心配していたようだ。
「龍樹、お前一体どれだけ心配かけたか分かってんのか?」
「……ごめん、親父...約束したんだ...皆んなで咲くのを見ようって...ごめんなさい」
「全く...なあ龍樹、何でもかんでも一人でやろうとするな、人は万能じゃない、誰しも一人では乗り越えられない事もあるんだ、龍樹の想いはわかるさ、だけどな...
「ッ!!」
「龍樹...お前に何かあったら俺は悲しい...それはハクだってそうさ、俺はお前の父親だ、息子を守るのは当然の事なんだ、お前が傷付いたら悲しむものが居る事を忘れないでくれ」
「ワン!ワン!」
「....うん...ごめんなさい」
龍樹の頬に伝う雫。刃に心配をかけてしまった罪悪感とそれ程大切にされていたという想いが伝わり心に響き溢れ出たのだ。自分はこんなにも大切にされている、それだけで充分だった。
「……とにかく、無事でよかった」
刃は優しく龍樹の頭を撫でた。
ハクは龍樹近くにより顔をすり寄せた。
「ほら、皆んな並びな!記念写真を撮るよ!」
説教が終わり暫くして麗子がカメラを持ってき子供達を竜舌蘭の前に並ばせた。
「ほら、京も来いよ」
「えっ?でも...」
「いいから、ホラ早く!」
龍樹は京の腕を掴み隣に並ばせる。
「みんなもいいだろ?」
「おう!いいぜ!」
「ああ、構わない」
「僕もいいよ」
「俺様もだ」
「私も構わないぞ」
「私も構わないわ」
「ほら全員いいっていってるしな」
「……うん!」
「はーい!みんな笑ってー!」
パシャりとカメラのシャッターが切られる音がした。この写真は未来永劫の物になるのはまだ彼らは知らない。
高校生活に早く突入したいですね〜
頑張ります。
次回もお楽しみに