私の生まれた理由   作:hi-nya

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先程投稿させていただいた前編の続きです。


Mannequin village (後)

 寒さも厳しくなってきた晩秋のある日。放課後、勉強道具をかかえて、僕はあの店の前にいた。

 あれから、時間のある日はここで紅茶をいただきながら勉強をするのが日課になっていた。もちろん、あの件に関する調査の報告をしたり聞いたり、打ち合わせをしたりも。

 

 しかし、あいかわらず『例の件』に関して目立った進展はないままだった。

 

(……もうすぐ一年、か……)

 

「こんにちは」

 

 ドアを開けるとベルの音が響く。店内に一歩踏み入れると、ひょこひょこと一匹の犬が歩いてきた。

 

「やぁ、イギー」

「わん!(またきたのかよ! 暇なやろーだ!)」

「ふふ……そうだね」

 

 そんな悪態をつきながらも彼の尻尾はゆれていた。おもわず微笑んでしまう。

 イギーを抱え上げ、頭をなでつつ問う。

 

「あれ? アヴドゥルさんは?」

「バウ(買い出しだ。客なんて来やしねーのに何を買い足すってんだかな。けけけ)」

 

 なるほど、店内はあいかわらず閑古鳥が鳴いていた。

 

(……僕以外にお客さん、来ているのかな? うーむ……)

 

 開店から3ヶ月。紅茶はいわずもがな、カクテルも絶品。大通りにも面していて、立地も悪くないはずだ。上手くやれば流行りそうなものだが。

 

「がう(まー、そんなに客が来てもうっとーしいからおれはかまわんけどな。むしろ静かでいい)」

「そりゃ、おまえ的にはそうだろうけれどなぁ……」

 

 そんなことを話していたら、店主が帰ってきたようだ。

 

「ただいま。おお、花京院。来てくれていたのか」

「おかえりなさい、アヴドゥルさん」

 

「どうですか? お店の方は」

 

 気になっていたことを、ストレートに聞くことにした。

 

「まぁ、みてのとおりだ。なかなか来んのだ。だれも。なんでだろうな……」

「それは……やっぱり店の名前が……」

 

 地獄……そりゃ敷居が高くもなるだろう。なぜせめて『Hail()』の方にしなかったのか、このひとは。

 

「一度来てくれた人は、けっこうまた来てくれているんだがな。2、3人。おまえ含め」

「しかも人生相談とかってのが、まずいんじゃあ……」

 

 胡散臭く感じてしまったことを思い出す。

 しかし、そういいかけたところで、またもベルの音とともにドアが開いた。

 

「おお、噂をすれば! いらっしゃい。安田君」

 

 僕を除く、数少ない常連さんが来てくれたようだ。三十代前半くらいだろうか。穏やかそうで、人のよさそうな男性だった。

 

「こんにちは、マスター。今日は実は……あの……」

「どうしたんだい?」

 

「表の貼り紙……人生相談って、可能なんですか?」

 

 どうやら、あれが役に立つこともあるようだ。僕は前言撤回を余儀なくされたのであった。

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「実はぼくの親友、兼同僚が……」

 

「「奇跡を起こす教団??」」

 

 我が店の貴重な常連客、安田君。わたしは彼の人生相談を請け負うことになった。

 久方ぶりの本業。返事にもつい力がこもってしまいつつ、その心のうちに耳を傾ける。偶々居合わせた花京院とともに。「ならば、僕は今日はこれで失礼するとしましょう」と、そんなふうに立ち上がりかけた彼を、安田君が別に構わない、と留めたのだ。

 

「はい。なんでも、その教祖様が手を触れれば、どんな怪我も病気もたちどころに治ってしまう……と」

 

「明らかに胡散臭いじゃあないか。それこそそんなもの」

 

 つい溜息が漏れてしまう。

 

「親友もぼくも最初はそう思っていたんですよ。でも、目の当たりにしてしまったんです。『教祖様』が手をかざすと、信者の身体が光に包まれて浮かび上がって……」

「なにかトリックがあるんじゃあないんですか? ほら、マジックとかでよくある……」

 

 花京院の指摘に安田君が応える。

 

「それが、ぼくたちがそういうとちゃんと調べさせてくれたんですよ。でも、光源もピアノ線もなんの仕掛けもなくて……そして、信者の生々しかった傷があっという間になくなっていたんです」

 

 それも一度だけではない。またあるときは息も絶え絶えな寝たきりのご老人が、教祖が手をかざした瞬間、これまたあっという間にピンシャンし始めた、とのこと。

 

「ふぅむ……」

「そもそものきっかけは、ぼく、雑誌のルポライターをしていまして。親友と取材にいったんですよ。その教団に。それで……」

 

 安田君は悲痛な顔で続ける。

 

「実は親友は3年前に離婚して、男手ひとつで娘を育てているんです。みづきちゃん、というんですが、その、娘さんが病気に……まだ8歳なのに……腎臓を患ってしまって、毎週毎週大人でもつらい透析治療を受けているんです」

「なんだと!? そんな幼子が……」

「根本的な治療法としては移植手術しかないそうなのですが、適合するドナーがなかなかみつからないままで」

「……」

「親友はずっと責めていました。自分のせいだ、と。仕事仕事で、みづきちゃんにかまってあげられていなかった自分の。もっと早く気づいてあげられていたらと……」

「なんと……」

「その儀式、順番待ちがものすごいらしいんです。教団に寄付するお布施の金額でその優先順位が決まるとのことで、言われるがまま薄給をあいつはすべてつぎ込んでいて……傍からみたら不毛にしか思えないんですが、本人にしたらきっと藁にもすがる、そんなきもちなんだと思います」

 

 無力さを噛みしめるように力なく項垂れる安田君。

 

「口で言っても、聞かなくて……それでもどうにか止めるしかない、とはわかっているんですが。

 ああ、ぼくは、どうしたらいいんでしょうか? 親友として」

 

「そんなの……儀式なんてまやかし、インチキ、偽りだという確たる証拠を掴み、それを突き付け親友さんの目を覚ましてあげる。……以上しかないでしょうね」

 

 それに対し、冷静に至極もっともなことを言い放つ花京院。

 

「それは、そうなんですけど、なかなか尻尾がつかめなくて」

「で、それこそ藁にも縋る思いでわたしに相談した、と」

「はい、すみません。どうすべきか、占ってもらえでもしたらなぁ……と」

 

 言いつつ、安田君は鞄をごそごそと漁り始める。

 

「あ、そうだ。参考までに、これが儀式の……その『教祖』の写真です」

 

 そうして、彼は雑誌をとりだし、あるページを開き差し出す。ふたりでそれを覗き込んだ瞬間、衝撃が走った。

 

「な、ッ! こ、こ、これは!! ス……っ!?」

 

 写っていたのは、これまた胡散臭い派手なジャケットを身につけたチョビ髭の中年男性……いや、装いなどどうでもよかった。問題は背後の、それ……。

 

 写真の男の背中からはまぎれもなく『スタンド』が出ていた。

 

(ま、まさか……この教祖、本当に『治す』……!?)

 

 瞬間、ガタンと立ちあがる花京院。

 

「僕が……行きます」

 

 眼鏡(最近勉強中のみ、かけはじめたらしい)の位置を直しながら言う。

 

「その教祖とやらの毛穴の数まで調べあげてみせましょう! ……得意分野だ!!」

 

「ほ、本当ですか!? え、えっと、しかし君は一体……? と、得意分野……?」

「あ、こいつは……」

 

 明らかに不信の念を抱いている安田君。無理もあるまい。なんと説明したものか考えていると、先になにかに気づいたように彼がいう。

 

「あ! 高校生探偵かい? 今流行りの!」

 

(は、流行っているのか……? というか、流行りの問題か……?)

 

 そんな疑問を浮かべている自分をよそに、たなびく前髪をかきあげつつ、それに乗っかる男。

 

「ええ……まぁ、そんなところです。

 ……じっちゃんの名にかけて、真実はいつもひとつ!」

 

(そ、それはなんかいろいろ混じっている! 混じっているぞ、花京院!!)

 

 なんともよくわからない展開に圧倒されつつも、いう。

 

「な! し、しかし、花京院、おまえ学校は!? 受験前の大事な時期だろう!?」

「……そんなもの!」

 

 すると、突然、バッ! と上着を勢いよく脱ぐ花京院。そして、傍らで欠伸をしているヤツにきらりと目をつける。

 

「アウ……?」

「イギーにこうして、この、学生服を……」

「ぎゃわん!?」

「……被せて替え玉にッッ!!」

 

「グァウアウ!! (やめろやぁーっ!! いい加減にしやがれ、この色ボケがぁーッ!!)」

 

 

 

「……そんなわけで、僕達にお任せください」

「あ、ありがとう……だ、大丈夫かい? 頭から血が……」

「か、花京院……」

 

 

 

 

 

「いいか? 学校が休みの間だけだぞ? 万一おまえが浪人でもしたら『みはり』役としてのわたしの立場がだな……」

「はいはい、わかっていますって」

 

 そうしてわたしは花京院ともにやってきた。教団本部があるというY県の山奥に。ちなみにイギーはへそを曲げてしまったのか、ついてきてはくれなかった。

 

「さ、では……行きますよ!」

「あっ! お、おい! いきなり突っ込む気か!? おまえは本当にあの娘のこととなると全く……」

 

 常の冷静沈着さはすっかり鳴りを潜め、この大胆さ。実はこっちが本性なのではないか、とは、もう薄々感じていたことではあるが。

 

「大丈夫ですよ。今あの建物には教祖ひとりしかいない。すでに法皇(ハイエロファント)を張り巡らして探索済みです」

「そ、そうか」

 

 心配は杞憂なようだ。その用意周到さに息を巻く。

 

「言う通り、さっさと済ましてしまいましょう。それでは……」

 

 にっこりと微笑む。そして、ぎらりと前方を睨む。

 

「……いざ、突入!!」

 

「えええ!?」

 

 やっぱりこっちが本性だ……そう思いつつ、勢いよく建物に飛び込む男の背中を必死に追いかけるわたしであった。

 

 

 

「しっ! いました……」

 

 どうにか追いつくと、ある部屋の前で窓からそっと様子を窺う花京院。それに倣い、自分も覗き込み、耳をすます。

 

「ひひ……ちょろいもんですねぇ……。労せずこんな大金が……ひひひ……」

 

 中には金勘定をする、写真の男。

 『教祖様』のイメージからはかけ離れた、下賤な姿がそこにはあった。

 

「それにしても世の中、おつむの弱い馬鹿なやつらばかり。『なんでも治す奇跡の力』なんてものがそうそうあるわけないでしょうに」

 

「な、なんだと!? ということはやはりインチキ……はっ!?」

 

 気付いたら、忽然と消えていた。

 隣にいたはずの男の姿が。

 

「……エメラルドスプラーッシュ!!」

 

「ぐべらっ!!」

 

 そして次の瞬間、吹っ飛んでいた。似非教祖様が。

 

「ひぃーっ! い、痛い! 痛いぃィィ……! な、なんだチミはッッ!?」

 

 つかつかと歩み寄り、胸倉を掴んで凄む。

 

「……痛いかい? なら、治せばいいじゃあないか……できるんだろう? おまえのその『奇跡の力』で……え?」

「で、できませんよ! そんなこと、できるわけないでしょぉお!!」

 

「……そうか……。また、はずれ、か……」

 

「花京院……」

 

 俯く男。その力が、少しだけ、ゆるむ。

 

「!? 危ない!!」

 

 その一瞬の隙をつき、教祖がスタンドを出し眩い光を放つ。

 

「貴様……!」

 

「チッ! なにがなんだかわかりませんが……おまえたちも能力者ですかねぇ? なんにせよ、知られたからには生きて帰せませんねぇ……!」

 

 そのスタンドは職人のようなエプロンをつけ工具を手にした……そんな出で立ちの爺の姿をしていた。

 

「『なんでも治す力』なんて持っちゃあいませんが……ミーにはこの力がある……!」

 

「闇の仲間はこう呼ぶざんす……ミーのことを『人形遣い、パペッター田中』とね!!」

 

「「ぱ、『パペッター田中』……!?」」

 

((……ま、間抜け……))

 

 笑ってはいけない。そんな場合ではない。が、おもわず吹き出す。

 

「な、なんざんすか! そろって笑ってんじゃあねぇざんす! 馬鹿にすんじゃねぇざんす! い、今後悔させてやりますからねぇ! ゼペット! 『造れ』!」

 

 いうと、また光とともに人型の()()()が出現する。

 人形遣い。その名から推測するに、あれは人形なのだろうが、遠目から見るとそれは本物の人間と見紛うほどの精巧さであった。

 

戦闘型人形(バトルパペット)! 接合(コンタクト)!!」

 

 人形が『ゼペット』と呼ばれたスタンドが操る紐に繋がれる。

 

「光るだけの玩具じゃあないところを見せてやるざんす……!」

 

 いうと、人形は高く飛び、舞い踊る。そして蜘蛛の様に天井に張り付いたかと思うと、こちらに向けたその腕がぽきっと折れ、銃口が現れた

 

「……死ねぃッ!!」

 

 そこから雨霰の様に降り注ぐ銃弾。

 

 しかしそれは瞬時にどろどろに溶解する。あたかもチョコレートの如く。

 

「チッチッ! わたしのスタンドも、こう呼ばれている……」

 

 人差し指を振りつつ、高らかに宣言する。

 

「始まりを暗示し、始まりである炎をあやつる『魔術師の赤(マジシャンズレッド)』とな!」

 

「ふっ……さすがです。アヴドゥルさん!」

 

「なっ! ち、ちくしょう! ま、まだざんす!」

 

 再び人形を繰ろうとした、そのとき、ヤツが異変に気づく。

 

「……あ……あれ……? 動けん……!?」

 

「……捕まえたざーんす。……なんてね」

 

「……うつってるぞざんす、花京院」

「アヴドゥルさんこそ……」

 

「……ハッ!」

「気づかなかったようだな! 貴様にもう逃げ場はない……!」

 

 いつのまにか法皇の結界が、ヤツを、スタンドを、そして人形をも取り巻いていた。

 

「救いを求める人々の純粋な願いを踏みにじり、私利私欲を肥やすその悪行……とても見過ごせるものではないな!」

 

 わたしも『魔術師』をかまえる。

 

「ひ、ひぃいぃぃ!」

 

「法皇の裁きと……」

「魔術師の断罪を……」

 

「「受けるがいい!!」」

 

 緑と赤の激流が、敵をのみこむ! 

 

「ぎゃぁあああああ!!」

 

 

 

 

 

「ひいい! ごめんなさい! 許してほしいざんすッ!!」

「謝罪は僕達にではなく、信者の皆さんに言うんだな。もちろん、きちんとお金はすべて返して、だ」

「案ずるな。ちゃんと専門の警察に連れていってやる。自首して、罪を悔い改めるんだな」

「無論、その闇の仲間……とやらの話もあとでゆっくり聞かせてもらうからな」

「は、はいぃぃぃぃッ! もちろんですぅっぅぅぅ!!」

 

 ぺこぺこと床に頭をこすり付ける元教祖。

 

「しかし、人形を造り出して自在に操るスタンド……か。世の中にはまだまだわたしの知らないスタンド使いが存在するのだな」

「……え、ええ……」

 

 これにて一件落着……かと思われたそんな中、心ここにあらずといった様相でそわそわと花京院が訊ねる。

 

「ええと、ときに、田中……とか言ったな。ひとつ聞く。貴様の造り出せる人形だが、外見を……その、任意の設定に変更することは?」

「は、はぁ……? もちろんできるざんすが。じゃないといろんな信者人形造れませんし。写真などがあればその通りに……」

「ほ、本当に!? で、では……」

 

 そうして懐から取り出すはもちろん……

 

「お、おいっ! な、なにを!?」

 

 たまらず止めると咳払いをしつつ花京院は言った。

 

「ごほん、か、勘違いしてもらっては困りますね。これはあくまでこのスタンドの能力の調査の一環。財団から、その報告も依頼されているでしょう?」

「まぁ、そうだが……」

「よし! ということで、さぁ! できるもんならやってみろっ! 悪いと少しでも思っているならば、せめて僕にそれくらいしてみせろ! さぁ! さぁッ!!」

「花京院、おまえ……。期待していた分、落胆が大きいのはわかるが……」

 

 そんな半ばやけっぱちな男の勢いに押されるパペッター田中。

 

「は、はい、では……」

 

 田中の合図で、翁のような、やつのスタンドが手をかざす。

 

「お、おお! そ、そっくりだ!!」

 

 光に包まれたと思った瞬間、そこには一体の、人間にしか見えない人形が静かに佇んでいた。

 顔立ちも服装もあの旅のときのまま……『彼女』に十分瓜二つ……に、傍目からは見える、それが。

 

「……あまい……ッ!」

 

 しかし、どうやらこの男的には全く不十分だったらしい。

 

「あのひとはこんなんじゃあないッ! やりなおせッ! もっと鼻を1.2ミリ高く! 目じりの角度を1.5°上方に! まつげを0.2ミリ長く! 髪の色のトーンは……」

「は、はいぃぃぃ!」

「……」

 

「……ふぅ! ……完璧だ……!」

 

 鬼編集が駄目出し修正すること数十分。ようやく満足する出来に仕上がったらしい。

 

「……ではこれは、重要な証拠品として僕が押収を……」

 

 いそいそと完成品を抱え上げようとする男に元教祖が言う。

 

「あ……でも、その、言いづらいんですが、ミーの能力、せいぜい30分で……なのでたぶんそろそろ……」

「な、なにィッ!? ……あッ!」

 

 言うやいなや、フッと消えてしまう。

 

「あああああ! ひ、仁美さん(人形)ーッ!!」

「そりゃあそうだろ……まぁ、比較的長い方じゃあないか? ……持続時間『B』っと」

 

 報告書の下書きとして、メモにペンを走らせつつ、うちひしがれる男に呆れつつ、いう。すると、おもむろに立ち上がり、叫ぶ花京院。

 

「ええい! もう一度だ! いっそかまわん! こうなったら少々借りるだけでも……30分もあればじゅうぶ……」

 

「……いいかげんに、しろっ!」

 

 おもわずそのへんにあったスリッパで錯乱男の目を覚まさせんと、頭をはたく。

 

 スッパーンという小気味よい間の抜けた音だけが、その場に響いていた。

 

 

 

 

 

「本当に、申し訳ない……」

 

 パペッター田中を財団の警察に突き出した後、安田君に結果を報告すると、早速、親友宅に出向いて状況を説明しに行く……という彼。その頼みで、我々も同行することになった。

 

「あんな詐欺にひっかかってしまって……」

 

 ひととおり話を聞いた彼は、迷惑をかけた、という冒頭の謝罪の言葉に続き、俯き、何かを決意したかのように自嘲気味に吐露した。

 

「それに、病気にも、なにもしてやれない……

 おれには……やはり父親の資格なんてない。

 ……みづきは……母親のもとに行かせることに、します」

 

「お、おまえ!? そんな!!」

 

 安田君が言いかけた、そのときだった。

 

「いや!」

 

 スパーンと襖が開いて、そこには小さな少女の姿があった。

 

「そんなことない! 

 お父さん、いつも、みづきのためにいっしょうけんめいだもん! 

 みづき、しってるもん!」

 

「み、みづきちゃん!」

 

「病気なんて、へっちゃらだよ! だから……だから……!」

 

「お父さんとはなれるなんて、いや! そのほうがぜったいにいや! 

 みづき、お父さんといっしょにいるっ!」

 

「……っ! ……みづき……!」

 

 抱きしめ合う、親子の美しい姿。

 

「うう……」

「ええ話や……」

 

 隅で目尻を拭いつつ、花京院とともにいう。

 

「御心配には及びません。財団に相談してみましょう」

「ああ、そうしよう」

 

「財団?」

 

 首を傾げる安田君。

 

「SPW財団だ。君たちも聞いたことはあるだろう?」

「……あ、あの大財閥の!?」

「そ、そんな凄い方と知り合いって、貴方たち、一体……」

 

 あっけにとられる二人。それに応える。

 

「何者……ですか? そうですね、そのへんに偶々いた流行りの高校生探偵と……」

「フッ、そのへんに偶々あった美味い紅茶を出す喫茶店のマスター……それだけさ」

 

 

 

「……」

 

 去り際。花京院が振り向き、父親にそっと告げる。

 

「はやく、みつかるといいですね。貴方のさがしもの、も」

 

「あ……」

 

(……花京院……)

 

 今さら、気づいた。

 

 こいつは、多少なりとも重ねていたのだ、きっと。彼と自分を。

 

 なかなか求めるものがみつからない。そんな苛立ちも、焦りも、無力感も手に取るようだったに違いない。

 

 そして、そんな彼につけこむ輩への怒りも……

 

(……こんなことでは、やはり『みはり役』失格だな……)

 

「さ、行きましょう。おや、どうしました? アヴドゥルさん?」

「いいや……」

 

 あの娘が起きたら、怒られてしまうな……そんな想像をして、つい笑みがもれる。

 

「ほんとうに……はやく、みつけてやらんとな……」

 

「ん? ええ、そうですね」

「さぁ! 帰るぞ! イギーも待ってる! 

 店によっていけ! 何を飲んでいく!? 今日は奢りだ! マスターのな!!」

「はぁ、結局いっつもそうじゃあないですか……

 そんなんじゃあ、お店つぶれちゃいますよ? まったく……。フッ!」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 結局、空振り三振。とんだ無駄足だった。……なんて僕にはとても言えない。

 

 SPW財団のネットワークは医療面もさすが見事なもので、あっという間にみづき嬢のドナーを見つけてしまった。安田さんは、親友の為に! と積極的に渡米と治療の費用をその人脈を使用し広く募集。成果は上々で、病状が安定する翌春にすでに移植手術が行われることが決定したらしい。

 

 そして、成果、と言えばそれだけではなかった。

 彼が『Hell 2 U』を自身の雑誌で紹介してくれたのだ。

 以後口コミでも評判が広がり、(悩みを解決してくれる上に、美味しい紅茶やお酒がいただける……と)店はそれなりの賑わいを示すようになった。同居人(犬)は不満気なようだが……。

 

「忙しくて手が回らんようになってきた……花京院、おまえ、うちでバイトとして働かないか?」

「……受験が終わったら、考えます」

 

 

 

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!

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